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Specification :小麦加工製品の改質剤及び小麦加工製品の製造方法

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第5115982号 (P5115982)
Publication number 特開2010-051196 (P2010-051196A)
Date of registration 平成24年10月26日(2012.10.26)
Date of issue 平成25年1月9日(2013.1.9)
Date of publication of application 平成22年3月11日(2010.3.11)
Title of the invention, or title of the device 小麦加工製品の改質剤及び小麦加工製品の製造方法
IPC (International Patent Classification) A21D   2/26        (2006.01)
A21D   8/04        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/90        (2006.01)
FI (File Index) A21D 2/26
A21D 8/04
C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/90
Number of claims or invention 2
Total pages 9
Application Number 特願2008-217335 (P2008-217335)
Date of filing 平成20年8月26日(2008.8.26)
Exceptions to lack of novelty of invention 特許法第30条第1項適用 平成20年3月5日東京農業大学において開催された社団法人日本農芸化学会第52回大会で発表
特許法第30条第1項適用 平成19年度修士論文発表会要旨集(平成20年2月27日)東京農業大学大学院発行第5-6ページに発表
Date of request for substantive examination 平成23年8月25日(2011.8.25)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
Inventor, or creator of device 【氏名】野口 智弘
【氏名】新井 智美
【氏名】高野 克己
Representative 【識別番号】100122574、【弁理士】、【氏名又は名称】吉永 貴大
Examiner 【審査官】清水 晋治
Document or reference 国際公開第98/035049(WO,A1)
特開平09-191820(JP,A)
特表2005-511012(JP,A)
特表平11-503465(JP,A)
特表2001-526058(JP,A)
大塚譲,プロテインダイサルファイドイソメラーゼによる小麦ドウの物性の改変,飯島記念食品科学振興財団年報(平成10年度年報),2000年 8月25日,第1998巻,p.96-99
Gene. 2006, Vol.366, No.2, p.209-218
Journal of cereal science. 2001, Vol.34, No.2, p.159-171
Field of search A21D 2/00-17/00
C12N 15/00-15/90
C12N 9/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Scope of claims 【請求項1】
配列番号:1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドで形質転換した大腸菌から産生されたリコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼを主成分とする小麦加工製品の改質剤。
【請求項2】
配列番号:1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドで形質転換した大腸菌から産生されたリコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼを主成分とする改質剤を小麦粉に添加して生地を形成する、小麦加工製品の製造方法。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦加工製品の改質剤及び小麦加工製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は水を加えて練ることで他の穀類には見られない独特の粘弾性を示す生地を形成することから、パンや麺、菓子など様々な食品に加工されている。この生地独特の物性は小麦特有の貯蔵タンパク質であるグリアジンとグルテニンが水和することで形成するグルテンの性質によるもので、その性質は小麦粉中のこれらタンパク質の量によって左右されるといわれている。
【0003】
グルテンの形成には様々な結合や分子間相互作用が関与すると考えられるが、特にジスルフィド結合(SS結合)によるタンパク質分子間の架橋形成が最も重要であるとされている。SS結合が生地混捏時のような非加熱条件で形成するためには何らかの酸化機構の存在が推定されるが、生地中でのSS結合形成の機序に関する研究報告は少ない。
