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Specification :(In Japanese)Jab1/COP9シグナロソームを利用した細胞増殖等の制御方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P4510490
Publication number P2005-261232A
Date of registration May 14, 2010
Date of issue Jul 21, 2010
Date of publication of application Sep 29, 2005
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)Jab1/COP9シグナロソームを利用した細胞増殖等の制御方法
IPC (International Patent Classification) C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI (File Index) C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/02
G01N 33/15 Z
A01K 67/027
C12N 5/00 202C
C12N 5/00 102
Number of claims or invention 5
Total pages 21
Application Number P2004-075355
Date of filing Mar 16, 2004
Date of request for substantive examination Mar 15, 2007
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】加藤 順也
【氏名】友田 紀一郎
【氏名】加藤 規子
Representative (In Japanese)【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
Examiner (In Japanese)【審査官】吉森 晃
Document or reference (In Japanese)国際公開第01/038566(WO,A1)
特開2004-347538(JP,A)
Dev. Biol.,2002年,Vol.251,pp.333-347
Neuron,2002年,Vol.33,pp.35-46
第62回日本癌学会総会,2003年,p.151, 2030-OA
Nature,2000年,Vol.408,pp.211-216
J. Clin. Endocrinol. Metabol.,2002年,Vol.87, No.6,pp.2635-2643
臨床免疫,2001年,Vol.36, No.5,pp.818-823
実験医学,2000年,Vol.18, No.7,pp.22-26
第22回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集,1999年,p.389, 1P-0701
第62回日本癌学会総会,2003年,p.162, 2079-OA, 2080-OA
第60回日本癌学会総会,2001年,p.46, S11-1
Field of search C12N 15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
Science Direct
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
ゲノム中のJab1遺伝子配列の全部又は一部を改変することにより得られ、相同染色体上の一方又は双方のJab1遺伝子が破壊されたJab1ノックアウト細胞を用いた抗炎症剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
ゲノム中のJab1遺伝子配列の全部又は一部を改変することにより得られ、相同染色体上の一方又は双方のJab1遺伝子が破壊されたJab1ノックアウト非ヒト動物を用いた抗炎症剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を制御することにより、ES細胞の増殖又は死を調節する方法。
【請求項4】
Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を抑制することにより、ES細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項5】
Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を亢進することにより、ES細胞の増殖を促進する方法。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、Jab1/COP9シグナロソームを利用した細胞増殖等の制御方法に関する。本発明は、細胞増殖の抑制又は促進を目的とする各種用途に利用できるほか、抗がん剤及び抗炎症剤のスクリーニング方法等としても利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
