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Specification :磁性体とBiSbの積層構造の製造方法、磁気抵抗メモリ、純スピン注入源

Country 日本国特許庁(JP)
Gazette 再公表特許(A1)
Date of issue 令和2年10月15日(2020.10.15)
Title of the invention, or title of the device 磁性体とBiSbの積層構造の製造方法、磁気抵抗メモリ、純スピン注入源
IPC (International Patent Classification) H01L  21/8239      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
H01L  29/82        (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
H01L  43/10        (2006.01)
FI (File Index) H01L 27/105 447
H01L 29/82 Z
H01L 43/08 Z
H01L 43/10
Demand for international preliminary examination
Total pages 22
Application Number 特願2019-542310 (P2019-542310)
International application number PCT/JP2018/034191
International publication number WO2019/054484
Date of international filing 平成30年9月14日(2018.9.14)
Date of international publication 平成31年3月21日(2019.3.21)
Application number of the priority 2017177564
Priority date 平成29年9月15日(2017.9.15)
Claim of priority (country) 日本国(JP)
Designated state AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
Inventor, or creator of device 【氏名】ファム ナム ハイ
【氏名】ゲィン フン ユィ カン
Applicant 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
Representative 【識別番号】100105924、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 賢樹
【識別番号】100109047、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 雄祐
【識別番号】100109081、【弁理士】、【氏名又は名称】三木 友由
【識別番号】100133215、【弁理士】、【氏名又は名称】真家 大樹
Request for examination 未請求
Theme code 4M119
5F092
F-term 4M119AA01
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5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB55
5F092BC03
5F092BC04
Abstract 磁気抵抗メモリのセル2は、磁化自由層12を含むMTJ素子10と純スピン注入源20を備える。純スピン注入源20は、磁化自由層12と接続されるBiSb層を含む。BiSb層に面内電流を流すことにより磁化自由層12の磁化反転が可能である。
Scope of claims 【請求項1】
磁化自由層を含むMTJ(磁気トンネル接合)素子と、
前記磁化自由層と接続されるBiSb層を含む純スピン注入源と、
を備え、前記BiSb層に面内電流を流し、前記磁化自由層の磁化反転が可能であることを特徴とする磁気抵抗メモリ。
【請求項2】
前記BiSb層は、結晶化していることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗メモリ。
【請求項3】
前記BiSb層は(012)配向を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗メモリ。
【請求項4】
前記BiSb層のトポロジカル表面状態を利用して、セルが2端子化されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気抵抗メモリ。
【請求項5】
面内バイアス磁場の印加を行わないことを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗メモリ。
【請求項6】
磁気抵抗メモリの製造方法であって、
磁化自由層を形成するステップと、
BiSb層を含む純スピン注入源を形成するステップと、
を備え、前記BiSb層は、基板温度200~250℃の条件で製膜されることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
磁性体とBiSb層の積層構造の製造方法であって、前記BiSb層を、基板温度200~250℃の条件で製膜することを特徴とする製造方法。
する製造方法。
【請求項8】
前記BiSb層は(012)配向を有することを特徴とする請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
磁性体に純スピン流を注入する純スピン注入源であって、
前記磁性体と接続されるBiSb層を含み、前記BiSb層に流れる面内電流に応じて、前記磁性体に面直方向に純スピン流を供給することを特徴とする純スピン注入源。
【請求項10】
前記BiSb層は、結晶化していることを特徴とする請求項9に記載の純スピン注入源。
【請求項11】
磁化自由層を含むMTJ(磁気トンネル接合)素子と、
前記磁化自由層と接続されるBiSb層を含む純スピン注入源と、
を備え、
前記BiSb層が(012)配向を有し、四回対称の結晶構造の下地層が利用される磁気抵抗メモリ。
Detailed description of the invention 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が少ない不揮発性メモリの開発が盛んに行われており、中でも磁気抵抗メモリ(MRAM)は大変有望視されている。MRAMは不揮発性に加えて、10ns級の高速動作、極めて高い耐久性(書き込み回数1016回以上)など、大変優れた特性を示す。従って、MRAMを主メモリだけでなく、集積回路に不揮発性メモリとして内蔵すれば、パワーゲーティング効果により集積回路の消費電力を9割削減できると期待される。
【0003】
第一世代のMRAMのメモリ素子(MTJ:磁気トンネル接合)では、磁場による磁化反転法が用いられた。しかし、磁場による磁化反転はエネルギー消費量が大きかった。2000年台に第二世代の書き込み技術として、スピン注入磁化反転法が研究開発され、2012年ごろから実用化されている。スピン注入磁化反転技術では、MTJ素子の固定磁性層から自由磁性層にスピン偏極電流を注入し、スピントランスファートルク(STT:Spin transfer torque)によって、磁化反転を起こす。この技術を使うMRAMはSTT-MRAMと呼ばれている。スピン注入磁化反転では、次のスピン流Iがスピン偏極電流によって注入される。スピン流Iは単位時間のスピン角運動量の流量である。
=(hbar/2e)PI
