テクニカル・アイ(特許目利きによるコラム)

IP3分子センサーの改変と解析法

技術の背景

 イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)は、細胞内Ca2+濃度の調節を担う細胞内情報伝達物質であり、神経活動、運動、発生・分化など様々な生体現象に関与する。本技術は、IP3によって蛍光波長が変化する世界初の分子センサー"LIBRA"と、これを用いてIP3濃度を定量的に測定する方法である。これまで、SH-SY5Y細胞などの培養細胞にLIBRAの遺伝子を導入し、生きた細胞のIP3濃度をリアルタイムで測定することができることが実験的に証明されている。

技術内容・特徴

発明者は既に、1) 様々な実験系で、LIBRAを使ったイメージング解析が可能である事、2) LIBRAの蛍光特性、IP3親和性、細胞内局在化シグナル等の改変によって、その利用価値を高める事、3) 分子センサーの精製・結合用タグを付加し、cell-free系でのIP3濃度測定法や薬物スクリーニング法として利用し得る事を実証している。

LIBRAを用いた利用可能な細胞の検討
LIBRAを用いた細胞内のIP3測定法が、さまざまな細胞のIP3測定に利用できることが実証されている。
使用した細胞「SH-SY5Y(ヒト:神経細胞) PC12(ヒト:クロム親和性細胞) COS-7(サル:腎臓) CHO-K1(チャイニーズハムスター:卵巣) DT40(ニワトリ:B細胞)」
LIBRAを用いた薬物スクリーニング法
LIBRAの蛍光比が、アデノホスチン等のIP3受容体に作用する物質によって変化する性質を利用して、IP3受容体を介するCa2+動員を起こす(あるいは抑制する)物質のスクリーニングに応用し得ることを実証している。
LIBRAを用いたイメージングによる解析法
LIBRAは2つの蛍光タンパク質の蛍光比の変化からIP3動態を解析できるレシオメトリックな分子プローブである。この方式は、定量性が高くIP3濃度の算出が容易であるという大きな利点がある。また、W-View光学系(浜松ホトニクス社製分光システム)、あるいは冷却3CCDカメラLIBRAを用いたイメージング解析が可能である事を明らかにした(図1)。

図1



LH-2005-017_01.gif
 また、LIBRAのリガンド結合ドメインあるいはそのアミノ酸置換等によってさらに、IP3に対する親和性が異なる数種類の改変体を作成した。さらに、小胞体局在シグナル(PS1-HR9)、タンパク質精製用のHisタグ、蛍光ペアとしてCeruleanとVenusを使った新型分子プローブ発現遺伝子を作成した(図2)。

 この新型プローブは、LIBRAと比較して、蛍光強度やFRET効率が改善されている。また、小胞体にターゲットさせることで容易にイメージング解析を行う事が可能である。同様なターゲティング・シグナルの改変によって、核、細胞突起などに局在させたり、ターゲティング・シグナルの除去によって、細胞質に分布するプローブを発現させる事ができる。また、Hisタグを用いてこれらを精製することも可能である。IP3親和性とターゲティング・シグナルの組合せによって、汎用性の高いIP3プローブの作成が可能となる。

図2




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特許・文献情報

特許名称 細胞内IP3測定用分子センサー
発明者 谷村明彦、東城庸介、根津顕弘、森田貴雄
出願人 独立行政法人科学技術振興機構
出願番号 特願2004-196818


従来の技術にIP3結合タンパクとGFPの融合遺伝子を細胞に導入し、融合タンパク質の局在により、細胞内のIP3濃度の変化を解析する方法(特開2000-60565)、2種類の蛍光物質の間の蛍光共鳴エネルギー移動を利用した分子プローブの開発(特表2003-513271)を始め多数の特許・文献がある。本出願も後述のように先行技術を活用しているので製品化にはそのライセンス

応用分野

 基礎研究及び医薬品スクリーニング用ツールとして、1)分子センサー発現ベクター(プラスミドベクターおよびウイルスベクター)、2)Tet-Onなどを用いた発現調節ができるベクター、3)遺伝子を導入した細胞および動物、4)遺伝子導入動物から調整した細胞・組織、5)精製した分子センサー(タンパク質)、6)精製分子センサー等を用いた測定キット、7)精製分子センサーを用いた測定装置あるいは既存の薬物スクリーニング装置(FDSS;浜松ホトニクス社)等との組合せ。

関連技術・市場情報

 ベクターの一般的な価格は1種類約10万円である。IP3の測定を行う研究機関を5千とし、その10%が購入すると想定した場合の市場規模は5千万円/ベクターとなる。IP3親和性、局在シグナル、蛍光タンパク質の色などのバリエーションで販売できるベクターの種類が多ければ市場規模も大きくなる。また、精製した分子センサーやこれを用いたキット、遺伝子導入動物から調整した細胞・組織は継続的な需要が見込まれる。さらに、これらが創薬スクリーニングツールとして価値が認められれば、より大きな需要が見込まれる。
編集: 元 技術移転プランナー 吉田長作
問合せ先 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 産学連携展開部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7
E-mail: e-mail address TEL: 0120-679-005 FAX: 03-5214-8399

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