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Specification :透過光制御デバイス

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 特許公報(B2)
Patent Number 特許第5920734号 (P5920734)
Date of registration 平成28年4月22日(2016.4.22)
Date of issue 平成28年5月18日(2016.5.18)
Title of the invention, or title of the device 透過光制御デバイス
IPC (International Patent Classification) G02F   1/01        (2006.01)
G01N  21/27        (2006.01)
FI (File Index) G02F 1/01 A
G01N 21/27 Z
Number of claims or invention 6
Total pages 15
Application Number 特願2013-520535 (P2013-520535)
Date of filing 平成24年6月11日(2012.6.11)
International application number PCT/JP2012/064867
International publication number WO2012/173071
Date of international publication 平成24年12月20日(2012.12.20)
Application number of the priority 2011131702
Priority date 平成23年6月13日(2011.6.13)
Claim of priority (country) 日本国(JP)
Date of request for substantive examination 平成27年5月25日(2015.5.25)
Patentee, or owner of utility model right 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
Inventor, or creator of device 【氏名】馬場 暁
【氏名】ジャンマニー ラピパン
【氏名】多田 幸司
【氏名】新保 一成
【氏名】加藤 景三
【氏名】金子 双男
Representative 【識別番号】100140394、【弁理士】、【氏名又は名称】松浦 康次
Examiner 【審査官】山本 貴一
Document or reference 特開2009-180704(JP,A)
国際公開第2005/029164(WO,A1)
米国特許出願公開第2010/0126567(US,A1)
米国特許第6297907(US,B1)
米国特許第7618680(US,B2)
多田幸司 他,表面プラズモン共鳴透過光スイッチングとバイオセンサーへの応用,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2012年 2月29日,Vol.59th,15p-GP10-3
馬場暁 他,グレーティングカップリング多重励起型表面プラズモン共鳴センサー,電子情報通信学会技術研究報告,2009年 2月27日,Vol.108, No.469 (OME2008-95),pp.7-11
BABA, A. et al.,Optical Properties of Ultrathin Poly(3,4-ethylenedioxythiophene) Films at Several Doping Levels Stud,Langmuir,2003年,Vol.19, No.21,pp.9058-9064
Field of search G02F 1/01
G01N 21/27
G02B 5/18

JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
Scope of claims 【請求項1】
微細構造が表面上に周期的に形成されたグレーティング基板と、
前記基板上に堆積された金属薄膜と、
前記金属薄膜上に導電性高分子が堆積された導電性高分子層と、
電解質又は緩衝液からなる液体媒体で満たされるとともに、かつ、該液体媒体の一部が前記導電性高分子層に接触したセルと、
前記金属薄膜に作用電極が接続されるとともに、前記液体媒体に対電極と参照電極とが接続された金属薄膜電位制御手段と、
を備え、かつ、
前記基板と前記セルの少なくとも一部とは、光透過性の材料で作られており、
前記制御手段は、前記金属薄膜の電位を変化させることにより、前記導電性高分子層の複素誘電率を変化させて、前記導電性高分子層を透過した光を制御することを特徴とする透過光制御デバイス。
【請求項2】
入射光を受光する受光部が前記セルの前記一部に設けられるとともに、前記受光部から入射した後、前記液体媒体と前記導電性高分子層と前記金属薄膜とを透過した光は前記基板から前記デバイスの外へ出射されることを特徴とする請求項1に記載の透過光制御デバイス。
【請求項3】
前記微細構造が溝形状を成し、300nm~1.6μmのピッチで周期的に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の透過光制御デバイス。
【請求項4】
前記導電性高分子層上に前記導電性高分子とは異なる種類の導電性高分子が堆積された追加層が少なくとも一層以上形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の透過光制御デバイス。
【請求項5】
前記導電性高分子にポリアニリン及びポリエチレンダイオキシチオフェンの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の透過光制御デバイス。
【請求項6】
前記導電性高分子層が10nm~40nmの層厚さを有することを特徴とする請求項5に記載の透過光制御デバイス。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴異常透過現象を利用して透過光の波長や強度を制御可能な透過光制御デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過光の波長を制御する従来の波長制御デバイスとして、金属微粒子を利用した制御デバイスが知られている。この金属微粒子を利用したデバイスとして、例えば特許文献1には、複数個の金属微小構造体を空間的に非対称に配置してなり、入射光の偏光状態を外部電圧により変調可能な偏光制御素子が開示されている(当該文献の図面13を参照)。特許文献1に開示の偏光制御素子は、金属中のプラズモンの共鳴を利用することから波長依存性を有し、偏光制御素子の動作波長は、金属微小構造体の材料、サイズ、誘電体薄膜の寸法、電圧印加による金属微小構造体間の距離等により制御することが可能である(当該文献の段落番号0080及び0095の記載を参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1等に開示される制御デバイスは、金属微粒子中に励起される通常の表面プラズモン共鳴を利用しているため(当該文献の図面7を参照)、制御後に得られる透過光の波長幅(半値幅(FWHM: Full Width Half Maximum))は一般に広く、極めて狭い半値幅を有した特定のピーク波長を有するように透過光を制御し、取り出すことは困難であった。
【0004】
また、上述の動作波長の制御は、外部電圧の印加により金属微小構造体間の距離を変化させるか、又は金属微小構造体(或いは誘電体薄膜)自体の材料やサイズを変更する必要があるため、一旦、デバイスを作製した後では、透過光のピーク波長やその強度を顕著かつ自在に調整することが困難であると予測される。
【0005】
ところで、近年、金属製のナノホールアレイに光を入射すると、ある条件の入射光において表面プラズモンが共鳴し、表面には局在せずに反対側へ鋭いピークとして透過する現象(透過スペクトルに異常透過ピークが現れる現象)が観測されることが報告されている(非特許文献1を参照)。さらに、白色光を入射したとき、ナノホールのサイズを変化させることにより、この異常透過光の波長を変化させることも可能であることから、この異常透過光の現象は、カラーフィルター、反射光利用型センサーの場合に比して小さなSN比を達成可能な高感度なセンサー、フォトニック結晶等に応用できることが考えられており、注目を浴びてきている(非特許文献2を参照)。
【0006】
なお、非特許文献2には、ナノスケールの高精度な周期的なアルミニウム製のホールアレイが形成され、赤・橙・黄・緑・青の五色のカラーフィルターが提案されている。しかしながら、非特許文献2に開示の技術は、表面プラズモン共鳴による光の異常透過現象を利用しているため単色性・透過率に優れた特定の光を取り出すことができるものの、ガラス基板上にホールアレイが一旦、形成されると、透過光のピーク波長をシフトさせたり、波長強度を増減させたりすることができる制御デバイスではない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第4589804号公報
【0008】

