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Specification :アレルギー性鼻炎バイオマーカー

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 公開特許公報(A)
Publication number 特開2020-076719 (P2020-076719A)
Date of publication of application 令和2年5月21日(2020.5.21)
Title of the invention, or title of the device アレルギー性鼻炎バイオマーカー
IPC (International Patent Classification) G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI (File Index) G01N 33/53 N
G01N 33/50 Z
Number of claims or invention 12
Filing form OL
Total pages 18
Application Number 特願2018-211778 (P2018-211778)
Date of filing 平成30年11月9日(2018.11.9)
Article of public order and morality 1.テフロン
Inventor, or creator of device 【氏名】鈴木 元彦
【氏名】中村 善久
【氏名】尾崎 慎哉
Applicant 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
Representative 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
Request for examination 未請求
Theme code 2G045
F-term 2G045AA25
2G045CB30
2G045DA37
2G045FB03
Abstract 【課題】アレルギー性鼻炎症状の客観的評価や診断に有用な抗原特異的バイオマーカー及びその用途の提供を課題とする。
【解決手段】鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体の量を抗原特異的IgE抗体又は総IgA抗体の量で除した値をアレルギー性鼻炎症状のバイオマーカーとして利用する。
【選択図】なし
Scope of claims 【請求項1】
特定の抗原に起因するアレルギー性鼻炎の症状を評価するための試験方法であって、被検者から採取された鼻汁検体中の前記抗原特異的IgA抗体の量を前記抗原特異的IgE抗体又は総IgA抗体の量で除した値を指標として、アレルギー性鼻炎の重症度を評価することを特徴とする試験方法。
【請求項2】
以下のステップ(1)~(3)を含む、請求項1に記載の試験方法、
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(2)前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ、
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ。
【請求項3】
以下のステップ(1)~(3)を含む、請求項1に記載の試験方法、
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(2)前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ、
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ。
【請求項4】
重症と軽症を分ける基準値を設定し、ステップ(3)では前記値と基準値を比較して重症度が判定される、請求項2又は3に記載の試験方法。
【請求項5】
重症度が異なる複数の区分を設定し、各区分に前記値の範囲を関連付けておき、ステップ(3)では前記値が該当する区分を特定し、重症度が判定される、請求項2又は3に記載の試験方法。
【請求項6】
以下のステップ(4)及び/又は(5)を更に含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の試験方法、
(4)判定結果に基づき、被検者に対する治療の効果を評価するステップ、
(5)判定結果に基づき、被検者の治療方針を決定又は変更するステップ。
【請求項7】
前記抗原が、花粉、室内塵、ダニ、真菌、及び動物の毛又はフケからなる群より選択される、一又は二以上の抗原である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アレルギー性鼻炎の原因抗原を特定するための試験方法であって、特定の抗原を候補物質に選定し、被検者から採取された鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体の量を抗原特異的IgE抗体又は総IgA抗体の量で除した値を指標として、候補物質が原因抗原であるか評価することを特徴とする試験方法。
【請求項9】
以下のステップ(i)~(iii)を含む、請求項8に記載の試験方法、
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ、
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ。
【請求項10】
以下のステップ(i)~(iii)を含む、請求項8に記載の試験方法、
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ、
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ。
【請求項11】
ステップ(iii)において、基準値以上又は基準値を超える場合に前記候補物質が原因抗原であると判定される、請求項9又は10に記載の試験方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の試験方法に使用されるキットであって、
抗原特異的IgA抗体測定用の試薬と、抗原特異的IgE抗体測定用又は総IgA抗体測定用の試薬を含む、キット。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明はアレルギー性鼻炎バイオマーカーに関する。詳しくは、アレルギー性鼻炎症状の評価や原因抗原の特定に有用な抗原特異的バイオマーカー及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
今までアレルギー性鼻炎症状の評価方法としては、くしやみの発作回数、鼻水をかんだ回数、鼻閉にて口呼吸の有無といった自覚的症状の指標が用いられてきた。一方、客観的に評価する方法については確立していなかった。近年、血液中Eosinophilic cationic protein (ECP)がアレルギー性鼻炎症状のバイオマーカーになりうる可能性が報告されるようになった。ECPはアレルギ一反応に関与する好酸球より産生され、アレルギ一反応のバイオマーカーになる可能性がある。また、鼻症状という点より、血液中ではなく鼻汁中のECPも注目されている。
【0003】
アレルギー性鼻炎のバイオマーカーや診断技術に関する先行技術(特許文献1~3)を以下に列挙する。特許文献1は、アレルギー患者検体中の抗原特異的lgA抗体と血中lgE抗体の量を測定し、その相対関係を指標としてアレルギー症状を鑑別する技術を開示する。特許文献2は、アレルギー患者の検体中のIgE抗体やIgA抗体の量を指標としてのアレルギーワクチン接種の効果を測定する方法を開示する。特許文献3は、アレルギー患者の血液検体中の抗原特異的抗体(lgE抗体、lgA抗体、IgG抗体)の量を指標とした、スギ花粉症の診断方法を開示する。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2002-303628号公報
【特許文献2】特開2007-524906号公報
【特許文献3】特開2008-107154号公報
【0005】

