テクニカル・アイ(特許目利きによるコラム)

旋毛虫が産生するエノラーゼの遺伝子工学的合成

技術の背景

 人体寄生線虫は、宿主の生体防御機構にさらされながら寄生を持続させているが、それは生体防御機構に拮抗する多くの物質を産生して宿主内での生存を可能にしているからである。

寄生線虫の産生物質は、人体との関わりが深いために医薬品として有益な生理活性物質が発見される可能性は極めて高い。

技術内容・特徴

 旋毛虫(Trichinella spiralis)が産生するエノラーゼ(解糖系酵素の一種であり、2-ホスホグリセリン酸が脱水されて,ホスホエノールピルビン酸を生じる反応を触媒する)遺伝子のクローニングおよび塩基配列の決定に成功した結果、エノラーゼ活性を有する蛋白を遺伝子工学的に合成し、医薬品としての当エノラーゼの製造方法を提供することを可能とした。

方法的には、旋毛虫よりクローニングし塩基配列を決定した遺伝子を大腸菌発現ベクターに組込み、大腸菌体内で発現させた蛋白をアフィニティーカラムクロマトグラフィーで精製した。塩基配列から新規なエノラーゼであることが推定されたためにその活性について以下のような検討を行った。

LH-2005-015_01.gif
図.旋毛虫由来の組換えエノラーゼの酵素活性

cont: ウサギ由来エノラーゼ

sam1: 旋毛虫由来の組換えエノラーゼ(シグナルシークエンスを除去したもの)

sam2: 旋毛虫由来の組換えエノラーゼ(シグナルシークエンスを除去せず全長の蛋白)

図はエノラーゼの酵素活性により2-ホスホグリセリン酸からホスホエノールピルビン酸(PEP)が生ずる量をグラフにしたものである。シグナルシークエンスを除去した旋毛虫由来の組換えエノラーゼは対照のウサギ由来エノラーゼに比べて至適pHが若干酸性側にあるものの、ウサギ由来エノラーゼとほぼ同等の活性を有していた。

特許・文献情報

特許名称 ポリヌクレオチド、ポリペプチド及び解糖系酵素の製造方法
発明者 高橋優三、長野 功、中田琢巳
出願人 岐阜大学長
出願番号 特願2003-303616

 最近、エノラーゼが虚血による心筋細胞の障害時にMAPキナーゼの活性化によって誘導され、心筋細胞の細胞死を抑制して、細胞収縮及び細胞生存にとって重要な活性を有していることが発見された。そのことより、虚血性心疾患の新規治療薬として、利用が考慮されるようになってきた(特開2004-081111、虚血性心疾患の治療薬として新規活性を有するαエノラーゼおよびその利用法)。

応用分野

 解糖系酵素としてのエノラーゼの活性はよく知られているが、最近エノラーゼはその他にも種々の機能が存在していることが明らかになってきた。すなわち、前述した心筋細胞死の抑制作用、抗体産生促進作用、プラスミノーゲン活性化作用などである。以上のような作用から、当エノラーゼは虚血性心疾患治療薬、抗血栓薬、免疫賦活製品等に使用が可能である。

 後の課題として、本発明は極めて基礎的な実験に基づくものであり、実際の創薬、臨床試験までには時間および費用が多くかかる点があげられる。また、当蛋白は人体にとっては異種蛋白であり、アレルギー反応などを起こす可能性を除外できない。よって、今後は創薬までの様々な課題に対し、製薬関連企業等との共同開発が望まれる。

関連技術・市場情報

 前述のように、虚血性心疾患治療薬、抗血栓薬、免疫賦活薬としての創薬は現在極めて重要な課題であり、市場規模は極めて莫大で、当蛋白の医薬品分野での有用性、将来性は極めて高いと思われる。
編集: 元 技術移転プランナー 吉田長作
問合せ先 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 産学連携展開部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7
E-mail: e-mail address TEL: 0120-679-005 FAX: 03-5214-8399

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