TOP > 国内特許検索 > 高分子物質の示差走査熱量測定データから該物質中の結晶の結晶長分布を算出する方法 > 明細書

Specification :高分子物質の示差走査熱量測定データから該物質中の結晶の結晶長分布を算出する方法

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第4228080号 (P4228080)
Publication number 特開2007-024735 (P2007-024735A)
Date of registration 平成20年12月12日(2008.12.12)
Date of issue 平成21年2月25日(2009.2.25)
Date of publication of application 平成19年2月1日(2007.2.1)
Title of the invention, or title of the device 高分子物質の示差走査熱量測定データから該物質中の結晶の結晶長分布を算出する方法
IPC (International Patent Classification) G01N  25/02        (2006.01)
FI (File Index) G01N 25/02 Z
Number of claims or invention 1
Total pages 8
Application Number 特願2005-209342 (P2005-209342)
Date of filing 平成17年7月20日(2005.7.20)
Date of request for substantive examination 平成18年2月7日(2006.2.7)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
Inventor, or creator of device 【氏名】田中 信行
Representative 【識別番号】100085372、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 正義
Examiner 【審査官】福田 裕司
Document or reference 特開平03-144352(JP,A)
特開平09-311114(JP,A)
特開平08-278266(JP,A)
A.Wlochowicz and M.Eder,Distribution of lamella thickness in isothermally crystallized polypropylene and polyethylene by differential scanning calorimetry,POLYMER,米国,Butterworth,1984年10月17日,Vol.25, No.9,pp.1268-1270
田中信行,浅井雄志,ナイロン6,6薄膜の融解・再結晶化と測定前結晶長分布予測,第39回熱測定討論会講演要旨集,日本,日本測定学会,2003年11月 1日,pp.282-283
Field of search G01N 25/02
Scope of claims 【請求項1】
(a) 高分子物質を複数の所与の温度(Ta1, Ta2, ... Tan)で熱処理して前記高分子物質の示差走査熱量測定を行う工程と、
(b) 前記熱量測定から前記複数の所与の温度(Ta1, Ta2, ... Tan)における各温度に対応する複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)を求める工程と、
(c) たて軸を前記高分子物質の融解温度Tm、及びよこ軸を前記熱処理温度Taとする図中に、前記複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び前記複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)をそれぞれプロットする工程と、
(d) 前記プロットした複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)から得られる直線P1を前記プロットした複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)から得られる直線P2に交差させてその交点Mに対応する温度Tb0を求める工程と、
