テクニカル・アイ(特許目利きによるコラム)

ハイスループット膜タンパク質解析のための平面脂質二重膜アレイチップ

技術の背景

微細加工技術の進展に伴ってバイオチップ技術が注目を集めており、なかでもDNAアレイチップは商用としても成功を収めている。近年のポストゲノム時代では、タンパク質解析のためのプロテインチップも脚光を浴びてきた。タンパク質の種類は多種多様であり、大きくは水溶性タンパク質と膜タンパク質に分類される。前者は血液や細胞質に存在し、水に溶けるので取り扱いが容易で、生理的機能や構造解析も進んでいる。一方、膜タンパク質は生体膜(脂質二重膜)に埋め込まれた状態で機能するため、取り扱いが非常に難しい。ここでは、膜タンパク質の機能解析、またそれを用いた薬剤スクリーニングのプラットフォームとしての人工脂質二重膜を、マイクロチップ上で効率よく形成する技術を紹介する。


技術内容・特徴

平面の人工脂質二重膜(黒膜)は、実験室レベルでは、非極性有機溶媒(n-decaneなど)に溶解させたリン脂質を、テフロンシートに開けた0.1-1mmの穴にペインティングして形成する。このとき、リン脂質溶媒の膜をできるだけ薄くする必要があるが、従来法では塗布される溶媒の量を制御することが困難で、再現性に欠けるという難点があった。従って、脂質二重膜を多数アレイ状に形成することも不可能であった。本発明では、マイクロ流路システムを利用し、脂質平面膜形成の再現性を向上させ、複数の膜を同時形成する手法を提案する。その模式図を図1に示す。シリコンまたはプラスチック等の基板に微細加工を施し、基板の上面にウェル、下側に流路を形成、これらは微小孔によりつながっている。上側のウェルは開放されているが、下側の流路は、別の基板(ガラス板など)を接着することにより閉じられている。ウェルおよび流路は水溶液(バッファ)で満たされており、微小孔を覆うように平面脂質二重膜が形成される。脂質二重膜を形成後、リポソーム融合法などにより目的の膜タンパク質を平面膜に再構成し、集積化した電極によりイオンチャンネル電流の計測など膜たんぱく質の機能計測を行うことができる。

LH-2007-052_01.gif

図1



具体的な脂質二重膜の形成手順を図2に示す。はじめに、下側流路をバッファで満たす(1)。このとき、微小孔の大きさは50-200μm程度であり、水の表面張力によって微小孔より上に溢れ出ることはない。次に、マイクロインジェクションなどの方法により、微量の脂質溶液を微小孔に加える(2)。最後に、上側ウェルにバッファを滴下すると、脂質溶液がバッファでサンドイッチされた状態が形成される(3)。このとき、脂質溶液とバッファの界面ではリン脂質分子の単分子膜が形成されているが、脂質溶液の層が十分に薄ければ、図1のイラストのようにリン脂質の疎水性アシル基同士が接触し、脂質二重膜が自己形成される。本発明の特徴のひとつは、微小孔の周囲に溝を形成しているため、手順(2)において余分な脂質溶液がこの溝部分に流れ込み、微小孔部分にできる脂質溶液の層が十分に薄くなることである。これにより、脂質二重膜形成が大幅に促進される。図2右下の写真は、実際の脂質二重膜の顕微鏡像である。黒い部分の内側が微小孔の内側に相当し、その中にみられる薄い円形のエッジの内側が脂質二重膜となっている。



LH-2007-052_02.gif

図2



我々は、シリコンおよびアクリルプラスチックにより上述のチップを作成し、脂質二重膜の形成を確認、これを用いてイオンチャンネル電流が計測可能であることを示している。また,本システムは複数の脂質二重膜をアレイ状に集積化する目的にも適している。



特許・文献情報

発明の名称: 「膜タンパク質分析用平面脂質二重膜の形成方法とその装置」
出願番号:再表2005-517241
PCT出願:PCT/JP2005/000558
国際公開:WO 2005/071405
出願人: 独立行政法人科学技術振興機構
発明者: 竹内昌治,鈴木宏明,野地博行


応用分野

膜タンパク質は、様々な薬剤のターゲットとして重要であることから、本発明は、創薬のハイスループットスクリーニングや、オンチップ診断システムなどへの応用が期待できる。

関連技術・市場情報

同様に、人工的に再構成した脂質二重膜を基板表面上に形成する技術として、Supported Lipid Bilayer (SLB)と呼ばれる方法も存在する。これはより簡便で実用性の高いものであるが、膜表在性のタンパク質(レセプターなど)は機能してもイオンチャンネルの膜貫通性のタンパク質は難しいため、本発明のようにより生体膜の状態に近い人工脂質膜の技術の必要性は高いといえよう。
MEMSのバイオテクノロジー関連分野の2010年の市場性は486億円と予測されている。
編集: 技術移転プランナー 服部 修造
問合せ先 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 知的財産マネジメント推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
E-mail: e-mail address TEL: 03-5214-8293 FAX: 03-5214-8476

PAGE TOP