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光制御可能な細胞発光素子の創製

研究報告コード R070000042
整理番号 R070000042
掲載日 2008年4月11日
研究者
  • 近江谷 克裕
研究者所属機関
報告名称 光制御可能な細胞発光素子の創製
報告概要 「光」の面白さを「光を受ける」、「光が操る、光を操る」そして「光を出す」という3つの観点で考えてみると、物理学と生物学では、同様な現象や考え方が基盤となっている。つまり、「光を受ける」研究では、光エネルギーを受容し蓄える光合成は太陽電池に相当、生物ではクロロフィルやカロチノイドの光受容アンテナ物質により光エネルギーを電子に変換、複雑な経路を経て、生命の根源的なエネルギーとなるATPを生産する。さらにカルビン回路を経てグルコースとしてエネルギー貯蔵する。ATPは脱リン酸化されることで、またグルコースは生体内で燃やすことでエネルギーとなる。光を効率良く受け、効率良く蓄える、これは生物も物理も共通の命題である。また「光を受ける(情報に変換)」という観点では、生物学でいう視覚システムになるが、物理学の世界ではCCDカメラや光子検出器に相当する。視覚システムではロドプシンというレセプタータンパクが光エネルギーを受容、セカンドメッセンジャーを経てイオンチャンネルが活性化され視覚情報は電気信号へと変換される。一方、「光を出す」を考えた時、光発生や光源技術は、物理の世界では発光ダイオード、有機ELやレーザー技術となるが、これは生物界に目を向けると、生物発光に相当するように思える。ホタルの光はメスとオスの交信に使われていると言われるが、天然に存在する光通信技術であり、地上で最も古い光通信技術かもしれない。さらに、「光が操る、光を操る」の持つ光スイッチという考え方は、光変調器や光ピンセットのように、光によってモノを操作したり、光によって情報を変化させたりすることを目指しているが、生物の細胞内でも同様に光のOn/Offによって情報を変化させる生体光スイッチとなる。私はこれまでに、細胞を一つのデバイスと見なし、「光を出す」システム、つまり生物発光系を細胞に導入、デバイス化し、外界情報を感知した際、細胞が発光するシステム(細胞発光素子)を構築した。そして、例えば、この技術によって細胞の中の情報を探る研究に応用できないかと研究を続けてきた。さらに今、この細胞発光素子の光を、光のOn/Offで制御できないかと考え、さきがけ研究で展開した。つまり、生物の中に存在する光のOn/Offによって細胞機能を制御するシステムいわゆる「生体光スイッチ」をコンポーネント化し、光制御可能な細胞発光素子を構築しようと考えた。例えば、細胞発光素子を基板上に並べ、光でパターン化、光OFFしたとき、そこにパターンが浮き上がる、そんなイメージである。本研究では「生体光スイッチ」のコンポーネント化を目指し、発光性渦鞭毛藻を対象として、その発光・受容・光スイッチングシステムの解明及びコンポーネント化を行った。発光性鞭毛藻類は進化の過程で原生動物と単細胞藻が融合したハイブリット型生物であり、動物と植物の両方の性質を備え、その多くは光合成を行う。私が研究対象としたのは、Lingulodinium polyedra(Lp)という種である。この発光生物がユニークな点は、しっかりした生物時計を持ち、光存在下では「光を受ける・光合成」を、光非存在下の夜間は「光を出す・生物発光」を活発に行い、そのシステムの調節が「光が制御する・生体光スイッチ」によって厳密にコントロールされている点である。これまでの研究から生体光スイッチには青色と赤色に応答する2種類があるとされ、青色光は生物発光と光凝集運動性に、赤色光は光合成や細胞分裂を制御すると考えられている。光合成システムは植物のものと大きな差はない。一方、発光システムはとてもユニークである。生物発光は細胞の表面近くに多数存在する小さな円形の発光活性粒子(シンチロン)で起き、この中にはルシフェリン(発光基質)、ルシフェラーゼ(発光酵素)そしてルシフェリン結合タンパクが含まれている。細胞内pH=8の時、ルシフェリンはルシフェリン結合タンパクと結合、物理的刺激が加えられるとシンチロン内のpHが低下し、ルシフェリンが解離、ルシフェラーゼの触媒作用を受けて酸化、約0.2秒程度のフラッシュ光を発する。つまり、化学反応自体はシンチロン内のpH8から6に、プロトンの流入に伴って開始される。ルシフェラーゼはpH6.3で最も安定にルシフェリンの酸化を触媒するが、pH8ではその値は1/20に減少する。このようにルシフェラーゼは周りのpHを感受するが、これはタンパク中で電子授受可能なアミノ酸であるHis残基が重要な役割を担っている。