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Specification :メタン菌を用いた酸化鉄からのGreigite生産

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第6381263号 (P6381263)
Publication number 特開2015-202063 (P2015-202063A)
Date of registration 平成30年8月10日(2018.8.10)
Date of issue 平成30年8月29日(2018.8.29)
Date of publication of application 平成27年11月16日(2015.11.16)
Title of the invention, or title of the device メタン菌を用いた酸化鉄からのGreigite生産
IPC (International Patent Classification) C12P   3/00        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI (File Index) C12P 3/00 Z
C12R 1:01
Number of claims or invention 3
Total pages 11
Application Number 特願2014-082107 (P2014-082107)
Date of filing 平成26年4月11日(2014.4.11)
Exceptions to lack of novelty of invention 特許法第30条第2項適用 掲載アドレス:http://www.extremophiles.jp/nenkai/2013/abst13.php 掲載日 :平成25年10月16日
特許法第30条第2項適用 研究集会名:第14回極限環境生物学会年会 開催日 :平成25年10月26日~27日
特許法第30条第2項適用 刊行物名 :The International Biogeoscience Conference 2013 Nagoya,Japan,Program 発行日 :平成25年11月1日 発行者 :日本地球化学会
特許法第30条第2項適用 研究集会名:The International Biogeoscience Conference 2013 Nagoya,Japan 開催日 :平成25年11月1日~4日
Date of request for substantive examination 平成29年3月3日(2017.3.3)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
Inventor, or creator of device 【氏名】桑原 朋彦
【氏名】五十嵐 健輔
【氏名】山村 泰久
【氏名】安達 卓也
Representative 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100169579、【弁理士】、【氏名又は名称】村林 望
Examiner 【審査官】植原 克典
Document or reference Science,2011年,vol.334,p.1720-1723
Journal of Hazardous Materials,2010年,vol.175,p.1062-1067
Field of search C12P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
Scope of claims 【請求項1】
イオウ還元能を有するメタン菌を、元素状イオウと酸化鉄との存在下で培養する工程を含む、Greigiteの製造方法。
【請求項2】
イオウ還元能を有するメタン菌がMethanocaldococcus jannaschiiに属する微生物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酸化鉄がヘマタイト又はアモルファス酸化鉄である、請求項1又は2記載の方法。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイオウ還元能を有するメタン菌を利用して酸化鉄からGreigite(「グレイジャイト」又は「グライガイト」とも称される)を合成し、精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Greigite(Fe(III)2Fe(II)S4)は混合原子価硫化鉄であり、フェリ磁性を有する。Greigiteは、その結晶の1/4セル構造が(FeS2)2(Fe4S4)で表わされるように、その内部に生命にとって必須な[4Fe4S]クラスター様の構造を有し、地球生命の化学進化(非特許文献1)に深くかかわった鉱物の1つと認識されている(非特許文献2)。[4Fe4S]クラスターは電子伝達成分のみならず、酵素の活性中心として(非特許文献3)、あるいは翻訳制御因子(非特許文献4)、転写制御因子(非特許文献5)、あるいはラジカル利用タンパク質(非特許文献6及び7)の構成要素として重要な機能を担っている。
【0003】
Greigiteは、代替医療の1つであるアーユルヴェーダセラピーに用いられる、インド黒塩の構成物としても知られる(http://encyclopedia.thefreedictionary.com/greigite)。現在、使用されている鉄剤・鉄サプリメントは可溶性であり、これらを過剰に摂取すると活性酸素を発生させる危険性が指摘されている。これに対し、Greigiteは結晶構造をもつゆえに難溶性で活性酸素を発生させにくく、また、上記のように薬効が期待されることから、大量生産法が開発されれば、将来、鉄剤・鉄サプリメントとして有用になる可能性を有している。