【非特許文献1】T.W.Ebbesen et al.: Nature. , Vol. 391, pp. 667-669, 1998.
【非特許文献2】池田 直樹、外3名、“表面プラズモンを利用したフルカラーフィルタの開発に成功 ‐ナノ加工技術が生み出すナノフォトニックデバイス‐”、[online]、平成21年3月26日、独立行政法人物質・材料研究機構、[平成23年6月8日検索]、インターネット〈URL:http://www.nims.go.jp/news/press/2009/03/200903260/p200903260.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、透過光を制御可能な透過光制御デバイスを提供することを目的とする。より具体的には、透過光をシャープな波長幅(半値幅が狭く)に保ちながら、ピーク波長のシフトやその強度の増減が可能な透過光制御デバイスを提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の別の目的は、デバイスを一旦作製した後でも、能動的にも可逆的にも透過光のピーク波長をシフトさせたり、その強度を増減させたりすることができる透過光制御デバイスを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の別の目的は、透過光を利用した小型かつ高感度なバイオセンサーを提供することを目的とする。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の末、グレーティング基板上に薄い金属薄膜を堆積した基板を用いることでもナノホールアレイを透過した場合と同様な表面プラズモン共鳴異常透過光が観測されることを発見した。加えて、本発明者らは、これらのグレーティング基板/金属薄膜上に導電性高分子をさらに堆積したデバイスを作製し、この金属薄膜の電位を電気化学的に制御することで、導電性高分子の複素誘電率を変化させ、ひいてはこの導電性高分子を透過する光(好ましくは、異常透過光)の波長を効率的に制御することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
(態様1)
微細構造が表面上に周期的に形成されたグレーティング基板と、
前記基板上に堆積された金属薄膜と、
前記金属薄膜上に導電性高分子が堆積された導電性高分子層と、
電解質又は緩衝液からなる液体媒体で満たされるとともに、かつ、該液体媒体の一部が前記導電性高分子層に接触したセルと、
前記金属薄膜に作用電極が接続されるとともに、前記液体媒体に対電極と参照電極とが接続された金属薄膜電位制御手段と、
を備え、かつ、
前記基板と前記セルの少なくとも一部とは、光透過性の材料で作られており、
前記制御手段は、前記金属薄膜の電位を変化させることにより、前記導電性高分子層の複素誘電率を変化させて、前記導電性高分子層を透過した光を制御することを特徴とする透過光制御デバイス。
(態様2)
入射光を受光する受光部が前記セルの前記一部に設けられるとともに、前記受光部から入射した後、前記液体媒体と前記導電性高分子層と前記金属薄膜とを透過した光は前記基板から前記デバイスの外へ出射されることを特徴とする態様1に記載の透過光制御デバイス。
(態様3)
前記微細構造が溝形状を成し、300nm~1.6μmのピッチで周期的に形成されていることを特徴とする態様1又は2に記載の透過光制御デバイス。
(態様4)
前記導電性高分子層上に前記導電性高分子とは異なる種類の導電性高分子が堆積された追加層が少なくとも一層以上形成されていることを特徴とする態様1~3のいずれかに記載の透過光制御デバイス。
(態様5)
前記導電性高分子にポリアニリン及びポリエチレンダイオキシチオフェンの少なくとも一方を含むことを特徴とする態様1~4のいずれかに記載の透過光制御デバイス。
(態様6)
前記導電性高分子層が10nm~40nmの層厚さを有することを特徴とする態様5に記載の透過光制御デバイス
【発明の効果】
【0014】
本発明の透過光制御デバイスは、以上のような簡素な構成で、透過光を制御することができる。具体的には、このデバイスは、外部電位の変化により複素誘電率が変化する導電性高分子層と所定サイズの回折格子(グレーティング構造)を備えているため、透過光の表面プラズモン共鳴の異常透過状態を自在かつ可逆的に変化させることができる。これにより、透過光をシャープな波長幅(半値幅が狭く)に保ちながら、ピーク波長のシフトやその強度の増減(つまり透過光のスイッチング)が可能となる。
【0015】
なお、後述する実施例によれば、本発明のデバイスは、ピーク波長の最大250nmのシフトが可能であり、1倍~6倍の範囲でのピーク強度の増減が可能である。本発明のデバイスを除いて、これ程大きな範囲でそのシフト量や強度を変調できる透過光制御デバイスは、今のところ見当たらない。
【0016】
また、金属薄膜電位制御手段は金属薄膜の電位を自在かつ可逆的に変化させることができるため、光回折格子の役目を果たす基板やその上の薄膜層を交換したり、別寸法を有したものに変更したりする事無く、本発明の透過光制御デバイスを何度も繰り返し使用することができる。
【0017】
また、本発明の技術思想を応用すれば、上述の透過光制御デバイスの他に、色の変調が可能なカラーフィルター(つまりアクティブ・プラズモニック・ナノフィルター)、高効率な太陽電池、バイオセンサーも実現可能である。なお、本発明のバイオセンサーは、以上のように透過光を利用した構成であるため、小型で携帯可能な高感度センサーとなることが期待される。また、これらの例示に限定されず、本発明を応用すれば、偏光板やフォトニック結晶も実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の透過光制御デバイスの概略を示した図である。
【図2】導電性高分子層の複素誘電率の変化と透過光の強度と関係を示したシミュレーション結果である。
【図3】金属薄膜の電位の変化と表面プラズモン共鳴異常透過光の強度との関係を示した図である。(実施例1)
【図4】金属薄膜の電位の変化と表面プラズモン共鳴異常透過光の強度との関係を示した図である。(実施例2)
【図5】金属薄膜の電位の変化と表面プラズモン共鳴異常透過光の強度との関係を示した図である。(実施例3)
【図6】金属薄膜の電位の変化と表面プラズモン共鳴異常透過光の強度との関係を示した図である。(実施例4)
【図7】本発明の変形例であるバイオセンサーにおける表面プラズモン共鳴異常透過光の強度特性を示した図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施態様に何等限定されるものではない。