bar:プランク定数 h/2π
e:電気素量
I:電流
P:磁性電極材料のスピン分極率
【0004】
Pの上限は1であり、通常ではP~0.5程度である。この式から分かるように、スピン注入磁化反転技術では、スピン流が(hbar/2e)Iを超えることはない。これは、各電子がhbar/2のスピン角運動量しか運べない物理限界があるからである。MRAMは不揮発性があり、待機中にはエネルギーを消費しないが、データを書き込みの時にSRAMなどのメモリよりもまだ1桁大きいエネルギーを消費してしまうという課題が残っている。また、大きな書き込み電流は大きな駆動トランジスタが必要であるため、MRAMの容量を増やすことが困難である。
【0005】
図1は、純スピン流を用いた磁化反転方式の概要を説明する図である。強磁性層にスピン軌道相互作用が強い材料を接続させる。この層に電流Iを流すと、垂直方向に純スピン流Iが流れる。このような現象はスピンホール効果と呼ばれている。純スピン流密度Jと電流密度Jの間にJ=(hbar/2e)・θshJという関係が成り立つ。ここで、θshはスピン軌道相互作用の強さを反映するパラメータで、スピンホール角と呼ばれている。これより、純スピン流Iと電流Iの間に、次の関係が成り立つ。
=(hbar/2e)・(L/t)θsh
【0006】
つまり、各電子が実効的に、(L/t)θshのスピンを発生できる。もし、(L/t)θsh ≫ 1を実現できれば、通常のスピン注入磁化反転よりも純スピン流による磁化反転の方は効率が良いことが分かる。通常(L/t)~ 5-10であるため、θsh>1のスピンホール材料を用いることができれば、MRAM素子の磁化反転に必要な電流および電力を1桁下げることができる。また、純スピン流注入磁化反転方式では、1桁ぐらい高速に磁化反転できるため、書き込みエネルギーを2桁削減できる。スピンホール効果による純スピン流注入を用いるMRAMはスピン軌道トルクSOT(Spin-orbit-torque)MRAMと呼ばれている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】"Conversion of pure spin current to charge current in amorphous bismuth", J. Appl. Phys. 115, 17C507 (2014)
【非特許文献2】"Transport and spin conversion of multicarriers in semimetal bismuth", Phys. Rev. B 93,174428 (2016)
【非特許文献3】"Tunable Giant Spin Hall Conductivities in a Strong Spin-Orbit Semimetal: Bi1-xSbx", Phys. Rev. Lett. 114, 107201 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スピンホール材料として、重金属のPt、W、Taなどが研究されている。これらの材料は金属であるため、伝導率が10Ω-1-1台以上と高いが、θshが0.1台と高くない。一方、近年に注目されたトポロジカル絶縁体はθsh~2-3と非常に高いが、伝導率が10~10Ω-1-1台と低いため、MRAMに使う時には電流が他の金属層に流れてしまい、トポロジカル絶縁体に流れないため実用的ではない。
【0009】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、大きなスピンホール角を有するスピンホール材料およびそれを用いた磁気抵抗メモリの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は磁気抵抗メモリに関する。磁気抵抗メモリは、磁化自由層を含むMTJ(磁気トンネル接合)素子と、磁化自由層と接続されるBiSb層を含む純スピン注入源と、を備え、BiSb層に面内電流を流し、磁化自由層の磁化反転が可能に構成される。
【0011】
この態様によると、書き込み電流および書き込み電力を削減できる。
【0012】
BiSb層は、結晶化していてもよい。結晶化したBiSb層を形成することにより、BiSb層の非常に高いスピンホール角により、磁気抵抗メモリの性能をさらに高めることができる。
【0013】
本発明の別の態様は磁気抵抗メモリの製造方法に関する。この製造方法は、磁化自由層を形成するステップと、BiSb層を含む純スピン注入源を形成するステップと、を備え、BiSb層は、基板温度200~250℃の条件で製膜される。
【0014】
本発明の別の態様は、磁性体とBiSb層の積層構造の製造方法に関する。この方法においてBiSb層は、基板温度200~250℃の条件で製膜される。
この条件で製膜することで、良好な結晶性を有するBiSb層を形成でき、ひいては大きなスピン角を有するスピンホール材料を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のある態様によれば、大きなスピン角を有するスピンホール材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】純スピン流を用いた磁化反転方式の概要を説明する図である。
【図2】図2(a)~(d)は、上段が磁性層とBiSbの積層構造の断面図を、下段が高エネルギー電子線回折像(RHEED)(下段)を示す図である。
【図3】一実施例に係るMnGa/BiSb積層構造の断面図(上段)およびRHEED(下段)を示す図である。
【図4】図3のMnGa/BiSb積層構造の磁気特性を示す図である。
【図5】図3のMnGa/BiSb積層構造のX線回折スペクトルを示す図である。
【図6】図6(a)、(b)は、作製したBiSb薄膜(厚さ10nm)の電気伝導率σの温度依存性を示す図である。
【図7】一実施例に係るMnGa/BiSbの積層構造の断面図および平面図である。
【図8】図8(a)は、MnGa/BiSb積層構造の端子IとIの間に電流を流す時の磁化ヒステレシスを示す図であり、図8(b)は、MnGaの面直方向の保磁力の変化量とBiSbに流れる電流密度JNMの関係を示す図である。
【図9】一実施例に係るMnGa/BiSbの積層構造の断面図および平面図である。
【図10】面内にこの接合の端子I+とI-の間に電流を流す時の面直方向の磁化ヒステレシスを示す図である。
【図11】図11(a)、(b)は、図9と同じサンプルに対して、外部磁場を面内に印加したときの面直方向の磁化ヒステレシスを示す図である。
【図12】純スピン注入源の材料における常温スピンホール角θsh、電気伝導率σおよびスピンホール伝導率σshを示す図である。
【図13】図13(a)、(b)は、MnGa(3nm)/BiSb(5nm)接合におけるパルス電流による磁化反転を示す図である。
【図14】SOT-MRAMのセルの構造を模式的に示す図である。
【図15】2端子SOT-RAMの概念図である。
【図16】図16(a)、(b)は、2端子SOT-MRAMのセルの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(概要)
本開示では、重金属の高い伝導性およびトポロジカル絶縁体の高いスピンホール角を両立しうるBiSbに着目した。BiSbという材料自体は従来から知られていたが、それらの研究はアモルファスに限られていた。たとえば、先行研究では、NiFe上に製膜したBi層について報告があるが、アモルファスBiのスピンホール角を評価したところ、非常に小さいθsh=0.02(非特許文献1)あるいは0.00012(非特許文献2)しかなかった。また、BiSbと磁性膜の界面に、磁性を持たないデッド層が存在して、磁性層の磁気特性を著しく低下させる懸念もあり、このこともさらなる研究を阻害する要因となっていた。

