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明細書 :機器の診断方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3108405号 (P3108405)
公開番号 特開2000-046701 (P2000-046701A)
登録日 平成12年9月8日(2000.9.8)
発行日 平成12年11月13日(2000.11.13)
公開日 平成12年2月18日(2000.2.18)
発明の名称または考案の名称 機器の診断方法
国際特許分類 G01M 19/00      
G01D 21/00      
G01M 13/04      
FI G01M 19/00 A
G01D 21/00
G01M 13/04
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願平10-208270 (P1998-208270)
出願日 平成10年7月23日(1998.7.23)
審査請求日 平成10年7月29日(1998.7.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000224754
【氏名又は名称】核燃料サイクル開発機構
発明者または考案者 【氏名】名倉 文則
【氏名】大山 信美
個別代理人の代理人 【識別番号】100075258、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 研二 (外2名)
審査官 【審査官】菊井 広行
参考文献・文献 特開 平10-133740(JP,A)
特開 平8-98818(JP,A)
特開 平7-28770(JP,A)
調査した分野 G01M 19/00
G01M 13/04
G01D 21/00
特許請求の範囲 【請求項1】
第一の状態における機器の動作変量を計測し、計測した動作変量に基づいて、第一の状態における自己回帰型の線形予測モデルであるARモデルでの予測係数を算出するとともに、この予測係数について第一のマハラノビスの距離の判別式を算出するステップと、
第二の状態における予め定められた変動により前記第一の状態における動作変量について修正を加え、第二状態におけるARモデルでの予測係数を算出するとともに、この予測係数について第二のマハラノビスの距離の判別式を求めるステップと、
機器の動作変量を計測し、その計測した動作変量に基づいて、その機器動作状態におけるARモデルでの予測係数を算出するとともに、算出した機器動作状態における予測係数を第一のマハラノビスの距離の判別式および第二のマハラノビスの距離の判別式に代入して、得られた2つの計算結果に基づいて機器の動作状態が第一の状態と第二の状態のいずれに属するかを判別するステップと、
を含むことを特徴とする機器の診断方法。

【請求項2】
第一の状態および第二の状態の2つの状態における機器の動作変量を予測し、その2つの状態における自己回帰型の線形予測モデルであるARモデルでの予測係数を算出するステップと、
その2つの状態における予測係数について、それぞれ第一および第二のマハラノビスの距離の判別式を算出するステップと、
機器の動作変量を計測し、その計測した動作変量に基づいて、その機器動作状態におけるARモデルでの予測係数を算出するとともに、算出した機器動作状態における予測係数を第一のマハラノビスの距離の判別式および第二のマハラノビスの距離の判別式に代入して、得られた2つの計算結果に基づいて機器の動作状態が第一の状態と第二の状態のいずれに属するかを判別するステップと、
を含むことを特徴とする機器の診断方法。

【請求項3】
特定の異常状態における機器の挙動を支配する方程式をもとに、その特定の異常状態における機器の挙動についての変量データを求め、求められた変量データにより、別に求められた正常状態の機器の動作変量を修正し、修正された動作変量を求めるステップと、
求められた動作変量の状態における自己回帰型の線形予測モデルであるARモデルでの予測係数を算出するステップと、
算出された予測係数についてマハラノビスの判別式を算出するステップと、
機器の動作変量を計測し、その計測した動作変量に基づいて、機器動作状態におけるARモデルでの予測係数を算出するステップと、
算出した機器動作状態における予測係数を前記マハラノビスの距離の判別式に代入して、得られた計算結果に基づいて機器の動作状態の前記想定した状態に対する近さを判別するステップと、
を含むことを特徴とする機器の診断方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は機器の診断方法、とくに機器の状態を診断する方法に関する。

