TOP > 国内特許検索 > 構造物の損傷の診断方法および装置 > 明細書

Specification :構造物の損傷の診断方法および装置

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第5224547号 (P5224547)
Date of registration 平成25年3月22日(2013.3.22)
Date of issue 平成25年7月3日(2013.7.3)
Title of the invention, or title of the device 構造物の損傷の診断方法および装置
IPC (International Patent Classification) G01N  29/09        (2006.01)
FI (File Index) G01N 29/16
Number of claims or invention 8
Total pages 11
Application Number 特願2009-553442 (P2009-553442)
Date of filing 平成21年2月12日(2009.2.12)
International application number PCT/JP2009/052311
International publication number WO2009/101978
Date of international publication 平成21年8月20日(2009.8.20)
Application number of the priority 2008032142
Priority date 平成20年2月13日(2008.2.13)
Claim of priority (country) 日本国(JP)
Date of request for substantive examination 平成24年2月10日(2012.2.10)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
Inventor, or creator of device 【氏名】増田 新
Representative 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100098280、【弁理士】、【氏名又は名称】石野 正弘
Examiner 【審査官】比嘉 翔一
Document or reference 特開2001-99760(JP,A)
増田新,他2名,波動の振幅変調と位相変調に着目した非線形損傷検出,評価・診断に関するシンポジウム講演論文集,日本,2005年11月27日,Vol.4,P.133-136
増田新,他2名,非線形波動変調を用いたボルト接合部の健全性モニタリング,日本機械学会機械力学・計測制御部門講演会論文集(CD-ROM),日本,2006年12月 7日,Vol.2006,論文No.655
増田新,他2名,非線形波動変調を用いたクラック進展のモニタリング,日本機械学会機械力学・計測制御部門講演会論文集(CD-ROM),日本,2006年12月 7日,Vol.2006,論文No.629
増田新,他1名,非線形圧電インピーダンス変調法によるき裂進展の監視,日本機械学会年次大会講演論文集,日本,2008年 8月 2日,P.367-368
Field of search G01N 29/00-29/52
G01L 1/00- 1/16
G01M 99/00
JSTPlus(JDreamII)
Scope of claims 【請求項1】
診断対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を一定振幅の交流電圧で駆動して、その電気機械変換素子を流れる電流を計測し、
この電流信号から上記電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分を分離し、
上記高周波成分の振幅復調により損傷による変調情報を抽出し、
上記変調情報を基に損傷の指標を評価する
構造物の診断方法。
【請求項2】
上記の指標は、復調後の電流波形の振幅と復調後の電流波形の平均値の比であり、この比をしきい値と比較して損傷の発生を診断することを特徴とする、請求項1に記載された診断方法。
【請求項3】
試験対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を交流電圧で駆動したときに電気機械変換素子で計測された電流信号から、電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分を検出する分離手段と、
上記高周波成分の振幅復調により損傷による変調情報を抽出する抽出手段と、
上記変調情報を基に損傷の指標を評価する指標評価手段と
からなる診断装置。
【請求項4】
診断対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を一定振幅の交流電圧で駆動して、その電気機械変換素子を流れる電流を計測し、