【0020】
(透過光制御デバイスの概略)
図1(a)に本発明の透過光制御デバイス10の概略を示した図である。なお、図1(a)は透過光制御デバイス10の内部構造を視認し易くするために部分的に断面状態を示している。また、図1(b)は、図1(a)中の丸印Aの部分を拡大した図である。図1(a)に示すように、この透過光制御デバイス10(以下、単に「デバイス」とも呼ぶ。)は、グレーティング基板1と、この基板1上に金属が堆積された金属薄膜2と、この金属薄膜2の上に導電性高分子が堆積された導電性高分子層3と、を備える。また、デバイス10は、一部(例えば、後述の受光部7)又は全部が光を透過性する光透過性の材料(例えば、プラスチック)からなる容器(以下、単に「電気化学セル」又は「セル」とも呼ぶ。)4を有している。セル4は、電解質又は緩衝液からなる液体媒体5で満たされた内部空間4を有し、該液体媒体5の一部が導電性高分子層3に接触するように構成されている。また、デバイス10は、金属薄膜電位制御手段6(以下、単に「電位制御手段」又は「制御手段」とも呼ぶ。)を有しており、その作用電極Wが金属薄膜2に接続されるとともに、その対電極Cと参照電極Rとが液体媒体5に接続されている。

【0021】
以上のような構成をなす本発明の透過光制御デバイス10は、制御手段6を用いて参照電極Rを基準として金属薄膜2の電位を変化させることにより、後述のように、導電性高分子層3の複素誘電率と、導電性高分子層3を通過する光の表面プラズモン共鳴の異常透過状態と、を変化させてデバイス10から放出される透過光のピーク波長やピーク波長の光強度(以下、「ピーク強度」とも呼ぶ)を制御することを特徴とする。

【0022】
(電解質)
液体媒体5に使用可能な電解質には、例えば、塩化ナトリウム、塩化水素、塩化銅、水酸化ナトリウム、硫酸塩等の水溶性の化合物(溶質)が挙げられ、これらを水に溶かした場合にその水溶液が電流を通す性質を示す。また、電解質5は、テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスフェイト、過塩素酸リチウム等の化合物(溶質)でもよく、この場合は、有機溶媒(例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF))で溶かした溶液が電流を通す性質を示す。

【0023】
(緩衝液)
また、液体媒体5には緩衝液を使用しても良い。本発明をバイオセンサーとして利用する場合には、この緩衝液5に検査対象物を注入できる。緩衝液5には、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液などの公知の緩衝液が使用可能であるが、必ずしもこれらに限定されない。