COP9シグナロソーム(CSN)は、図17に示すように、細胞内外の様々なシグナルを細胞内のシグナルに変換し、その下流の様々な機能分子を介して種々の細胞応答を誘導する高次生命調節機構である。本発明者は、その第5サブユニットであるJab1(CSN5)に着目し、研究解析を進めた結果、これまでに(1)Jab1はCdk阻害タンパク質p27の分解を促進すること、(2)Jab1遺伝子を哺乳類繊維芽細胞に過剰発現させると、細胞増殖における血清依存性が減少すること、(3)膵臓がん細胞において、細胞質及び核の双方にJab1蛋白の強い発現が観察されること、等を明らかにした(下記の非特許文献1・2参照)。
【0003】

【非特許文献1】Nature, Vol.398, No.6723, pp.160-165, 11 March 1999
【非特許文献2】Oncology Reports 11: 277-284, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、COP9シグナロソーム及びその構成要素であるJab1の上述した機能・作用に着目し、その活性又は発現を変化させることにより、細胞増殖等の様々な細胞応答を変化させることができるのではないかと考えた。COP9シグナロソームは、様々なシグナルを受け、下流の機能分子群を協調して制御できるため、もしこのような方法で細胞増殖等を制御することができれば、その制御方法には、(1)対象細胞に応じてシグナル因子をいくつも用意する必要がない、(2)機能分子をまとめて制御できる、等といった利点があると考えられる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、Jab1/COP9シグナロソームを利用した細胞増殖等の制御方法、とりわけJab1に着目し、その発現又は活性を調節することによる細胞増殖制御方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)ヒト由来の種々の癌細胞に対して、RNAi法によりJab1遺伝子の細胞内発現を抑制したところ、いずれの場合にもがん細胞の増殖が抑制され、がん細胞の細胞死が誘導されること、(2)Jab1ノックアウト細胞およびその動物個体を作製し、様々な機能解析を行ったところ、Jab1の機能は、初期発生、細胞増殖、細胞死、細胞癌化といった幅広い生命現象に深く関わっていること、さらに、(3)ノックアウト法によりJab1の発現を減少させた細胞では炎症反応が促進されること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、産業上および医療上有用な発明として、下記A)~L)の発明を包含するものである。
【0008】
A) Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を制御することにより、動物細胞(特に哺乳類細胞)の増殖、死、分化、又は癌化を調節する方法。例えば、Jab1遺伝子の発現を抑制することによる細胞増殖抑制方法が挙げられる。発現・活性の制御は、発現・活性を亢進することと抑制することの両方を含む意味である。
【0009】
B) Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を抑制することにより、がん細胞の増殖を抑制し、又は、がん細胞の細胞死を誘導する方法。実際、この方法により、種々のヒト由来がん細胞株に対して増殖抑制効果が認められた。
【0010】
C) Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を抑制することにより、ES細胞その他のプライマリー細胞の増殖を抑制し、又は、プライマリー細胞の細胞死を誘導する方法。プライマリー細胞は、万能細胞に限らず、種々の幹細胞、マウス胚性繊維芽細胞(MEF)、未分化細胞など多分化能をもった細胞すべてを含む広義の意味である。この方法は、例えば、再生医療でES細胞を用いて組織・臓器を作製するときに、不所望の細胞増殖を抑制する技術などに有用である。
【0011】
D) Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を亢進することにより、プライマリー細胞その他目的細胞の増殖を促進する方法。この方法は、骨髄移植やさい帯血移植の際に、採取した造血幹細胞を増やす技術、あるいは、肝臓細胞を増殖して薬効評価に利用する技術、ex vivo幹細胞増殖法などに有用である。Jab1の発現・活性を亢進する方法としては、例えば、Jab1発現ベクターを細胞内導入する方法や、Jab1を活性化する薬剤を投与する方法などが挙げられる。
【0012】
E) Jab1遺伝子の発現が一時的又は持続的に抑制されたJab1ノックダウン細胞。野生型と比べて発現量が実質的に低下していればよく、Jab1の発現が完全に抑制されていなくてもよい。
