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Specification :ターゲット分子の検出方法及びこれに用いられるキット

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 公開特許公報(A)
Publication number 特開2019-144264 (P2019-144264A)
Date of publication of application 令和元年8月29日(2019.8.29)
Title of the invention, or title of the device ターゲット分子の検出方法及びこれに用いられるキット
IPC (International Patent Classification) G01N  33/543       (2006.01)
FI (File Index) G01N 33/543 545B
Number of claims or invention 4
Filing form OL
Total pages 13
Application Number 特願2019-082608 (P2019-082608)
Division of application 特願2016-549922 (P2016-549922)の分割、【原出願日】平成27年9月9日(2015.9.9)
Date of filing 平成31年4月24日(2019.4.24)
Application number of the priority 2014192311
Priority date 平成26年9月22日(2014.9.22)
Claim of priority (country) 日本国(JP)
Inventor, or creator of device 【氏名】野地 博行
Applicant 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
Representative 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
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Abstract 【課題】ターゲット分子の検出方法を提供する。
【解決手段】ターゲット分子1と、ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体3が修飾された担体2と、ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された二以上の抗体であって、酵素の基質特異性が互いに異なる第二の抗体41,42と、を反応させて、担体上に第一の抗体とターゲット分子と第二抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順と、酵素の切断部位71,72を有し、切断部位の一端側に蛍光物質81,82が結合され他端側に消色物質91,92が結合された二以上の基質であって、蛍光物質の蛍光波長が互いに異なる基質と、複合体と、を反応させて、蛍光物質から発せられる蛍光を検出する工程を含む。
【選択図】図3
Scope of claims 【請求項1】
ターゲット分子と、
前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された粒子と、
前記ターゲット分子に特異的に結合し、互いに異なる標識がされた二以上の第二の抗体と、
を反応させて、前記粒子上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二の抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順と、
前記標識からの信号を検出する検出手順と、
異なる二以上の前記標識からの前記信号を前記ターゲット分子の検出信号として処理する解析手順と、を含むターゲット分子の検出方法。
【請求項2】
前記複合体形成手順と前記検出手順との間に、基板上に形成された液滴のそれぞれに前記粒子を一つずつ封入する封入手順を含む、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記第一の抗体と前記第二の抗体が前記ターゲット分子の異なるエピトープに結合する、請求項1又は2記載の検出方法。
【請求項4】
デジタルELISA法である、請求項1-3のいずれか一項に記載の検出方法。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット分子の検出方法及びこれに用いられるキットに関する。より詳しくは、ターゲット分子を、担体上における該ターゲット分子と抗体との抗原抗体反応に基づいて検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の疾患の早期診断を目的として、生体サンプル中に低濃度に存在する疾病マーカー(バイオマーカー)を高感度に検出するためのバイオセンシング技術が求められている。例えば、体積1mm3の腫瘍に含まれる100万個の癌細胞のそれぞれからバイオマーカー100分子が5Lの血中に分泌された場合、バイオマーカーの血中濃度は30aM程度となる。このような非常に低濃度のターゲット分子を検出可能な技術が求められている。
【0003】
非特許文献1には、一分子の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いてタンパク質を検出する方法が記載されている。この方法では、タンパク質特異的な抗体で覆われた微細なビーズによって微量のタンパク質を捕捉し、ビーズとタンパク質との複合体を蛍光標識させる。この複合体を含むビーズを遠心力によって反応チャンバーに導入し、タンパク質を捕捉しているビーズの数を数えることによって、タンパク質を定量的に測定する。
【0004】
特許文献1には、「一分子デジタル計数デバイス」として、超高密度に微小な液滴を形成可能なアレイデバイスが開示されている。ELISAを微小な体積の液滴中で行うことで、ターゲット分子からのシグナルを2値化して測定を行うことができる(デジタルELISA法)。具体的には、まず、ターゲット分子、捕捉抗体を表面修飾したビーズ、及び検出抗体を反応させ、ビーズ表面上に「捕捉抗体-ターゲット分子-検出抗体」の複合体を形成させる。ターゲット分子の濃度が低い場合、個々のビーズは、複合体を1分子のみ結合しているか、全く結合していないかのどちらかになる。次に、アレイデバイスに形成した多数の微小液滴のそれぞれにビーズを1つずつ封入する。そして、検出抗体に由来するシグナルを発する液滴の数をターゲット分子の数としてカウントする。これにより、ターゲット分子からのシグナルを0か1に2値化して、ターゲット分子の検出及び定量を高感度かつ高精度に行うことができる。
【0005】
本発明に関連して、特許文献2には、酵素免疫検査法において、目的物質と反応する抗体の標識として制限酵素を用い、制限酵素の切断塩基配列を有するDNA鎖を複合体の制限酵素により切断し、該切断されたDNA鎖断片を分析して測定することにより目的物質を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第2012/121310号
【特許文献2】特開平7-270418号公報
【0007】