【0018】
また、スピンホール効果の性能は、電気伝導率σとスピンホール角θshの積で計算するスピンホール伝導率のσsh=(hbar/2e)・σ×θsh という指標が使われている。しかし、理論計算では、結晶化しているBiSbのσshは最大で4.9×10・(hbar/2e) Ω-1-1しか得られない(非特許文献3)。従って、θshは最大でも0.5程度しか得られないと信じられてきた。

【0019】
これらの報告からBiSbによって大きなスピンホール角を得ることは絶望的と思われており、先行研究に追従した研究は途絶えていたのが実情である。

【0020】
本発明者らは、否定的な先行研究にもかかわらず、高品質な結晶化したBiSbを磁性金属上に形成することができれば、高い電気伝導率と高いスピンホール角を実現できるのではないかと考えた。もしそれらが両立できれば、磁気抵抗メモリにとって大きなブレークスルーとなりうるであろう。

【0021】
以下では、磁性体上のBiSbの製膜方法について説明し、その純スピン注入磁化反転の性能の評価結果について説明する。

【0022】
(1)BiSbの製膜
BiSb合金は六方晶の結晶構造に対して、MRAMに使われるほとんどの磁性金属は正方晶の結晶構造を持つため、それらの磁性金属層の上に、良好な結晶性を有するBiSbが結晶化できるかどうか自明ではない。そこで、まず磁性材料の上にBiSbの製膜条件を調べた。