【0013】
F) Jab1遺伝子の発現を特異的に抑制するために細胞内に導入されるJab1特異的RNAi発現ベクター。特に、Jab1遺伝子の細胞内発現を持続的・安定的に抑制するものとして有用である。
【0014】
G) ゲノム中のJab1遺伝子配列を改変することにより得られ、Jab1蛋白の活性が改変されたことを特徴とするJab1改変細胞。例えば、Jab1蛋白の活性に重要な領域に点変異などの変異を導入し、本来の活性を失ったJab1変異蛋白を発現するように改変した細胞などが挙げられる。本来の活性よりも高い活性を有するJab1変異蛋白を発現するように改変した細胞でもよい。
【0015】
H) ゲノム中のJab1遺伝子配列を改変することにより得られ、Jab1蛋白の活性が改変されたことを特徴とするJab1改変非ヒト動物。上記と同様に、本来の活性を失ったJab1変異蛋白を発現するように改変された動物などが挙げられる。
【0016】
I) ゲノム中のJab1遺伝子配列の全部又は一部を改変することにより得られ、相同染色体上の一方又は双方のJab1遺伝子が破壊されたことを特徴とするJab1ノックアウト細胞。
【0017】
J) ゲノム中のJab1遺伝子配列の全部又は一部を改変することにより得られ、相同染色体上の一方又は双方のJab1遺伝子が破壊されたことを特徴とするJab1ノックアウト非ヒト動物。後述のように、炎症性疾患モデル動物としても利用可能と考えられる。なお、Jab1遺伝子の双方を破壊したノックアウトマウスは胎児期に致死的であったが、胎児の利用などが考えられる。
【0018】
K) Jab1の活性又は発現を阻害するJab1阻害物質を探索することを特徴とする抗がん剤のスクリーニング方法。in vitro及びin vivoスクリーニング系のいずれであってもよい。種々のがん細胞に有効な汎用性の高い抗がん剤の開発が期待できる。
【0019】
L) 上記G)~J)の何れかに記載の細胞又は動物を用いた抗炎症剤のスクリーニング方法。培養細胞レベルおよび個体レベルで抗炎症剤のスクリーニングが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、Jab1/COP9シグナロソームの機能に着目し、Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を制御することにより、動物細胞の増殖、死、分化、又は癌化を調節する方法である。サイトカイン等のシグナル因子を外から加えて細胞増殖等を制御する従来の方法では、標的細胞によって作用する因子が異なる場合が生じ、標的細胞に応じてシグナル因子を変える必要があったが、本発明の場合には、Jab1/COP9シグナロソームは殆どすべての哺乳類細胞に存在するため、標的細胞に応じて材料や方法を変更する必要がない。
【0021】
また、細胞周期制御因子など特定の機能分子の活性を制御する従来の方法では、不所望の効果が発生する危険がある。本発明の場合には、Jab1/COP9シグナロソーム下流の複数の機能分子を協調して制御できるため、細胞応答を効果的に生じさせることが可能である。
【0022】
実際、本発明は、種々のヒト由来がん細胞株に対して増殖抑制効果が認められ、広範囲の細胞・組織に適用可能であることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の具体的態様等について更に詳しく説明する。
〔1〕本発明の細胞増殖制御方法等
本発明は、Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を人為的に制御することにより、動物細胞(特に哺乳類細胞)の増殖、死、分化、又は癌化を調節する方法である。前述のように、発現・活性の制御には、発現・活性を亢進することと抑制することの両方が含まれる。例えば、対象細胞・組織におけるJab1遺伝子の発現量を抑制する方法、反対に、Jab1遺伝子の発現量を高める方法などが挙げられる。Jab1遺伝子の発現量を抑制する方法としては、Jab1ゲノムを改変する方法(例えば後述のノックアウト法)、転写後に抑制する方法(例えば後述のRNAi法によるノックダウン法)が例示される。その他、Jab1遺伝子の転写を選択的に阻害する方法であってもよいし、Jab1のスプライシング,翻訳、翻訳後修飾の何れかのプロセスを選択的に阻害し、Jab1蛋白の発現を特異的に抑制する方法であってもよい。Jab1選択的阻害剤としては、Jab1蛋白の活性を阻害する作用を持つ物質のほか、このようにJab1蛋白の発現を特異的に抑制する作用を持つ物質であってもよい。本発明は、このようなJab1選択的阻害剤を投与してJab1遺伝子・蛋白の発現を特異的に抑制する方法も含まれる。
【0024】
