TOP > 国内特許検索 > フォトニック結晶レーザ > 明細書

Specification :フォトニック結晶レーザ

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第5709178号 (P5709178)
Date of registration 平成27年3月13日(2015.3.13)
Date of issue 平成27年4月30日(2015.4.30)
Title of the invention, or title of the device フォトニック結晶レーザ
IPC (International Patent Classification) H01S   5/12        (2006.01)
H01S   5/18        (2006.01)
FI (File Index) H01S 5/12
H01S 5/18
Number of claims or invention 10
Total pages 17
Application Number 特願2012-503170 (P2012-503170)
Date of filing 平成23年3月1日(2011.3.1)
International application number PCT/JP2011/054566
International publication number WO2011/108510
Date of international publication 平成23年9月9日(2011.9.9)
Application number of the priority 2010044255
Priority date 平成22年3月1日(2010.3.1)
Claim of priority (country) 日本国(JP)
Date of request for substantive examination 平成26年2月28日(2014.2.28)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
Inventor, or creator of device 【氏名】野田 進
【氏名】北村 恭子
【氏名】黒坂 剛孝
【氏名】酒井 恭輔
Representative 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
Examiner 【審査官】百瀬 正之
Document or reference 特開2009-117578(JP,A)
特開2007-258261(JP,A)
特開2004-296538(JP,A)
特開2005-159272(JP,A)
特開2006-41181(JP,A)
特開2004-349573(JP,A)
特開2007-258260(JP,A)
北村恭子 他,径偏光・狭リング形状ビームを出射するフォトニック結晶レーザ-デバイス構造の提案と基礎特性の評価-,2010年春季第57回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」,2010年 3月 3日,04-040
Field of search H01S 5/00-5/50
Scope of claims 【請求項1】
a) 活性層と、
b) 前記活性層の一方の側に設けられた板状の母材内に、同一形状であって前記母材とは屈折率が異なる多数の異屈折率領域がリング状に、該リングの周方向に周期的に並び、各異屈折率領域が、該異屈折率領域の中心を通って該リングの径方向に延びる軸に関して非対称な形状を有するリング状フォトニック結晶と、
c) 前記活性層及び前記リング状フォトニック結晶を挟むように設けられた第1電極及び第2電極と、
d) 前記第2電極に設けられた、前記リング状フォトニック結晶で生成されるレーザ光を透過可能な窓と、
を備えることを特徴とするフォトニック結晶レーザ。
【請求項2】
前記第1電極が前記リング状フォトニック結晶に重なる径及び幅を有するリング状電極であることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項3】
前記リング状電極と前記リング状フォトニック結晶の間に、該リング状電極と同形状の電流通過部と、該電流通過部の周囲を覆う絶縁部を有する電流狭窄部を備えることを特徴とする請求項2に記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項4】
前記リング状フォトニック結晶の外周側及び内周側にリング状の溝を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項5】
前記窓に、前記リング状フォトニック結晶側から前記第2電極側に向かって凸であるリング状レンズを備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項6】