【0004】
Greigiteは、多様な化学的方法により合成される(非特許文献8)。しかしながら、いずれの方法も、pHの異なる2液の混合(非特許文献9及び10)や硫化水素(猛毒ガス)の使用(非特許文献11)等、合成には極度の注意を要する。二価鉄溶液(酸性)とpolysulfide溶液(アルカリ性)を混合する方法(非特許文献9)においては、Greigiteは、Mackinawite(Fe(II)S)、Greigite、Pyrite(Fe(II)S2)をこの順で生じる、polysulfide pathwayの中間体として合成される。polysulfide pathwayでは、Mackinawiteが全てGreigiteに変換しないうちにPyriteが生成する(非特許文献12)。この事実はGreigiteのみの合成が困難であることを示唆している。合成産物からアモルファス硫化鉄や他鉱物を除いてGreigiteを精製しようとする試みは未だにない。
【0005】
生物学的なGreigite合成に関しては、走磁性細菌による細胞内合成(非特許文献13)や硫酸還元菌による細胞外合成の報告がある(非特許文献14~17)。しかしながら、細胞内合成は大量生産には適さない。また、硫酸還元菌によってGreigiteは他鉱物の副産物として形成されるが、増殖が遅いため形成には2週間以上の時間を必要とする。
【0006】
このように、安全に且つ大量にGreigiteを生産することができるGreigiteの製造方法は、従来において知られていなかった。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Wachtershauser G (2006) From volcanic origins of chemoautotrophic life to Bacteria, Archaea and Eukarya. Phil Trans R Soc B 361:1787-1808
【非特許文献2】Russell MJ, Martin W (2004) The rocky roots of the acetyl-CoA pathway. Trends Biochem Sci 29:358-363
【非特許文献3】Lazazzera BA, Beinert H, Khoroshilova N, Kennedy MC, Kiley PJ (1996) DNA binding and dimerization of the Fe-S-containing FNR protein from Escherichia coli are regulated by oxygen. J Biol Chem 271:2762-2768
【非特許文献4】Rouault T, Haile D, Downey W, Philpott C, Tang C, Samaniego F, Chin J, Paul I, Orloff D, Harford J, Klausner R (1992) An iron-sulfur cluster plays a novel regulatory role in the iron-responsive element binding protein. Biometals 5:131-140
【非特許文献5】Spiro S, Guest JR (1990) FNR and its role in oxygen-regulated gene expression in Escherichia coli. FEMS Microbiol Lett 75:399-428
【非特許文献6】Staples CR, Ameyibor E, Fu W, Gardet-Salvi L, Stritt-Etter A-L, Schurmann P, Knaff DB, Johnson MK (1996) The function and properties of the iron-sulfur center in spinach ferredoxin:thioredoxin reductase: a new biological role for iron-sulfur clusters. Biochemistry 35:11425-11434
【非特許文献7】Kamat SS, Williams HJ, Dangott LJ, Chakrabarti M, Raushel FM (2013) The catalytic mechanism for aerobic formation of methane by bacteria. Nature 497:132-136
【非特許文献8】Rickard D, Luther GW (2007) Chemistry of iron sulfides. Chem Rev 107:514-562
【非特許文献9】Wada H (1977) The synthesis of greigite from a polysulfide solution at about 100 ℃. Bull Chem Soc Japan 50:2615-2617
【非特許文献10】Dekkers MJ, Passier HF, Schoonen MAA (2000) Magnetic properties of hydrothermally synthesized greigite (Fe3S4)-II. High- and low-temperature characteristics. Geophys J Int 141:809-819
【非特許文献11】Berner R (1964) Iron sulfides formed from aqueous solution at low temperatures and atmospheric pressure. J Geol 72:293-306