Jab1遺伝子の発現量を特異的に抑制する方法として、RNAi法を用いてもよい。例えば、人工的に作製したsiRNAを細胞内に導入する方法や、Jab1特異的RNAi発現ベクターを作製し、これを細胞内に導入する方法などが例示される。Jab1特異的RNAi発現ベクターは、(1)1本のRNAで適当な長さのヘアピン構造をもつdsRNAを対象細胞内で発現させるように設計されたもの、(2)センス鎖、アンチセンス鎖それぞれを対象細胞内で発現させ、会合させるように設計されたもの、のいずれであってもよい。後述の実施例で使用したJab1特異的RNAi発現ベクターは、上記(2)のタイプである。siRNAの配列は特に限定されるものではなく、公知の方法にしたがって任意に設計すればよい。Jab1特異的RNAi発現ベクターを使用することにより、持続的・安定的にJab1遺伝子をノックダウンさせることができる。
【0025】
Jab1遺伝子の発現量を特異的に抑制するその他の方法としては、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、低分子化合物などを対象細胞・組織に投与する方法が挙げられる。
【0026】
Jab1の発現・活性を亢進する方法としては、例えば、Jab1発現ベクターを細胞内導入する方法や、Jab1を活性化する薬剤を投与する方法などが挙げられる。Jab1発現ベクターは特に限定されるものではなく、対象細胞・組織に応じて適切なベクターおよびJab1 DNAを決定すればよい(例えば、マウスの実験に使用する場合は、マウスJab1 cDNA(アクセッション番号:AF068223)を使用することができる)。
【0027】
勿論、上記例示の方法に限らず、従来公知の種々の方法を適用してJab1遺伝子の発現およびJab1蛋白の活性を制御することができる。また、本発明以降に新たに開発された方法を使用するものであってもよい。
【0028】
後述の実施例に示すように、Jab1の機能は、初期発生、細胞増殖、細胞死、細胞分化、細胞癌化といった幅広い生命現象に深く関わっていることが今回得られた研究成果により明らかになった。したがって、Jab1の発現・活性を制御した場合の効果も、細胞の増殖、死、分化、癌化といった幅広い範囲に適応可能である。
【0029】
細胞の増殖、死、分化、癌化を調節する機構の異常が原因で生じる疾患は数多い。例えば、癌はその代表である。本発明は、このような疾患の診断法や治療法の開発、治療薬のスクリーニングなどに利用できる。
【0030】
例えば、Jab1の発現を減少させると、種々のがん細胞の増殖が抑制され、細胞死が引き起こされることが、今回の研究・実験により明らかになった。したがって、本発明は、抗がん剤の開発に有用である。Jab1の発現抑制は、膵癌、乳癌、子宮頚部癌といった固形腫瘍に限られず、白血病(リンパ腫・血液性悪性腫瘍)、テラトーマ(奇形腫)に対してもその効果が認められた。したがって、様々な種類の癌に対して効果のある抗がん剤の開発が期待できる。特に、膵臓がんに対する増殖抑制効果が認められたので、膵臓がんに対する効果的な抗がん剤の開発が期待できる。
【0031】
また本発明は、目標とする(プライマリー)細胞の増幅法などにも利用できる。例えば、本発明の方法により肝臓細胞を増殖させ、薬効評価に利用したり、ex vivo幹細胞増幅法に利用することが考えられる。
【0032】
さらに後述の実施例に示すように、Jab1+/-細胞(マウス)では炎症反応が促進されるので、本発明は、各種炎症性疾患の診断法や治療法の開発、治療薬のスクリーニングなどにも利用可能である。
【0033】
〔2〕本発明のJab1遺伝子改変細胞及び動物
例えば、Jab1ノックアウト動物、即ち、ゲノム中のJab1遺伝子配列の全部または一部を改変することにより得られ、相同染色体上の一方又は双方のJab1遺伝子が破壊された非ヒト動物は、遺伝子ターゲティング法を用いて作製することができる。
【0034】
遺伝子ターゲティング法は、通常の方法にしたがって行えばよい。一例を挙げれば、まず、相同組換えのためのターゲティングベクター(ターゲティングコンストラクト)を構築する。ターゲティングベクターは、公知の方法により作製することができ、大略、Jab1ゲノムDNA断片、市販のプラスミド、ポジティブセレクション用のマーカー(PGK-neoカセット等)、およびネガティブセレクション用のマーカー(DTA遺伝子、HSV-tk遺伝子等)などの各フラグメントを適切に連結することにより作製することができる。このとき、目的とする制限酵素切断部位が適切な位置に配されるようターゲティングベクターを設計するとよい。また、ターゲティングの効率は相同領域の長さに依存するので、相同領域はできるだけ長いほうが好ましい。さらに、ターゲティングベクターは環状より直鎖状のほうが好ましいので、直鎖状化のため相同領域以外の部分に一カ所適当な制限酵素切断部位を設けておくとよい。
【0035】
上記方法により作製したターゲティングベクターを、ES細胞等の対象動物由来の全能性細胞にエレクトロポレーション法等により導入し、その後、目的とする相同組換えが起こった細胞を選別する。選別は、ポジティブ-ネガティブ選択法により薬剤を用いて効率よくスクリーニングできる。選別後、目的とする相同組換えが起こった細胞を、サザンブロットやPCR法などによって確認する。最終的に相同組換えが確認された全能性細胞を、妊娠中の子宮から採取された胚盤胞(ブラストシスト)に導入する。胚盤胞への細胞の導入は、マイクロインジェクション法等により行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