【0024】
(グレーティング基板)
ここで、グレーティング基板1とは、光透過性の材料、例えば、ガラスやプラスチック(好ましくは、ポリカーボネート)から作られ、かつ、光回折格子の役目を果たす微細構造が表面上に周期的に形成された基板であり、例えば、その一方の表面に直線状に延びた略矩形断面の溝がその表面の水平方向に300nm~1.6μmの間隔(ピッチ)で周期的に多数設けられた構造を有している。なお、基板1の板厚が大きくても光は基板1を透過するが、後述する基板1上に堆積される複数の薄膜層2,3の適切な保持やセル4への固定を行う観点から、実際的には100μm~2mmが望ましい。なお、グレーティングを付与するための周期的な微細構造として、矩形断面を有した溝が等間隔で並ぶように構成しても良いし、図1(b)に示すように矩形断面の角部や隅部が無い凹凸パターン、その他、正弦波曲線を描くような断面プロファイルを有するものであってもよい。

【0025】
この基板1上に堆積される金属薄膜2と導電性高分子層3とは、図1(b)に示す例では、基板1のグレーティング(微細構造)に対応した構造を成す。これらの複数の層1~3を成す構造体は、図1(a)中の矢印に示すような光Lが入射すると、ある波長の光Lのみが通過できる格子が上述の溝間隔で周期的に並んだ回折格子構造を形成する。

【0026】
金属薄膜2の材料として、基板1上のグレーティング構造を反映して表面プラズモン共鳴を起こしやすい金属、例えば、金、銀、アルミニウムなどの貴金属材料が挙げられるが、本発明のデバイス10では電解質等の液体媒体5で満たした電気化学セル4を使用するため、酸化しにくい材料である金がさらに好ましい。また、金属薄膜2の膜厚は、透過型の表面プラズモン共鳴現象が生じやすい等の理由から30~50nmの範囲が好ましい。なお、金属薄膜2は、真空蒸着法、スパッタリング、CVD法などを用いて基板1上に堆積可能である。

【0027】
また、金属薄膜2と基板1との間に1~10nm程度の膜厚を有したクロム(Cr)薄膜層(図示せず)を堆積させてもよい。金属薄膜2(例えば、金(Au)薄膜)は基板1から剥がれ易い場合があり、クロム(Cr)の層を基板1と金属薄膜2との間に介在させることで両者の接着性を向上させることができるからである。

【0028】
本発明では、金属薄膜2の上にさらに導電性高分子層3が設けられていることが重要である。この層3を形成する導電性高分子として、ポリアニリン(英語表記はpolyaniline、略称はPANI)、ポリピロール(英語表記はPolypyrrole、略称はPPy)、ポリチオフェン(英語表記はpolythiophene、略称はPT)誘導体、ポリエチレンダイオキシチオフェン(英語表記はPoly(3,4-ethylenedioxythiophene)、略称はPEDOT)、ポリアセチレン(英語表記はpolyacetylene)、ポリパラフェニレン(英語表記はPoly(p-phenylene、略称はPPP))、ポリパラフェニレンビニレン(英語表記はPoly(p-phenylene vinylene)、略称はPPV)、又はこれらの組合せが挙げられる。

【0029】
上述の化合物を含んだ導電性高分子層3は、公知の製造方法、例えば、電解重合法、スピンコート法、交互吸着法、を用いて金属薄膜2上に堆積することができる。膜厚の精密な制御が容易であり、かつ、簡便な装置で短時間に作製可能であるなどの理由から、電解重合法が好ましい。

【0030】
なお、図示しないが、導電性高分子層3上にこの層3に使用された導電性高分子とは異なる種類の導電性高分子が堆積された追加層(図示せず)が少なくとも一層以上形成されていることが好ましい。このような追加層を本発明のデバイス10に設けることにより、導電性高分子層3の存在によって表面プラズモン共鳴異常透過が起こる波長域に加え、異なる高分子からなる追加層の存在によって、別の波長域でも異常透過現象が発現させることができるようになり、ピーク波長のシフト量やピーク強度の増減量等をより自由に制御することが可能となるため、本発明の透過光制御デバイス10の用途や応用範囲も拡大するものと考えられる。

【0031】
なお、導電性高分子層3にポリアニリン(PANI)やポリエチレンダイオキシチオフェン(PEDOT)を用いた場合、高分子層3の厚さを10~40nm程度に設定することが好ましい。この層3の厚さが10nmより小さくなると、高分子層3が入射した光を十分に吸収できなくなるので好ましくない。一方、この層3の厚さが40nmより大きくなると、高分子層3が入射した光Lを十分に吸収し過ぎて、表面プラズモン共鳴による光の異常透過が起きにくい、又は、異常透過した光Lを透過光検出器22に十分に検出しにくくなるため好ましくない。

【0032】
また、電気化学セル4の一面の少なくとも一部が、入射光Lを受光する受光部7を構成する。入射光Lは、この受光部7から図示しない偏光板によりp偏光され、デバイス10内に入り、液体媒体5、導電性高分子層3、金属薄膜2、及びグレーティング基板1を通過してデバイス10の外へ放出される。なお、図1に示す例では、グレーティング基板1と金属薄膜2とは、セル4に覆われておらず、外部に露出した構成となっているため、この場合は、グレーティング基板1の一部が透過光Lを放出する出射部8を構成する。

【0033】
ここで、入射光Lは、図1に示すように、基板1の平面に垂直な面nに対して傾斜して入射してもよく、入射面と垂直な面nとの角度を入射角θと呼ぶ。p偏光された入射光Lの電場は、この入射面内を振動しながらセル4内に入射することになる。なお、入射面に対して垂直に振動する電場を有する入射光はs偏光と呼ぶ。