この電流信号から上記電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分を分離し、
上記高周波成分の位相復調により損傷による変調情報を抽出し、
上記変調情報を基に損傷の指標を評価する
構造物の診断方法。
【請求項5】
上記の指標は、復調後の電流波形の振幅と復調後の電流波形の平均値の比であり、この比をしきい値と比較して損傷の発生を診断することを特徴とする、請求項4に記載された診断方法。
【請求項6】
さらに、上記高周波成分の振幅復調により損傷による変調情報を抽出し、
位相復調後の上記変調情報と、振幅復調後の上記変調情報とから損傷の指標を評価する、請求項4に記載された診断方法。
【請求項7】
試験対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を交流電圧で駆動したときに電気機械変換素子で計測された電流信号から、電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分を検出する分離手段と、
上記高周波成分の位相復調により損傷による変調情報を抽出する抽出手段と、
上記変調情報を基に損傷の指標を評価する指標評価手段と
からなる診断装置。
【請求項8】
上記抽出手段は、さらに、上記高周波成分の振幅復調により損傷による変調情報を抽出し、上記指標評価手段は、位相復調後の上記変調情報と、振幅復調後の上記変調情報とから損傷の指標を評価する、請求項7に記載された診断装置。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、機械構造物や設備、建築・土木構造物、航空宇宙構造物などの建造物の損傷検知や健全性評価に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の損傷検知や健全性評価は種々の方法で行われている。構造物に生じる損傷を早期に検出しうる方法として、「圧電インピーダンス法」がある(たとえば特開2007-085733号公報、特開2004-028907号公報、特開2001-099760号公報参照)。圧電インピーダンス法では、構造物の表面に圧電素子を貼り付け、構造物中に発生した損傷による構造物の動特性の変化を、圧電素子の数10kHz~数100kHzの超音波帯域における電気インピーダンスの変化として検出する。圧電素子の電気インピーダンスの逆数(アドミタンス)は、圧電素子の静電容量と、圧電素子から見た構造物の駆動点モビリティに依存する。圧電素子の貼付位置近傍の構造部位に生じた損傷によって、数10kHz~数100kHzの帯域における構造物の駆動点モビリティは大きく変化し、上述の構造物の動特性と電気インピーダンス(もしくはアドミタンス)の関係より、この帯域における圧電素子の電気インピーダンス(もしくはアドミタンス)が大きく変化する。このため、圧電素子の電気インピーダンスの測定により圧電素子の貼付位置近傍の微小な損傷を感度よく検出できるとされている。電気インピーダンスの計測には、インピーダンスアナライザもしくは専用のインピーダンス計測回路が用いられる。
【0003】
しかし圧電インピーダンス法では、損傷が高周波波動にあたえる影響を周波数応答(インピーダンス)で評価しており、損傷が与える力学的影響の時間平均を眺めているにすぎない。損傷は静的なものとしてとらえられており、損傷部の界面における各種の非線形効果や負荷と高周波波動との相互作用などは無視されている。また、構造物に貼付した圧電素子の電気インピーダンスの損傷前後での「変化」によって損傷を検出するため、評価が相対的であり、評価の基準となる「ベースライン」データが必ず必要である。ベースラインとなる健全時のインピーダンスまたはアドミタンスは、構造物ごとに全く異なるのはむろんのこと、圧電素子の貼付位置や寸法によっても大きく異なるため、計算などによる予測を行うことは現実的でなく、実測によらざるを得ない。これは、一度の計測で健全性を判定することが原理的に不可能であることを意味しており、実用上・運用上の大きな問題であると考えられる。
【0004】
さらに、初期段階の損傷はしばしば、閉じたき裂、キッシングボンド(kissing bond)などの「隠れた損傷」の形態をとっており、これらを見逃すことは安全管理上極めて重大な脅威となりうる。しかし、閉じたき裂などは超音波を透過してしまうため、圧電インピーダンス法ではこれらの損傷の検出は困難であると考えられる。
【0005】