【非特許文献1】Kim JH et al., Detection of Allergen Specific Antibodies From Nasal Secretion of Allergic Rhinitis Patients. Allergy Asthma Immunol Res. 2016 Jul;8(4):329-37.
【非特許文献2】Guo CL et al., Serum Eosinophil Cationic Protein Is a Useful Marker for Assessing the Efficacy of Inhaled Corticosteroid Therapy in Children with Bronchial Asthma. Tohoku J Exp Med. 2017 Aug;242(4):263-271.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の通り、アレルギー性鼻炎症状のバイオマーカーの候補としてECPが注目されている。しかしながら、アレルギー性鼻炎は様々な抗原により引き起こされるところ、ECPは全ての抗原により誘導されることから抗原特異的反応のマーカーにはなり得ない。臨床上有用且つ必要なのは抗原非特異的バイオマーカーではなく、抗原特異的バイオマーカーである。現状、アレルギー性鼻炎症状に関して、抗原特異的バイオマーカーは存在しない。そこで本発明は、アレルギー性鼻炎症状の客観的評価や診断等に有用な抗原特異的バイオマーカーを見出し、その用途等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鼻汁中IgA抗体濃度とECP濃度との関係が報告されている(例えば非特許文献1を参照。尚、血中ECP値が治療効果の評価に有用であるとの報告(非特特許文献2)もある)。実際、好酸球の分化、誘導、活性化に強く関わるIL-5を鼻腔内に投与すると、同時にlgAも産生される。さらに、好酸球の脱顆粒やECPの産生はIgEでなくIgAによって引き起こされる。その上、IgAは抗原特異的に測定することが可能である。これらの報告等を総合して考察すれば、IgA抗体がアレルギー性鼻炎症状のバイオマーカーとして有望であると考えられる。ECPと異なり抗原特異的に測定することが可能である点も、抗原特異的アレルギー性鼻炎症状のバイオマーカーとしてIgA抗体が有望であることを示唆する。そこで、鼻汁中のIgA抗体に注目し、詳細な検討を行うことにした。臨床検体を用いた各種実験の結果、鼻汁中の抗原特異的IgA抗体はそのままではアレルギー性鼻炎症状と相関を示さない一方で、鼻汁中タンパク質濃度を補正(ばらつきを修正)した場合、鼻汁中の抗原特異的IgA抗体がアレルギー性鼻炎症状と相関し、アレルギー性鼻炎症状の推測ないし判定に有用であることが判明した。具体的には、鼻汁中総lgA抗体量を基準にした値(抗原特異的IgA抗体量/総lgA抗体量)が、アレルギー性鼻炎症状とより高い相関を示した。一方、更なる検討によって、鼻汁中抗原特異的IgEを基準とした値(抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量)がアレルギー性鼻炎症状と最も高い相関を示すことが判明した。ここで、理論に拘泥する訳ではないが、総IgA抗体量は他の抗原の影響を受ける可能性がある一方、抗原特異的IgE抗体は他の抗原の影響を受けない。このことは上記の実験結果に符合するものであり、鼻汁検体中の「抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量」がより有用な指標であることを支持する。
以上の知見及び考察に基づき、以下の発明が提供される。
[1]特定の抗原に起因するアレルギー性鼻炎の症状を評価するための試験方法であって、被検者から採取された鼻汁検体中の前記抗原特異的IgA抗体の量を前記抗原特異的IgE抗体又は総IgA抗体の量で除した値を指標として、アレルギー性鼻炎の重症度を評価することを特徴とする試験方法。
[2]以下のステップ(1)~(3)を含む、[1]に記載の試験方法、
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(2)前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ、
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ。
[3]以下のステップ(1)~(3)を含む、[1]に記載の試験方法、
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(2)前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ、
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ。
[4]重症と軽症を分ける基準値を設定し、ステップ(3)では前記値と基準値を比較して重症度が判定される、[2]又は[3]に記載の試験方法。
[5]重症度が異なる複数の区分を設定し、各区分に前記値の範囲を関連付けておき、ステップ(3)では前記値が該当する区分を特定し、重症度が判定される、[2]又は[3]に記載の試験方法。
[6]以下のステップ(4)及び/又は(5)を更に含む、[2]~[5]のいずれか一項に記載の試験方法、
(4)判定結果に基づき、被検者に対する治療の効果を評価するステップ、
(5)判定結果に基づき、被検者の治療方針を決定又は変更するステップ。
[7]前記抗原が、花粉、室内塵、ダニ、真菌、及び動物の毛又はフケからなる群より選択される、一又は二以上の抗原である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]アレルギー性鼻炎の原因抗原を特定するための試験方法であって、特定の抗原を候補物質に選定し、被検者から採取された鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体の量を抗原特異的IgE抗体又は総IgA抗体の量で除した値を指標として、候補物質が原因抗原であるか評価することを特徴とする試験方法。
[9]以下のステップ(i)~(iii)を含む、[8]に記載の試験方法、
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ、
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ。
[10]以下のステップ(i)~(iii)を含む、[8]に記載の試験方法、
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、前記鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ、
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ。
[11]ステップ(iii)において、基準値以上又は基準値を超える場合に前記候補物質が原因抗原であると判定される、[9]又は[10]に記載の試験方法。
[12][1]~[11]のいずれか一項に記載の試験方法に使用されるキットであって、
抗原特異的IgA抗体測定用の試薬と、抗原特異的IgE抗体測定用又は総IgA抗体測定用の試薬を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アレルギー性鼻炎症状(横軸)と鼻汁検体中のスギ花粉抗原特異的IgA抗体量(IU/ml)(縦軸)の関係。r=-0.06、p=0.68、n=50。重症度は鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年度版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会)の重症度分類(図4)に従って判定した。以下の通り症状の程度を点数に換算し、評価に用いた。 -:0点 +(1+):1点 ++(2+):2点 +++(3+):3点 ++++(4+):4点
【図2】アレルギー性鼻炎症状(横軸)と、「鼻汁検体中のスギ花粉抗原特異的IgA抗体量(IU/ml)/鼻汁検体中の総IgA抗体量(μg/ml)」の算出値(縦軸)の関係。r=0.71、p<0.0001、n=50。重症度は鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年度版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会)の重症度分類(図4)に従って判定した。以下の通り症状の程度を点数に換算し、評価に用いた。 -:0点 +(1+):1点 ++(2+):2点 +++(3+):3点 ++++(4+):4点【発明を実施するための形態】
【0009】
1.アレルギー性鼻炎症状を評価する方法
本発明の第1の局面は、特定の抗原に起因するアレルギー性鼻炎症状を評価するための試験方法(以下、本発明の症状評価方法と呼称することがある)を提供する。本発明によれば、抗原特異的なアレルギー性鼻炎の検査が可能であり、抗原を特定した上でアレルギー性鼻炎症状を客観的に評価できる。