これまでに我々はルシフェラーゼをクローニング化し、そのHis残基を変えることで、ルシフェラーゼのpH感受性を変えることに成功している。さらに、ルシフェリンはクロロフィの化学構造と似ていることから、その代謝産物ではないかと予想されている。以上のような情報を元に研究を開始、特に光消失後活発になるルシフェリンの合成系を低分子群の代謝との相関から、また、光に連動して制御される生物時計システムをプロテオミクスから、一方、全ての現象を支える遺伝子群を網羅的な探索をライブラリー構築から、さらには、細胞発光素子の応用を開くための発光コンポーネントを導入した哺乳類細胞の作製から、研究を進めることにした。これらの研究を通じて、光制御可能な細胞発光素子を構成できる基盤技術の構築を目指した。
画像

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研究分野
  • 細胞学一般
  • 発光素子
関連発表論文 (1) Wu C., Akimoto, H. and Ohmiya Y.; Tracer studies on dinofiagellate luciferin with [15N]-glycine and [15N]-L-glutamic acid in the dinofagellate. Pyrocystis lunula; Tetrahedron Letters 44, 1263-1266, 2002
(2) Akimoto H, Wu C, Kinumi T and Ohmiya Y: Biological rhythmicity in expressed proteins of the marine dinoflagellate Lingulodinium polyedrum demonstrated by chronological proteomics. Biochem Biophys Res Commun 315, 306-12, 2004
(3) Otsuji T, Okuda-Ashitaka E, Kojima S, Akiyama H, Ito S, and Ohmiya Y: Monitoring for dynamic biological processing by intra-molecular bioluminescence resonance energy transfer system using secreted luciferase. Anal. Biochemi. 329, 230-237. 2004
(4) Tanikawa N, Akimoto H, Ogoh K, Wu C, and Ohmiya Y: Expressed Sequence Tag Analysis of the Dinofiagellate Lingulodinium polyedrum During Dark Phase. Photochem Photobiol. 80, 31-35, 2004.
(5) Suzuki C, Nakajima Y, A, Wu C and Ohmiya Y.: Dinoflagellate (Pyrocystis lunula) luciferase is a new additive reporter enzyme for monitoring multiple-gene expressions in mammalian cell Gene in press.
(6) 近江谷克裕:光制御可能な細胞発光素子、応用物理72、691-696、2003
(7) 秋元秀俊、呉純、近江谷克裕:光に連動した海洋性発光鞭毛藻の生物発光システム、月刊海洋390、652-658、2003
(8) 近江谷克裕:発光甲虫の生物発光機構の基礎と応用-生物発光によって細胞情報を探る、生化学 76,5-15,2004
(9) 近江谷克裕:ホタルの発光化学と分子進化-応用へのアプローチ、昆虫と自然 39、19-22、2004
(10) Hidetoshi Akimoto, Chun Wu, Naomi Tanikawa and Yoshihiro Ohmiya: Dark Induced Proteins from Marine Dinoflagellate Lingulodinium polyedrum detected by a 2D Gel Electrophoresis, 30th Annual Meeting of the American Society for Photobiology, Quebec City, Canada, July, 2002.