前記リング状フォトニック結晶の外周側における前記異屈折率領域の幅である外周幅が、該リング状フォトニック結晶の内周側における該異屈折率領域の幅である内周幅と異なることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項7】
前記外周幅が前記内周幅よりも大きく且つ(r22/r12)倍未満(ここでr1は前記リング状フォトニック結晶の内径、r2は該リング状フォトニック結晶の外径)であることを特徴とする請求項6に記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項8】
前記外周幅が前記内周幅の(r2/r1)倍であることを特徴とする請求項7に記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項9】
前記異屈折率領域が、主異屈折率領域と、該主異屈折率領域から前記リングの方向に所定の距離だけ離れて配置され、前記母材とは屈折率が異なり且つ該主異屈折率領域とは形状、大きさ及び屈折率のうち少なくとも1つが異なる副異屈折率領域から成ることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のフォトニック結晶レーザ。
【請求項10】
前記主異屈折率領域と前記副異屈折率領域の間の距離が、前記異屈折率領域の周期の1/4であることを特徴とする請求項9に記載のフォトニック結晶レーザ。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡やラマン分光測定装置等における光源に好適に用いることができるフォトニック結晶レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光顕微鏡やラマン分光測定装置等の光学測定装置における光源では、測定精度を高めるために、レーザビームをできるだけ小さい点に集光することが求められている。しかし、単に集光レンズでレーザビームを集光するだけでは、レーザビームのスポット径の大きさは、レーザビームの波長及び集光レンズの開口数により決定される回折限界値以下にすることはできない。
【0003】
非特許文献1には、スポット径を小さくすることに適したレーザビームについて記載されている。図21(a)にそのレーザビームに垂直な面における該レーザビームの断面(以下、この断面を単に「レーザビームの断面」と呼ぶ)を模式的に示す。図中で塗りつぶされた部分は光が存在する領域を示している。また、図中の太矢印は偏光の方向を示す。レーザビームは、中心部に強度を持たないリング状の断面形状を有し、その中心から外側に向かう方向(径方向)に偏光している。以下、このような断面形状及び偏光を有するレーザビームを「径偏光リング状レーザビーム」と呼ぶ。非特許文献1によれば、このような径偏光リング状レーザビーム21を集光することにより、ビーム径が回折限界値よりも小さいレーザビームが得られる。従来、そのような小さなビーム径は光軸方向に1波長程度のごく狭い領域においてしか得られなかったが、このビームを用いることにより10波長以上の領域において得ることができる(非特許文献2参照)。
【0004】
また、径偏光リング状レーザビーム21をレンズ23で集光すると、図21(b)に示すように、集光点22において、レーザビームに垂直な方向(x方向、y方向)の電界の振動成分が打ち消される一方、レーザビームに平行な成分(z方向)の電界の振動成分が打ち消されずに残る。その結果、集光点22においては、光の進行方向に平行な方向に電界が振動するという、通常の光では光軸上に生じない偏光(z偏光)が、光軸上に10波長程度の広範囲で得られる(非特許文献2参照)。このようなz偏光を用いると、例えばラマン散乱測定において、レーザビームに垂直な偏光を用いた場合には生じなかった散乱を観測することができる、という利点がある(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】S. Quabis 他4名、オプティクスコミュニケーションズ、(オランダ)、Elsevier社発行、2000年5月25日、179巻、1-7頁(S. Quabis et al., "Focusing light to a tighter spot", Optics Communications, vol. 179(2000), pp. 1-7)
【非特許文献2】北村恭子 他3名、オプティックスエクスプレス、(米国)、アメリカ光学会発行、2010年3月1日、第18巻、第5号、4518-4525頁(K. Kitamura et al., Optics Express, vol. 18(2010), iss. 5, pp. 4518-4525)
【非特許文献3】「Z偏光素子」、[online]、2005年、ナノフォトン株式会社、[平成22年2月22日検索]、インターネット<URL:http://www.nanophoton.jp/products/zpol/index.html>