【非特許文献1】David M Rissin et al., Nature Biotechnology:doi: 10.1038/nbt.1641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにターゲット分子をELISAによる一分子デジタル計数によって測定する場合、ビーズへ非特異的に吸着した検出抗体に由来するノイズが生じると、ターゲット分子からのシグナルを正確に2値化できず、定量性が低下する。
【0009】
そこで、本発明は、検出抗体の非特異的吸着により生じるノイズを排除して、ターゲット分子からのシグナルを高感度かつ高精度に検出するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]ターゲット分子と、
前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、
前記ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された二以上の抗体であって、前記酵素の基質特異性が互いに異なる第二の抗体と、
を反応させて、前記担体上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順と、
前記酵素の切断部位を有し、該切断部位の一端側に蛍光物質が結合され他端側に消色物質が結合された二以上の基質であって、前記蛍光物質の蛍光波長が互いに異なる基質と、
前記複合体と、
を反応させて、前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する検出手順と、を含むターゲット分子の検出方法。
[2]蛍光波長の異なる二以上の蛍光の検出信号を前記ターゲット分子の検出信号として処理する解析手順を含む、[1]の検出方法。
[3]前記複合体形成手順と前記検出手順との間に、基板上に形成された液滴のそれぞれに前記担体を一つずつ封入する封入手順を含む、[1]又は[2]の検出方法。
[4]前記担体がマイクロビーズである[1]~[3]のいずれかの検出方法。
[5]前記第一の抗体と前記第二の抗体が前記ターゲット分子の異なるエピトープに結合する[1]~[4]のいずれかの検出方法。
[6]デジタルELISA法である[1]~[5]のいずれかの検出方法。
[7]ターゲット分子と、
前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、
前記ターゲット分子に特異的に結合し、互いに異なる標識がされた二以上の第二の抗体と、
を反応させて、前記担体上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順と、
前記標識からの信号を検出する検出手順と、
異なる二以上の前記標識からの前記信号を前記ターゲット分子の検出信号として処理する解析手順と、を含むターゲット分子の検出方法。
【0011】
[8]ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、
前記ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された二以上の抗体であって、前記酵素の基質特異性が互いに異なる第二の抗体と、前記酵素の切断部位を有し、該切断部位の一端側に蛍光物質が結合され他端側に消色物質が結合された二以上の基質であって、前記蛍光物質の蛍光波長が互いに異なる基質と、
を含んでなる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ターゲット分子を、担体上における該ターゲット分子と抗体との抗原抗体反応に基づいて検出する方法において、検出抗体の担体への非特異的吸着により生じるノイズを排除して、ターゲット分子からのシグナルを高感度かつ高精度に検出するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】複合体形成手順で形成される複合体を説明するための図である。
【図2】封入手順において微小液滴に封入されたマイクロビーズを説明するための図である。
【図3】検出手順における複合体とプローブとの反応を説明するための図である。
【図4】複合体形成手順で形成される複合体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0015】
本発明に係るターゲット分子の検出方法は、以下の手順を含む。ここでは、本発明に係るターゲット分子の検出方法を、ELISAによる一分子デジタル計数(デジタルELISA法)に適用した実施形態を例として、各手順を説明する。
(1)ターゲット分子と、前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、前記ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された二以上の抗体であって、前記酵素の基質特異性が互いに異なる第二の抗体と、を反応させて、前記担体上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順。
(2)基板上に形成された液滴のそれぞれに前記担体を一つずつ封入する封入手順。
(3)前記酵素の切断部位を有し、該切断部位の一端側に蛍光物質が結合され他端側に消色物質が結合された二以上の基質であって、前記蛍光物質の蛍光波長が互いに異なる基質と、前記複合体と、を反応させて、前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する検出手順。
(4)蛍光波長の異なる二以上の蛍光の検出信号を前記ターゲット分子の検出信号として処理する解析手順。

