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Specification :(In Japanese)イネに耐虫性を付与するGrh2遺伝子及びその利用

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P4399605
Publication number P2007-135492A
Date of registration Nov 6, 2009
Date of issue Jan 20, 2010
Date of publication of application Jun 7, 2007
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)イネに耐虫性を付与するGrh2遺伝子及びその利用
IPC (International Patent Classification) C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
FI (File Index) C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
A01H 1/00 A
C12Q 1/68 A
C07K 14/415
Number of claims or invention 15
Total pages 20
Application Number P2005-334948
Date of filing Nov 18, 2005
Date of request for substantive examination Nov 10, 2008
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】安井 秀
【氏名】吉村 淳
【氏名】土井 一行
【氏名】武田 和宣
【氏名】久納 健司
【氏名】門脇 稔
Accelerated examination, or accelerated appeal examination (In Japanese)早期審査対象出願
Representative (In Japanese)【識別番号】100089705、【弁理士】、【氏名又は名称】社本 一夫
【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100113309、【弁理士】、【氏名又は名称】野▲崎▼ 久子
Examiner (In Japanese)【審査官】吉森 晃
Document or reference (In Japanese)国際公開第2004/106512(WO,A1)
特開2005-278636(JP,A)
特開2005-110579(JP,A)
特開2004-290190(JP,A)
特開2003-339382(JP,A)
育種学雑誌,1998年,Vol.48, 別冊2,p.108
中国農芸科学,2003年,Vol.36, No.3,pp.237-241
Bull. Kyusyu Agric. Expt. Stn.,1989年,Vol.25, No.3,pp.251-259
育種学研究,2003年,Vol.5, 別冊1,p.173
Rice Genet. Newslett.,2003年,Vol.20,pp.79-80
日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会講演要旨集,2004年,p.281
AHN,O. et al,A genetic and physical map of the region containing PLASTOCHRON1, a heterochronic gene, in rice ( Oryza sativa L.),Theor Appl Genet,2002年,Vol.105, No.5,p.654
Crop Sci.,2004年,Vol.44,pp.389-393
KOMORI,T. et al,Map-based cloning of a fertility restorer gene, Rf-1, in rice (Oryza sativa L.),Plant J,2004年,Vol.37, No.3,p.315-25
Field of search C12N 15/00-15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Science Direct
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
下記の(a)、(b)、(c)、(e)又は(f)のDNA:
(a)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(c)配列番号:1又は2に記載の塩基配列において1~9個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA
e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
【請求項2】
イネ属植物由来である、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
下記の(h)、(i)、(j)、(l)又は(m)のDNA:
(h)配列番号:4又は5に記載の塩基配列からなるDNA;
(i)配列番号:4又は5に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(j)配列番号:4又は5に記載の塩基配列において1~9個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA
l)配列番号:6に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(m)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
【請求項4】
イネ属植物由来である、請求項3に記載のDNA。
【請求項5】
請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターの利用により形質転換された、形質転換植物体又はその一部。
【請求項6】
イネ属植物である、請求項5に記載の形質転換植物体又はその一部。
【請求項7】
請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターを用いることを特徴とする、植物の耐虫性を高める方法。
【請求項8】
イネ品種の耐虫性を高める方法である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターを用いることにより改良された、耐虫性イネ品種。
【請求項10】
請求項9に記載の耐虫性イネ品種を利用することにより得られる、収穫物。
【請求項11】
植物における請求項1又は3に記載のDNAの全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物の耐虫性を評価する方法。
【請求項12】
植物における請求項1又は3に記載のDNAの全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物品種の判定方法。
【請求項13】
請求項1又は3に記載のDNAの塩基配列と、請求項1又は3に記載のDNAを機能可能に有さない植物の請求項1又は3に記載のDNAに対応するゲノム領域の塩基配列とを、コンピュータを用いて比較する工程を含む、植物の耐虫性評価又は植物品種の判定のためのオリゴヌクレオチドの、設計方法。
【請求項14】
下記の(e’)又は(f’)のタンパク質:
(e’)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f’)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
【請求項15】
下記の(l’)又は(m’)のタンパク質:
(l’)配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(m’)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1~9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の新規遺伝子に関する。より詳細には、植物に耐虫性を付与する遺伝子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ツマグロヨコバイ(英名:Green Rice Leafhopper, GRH、学名:Nephotettix cincticeps UHLER)等の吸汁性昆虫は、イネの重要害虫であり、イネの収量に大きな影響を与える。ツマグロヨコバイ類(Nephotettix)はアジア及びアフリカに広く分布しており、日本では、ツマグロヨコバイ、九州・沖縄のタイワンツマグロヨコバイ及びクロスジツマグロヨコバイ、並びに沖縄のマラヤツマグロヨコバイの4種が発見されている。
【0003】
ツマグロヨコバイは、葉に群がって汁を吸う。吸汁は、多発すると虫の排泄物にすす病が発生して、葉が黒く汚れることがあるが、吸汁自体による実害は少ない。しかしながら、ツマグロヨコバイは、吸汁時にウイルスやマイコプラズマを媒介する。特に萎縮病(わい性症わい化病等と称されることもある。)のウイルスを媒介することによる被害が多大なものとなっている。萎縮病ウイルスに一旦感染すると防除する手段はないことから、萎縮病被害を防ぐためにはツマグロヨコバイを防除する必要がある。