【0034】
図1に示す例では、入射光Lは、光照射器21から発せられ、図示しない偏光板等によってp偏光された白色光であり、グレーティング基板1等の設置面に垂直な面nに対して角度θを有するように受光部7に入射する。入射光Lは白色光に限定されるわけではない。

【0035】
一方、デバイス10中の構成要素1~4を透過して出射部8から出た透過光Lは、透過光検出器22にて透過光Lの波長や強度が検出される。

【0036】
デバイス10は、さらに、電位制御手段6(例えば、ポテンショスタット)を備える。本実施例の電位制御手段6では、金属薄膜2に接続された作用電極Wと、液体媒体(例えば、電解質)5に接続された参照電極Rと対電極Cとを備えている。このような構成をなす電位制御手段6は、作用電極Wが接続された金属薄膜2の電位を、参照電極Rに接続された液体媒体5の電位を基準として任意に規制(制御)することができる。

【0037】
(複素誘電率の変化と透過光の強度との関係)
ところで、ポリアニリン(PANI)等からなる導電性高分子層3は「ドープ状態」と「脱ドープ状態」と呼ばれる二つの状態を取る。ドープ状態とは、金属薄膜2に接続された作用電極Wが正の電位を持つように設定すると、ポリアニリンは電子が不足してプラスの電荷を持ち、このプラスの電荷を中和するために陰イオン(つまり、アニオン)を取り込んだ状態であり、伝導性を持つようになる。一方、脱ドープ状態とは、作用電極Wが負の電位を持つように設定すると、ポリアニリンは電荷を持たず、先のドープ状態において取り込まれていた陰イオン(アニオン)が溶液中に放出された状態であり、絶縁性を持つようになる。つまり、ポリアニリン等の導電性高分子は、作用電極Wで任意に設定可能な各状態(ドープ状態と脱ドープ状態)に応じてその誘電率(複素誘電率)が可逆的に変化することになる。ここで、誘電率として、導電性高分子は一般にドープ状態の変化により近紫外~近赤外領域において光吸収の変化を伴うため、この光吸収(すなわち、消衰係数)の変化も含む(光学的)複素誘電率の用語を使用している。

【0038】
導電性高分子層3における可逆的な状態の変化(ドープ状態と脱ドープ状態との可逆的な状態変化)は、多くの場合、電気化学的に行われ、共役系高分子とドーパント或いは電極との間に電子の授受が行われることにより、金属(導電体)‐絶縁体の転移を起こし、導電性高分子層3の光学特性(例えば、複素誘電率)が変化するのである。また、導電性高分子(特に、ポリアニリン(PANI)やポリエチレンダイオキシチオフェン(PEDOT))は、可視光領域付近にエネルギーバンドギャップを有し、上記可逆的な状態変化(ドープ状態と脱ドープ状態との状態変化)によりそのバンド状態が変化し、透過光Lの吸収特性が変化する。このエレクトロクロミズムにより、光学特性が大きく変化する。

【0039】
金属薄膜2表面に励起する表面プラズモン共鳴励起現象は、数nm~数十nmの非常に薄い膜材が金属薄膜2表面上にさらに存在(堆積)することで、共鳴励起条件が異なってくる。また、この共鳴励起条件はこの膜材の複素誘電率の変化に応じて高感度に変化するため、金属薄膜2上に存在する膜材の複素誘電率を制御することで、表面プラズモン共鳴励起条件を制御することが可能となる。言い換えれば、金属薄膜2上に存在する導電性高分子薄膜(層)3のドープ状態を制御することで、透過光Lの波長や強度を制御することが可能となる。

【0040】
デバイス10の一構成要素である導電性高分子層3の複素誘電率の変化が、デバイス10を透過する透過光Lの強度に及ぼす影響を検討するため、以下のようなシミュレーションを行った。

【0041】
シミュレーションのモデルについて説明する。グレーティング基板1として、溝の深さ55.5nm、幅370nm、ピッチ740nmの各寸法を有したポリカーボネート製基板を想定した。金属薄膜2として、約37nmの厚さを有した金(Au)薄膜を想定した。導電性高分子層3として、約18.5nmの厚さを有したポリアニリン薄膜を想定した。また、導電性高分子層3におけるドープ状態と脱ドープ状態とにおける複素誘電率の入力値として、本発明者らが以前実測した波長分散特性(波長範囲(λが480nm~800nm)に対応した複素誘電率変化の実測結果)を使用した。

【0042】
図2は、上述のように、グレーティング基板1/金属薄膜2上にポリアニリン層3が堆積されたモデルを用いてp偏光の光を入射した場合に、その複素誘電率の変化(ドープ状態と脱ドープ状態を仮定)と透過光Lの強度と関係を示した図である。ここで、図2の横軸は波長(単位はnm)を示し、縦軸は透過光強度(任意単位、図示ではa.u.)を示す。なお、後述の図3及び図4の横軸及び縦軸も表記も同様である。図2に示すシミュレーション結果のように、導電性高分子層3の上記状態の変化に伴って、透過光Lの強度が大きく変化することが分かる。

【0043】
これは、導電性高分子層3の複素誘電率が変化すると、この導電性高分子層3を透過する透過型表面プラズモンによって導電性高分子層3とこれに隣接する要素(電解質5や金属薄膜2)との界面に生じる電場の大きさも異なってくるからであると考えられる。