【非特許文献12】Hunger S, Benning L (2007) Greigite: a true intermediate on the polysulfide pathway to pyrite. Geochem Trans 8:1
【非特許文献13】Lefevre CT, Menguy N, Abreu F, Lins U, Posfai Mtl, Prozorov T, Pignol D, Frankel RB, Bazylinski DA (2011) A cultured greigite-producing magnetotactic bacterium in a novel group of sulfate-reducing bacteria. Science 334:1720-1723
【非特許文献14】Herbert RB, Benner SG, Pratt AR, Blowes DW (1998) Surface chemistry and morphology of poorly crystalline iron sulfides precipitated in media containing sulfate-reducing bacteria. Chem Geol 144:87-97
【非特許文献15】Lin S, Krause F, Voordouw G (2009) Transformation of iron sulfide to greigite by nitrite produced by oil field bacteria. Appl Microbiol Biotechnol 83:369-376
【非特許文献16】Gramp JP, Bigham JM, Jones FS, Tuovinen OH (2010) Formation of Fe-sulfides in cultures of sulfate-reducing bacteria. J Hazard Mater 175:1062-1067
【非特許文献17】Bertel D, Peck J, Quick TJ, Senko JM (2012) Iron transformations induced by an acid-tolerant Desulfosporosinus species. Appl Environ Microbiol 78:81-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した実情に鑑み、本発明は、安全に且つ大量にGreigiteを生産することができるGreigiteの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、イオウ還元能を有するメタン菌を、元素状イオウと酸化鉄とを含む培地において培養すると、Greigiteが合成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)イオウ還元能を有するメタン菌を、元素状イオウと酸化鉄との存在下で培養する工程を含む、Greigiteの製造方法。
(2)イオウ還元能を有するメタン菌がMethanocaldococcus jannaschiiに属する微生物である、(1)記載の方法。
(3)酸化鉄がヘマタイト又はアモルファス酸化鉄である、(1)又は(2)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄サプリメント又は薬剤成分として有用なGreigiteを安全且つ大量に短期間(例えば2日以内)で生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】Mc+S0+Hematite培地を用いたM. jannaschiiの培養の様子を示す写真である。16.5時間培養後、全ての鉄成分は黒色に変色しフェリ磁性を示した(セラム瓶間の銀色の物質はサマリウムコバルト磁石である:左のセラム瓶は菌の接種有であり、右のセラム瓶は接種無しのコントロールである)。
【図2】培養沈殿のX線回折スペクトルである。M. jannaschiiを記載の培地を用いて記載の時間培養し、沈殿をXRD解析した。A:Mc+S0+FeO(OH)培地、48時間、B:Mc+S0+Hematite培地、48時間、C:Mc+S0+Hematite培地、96 時間。■:Hematite、▼:Greigite、●:Pyriteのピーク。
【図3】M. jannaschiiをMc+S0+Hematite培地で32時間培養したときの沈殿のFE-SEM像である。板状物質にM. jannaschiiが付着している。球状の物体及びそれらの間の橋渡しは、それぞれ、M. jannaschii及びそのべん毛による細胞間ブリッジ(Igarashi K, Kuwabara T (2014) Fe(III) oxides protect fermenter-methanogen syntrophy against interruption by elemental sulfur via stiffening of Fe(II) sulfides produced by sulfur respiration. Extremophiles 18:351-361)である。バー:1μm。
【図4】M. jannaschiiをMc+S0+FeO(OH)培地で48時間培養してできた沈殿を0.5 N塩酸で洗浄した標品のXRDスペクトルである。▼:Greigiteのピーク。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るGreigiteの製造方法(以下、「本方法」と称する)は、イオウ還元能を有するメタン菌を、元素状イオウと酸化鉄との存在下で培養する工程を含む。本方法では、当該メタン菌のイオウ還元作用により元素状イオウからsulfideが生成され、当該sulfideが酸化鉄を還元することでGreigiteが生成されることとなる。