【非特許文献4】H. Kogelnik 他1名、ジャーナル オブ アプライド フィジックス、(米国)、米国物理学協会発行、1972年、第43巻、2327-2335頁(H. Kogelnik et al., Journal of Applied Physics, vol. 43(1972), pp. 2327-2335)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザビームのスポット径をより小さくするためには、径偏光リング状レーザビームにおけるリングの幅は狭い方が望ましい。本発明が解決しようとする課題は、従来よりも幅の狭い径偏光リング状レーザビームを得ることができるフォトニック結晶レーザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフォトニック結晶レーザは、
a) 活性層と、
b) 前記活性層の一方の側に設けられた板状の母材内に、同一形状であって前記母材とは屈折率が異なる多数の異屈折率領域がリング状に、該リングの周方向に周期的に並び、各異屈折率領域が、該異屈折率領域の中心を通って該リングの径方向に延びる軸に関して非対称な形状を有するリング状フォトニック結晶と、
c) 前記活性層及び前記リング状フォトニック結晶を挟むように設けられた第1電極及び第2電極と、
d) 前記第2電極に設けられた、前記リング状フォトニック結晶で生成されるレーザ光を透過可能な窓と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るフォトニック結晶レーザでは、第1電極と第2電極の間に電圧を印加することにより活性層に電流を注入する。これにより活性層で光が生じ、その光がリング状フォトニック結晶に導入される。リング状フォトニック結晶内では、その周期構造により、導入された光のうちその周期に応じた特定の波長の光のみが干渉により選択的に増幅され、レーザ発振する。こうしてリング状フォトニック結晶で生成されたレーザ光は、母材の板に垂直な方向に出射し、第2電極の窓を通して外部に取り出される。
【0009】
レーザ光のビームの断面は、リング状フォトニック結晶の形状に応じたリング状になる。そのため、リング状フォトニック結晶の内径と外径の差を小さくすることにより、ビーム断面のリングも内径と外径の差を小さく、即ち幅を狭くすることができる。また、異屈折率領域が、その中心を通ってリングの径方向に延びる軸に関して非対称な形状を有することにより、レーザ光の偏光方向はこの軸に沿った径方向になる。こうして、本発明に係るフォトニック結晶レーザにより、径偏光リング状レーザビームを得ることができる。
【0010】
第1電極には、リング状フォトニック結晶に重なる径及び幅を有するリング状電極を用いることが望ましい。これにより、活性層のうちリング状フォトニック結晶のリングに近い部分に集中的に電流が注入されるため、活性層での発光を効率良くリング状フォトニック結晶に導入することができる。この場合において更に、前記リング状電極と前記リング状フォトニック結晶の間に、該リング状電極と同形状の電流通過部と、該電流通過部の周囲を覆う絶縁部を有する電流狭窄部を設けることが望ましい。これにより、活性層中の前記部分に更に電流を集中することができる。
【0011】
また、本発明に係るフォトニック結晶レーザでは、前記リング状フォトニック結晶の内周側及び外周側にリング状の溝を設けることもできる。この溝も、電流をリング状フォトニック結晶のリングに近い部分に集中させることに寄与する。
【0012】
第2電極の窓には、リング状フォトニック結晶側から第2電極側に向かって凸であるリング状のレンズを設けることができる。これにより、レーザ光の断面におけるリングの幅を狭めることができる。
【0013】
第2電極に設ける窓には、例えば電極の材料から成る板状の部材の中央をくり抜いたものを用いることができる。この場合、くり抜いた部分が窓になり、電極材料が残った部分が第2電極になる。また、生成されるレーザ光を透過するものを第2電極の材料として用いることにより、第2電極全体を窓とすることができる。
【0014】
前記リング状フォトニック結晶の外周側における前記異屈折率領域の幅(以下、「外周幅」とする)が、該リング状フォトニック結晶の内周側における該異屈折率領域の幅(内周幅)と異なるようにしてもよい。
【0015】
これにより、レーザビームの断面における強度は以下のようになる。母材よりも異屈折率領域の方が誘電率が低い場合(例えば異屈折率領域が空孔の場合)には、レーザビームの断面は、外周幅が内周幅よりも小さいと外周側においてより強く発光し、外周幅が内周幅の(r22/r12)倍(ここでr1はリング状フォトニック結晶の内径、r2はリング状フォトニック結晶の外径)よりも大きいと内周側においてより強く発光する。母材よりも異屈折率領域の方が誘電率が高い場合にはその逆となる。そして、外周幅が内周幅よりも大きく且つ(r22/r12)倍未満の場合には、母材と異屈折率領域の誘電率の大小関係に関わらず、外周幅と内周幅が等しい場合よりもレーザビームの断面における光の強度が均一状態に近くなる。以下、その理由を説明する。