【0016】
本発明に係る検出方法において、検出対象とするターゲット分子は、抗原-抗体反応により抗体と結合する物質であればよく、特には、細菌及び真菌等の微生物、ウイルス、タンパク、核酸、糖及びにこれらの複合物等の生体分子とされる。また、検出対象とするターゲット分子は、1種類に限られず、2種類以上のターゲット分子を同時に検出することもできる。例えば、タンパクAに対する第一抗体及び第二抗体と、タンパクBに対する第一抗体と第二抗体の、四種類の抗体を用いることで、タンパクAとタンパクBの二種類のターゲット分子を区別可能に同時検出できる。

【0017】
1.複合体形成手順
複合体形成手順では、ターゲット分子と、前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、前記ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された第二の抗体と、を反応させて、前記担体上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二の抗体とからなる複合体を形成させる。第二の抗体には、基質特異性が互いに異なる酵素が標識された二以上の抗体が用いられる。

【0018】
「基質切断活性を有する酵素」は、基質の切断による蛍光物質と消色物質の解離(詳しく後述する)を実現し得るものであれば特に限定されない。「基質切断活性を有する酵素」としては、例えば、EC番号(酵素番号、Enzyme Commission Number)でEC2に分類される転移酵素、EC3に分類される加水分解酵素及びEC4に分類される付加脱離酵素に属する酵素を用いることができる。具体的な酵素とその基質(及び基質中の切断部位)の組み合せとしては例えば以下が挙げられる。

【0019】
【表1】
JP2019144264A_000003t.gif

【0020】
図1に複合体形成手順で形成される複合体を示す。本手順では、まず、ターゲット分子1に特異的に結合する第一の抗体3が修飾された担体2と、ターゲット分子1に特異的に結合し、酵素51,52が標識された第二の抗体41,42を用意する。

【0021】
本発明において、「抗体が特異的に結合する」とは、抗原(ここではターゲット分子1)に結合することができるが、他の物質とは結合しないか結合が弱いことを意味する。また、「結合が弱い」とは、抗原に対する結合親和性に比して、他の物質への結合親和性が区別可能に十分低いことを意味する。抗体の結合親和性(アフィニティー)は、例えばSurface plasmon resonance(SPR)法等の公知の手法によって測定できる。

【0022】
第一の抗体3は、ターゲット分子1を担体2上に捕捉するために機能する。第二の抗体41,42は、担体2上に捕捉されたターゲット分子1を光学的に検出可能とするために機能する。第一の抗体3と第二の抗体41,42は、ターゲット分子1の異なるエピトープに結合することが好ましい。換言すると、第一の抗体3のエピトープ、第二の抗体41のエピトープ及び第二の抗体42のエピトープは全て異なることが好ましい。以下、第一の抗体3を「捕捉抗体3」、第二の抗体を「検出抗体41,42」とも称する。

【0023】
担体2としては、マイクロビーズが汎用されている。以下、「担体2」を「マイクロビーズ2」とも称するものとする。本発明において、「マイクロビーズ」は、「粒子」と同義に用いられ、当技術分野において慣用の技術用語である。マイクロビーズの形状は、特に限定されないが、通常球形とされる。マイクロビーズの材料も、特に限定されず、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メンブレン及び磁性体などであってよい。具体的な材料として、セルロース、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルとアクリルアミドとのコポリマー、ジビニルベンゼンン等と架橋されたポリスチレン、ポリアクリルアミド、ラテックスゲル、ポリスチレンデキストラン、ゴム、ケイ素、プラスチック、ニトロセルロース、セルロース、天然スポンジ、シリカゲル、ガラス、金属プラスチック、セルロース、架橋デキストラン(Sephadex(商標))およびアガロースゲル(セファロース(商標))などが挙げられる。ビーズは、多孔性であってもよい。ビーズは、平均粒子径5μm以下であることが好ましく、例えば1μm~4μm程度とされる。なお、平均粒子径は、例えば電子顕微鏡観察又は動的光散乱法を用いて測定することができる。