一方、原理的にベースラインデータが不要で、かつ「隠れた損傷」の検出に有効な方法としてこれまでに提案されているものの一つに「非線形波動変調法」がある(たとえばC. Liang, F. P. Sun, C. A. Rogers, An impedance method for dynamic analysis of active material systems, Journal of Vibration and Acoustics, Transactions of the ASME, Vol. 116, pp. 120-128, 1994、 G. Park, H. Sohn, C. R. Farrar, D. J. Inman, Overview of piezoelectric impedance-based health monitoring and path forward, The Shock and Vibration Digest, Vol. 35, No. 6, pp. 451-463, 2003、 K. E.-A. Van Den Abeele, P. A. Johnson and A. Sutin, Nonlinear elastic wave spectroscopy (NEWS) techniques to discern material damage, Part I: Nonlinear wave modulation spectroscopy (NWMS), Res Nondestr Eval, Vol. 12, pp. 17-30, 2000、 V. Zaitsev, V. Gusev, B. Castagnede and P. Sas, Micro-damage detection using a modulation technique based on dissipative nonlinear effects'', Proceedings of Forum Acusticum Sevilla 2002, 2002、V. Zaitsev and P. Sas, Nonlinear response of a weakly damaged metal sample: a dissipative mechanism of vibro-acoustic interaction, Journal o f Vibration and Control, Vol. 6, pp. 803-822, 2000参照)。この手法では、構造物に生じるき裂、ボルトの緩み、接着面の剥離などの損傷が、面と面の接触状態の変化を伴うことに着目し、損傷部位に作用する低周波数の動的負荷変動による面と面の接触状態の変化を、圧電素子などの電気機械変換素子から入力した高周波波動の振幅変調および位相変調として取り出す。損傷が存在しなければ変調は発生しないため、原理的に絶対評価であり、非線形波動変調法では一度の計測で健全性を判定できる。また、この方法は、損傷部位に作用する低周波数の動的負荷変動による損傷部位の動特性の変動を用いるため、原理的に「隠れた損傷」の検出が可能であるという特長も持つ。
【0006】
ただし、非線形波動変調法では、高周波波動の送信用と受信用に最低限2枚の圧電素子が必要であり、圧電素子貼付のためのスペース制約が厳しい状況での適用可能性に問題があった。このため、これらを1枚にまとめたセルフセンシング手法の開発が課題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、構造物に生じる損傷を早期に容易に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る構造物の診断方法では、診断対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を一定振幅の交流電圧で駆動して、その電気機械変換素子を流れる電流を計測する。次に、この電流信号を上記電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分と、この高周波領域より低い周波数領域での低周波成分とに分離する。次に、上記高周波成分の振幅復調および/または位相復調により損傷による変調情報を抽出し、上記変調情報を基に損傷の指標を評価する。
【0009】
本発明に係る診断装置は、試験対象の構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子を交流電圧で駆動したときに電気機械変換素子で計測された電流信号から、電気機械変換素子の駆動周波数を中心とする高周波領域における高周波成分と、この高周波領域より低い周波数での低周波成分とを検出する分離手段と、上記高周波成分から振幅復調および/または位相復調により損傷による変調情報を抽出する抽出手段と、振幅復調後の変調情報および/または位相復調後の変調情報を基に損傷の指標を評価する指標評価手段とからなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による損傷診断では、健全時の状態をベースラインデータとして記憶しておく必要がなく、一度の計測で構造物の健全性を判定できる。また、既存構造物の評価にも適用可能である。
【0011】
また、本発明による損傷診断では、最小構成では単一の電気機械変換素子のみによるセルフセンシングで構造物の損傷を評価できるため、より単純なシステムを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】予備き裂を有する試験片の図
【図2】試験片を組み込んだ構造体の図
【図3】試験装置の全体を示す図
【図4】健全状態において式(6)の第1項を振幅復調した波形およびフーリエスペクトルのグラフ