【0010】
本発明における抗原は、アレルギー性鼻炎の原因になり得る限りにおいて特に限定されない。抗原の例を挙げると、花粉(スギ花粉、ブタクサ花粉、カモガヤ花粉、ハルガヤ花粉、オオアワガエリ花粉、ヒノキ花粉、ヨモギ花粉、カナムグラ花粉、シラカバ花粉、ハンノキ花粉、オオバヤシャブシ花粉、オリーブ花粉等)、室内塵(ハウスダスト)、ダニ(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、アシブトコナダニ、サヤアシニクダニ、ケナガコナダニ等)、真菌(アルテルナアリア、カンジダ、アスペルギルス、クラドスポリウム、ペニシリウム、ムコール、ヘルミントスポリウム、ピティロスポリウム等)、動物(ネコ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモット、インコ、文鳥、オウム等のペット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の家畜、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、七面鳥、ウズラ等の家禽、サル、イノシシ、カラス、ハト等の野生動物等)の毛又はフケである。

【0011】
本発明の症状評価方法は、被検者から採取された鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体量を抗原特異的IgE抗体量又は総IgA抗体量で除した値を指標としてアレルギー性鼻炎の重症度を評価すること、によって特徴付けられる。言い換えれば、本発明の症状評価方法の最大の特徴は、以下の計算式(A)又は(B)(但し、式中の/は除算を表す)が与える値を指標(バイオマーカー)として利用する点にある。
(A)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体量/鼻汁検体中の抗原特異的IgE抗体量
(B)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体量/鼻汁検体中の総IgA抗体量

【0012】
好ましくは、後述の実施例に示した実験の結果を踏まえ、アレルギー性鼻炎症状をより反映する、(A)の計算式が与える値を用いる。上記の通り、総IgA抗体量は他の抗原の影響を受ける可能性がある一方、抗原特異的IgE抗体は他の抗原の影響を受けないといえる。このことは、(A)の計算式が与える値が抗原特異性の高い指標であることを支持する。

【0013】
以下、本発明の症状評価方法を実施するための具体的な操作(工程)の2つの例(態様1、態様2)を説明する。尚、態様1、2の説明の中で、上記の計算式(A)及び(B)の詳細にも言及する。

【0014】
<態様1>
この態様では以下のステップ(1)~(3)を行う。
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ
(2)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ

【0015】
ステップ(1)
ステップ(1)は被検者由来の検体を用意するステップである。被検者は特に限定されない。本発明の試験結果(アレルギー性鼻炎の重症度の客観的評価)が必要な者(典型的にはアレルギー性鼻炎の患者又はアレルギー性鼻炎の罹患が疑われる者)であれば、本発明の被検者になり得る。

【0016】
本発明では被検者由来の鼻汁を検体とする。本発明は鼻汁を検体にするため、検体の用意ないし調製が容易で、且つ血液検査に比較して格段に侵襲性が低い(非侵襲性検査)。例えば、被検者に鼻をかんでもらうことで、簡単に鼻汁を採取することができる。鼻汁は本発明の実施に先立って採取しておく。即ち、本発明は鼻汁の採取の工程(被検者に対する処置)を含むものではない。採取された鼻汁は、必要に応じて(例えば、鼻汁の粘性が高い場合、採用する測定法の測定範囲や感度等に対応させる必要がある場合など)前処理に供される。

【0017】
ステップ(2)
ステップ(1)に続くステップ(2)では鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定する。即ち、特定の抗原に対する(換言すれば、特定の抗原に特異的結合性を示す)IgA抗体とIgE抗体を測定する。上記の通り、本発明における抗原は特に限定されず、「特定の抗原」として、花粉、室内塵(ハウスダスト)、ダニ、真菌、動物の毛又はフケ等が採用される。事前の検査(例えば血液検査)や問診等によって、被検者のアレルギー性鼻炎の原因抗原が特定されている場合には、それを本発明の「特定の抗原」として採用するとよい。他方、原因抗原が特定されていない場合(予想できない場合も含む)は、上掲の各種抗原(候補抗原)の中から、特定の抗原(例えばスギ花粉)を選択すればよい。選択の際には、例えば問診の結果を踏まえて抗原を絞り込むことにしてもよい。また、複数の抗原を選択し、各々について本発明を実施してもよい。或いは、選択した複数の抗原をまとめて「特定の抗原」として本発明を実施することもできる。