【0016】
まず、母材よりも異屈折率領域の方が誘電率が低い場合を例に説明する。外周幅と内周幅が等しい場合には、異屈折率領域の密度(フォトニック結晶中で異屈折率領域が占める面積の割合、フィリングファクター)が、リングの外周側では内周側の(r1/r2)倍となる。従って、異屈折率領域の外周側の密度は内周側よりも小さくなる。そのため、実効的な誘電率はリング状フォトニック結晶の内周側よりも外周側において高くなる。リング状フォトニック結晶内に導入された光の電界は該結晶内の実効的な誘電率が高い部分に集中しやすいため、このような実効的な誘電率の分布があると、レーザ光の断面ではリングの内側よりも外側の方がより強く発光する。そこで、外周幅を内周幅よりも大きく且つ(r22/r12)倍未満とすると、外周幅と内周幅が等しい場合よりも実効的な誘電率の分布が均一状態に近づくため、レーザビームの断面における光の強度が均一状態に近くなる。一方、外周幅が内周幅よりも小さいと、外周側の実効的な誘電率が一層高くなるため、レーザ光の断面ではリングの外側においてより強く発光する。また、外周幅内周幅の(r22/r12)倍よりも大きいと、実効的な誘電率はリング状フォトニック結晶の外周側よりも内周側において高くなるため、レーザ光の断面ではリングの外側よりも内側の方がより強く発光する。
母材よりも異屈折率領域の方が誘電率が高い場合には、実効的な誘電率の大小関係が上記のものとは逆になり、それによりレーザ光の断面における光の強度の大小関係も逆になる。
【0017】
外周幅を内周幅の(r2/r1)倍とすれば、リング状フォトニック結晶の内周側と外周側の異屈折率領域の密度が同じになるため、レーザ光の断面における光の強度は最も均一状態に近くなる。
【0018】
前記異屈折率領域には、主異屈折率領域と、該主異屈折率領域から前記リングの方向に所定の距離だけ離れて配置され、前記母材とは屈折率が異なり且つ該主異屈折率領域とは面積、形状及び屈折率のうち少なくとも1つが異なる副異屈折率領域から成るものを用いることができる。
【0019】
このような副異屈折率領域を用いることにより、リング状フォトニック結晶内において、主異屈折率領域により反射(回折)される光(主反射光)と副異屈折率領域により反射(回折)される光(副反射光)の干渉が生じる。この干渉により、主異屈折率領域と副異屈折率領域の間の距離δに応じて、光の強度の強め合い又は弱め合いが生じる。レーザ光の強度を強めるためには、主反射光と副反射光が強め合う干渉が生じるように距離δを設定すればよい。
【0020】
但し、フォトニック結晶(共振器)内において単位長さあたりの光の回折強度(光結合係数κ)が大きくなると、フォトニック結晶の一部から集中して発光しやすくなる。フォトニック結晶レーザは分布帰還型レーザの一種であり、このような現象は1次元の分布帰還型レーザにおいて一般的に生じることが知られている(非特許文献4)。これにより、レーザ光の断面における光の強度の差が生じる。主反射光と副反射光の干渉により光が強め合うと、この強度の差は一層大きくなる。その結果、均一な強度分布のリング状の断面を持つレーザ光を得ることができなくなる。そこで、強度分布が均一状態に近いリング状の断面を持つレーザ光を得るためには、主反射光と副反射光が弱め合う干渉が生じるように距離δを設定すればよい。そのためには、距離δを、異屈折率領域の周期の1/4とすることがより望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、断面がリング状であってそのリングの径方向に偏光した径偏光リング状レーザビームを発振するフォトニック結晶レーザを得ることができる。そして、リング状フォトニック結晶の幅を狭くすることによってレーザビームのリングの幅を狭めることができ、それにより、従来のフォトニック結晶レーザよりも幅の狭い径偏光リング状レーザビームを得ることができる。そして、このフォトニック結晶レーザは、それにより得られるレーザビームを集光するレンズと組み合わせることにより、スポット径が小さく、且つz偏光を有する光を、しかもそれら小スポット及びz偏光を光軸上で広範囲に形成することができる光源として用いることができる。このような光源は蛍光顕微鏡やラマン分光測定装置等の測定装置に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るフォトニック結晶レーザの一実施例を示す縦断面図(a)、リング状フォトニック結晶の平面図(b)、第1電極の平面図(c)及び第2電極の平面図(d)。
【図2】本実施例のフォトニック結晶レーザにおけるリング状フォトニック結晶の部分拡大図。
【図3】本実施例のフォトニック結晶レーザに電流狭窄部を設ける例を示す縦断面図。