【0004】
近年、SS結合の形成を触媒する酵素として、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(protein disulfide isomerase:以下「PDI」という。)の存在が知られるようになった。PDIは酸化状態でSS結合を形成しタンパク質を架橋重合化する働きがあることから、小麦内在PDIのグルテン形成への関与が考えられる。
【0005】
しかしながら、PDIは小麦の開花時に活性のピークを迎えた後は活性が低くなり、小麦種子中には微量にしか存在しない。また、小麦からPDIを抽出する工程も複雑であることに加え、それ自体不安定で容易に失活することから、PDIを取得するためには多大なコストと時間を要していた。
【0006】
このような問題を解決するために、例えば、国際公開WO98/35049号公報には、酵母由来のプロテインジスルフィドイソメラーゼをコードする遺伝子で酵母を形質転換し、形質転換した宿主細胞を培地のpHを中性近傍に保ちながら培養することにより、宿主細胞外へプロテインジスルフィドイソメラーゼを活性な状態で分泌させる、酵母PDIの製造方法が提案されている(特許文献1)。

【特許文献1】国際公開WO98/35049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記公報には、PDIはパン生地、ハム・ソーセージ、水産練り製品、豆腐等のタンパク質含有食品の物質向上に応用可能である旨が記載されているが、具体的にPDIをタンパク質含有食品に応用した例はない。また、PDIはその由来によって特性が異なり、食品の種類によって求められるPDIの特性も異なることから、PDIの利用については個別に検討が必要である。
【0008】
そこで本発明は、小麦由来のPDIと形質転換細胞由来のPDIとの相違を明らかにし、形質転換細胞由来のPDIを小麦加工製品に応用する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は独自にリコンビナント小麦PDI(以下「rPDI」という。)を作製し、かかるrPDIによるグルテン形成への関与及び製パン性について検討した結果、rPDIが小麦PDIとは特性が異なり、かかる特性が小麦加工製品の製造に有利であるとの知見を得た。
【0010】
本発明はかかる知見に基づくものであり、配列番号:1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドで形質転換した形質転換細胞から産生されたリコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼを主成分とする小麦加工製品の改質剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、配列番号:1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドで形質転換した形質転換細胞から産生されたリコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼを主成分とする改質剤を小麦粉に添加して生地を形成する、小麦加工製品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の小麦加工製品の改質剤及び小麦加工製品の製造方法によれば、小麦加工製品の品質を向上することができるほか、これまで小麦加工製品の小麦として適切ではない小粉を使用する場合等であっても好適な小麦粉に改質することができるため、小麦粉の適用範囲を広げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の小麦加工製品の改質剤は、配列番号:1で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドで形質転換した形質転換細胞から産生されたリコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼ(rPDI)を主成分とする。
【0014】
本発明において、「小麦加工製品」とは、小麦粉を主成分とする食品をいい、例えば、食パン、菓子パン、イーストドーナツなどのパン類;中華麺、うどん、そば、パスタなどの麺類;饅頭、ケーキ、クッキーなどの菓子類;餃子、シュウマイ、春巻の皮などの皮類等を挙げることができる。
【0015】
rPDIの合成方法は、例えば次のとおりである。小麦を28℃で48hr栽培することにより発芽、発根させ、小麦根を摘みとり、RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN社製)を用いて小麦根よりmRNAを抽出する。mRNAからのcDNAの作製はPrimeSTARTM RT-PCR Kit(TaKaRa社製)を用いて行なう。
【0016】
作成したcDNAは日本DNAデータバンクより取得した2種類の小麦PDI遺伝子情報をもとに、小麦PDIのオープンリーディングフレーム(ORF)が増幅するように設計したプライマーを用いてPCR増幅する。
【0017】
増幅した小麦PDIのORFを発現ベクターpET21a(Novagen社製)に挿入し、発現ホストBL21(DE3)にヒートショック法にて形質転換する。形質転換体の培養培地にはLB、アンピシリン培地を用い、O.D.600が0.6以上になるまで37℃で培養する。その後、0.2mM IPTGを添加し、20℃、16時間発現誘導する。