【図5】損傷状態において式(6)の第1項を振幅復調した波形およびフーリエスペクトルのグラフ
【図6】健全状態の試験片について変調度を縦軸に、等価剛性低下率を横軸にとったグラフ
【図7】損傷状態の試験片について変調度を縦軸に、等価剛性低下率を横軸にとったグラフ
【図8】振幅変調度を縦軸に、等価剛性低下率を横軸にとったグラフ
【図9】位相変調度を縦軸に、等価剛性低下率を横軸にとったグラフ
【図10】動剛性変調度を縦軸に、等価剛性低下率を横軸にとったグラフ
【図11】損傷診断装置の図
【図12】信号処理装置における信号処理の内容を示す図
【図13】信号のソフトウェア処理のフローチャート

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
構造物表面に圧電素子を貼付したとき、圧電素子の変形速度V、圧電素子が構造物から受ける力F、圧電素子端子間の電圧E、圧電素子に流れる電流Iとの間には次の関係式(1)が成立する。
JP0005224547B2_000002t.gifここでZpは圧電素子の端子間を短絡した場合の機械インピーダンス、Ypは圧電素子の変形を拘束した場合のアドミタンス、Aは力係数であり、ωは周波数である。いっぽう、圧電素子から見た構造物の機械インピーダンスをZmとすると、次式(2)が成立する。
JP0005224547B2_000003t.gif式(1)と式(2)より、圧電素子端子間のアドミタンスは次式(3)のようになる。
JP0005224547B2_000004t.gifいま、構造物に外部負荷Wが作用する時、圧電素子に流れる電流Iは次式(4)のようになる。
JP0005224547B2_000005t.gifここでGは外部負荷から電流への伝達関数である。圧電素子を高周波数ωpの一定振幅Eの正弦波電圧e(t)(tは時間を表す)
JP0005224547B2_000006t.gifで駆動し、外部負荷Wの振動数はωpより十分低いと仮定すると、時間領域における式(4)は次のようになる。
JP0005224547B2_000007t.gifここで、wg(t)はG(ω)W(ω)の時間領域での波形である。
【0014】
いま、構造物中に面と面の接触を伴う損傷が存在する場合、外部負荷w(t)によって面と面の接触状態が変化する。接触状態の変化は界面における高周波の弾性波動の散乱条件を変化させるため、高周波数での機械インピーダンスZmはw(t)に依存して変化する。このことを考慮すると、損傷が存在する状況下での周波数ωpにおける式(3)は次のように書くことができる。
JP0005224547B2_000008t.gifよって、このとき電流i(t)は、次式(8)で表される。
JP0005224547B2_000009t.gif
【0015】
この式(8)の第1項はハイパスフィルタで、第2項はローパスフィルタで分離できる。第1項は外部負荷w(t)に依存して振幅変調および位相変調を受けた正弦波波形である。第2項からは外部負荷w(t)に関する情報を得ることができる。第1項の振幅変調または位相変調の強さは損傷度に依存するため、第1項を振幅復調した波形および/または第1項を位相復調した波形を用いて損傷度を判定できる。
【0016】
変調の強さに基づく損傷度の定量化にはさまざまな指標が考えられるが、そのうちの一例は、次式(9)の振幅変調度AMIである。振幅変調度AMIは、式(8)の第1項の振幅復調後の波形の振幅を、振幅復調後の波形の平均値で除したものである。
JP0005224547B2_000010t.gifここでaHF(t)は次式(10)で計算される瞬時振幅比である。
JP0005224547B2_000011t.gifここでiHF(t)は式(8)の第1項すなわち電流の高周波成分であり、絶対値記号は振幅包絡線を表す。実際の装置を診断する場合は、たとえば、振幅変調度AMIをしきい値と比較して、しきい値を越えた場合に構造物の損傷が生じたと診断する。
【0017】
また、診断の指標として、式(8)の第1項の位相復調後の波形の振幅を、位相復調後の波形の平均値で除した位相変調度PMIを用いてもよい。位相変調度PMIは次式(11)で計算される。
JP0005224547B2_000012t.gifここでθHF(t)は次式(12)で計算される瞬時位相差である。
JP0005224547B2_000013t.gifここでiHF(t)は式(8)の第1項すなわち電流の高周波成分であり、角度記号は瞬時位相角を表す。実際の装置を診断する場合は、たとえば、位相変調度PMIをしきい値と比較して、しきい値を越えた場合に構造物の損傷が生じたと診断する。
【0018】
あるいは、振幅復調後の波形aHF(t)および位相復調後の波形θHF(t)を組み合わせて用いて診断の指標を構成してもよい。たとえば、次式によって複素数zHF(t)を定義すると、
JP0005224547B2_000014t.gif複素数zHF(t)は圧電素子の瞬時アドミタンスを表しており、この平均値からの変動の大きさを次式(14)のアドミタンス変調度YMIで評価して損傷指標とすることができる。
JP0005224547B2_000015t.gifここで、上付きバーは時間平均値を表す.