(e) 前記図中にTm=Taの仮想直線P3を引き、前記直線P2を延長して直線P3に交差させてその交点Nに対応する平衡融解温度Tmxを求める工程と、
(f) 前記高分子物質の重量をW、前記(a)工程の示差走査熱量測定で実測された融解ピークAの物質のグラム当りの融解吸熱量をQ、昇温速度をdT/dt(Tは温度、tは時間)とし、前記(d)及び(e)工程でそれぞれ求めた温度Tb0及び温度Tmxを用いて、次の式(1)から仮想融解ピークBのピーク点Pにおけるヒートフロー(dQ/dt)pを求め、この式(1)の両辺を(Tmx-Tb0)で除すことにより得られた式(2)から仮想融解ピークBの立ち上がり勾配Cを求める工程と、
(dQ/dt)p=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0) ………(1)
C=(dQ/dt)p/(Tmx-Tb0)=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0)2 …(2)
(g) 前記融解ピークAの曲線と温度軸線で囲まれた吸熱量Qに相当する面積∫TbTe(dQ/dt)dTを求め、更にTbからTeまでの各温度で単位温度当りの吸熱変化量ΔQのQに対する比ΔQ/Qに相当する(dQ/dt)/∫TbTe(dQ/dt)dTを求める工程と、
(h) σを高分子物質中の結晶の単位面積当りの結晶末端表面自由エネルギー、huをその単位体積当りの融解熱とするとき、温度補正されたTmを用いて、次の式(3)より前記高分子結晶の結晶長ζを求める工程と、
ζ=(2σ/hu)[Tmx/(Tmx-Tm)] ………(3)
(i) 前記(g)工程で求めたΔQ/Qと、前記(h)工程で求めた結晶長ζを次の式(4)に代入して、補正された温度で規格化された結晶長分布関数F(ζ)を求め、この関数F(ζ)から結晶長分布を求める工程と
F(ζ)=(ΔQ/Q)/ζ ………(4)
を含むことを特徴とする高分子物質の示差走査熱量測定データから該物質中の結晶の結晶長分布を算出する方法。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質を示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、以下「DSC」という。)して得られた融解ピーク曲線から必要な融解温度を補正することにより、この高分子物質中の結晶(以下、「高分子結晶」という。)の結晶長分布を算出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子物質のDSC融解ピーク曲線は、高分子結晶の結晶長ζの分布に変換でき、その分布はX線解析による結果と良く一致することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
非特許文献1では、融解ピーク曲線を示す融解温度Tmの補正に、純粋な安息香酸の融解ピークの初期勾配が用いられている。即ち、実測された高分子物質の融解ピーク曲線上の点から安息香酸の融解ピークの初期勾配をもつ直線を引き、温度軸と交わった温度が、融解ピーク曲線上の点での融解温度Tmであるとされている。ただし、安息香酸は僅かな純度の低下で、融解ピークの立ち上がりが緩やかになる特徴がある(例えば、非特許文献2参照。)。そのため、温度補正には、高純度の安息香酸が要求されている。
【0003】
しかしながら、低分子である安息香酸の結晶の融解の仕方は、非結晶部分と共存する高分子結晶の融解とは異なるため、安息香酸の融解ピークの立ち上がり勾配で高分子結晶の融解温度Tmを補正することに対しては、厳密性が欠けている。更に、非特許文献1で算出された結晶長(ζ)分布は温度で規格化されていないため、即ち、分布関数の単位が「nm-1-1」ではなく「nm-1」であるため、他の試料のζ分布との比較ができない。またζ分布を算出するために必要な単位面積当りの結晶末端表面自由エネルギーσは、他の文献から引用しなければならない(例えば、非特許文献3参照。)。その場合、この結晶末端表面自由エネルギーσは、あくまで仮の値であって用いている試料の値ではない。

【非特許文献1】Polymer, Vol.25, pp1268-1270(1984)
【非特許文献2】Principles of Thermal Analysis and Calorimetry, RSC Paperbacks, P87(2002)