上記胚盤胞を常法に従い仮親に移植する。仮親から生まれた生殖系列キメラ動物(好ましくは雄)と、野生型Jab1遺伝子をホモで持つ野生型動物(好ましくは雌)とを交配させることにより、第1世代(F1)として、相同染色体上の一方のJab1遺伝子が相同組換えにより破壊されたヘテロ個体(および細胞)を得ることができる。さらに、これらヘテロ個体同士を交配させることにより、第2世代(F2)として、相同染色体上の双方のJab1遺伝子が破壊されたホモ接合体を得ることができる(もっとも、マウスでは胎児期に致死的であった)。
【0037】
以上説明した遺伝子ターゲティング法は、あくまでその一例を示すものであって、公知の種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0038】
Jab1ノックアウト動物の対象となる動物は、特に限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどの哺乳動物が例示される。これらのうち、実験動物として用いるには、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットが好ましく、なかでも齧歯目がさらに好ましく、近交系が多数作出されており、受精卵の培養、体外受精等の技術が整っているマウスが、特に好ましい。また、全能性細胞としては、受精卵や初期胚のほか、多分化能を有するES細胞、体性幹細胞のような培養細胞を対象とすることができる。
【0039】
他のJab1遺伝子改変細胞及び動物についても、上記と同様の、または従来公知の種々の遺伝子操作技術で作製可能である。
【0040】
Jab1 ノックアウト動物を含む、本発明のJab1遺伝子改変細胞及び動物は、勿論、Jab1の機能解析に利用できるものであるが、Jab1の機能は、前述のように、初期発生、細胞増殖、細胞死、細胞分化、細胞癌化といった幅広い生命現象に深く関わっていると考えられる。そして、細胞の増殖、死、分化、癌化を調節する機構の異常が原因で生じる疾患は数多い。したがって、Jab1遺伝子を破壊・改変したマウスや細胞は、このような疾患の診断法や治療法の開発、治療薬のスクリーニングに利用できる。特に、Jab1遺伝子の一方が破壊されたヘテロマウスは、後述の実施例に示すように、炎症反応が加速されているので、低量の炎症誘起剤の投与により、より確実にかつ速やかに炎症反応を誘起することができ、従来にない炎症モデルマウスとなり得る。
【0041】
〔3〕本発明のスクリーニング方法
RNAi法によりJab1をノックダウンさせたところ、種々のヒトがん細胞で細胞死が誘導された。したがって、Jab1の活性又は発現を抑制・阻害するJab1阻害物質は、種々のがん細胞に有効な抗がん剤(又はそのリード化合物)としての利用が期待でき、そのスクリーニング方法も本発明に含まれる。
【0042】
本発明のスクリーニング方法としては、遺伝子・蛋白の発現量、蛋白質の活性変化等を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。また、本発明以降に新たに開発されたスクリーニング方法を使用するものであってもよい。in vitro及びin vivoスクリーニング系のいずれであってもよいし、cell-free systemでスクリーニングを行ってもよい。また、Jab1遺伝子・蛋白は、ヒト由来のもののほか、マウスその他の動物由来のものを使用してもよい。勿論、Jab1蛋白の高次構造の情報を利用してスクリーニングを行ってもよい。例えば、非変性型電気泳動法により、活性化型Jab1の検出によるスクリーニング法などが挙げられる。
【0043】
また、上記〔2〕記載のJab1遺伝子改変細胞又は動物を用いた抗炎症剤のスクリーニング方法も本発明に含まれる。このスクリーニングの場合も、特にその方法は限定されるものではなく、培養細胞レベルおよび個体レベルで抗炎症剤のスクリーニングが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1:Jab1ノックダウンによるがん細胞死の誘導〕
マウス及びヒトJab1に特異的なRNAi発現ベクターを作製し、このベクターを様々なヒト癌細胞株に導入し、Jab1の発現量を抑制することにより、がん細胞の増殖が抑制されるかどうか検討した。
【0046】
RNAi発現ベクターは、pSilencer expression vector system (Ambion)を用いて作製した。ベクターに挿入した配列は、ヒトJab1に対しては、
hJab1-1 sense (5’-GCT CAG AGT ATC GAT GAA ACG AGT CTC ATA GCT ACT TTT TTT TT-3’)(配列番号1)