【0018】
抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体は免疫学的測定法によって測定すればよい。測定の際に使用する抗原の純度は特に限定されない。従って、粗抗原を用いてこれらの抗体を測定することにしてもよい。抗原については、抗原タンパク質を含有する材料(例えばスギ花粉、ブタクサ花粉、カモガヤ花粉、ハルガヤ花粉、オオアワガエリ花粉、ヒノキ花粉、ヨモギ花粉、カナムグラ花粉、シラカバ花粉、ハンノキ花粉、オオバヤシャブシ花粉、オリーブ花粉、室内塵、真菌(菌体)を処理(例えば、破砕、抽出、精製等)して調製すればよい。既報ないし公知の方法に従って抗原を調製することができる。花粉抗原であればSuzuki M, et al. Mol Immunol 1996 33;451-60.やYasueda H, et al. J Allergy Clin Immunol 1983;71:77-86等の報告を参考にして、抗原特異的IgA抗体及び抗原特異的IgE抗体の測定に使用する抗原を調製すればよい。市販品(例えば、ITEA株式会社-東京環境アレルギー研究所が提供する日本スギ(Japanese cedar)花粉、株式会社林原が提供するJapanese Cedar Pollen Allergen, Sugi Basic Protein, Purified<日本スギ花粉抗原SBP>、Cry j1, Cedar Pollen Allergen, Purified <精製スギ花粉抗原Cry j1>、Cry j2, Cedar Pollen Allergen, Purified <精製スギ花粉抗原Cry j1>)を用いることにしてもよい。

【0019】
スギ花粉については、主要抗原としてCry j 1タンパク質とCry j 2タンパク質が知られている。これらのいずれか又は両者の混合物をスギ花粉抗原として用いることにしてもよい。この例のように、精製(精製度は問わない)された一又は二以上の抗原タンパク質をステップ(2)の抗原として用いることができる。

【0020】
抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体の測定は例えば常法で行えばよく、市販の試薬、キット等を利用してもよい。測定方法は特に限定されない。測定方法として、酵素免疫測定法(EIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光抗体法(FA)、蛍光酵素免疫測定法(FEIA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、放射免疫測定法(RIA)を例示することができる。好ましい測定法として、EIA法、ELISA法、FA法、FEIA法、FLEIA法、CLIA法、CLEIA法を挙げることができる。これらの方法によれば高感度、迅速且つ簡便に検出可能である。以下、抗原特異的IgA抗体、抗原特異的IgE抗体の測定方法(操作)の例を示す。

【0021】
(例1)
固相化抗原に対して検体を反応(接触)させた後、標識化二次抗体(抗ヒトIgA抗体又は抗ヒトIgE抗体)を反応(接触)させ、標識量を検出する。標識化二次抗体の代わりにビオチン化二次抗体を使用し、二次抗体反応後に標識化アビジンを反応させ、標識量を検出することにしてもよい。アビジン-ビオチン間の特異的結合を利用してシグナルが増強され、高感度に検出することができる(増感法)。尚、特異性の高い検出を可能にするため、好ましくは、標識化二次抗体にモノクローナル抗体を使用するとよい。

【0022】
(例2)
捕捉用抗体(抗ヒトIgA抗体又は抗ヒトIgE抗体)を結合させた固相に対して検体を反応(接触)させた後、ビオチン化抗原を反応(接触)させる。次いで標識化アビジンを反応させ、標識量を検出する。この方法もアビジン-ビオチン間の特異的結合を利用したものであり、高感度の検出を可能にする。この測定方法は特に抗原特異的IgE抗体の測定に有用である。尚、特異性の高い検出を可能にするため、好ましくは捕捉用抗体にモノクローナル抗体を使用するとよい。

【0023】
(例3)
アビジンが表面に結合した固相に対して、ビオチン化抗原と検体を反応(接触)させた後、標識化二次抗体(抗ヒトIgA抗体又は抗ヒトIgE抗体)を反応(接触)させ、標識量を検出する。この方法ではアビジン-ビオチン間の特異的結合を利用した抗原の固相化と、抗原に対する検体中の検出対象(抗原特異的IgA抗体、抗原特異的IgE抗体)の抗原への結合が同一操作内で進行する。尚、特異性の高い検出を可能にするため、好ましくは標識化二次抗体にモノクローナル抗体を使用するとよい。

【0024】
二次抗体やアビジンの標識には、測定原理に応じた標識物質が用いられる。標識物質の例を挙げると、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ等の酵素、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、オレゴングリーン等の蛍光色素、ルミノール、アクリジン色素等の化学又は生物発光化合物、3H、13C、32P、131I、125I等の放射性同位体である。

【0025】
ステップ(3)
このステップではステップ(2)の結果、即ち、検体中の抗原特異的IgA抗体量と抗原特異的IgE量を特定の計算式に代入し、得られた値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定する。具体的には計算式(但し、式中の/は除算を表す)を用いる。
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量

【0026】
本発明では、上記計算式が与える値(算出値)が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いという基準に従い、被検者のアレルギー性鼻炎の重症度を判定する。従って、本発明を実施すると、例えば、アレルギー性鼻炎の重症度(換言すれば症状の程度)が低い、高い、中程度などの判定結果が得られる。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。

【0027】
典型例の一つとしては、重症と軽症を分ける基準値(境界値)を設け、算出値と基準値を比較して重症度を判定する。この場合、例えば、「基準値を超える場合は重症」、「基準値以上の場合は重症」、「基準値未満の場合は軽症」、「基準値以下の場合は軽症」等のように判定することができる。

【0028】
より有益な判定を行うため、重症度が異なる複数のグループ(区分)を設定し、各グループに算出値の範囲を関連付けておき、算出値が該当するグループを特定することによって重症度を判定するとよい。以下に一例を示す。尚、以下の例ではグループ数を3(例1)又は4(例2)としたが、グループ数は任意である。グループ数は例えば2~7であり、好ましくは3~6である。