【0002】
【従来の技術】プラントにおいて、各種機器の故障の発見はいくつかの方法で行われる。機器自身が故障検出手段をもち、警告を発する等の処置を施す場合は、ある程度それに任せることもできるが、機器の側ですべての故障が想定できているとは考えにくく、必要に応じて機器外部で診断する必要が生じる。例えば回転機械の内面に微小な傷が生じた場合など、故障の検出は概して難しい。そうした場合、機器が正常なときに予め振動の周波数を計測しておき、これを運転中計測した周波数と随時比較する方法がある。比較の結果、両者の差がある程度大きくなれば、機器を検査し、故障があれば修理する。この方法なら機器を常時運転しながら診断できる点、および内部の検査が困難な機器でも実現できる点で有効である。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、故障の判断は作業者の経験に頼る部分も大きい。上述の回転機械の場合、周波数がどの程度外れたとき故障とみなすか、試行錯誤に頼らざるを得ない。機器の運転状況によって当然周波数は変化するし、いろいろな要因が周波数に変動をもたらす。機器によっては運転の中止や再開、機器の内部検査等に時間や費用がかかるものもあり、故障の判断が、いわば熟練者の勘に依存する状況は、きわめて心もとないといわざるを得ない。

【0004】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、いろいろな運転状況下にあって機器の状態(正常、異常など)を客観的に高い確度で判断することのできる機器の診断方法を提供することにある。本発明の別の目的は、診断の精度を高めるためにある程度多くのデータを扱いつつ計算負荷を抑える方法の提供にある。

【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の診断方法は、準備ステップと判定ステップを含む。準備ステップは、第一の状態(例えば正常状態)における機器の動作変量を計測する。また、その計測結果を利用して第二の状態(例えば異常状態)における機器の動作変量を推定する。「動作変量」とは、機器の動作に関連するパラメータをいい、例えば振動の周波数がある。この方法では、第二の状態については動作変量を実測する必要がない。したがって、第二の状態が異常状態に対応する場合、例えば機器の内面に傷をつける等、異常状態を実際につくり出す必要がない。このため、機器のいろいろな状態を想定して動作変量を準備することができる。

【0006】
一方、判定ステップは、適宜機器の動作変量を実測する。しかる後、実測された動作変量が第一の状態における動作変量と第二の状態における動作変量のいずれにより近いかを判定する。このため、例えば判定を数値的に行うことにより、診断の客観性が増す。

【0007】
本発明の別の態様も準備ステップと判定ステップを含む。準備ステップは、機器の複数の状態のそれぞれについて機器の動作変量を記述するモデルを構築する。「モデル」とは、ARモデルであり、動作変量を設定することで構築できる

【0008】
そして、判定を行う場合には、実際に診断を行うタイミングで機器の動作変量を計測する。つづいて、この動作変量をもとに現在の機器の状態におけるモデルを準備ステップ同様の手順で求める。その後、そのARモデルと準備ステップで構築された複数のARモデルのいずれが近いかを、それらのARモデルに含まれる多変量どうしの近さをもとに判定する。すなわち、準備として求めた複数のARモデルについて、その予測係数についてマハラノビスの距離の判別式をそれぞれ算出しておく。そして、求められた複数のマハラノビスの距離の判別式に計測値から得た動作変量に基づくARモデルの予測係数を代入することで、判別を行う

【0009】
また、準備ステップにおけるARモデルの構築は、機器の挙動を支配する方程式をもとに機器の状態を想定し、その状態で得られるべき動作変量を予測することで行える。「機器の挙動を支配する方程式」は機器の動作原理によって多種多様であるが、運動方程式、振動や波動の方程式、熱力学に関する方程式、化学反応を支配する方程式、電磁気現象を支配する方程式など、一般に自然法則を記述する方程式、またはそれらから導出される方程式をいう。

【0010】
一方、判定ステップは、機器の動作変量を実測し、それをもとに準備ステップ同様の手順でいったんARモデルを立て、その予測係数を求め、これを代入して行う。この方法によれば、予測モデルどうしの近さが例えば数値的に判定できるため、作業者の経験や勘に頼る必要がない。