【非特許文献3】Thermochimica Acta, Vol.396, PP79-85(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、結晶長(ζ)分布を算出するために必要な結晶末端表面自由エネルギーσを非特許文献3の研究のように、他の文献から引用したとしても、熱に敏感で繊細な構造や性質を有する高分子物質のDSC融解ピークの解析は、X線解析装置だけでは難しく、即ち、X線解析装置を用いたとしても、試料にX線を当てることによる影響で、実際に近い結晶長分布を得ることはできない問題点があった。また結晶長分布を算出するに際しては、高純度の安息香酸を使用して、融解温度Tmの補正をしなければならない煩わしさがあった。
【0005】
本発明の目的は、高分子物質のDSC融解ピークを実際に近い結晶長分布に変換することにより、X線解析で得られる分布とは異なった、熱に敏感で繊細な高分子物質の構造や性質を反映した結晶長分布を、X線解析装置及び融解温度Tmの補正に高純度の安息香酸を用いることなく、DSCデータに基づいて算出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に係る発明は、図1~図2に示すように、次の工程(a)~(i)を含む高分子物質の示差走査熱量測定データから該物質の結晶長分布を算出する方法である。
(a) 高分子物質を複数の所与の温度(Ta1, Ta2, ... Tan)で熱処理して前記高分子物質の示差走査熱量測定を行う工程、
(b) 前記熱量測定から前記複数の所与の温度(Ta1, Ta2, ... Tan)における各温度に対応する複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)を求める工程、
(c) たて軸を前記高分子物質の融解温度Tm、及びよこ軸を前記熱処理温度Taとする図中に、前記複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び前記複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)をそれぞれプロットする工程(図1参照)、
(d) 前記プロットした複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)から得られる直線P1を前記プロットした複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)から得られる直線P2に交差させてその交点Mに対応する温度Tb0を求める工程(図1参照)、
(e) 前記図中にTm=Taの仮想直線P3を引き、前記直線P2を延長して直線P3に交差させてその交点Nに対応する平衡融解温度Tmxを求める工程(図1参照)、
(f) 前記高分子物質の重量をW、前記(a)工程の示差走査熱量測定で実測された融解ピークAの物質のグラム当りの融解吸熱量をQ、昇温速度をdT/dt(Tは温度、tは時間)とし、前記(d)及び(e)工程でそれぞれ求めた温度Tb0及び温度Tmxを用いて、次の式(1)から仮想融解ピークBのピーク点Pにおけるヒートフロー(dQ/dt)pを求め、この式(1)の両辺を(Tmx-Tb0)で除すことにより得られた式(2)から仮想融解ピークBの立ち上がり勾配Cを求める工程(図2参照)、
(dQ/dt)p=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0) ………(1)
C=(dQ/dt)p/(Tmx-Tb0)=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0)2 …(2)
(g) 前記融解ピークAの曲線と温度軸線で囲まれた吸熱量Qに相当する面積∫TbTe(dQ/dt)dTを求め、更にTbからTeまでの各温度で単位温度当りの吸熱変化量ΔQのQに対する比ΔQ/Qに相当する(dQ/dt)/∫TbTe(dQ/dt)dTを求める工程、
(h) σを高分子物質中の結晶の単位面積当りの結晶末端表面自由エネルギー、huをその単位体積当りの融解熱とするとき、温度補正されたTmを用いて、次の式(3)より前記高分子結晶の結晶長ζを求める工程、及び
ζ=(2σ/hu)[Tmx/(Tmx-Tm)] ………(3)
(i) 前記(g)工程で求めたΔQ/Qと、前記(h)工程で求めた結晶長ζを次の式(4)に代入して、補正された温度で規格化された結晶長分布関数F(ζ)を求め、この関数F(ζ)から結晶長分布を求める工程。