【0024】
マイクロビーズ2への捕捉抗体3の修飾は、マイクロビーズ2の表面にある修飾基にリンカーを介して捕捉抗体3を結合させることにより行う。例えば、アミノ基修飾ビーズの表面にあるアミノ基に、N-ヒドロキシスクシニミド(N—hydroxysuccinimide)等を持つ架橋剤を介して捕捉抗体3を共有結合させる。

【0025】
検出抗体41,42に標識される酵素51,52は、基質特異性が互いに異なるものとされる。ここで、「基質特異性」とは、酵素によって触媒される基質の切断において、当該酵素が当該基質以外の物質の切断を触媒しないか触媒の程度が十分に弱いことを意味する。「基質特異性が互いに異なる酵素」として、例えば、酵素51としてエステラーゼを用いる場合、酵素52には、エステル結合を切断部位としない酵素であるグルコシダーゼやフォスファターゼなどを用いる。

【0026】
また、酵素と基質の組み合わせとして制限酵素と核酸鎖を採用する場合には、基質特異性が互いに異なる酵素51,52として、認識配列(切断部位)が互いに異なる酵素を用いる。制限酵素としては、例えば、AccI、AluI、ApaI、BamHI、BglII、BssHII、BstEII、ClaI、DdeI、DraI、EcoRI、EcoRV、HaeIII、HincII、HindIII、HpaI、HpaII、KpnI、MluI、NarI、NcoI、NdeI、NheI、NotI、PstI、PvuI、PvuII、RsaI、SacI、SalI、ScaI、SmaI、SpeI、SphI、SspI、StuI、XbaI、XhoI等を挙げることができる。酵素51,52には、これらのうち基質特異性が異なる2つの酵素を任意に組み合わせて用いることができる。以下では、酵素51,52として制限酵素を用いる例を主に説明し、酵素51,52を「制限酵素51,52」とも称するものとする。

【0027】
検出抗体41,42への制限酵素51,52の標識は、架橋剤(クロスリンカー試薬)を用いて検出抗体41,42と制限酵素51,52との間に架橋構造を形成させることにより行うことができる。

【0028】
次に、本手順では、ターゲット分子1と、捕捉抗体3が修飾されたマイクロビーズ2と、制限酵素51,52が標識された検出抗体41,42と、を反応させる。反応により、マイクロビーズ2上に捕捉抗体3とターゲット分子1と検出抗体41,42とからなる複合体が形成される(図1A参照)。ターゲット分子1、マイクロビーズ2及び検出抗体41,42の反応は一段階で行っても二段階で行ってもよい。すなわち、ターゲット分子1、マイクロビーズ2及び検出抗体41,42は同時に反応させてもよいし、ターゲット分子1とマイクロビーズ2を反応させた後、捕捉抗体3に結合しなかったターゲット分子1を除去するためにマイクロビーズ2を洗浄してから、マイクロビーズ2と検出抗体41,42を反応させてもよい。

【0029】
ターゲット分子1、マイクロビーズ2及び検出抗体41,42の反応は、適当な溶液中でこれらを接触させることによって行えばよく、従来公知の酵素結合免疫吸着アッセイと同様の条件で行うことができる。ターゲット分子1の濃度が低い場合、反応後の個々のマイクロビーズ2は、1分子の複合体のみを有するか、全く有さないかのどちらかになる。

【0030】
後述する検出手順においては、本手順で形成された複合体を表面に有するマイクロビーズ2と、蛍光物質が結合された基質と、を接触させ、検出抗体41,42に標識された制限酵素51,52により該基質が切断されて生じる蛍光を検出する。この際、検出抗体41,42のマイクロビーズ2への非特異的な吸着が生じると、非特異的に吸着した検出抗体41,42を表面に有するマイクロビーズ2からも、基質の切断による蛍光が生じることとなる。

【0031】
ここで、「抗体が非特異的に吸着する」とは、抗体が、抗原を含む物質のうち抗原ではない部分に吸着したり、抗原を含まない物質に吸着したりすることを意味し、抗原-抗体反応によらず物質に吸着することを指すものとする。

【0032】
図1B,Cは、複合体形成手順で生じ得る、検出抗体41,42のマイクロビーズ2への非特異的な吸着を示す。図1Bには、検出抗体41及び検出抗体42のいずれか一方がマイクロビーズ2の表面に非特異的に吸着している状態を示す。また、図1Cには、検出抗体41及び検出抗体42の両方がマイクロビーズ2の表面に非特異的に吸着している状態を示す。複合体形成手順では、図1Aに示す目的とする複合体形成以外にも、図1B,Cに示すような検出抗体41,42の非特異的吸着が生じ得る。