【図4】本実施例のフォトニック結晶レーザにリング状レンズを設ける例を示す縦断面図(a)及び平面図(b)。
【図5】本実施例のフォトニック結晶レーザにおけるリング状フォトニック結晶の異屈折率領域の例を示す平面図。
【図6】異屈折率領域を径方向に間隔を変えながら並べた例を示す平面図。
【図7】異屈折率領域を径方向に間隔及び形状を変えながら並べた例を示す平面図。
【図8】異屈折率領域を周方向とは異なる間隔で径方向に並べた例を示す平面図。
【図9】図5~8に示した形状と、径方向に長い長方形を組み合わせた形状を有する異屈折率領域の例を示す平面図。
【図10】本実施例で作製したフォトニック結晶レーザにおけるリング状フォトニック結晶の電子顕微鏡写真(a)及び異屈折率領域を拡大した電子顕微鏡写真(b)。
【図11】本実施例で作製したフォトニック結晶レーザの発振スペクトルを示すグラフ。
【図12】本実施例で作製したフォトニック結晶レーザにより得られたレーザ光の近視野像(a)及び遠視野像(b)。
【図13】本実施例で作製したフォトニック結晶レーザにより得られたレーザ光の偏光方向を測定した結果を示す写真。
【図14】外周幅と内周幅が異なる異屈折率領域の例を示す平面図。
【図15】外周幅と内周幅が異なる異屈折率領域の他の例を示す平面図。
【図16】主異屈折率領域と副異屈折率領域から成る異屈折率領域の一例を示す平面図。
【図17】主異屈折率領域と副異屈折率領域から成る異屈折率領域を用いたリング状フォトニック結晶の一部を示す電子顕微鏡写真。
【図18】副異屈折率領域を設けることにより生じる光の干渉を説明するための図。
【図19】(a)主異屈折率領域のみから成る異屈折率領域を用いる場合と、(b)主異屈折率領域と副異屈折率領域から成る異屈折率領域を用いる場合における光結合係数κの大きさを計算した結果を示すグラフ。
【図20】主異屈折率領域と副異屈折率領域から成る異屈折率領域の他の例を示す平面図。
【図21】径偏光リング状レーザビームにつき、ビームに垂直な断面(a)及び平行な1断面(b)を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~図20を用いて、本発明に係るフォトニック結晶レーザの実施例を説明する。
【実施例】
【0024】
本実施例のフォトニック結晶レーザ10は、図1(a)に示すように、活性層11と、活性層11の一方の側に設けたフォトニック結晶層12と、これらを挟むように設けた下部電極(第1電極)層13及び上部電極(第2電極)層14を有する。ここでは、フォトニック結晶層12側に下部電極層13を設け、活性層11側に上部電極層14を設けた例を示したが、フォトニック結晶層12側に上部電極層14を設け、活性層11側に下部電極層13を設けてもよい。
【実施例】
【0025】
活性層11には、従来の半導体レーザで一般的に用いられているものを用いることができる。本実施例では、活性層11の材料としてインジウム・ガリウム砒素(InGaAs)/ガリウム砒素(GaAs)から成る多重量子井戸(Multiple-Quantum Well; MQW)を有するものを用いた。この活性層は0.9~1.1μm(赤外領域)の波長帯の光を発光する。なお、活性層の材料はこれに限らず、発振させるレーザ光の波長に応じたものを適宜選択することができる。例えば、青色レーザ光を得る場合には、0.4~0.6μmの波長帯の光を発光するインジウム・窒化ガリウム(InGaN)/ 窒化ガリウム(GaN)から成る多重量子井戸を有するものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0026】
フォトニック結晶層12は、図1(b)に示すように、板状の母材121に空孔(異屈折率領域)122がリング状に周期的に並んだものである。このように空孔122が並んだリング状の部分を「リング状フォトニック結晶123」と呼ぶ。このように異屈折率領域として空孔を用いると、母材に孔を空けるだけでよいため加工が容易であるという利点がある。一方、異屈折率領域には、母材の材料と屈折率が異なる部材を埋め込んだものを用いてもよい。このように母材以外の部材を埋め込むと、空孔を用いた場合よりも異屈折率領域が変形し難いという利点がある。本実施例では、母材121の材料にはp型GaAsを用いた。リングの半径は160μmとし、隣接空孔同士の距離は媒質内波長に対応した296nmとした。なお、活性層がInGaN/GaNである場合には、母材121の材料にGaN系のものを用い、隣接空孔同士の距離を媒質内波長に対応した186nmとする。また、リング状フォトニック結晶123よりも外周側にはリング状の第1溝1241を、リング状フォトニック結晶123よりも内周側にはリング状の第2溝1242を、それぞれ設けた。
【実施例】
【0027】