【0029】
(例1)
第1グループ(軽症):算出値<a
第2グループ(中等症)a≦算出値<b
第3グループ(重症・最重症)b≦算出値

【0030】
(例2)
第1グループ(軽症):算出値<A
第2グループ(中等症)A≦算出値<B
第3グループ(重症)B≦算出値<C
第4グループ(最重症)C≦算出値

【0031】
重症度の高低を分ける基準値、重症度が異なる複数のグループを設定する場合のグループ数、各グループの重症度の程度、各グループに関連付けられる算出値の範囲、グループを分ける境界値等は、複数のアレルギー性鼻炎患者を対象とした予備実験(解析)等を通して設定することができる。

【0032】
<態様2>
この態様では以下のステップ(1)~(3)を行う。
(1)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ、
(2)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ、
(3)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づきアレルギー性鼻炎の重症度を判定するステップであって、値が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いことを示すステップ

【0033】
ステップ(1)は上記態様1と同様である。ステップ(2)における抗原特異的IgA抗体の測定についても態様1の欄で述べた通りである。一方、総IgA抗体は常法によって測定すればよく、測定方法は特に限定されない。総IgA抗体の測定方法として、酵素免疫測定法(EIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光抗体法(FA)、蛍光酵素免疫測定法(FEIA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、放射免疫測定法(RIA)を例示することができる。尚、総IgA抗体の測定方法(操作)の例を以下に示す。

【0034】
捕捉用抗体(抗ヒトIgA抗体)を結合させた固相に対して検体を反応(接触)させた後、標識化二次抗体(抗ヒトIgA抗体)を反応(接触)させ、標識量を検出する。標識化二次抗体の代わりにビオチン化二次抗体を使用し、二次抗体反応後に標識化アビジンを反応させ、標識量を検出することにしてもよい。アビジン-ビオチン間の特異的結合を利用してシグナルが増強され、高感度に検出することができる(増感法)。尚、特異性の高い検出を可能にするため、好ましくは、捕捉用抗体と標識化二次抗体の両方又は片方にモノクローナル抗体を使用するとよい。

【0035】
この態様ではステップ(3)の判定に以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す)を用い、計算式が与える値(算出値)が大きいほどアレルギー性鼻炎の重症度が高いという基準に従い、被検者のアレルギー性鼻炎の重症度を判定する。尚、算出値に基づく判定の方法や手順等は態様1と同様であるため、その説明を省略する。
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量

【0036】
本発明の症状評価方法の典型的な利用形態の例(利用形態1、2、3)を以下に示す。
(利用形態1)
外来を受診したアレルギー性鼻炎患者の鼻汁を採取する。採取した鼻汁を検体として本発明の症状評価方法を実施し(例えば、スギ花粉症患者であればスギ花粉を抗原として用いる)、アレルギー性鼻炎の重症度を決定する。決定された重症度に基づき治療法(薬物療法、手術療法等)を選択・決定するとともに、治療方針の詳細を決定する。

【0037】
(利用形態2)
治療開始後の特定の時点(薬物療法であれば例えば、初回投与後1週、初回投与後2週、初回投与後1月、初回投与後2月等、手術療法であれば例えば、術後1日、術後3日、術後1週、術後1月等)で、アレルギー性鼻炎患者の鼻汁を採取する。本発明の症状評価方法を実施し、治療効果を評価する。評価結果に基づき、以降の治療方針(治療の継続、変更等)を決定する。

【0038】
(利用形態3)
利用形態1と利用形態2の組合せ。即ち、治療方針の決定と治療効果の評価及びその後の治療方針の決定に本発明の症状評価方法を利用する。

【0039】
以上の利用形態1~3からも明らかな通り、本発明の症状評価方法が与える情報(判定結果)は例えば、重症度の客観的評価(例えば、治療方針(薬物療法、手術療法等)決定前の評価、治験参加前の評価に利用できる)、薬物療法(内服薬や点鼻薬等)の治療効果の客観的評価、手術療法の治療効果の客観的評価、免疫療法(皮下免疫療法、舌下免疫療法)の治療効果の客観的評価に利用できる。換言すれば、本発明の症状評価方法は、臨床上、重要かつ有益な情報、特に、治療方針の検討に有用な情報を提供する。そこで本発明の一態様では上記(1)~(3)のステップに加え、判定結果に基づき、被検者に対する治療の効果を評価するステップ(ステップ(4))を行う。別の一態様では、判定結果に基づき、被検者の治療方針を決定又は変更するステップ(ステップ(5))を行う。更に別の態様では当該ステップ(4)及び(5)を併用する。治療方針は、判定結果に応じて設計ないし選択される。本発明によれば、客観的評価に基づき治療方針を立てることができることから、患者毎により適切な治療方針を提示することが可能となる。その結果、治療効果の増大ないし最大化を図ることができる。また、不要な治療を行わずに済み、患者の負担軽減、副作用の回避、医療費削減等の利益が得られる。治療開始後、或いは治療方針決定後に本発明を実施した場合には、判定結果を治療方針の変更(見直し)に利用することができる。

【0040】
2.アレルギー性鼻炎の原因抗原を特定する方法
本発明の第2の局面は、アレルギー性鼻炎の原因抗原を特定するための試験方法(以下、「本発明の抗原特定方法」と呼称することがある)に関する。本発明の抗原特定方法によれば、被検者(患者)のアレルギー性鼻炎を引き起こしている抗原を客観的指標に基づき特定することが可能となる。本発明の抗原特定方法では特定の抗原を候補物質に選定し、被検者から採取された鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体(換言すれば、候補物質特異的IgA抗体)の量を抗原特異的IgE抗体(換言すれば、候補物質特異的IgE抗体)又は総IgA抗体の量で除した値を指標として、候補物質(特定の抗原)が原因抗原であるか評価される。即ち、第1の局面の症状評価方法と同様の指標、具体的には以下の計算式(A)又は(B)(但し、式中の/は除算を表す。)が与える値を評価に用いる。尚、「抗原」は、候補物質に選定された特定の抗原である。
(A)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体量/鼻汁検体中の抗原特異的IgE抗体量
(B)鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体量/鼻汁検体中の総IgA抗体量