【0018】
その後、菌体を遠心分離にて回収し、培養液の1/10倍容の100mM NaClを含む20mM Tris-HCl(pH7.4)にて菌体ペレットをけん濁する。これを氷冷下で溶菌させる。その溶液を遠心分離後、得られた上澄液を溶解Bufferで平衡化したTALON Metal Affinity Resin (TaKaRa社製)カラム(0.25cm×5cm)に流速0.5ml/minで付加する。
【0019】
未吸着タンパク質を同Bufferでよく洗浄後、吸着タンパク質を100mM NaCl、40mM イミダゾールを含む20mM Tris-HCl(pH8.0)で溶出する。
【0020】
得られたrPDIは357~632U/タンパク質1mgものPDI活性を有し、温度安定性及びpH安定性が小麦由来の天然rPDIよりも優れていることから、小麦加工製品の改質剤として利用することができる。
【0021】
本実施形態の小麦加工製品の製造方法は、上述した改質剤を小麦粉に添加して生地を形成するものである。
【0022】
前記改質剤を小麦粉に添加して生地を形成することにより、生地中のジスルフィド結合及びイソペプチド結合の形成が促進され、例えばパンにおいては比容積が増加し柔らかい口当たりのパンを製造することができる。
【0023】
前記改質剤の添加量は小麦加工製品の目的に応じて適宜設定することができるため特に限定されないが、例えば、小麦粉1gに対し0.2U~5.0Uであることが好ましい。改質剤の添加量が増加するにつれて生地が柔らかく、比容積が増加するため、ソフトな食感が求められる小麦加工製品を製造する場合は、前記改質剤の添加量を多くするとよい。
【0024】
rPDIの添加量の目安として、強力粉のPDI活性量がある。すなわち、強力粉のPDI活性量は一般に3.0~5.0U/小麦粉1gであるため、PDI活性が1.5 U/小麦粉1g程度の中力粉を用いて小麦加工製品を製造する場合は、強力粉のPDI活性量と同等になる量を添加すればよい。
【実施例】
【0025】
1.リコンビナントPDIの取得
日本DNAデータバンク(DDBJ)より、小麦PDI遺伝子情報を検索取得し、2種の小麦PDI遺伝子情報をBio-Edit上でアライメントした。アライメント後、配列番号:1で表わされる塩基配列のOpen Reading Frame(ORF)領域の3'末端側及び5'末端側の外側でプライマーを作成し、小麦根より抽出したtotal RNAを逆転写し得られたcDNAを鋳型としてPDIのORFをPCRにて増幅後、発現ベクターpET21Aに挿入し、発現宿主大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、His-Tag融合タンパク質として発現させた。
【0026】
次に、菌体を超音波処理にて破砕してrPDIを抽出後、コバルトカラムで精製した。この精製酵素を用いてSS結合解裂及びSS結合形成の活性を測定したところ、両活性が確認された。
【0027】
2.小麦粒PDIとrPDIの性状比較
(1)上記1で得られたrPDIについて、最適温度、最適pH、温度安定性、pH安定性、分子量を測定した。また、小麦粉由来の天然PDIについても同様に評価した。小麦粉由来のPDIは、ハルユタカ(2007年北海道産)を用いて、Ken Kainuma(1998)らの方法を用いて酵素を抽出した。小麦全粒を4gずつ量り採り、マルチビーズショッカー(MB601U(S)、安井機械社製)にて破砕し、緩衝液A(50mM Tris-HCl (pH8.0)、5mM DTT 、50mM NaCl、10mM EDTA、2mM PMSF、Triton X-100)16mlを加え、ワーリングブレンダーにてホモジナイズした。これを遠心分離し、得られた上澄液を硫酸アンモニウムにて20%飽和し、遠心分離して得られた上澄液を分子量25,000カットの透析チューブを用い、緩衝液B(50mM Tris-HCl (pH8.0))にて1晩透析した。透析後、遠心分離することにより得られたものを使用した(表1中「小麦粒PDI」と表記する)。
【0028】
最適温度は緩衝液にリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用い、酵素反応温度を10~50℃にて酵素活性測定することで測定した。最適pHはリン酸カリウム緩衝溶液(pH5~8)およびリン酸緩衝液(pH8~11)を用い酵素活性測定することで測定した。温度安定性は小麦粒PDIは10~70℃で1時間加温した後、rPDIは3時間加温した後、酵素活性測定により測定し、PDI活性が80%以上残存している温度を求めた。pH安定性は小麦粒PDIは10mM EDTA、50mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH4~10)と1:1の割合でそれぞれ混合し、4℃、4時間静置後、rPDIは4℃、8時間静置後、酵素活性測定インスリンへ対する還元活性(下記に詳細を記載)により測定し、PDI活性が80%以上残存しているpHを求めた。分子量はSDS-PAGEに供した後、ゲルプロアナライザー(日本ローパー)にて解析した。
【0029】
PDIの活性測定は、Johanna.L.,と Arne.H(1979,1990)のインスリンを用いた方法にて行った。試験管に0.4M リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)0.5ml、8mM EDTA0.5ml、インスリン溶液0.1ml、蒸留水0.58mlを採取し、酵素溶液0.02mlを加えた後、3.3mM DTT 0.2mlを加え、全量を2.0mlとし、25℃で40分間酵素反応を行った。生じたインスリンの濁度を吸収波長650nmの吸光度を測定した。酵素力価はpH7.5、25℃でDTT存在下において0.5mg/mlのインスリンのA650を1分間に0.01変化させる力価を1Uとした。