hJab1-1 anti-sense (5’-AAT TAA AAA AGC TCA GAG TAT CGA TGA AAT CTC TTG AAC GAG TCT CAT AGC TAC TTT GGC C-3’) (配列番号2)
又は、
hJab1-2 sense (5’-ATA CGA CAA GAA ACA GCA GTT CAA GAG ATA TGC TGT TCT TTG TCG TCT TTT TT-3’) (配列番号3)
hJab1-2 anti-sense (5’-AAT TAA AAA AAT ACG ACA AGA AAC AGC AGT CTC TTG AAT ATG CTG TTC TTT GTC GTC GGC C-3’) (配列番号4)
であり、マウスJab1に対しては、
mJab1-1 sense (5’-CAA CAA CAA GAA ATC CTG GTT CAA GAG ACC AGG ATT TCT TGT TGT TGT TTT TT-3’) (配列番号5)
mJab1-1 anti-sense (5’-AAT TAA AAA ACA ACA ACA AGA AAT CCT GGT CTC TTG AAC CAG GAT TTC TTG TTG TTG GGC C-3’) (配列番号6)
である。
【0047】
上記ベクターを導入したヒト癌細胞株は、以下の固形腫瘍由来の細胞株である。
MIAPaCa:ヒト膵癌細胞株
PANC1:ヒト膵癌細胞株
MCF7:ヒト乳癌細胞株
HeLa:ヒト子宮頚癌細胞株
293:ヒト胎児腎由来癌化細胞
【0048】
Jab1特異的RNAi発現ベクターの細胞内導入には、リポフェクタミン法を使用した。
【0049】
上記実験結果が図1に示される。同図に示すように、上記すべてのヒト癌細胞株について、Jab1 RNAiによりJab1の発現を抑制した結果、いずれもがん細胞の増殖が抑制され、がん細胞死が誘導された。
【0050】
〔実施例2:ターゲティングによるJab1遺伝子の破壊〕
まず、マウスJab1のゲノム構造を解析した。その結果が図2上段(Wild-type locus)に示される。図中、黒色のボックスはエクソンのコード領域、白色のボックスは非コード領域、H・N・VはそれぞれHindIII・NheI・EcoRVの制限サイトを示す。
【0051】
作製したターゲティングベクター(Targeting vector)の構造が同図中段に示される。図中、NEOはneomycin phosphotransferase gene、TKはthymidine kinase geneを示す。ベクターの構築は、まず、開始メチオニンの上流約1kbのゲノムDNA断片と第6エクソン6の下流約5kbのゲノムDNA断片とをそれぞれサブクローニング後、これらの断片をploxPNTベクターのEcoRIサイトとXhoIサイトとにそれぞれ挿入した。その後、同ベクターをXhoIサイトで直鎖化し、マウスRF8 ES細胞にエレクトロポレーション法により導入した。
【0052】
ターゲティングにより所望の相同組換えが起こったESクローンを200μg/ml G418および0.2μM FIAUで選択し、さらにサザンブロット解析で確認した。プローブは、probe A・Bの2種類のプローブを使用した(図2上段参照)。probe Aの場合はゲノムDNAをHindIIIで消化後に、probe Bの場合はゲノムDNAをNheI及びEcoRVで消化後に、断片を検出した。相同組換えが起こると、同図下段(Targeted locus)に示すように、probe Aでは1.6kbの断片が検出され、probe B では6.6kbの断片が検出される。図3はその結果を示したものである。図中、「+/+」は野生型Jab1をホモで有するサンプル、「+/-」はターゲティングにより相同染色体の一方のJab1が破壊されたサンプルを示す(以下、同じ)。
【0053】
上記解析により遺伝子型「+/-」と判定されたJab1+/-ES細胞を、C57BL/6マウス胚盤胞にマイクロインジェクションした。生まれたキメラ雄マウスをC57BL/6雌マウスと交配させ、子孫の遺伝子型をJab1特異的プライマー及びNEO特異的プライマーを用いたゲノムPCR解析によって決定した。使用したプライマーa・b・cの各領域が図2に示される。図4は、培養した胚盤胞から単離されたゲノムDNAのPCR解析結果を示したものである。野生型アレル(WT)の場合は2047bpのバンドが検出され、Jab1破壊アレル(KO)の場合は2464bpのバンドが検出される。図中、「-/-」はターゲティングにより相同染色体の双方のJab1が破壊されたサンプルを示す(以下、同じ)。
【0054】
〔実施例3:Jab1正常胎児およびJab1変異胎児の組織学的解析〕
Jab1アレルの双方を破壊したホモ破壊マウス(-/-)は胎児期(胎生5日前後)に致死的であった。
【0055】
免疫組織化学法などにより、Jab1正常胎児およびJab1変異胎児における各分子の検出などを行った。
【0056】