【0041】
好ましくは、アレルギー性鼻炎の症状をより反映する、(A)の計算式が与える値を用いる。

【0042】
以下、本発明の抗原特定方法を実施するための具体的な操作(工程)の2つの例(態様1、態様2)を説明する。

【0043】
<態様1>
この態様では以下のステップ(i)~(iii)を行う。
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定するステップ
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ

【0044】
ステップ(i)は第1の局面(症状評価方法)におけるステップ(1)と同様であるため、その説明を省略する。ステップ(ii)では特定の抗原を候補物質に選定した上で、鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と抗原特異的IgE抗体を測定する。即ち、特定の抗原である候補物質に対するIgA抗体とIgE抗体を測定する。アレルギー性鼻炎の原因になり得る各種抗原の中から候補物質が選定される。換言すれば、第1の局面で言及した、花粉、室内塵(ハウスダスト)、ダニ、真菌、動物の毛又はフケ等の抗原が候補物質となり得る。抗原の詳細については、第1の局面の対応する説明が援用される。また、抗原特異的IgA抗体及び抗原特異的IgE抗体の測定方法は第1の局面の場合と同様であるため、その説明を省略する。

【0045】
ステップ(iii)ではステップ(ii)の結果、即ち、検体中の抗原特異的IgA抗体量と抗原特異的IgE量を特定の計算式に代入し、得られた値に基づき候補物質を評価する。この態様では以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す)を用いる。
抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量

【0046】
本発明では、上記計算式が与える値(算出値)が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いという基準に従い、候補物質が原因抗原であるか評価する。従って、本発明を実施すると例えば、候補物質が原因抗原である可能性は低い、高い、中程度などの判定結果が得られる。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。

【0047】
典型例の一つとしては、候補物質を原因抗原であると特定する基準値(境界値)を設け、例えば、基準値以上又は基準値を超える場合に「候補物質が原因抗原である」と判定し、基準値未満又は基準値以下の場合には「候補物質が原因抗原ではない」と判定する。このような定性的な判定ではなく、第1の局面の場合と同様に、原因抗原である可能性の程度(例えばパーセンテージ)が異なる複数のグループ(区分)を設定し、各グループに算出値の範囲を関連付けておき、算出値が該当するグループを特定することにしてもよい。この場合には、原因抗原である可能性が例えばパーセンテージ(具体的には10%、20%、50%、80%等)で得られることになる。

【0048】
<態様2>
この態様では以下のステップ(i)~(iii)を行う。
(i)被検者から採取された鼻汁検体を用意するステップ
(ii)特定の抗原を候補物質に選定し、鼻汁検体中の抗原特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定するステップ
(iii)以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す):
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量
が与える値に基づき候補物質が原因抗原であるか判定するステップであって、値が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いことを示すステップ

【0049】
ステップ(i)は上記態様1と同様である。ステップ(ii)では特定の抗原を候補物質に選定した上で、鼻汁検体中の候補物質特異的IgA抗体と総IgA抗体を測定する。抗原特異的IgA抗体及び総IgA抗体の測定方法は第1の局面の場合と同様であるため、その説明を省略する。

【0050】
ステップ(iii)ではステップ(ii)の結果、即ち、検体中の抗原特異的IgA抗体量と総IgA量を特定の計算式に代入し、得られた値に基づき候補物質を評価する。この態様ではステップ(iii)の判定に以下の計算式(但し、式中の/は除算を表す)を用い、計算式が与える値(算出値)が大きいほど候補物質が原因抗原である確率が高いという基準に従い、候補物質が原因抗原であるか評価する。尚、算出値に基づく評価の方法や手順等は態様1と同様であるため、その説明を省略する。
抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量

【0051】
3.アレルギー性鼻炎の検査キット
本発明は、本発明の試験方法(第1の局面の症状評価方法、第2の局面の抗原特定方法)を簡便に行うためのキットも提供する。本発明のキットは必須の構成要素として二つの試薬、即ち、抗原特異的IgA抗体測定用の試薬(試薬1)と、抗原特異的IgE抗体測定用又は総IgA抗体測定用の試薬(試薬2)を含む。試薬2として抗原特異的IgE抗体測定用試薬を採用した場合、計算式「抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE抗体量」が与える値を指標としたキット、即ち、第1の局面の態様1と第2の局面の態様1に適したキットになる。他方、試薬2として総IgA抗体測定用試薬を採用した場合、計算式「抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量」が与える値を指標としたキット、即ち、第1の局面の態様2と第2の局面の態様2に適したキットになる。