【0019】
ほかにも、構造物の瞬時モビリティの変動の大きさを評価する次式(15)によるモビリティ変調度MMI
JP0005224547B2_000016t.gifや、さらにこれを瞬時動剛性の変動の大きさに換算した次式(16)による動剛性変調度KMI
JP0005224547B2_000017t.gifなど、さまざまな指標を構成することが可能である。
【0020】
以下に試験の1例を説明する。図1は、予備き裂を有する試験片の例を示す。図1において、上側は上面図であり、下側は正面図である。鋼材SS400のはり1(たとえば44×550×6mmの長方形)に予備き裂3を放電加工で導入し、これを起点に加振により疲労き裂を進展させる。予備き裂3は、たとえば幅1mmの溝である。試験片1には圧電素子(たとえばPZT)2を貼付する。試験片1は固定部4と支持部5で図2の構造物に組み込まれる。
【0021】
図2は、試験片1を組み込んだ構造物を示す。図2において、左側は正面図であり、右側は側面図である。試験片1の固定部4は固定治具14を介してベースプレート11にボルト固定されている。いっぽう試験片1の支持部5は硬質ゴム製の半円柱15を介してスラブ12と連結されている。ベースプレート11とスラブ12は4本の板バネ13で連結されており、その結果、この構造物は、ベースプレート11に対してスラブ12がせん断変形する振動系となっている。
【0022】
図3は試験装置の全体を示す。構造物22の全体を加振台21に載せて水平加振して、試験片1に疲労き裂を進展させる実験を行った。加振台21はコントローラ23およびアンプ24で正弦波駆動される。試験片1に貼付した圧電素子2に、信号発生器25とアンプ26を介して高周波の正弦波電圧を与えて、その際に圧電素子2を流れる電流を電流検出部27で計測する。計測データはデータ収録装置28で収録し、パーソナルコンピュータ(図示しない)で信号処理を行う。
【0023】
実験は次の手順で行った。まず、加振台21を構造物22の固有振動数に合わせた振動数で1分間水平加振して試験片1に疲労き裂を進展させた。その後、圧電素子2を高周波掃引波で駆動し、その際に圧電素子2を流れる電流を電流検出部27で計測することによって、圧電素子2のアドミタンスを調べ、そのピーク周波数をωpとして採用した。次に、外部負荷を与えるために加振台21を10Hzの正弦波で振動させながら、試験片1に貼付した圧電素子2を振動数ωpの正弦波電圧で駆動した際の電流を計測した。き裂進展とアドミタンスの調査および電流計測を1セットとして、試験片の等価剛性低下率が40%を越えるまで上述の手順を繰り返した。
【0024】
図4および図5は、それぞれ、健全状態および損傷状態(等価剛性低下率5%)における式(8)の第1項を振幅復調した波形(包絡線envelope)およびそれから得られたフーリエスペクトル(Fourier spectrum)を時間(time)および周波数(frequency)に対して示す。損傷状態において顕著に振幅変調が生じていることがわかる。
【0025】
図6および図7は、それぞれ、健全状態および損傷状態(等価剛性低下率5%)における式(8)の第1項を位相復調した波形(phase difference)およびそれから得られたフーリエスペクトル(Fourier spectrum)を時間(time)および周波数(frequency)に対して示す。損傷状態において顕著に位相変調が生じていることがわかる。
【0026】
図8に、振幅変調の大きさを式(9)の振幅変調度で評価し、振幅変調度(modulation index)を縦軸に、等価剛性低下率(change of equivalent stiffness ratio)を横軸にとったグラフを示す。
【0027】
図9に、位相変調の大きさを式(11)の位相変調度で評価し、位相変調度(phase modulation index)を縦軸に、等価剛性低下率(change of equivalent stiffness ratio)を横軸にとったグラフを示す。
【0028】
図10に、振幅復調後の波形と位相復調後の波形を組み合わせて算出した式(16)の損傷指標を評価し、動剛性変調度(dynamic stiffness modulation index)を縦軸に、等価剛性低下率(change of equivalent stiffness ratio)を横軸にとったグラフを示す。
【0029】
図8、図9、図10のいずれからも、損傷指標の評価によって、初期のき裂を検出できることや、き裂の成長をモニタリングできることがわかる。
【0030】