妊娠中の雌マウスから子宮を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定、パラフィン包埋後、4μm厚の胎児切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色した。その後、免疫組織化学法により複数の抗体を使用して各分子の検出を行った。あわせて、アポトーシス検出のため、胎児切片に対しTUNEL染色を行った。その結果が図5に示される。
【0057】
Jab1、CSN1、cyclin E、Cul1の抗体(αJab1、αCSN1、αCycE、αCul1)にはウサギポリクローナル抗体を、p27、p53の抗体(αp27、αp53)にはマウスモノクローナル抗体を使用した。図中、a,bはE7.5の切片、c-rはE6.5の切片、a-dはヘマトキシリンエオジン染色した結果、e-pは上記各抗体で免疫染色した結果、q,rはTUNEL解析を行った結果である。「+」はJab1正常胎児、「-/-」はJab1ホモ破壊胎児の結果を示す。
【0058】
Jab1ホモ破壊胎児「-/-」では、Jab1およびCOP9シグナロソーム(CSN)の他のコンポーネントであるCSN1の発現低下が見られる一方、p27、p53およびcyclin Eを相対的に強く発現した。また、アポトーシスが観察された。
【0059】
同様の実験で、CSNの他のコンポーネントであるCSN3およびCSN8について調べたところ、いずれもJab1ホモ破壊胎児「-/-」において発現低下が認められた。
【0060】
〔実施例4:胚盤胞からの培養細胞の解析〕
Jab1正常型(+/+)およびJab1変異型(-/-)のE3.5の胚盤胞を子宮から単離し、ES培地でin vitro培養し、免疫蛍光解析により各分子の検出などを行った。その結果が図6に示される。
【0061】
図中、a, fは24時間培養した細胞を観察した結果、b, gとc, hはそれぞれ72時間と120時間、培養した細胞を観察した結果、d, iはBromodeoxyuridine (BrdU)の取り込みを抗BrdU 抗体を用いて調べた結果、k, rは72時間培養後、位相差顕微鏡により観察した結果、e, jはその培養細胞についてTUNELアッセイによりアポトーシスを検討した結果、(l, s), (m, t), (n, u), (o, v), (p, w), (q, x)は同じくその培養細胞について各抗体を用いてJab1、CSN1、cyclin E、p27、p53、Cul1を検出した結果、である。
【0062】
実施例3の結果と同様に、Jab1変異型(-/-)では、Jab1およびCSN1の発現低下が見られる一方、p27、p53およびcyclin Eを相対的に強く発現した。また、増殖能の低下が認められ、アポトーシスが観察された。
【0063】
〔実施例5:Jab1+/-マウス及び細胞の成長に関する検討〕
Jab1アレルの一方を破壊したヘテロマウス(+/-)は成体にまで成長し、繁殖能力も有するが、同腹の野生型(+/+)に比べて体が小さかった(図7)。野生型(+/+)およびヘテロマウス(+/-)の体重を測定した結果が図8に示される。
【0064】
次に、野生型(+/+)およびヘテロマウス(+/-)の胎児(胎生14.5日)からプライマリーマウス胚性繊維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:以下「MEF」という。)を単離し、10% fetal bovine serum (FBS)を添加したDMEM培地で培養し、経時的に細胞数をカウントした。その結果が図9に示される。図中、破線はJab1+/-MEFの結果であり、野生型(+/+)に比べて増殖能力が低下していた。
【0065】
図10は、Jab1+/+MEF、Jab1+/-MEFに対して免疫ブロット解析を行った結果であり、ウエスタンブロッティング又は非変性型電気泳動法により各分子を検出した。その結果、Jab1+/-MEFではp27の発現が強く検出され、一方、Jab1を含む小複合体(Small complex)の量は低下していた。
【0066】
図11は、Jab1+/+MEFおよびJab1+/-MEFを0.1% FBSの条件下で培養しG0/G1期に同調させた後、10% FBSで再刺激し、その後S期に移行した細胞割合の経時的変化をフローサイトメトリー法により調べた結果である(図中、破線がJab1+/-MEFの結果)。また、図12は、10% FBSで再刺激後の各MEF におけるp27の発現を免疫ブロット解析した結果である。Jab1+/-MEFでは、G1期にp27を十分ダウンレギュレートできず、野生型と比較してG0期からS期への移行が遅れた。
【0067】
次に、テラトーマ形成実験を行った。Jab1+/+ES細胞およびJab1+/-ES細胞をヌードマウスに皮下注射し、16日後、形成されたテラトーマ(腫瘍)を切除し、その重さを測定した。その結果、図13に示すように、Jab1+/-ES細胞では、形成される腫瘍の重さ(およびサイズ)が小さく、腫瘍抑制効果が認められた。
【0068】
図14は、Jab1+/+ES細胞、Jab1+/-ES細胞に対して免疫ブロット解析を行った結果であり、ウエスタンブロッティング又は非変性型電気泳動法により各分子を検出した。その結果、Jab1+/-ES細胞では、Jab1を含む小複合体(Small complex)の顕著な発現低下が観察された。