【0052】
抗原特異的IgA抗体測定用の試薬(試薬1)の例は、捕捉用抗体(抗ヒトIgA抗体)、抗原、標識化二次抗体(標識化抗ヒトIgA抗体)、ビオチン化二次抗体(ビオチン化抗IgA抗体)、標識化アビジン、固相(マイクロウェルプレート、ビーズ等)、ブロッキング試薬、洗浄液、緩衝液、発色試薬(酵素の基質等)、発色反応停止液、陰性対照鼻汁、陽性対照鼻汁である。好ましくは、試薬1又はその一部として、以下の(1)~(4)のいずれかがキットに含まれる。
(1)抗原(固相化されていてもよい)と標識化二次抗体(好ましくは標識化モノクローナル抗ヒトIgA抗体)の組合せ
(2)抗原(固相化されていてもよい)、ビオチン化二次抗体(好ましくはビオチン化モノクローナル抗ヒトIgA抗体)、及び標識化アビジンの組合せ
(3)捕捉用抗体(固相化されていてもよい。好ましくはモノクローナル抗ヒトIgA抗体)、ビオチン化抗原、及び標識化アビジンの組合せ
(4)固相化アビジン、ビオチン化抗原、及び標識化二次抗体(好ましくは標識化モノクローナル抗ヒトIgA抗体)の組合せ

【0053】
抗原特異的IgE抗体測定用の試薬(試薬2の一態様)の例は、捕捉用抗体(抗ヒトIgE抗体)、抗原、標識化二次抗体(標識化抗ヒトIgE抗体)、ビオチン化二次抗体(ビオチン化抗IgE抗体)、標識化アビジン、固相(マイクロウェルプレート、ビーズ等)、ブロッキング試薬、洗浄液、緩衝液、発色試薬(酵素の基質等)、発色反応停止液、陰性対照鼻汁、陽性対照鼻汁である。好ましくは、試薬2又はその一部として、以下の(1)~(4)のいずれかがキットに含まれる。
(1)抗原(固相化されていてもよい)と標識化二次抗体(好ましくは標識化モノクローナル抗ヒトIgE抗体)の組合せ
(2)抗原(固相化されていてもよい)、ビオチン化二次抗体(好ましくはビオチン化モノクローナル抗ヒトIgE抗体)、及び標識化アビジンの組合せ
(3)捕捉用抗体(固相化されていてもよい。好ましくはモノクローナル抗ヒトIgE抗体)、ビオチン化抗原、及び標識化アビジンの組合せ
(4)固相化アビジン、ビオチン化抗原、及び標識化二次抗体(好ましくは標識化モノクローナル抗ヒトIgE抗体)の組合せ

【0054】
総IgA抗体測定用の試薬(試薬2の別の態様)の例は、捕捉用抗体(抗ヒトIgA抗体)、標識化二次抗体(標識化抗ヒトIgA抗体)、ビオチン化二次抗体(ビオチン化抗IgA抗体体)、標識化アビジン、固相(マイクロウェルプレート、ビーズ等)、ブロッキング試薬、浄液、緩衝液、発色試薬(酵素の基質等)、発色反応停止液、陰性対照鼻汁、陽性対照鼻汁である。好ましくは、試薬2又はその一部として、以下の(1)又は(2)のいずれかがキットに含まれる。
(1)捕捉用抗体(固相化されていてもよい。好ましくはモノクローナル抗ヒトIgA抗体)と標識化二次抗体(好ましくは標識化モノクローナル抗ヒトIgA抗体)の組合せ
(2)捕捉用抗体(固相化されていてもよい。好ましくはモノクローナル抗ヒトIgA抗体)、ビオチン化二次抗体(好ましくはビオチン化モノクローナル抗ヒトIgA抗体)、及び標識化アビジンの組合せ

【0055】
複数の抗原に関して検査可能なキットに構成することもできる。複数の抗原に関して検査可能なキットにする場合、抗原毎に第1試薬と第2試薬を用意し、それらをキットの構成要素にすればよい。