【0033】
図1Cに示す検出抗体41及び検出抗体42の両方の非特異的吸着が生じる頻度は、図1Bに示すいずれか一方の抗体の非特異吸着が生じる頻度に比べて十分に小さく、ターゲット分子1の検出精度にほとんど影響を与えない。例えば、マイクロビーズ2の1%で検出抗体41の非特異吸着が生じ、同様にマイクロビーズ2の1%で検出抗体42の非特異吸着が生じると仮定すると、検出抗体41及び検出抗体42の両方の非特異吸着が生じる頻度は0.01%に過ぎない。後述する解析手順では、蛍光波長の異なる二以上の蛍光の検出信号をターゲット分子1の検出信号(シグナル)として処理することによって、図1Bに示す非特異的吸着により生じる蛍光の検出信号に起因するノイズを排除する。

【0034】
2.封入手順
封入手順では、基板上に形成された液滴にマイクロビーズ2を封入する。本手順は、本発明に係るターゲット分子の検出方法をデジタルELISA法に適用した場合に行われる手順であり、本発明に係る検出方法の必須の手順となるものではない。

【0035】
本手順では、解析手順においてターゲット分子1からのシグナルを0か1で2値化するため、マイクロビーズ2を1つのみ収容可能な微小体積の液滴中に、マイクロビーズ2を一つずつ封入する。微小液滴の形成及び微小液滴へのマイクロビーズ2の封入は、例えば、特許文献1に開示された一分子デジタル計数デバイスを好適に用いることができる。この一分子デジタル計数デバイスによれば、基板上において、超高密度に微小な液滴を形成しながら、同時に液滴中にマイクロビーズ2を封入させることができる。複合体形成手順後のマイクロビーズ2は、ターゲット分子1に結合しなかった検出抗体41,42を除去するために洗浄を行った後、適当な溶媒に再懸濁し、本手順に供してもよい。

【0036】
複合体形成手順後のマイクロビーズ2は、複合体を形成したマイクロビーズ(図1A参照)と、複合体を形成してないマイクロビーズの混合物である。さらに、複合体を形成していないマイクロビーズには、検出抗体41,42が非特異的に吸着したマイクロビーズ(図1B,C参照)が含まれる。

【0037】
図2に、微小液滴に封入されたマイクロビーズ2を示す。基板A上に形成された液滴Dのそれぞれにマイクロビーズ2が一つずつ封入されている。複合体形成手順における反応の際、ターゲット分子1の濃度が低い場合には、個々のマイクロビーズ2は、1分子の複合体のみを有するか、全く有さないかのどちらかになる。図では、表面に複合体が形成されたマイクロビーズを符号21で、複合体が形成されていないマイクロビーズを符号22で示した。マイクロビーズ21は図1Aに示す状態のビーズであり、マイクロビーズ22には図1B又はCに示した状態のビーズが含まれる。以下、複合体を形成したマイクロビーズ2を「マイクロビーズ21」、複合体を形成していないマイクロビーズ2を「マイクロビーズ22」と表記する。

【0038】
3.検出手順
検出手順では、制限酵素51,52の認識配列を有し、切断部位となる該認識配列の一端側に蛍光物質が結合され他端側に消色物質が結合された基質(以下「プローブ」とも称する)と、複合体形成手順においてマイクロビーズ2の表面に形成された複合体とを反応させて、蛍光物質から発せられる蛍光を検出する。

【0039】
図3に、本手順におけるプローブと複合体との反応を示す。反応には、異なる蛍光波長の蛍光物質が結合された2以上のプローブを用いる。具体的には、図中符号61で示すプローブは、検出抗体41に標識された制限酵素51の切断部位71を含み、切断部位71を挟んで一方の領域に蛍光物質81が結合され、他方の領域に消色物質91が結合されている。また、図中符号62で示すプローブは、検出抗体42に標識された制限酵素52の切断部位72を含み、切断部位72を挟んで一方の領域に蛍光物質82が結合され、他方の領域に消色物質92が結合されている。