【0011】
【発明の実施の形態】本発明の好適な実施の形態を適宜図面を参照しながら説明する。

【0012】
この実施の形態では、予め機器の状態を、複数を想定して各状態における変量データを推定しておく。次に各状態の変量データから線形予測モデルを立て、モデルごとに決まる複数の線形予測係数を多変量として取得する。本明細書では、線形予測係数をデータとして扱うとき、これを「係数データ」とも呼ぶ。

【0013】
実際に機器を診断するときは、その時点の変量データを機器から取得し、それに基づいて線形予測モデルを立て、係数データを多変量として取得する。つぎに多変量どうしの近さを判定することで機器の状態を判断する。ここで注意すべきは、多変量として変量データそのものではなく、係数データを用いる点である。

【0014】
本実施の形態では機器として回転機械を例にとる。準備として、本実施の形態で用いる多変量解析手法と、線形予測モデルと、回転機械の診断に必要な予備知識を説明する。

【0015】
[1]多変量解析
有馬哲、石村貞夫共著、東京図書刊「多変量解析のはなし」(以下文献1という)の4.3章「マハラノビスの距離による判別分析」には、多変量で記述される事象または状態どうしの近さを判定する方法が以下のように説明されている。

【0016】
まず、健常者のグループG1と精神病患者のグループG2についてそれぞれ同一の検査を行い、グループG1については、{22,20,23,23,17,24,23,18,22,19}という結果、グループG2については、{24,19,11,6,9,10,3,15,14,20}という変量データがそれぞれ得られたとし、いま「18」という検査結果のA氏がいずれのグループに属する可能性が高いかを判定する。グループG1の平均は21.1、グループG2のそれは13.1であり、平均からの距離でいえば「18」はグループG1により近い。しかし、グループの分散が違うため、平均による単純比較はできない。

【0017】
いま、グループG1、G2の標準偏差はそれぞれ2.42、6.57である。したがって、データの標準化の観点から、
(x-13.1)/6.57=(21.1-x)/2.42
となるx=18.95は、「G2に属するのに誤ってG1に属すると判断される確率」と「G1に属するのに誤ってG2に属すると判断される確率」が等しくなる値であり、検査結果が18.95より大きな人はグループG1、小さな人はグループG2に入ると判定することが妥当である。したがって、A氏はグループG2に属する可能性が高い。そこでこれを判定結果とする。

【0018】
この判定のために、データを標準化して分散も考慮に入れたマハラノビスの距離(Mahalanobis' generalized distance)という判別式が知られており、いまグループG1、G2それぞれに関するマハラノビスの距離D1、D2は、
D1=|x-G1の分散|/(G1の分散)1/2
D2=|x-G2の分散|/(G2の分散)1/2
である。A氏の場合、D1=1.28、D2=0.75であり、D1>D2であるから、距離の小さなグループG2に入ると判定される。

【0019】
以上が一変量の場合のマハラノビスの距離だが、文献1では多変量の場合のマハラノビスの距離も説明している。図1、図2がそれぞれp個の変量x1~xpからなるグループG1、G2の変量であるとき、まずG1の分散共分散行列は、
【数1】
JP0003108405B2_000002t.gifとなる。ここで(S1(1)2はグループG1の一次の係数の分散、S12(1)はグループG1の一次の係数と二次の係数の共分散である。A1なる行列を、
【数2】
JP0003108405B2_000003t.gifとすると、マハラノビスの距離はD12の形で、
【数3】
JP0003108405B2_000004t.gif(式1)
で定義される。グループG2に関しても同様にマハラノビスの距離D22が以下のように求められる。
【数4】
JP0003108405B2_000005t.gif(式2)
ここでサンプルのデータについてD12>D22であればグループG2に属し、D12<D22であればグループG1に属すると判定する。

【0020】
[2]線形予測モデル
本実施の形態では、自己回帰型の線形予測モデル(Autoregressive model、以下ARモデルともいう)を用いる。予測モデルを利用する主眼は、変量の予測ではなく、モデル化による計算負荷の軽減にある。以下、[2]の説明は主に中溝高好著、コロナ社「信号解析とシステム同定」の3章に基づく。