図11は、損傷診断装置の例を示す。き裂などの損傷6を有する構造物1の表面に貼付された圧電素子2は、交流電源31によって高周波の正弦波電圧で駆動される。駆動電圧はアンプ32を介して計測する。また、その時に圧電素子2に流れる電流を電流検出部33とアンプ34を介して計測する。計測された電圧信号と電流信号は、インターフェース35を介して信号処理装置36に送られ、信号処理される。また、交流電源31の電圧振幅、周波数などの波形パラメータはインターフェース35から制御される。
【0031】
図12は信号処理装置36における信号処理の内容を示す。計測された電流信号は、ハイパスフィルタ(HPF)41によって、外部負荷に関する情報を含む低周波成分と、損傷に関する情報を含む高周波成分(圧電素子の駆動周波数を中心とする成分)に分けられる。高周波成分は振幅復調部42または位相復調部43において振幅復調または位相復調され、損傷による変調情報が抽出される。次に、損傷指標評価部44により、低周波成分、振幅復調後の波形、位相復調後の波形から損傷指標が評価される。上記の処理は全てソフトウェアによってもよいが、特に破線で囲んだ部分(HPF41、振幅復調部42および位相復調部43)についてはハードウェアとして実装することが望ましい。
【0032】
図13は、信号処理装置36のCPUにより全ての信号処理をソフトウェアによって行う場合のフローチャートを示す。まず、上述の計測機器からインターフェース35を介して電流信号と電圧信号を取得する(S10)。次に、電流信号のハイパスフィルタ処理により、損傷に関する情報を含む高周波成分を分離する(S12)。次に、分離した高周波成分について振幅復調をおこない、分離した高周波成分と電圧信号から位相復調をおこなって(S14)、損傷による変調情報を抽出する。次に、振幅復調後の波形および/または位相復調後の波形から損傷指標を計算する(S16)。そして、結果を表示する(S18)。ここで、損傷指標が40%を越えていなければ、すなわち計測が終了しない場合は(S20でNO)、ステップS10に戻り、上述の計測処理を繰り返す。
【0033】
なお、上述の損傷診断装置の例では圧電素子を用いたが、圧電素子に限らず、任意の電気機械変換素子をセンサとして使用できる。また、貼付式のトランスデューサに限らず、押し当て式のトランスデューサを用いることで、可搬型装置として構成することも可能である。
【0034】
以下に本発明の損傷診断の作用効果について説明する。本発明による損傷診断では、構造物に取り付けられた1つ以上の電気機械変換素子の電気インピーダンスが、構造物に内包された損傷部の非線形性に起因した非線形波動変調効果により構造物振動に同期した変調を示すことを利用している。すなわち、構造物の高周波領域における機械インピーダンス特性が、外部負荷による損傷部位の面接触状態の変化に同期して変動することを利用し、定電圧振幅で高周波駆動される圧電素子に流れる電流波形の変調として損傷を定量化する。損傷による非線形性が存在しない健全な構造物の場合には変調は生じないため、原理的には損傷の絶対評価が可能である。一度の計測で健全性を判定できることから、既存構造物の評価にも適用可能である。なお、現実の構造物では、健全状態であってもある程度の変調は観測されうるが、健全性の判断のための変調レベルの閾値はあらかじめ合理的に定めておけばよい。これに対して、従来の圧電インピーダンス法では、健全時の状態を実測ベースラインデータとして記憶しておく必要があり、これは実用上/運用上の大きな問題であるが、本発明ではそのような問題は解消される。
【0035】
また、従来の圧電インピーダンス法では、損傷部の界面における各種の非線形効果や負荷と高周波波動の動的な相互作用などは無視されていた。これに対して、本発明では、電圧入力に対する電流出力を時間領域で精査することによって、非線形波動変調をはじめとする様々な非線形効果を有用な情報として活用できる。その結果、「隠れた損傷」の検知が可能になり、また、微小な損傷に対する感度が飛躍的に向上すると期待される。
【0036】
また、従来の圧電インピーダンス法と異なり、機械インピーダンスが動的に変動する軸受や歯車などの機械要素の損傷検知にも原理的に適用可能である。
【0037】
従来の非線形波動変調法では高周波波動の送信用と受信用に最低限2枚の電気機械変換素子を必要としたが、本発明の損傷検知は、最小構成では単一の電気機械変換素子のみによりセルフセンシングで損傷を評価できるため、より単純なシステムを構成できる。このことは、構造物への取り付け自由度を飛躍的に拡大し、たとえば、取り付けスペースの制約が厳しい条件下での適用も容易に可能である、可搬型の装置を構成しやすい、など実用上の利点が大きい。また、最小構成において複数の電気機械変換素子の間の配線が必要ないため、電気機械変換素子とマイクロプロセッサを一体化したスマート素子化がたやすく、自己診断機能を持ったスマート構造物の実現に向けて将来的な発展性も見込まれる。
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12