【0040】
制限酵素51,52は基質特異性が異なるので、切断部位71,72も互いに異なる塩基配列とされる。また、プローブ71,72の蛍光物質81,82には、互いに蛍光波長が異なり、光学的に区別して検出可能な蛍光物質が用いられる。

【0041】
ここで、酵素と基質の組み合わせとして制限酵素と核酸鎖の組み合せ以外を採用する場合であって、例えば酵素51にエステラーゼ、酵素52にグルコシダーゼを用いる場合には、プローブ61には、検出抗体41に標識されたエステラーゼの切断部位71(エステル結合)を含み、切断部位71を挟んで一方の領域に蛍光物質81が結合され、他方の領域に消色物質91が結合されたものを用いる。また、プローブ62には、検出抗体42に標識されたグルコシダーゼの切断部位72(グリコシド結合)を含み、切断部位72を挟んで一方の領域に蛍光物質82が結合され、他方の領域に消色物質92が結合されたものを用いる。

【0042】
消色物質91,92は、蛍光物質81,82との間でエネルギー移動が可能な一定の距離内に位置する状態で、蛍光物質81,82の発光を阻止する(クエンチング)。蛍光物質81,82及び消色物質91,92には、リアルタイム定量PCRなどの核酸の光学検出技術において汎用されている蛍光物質とクエンチャーを用いることができる。蛍光物質とクエンチャーの組みわせとしては、例えば、Alexa Fluor(登録商標)488(インビトロジェン社製)、ATTO 488(ATTO-TEC GmbH社製)、Alexa Fluor(登録商標)594(インビトロジェン社製)及びROX(Carboxy-X-rhodamine)からなる群より選択される蛍光物質とBHQ(登録商標、Black hole quencher)-1又はBHQ(登録商標)-2との組み合わせ等が挙げられる。また、フルオレセインとDABCYLとの組み合わせ等が挙げられる。汎用されている蛍光物質とクエンチャーの組み合わせを以下の表に示す。

【0043】
【表2】
JP2019144264A_000004t.gif

【0044】
反応は、微小液滴Dに封入されたマイクロビーズ2に、プローブ61,62を接触させることにより行う。具体的には、例えば、複合体形成手順後に洗浄を行ったマイクロビーズ2を、プローブ61,62を含む溶液に再懸濁することで、これらを接触させる。また、反応は、制限酵素51,52の種類に応じて適した組成のバッファーを用いて行うことが好ましく、封入手順においてこのようなバッファーを用いて微小液滴を形成しておくことが好ましい。なお、各種制限酵素に最適化されたバッファーは、制限酵素と組み合わされて市販されている。

【0045】
微小液滴Dにマイクロビーズ21が封入されている場合、複合体を形成する検出抗体41に標識された制限酵素51によりプローブ61の切断部位71が切断される。切断部位71が切断されると、プローブ61が断片61aと断片61bとに切断され、蛍光物質81が消色物質91から解離して発光可能な状態となる。同様に、複合体を形成する検出抗体42に標識された制限酵素52によりプローブ62の切断部位72が切断されると、蛍光物質82も消色物質92から解離して発光可能な状態となる。

【0046】
蛍光の検出は、マイクロビーズ2が封入された各微小液滴からの蛍光を蛍光顕微鏡、イメージセンサ等を用いて検出することによって行う。

【0047】
また、本手順においては、各微小液滴にマイクロビーズ2が収容されているか否かをも検出することが好ましい。当該検出は、例えば顕微鏡下においてマイクロビーズ2の有無を観察することにより行うことができ、マイクロビーズ2による散乱光を検出する方法、電界効果トランジスタ(FET)による電位計測を利用する方法などによっても行うことができる。

【0048】
4.解析手順
解析手順では、蛍光波長の異なる二以上の蛍光の検出信号をターゲット分子1の検出信号として処理し、ターゲット分子1の検出信号を発する微小液滴Dの数をターゲット分子の数としてカウントする。

【0049】
複合体形成手順における反応の際、ターゲット分子1の濃度が低い場合には、個々の微小液滴Dに封入されたマイクロビーズ2は、1分子の複合体のみを有するマイクロビーズ21か、全く有さないマイクロビーズ22かのどちらかであるので、ターゲット分子1の検出信号を発する微小液滴Dの数はターゲット分子1の数とみなすことができる。また、マイクロビーズ21及びマイクロビーズ22が封入された微小液滴Dの数と、マイクロビーズ21が封入された微小液滴Dの数とを用いて、マイクロビーズ2の全数のうちターゲット分子1を捕捉した数の割合を算出することができる。これにより、ターゲット分子の濃度を定量化することが可能となる。