【0044】
(金属薄膜の電位の変化と表面プラズモン共鳴異常透過光の強度との関係)
実際に本発明のデバイス10を以下のように作製し、図1で示したような測定系を用いて金属薄膜2の電位に応じた表面プラズモン共鳴異常透過光特性(後述するT-SPR強度)を評価した。
【実施例1】
【0045】
(実施例1:導電性高分子がPANIであり、θ=0°の場合)
実施例1では、溝の深さが約130nm、幅が約370nm、ピッチが約740nmであるポリカーボネート製記録媒体(DVD-R、太陽誘電株式会社製)をグレーティング基板1として利用した。金属薄膜2として、約50nmの厚さを有した金(Au)薄膜をこの基板1上に真空蒸着法を用いて堆積した。導電性高分子層3として、約20nmの厚さを有したポリアニリン(PANI)薄膜をこの金(Au)薄膜上に電解重合法を用いて堆積した(実施例1)。なお、所望の膜厚を形成するためには電解重合法での全工程を繰り返し行う必要があるが、本実施例の約20nmの膜厚形成には、10サイクル程必要であった。
【実施例1】
【0046】
以上のように構成した金属薄膜2に作用電極Wを接続しつつ、電解質5に参照電極Rと対電極Cとを接続したポテンショスタット6を操作して、電解質5の電位を基準として金属薄膜2の電位を変化させて、異なる電位での透過光の強度を測定した。
【実施例1】
【0047】
なお、実施例1及び後述するこれ以降の実施例では、光照射器21から本発明のデバイス10に向けて発射する入射光Lの入射角θは0°とした。また、透過光強度の測定結果の検討に際しては、表面プラズモンが励起しないs偏光を入射した際に測定された強度をベースライン強度と定義し、実際の測定強度(つまり、p偏光の入射光を用いた場合)からベースライン強度を差し引いた強度を表面プラズモン共鳴異常透過光強度(以下、単に「T-SPR強度」とも呼ぶ。)と定義する。実施例1及びこれ以降の実施例では、T-SPR強度を用いて、透過光Lのピークや強度の挙動や傾向を分析・検討した。
【実施例1】
【0048】
図3は、以上のように金属薄膜2を種々異なる電位で一定に保った条件下で、表面プラズモン共鳴異常透過光の強度を測定した結果を示した図である。実施例1では、図3に示すように、金属薄膜2の電位を所定の範囲(例えば、-0.2V~-0.3Vの範囲)に設定すると、740nm前後の狭い波長域(横軸)で約10000~11200任意単位のT-SPR強度(縦軸)を有すること、つまり、鋭いピークを持つ透過光Lが得られることが分かる。
【実施例1】
【0049】
また、金属薄膜2の電位の変化(例えば、+0.5Vから—0.3Vへと変化)に伴い、T-SPR強度のピークを大きく変化させ得ること(例えば、ピーク強度は約4500任意単位から約11200任意単位へと変化)が確認された。つまり、本発明のデバイス10は、高いピーク強度を有した透過光Lの放出の可否(ON/OFF)を実質的に選択(スイッチング)できるといえる。また、図3の結果より、僅かではあるが、ピーク波長を変化させ得ること(例えば、+0.1Vではピーク波長は約735nmだが、-0.3Vではピーク波長は約745nm)が分かる。
【実施例2】
【0050】
(実施例2:導電性高分子がPEDOTであり、θ=0°の場合の場合)
実施例2では、グレーティング基板1として、溝の深さが約100nm、幅が約370nm、ピッチが約740nmの溝構造が周期的に並んだチオレン製基板を用意した。具体的には、実施例1で説明したような周期的な溝構造を有した記録媒体(DVD-R、太陽誘電株式会社製)上に、紫外線硬化接着剤(チオレン素材)を滴下する。その接着剤の上側からガラス板で蓋をして、紫外線を照射する。接着剤の硬化終了後、DVD-Rの周期的な溝形状が転写された板状のチオレンからDVD-Rを剥がすことで基板1を作製した。実施例2では、導電性高分子としてポリエチレンダイオキシチオフェン(PEDOT)を用いるが、PEDOTと共に有機溶媒を利用する。実施例1で使用したDVD-Rのようなポリカーボネート製基板では有機溶媒に溶けてしまうため、実施例2では、転写技術により有機溶媒にとけないチオレン製基板を作製した。
【実施例2】
【0051】
金属薄膜2として、約50nmの厚さを有した金(Au)薄膜と10nmの厚さを有したクロム(Cr)薄膜とをこの基板1上に真空蒸着法を用いて堆積した。導電性高分子層3として、約20nmの厚さを有したポリエチレンダイオキシチオフェン(PEDOT)薄膜をこの金属薄膜2上に電解重合法を用いて堆積した(実施例2)。
【実施例2】
【0052】
金属(Au/Cr)薄膜2に作用電極Wを接続しつつ、電解質5に参照電極Rと対電極Cとを接続したポテンショスタット6を操作して、電解質5の電位を基準として金属薄膜2の電位を変化させて、異なる電位でのT-SPR強度を測定した。なお、電位の制御や測定系は実施例1と同様であり、入射光Lの入射角θも同様に0°とした。
【実施例2】
【0053】