F(ζ)=(ΔQ/Q)/ζ ………(4)
ただし、(a)~(d)工程において、nはそれぞれ正の整数である。
【発明の効果】
【0007】
本願請求項1に係る方法では、DSC融解ピーク曲線の変数である融解温度Tmを、高分子物質のDSCデータを用いて式(1)及び(2)に基づき温度補正し、温度Tb0及び温度Tmxを用いて式(3)及び(4)から結晶長分布関数F(ζ)を算出することにより、高分子物質のDSC融解ピークを実際に近い結晶長分布に変換することができるとともに、熱に敏感で繊細な高分子物質の構造や性質を結晶長分布から予測することができる。またX線解析装置及び融解温度Tmの補正に高純度の安息香酸を用いずに、簡便で安価に高分子物質の結晶長分布を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の実施の形態を各工程毎に説明する。
(a) DSCの実施
同一の高分子物質を複数用意し、各高分子物質を複数の所与の温度(Ta1, Ta2, ... Tan)でそれぞれ熱処理して、DSCデータを得る。複数の所与の温度を設定するに際しては、熱処理によって、結晶形が変化する温度領域を避け、Tb-Taがほぼ一定である温度範囲の融解終了温度Te及び融解開始温度Teを選択する。Teは、一般的にはTbの値に関係しない。高分子物質は物質中に結晶構造を有するものである。
【0009】
(b) 各融解開始温度及び各融解終了温度の測定
複数のDSCデータから、複数の熱処理温度(Ta1, Ta2, ... Tan)毎に複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)を求める。これらの温度は、複数のDSCデータから次のようにして求められる。融解ピークの立ち上がる手前の直線部分から高温度側に延長線を引き、その直線からのピークの立ち上がり温度をTbとし、また、融解ピークが終了した後の直線部分から低温側に延長線を引き、その直線と融解終了側のピーク曲線との合流点をTeとする。
【0010】
(c) 図中へのプロット
図1に示すように、たて軸を高分子物質の融解温度Tm、及びよこ軸を熱処理温度Taとする図中に、複数の熱処理温度(Ta1, Ta2, ... Tan)に対応して、複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)及び複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)をそれぞれプロットする。
【0011】
(d) 温度Tb0の決定
図1に示すように、先ずプロットした複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)から直線P1を得る。次いでプロットした複数の融解終了温度(Te1, Te2, ... Ten)から直線P2を得る。次に直線P1を直線P2に交差させてその交点Mを求め、この点Mをよこ軸の温度軸で読み取って、交点Mに対応する温度Tb0を求める。この温度Tb0は後述する仮想融解ピークB(図2参照)の融解開始温度でもあり、融解終了温度でもあり、またピークBのピーク温度でもある。
【0012】
(e) 平衡融解温度Tmxの決定
先ず図1の中にTm=Taの仮想直線P3を引く。次いで工程(d)で得た直線P2を延長して直線P3に交差させてその交点Nを求め、この点Nをよこ軸の温度軸で読み取って、交点Nに対応する温度Tmxを求める。このTmxは平衡融解温度である。即ち、結晶長が無限大のときの高分子物質の融解温度であり、結晶がすべて融解し結晶化度0(ゼロ)になったときの温度でもある。図1から明らかなように、一般的に複数の融解開始温度(Tb1, Tb2, ... Tbn)から得られた直線P1はTm=Taの仮想直線P3より上側に位置する。即ち、各融解開始温度はそれぞれの熱処理温度Taより通常数度高い。
なお、高温熱処理試料では、融解終了温度Teが熱処理温度Taの増加とともに平衡融解温度Tmxを越えて増加していくことがある。これは一般的には結晶の遅延融解によるオーバーシュートと考えられ、このときの融解終了温度Teは、P2直線を引くデータには使えない。
【0013】
(f) 高分子物質の仮想融解ピークからの勾配の決定
前記(a)工程のDSCで実測された融解ピークAが示される図2に前記(d)工程で求められた温度Tb0と前記(e)工程で求められた温度Tmxを用いて仮想融解ピークBを次の手順で作図する。