【0014】
ここで、イオウ還元能を有するメタン菌は、元素状イオウを還元し、sulfideを生成するメタン菌を意味する。当該メタン菌としては、例えばMethanocaldococcus属やMethanopyrus属に属する超好熱性メタン菌が挙げられる。特にMethanocaldococcus jannaschiiを使用することが好ましい。Methanocaldococcus jannaschiiとしては、特に限定されず、寄託機関に保存された公知の株を使用することができるし、また公知の株から派生した変異株を使用することもできる。Methanocaldococcus jannaschiiの公知の株としては、例えば独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから入手可能なMethanocaldococcus jannaschii JCM10045T株を挙げることができる。

【0015】
一方、本方法において使用する酸化鉄としては、例えばヘマタイト(α-Fe2O3)及びアモルファス酸化鉄(FeO(OH))が挙げられる。

【0016】
また、本方法における培養に使用する培地としては、メタン菌が生育し、且つGreigiteが生成できる培地であれば特に限定されないが、下記の表1に示す組成を有するMc培地等が挙げられる。

【0017】
本方法では、イオウ還元能を有するメタン菌を、元素状イオウと酸化鉄とを含む培地において培養する。培地におけるイオウ還元能を有するメタン菌の菌密度としては、例えば1×106~1×108 cells ml-1が挙げられる。また、培地における元素状イオウの濃度は、例えば60~350 mMが挙げられる。さらに、培地における酸化鉄の濃度は、例えば8~30 mMが挙げられる。培地のpH条件としては、例えばpH 5.4~6.0が挙げられる。また、培養は完全嫌気条件下で行われなければならない。培養時間としては、鉄成分が赤茶色から黒色に変色して磁石に引かれる(すなわち、Greigiteが生成される)のに十分な時間であればよく、例えば16~48時間が挙げられる。このような培養条件下でイオウ還元能を有するメタン菌を培養することで、Greigiteを生成することができる。

【0018】
生成されたGreigiteはフェリ磁性を有することから、培養液より磁石を使用して精製することができる。また、培養液中の沈殿物(Greigite含有)を手回し遠心分離に供して遊離の元素状イオウを除き、例えば0.5 Nの塩酸で処理してアモルファス硫化鉄を除けば、得られた沈殿を乾燥させることで、乾燥品としてGreigiteを精製することができる。

【0019】
以上に説明する本方法によれば、気相に高濃度の硫化水素を放出させることなく、安全に且つ短期間でGreigiteを製造することができる。また、本方法により得られるGreigiteは、二価の鉄を含みながら胃液の塩酸濃度(最高で0.5% ≒ 0.16 N)以上の濃度の塩酸に難溶であり、鉄サプリメント又は薬剤成分として経口摂取しても、活性酸素発生の危険性が少ない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
〔材料及び方法〕
1. 培地
Mc培地は、Japan Collection of Microorganisms(JCM)のJCM 232培地(http://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm_grmd?GRMD=232&MD_NAME=)からNaHCO3を除いたものである。Mc培地は、JCM 232培地作成法に準拠して作製された。Mc培地の培地組成を下記の表1に示す。
【実施例】
【0022】
【表1】
JP0006381263B2_000002t.gif
【実施例】
【0023】
元素状イオウを6.24 Mになるようにスターラーバーを用いて蒸留水に懸濁し、スターラーバーごと110℃で30分オートクレーブした。翌日、再度、同様にオートクレーブした後、スターラーで攪拌してイオウ粒を細かくし、室温で保存した。このようにして、イオウに結合しているかもしれない雑菌の胞子を最初のオートクレーブで活性化させて発芽させ、二回目のオートクレーブで滅菌した。
【実施例】
【0024】
Hematite(α-Fe2O3;純度>99.9%, 和光純薬, 大阪)を蒸留水で洗った後、0.6 Mになるようにスターラーバーで攪拌しつつ蒸留水に懸濁した。アモルファス酸化鉄(FeO(OH))は(Lovley DR, Phillips EJP (1986) Organic matter mineralization with reduction of ferric iron in anaerobic sediments. Appl Environ Microbiol 51:683-689)の方法で調製し、蒸留水で6回洗浄した後、0.6 Mになるようにスターラーバーで攪拌しつつ蒸留水に懸濁した。いずれの酸化鉄もスターラーバーごと121℃で20分間オートクレーブし、室温で保存した。
【実施例】
【0025】
次いで、クリーンベンチにおいて68 ml容のセラム瓶内で培地要素を無菌的に混合して培地を作製した。即ち、12 mlのMc培地(Na2Sを除く)に、0.6 mlの元素状イオウ懸濁液及び0.6 mlのHematite又はFeO(OH)懸濁液(いずれもスターラーバーで攪拌しつつ分取)を加え、それぞれ、Mc+S0+Hematite培地又はMc+S0+FeO(OH)培地(S0は元素状イオウを表す)とした。
【実施例】
【0026】
2. 培養