【0023】
図2(a)~(d)は、上段が磁性層とBiSbの積層構造の断面図を、下段が高エネルギー電子線回折像(RHEED)(下段)を示す図である。

【0024】
BiSbの結晶成長には、分子線エピタキシャル成長法(MBE法)を用いた。これはBiとSbを別々のソースから蒸着できるため、BiとSbの組成を調整しやすい。一方、BiSbの組成を固定して、特に変える必要がない場合、スパッター法で決まった組成のBiSbターゲットを用いてBiSbの製膜もできる。MBE法およびスパッター法では良いBiSb結晶膜が得るために、基板温度を200℃~250℃に設定する必要がある。

【0025】
図2(a)は、10nmのMnGa磁性層の上に、基板温度100℃の条件で10nmのBi層を成長した構造体である。図2(b)は、10nmのMnGa磁性層の上に、基板温度200℃の条件で30nmのBi層を成長した構造体である。図2(c)は、10nmのMnGa磁性層の上に、基板温度250℃の条件で20nmのBiSb層を成長した構造体である。図2(d)は、10nmのMnGa磁性層の上に、基板温度250℃の条件で20nmのSb層を成長した構造体である。成長速度はいずれも2nm/minである。RHEEDは、膜厚が2nmのときに測定したものである。

【0026】
図2(a)に示すように、基板温度が100℃ではRHEEDが暗く、図2(b)に示すように200℃では明瞭なストリークなRHEED像が観測できた。また、図2(c)と図2(d)に示すように基板温度を250℃で製膜しても明瞭なストリークが観測でき、高品質なBiSbができたことが分かった。また、X線解析からBiSbが(012)配向していることが分かった。以上の結果から、基板温度200℃以上で製膜すれば正方晶の磁性金属上に高品質なBiSbが製膜できることが分かった。

【0027】
図3は、一実施例に係るMnGa/BiSb積層構造(MnGa/BiSb接合ともいう)の断面図(上段)およびRHEED(下段)を示す図である。この実施例ではまず、垂直磁化のMnGa磁性薄膜3nmを製膜後に、基板温度250℃にて、10nmのBi0.99Sb0.1を製膜した。RHEEDは、磁性層(MnGa)3nm、重金属層(BiSb)1nm、5nm、10nmの製膜直後において取得したものである。MnGaとBiSbの界面には非常にストリークな回折像が観測でき、また、BiSbの膜厚が厚くなるにつれて、RHEEDの強度が低下するものの、消滅することがない。これの結果はMnGaとBiSbの界面において、偏析が無く、非常に平坦な界面が得られていることが分かる。

【0028】
図4は、図3のMnGa/BiSb積層構造の磁気特性を示す図である。MnGaの上にBiSbを製膜しても、単膜のMnGaと同等の磁気特性が得られたことから、MnGaとBiSbの界面には磁気的なデッド層が存在しないことが分かる。

【0029】
図5は、図3のMnGa/BiSb積層構造のX線回折スペクトルを示す図である。測定対象は、垂直磁化のMnGa磁性薄膜10nmを成膜後に、基板温度250度にて、20nmのBiSbを成膜したものである。正方結晶のMnGa上に成膜したBiSb膜が(012)配向であることが分かる。

【0030】
また、図5に示すように、MnGaの磁性膜は正方結晶であるため、その上に成膜したBiSbが(012)配向であることが分かる。これにより四回対称の結晶構造(正方結晶あるいは立方結晶)の下地層が利用され、(012)配向は超巨大なスピンホール効果を発生させるのに大きく寄与することとなる。

【0031】
(2) BiSbの特性評価
(2.1) 電気伝導率
図6(a)、(b)は、作製したBiSb薄膜(厚さ10nm)の電気伝導率σの温度依存性を示す図である。図6(a)と(b)とでは組成比が異なっており、図6(a)には、Bi0.92Sb0.08のサンプルの特性が示される。常温ではσBiSb=3.8×10Ω-1-1が得られた。また、低温になればなるほど、電気伝導率σが高くなることから、金属的な伝導特性を持つことが分かる。