図2を用いて、空孔122の平面形状について説明する。各空孔122は、その中心を通ってリングの径方向に延びる径方向軸129に関して非対称な形状を有する。従って、各空孔122は、リング状フォトニック結晶123のリングの中心Oの周りに仮想的に回転させると、他の空孔122に重なる。空孔122をこのような形状とする理由は後述する。
【実施例】
【0028】
下部電極層13は、導電性材料から成るリング状の下部電極(第1電極)131と、そのリングの外周側及び内周側に設けられた第1絶縁性膜132から成る。下部電極131のリングは、リング状フォトニック結晶123とほぼ同じ径を有する。
【実施例】
【0029】
上部電極層14は、導電性材料から成り正方形の枠状の形状を有する上部電極(第2電極)141と、上部電極141の内側及び外側に設けられた第2絶縁性膜142から成る。第2絶縁性膜はSiNから成り、980~990nmを含む波長帯の光を透過することができる。これにより、上部電極141の内側の領域が窓143として機能する。
【実施例】
【0030】
その他、フォトニック結晶層12と下部電極層13の間にp型半導体から成るpクラッド層151を、活性層11と上部電極層14の間にn型半導体から成るnクラッド層152を、それぞれ設ける。これらクラッド層は従来のフォトニック結晶レーザでも用いられているものである。また、ここまでに述べた各層の間にスペーサ層を挿入してもよい。
【実施例】
【0031】
次に、本実施例のフォトニック結晶レーザ10の動作を説明する。下部電極131と上部電極141の間に電圧を印加することにより、活性層11に電流を注入する。これにより、活性層11から、その材料により定まる波長帯の発光が生じ、その光がリング状フォトニック結晶123に導入される。ここまでの動作において、下部電極131がリング状フォトニック結晶123とほぼ同じ径のリングであることにより、電流は活性層11のうちのリング状フォトニック結晶123の直上付近の領域に集中するように注入され、その領域で周囲よりも強い発光が得られるため、リング状フォトニック結晶123に光を効率良く導入することができる。
【実施例】
【0032】
リング状フォトニック結晶123内では、導入された光のうち空孔122の周期により定まる特定の波長の光が干渉により選択的に増幅され、レーザ発振する。こうして生じたレーザ光は、フォトニック結晶層12に垂直な方向に出射し、レーザビームが上部電極141の窓143を通して外部に取り出される。このレーザビーム21は、図21に示すように、リング状フォトニック結晶123の形状に対応してリング状の断面を有すると共に、リング状断面の径方向(図21中の矢印の方向)に偏光したものとなる。このような偏光を持つ理由を以下に説明する。1個の空孔122に着目すると、空孔122と母材121の境界に沿って空孔122を取り巻くように振動電界が形成される。そして、空孔122が径方向軸129に関して非対称な形状を有することにより、径方向軸129を境とした両側では実効的な誘電率が異なる値を持ち、それによって振動電界の強度も異なる値になる。そのため、隣接する2つの空孔122間で径方向に振動する電界が打ち消されず(図2)、その結果、レーザビームは断面における径方向に偏光を有することとなる。
【実施例】
【0033】
次に、本実施例のフォトニック結晶レーザ10の変形例を説明する。図3に示したフォトニック結晶レーザ10Aは、リング状の下部電極131Aと同形状であってリング状フォトニック結晶123の直下に設けられた電流通過部31と、電流通過部31の周囲を覆う絶縁膜32を有する。リング状フォトニック結晶123よりも上部電極141側の構成は上記フォトニック結晶レーザ10と同じである。このように電流通過部31を設けることにより、下部電極131Aとリング状フォトニック結晶123の間の電流の経路を絞ることができるため、活性層11のうちリング状フォトニック結晶123の直上の領域に電流をより効率良く供給することができる。
【実施例】
【0034】
図4に示したフォトニック結晶レーザ10Bは、窓143のうちリング状フォトニック結晶123の直上の位置に、リング状レンズ41を設けたものである。リング状レンズ41はリング状フォトニック結晶123側から上部電極層14B側に向かって凸になるレンズである。リング状レンズ41により、リング状フォトニック結晶123から出射したレーザビームの断面におけるリングの幅を狭めることができる。
【実施例】
【0035】
次に、図5~図9を用いて、上記各実施例において用いることができる異屈折率領域(空孔、あるいは母材とは屈折率が異なる部材)の形状の例を説明する。これらの図ではいずれも、着色した部分が異屈折率領域を表している。図の横方向はリング状フォトニック結晶123の径方向に対応し、縦方向は周方向に対応する。いずれの例においても、異屈折率領域は周方向には周期aで等間隔に並んでいる。
【実施例】
【0036】