先ず高分子物質の重量をW、前記融解ピークAの物質のグラム当りの融解吸熱量をQ、昇温速度をdT/dt(Tは温度、tは時間)とし、温度Tb0及び温度Tmxを用いて、図2に示すように、次の式(1)から仮想融解ピークBのピーク点Pにおけるヒートフロー(dQ/dt)pを求める。
(dQ/dt)p=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0) ………(1)
次いでこの式(1)の両辺を(Tmx-Tb0)で除すことにより得られた式(2)から仮想融解ピークBの立ち上がり勾配Cを求める。これにより図2に示すように、点Tb0と点Tmxと点Pとからなる直角三角形を描くことができる。この三角形の面積は、前記吸熱量Qに相当する。
C=(dQ/dt)p/(Tmx-Tb0)=2QW(dT/dt)/(Tmx-Tb0)2 …(2)
【0014】
(g) 単位温度当りの比吸熱変化量ΔQ/Qの決定
前記融解ピークAの曲線と温度軸線で囲まれた吸熱量Qに相当する面積∫TbTe(dQ/dt)dTを求め、TbからTeまでの各温度でのΔQ/Qに相当する(dQ/dt)/∫TbTe(dQ/dt)dTを求める。TbからTeまでの各温度の温度補正は次のようにして行う。融解ピークAのピーク点から温度軸線まで前記(f)工程で求めた勾配Cの直線をピーク点から引く。温度軸線との交点温度がピーク点での真の融解ピーク温度である。次に、補正前融解ピーク温度と真の融解ピーク温度の差ΔTを求める。TbからTeまでの各温度の温度補正値は、-ΔT(dQ/dt)/(dQ/dt)p で与えられる。ここで、(dQ/dT)pはピーク点でのヒートフローであり、(dQ/dT)は温度補正前の各温度でのヒートフローである。
【0015】
(h) 高分子物質中の結晶の結晶長の決定
前述した非特許文献1に示されるように、σを高分子物質中の結晶の単位面積当りの結晶末端表面自由エネルギー、huをその単位体積当りの融解熱とするとき、次の式(3)よりこの高分子結晶の結晶長ζを求める。式(3)中のTmには、温度補正されたTmを用いる。
ζ=(2σ/hu)[Tmx/(Tmx-Tm)] ………(3)
【0016】
(i) 結晶長分布関数F(ζ)による結晶長分布の決定
前記(g)工程で求めた比吸熱変化量ΔQ/Qと、前記(h)工程で求めた結晶長ζを次の式(4)に代入して、温度で規格化された結晶長分布関数F(ζ)を求め、前記工程(h)で求めた結晶長ζとこの関数F(ζ)から結晶長分布を求める。
F(ζ)=(ΔQ/Q)/ζ ………(4)
【0017】
この式(4)は、温度で規格化された結晶長分布関数F(ζ)として、NATAS Annual Conference Proceedings (0.29.26p in CD), Albuquerque, (2003)(非特許文献4)、第39回熱測定討論会講演要旨集、広島、p282(2003)(非特許文献5)においても、次の式(4’)に示すように定義されている。
F(ζ)=(ΔQ/Q)/ζ=nζ/[Nc(Te -Tb)] ………(4’)
ここで、nζはζの長さをもった結晶連鎖の数、Ncは融解開始温度Tbと融解終了温度Teの範囲で融解した結晶の構造単位数である。
【0018】
また式(3)中のσは次の式(5)によって算出される。この式(5)は上記非特許文献4及び5の他、J. Macromol. Sci., Phys., B42, 621(2003)(非特許文献6)に示される。
σ/hu=b[RTm2+(Hx-hx)(Tmx-Tm)]/[2(Hx-hx)Tmx] … (5)
ここで、Hx=2(w/ρ)hu-wQであり、bは結晶単位セルの繊維軸長さ、hxは非結晶域中の擬結晶による構造単位モル当りの転移エンタルピーであり、wは構造単位モル当たりの分子量、ρは結晶の密度である。
【実施例】
【0019】
次に本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
高分子物質として、ポリヘキサメチレンアジポアミド(ナイロン66)フィルムを8枚用意し、各フィルムを熱流束型のDSC装置(ブルカー・エイエックスエス社製DSC3200S)を用いて、8つの異なる温度、即ちTa1=220℃、Ta2=225℃、Ta3=230℃、Ta4=240℃、Ta5=250℃、Ta6=253℃、Ta7=256℃及びTa7=258℃でそれぞれ60分間熱処理した。
【0020】