水素栄養性超好熱性メタン菌Methanocaldococcus jannaschii(M. jannaschii, JCMカタログ番号:10045T;Jones WJ, Leigh JA, Mayer F, Woese CR, Wolfe RS (1983) Methanococcus jannaschii sp. nov., an extremely thermophilic methanogen from a submarine hydrothermal vent. Archives of Microbiology 136:254-261)をJCMから購入し、JCM 232培地を用いて80℃で24時間の培養を繰り返して保持した。メタン菌は酸素を極度に嫌うため、培地への接種は嫌気ワークステーション内(気相:N2:H2:CO2 (80:10:10))で行われた(Kuwabara T, Minaba M, Iwayama Y, Inouye I, Nakashima M, Marumo K, Maruyama A, Sugai A, Itoh T, Ishibashi J, Urabe T, Kamekura M (2005) Thermococcus coalescens sp. nov., a cell-fusing hyperthermophilic archaeon from Suiyo Seamount. Int J Syst Evol Microbiol 55:2507-2514)。培地に60 μlの10% Na2S・9H2O(表1のNa2S成分)を加えて嫌気化し、1×105 cells ml-1以上の菌密度になるようにM. jannaschiiを接種して、ブチルゴム栓とアルミシールで密栓した。培地中に含まれるレサズリンの色で培地の嫌気化をモニターした。完全嫌気化したら、セラム瓶を嫌気ワークステーションから取り出し、気相をH2:CO2 = 80:20に置換した後、記載の時間80℃で培養した。
【実施例】
【0027】
3. フェリ磁性鉄の塩酸処理、乾燥、精製及び保存
培養後の沈殿をディスポーザブル遠心チューブ(15 ml容量)に移し、手回し遠心分離に供して未反応のイオウを除去した。上清を遠心分離(3000 rpm, 5分)に供してGreigiteを沈殿させた。次いで、予め窒素バブリングして酸素を除いた0.5 N塩酸で上清を置換した後、攪拌して遠心分離に供する、という洗浄操作を3回行った。
【実施例】
【0028】
得られた沈殿を窒素バブリングした蒸留水で2回、70%エタノールで1回洗浄した。沈殿を遠心濃縮機(CC-105;TOMY, 東京;設定温度40℃)にかけて残っている溶媒をとばした。得られた試料を、室温・窒素雰囲気のデシケータ内で暗黒下(アルミホイルで包む)においてさらに乾燥及び保存した。
【実施例】
【0029】
乾燥したフェリ磁性鉄の塊を乳鉢と乳棒でできるだけ細かくし、厚紙に乗せて下からフェライト磁石を操作して、磁石に引かれるフェリ磁性鉄を精製した。精製の前後で重量を測定し、フェリ磁性鉄の全体に対する割合を求めた。ただし、フェリ磁性をもたない物質がフェリ磁性鉄に結合した状態で一緒に磁石に引かれる可能性もあるので、この値はフェリ磁性鉄の最大値を表わす。
【実施例】
【0030】
4. X線結晶構造解析
培養終了後、1日以内にセラム瓶中の沈殿を遠心操作で集め、そのX線回折(XRD)を粉末X線回折装置(Ultima IV;Rigaku、東京)で分析した。乾燥標品はそのまま、濡れた試料はシリコン無反射ホルダーに乗せ、空気をトラップしないようにポリイミドフィルムと真空グリースで覆って分析した。得られたスペクトルをPowder Diffraction FileTMのデータベースと比較して鉱物を同定した。
【実施例】
【0031】
5. 放射型走査顕微鏡観察(FE-SEM)
FE-SEMを行うため、セラム瓶にガラスSEMプレート(直径8.5 mm)を入れて培養を行った。培養後にガラスSEMプレートを取り出し、2%(w/v)グルタルアルデヒド、0.2 Mカコジル酸ナトリウム(pH 7.2)を用いて室温で2時間固定後、既報に従って観察した(Kuwabara T, Igarashi K (2012) Microscopic studies on Thermosipho globiformans implicate a role of the large periplasm of Thermotogales. Extremophiles 16:863-870)。観察には放射型走査電子顕微鏡JSM-6330F(JEOL, 昭島)を用いた。
【実施例】
【0032】
〔結果〕
1. メタン菌の元素状イオウ還元による酸化鉄からのフェリ磁性硫化鉄形成
メタン菌の中には元素状イオウを還元できるものがいる(Stetter KO, Gaag G (1983) Reduction of molecular sulphur by methanogenic bacteria. Nature 305:309-311)。本発明者等は、水素栄養性超好熱性メタン菌M. jannaschiiもそのようなメタン菌の1種であることを発見した。M. jannaschiiをMc+S0+FeO(OH)培地又はMc+S0+Hematite培地で培養すると、鉄成分はいずれも赤茶色から黒色に変色し、最初のうちは磁石に引かれなかったが、しばらくすると磁石に引かれるようになった。すなわち、フェリ磁性を示した。これらの結果は、M. jannaschiiが元素状イオウを還元してsulfideを生成し、そのsulfideが鉄成分を還元してフェリ磁性硫化鉄を形成したことを示唆する。
【実施例】
【0033】