【0021】
まず、p個の過去の変量データ{xt-1,xt-2,…,xt-p}から時刻tにおける変量データxtを予測する線形予測器を次式で表す。
【数5】
JP0003108405B2_000006t.gifここでai(i=0,1,…,p)は線形予測係数である。右辺の負号は便宜上付している。このとき予測誤差eiは、
【数6】
JP0003108405B2_000007t.gifである。ここで、J=E{e12}(ただしE{x}はxの数学的期待値)を最小にする係数aiを決めたい。まず、Jをak(k=1~p)で微分してゼロとおくと、
【数7】
JP0003108405B2_000008t.gifであり、
【数8】
JP0003108405B2_000009t.gifを得る。ここでRk=E{xtt-k}とRk-i=E{xt-it-k}は自己相関関数であり、
【数9】
JP0003108405B2_000010t.gifとなる。いま、相関関数が未知であるため、有限個のデータ{xt:t=0,1,…,N-1}から相関関数を推定する。この場合、推定値として、
【数10】
JP0003108405B2_000011t.gif(式3)
を用いればよい。実際に本実施の形態ではこの推定値を用いている。このとき、線形予測係数を推定するためのYule-walker(ユール・ウォーカー)方程式は、
【数11】
JP0003108405B2_000012t.gif(式4)
となる。

【0022】
ここで式4を解くために最適次数pを決める。ARモデルの次数決定法として赤池のFPE(Final Prediction Error)法がよく知られ、各種分野におけるスペクトル解析を中心に広く利用されている。まず予測誤差の分散σpは次式で推定される。
【数12】
JP0003108405B2_000013t.gif(式5)

【0023】
式4で推定される線形予測係数の次数が正しく選択されていれば、分散σpは非常に小さな値になる。統計的なデータの場合、最終予測誤差、
FPE=(N+p)σp(p)/(N-p) (式6)
を最小にする次数pが最適次数として選ばれる。この結果、式4から線形予測係数が決まり、ARモデルが確定する。

【0024】
[3]回転機械の診断に関する予備知識
本実施の形態では、機器としてころがり軸受をもつ回転機械を考え、その内輪にスポット傷が生じる異常状態を検出するものとする。

【0025】
図3は本実施の形態で診断するころがり軸受の構造を示す図で、豊田利夫著、日本プラントメンテナンス協会発行「回転機械診断の進め方」(以下、文献3という)の213ページに掲載されている。[3]の説明は主に文献3に基づく。

【0026】
同図でDは軸受のピッチ円直径、dは転動体直径、r1は内輪軌道の半径、r2は外輪軌道の半径、αは接触角である。文献3の6.3章「ころがり軸受の診断原理(振動法)」によれば、軸(内輪)の回転周波数をf0、外輪の回転周波数をfaとすれば、内輪の一点が1個の転動体と接触する周波数fiは、
fi=(f0-fa)(1+dcosα/D)/2 (式7)
であり、外輪の一点が1個の転動体と接触する周波数fcは、
fc=(fa-f0)(1-dcosα/D)/2 (式8)
となる。ここでは保持器を静止座標系として考えている。仮に内輪にスポット傷が生じると、ラジアルすきまがある通常の場合、
nzfi±f0 または nzfi±fc (式9)
の周波数が発生する。ここでzは転動体の数、n=1,2,…である。文献3には、そのほかに軸受に偏心がある場合(たとえば内輪に著しい摩耗がある場合)、転動体の仕上げ面にうねりがある場合、転動体が不揃いの場合などについても発生する周波数に関して記述がある。