【0050】
上述の通り、微小液滴Dにマイクロビーズ21が封入されていれば、蛍光物質81からの蛍光と、当該蛍光と波長が異なる蛍光物質92からの蛍光が検出される。図1Bに示したような検出抗体41又は検出抗体42がマイクロビーズ2の表面に非特異的に吸着しているのみで、複合体を形成していないようなマイクロビーズ22からは、蛍光物質81及び蛍光物質92のいずれか一方からの蛍光しか検出されない。従って、蛍光物質81及び蛍光物質92の両方の蛍光の検出信号をターゲット分子1の検出信号として処理することで、複合体を形成していないマイクロビーズ22から生じる蛍光の検出信号に起因するノイズを大幅に低減できる。これにより、ターゲット分子1の検出信号の2値化を高精度に行うことができ、ターゲット分子1の定量性を向上させることが可能となる。

【0051】
なお、図1Cに示したような検出抗体41及び検出抗体42の両方がマイクロビーズ2の表面に非特異的に吸着している場合にも、蛍光物質81及び蛍光物質92の両方の蛍光が生じ得るが、既に説明した通り、検出抗体41及び検出抗体42の両方の非特異吸着が生じる頻度は十分に小さいため、この蛍光はターゲット分子1の定量性にはほとんど影響を与えない。

【0052】
本実施形態で用いられる、マイクロビーズ2と検出抗体41,42(図1参照)、及びプローブ71,72(図3参照)は、本発明に係るターゲット分子の検出方法を実施するためのキットとして好適に実施され得る。すなわち、本発明は、一側面において、
(i)ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、
(ii)前記ターゲット分子に特異的に結合し、基質切断活性を有する酵素が標識された二以上の抗体であって、前記酵素の基質特異性が互いに異なる第二の抗体と、
(iii)前記酵素の切断部位を有し、該切断部位の一端側に蛍光物質が結合され他端側に消色物質が結合された二以上の基質であって、前記蛍光物質の蛍光波長が互いに異なる基質と、
を含んでなる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットをも提供するものである。

【0053】
当該キットにおいて、マイクロビーズ2は、捕捉抗体3(第一の抗体)が予め修飾されたものであってよく、用時にビーズの表面にある修飾基にリンカーを介して抗体を結合させるものであってもよい。また、検出抗体41,42(第二の抗体)は、酵素が予め標識されたものであってよく、用時に架橋剤を用いて抗体に酵素を結合させるものであってもよい。

【0054】
また、本発明に係るキットは、マイクロビーズ2への捕捉抗体3の修飾あるいは検出抗体41,42への酵素の標識のために用いられる架橋剤等の試薬や、複合体形成手順及び検出手順で用いられる各種のバッファー、封入手順で用いる基板A(図2参照)などをさらに含んでいてもよい。

【0055】
上記では、検出抗体を2つ、これに対応するプローブを2つ用いて、蛍光波長の異なる2つの蛍光の検出信号をターゲット分子の検出信号とすることにより、検出抗体の非特異的吸着に由来するノイズを低減する実施形態を説明した。本発明に係るターゲット分子の検出方法において、検出抗体及びプローブは3組以上を用いてもよく、この場合には、蛍光波長の異なる3つ以上の蛍光の検出信号をターゲット分子の検出信号とすればよい。用いる検出抗体及びプローブの数が多い程、検出抗体の非特異的吸着に由来するノイズの低減効果を高めることができる。

【0056】
また、上記では、第二の抗体として、基質切断活性を有する酵素を標識した検出抗体を用いて、プローブ中の切断部位を該酵素により切断させることによって蛍光を生じさせる実施形態を説明した。本発明に係るターゲット分子の検出方法では、第二の抗体として、従来化学発色に用いられてきた酵素が標識された検出抗体や、蛍光色素が標識された検出抗体を適用することも可能である。