どちらの培地を用いた場合にも、セラム瓶の外からあてがったサマリウムコバルト磁石に引かれない黒色沈殿がまず生成した。この黒色沈殿はXRDで特異的なピークを示さなかったことから、アモルファス硫化鉄と思われる。Mc+S0+Hematite培地では培養16.5時間後には、全ての沈殿が同磁石に引かれた(図1)。しかし、48時間培養でもXRD測定を行うとGreigiteの他にHematiteのピークが観察された(図2B)。この事実はHematite粒子の表面がGreigiteに変化したために全体が磁石に引かれたことを示唆する。一方、Mc+S0+FeO(OH)培地では、48時間培養後に沈殿のXRDを測定するとGreigiteのピークが観察されたが、他の鉄鉱物のピークは観察されなかった(図2A)。しかし、Hematiteの結果を考えると、FeO(OH)の表面がGreigiteでコートされている可能性がある。得られたGreigite標品の収率は、Hematiteからは89%、FeO(OH)からは50%(g/g、いずれも3回の実験の平均)であった。
【実施例】
【0034】
Mc+S0+Hematite培地で96時間培養行うとGreigiteとPyriteが検出されたが、Hematiteは検出されなかった(図2C)。この結果は、粒子内部のHematiteはGreigiteにまで還元されたが、粒子表面のGreigiteはさらに還元されてPyriteに変換したことを示唆する。本法では用いた培地、培養時間によらずMackinawite、Pyrrhotiteは検出されなかった。従来の還元(二価)鉄からの場合と異なり、酸化(三価)鉄からGreigiteを合成する場合にはMackinawiteを経ないことが示唆された。
【実施例】
【0035】
2. FE-SEM
M. jannaschiiを、Mc+S0+Hematite培地を用いて32時間培養したときの沈殿をFE-SEMで解析した。M. jannaschiiが多様な大きさの板状物質(縦、横、厚みが、それぞれ0.4 μm、0.2 μm、0.1 μm以下)に付着していた(図3)。この板状物質はHematiteには見られないことからGreigiteと考えられる。この結果は、メタン菌がHematiteに付着して直接還元することを示唆している。
【実施例】
【0036】
酸化還元電位的には、Hematiteはsulfideによって還元されにくい(Kappler A, Straub KL (2005) Geomicrobiological cycling of iron. Rev Mineral Geochem 59:85-108;Igarashi K, Kuwabara T (2014) Fe(III) oxides protect fermenter-methanogen syntrophy against interruption by elemental sulfur via stiffening of Fe(II) sulfides produced by sulfur respiration. Extremophiles 18:351-361)にも拘らず、菌の付着により、そこから排出される高濃度のsulfideで還元が可能になったと推察される(Igarashi K, Kuwabara T (2014) Fe(III) oxides protect fermenter-methanogen syntrophy against interruption by elemental sulfur via stiffening of Fe(II) sulfides produced by sulfur respiration. Extremophiles 18:351-361)。微生物の利用には、高濃度の硫化水素を気相に放出させないでHematiteを還元できる利点がある。Mc+S0+FeO(OH)培地を用いた場合にも同様にメタン菌の板状物質への付着が確認された。
【実施例】
【0037】
3. 耐酸性
M. jannaschiiをMc+S0+FeO(OH)培地で48時間培養することによりGreigiteを合成した。沈殿に含まれるアモルファス硫化鉄を洗い出すために0.5 N塩酸で洗浄を行った後も沈殿はフェリ磁性を保っていた。塩酸処理標品をXRD解析したところ、Greigiteのピークのみが検出された(図4)。この事実は、本合成法によるGreigiteが0.5 N塩酸(1.54%(w/v);胃液の塩酸濃度の3倍以上)に難溶であることを示す。アモルファス硫化鉄(Brock TD, O'Dea K (1977) Amorphous ferrous sulfide as a reducing agent for culture of anaerobes. Appl Environ Microbiol 33:254-256)は0.5 N 塩酸による洗浄の操作で容易に可溶化したことから、Greigite合成産物にアモルファス硫化鉄が残っていても、塩酸洗浄で除かれることが示唆された。
【実施例】
【0038】
4. 耐酸素性
Greigiteは水分と酸素によって変質しやすい(Skinner BJ, Erd RC, Grimaldi FS (1964) Greigite, the thio-spinel of iron; a new mineral. Am Mineralogidt 49:543-555)。M. jannaschiiをMc+S0+Hematite培地を用いて48時間培養し、得られた沈殿物を、0.5 N塩酸洗浄及び乾燥後、磁石を用いてフェリ磁性硫化鉄を精製した。これを、室温・室内光・空気下で1週間放置して、酸化させた後、再度、磁石で精製すると90%がフェリ磁性を保っていた。この結果は、本法によって合成されたGreigite標品が、既報のものと同様に、乾燥状態では酸素により酸化されにくいことを示している。
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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