【0027】
以上の準備をもとに実施の形態を説明する。図4は本実施の形態による処理のうち、診断の準備に関する手順を示すフローチャートである。同図のごとく、まず機器の正常状態において変量データを計測する(S1)。変量として[3]で利用した、ころがり軸受に生じる振動の周波数をとる。これは[3]で紹介した式を用いて異常状態、つまり故障状態の変量データを推定できるためである。ただし、[3]以外の式を用いて故障状態を推定する場合は、当然異なる変量データを採用することができる。

【0028】
動作変量の1回目の計測では、
01(1),x11(1),…xN-1 1(1)
のN個のデータが連続的に取得される。これらを要素とする集合をX1(1)と表記する。ここでxi1(1)の「i」は時刻t=i(i=0,1,…N-1)を、「1」は1回目の計測を、「(1)」は機器の状態、つまりグループG1を表す。いま機器は正常であり、これをグループG1と決めている。同様に集合X1(1)の「1」は1回目の計測を、「(1)」は機器の状態を示し、機器の正常状態である。本実施の形態では、運転状態、つまり回転機械の回転速度を変えながらn回にわたって計測を行い、変量データの集合X1(1),X2(1),…Xn(1)を取得する。これは図1においてn1=nとした場合に対応する。なお、集合X1(1),X2(1),…Xn(1)を総括して単にX(1)とも表記する。

【0029】
つづいて、X(1)をもとに異常状態における変量データを推定する(S2)。このために、[3]の式7~9などを利用する。すなわち、式7~9によって内輪にスポット傷のある場合に発生する周波数成分が判明するため、この傷に係わる周波数成分を正常状態である場合の集合X1(1)に重畳して(注:重畳するに際しては、集合X1(1)の周波数成分に対して重畳する必要がある)、変量データの推定値を得る。この集合をX1(2)(注:これは正常状態(1)のものに傷が重畳された状態であり、(2)と表記される)とする。さらに、集合2(1),…Xn(1)の各成分にも同様に傷に係わる成分を重畳して変量データの推定値を得る。これらを集合X1(2),X2(2),…Xn(2)とし、その総括表記をX(2)とする。

【0030】
つぎに、X(1)をもとにARモデルを立てる(S3)。ARモデルは[2]の手順で確定する。すなわち、まず式3から相関関数の推定値を求め、つづいて、まず次数pを1と仮定し、式4のユール・ウォーカー方程式を解く。その結果をもとに式5、式6を計算し、p=1に対するFPEが求まる。

【0031】
つぎに次数pを2として相関関数の推定値から再度計算しなおし、FPEを求める。pが一定の上限pmaxに到達するまでFPEを繰り返し求めていく。その後、FPEを最小にしたpを最適な次数と決める。これでARモデルが確定し、集合Xi(1)(i=1,2,…n)に対して線形予測係数の集合Ai(1)={a1i(1),a2i(1),…api(1)}を決める。a1i(1)は一次の係数、a2i(1)は二次の係数、以下api(1)はp次の係数である。

【0032】
同様の手順でX(2)をもとに線形予測係数の集合Ai(2)={a1i(2),a2i(2),…api(2)}が決まる(S4)。図5、6はそれぞれ集合Ai(1)、Ai(2)の各要素を示す図である。同図のごとく、集合が判明した後、各次数の係数の平均を計算しておく(S5)。

【0033】
つぎに、グループG1についてマハラノビスの距離D12の式を求める(S6)。これは[2]の式1の「x」をすべて「a」で置き換えれば得られる。この時点で同式のxi(i=1,2,…p)は未知数である。同様の方法でグループG2についてもマハラノビスの距離D22の式を求めておく(S7)。以上で準備が終了する。

【0034】
図7は実際に機器を診断する際の処理手順を示すフローチャートである。同図のごとく、機器を診断するとき、診断に必要な変量データを計測する。この実施の形態では、回転機械の変量データである周波数データを、
0d,x1d,…xN-1 d
のようにN個取得する(S20)。xidの「i」は時刻t=iを、「d」は判定(determination)用データであることをそれぞれ示す。