【0056】
上記の試薬等の他、各操作・反応に必要な各種試薬及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置など)をキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0057】
アレルギー性鼻炎の抗原特異的バイオマーカーの創出を目指し、以下の検討を行った。
1.スギ花粉抗原の調製
既報(Suzuki M, et al. Mol Immunol 1996 33;451-60.及びYasueda H, et al. J Allergy Clin Immunol 1983;71:77-86)の方法に準じ、スギ花粉抗原を調製した。概要を説明すると、まず、スギ花粉(4g)を3回ジエチルエーテルで脱脂した後、室温で一晩乾燥させた。次に、室温下、テフロン製の乳棒で均質化した後、、60mLの10mMTris-HCLpH7.8に溶解し、4℃の状態で1時間攪拌した。その後、12000gで20分間、遠心処理した。上清を採取し、1M Tris-HCl (pH7.8)に溶解し、使用時まで保存した。
【実施例】
【0058】
2.鼻汁検体中の抗体の測定及び評価
2-1.抗原特異的IgA抗体の測定
以下の手順に従い、ELISAにて鼻汁検体中の抗原(スギ花粉抗原)特異的IgA抗体を測定した。
(1) スギ花粉抗原を96孔プレートの各ウェルにコートする。
(2) 非特異的反応を防ぐためにBSAでブロッキングする。
(3) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(4) 検体(鼻汁)を添加する。
(5) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(6) モノクローナル抗ヒトIgA抗体-ペルオキシダーゼを添加する。
(7) 各ウェルをPBSで5回洗浄する。
(8) TMB microwell peroxidase substrate system (KPL, Gaithersburg, アメリカ)を添加する。
(9) 450nmで吸光度を測定する。
【実施例】
【0059】
2-2.抗原特異的IgE抗体の測定
以下の手順に従い、ELISAにて鼻汁検体中の抗原(スギ花粉抗原)特異的IgE抗体を測定した。
(1) モノクローナル抗IgE抗体(Yamasa, Tokyo)を96孔プレートの各ウェルにコートする。
(2) 非特異的反応を防ぐためにウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングする。
(3) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(4) 検体(鼻汁)を添加する。
(5) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(6) ビオチン化抗原(スギ花粉抗原)を添加する。
(7) 各ウェルをPBSで3回洗浄する
(8) アビジン-ペルオキシダーゼを添加する。
(9) 5回PBSで洗浄する。
(10) TMB microwell peroxidase substrate system (KPL, Gaithersburg, アメリカ)を添加する。
(11) 450nmで吸光度を測定する。
【実施例】
【0060】
2-3.総IgA抗体の測定
以下の手順に従い、ELISAにて鼻汁検体中の総IgA抗体を測定した。
(1) モノクローナル抗ヒトIgA抗体を96孔プレートの各ウェルにコートする。
(2) 非特異的反応を防ぐためにBSAでブロッキングする。
(3) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(4) 検体(鼻汁)を添加する。
(5) 各ウェルをPBSで3回洗浄する。
(6) モノクローナル抗ヒトIgA抗体-ペルオキシダーゼを添加する。
(7) 各ウェルをPBSで5回洗浄する。
(8) TMB microwell peroxidase substrate system (KPL, Gaithersburg, アメリカ)を添加する。
(9) 450nmで吸光度を測定する。
尚、検体の代わりに精製ヒトIgA抗体を添加した場合の吸光度を用い、濃度曲線を作成した。
【実施例】
【0061】
2-4.抗原特異的IgA抗体量と総IgA抗体量を用いた評価
外来アレルギー性鼻炎患者50名について、鼻汁検体を採取し、上記の方法で抗原特異的IgA抗体量と総IgA量を測定した。患者毎、「抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量」の値を算出し、算出値と重症度との関係(相関)を評価した。重症度は鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年度版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会)の重症度分類(図4)に従って判定し、以下の通り症状の程度を点数に換算した。統計解析では、Pearsonの相関係数(Pearson's product moment correlation coefficient with a two-tailed P-value.)にて相関を検定した。尚、無症状群20例を比較対照(コントロール)とした。
程度:点数
-:0点
+(1+):1点
++(2+):2点
+++(3+):3点
++++(4+):4点
【実施例】
【0062】
評価結果を図1、2のグラフに示す。抗原特異的IgA抗体量はそのままでは症状との相関を示さないが(図1)、それを総IgA抗体量で除した値(鼻汁中タンパク質濃度のばらつきも補正されることになる)は症状と高い相関(r=0.71、p値<0.0001)を示した(図2)。即ち、鼻汁を検体とし、計算式「抗原特異的IgA抗体量/総IgA抗体量」で算出する値は、アレルギー性鼻炎の症状を抗原特異的に推定ないし判定するためのバイオマーカーとして有用であることが判明した。
【実施例】
【0063】
無症状群20例の算出値(0.003~最高0.039)の平均は0.018 ± 0.002(標準誤差)であった。この結果も踏まえ、例えば、アレルギー鼻炎の症状無(正常)とアレルギー鼻炎の症状有(異常)の境界を0.1とし、0.1未満を正常、0.1以上を異常と判定することができる。3段階での判定を行うのであれば、例えば、0.1以上1.5未満を軽症、1.5以上2.0未満を中等症、2.0以上を重症と判定することができる。
【実施例】
【0064】
2-5.抗原特異的IgA抗体量と抗原特異的IgE抗体量を用いた評価
上記の評価(2-4.)の際に採取した各患者の鼻汁検体について、上記の方法で抗原特異的IgA抗体量と抗原特異的IgE量を測定した。患者毎、「抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE量」の値を算出し、算出値と重症度との関係(相関)を評価した。重症度の判定方法、比較対照等は上記の評価(2-4.)の場合と同様とした。
【実施例】
【0065】
評価結果を図3のグラフに示す。「抗原特異的IgA抗体量/抗原特異的IgE量」の算出値は症状と極めて高い相関(r=0.93、p値<0.0001)を示した(図3)。即ち、鼻汁を検体とし、計算式「抗原特異的IgA抗体量は/抗原特異的IgE抗体量」で算出する値は、アレルギー性鼻炎の症状を抗原特異的に推定ないし判定するためのバイオマーカーとして極めて有用であることが判明した。
【実施例】
【0066】
無症状群20例の算出値(0.008~最高0.093)の平均は0.052 ± 0.006(標準誤差)であった。この結果も踏まえ、例えば、アレルギー鼻炎の症状無(正常)とアレルギー鼻炎の症状有(異常)との境界を0.4とし、0.4未満を正常、0.4以上を異常と判定することができる。3段階での判定を行うのであれば、例えば、0.4以上7.5未満を軽症、7.5以上40.0未満を中等症、40.0以上を重症と判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によればアレルギー性鼻炎の重症度を客観的に評価することができ、より適切な治療方針の決定等が可能になる。治験等の臨床研究では治療薬を客観的に評価する必要があるが、その際にも本発明は有用である。一方、唯一の根治療法である免疫療法(減感作療法)では数年以上といった長期間の治療が必要となるが、免疫療法が有効な症例と有効でない症例が存在することが以前より指摘されており、治療途中での治療効果の客観的評価が必要とされていた。また、免疫療法は抗原特異的治療法であり、抗原特異的に治療効果を評価する必要性があった。抗原特異的なアレルギー性鼻炎症状の評価を可能にする本発明は、免疫療法を継続すべきか否かを判断する際の有用な材料(判断材料)を提供する。例えば、数年以上施行することになる免疫療法について、まずは短期間施行することを患者に提案するといった対応が可能になり、根治療法にもかかわらず普及していない免疫療法の普及を進めることができる。本発明が臨床応用されれば治療評価が画期的に進むことが予想される。即ち、本発明は、臨床治療の方針決定に大きな貢献が期待されるものである。
【0068】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3