図5(a)に示した例は三角形であって1辺が径方向に平行になるように配置されたもの、(b)に示した例はVの字形であって横方向が径方向に対応するように配置されたもの、(c)に示した例は半楕円であって弦が径方向に平行になるように配置されたものである。これらはいずれも、径方向の軸に関して非対称な形状となっている。なお、(a)の三角形は二等辺三角形であるが、正三角形であってもよいし、3辺共に長さが異なる三角形であってもよい。また、(c)には半楕円の例を示したが、半円であってもよい。
【実施例】
【0037】
図6~図8に示した例ではいずれも、同一形状の複数の異屈折率領域が周方向だけではなく径方向にも複数個並んでいる。図6に示した例では、異屈折率領域は径方向には間隔を変えながら並び、周方向には同じ間隔で並んでいる。また、図7に示した例では、異屈折率領域は径方向には間隔だけではなく形状も変えながら並び、周方向には同じ形状で等間隔に並んでいる。図8に示した例では、異屈折率領域は径方向に、周方向とは異なる間隔で等間隔に並んでいる。これら図6~図8の例ではいずれも、個々の異屈折率領域は三角形、半(楕)円、V字形等の形状をとることができる。リング状フォトニック結晶の周期構造という観点では、径方向に並ぶ異屈折率領域の1列分が1個の異屈折率領域として機能する。
【実施例】
【0038】
これら図6~図8の例ではいずれも、径方向には周期性がないか、少なくとも周方向と同じ周期を持たないため、周方向への1次元的な屈折率分布が形成され、それにより、シングルモードのレーザ発振を得やすくなる。なお、周方向と径方向を同じ周期とすることも(マルチモードになる可能性があるが)できる。
【実施例】
【0039】
図9に示した異屈折率領域は、図5~図8に示した形状と、径方向に長い長方形を組み合わせた形状を有する。この長方形が存在することにより、径方向の軸に関する非対称性を更に高めることができる。
【実施例】
【0040】
次に、フォトニック結晶レーザ10を作製し、実際にレーザ発振が得られることを確認した実験の結果を説明する。図10(a)に示した電子顕微鏡写真により、作製したフォトニック結晶レーザ10におけるリング状フォトニック結晶123、第1溝1241及び第2溝1242を、図10(b)に示した拡大写真により空孔122を、それぞれ確認することができる。
【実施例】
【0041】
作製されたフォトニック結晶レーザ10からは、図11に示すように、約987nmの単一波長のレーザビームが発振されることが確認された。そして、そのレーザビームの断面は、図12(a)に近視野像で示すようにリング状であった。なお、遠視野像はリング状の近視野像をフーリエ変換した像となった(図12(b))。更に、レーザビームの偏光を確認するために、レーザビームに垂直に偏光板を配置し、偏光板に垂直な軸の周りに偏光板を回転させつつ、偏光板を通過するレーザビームの遠視野像を測定したところ、図13に示すように、偏光板がいずれの向きである場合にも、偏光板を透過可能な電界の振動方向(図13中の矢印の方向)に沿った一部分のみの像が得られる。このことは、レーザビームが径方向に偏光していることを示している。
【実施例】
【0042】
次に、図14及び図15を参照しつつ、外周幅と内周幅が異なる空孔(異屈折率領域)を有するリング状フォトニック結晶層52を用いる例を説明する。図14に示した例では、空孔522は、リング状フォトニック結晶523のリングの中心から径方向に延びる2本の半直線並びにリングの内周及び外周で囲まれる領域としたものであり、リング状フォトニック結晶523の周方向に並んでいる。ここで、2本の半直線の成す角度をθ、リングの内径をr1、リングの外径をr2とすると、空孔522の内周幅はr1θ、外周幅はr2θとなり、r1θよりもr2θの方が大きい。それ以外の構成(フォトニック結晶層52の母材、フォトニック結晶層52以外の層の構成)はフォトニック結晶レーザ10と同様である。
【実施例】
【0043】
空孔522をこのような形状とすることにより、フィリングファクターはリング状フォトニック結晶層52の径方向のいずれの位置においてもθ/φ(ここでφは、上記2本の半直線のうちの一方が、隣接する空孔で対応する半直線と成す角度である。)になる。そのため、リング状フォトニック結晶内の実効的な誘電率を均一にすることができ、それにより光の電界分布を均一にすることができる。なお、内周幅、外周幅が共に同じr1θである長方形の空孔では、内周側のフィリングファクターはθ/φ、外周側のフィリングファクターは(r1/r2)×(θ/φ)となり、外周側の方がフィリングファクターが小さくなる。なお、ここでのフィリングファクターは、ある径を持つ円周上において空孔が占める割合で定義した。
【実施例】
【0044】