(11) Hidetoshi Akimoto, Tomoya Kinumi, Chun Wu, Naomi Tanikawa and Yoshihiro Ohmiya, Comprehensive Analysis of biological clock Proteins in Dinoflagellate Lingulodinium polyedrum with the Use of Proteomic Technology, 31st annual meeting of the American Society for Photobiology, Baltimore, USA, July 2003.
(12) Naomi Tanikawa, Hidetoshi Akimoto, Chun Wu, and Yoshihiro Ohmiya, Gene expression of the Dinoflagellate Lingulodinum polyedrum after during dark phase, 31st annual meeting of the American Society for Photobiology, Baltimore, USA, July 2003.
(13) Hidetoshi Akimoto, Chun Wu, Tomoya Kinumi, Naomi Tanikawa and Yoshihiro Ohmiya, High throughput analysis of biological clock proteins at protein levels using proteomic technology 1st World Congress of Chronobiology, Sapporo, Japan, September 2003.
(14) Hidetoshi Akimoto, Naomi Tanikawa, Tomoya Kinumi, Chun Wu, and Yoshihiro Ohmiya, Biological rhythmicity in expressed proteins of the marine dinoflagellate Lingulodinium polyedrum demonstrated by chronological proteomics, 14th international congress on photobiology, Jeju, Korea, June 2004.
(15) Hidetoshi Akimoto, Naomi Tanikawa, Tomoya Kinumi, Chun Wu, and Yoshihiro Ohmiya, Cloning and characterizing of the TCA cycle related proteins showing circadian rhythm from the dinoflagellate Lingulodinium polyedrum, 32nd annual meeting of the American Society for Photobiology, Seattle, USA, July 2004.
(16) Yoshihiro Ohmiya,Repoter assay for multi-gene expressions in mammalian cells, 32nd annual meeting of the American Society for photobiology, Seattle, USA, July 2004.
(17) 秋元秀俊,近江谷克裕:海洋性発光渦鞭毛藻の光に連動した生物発光システム.東京大学海洋研究所共同利用研究集会 「海洋発光生物研究の現状と展望」,2003年1月,東京.
(18) 秋元秀俊:発光性渦鞭毛藻の生体リズム連動性タンパク質群の網羅的探索.基礎生物学研究所研究会「光生物学実験系としての藻類の展望」,岡崎研究所・基礎生物学研究所,2003年11月,名古屋,
(19) 近江谷克裕:生体情報を検出するための可視化法,光電相互変換第125委員会「本委員会第184回研究会」,2004年5月、東京
(20) 近江谷克裕:生物発光・蛍光を利用した細胞内ダイナミズム解析の基礎と応用,第81回日本生理学会大会 教育講演,2004年6月,札幌
(21) 秋元秀俊,呉純,谷川尚美,近江谷克裕:発光性渦鞭毛藻由来ルシフェリンの生合成系の探索.第75回日本生化学会大会,2002年10月,京都.
(22) Hidetoshi Akimoto, Chun Wu, Tomoya Kinumi, Naomi Tanikawa and Yoshihiro Ohmiya, Investigation of luciferin biosynthesis pathway in dinoflagellate Lingulodinium polyedrum using Proteomic Technology, 第76回日本生化学大会,2003年10月,横浜.
(23) 谷川尚美、秋元秀俊、小江克典、呉純、近江谷克裕:Expressed sequence tag analysis of the dinoflagellate Lingulodinium polyedrum(Lp) during dark phase. 第77回日本生化学大会,2004年10月,横浜
(24) 秋元秀俊、絹見朋也、谷川尚美、近江谷克裕:海洋性発光渦鞭毛藻の代謝関連酵素の発現リズムについて.第11回日本時間生物学会・滋賀大会,2004年11月,滋賀.
研究制度
  • 戦略的創造研究推進事業 さきがけタイプ(旧若手個人研究推進事業を含む)/光と制御
研究報告資料
  • 近江谷 克裕. 光制御可能な細胞発光素子の創製. さきがけライブ2004 ナノテクノロジー分野合同研究報告会 「光と制御」領域 講演要旨集(1期生)(研究期間2001-2004), 2005. p.14 - 21.

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