【0069】
〔実施例6:Jab1+/-マウス骨髄細胞のがん化に関する検討〕
Jab1+/-マウスおよび同腹の野生型(Jab1 WT)の骨髄から造血細胞(Hematopoietic Cells)を単離し、Bcr-Ablを遺伝子導入後、in vitro培養した。Bcr-Ablは慢性骨髄性白血病(CML)の原因因子であり、遺伝子導入されると細胞ががん化し、異常増殖を引き起こすことが知られている。Bcr-Abl遺伝子導入後、細胞増殖の頻度を経時的に検討した結果、図15に示すように、Jab1+/-マウス骨髄細胞では、細胞のがん化が抑制されることが分かった。
【0070】
〔実施例7:Jab1+/-細胞における炎症反応の促進〕
Jab1+/-マウス骨髄細胞を長期培養し、得られた造血細胞(Hematopoietic Cells)を顕微鏡観察したところ、図16に示すように、中毒性顆粒(Toxic granule)の発生が認められた。Jab1+/-マウスES細胞をin vitro誘導し、得られた造血細胞についても同様に中毒性顆粒が観察された。この結果から、Jab1+/-細胞(及びマウス)では、Jab1の減少により炎症反応が促進されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明は、Jab1遺伝子の発現又はJab1蛋白の活性を制御することにより、動物細胞の増殖、死、分化、又は癌化を調節する方法に関するものであり、前述のとおり、細胞増殖の抑制又は促進を目的とする各種用途に利用できるほか、抗がん剤の開発や抗炎症剤の開発など産業上幅広く利用し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】Jab1ノックダウンによるがん細胞の増殖抑制効果を調べた実験結果を示すグラフである。
【図2】本実施例の遺伝子ターゲティング法を説明する図である。
【図3】サザンブロット解析結果を示す図である。
【図4】ゲノムPCR解析結果を示す図である。
【図5】Jab1ノックアウトマウス(胎児)の組織学的解析結果を示す図である。
【図6】Jab1ノックアウトマウス(胎児)の胚盤胞を培養して解析した結果を示す図である。
【図7】Jab1+/-マウスの大きさを野生型と比較して示す図である。
【図8】Jab1+/-マウスおよび野生型の体重測定結果を示すグラフである。
【図9】Jab1+/-マウスおよび野生型の胎児からMEFを単離・培養し、経時的に細胞数をカウントした結果を示すグラフである。
【図10】Jab1+/-マウスおよび野生型のMEFに対して免疫ブロット解析を行った結果を示す図である。
【図11】低血清状態で同調したJab1+/-および野生型のMEFを血清再添加によって刺激し、その後S期に移行した細胞割合の経時的変化をフローサイトメトリー法により調べた結果を示すグラフである。
【図12】血清を再添加後、各MEFにおけるp27の発現を免疫ブロット解析した結果を示す図である。
【図13】テラトーマ形成実験を行った結果を示すグラフである。
【図14】Jab1+/-マウスおよび野生型のES細胞に対して免疫ブロット解析を行った結果を示す図である。
【図15】Jab1+/-マウス骨髄細胞のがん化に関する検討結果を示すグラフである。
【図16】Jab1+/-細胞において炎症反応が促進されていることを野生型と比較して示す図である。
【図17】Jab1/COP9シグナロソームの機能・作用を説明する図である。
Drawing
(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図13】
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(In Japanese)【図15】
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(In Japanese)【図17】
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(In Japanese)【図3】
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(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図10】
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(In Japanese)【図12】
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(In Japanese)【図14】
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(In Japanese)【図16】
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