【0035】
つぎに、これらp個のデータから図4同様の手順でARモデルを立て、線形予測係数、
1d,a2d,…apd
を求める(S21)。

【0036】
最後に、これらp個の係数データを図4のS6とS7で求められたマハラノビスの距離の式に代入し、その大小を判定する(S22)。具体的には、式1、2のx1,x2,…xpの箇所にそれぞれa1d,a2d,…apdを入れていけばよい。この後、D12<D22なら機器は正常、逆の場合は異常と判定する。

【0037】
以上が本実施の形態の処理手順である。本実施の形態によれば、当初の変量データの個数Nを大きな数にすることで予測の精度、すなわち線形予測係数の精度を高めることができる。その一方、最適次数探索のための上限値pmaxをNよりも小さくすることで、計算負荷を軽減することができる。後述の、シミュレーション実験ではN=1000、pmax=20として計算負荷を軽減しつつ非常に良好な結果が得られている。

【0038】
本実施の形態については、以下のような変形技術が考えられる。

【0039】

【0040】
)本実施の形態では、機器を実際に診断するとき、診断に必要な変量データxidを1回だけ計測した。しかし、これも準備工程同様、例えばn回計測して平均をとってもよい。その場合、当然ながら精度が改善される。

【0041】
)本実施の形態では変量データとして回転機械の周波数に関するデータを計測した。しかし、当然これは別のデータでもよい。最終的に機器の挙動を支配する方程式に投入できるデータ、またはそのデータに変換可能なデータであればよい。実際に、実験ではころがり軸受において回転に起因する変位の加速度を計測し、利用した。

【0042】
)本実施の形態では、内輪にスポット傷が生じる場合を想定してグループG2の係数データを求めた。しかし、それ以外の状況を想定してさらに別のグループG3、G4…を準備してもよい。その場合、機器の診断時に取得されたデータがいずれのグループに最も近いかをグループごとに設けられたマハラノビスの距離の式に入れて判定することができる。

【0043】
)本実施の形態では回転機械を診断した。しかし、この他いろいろな機器の診断が可能である。例として、エンジンの燃料噴射、エアーコンディショナーの温度制御、航空機の飛行制御等、制御系全般にきわめて広い応用が考えられる。例えば温度制御の場合、従来の故障判定は温度が最終的に目標温度になるか否かといった程度のものが多かったが、本実施の形態によれば、たとえ目標温度が実現されていても、機器に内在する故障状態を検出することができる。

【0044】
実験の結果
図8は実験の結果を示す図である。同図の横軸は回転機械の回転数、縦軸はマハラノビスの距離の相対値である。実験では、4つのグループを想定した。それらは、機器が正常な場合、ボールに傷がある場合、内輪に傷がある場合、外輪に傷がある場合である。

【0045】
これら4つのグループについて、まず正常な状態で計測した変量データ(既述のごとく、軸受の変位の加速度)をもとに、診断の準備としてそれぞれマハラノビスの距離の式を立てた。つぎに、実際に機器の運転中に変量データを計測し、そのときの機器の状態が4つのいずれのグループに近いかを判定した。

【0046】
診断のためのデータを計測する際、ころがり軸受の外輪に実際に傷がついているものを使った。図8において、黒丸は正常、黒四角はボールに傷がある場合、黒三角は内輪に傷がある場合、×は外輪に傷がある場合をそれぞれ想定して立てられたマハラノビスの距離の式に、診断用の変量データをもとに求められた係数データを投入したときの距離である。この結果から、予め想定された外輪に傷があるグループについてマハラノビスの距離が極めて小さくなり、本実施の形態の有効性が判明した。

【0047】
この実験では回転数が300~1400の範囲で診断したが、マハラノビスの距離の式を立てる準備段階で変量データを取得した回転数は400~1300であった。それにも拘らず、300回転や1400回転付近でも結果は非常に良好であり、本実施の形態の汎用性が証明された。診断が客観的な基準で行われ、かつ回転数にほとんど依存しないため、本発明の有用性は非常に高い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図8】
7