【0057】
すなわち、本発明は、その第二実施態様として、以下の手順を含むターゲット分子の検出方法をも包含する。
(A)ターゲット分子と、前記ターゲット分子に特異的に結合する第一の抗体が修飾された担体と、前記ターゲット分子に特異的に結合し、互いに異なる標識がされた二以上の第二の抗体と、を反応させて、前記担体上に前記第一の抗体と前記ターゲット分子と前記第二抗体とからなる複合体を形成させる複合体形成手順。
(B)前記標識からの信号を検出する検出手順。
(C)異なる二以上の前記標識からの前記信号を前記ターゲット分子の検出信号として処理する解析手順。

【0058】
ここで、手順(C)において、「標識からの信号」には、当該標識から直接及び間接に発生する信号が含まれる。具体的には、「標識からの信号」は、蛍光色素が標識された検出抗体を第二の抗体として適用する場合には、該蛍光色素から発生する蛍光を指す(図4B参照)。また、「標識からの信号」は、化学発色に用いられる酵素が標識された検出抗体を第二の抗体として適用する場合には、該酵素による触媒される化学発色を指す(図4A参照)。

【0059】
手順(A)は、第二の抗体として、アルカリフォスファターゼやガラクトシダーゼ等の従来化学発色に用いられてきた酵素や、各種蛍光物質が標識された検出抗体を用いる以外は、上述の実施形態(第一実施形態)の手順(1)と同様にして行うことができる。また、本実施形態をデジタルELISA法として実施する場合には、第一実施形態で手順(2)として説明した封入手順が含まれ得る。検出抗体への酵素又は蛍光色素の標識は、上述の公知手法により行うことができる。また、酵素や蛍光色素を標識した抗体は、各種市販されているものを利用してもよい。

【0060】
手順(B)では、担体の表面で複合体を形成している検出抗体の標識からの信号を検出する。図4Aに、検出抗体41,42としてアルカリフォスファターゼを標識した抗体とガラクトシダーゼを標識した抗体を用いた場合において、マイクロビーズ2上に形成された「捕捉抗体3-ターゲット物質1-第二の抗体41,42」の複合体を示す。酵素が標識された検出抗体を用いる場合、信号の検出は、該酵素の基質を用いた発色法により行うことができる。例えば、アルカリフォスファターゼが標識された検出抗体の場合には、第一実施形態で用いたプローブに替えてアルカリフォスファターゼの発色基質であるBCIP(5-Bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)やNBT(4-Nitro blue tetrazolium chloride)を複合体と反応させることによって行うことができる。また、ガラクトシダーゼが標識された検出抗体の場合には、発色基質としてX-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)等を用いる。検出抗体には互いに異なる酵素が標識された二以上の抗体が用いられ、発色基質には各抗体に標識された酵素に応じて二以上の化合物が用いられる。各発色基質の発色を吸光度計測によって測定することで、それぞれの酵素に由来する信号を検出できる。

【0061】
また、蛍光物質が標識された検出抗体を用いる場合、信号の検出は、蛍光顕微鏡やイメージセンサを用いて蛍光物質から発せられる蛍光を検出することよって行う。図4Bに、検出抗体41,42としてFITCを標識した抗体とTexas Red(登録商標)を標識した抗体を用いた場合において、マイクロビーズ2上に形成された「捕捉抗体3-ターゲット物質1-第二の抗体41,42」の複合体を示す。検出抗体には互いに蛍光波長が異なる蛍光物質が標識された二以上の抗体が用いられ、蛍光物質からの蛍光を波長帯域ごとに検出することで、それぞれの蛍光物質に由来する信号を検出できる。

【0062】
手順(C)では、異なる二以上の標識(上述の例ではアルカリフォスファターゼとガラクトシダーゼ、あるいはFITCとTexas Red)からの信号をターゲット分子の検出信号として処理する。上述の通り、検出抗体が担体の表面に非特異的に吸着しているのみで、複合体を形成していないような場合には、二以上の標識のうちいずれか一つの標識からの信号しか検出されない(図1参照)。従って、異なる二以上の標識からの信号をターゲット分子の検出信号として処理することで、検出抗体の担体への非特異的に吸着に起因するノイズを大幅に低減できる。これにより、ターゲット分子の検出精度、さらにはその定量性を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:ターゲット分子、2:マイクロビーズ(担体)、3:捕捉抗体(第一の抗体)、41,42:検出抗体(第二の抗体)、51,52:制限酵素、61,62:プローブ、71,72:切断部位、81,82:蛍光物質、91,92:消色物質
Drawing
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3