【0032】
また、図6(b)には、Bi0.89Sb0.111のサンプルの特性が示される。このサンプルでは電気伝導率が低いものの、常温ではσBiSb=1.1×10Ω-1-1が得られている。10nmと薄いBiSb薄膜の電気伝導率は1×10Ω-1-1~4×10Ω-1-1があり、平均的には、σBiSb~2.5×10Ω-1-1が得られる。この値は他のトポロジカル絶縁体のBiSe(5×10Ω-1-1)や(Bi,Sb)Se(2.2×10Ω-1-1)よりも一桁高く、一般的にMRAMに使われている金属、たとえばTa (5.2×10Ω-1-1)やCoFeB(6×10Ω-1-1)に近い。

【0033】
(2.2) スピンホール角
次に、BiSbのスピンホール角の評価結果を説明する。図7は、一実施例に係るMnGa/BiSbの積層構造の断面図および平面図である。この積層構造は、厚さ3nmの垂直磁化MnGaと厚さ10nmのBiSbを備え、100μm×50μmの素子寸法を有する。この実施例では、磁化が完全に垂直になっているため、BiSbから注入した純スピン流は面内の有効磁場HSOを発生する。この面内有効磁場により、面直方向の保磁力を弱める効果がある。

【0034】
図8(a)は、MnGa/BiSb積層構造の端子IとIの間に電流を流す時の磁化ヒステレシスを示す図である。磁化ヒステレシスは端子VとVの間に発生する異常ホール効果によるホール電圧を測定して評価できる。この図に示すように、面内電流密度が大きくなるにつれて、面直方向の保磁力が減少することが分かる。これは純スピン流による有効磁場HSOの効果を反映する。

【0035】
図8(b)は、面直方向の保磁力の減少量ΔHのBiSbに流れる電流密度JNMの関係を示す図である。参考のために、MnGa(3nm)とTa(5nm)からなる積層構造のデータも示す。この図から分かるように、単位電流密度あたりの保磁力の変化量ΔH/JNMは、BiSbの場合は3.7kG/(MA/cm)に対して、Taが0.35kG/(MA/cm)である。この比較からも、BiSbは、非常に強いスピンホール効果を発揮することがわかる。

【0036】
上述したように、先行研究では、磁性層上のアモルファスBiのスピンホール角を評価したところ、非常に小さいθsh=0.02あるいは0.00012しかなかった(非特許文献1,2)。また理論計算から求められるBiSbのσshは最大で4.9×10Ω-1-1程度にとどまっており、従って、スピンホール角θshは最大でも0.5程度であると考えられていた。

【0037】
図9は、一実施例に係るMnGa/BiSbの積層構造の断面図および平面図である。この積層構造は、面内磁化成分を持つ厚さ3nmのMnGaと厚さ10nmのBiSbが積層されており、100μm×50μmの素子に加工されたものである。この実施例では、磁化は面内成分があるときに、純スピン流注入による有効磁場HSOは面直成分を有するため、保磁力を強くする効果がある。図10は、面内にこの接合の端子IとIの間に電流を流す時の面直方向の磁化ヒステレシスを示す図である。面直方向の磁化ヒステレシスは端子VとVの間に発生する異常ホール効果によるホール電圧を測定して評価できる。この図に示すように、面内電流密度が大きくなるにつれて、面直方向の保磁力が増大することが分かる。これは有効磁場HSOの面直方向よる効果を反映する。

【0038】
図11(a)、(b)は、図9と同じサンプルに対して、外部磁場を面内に印加したときの面直方向の磁化ヒステレシスを示す図である。この実施例では、有効磁場HSOの面直成分の効果をより分かりやすく観測できる。

【0039】
図11(a)には正電流、図11(b)には負の電流を流したときの測定結果が示される。図11(a)では、面内磁化成分が右向きに向く時(面内外部磁場が正の時)にHSOが上向きに向くため、面直磁化成分が正であるが、面内磁化成分が左向きに向く時(面内外部磁場が負の時)に、有効磁場HSOの面直成分が下向きに向くため、面直磁化成分が負になる。

【0040】
図11(b)では逆向きの電流を流すため、純スピン流も逆向きに注入され、図11(a)に対して、有効磁場HSOの面直成分と面直磁化成分が逆の振る舞いを示す。これらの結果により、BiSbによる純スピン流注入効果が確認できた。