図4は、実施例2に係る透過光制御デバイス10を使用した場合における透過光の波長とT-SPR強度との関係を示す。この図4に示すように、透過光のピーク波長は、作用電極W(金属薄膜2)の電位を変化させること(言い換えれば、導電性高分子層(PEDOT薄膜)3の複素誘電率を変化させること)により、560nm近傍から710nm近傍まで可逆的に大幅にシフトすることが確認できた。また、PEDOT薄膜3をドープ状態と脱ドープ状態との間に変化させる過程で、ピーク波長のT-SPR強度が約5000任意単位から約3000任意単位まで低下していることが観察された。これにより、金属薄膜2の電位を変化させることにより、デバイス10を透過する光のピーク波長をシフトできるだけでなく、ピーク波長の光強度も同時に増減させることができることが確認された。
【実施例3】
【0054】
(実施例3:導電性高分子がPEDOTであり、θ=25°の場合)
実施例3では、光照射器21から本発明のデバイス10に向けて発射する入射光Lの入射角θの影響を把握するため、入射角θを25°に設定した。この点以外の測定系やデバイス構造は、実施例2の場合と同様であり、ここではその説明を省略する。
【実施例3】
【0055】
図5は、実施例3に係る透過光制御デバイス10を使用した場合における透過光Lの波長とT-SPR強度との関係を示す。この図5に示すように、透過光のピーク波長は、作用電極W(金属薄膜2)の電位を変化させること(言い換えれば、PEDOT薄膜3の複素誘電率を変化させること)により、実施例2と同様にピーク波長のシフトが確認された。実施例3の場合では、特に、ドープ状態である+0.5Vの電位では、680nm近傍で一つのピーク波長が観測されたが、脱ドープ状態である-1.0Vの電位では、互いに光強度の異なるピーク波長がそれぞれ750nm近傍と830nm近傍で観測されたことが興味深い。
【実施例3】
【0056】
また、実施例2の電位が+0.5Vの場合(図4参照)と、実施例3の電位が-1.0Vの場合(図5参照)と、を比較すると、ピーク波長は約560nmから約830nmに変化しており、ピーク波長のシフト量は250nmを超えていることが分かる。なお、実施例2及び実施例3のどちらの場合も、上述したとおり、使用したデバイス10や測定系は同一であり、入射角θを変化させただけである。従って、デバイス10を一旦作製した後でも、金属薄膜2の電位や入射角θを適宜変化させるだけで、このようなピーク波長の大幅なシフト量を得られることの意義は大きい。
【実施例3】
【0057】
(サイクル試験)
また、上記の実施例1~3のデバイス10について、金属薄膜2の電位を+0.5Vから-1.0Vまで変化させてから元の+0.5Vまで戻す操作を1サイクルとして、これを3サイクル行い、各サイクル中の透過光強度を観測した。この結果、どのサイクルにおいても同様の強度結果を示した。これから、本発明のデバイス10は、金属薄膜2の電位を繰り返し変化させることで、毎回同じレベルのドープ状態と脱ドープ状態とを導電性高分子3に繰り返し発現させられるため、透過光強度の可逆的変化を実現できることが判明した。
【実施例4】
【0058】
(実施例4:導電性高分子がPANIであり、膜厚が厚い場合)
実施例4の制御デバイス10について説明する。実施例4のグレーティング基板1として、溝の深さが約40nm、ピッチが約320nmであるポリカーボネート製記録媒体(BD-R、太陽誘電株式会社製)を利用した。金属薄膜2として、実施例1と同様の製法で、約50nmの厚さを有した金(Au)薄膜をこの基板1上に堆積した。
【実施例4】
【0059】
実施例4では、導電性高分子を実施例1と同様にPANIを使用したが、その厚さを実施例1よりも増加させていることに留意されたい。具体的には、電解重合法の工程を28サイクル程行い、実施例1の約3倍の厚さ(約60nm)の導電性高分子層3を形成した。
【実施例4】
【0060】
図6は、実施例4に係る透過光制御デバイス10を使用した場合における透過光の波長とT-SPR強度との関係を示す。この図6から、金属薄膜2の電位の変化に応じた、段階的なピーク波長のシフトとピーク強度の増減とを観測することができる。特に、T-SPR強度の増減が最大で約6倍も変化する(つまり、電位が0.8Vから-0.2Vに変化させた場合、約1000任意単位から約6000任意単位に変化する)ことが分かる。これにより、デバイス10の作製前ではあるが、導電性高分子層3の膜厚を所望の厚さに形成しておけば、透過光Lのピーク強度を顕著に変化可能な透過光制御デバイス10を提供することができるといえよう。
【実施例5】
【0061】
(実施例5:バイオセンサーへの応用)
次に、本発明の技術思想をバイオセンサー10に応用した実施例5について説明する。実施例5のバイオセンサー10は、基本的には図1に示した構造とほぼ同様であるが、導電性高分子層3に隣接する液体媒体5として、実施例1~3で使用した電解質に替えて、緩衝液が使用されること、及び、この緩衝液中に検出したい対象物(図示せず)を注入することを特徴するものである。なお、入射角θを60°とした。
【実施例5】
【0062】
ここでは、導電性高分子層3、緩衝液5及び検出対象物として、それぞれ、PEDOT薄膜、リン酸緩衝液及びアスコルビン酸を使用した具体例を説明する。
【実施例5】