上記8種類のDSCデータから、8つの熱処理温度毎にそれぞれ融解開始温度(Tb1, Tb2, Tb3, Tb4, Tb5, Tb6, Tb7, Tb8)及び融解終了温度(Te1, Te2, Te3, Te4, Te5, Te6, Te7, Te8)を求めた。この実施例では240℃までの熱処理では、Tb-Taはほぼ4℃、250℃以上の熱処理では、Tb-Taはほぼ2℃であった。240℃から250℃までの熱処理では、形成される結晶形がβ型からα型に変わったと予測され、この範囲のTb、Teはデータから除いた。Tb-Taがほぼ2℃である256℃で60分間熱処理したときのナイロン66フィルムのDSC融解ピーク曲線を図3に示す。
【0021】
次いで、図1に示すように、たて軸を高分子物質の融解温度Tm、及びよこ軸を熱処理温度Taとする図中に、上記8つの融解開始温度(Tb1, Tb2, Tb3, Tb4, Tb5, Tb6, Tb7, Tb8)及び8つの融解終了温度(Te1, Te2, Te3, Te4, Te5, Te6, Te7, Te8)をそれぞれプロットした。これらの融解開始温度(Tb1, Tb2, Tb3, Tb4, Tb5, Tb6, Tb7, Tb8)から直線P1を得た。次いでプロットした複数の融解終了温度(Te1, Te2, Te3, Te4, Te5, Te6, Te7, Te8)から直線P2を得た。次に直線P1を直線P2に交差させてその交点Mを求め、この点Mをよこ軸の温度軸で読み取って、交点Mに対応する、図2に示す仮想融解ピークBの融解開始温度でもあり、融解終了温度でもある温度Tb0を求めた。この実施例では、Tb0=267℃であった。
【0022】
続いて、図1の中にTm=Taの仮想直線P3を引いた後、工程(d)で得た直線P2を延長して直線P3に交差させてその交点Nを求め、この点Nをよこ軸の温度軸で読み取って、交点Nに対応する平衡融解温度Tmxを求めた。この実施例ではTmx=269℃であった。
DSCで実測された融解ピークAが示される図2に対して、温度Tb0と温度Tmxを用いて次の手順で仮想融解ピークBを作図した。先ず前述した式(1)から仮想融解ピークBのピーク点Pにおけるヒートフロー(dQ/dt)pを求めた。この実施例では、吸熱量Q=21.62cal/g、高分子物質の重量W=0.28mg、昇温速度dT/dt=10℃/分であり、(dQ/dt)p=1009μcal/秒であった。次いで前述した式(2)から仮想融解ピークBの立ち上がり勾配Cを求め、図2に示すように、点Tb0と点Tmxと点Pとからなる、吸熱量Qに相当する直角三角形を描いた。この実施例では、勾配C=504.5μcal/(秒・K)であった。
【0023】
更に続いて、この実施例では、Tb=258℃からTe=269℃までの温度域で、各温度でのΔQ/Qを求める。各温度は、DSC装置のサンプリングタイムの設定によって決まる。本実施例では、温度間隔は0.1℃か0.2℃に各温度毎に自動的に設定された。
【0024】
一方、前述した式(3)におけるTmに、TbからTeまでの前記(g)工程に従って補正された各温度を代入し、各温度におけるナイロン66フィルムの結晶長ζ1, ζ2, ζ3, ,,,, ζnを求めた。nはDSC装置のサンプリングタイムの設定により決まるサンプリング温度の数である。ΔQ1/Q, ΔQ2/Q, ΔQ3/Q, ,,,, ΔQn/Q及びζ1, ζ2, ζ3, ,,,, ζnから対応するΔQ/Qとζとを1個ずつ、前述した式(4)に代入し、結晶長分布関数F(ζ)による結晶長分布の決定した。その結果を図4に示す。この結晶長分布は、X線解析装置及び融解温度Tmの補正に高純度の安息香酸を用いずに、簡便で安価に求めることができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】高分子物質を複数の温度で熱処理して得られた複数の融解開始温度と融解終了温度から融解温度Tb0及びTmxを求める方法を示す図である。
【図2】結晶長分布を求めるための実測の融解ピークA及び温度Tb0及び温度Tmxを用いて作成され、ピークAと同一面積を有しかつ吸熱量Qに相当する仮想融解ピークBのモデル線図である。
【図3】温度256℃で60分間で熱処理したナイロン66フィルムのDSC融解ピーク曲線を示す図である。
【図4】本発明実施例による温度補正を行って、図3の実測の融解ピーク曲線から変換されたナイロン66フィルムの結晶長分布曲線を示す図である。
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3