【0041】
次にスピンホール効果の強さを定量的に評価する。図10において、保磁力の変化量ΔHがそのままHSOに対応する。つまり、HSO = ΔH。本発明では、また、純スピン流は次の式(1)で計算できる。
=MMnGaMnGaΔH …(1)
ここで、MMnGa=250emu/ccはMnGaの磁化、tMnGa=3nmはMnGa磁性層の厚さである。さらに、スピンホール角は次の式(2)で計算できる。
θSH=(2e/hbar)・J/JBiSb …(2)
BiSbはBiSbに流れる電流密度で、次の式(3)で計算できる。
BiSb=IBiSb/W・tBiSb
=(W・tBiSb-1・σBiSbBiSb/(σBiSbBiSb+σMnGaMnGa)I
=(W・tBiSb-1・σBiSbBiSb/(σBiSbBiSb+σMnGaMnGa)×W(tBiSb+tMnGa)J
=σBiSb(tBiSb+tMnGa)/(σBiSbBiSb+σMnGaMnGa)J …(3)

【0042】
たとえば、J=1.38×10A/cmの時に、σBiSb=2.5×10Ω-1-1、σMnGa=5×10Ω-1-1、tMnGa = 3nm, tBiSb = 10nmより、JBiSb=1.12×10A/cmが得られる。一方、この電流密度におけるHSO=ΔH=3.1kOe=3100Oeであることから、HSO/JBiSb=2770Oe/(MA/cm)に達する。この値は従来に研究されてきた重金属TaやPtの5-10Oe/(A/cm)よりも数百倍大きいことが分かる。実際に式(1)と式(2)を使って、各電流値におけるBiSbのスピンホール角を計算したところ、θsh=52の平均値が得られた。この値はMRAMによく使われるTa(θsh=0.15)、Pt(θsh=0.08)よりも遥かに大きい。一方、この値は理論計算のθsh=0.5よりも100倍ぐらい大きいことから、理論計算で想定しているメカニズムと異なるメカニズムが存在し、それがBiSbの巨大なスピンホール効果に貢献しているものと考えられる。

【0043】
図12は、純スピン注入源の材料における常温スピンホール角θsh、電気伝導率σおよびスピンホール伝導率σsh=(hbar/2e)・θsh×σを示す図である。この比較からも、BiSbは圧倒的な高いスピンホール伝導率1.3×10(hbar/2e)Ω-1-1を示すことが分かる。また、この値は理論計算の予測値4.9×10(hbar/2e)Ω-1-1よりも200倍以上大きい。

【0044】
(2.3)超低電流磁化反転の実証
図12から分かるように、BiSbのスピンホール角が他の材料より高いことから、非常に低電流密度で磁化反転できると考えられる。

【0045】
MnGa/BiSbの接合において、超低電流密度で磁化反転を行った。図13(a)、(b)は、MnGa(3nm)/BiSb(5nm)接合におけるパルス電流による磁化反転を示す図である。図13(a)は、外部磁場を面内の左方向(負)に印加して、磁化を左に傾いている状態で、100ミリ秒のパルス電流印加による磁化反転を行ったときの測定結果である。この図から分かるように、正電流を増やすと磁化が上向きから下向きに反転し、負の電流を増やすと磁化が下向きから上向きに反転することが分かる。

【0046】
また、図13(b)は、外部磁場を面内の右向き(正)に印加して、磁化を右に傾いている状態で、電流印加による磁化反転を行ったときの測定結果である。この図から分かるように、正電流を増やすと磁化が下向きから上向きに反転し、負の電流を増やすと磁化が上向きから下向きに反転することが分かる。つまり、磁化の傾く方向によって、電流による磁化反転の向きが逆になる。これは純スピン注入磁化反転の性質と一致している。

【0047】
一方、磁化反転に必要な電流密度がJ=1.5×10A/cmと非常に小さいことにも着目すべきである。比較のために、MnGa(3nm)/Ta(5nm)接合ではJ=1.1×10A/cm、MnGa(3nm)/IrMn(4nm)接合ではJ=1.5×10A/cm、MnGa(2.5nm)/Pt(2nm)ではJ=5.0×10A/cmが必要だった。この実施例ではBiSbの巨大なスピンホール効果による超低電流密度磁化反転を実証した。