図14ではフィリングファクターが径方向のいずれの位置においても等しい値になる例を示したが、外周幅が内周幅の1倍よりも大きく、且つ(r22/r12)倍未満であれば(例えば図15(a))、上記の長方形の空孔の例よりもフィリングファクターの差を小さくすることができ、それにより光の強度の空間分布を小さくすることができる。外周幅が内周幅の(r22/r12)倍よりも大きければ(図15(b))レーザビームの断面においてリングの内側がより強く発光し、外周幅が内周幅よりも小さければ(図15(c))リングの外側がより強く発光する。また、空孔の形状は上記のものには限られない。例えば、上述の径方向軸129に関して非対称な形状を有する空孔122において、内周幅と外周幅が異なるもの(図15(d))を用いることができる。あるいは、図5~図9に示した複数の空孔を径方向に複数並べた空孔の群において、内周幅と外周幅が異なるものを用いることができる。
【実施例】
【0045】
次に、図16~図20を参照しつつ、主空孔(主異屈折率領域)と副空孔(副異屈折率領域)を有するリング状フォトニック結晶62を用いる例を説明する。図16に示した例では、空孔622は、主空孔622Aと、主空孔622Aよりも面積が小さい副空孔622Bから成り、リング状フォトニック結晶623の周方向に並んでいる。隣接する空孔622間の距離(周期)はaであり、各空孔622における主空孔622Aと副空孔622Bの距離はδである。また、本実施例では主空孔622A及び副空孔622Bは内周幅よりも外周幅を大きくしたが、外周幅よりも内周幅を大きくしてもよいし、内周幅と外周幅を同じにしてもよい。それ以外の構成(母材、フォトニック結晶層以外の層の構成)はフォトニック結晶レーザ10と同様である。図17に、実際に作製したリング状フォトニック結晶623のうち空孔622の部分を拡大した電子顕微鏡写真を示す。
【実施例】
【0046】
このように主空孔622A及び副空孔622Bを設けることにより、図18に示すように、リング状フォトニック結晶62の周方向に伝播する光のうち、主空孔622Aで反射された光と、その主空孔622Aと同じ空孔622に属する副空孔622Bで反射される光の間に光路差2δが生じる。そのため、これら2つの光は干渉により強度を強め合うか、又は弱め合う。但し、弱め合いが生じる場合においても、主空孔622Aと副空孔622Bの面積が異なるため、2つの光が完全に打ち消し合うことはない。
【実施例】
【0047】
特に、リング状フォトニック結晶により増幅される波長a(空孔622の周期と同じ波長)の光では、距離δをa/4とした場合に、干渉による弱め合いの効果が最も大きくなる。これにより、リングの一部で光の強度が強くなることを抑え、均一な強度分布のリング状の断面を持つレーザ光を得ることができる。
【実施例】
【0048】
図19に、副空孔622Bを設けない場合(a)と設けた場合(b)について、光結合係数κを計算した結果を示す。この計算では、δの値をa/4とした。また、副空孔622Bのフィリングファクターは0.1に固定し、主空孔622Aのフィリングファクターを変数として計算を行った。なお、ここでのフィリングファクターは、リング状フォトニック結晶の面積に対する空孔の面積の割合で定義した。この計算の結果、主空孔622Aよりも面積が小さい副空孔622Bを設ける(図19(b)において主空孔622Aのフィリングファクターが0.1よりも大きい)ことにより、副空孔622Bを設けない場合よりも光結合係数κを小さくし、リングの一部で光の強度が強くなることを抑えることができる、といえる。
【実施例】
【0049】
主異屈折率領域及び副異屈折率領域の組み合わせは上記のものには限られない。例えば、図20に示すように、同じ形状の空孔(異屈折率領域そのものではなく、異屈折率領域の一部に相当)を径方向に並べた主空孔622A1、622A2と、主空孔622A1の各空孔よりも径が小さい空孔を径方向に並べた副空孔622B1、622B2を用いることができる。また、主異屈折率領域の形状と副異屈折率領域の形状を異なるもの(例えば一方を円形、他方を正三角形)とすることもできる。あるいは、主異屈折率領域と副異屈折率領域に、互いに屈折率が異なる部材(一方が空孔の場合を含む)を用いることもできる。
【符号の説明】
【0050】
10、10A、10B…フォトニック結晶レーザ
11…活性層
12、52、62…フォトニック結晶層
121…母材
122、522、622…空孔(異屈折率領域)
123、523、623…リング状フォトニック結晶
1241…第1溝
1242…第2溝
129…径方向軸
13…下部電極層
131、131A…下部電極(第1電極)
132…第1絶縁性膜
14、14B…上部電極層
141…上部電極(第2電極)
142…第2絶縁性膜
143…窓
151…pクラッド層
152…nクラッド層
21…レーザビーム
31…電流通過部
32…絶縁膜
41…リング状レンズ
622A、622A1、622A2…主空孔(主異屈折率領域)
622B、622B1、622B2…副空孔(副異屈折率領域)
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図11】
9
【図14】
10
【図15】
11
【図16】
12
【図18】
13
【図19】
14
【図20】
15
【図21】
16
【図10】
17
【図12】
18
【図13】
19
【図17】
20