【0030】
その結果、小麦粒PDI及びrPDI共に63kDa、最適温度35℃、最適pH8.5であり、これらの点に関しては特に相違する点は認められなかったが、温度安定性は小麦粒PDIが10~30℃であったのに対して、rPDIは10~40℃であり、pH安定性は小麦粒PDIが7~9であったのに対して、rPDIは6~9であることが判明した。
【0031】
【表1】
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【0032】
一般に、本捏ね終了時のパン生地ではpHが弱酸性(pH6.5程度)である。そのため、pH安定性が6~9であるrPDIを用いることにより、生地のジスルフィド結合の形成に有利であるといえる。
【0033】
また、パンの生地の発酵中、周囲の環境によっては30℃以上の温度が数時間持続することがある。そのため、温度安定性が10~40℃であるrPDIを用いることにより、PDI活性が長時間保持され、生地のジスルフィド結合の形成を向上させることができると考えられる。
【0034】
(2)前記1で得られたrPDIと上記(1)で得られた小麦粉由来のPDIのPDI活性を測定した。測定方法は、上述したJohanna.L.,と Arne.H(1979,1990)のインスリンを用いた方法にて行った。酵素力価はpH7.5、25℃でDTT存在下において0.5mg/mlのインスリンのA650を1分間に0.01変化させる力価を1Uとした。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
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【0036】
表2に示すように、rPDIのPDI活性は小麦粉由来のPDIのPDI活性と比較して顕著に高いことが判明した。タンパク質1mg当たりのrPDIのPDI活性は、比活性で約371倍となり、小麦粉129gのPDI活性に相当するものである。
【0037】
3.製パン性試験
(1)パンの製造
rPDI添加による製パン性への影響を検討した。rPDIは、小麦粉に添加する方法で使用した。小麦粉としては、製パン性が低い中力粉(Australian Standard White:ASW)と、製パン性に優れている強力粉(Dark Northern Spring:DNS)を使用した。
【0038】
表3に示す配合で小麦粉とrPDIを添加し、水、砂糖、塩、イースト及びショートニング、イーストを添加し、混捏した後、27℃、湿度75%で90分間発酵を行った後、ガス抜きを行いさらに同条件にて30分間発酵した。発酵の終了後生地を40gに分割し球状に成形、ステンレス製の容器(直径50mm)に入れ、38℃、湿度85%にて60分間発酵を行い、オーブンにて190℃、15分間焼成後、3時間室温にて冷却後、試料とした。
【0039】
【表3】
JP0005115982B2_000004t.gif

【0040】
製造したパンにつき、比容積及び硬さを評価した。比容積は体積を菜種置換法で測定し、重量で割り算出した。硬さは焼成したパンを25mm×25mm×25mmに切断後、直径21mmのプランジャーにて圧縮試験を行い、70%圧縮時の荷重を測定した。結果を図1に示す。
【0041】
図2に示すように、中力粉(ASW)を用いてパンを製造したものは、比容積が比較的小さく、硬さが比較的硬いものであった。一方、rPDIを中力粉(ASW)に添加して製造したパンは、中力粉(ASW)を用いて製造したパンと、強力粉(DNS)を用いて製造したパンとの中間の性状を有していた。この結果から、rPDIは製パン性を向上させる改質剤として有用であることが判明した。

【0042】
(2)rPDIの添加量の検討
rPDIの添加量の違いがパンの品質にどのように影響するかを検討するため、上記(1)と同様の製造方法で、rPDIの添加量のみ変化させてパンを製造した。そして、製造したパンにつき、上記(1)に記載した方法で比容積及び硬さを評価した。結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
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【0044】
表4に示すように、rPDIの添加量が増加するにつれてパン生地が柔らかくなり、比容積も増加する傾向が認められた。この結果から、小麦加工製品の目的に応じてrPDIの添加量を調整することにより、所望の品質を有する小麦加工製品を製造することができると判明した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】リコンビナントプロテインジスルフィドイソメラーゼ(rPDI)の塩基配列を示す図である。
【図2】小麦粉の違いにより製パン性に及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
Drawing
【図1】
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【図2】
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