【0048】
(3) SOT-MRAMへの応用
図14(a)、(b)は、SOT-MRAMのセル2の構造を模式的に示す図である。図14(a)を参照する。SOT-MRAMのセル2は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子10、純スピン注入源20、書き込みトランジスタ30、読み出しトランジスタ31を備える。MTJ素子10は、磁化自由層12、トンネル層14、磁化固定層16の積層構造を有する。純スピン注入源20は、磁化自由層12と接続される純スピン注入源20と、を備える。磁化自由層12はたとえばMnGaを用いることができるが、その限りでなく、そのほかの強磁性金属を用いることもできる。たとえばCo,Feなどの単元素の磁性金属、CoFe,NiFe,MnAl,MnGe,FePtなどの二元合金、CoFeBやCoMnSiなどの三元合金およびそれらの磁性体を含む多層構造であってもよい。磁化固定層16についても同様である。トンネル層14は、絶縁膜でありMgOが好適に用いられるが、AlOなど別の材料を用いてもよい。

【0049】
純スピン注入源20は、上述のBiSb層を含む。すなわち、磁化自由層12と純スピン注入源20のBiSb層の接合は、上述した実施例に係る積層構造として把握できる。

【0050】
純スピン注入源20であるBiSb層には、書き込みトランジスタ30を介して図示しない電源(ドライバ)が接続され、書き込みトランジスタ30がターンオンすると、パルス状の電流IcがBiSb層の面内方向(x方向)に流れ、これにより面直方向(z方向)にスピン流Iが流れ、これにより磁化自由層12の磁化反転が生じ、データが書き込まれる。

【0051】
図14(b)のSOT-MRAMは図14(a)の構造を天地反転したものである。

【0052】
最後にBiSbを用いるSOT-MRAMの性能を評価する。例としてTDK社製のMRAM素子φ37nmを想定する。5nmのBiSbを純スピン注入源として使う場合、φ37nm素子に必要な磁化反転の電流は2.2μAである。一方、従来のスピン注入磁化反転法では、24μAが必要だった。従って、BiSbをSOT-MRAMに使えば、STT-MRAMよりも書き込み電流および書き込み電力を1/10倍に削減できる。また、SOT-MRAMはSTT-MRAMよりも10倍早く書き込めるため、BiSbのSOT-MRAMの書き込みエネルギーはSTT-MRAMよりも1/100倍小さくできる。

【0053】
また、書き込み電流を小さくすることで、配線の信頼性が向上する。さらに書き込み電流をMTJ素子に直接流す必要がないため、素子の寿命が延びる。また、MTJ素子の抵抗を増やし、読み出し電流を減らすことができるため、読み出し電力も削減できる。書き込み電流を小さくすることで、駆動トランジスタを1/10倍程度小さくできるため、集積率を高めてメモリの容量を増やすことができる。

【0054】
(4) メモリセルの2端子化
BiSbには、トポロジカル表面状態による2次元の電流が支配的であるという特性がある。この特性を利用して、垂直磁化膜を有するSOT_RAMを実装する場合、2端子化することができる。

【0055】
図15は、2端子SOT-RAMの概念図である。通常のSOT-RAMでは、図14に示すように、面内の書き込みのパスと面直の読み出しパスが異なるため、三端子、つまり、2個のトランジスタ30,31が必要である。また、磁化が垂直の場合、面内にバイアス磁場を印加する必要がある。一方、BiSbを利用すると、図15に示すように垂直の電流パス40を使って書き込みができる。これは垂直方向に電流を流しても、BiSb中には必ず面内電流42になるため、スピンホール効果によって純スピン流を注入できるからである。その結果、書き込み用と読み出し用とでトランジスタ32を兼用でき、2端子化することができる。さらに、素子中には電流が垂直に流れるため、スピントランスファートルクも効くため、面内バイアス磁場を印加しなくても、磁化反転ができる。

【0056】
図16(a)、(b)は、2端子SOT-MRAMのセル2Aの構造を模式的に示す図である。図16(a)を参照する。SOT-MRAMのセル2Aは、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子10、純スピン注入源20、書き込み・読み出しトランジスタ32を備える。図14(a)、(b)では、純スピン注入源20が接地されている(ソースラインと接続される)のに対して、図16(a)、(b)では、MnGa磁性薄膜10の磁化固定層16が接地されている点である。図16(b)のSOT-MRAMは図16(a)の構造を天地反転したものである。

【0057】
実施の形態では、BiSb純スピン注入源の用途としてMRAMを説明したがその限りでなく、磁性層の歳差運動を用いるマイクロ波発生器など、純スピン注入源を要するいかなる用途にも利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
2 セル
10 MTJ素子
12 磁化自由層
14 トンネル層
16 磁化固定層
20 純スピン注入源
30 書き込みトランジスタ
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、磁気抵抗メモリに利用できる。
Drawing
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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