【0063】
先ず、このバイオセンサー10の検出原理から説明する。検体であるアスコルビン酸を緩衝液5中に未だ注入しない条件でのドープ状態及び脱ドープ状態での透過光強度プロファイルを把握する。つまり、ドープ状態では、導電性高分子層3内のアニオンはこの層3内に留まるのに対し、一方、脱ドープ状態での導電性高分子層3からはアニオンが緩衝液5中に移動する傾向がある。これにより、各状態での透過光強度プロファイルは一般に異なるものとなる。
【実施例5】
【0064】
次に、アスコルビン酸を緩衝液5中に注入した場合を想定する。緩衝液5中に注入されたアスコルビン酸は、アニオン(負に帯電したイオン)の役割を果たす。従って、導電性高分子層3を脱ドープ状態に設定しても、検体未注入条件でのセンサー10が振る舞う挙動と異なるものとなる。つまり、緩衝液5中にはアスコルビン酸(つまりアニオン)が存在するため、アスコルビン酸が大量に存在すればする程、アニオンは導電性高分子層3に居残ってしまう。従って、検体注入条件での脱ドープ状態の透過光強度プロファイルは、検体未注入条件でのプロファイルに比べて、ドープ状態の透過光Lに近い強度プロファイルを示すものと予想される。
【実施例5】
【0065】
なお、アスコルビン酸を緩衝液5中に注入した上で、導電性高分子層3をドープ状態にしても、導電性高分子層3のドナーは既に十分にアニオンドープされているために、アスコルビン酸の寄与は小さく、未注入条件下でのドープ状態と大差無いものと考えられる。従って、検体の注入の有無に依らず、透過光Lの強度プロファイルに大きな変化は無いものと考えられる。
【実施例5】
【0066】
実施例5のバイオセンサー10を実際に作製し、バイオセンサー10の測定性能を実証するための試験を行った。図7(a)は、ドープ状態でのセンサー10におけるT-SPR強度を示す。導電性高分子層3を上記ドープ状態にさせるために、金属薄膜2の電位を+0.3Vに設定した。図7(a)は、具体的には、バイオセンサー10に緩衝液(図中、「PBS ONLY」と実線を参照)のみ充填した場合(つまり、アスコルビン酸を注入しなかった条件)の強度の他に、濃度の異なるアスコルビン酸を注入した条件(図中、0.2mM(破線)と0.6mM(一点鎖線)、1mM(二点鎖線)で示す)の強度を示す。しかしながら、どの条件でも、ピークの波長は560nmであり、これら強度のプロファイルに殆ど大差はないことが分かる。
【実施例5】
【0067】
一方、図7(b)は、脱ドープ状態のセンサー10におけるT-SPR強度を示す。導電性高分子層3を上記ドープ状態にさせるために、金属薄膜2の電位を-1.0Vに設定した。なお、アスコルビン酸の濃度条件と図中への表記は図7(a)と同様である。この図7(b)から明らかなように、各条件でT-SPR強度のプロファイルが大きく異なることが観察された。加えて、アスコルビン酸が未注入の条件(図中、「PBS only」と実線を参照)において大きなピークを示していた波長域(760nm近傍)では、アスコルビン酸の濃度が高くなるに従って、光強度は徐々に減少していくことが観察された。これと同時にドープ状態の各条件でピークを示していた波長域(560nm近傍)で強度が増加していることが観察された。
【実施例5】
【0068】
以上の結果により、本発明によれば、検体の有無だけでなく、検体の注入濃度も確実に検出できる高感度バイオセンサー10を提供できることが実証された。また、上述のとおり、本発明のバイオセンサー10では、検体の検出に当たり、反射光の替わりに透過光Lを使用するため、反射光の取扱いの際に必要であった偏光板等の追加部材が不要であるため、小型かつ安価にすることが可能である。
【実施例5】
【0069】
なお、実施例5では、セル4中の静止した緩衝液5中に注入した検体の検出を前提としたが、例えば、セル4の一側に緩衝液5を導入する入口(図示せず)を設け、他側にセル4中を通過した緩衝液5を排出する出口(図示せず)を設け、セル4中及びその外側で検体を動的に流動できるようなバイオセンサー10を構築してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明のデバイスは、導電性高分子とその複素誘電率の変化とを利用し得られる透過光(特に、その波長と強度との関係)の制御を可能とするものである。本発明は、アクティブ・プラズモニック・ナノフィルター(色変調可能なカラーフィルター)等の変カラーフィルターへの利用に寄与するものと期待される。また、本発明は、フィルターに加え、携帯可能な小型バイオセンサー等のセンサー、エレクトロクロミックディスプレイ、エネルギー変換デバイス、太陽電池等への利用も期待される。
【符号の説明】
【0071】
1 グレーティング基板
2 金属薄膜
3 導電性高分子層
4 セル(電気化学セル)
5 液体媒体(電解質,緩衝液)
6 金属薄膜電位制御手段
7 受光部
8 出射部
10 透過光制御デバイス,バイオセンサー
C 対電極
R 参照電極
W 作用電極
入射光
透過光
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6