【0004】
これまで、イネ品種のいくつかが、イネ萎縮病を発病せず、耐虫性であることが知られていた。また、水稲品種DV85が示すツマグロヨコバイ抵抗性は、2つのツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子(Grh2及びGrh4)に支配され,両遺伝子が存在すると強い殺虫活性を示すことが知られていた(非特許文献1、2)。
【0005】
他方、トビイロウンカ(英名:Brown Planthopper, BPH、学名:Nilaparvate lugens STAL)は、イネの最も重要な害虫であり、その名が示すとおり、茶褐色をした小さな虫である。ウイルスを媒介することもあるが、多く発生すると、吸汁により、夏の終わりから秋にかけて水田の中に穴があいたように突然イネが枯れ、一般に坪枯れと呼ばれる被害をもたらす。トビイロウンカは、イネの株元付近で吸汁することが多く、坪枯れがおこるまで発生に気がつかないこともある。南アジアの品種を中心にトビイロウンカに対する抵抗性が見出されており、これまでに19個以上のトビイロウンカ抵抗性遺伝子が同定されている(非特許文献3)ほか、いくつかの量的形質遺伝子座(QTL)が検出されてきた(非特許文献4)。

【非特許文献1】Breeding Science 48: 243-249 (1998)
【非特許文献2】Crop science 44: 389-393 (2004)
【非特許文献3】Adv. Agron. 45: 223-274(1991)
【非特許文献4】Plant Breeding 124: 93-95 (2005)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
安定な耐虫性品種を育成するためには、耐虫性機構の解明が不可欠である。そこで、Grh2 とGrh4 をポジショナルクローニング法により単離し、その遺伝子機能を解明することが必要である。
【0007】
本発明者等は、これまでに約12,000個体のGrh2大規模分離集団を用いて高精度連鎖地図を作成し、日本晴のBACクローンBb0030E22上のマーカーa28とa31に挟まれた約72kb中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ。しかしながら、その内側には組換え個体が存在せず、これ以上の絞り込みができなかった。そこで、KasalathのBACライブラリーよりGrh2候補ゲノム領域を含むBACクローンを取得し、サブクローン化して Grh2近傍の物理地図を作成した。そして、Grh2候補ゲノム領域を含むサブクローンをGrh4のみを保有するツマグロヨコバイ感受性の近似同質遺伝子系統(NIL)に形質転換することにより、Grh2遺伝子を特定し、その機能を確認した(実施例1)。本発明者等は、さらに耐虫性を示した形質転換体の後代を育成して、候補遺伝子の有無と表現型の共分離を確認し、Grh2遺伝子によりイネ品種を改良しうること等を確認し(実施例2等)、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、Grh2a遺伝子又はそのホモログ、すなわち下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)を提供する。
(a)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(c)配列番号:1又は2に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の相同性を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
【0009】
本発明は、Grh2b遺伝子又はそのホモログ、すなわち下記の(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)又は(n)を提供する。
(h)配列番号:3又は4に記載の塩基配列からなるDNA;
(i)配列番号:3又は4に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(j)配列番号:3又は4に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(k)配列番号:3又は4に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の相同性を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(l)配列番号:6に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(m)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(n)配列番号:6に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
【0010】
本発明は、イネ由来の、Grh2a遺伝子及びGrh2b遺伝子を提供する。Grh2aのゲノムDNAの塩基配列を配列番号:1に、Grh2のcDNAの塩基配列を配列番号:2に、そしてGrh2のcDNAに対応したアミノ酸配列を配列番号:3に示す。また、Grh2bのゲノムDNAの塩基配列を配列番号:4に、Grh2bのcDNAの塩基配列を配列番号:5に、そしてGrh2bのcDNAに対応したアミノ酸配列を配列番号:6に示す。これらの配列は、水稲品種Kasalathから得られたものである(実施例1参照)。
【0011】
なお、水稲品種DV85から得られたGrh2aのゲノムDNAの塩基配列を配列番号:7に、Grh2のcDNAの塩基配列を配列番号:8に、そしてGrh2のcDNAに対応したアミノ酸配列を配列番号:9に示す。また、Grh2bのゲノムDNAの塩基配列を配列番号:10に、Grh2bのcDNAの塩基配列を配列番号:11に、そしてGrh2bのcDNAに対応したアミノ酸配列を配列番号:12に示す。これらは、順に、配列番号:1、2、3、4、5及び6と一致する。
【0012】
本発明においては、配列番号:1又は4のゲノムDNA配列に関しては、ORF部分を用いることができる。
ただし本発明の範囲からは、公知の配列を有するDNA及びタンパク質は除かれる。
【0013】
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.1×SSC又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件であって、温度は約65℃である
【0014】
また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列」というときの置換等されるヌクレオチドの個数は、その塩基配列からなるDNAが所望の機能を有する限り特に限定されないが、1~9個又は1~4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列をコードするDNAが所望の機能を有する限り特に限定されないが、1~9個又は1~4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。このようなDNA配列又はアミノ酸配列に係るDNAを調製するための手段には、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer W & Fritz H-J: Methods Enzymol 154: 350、 1987)がある。
【0015】
本発明には、配列番号:1又は2に記載の塩基配列と高い相同性を有し、かつ植物の耐虫性を制御する機能を有するDNAが含まれる。塩基配列に関し、高い相同性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列の同一性を指す。また、本発明には、配列番号:3に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物の耐虫性を制御する機能を有するDNAが含まれる。アミノ酸配列に関し、高い相同性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列の同一性を指す。塩基配列又はアミノ酸配列の相同性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268、 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873、 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF、 et al: J Mol Biol 215: 403、 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0016】
本発明のDNAは、天然の植物組織材料から調製することができる。本発明のDNAを調製するためには、ハイブリダイゼーション技術(Southern EM: J Mol Biol 98: 503、 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK、 et al: Science 230: 1350、 1985、Saiki RK、 et al: Science 239: 487、 1988)を利用することができる。例えば、Grh2領域のゲノム塩基配列(配列番号:1)、Grh2 cDNAの塩基配列(配列番号:2)、又は、その一部をプローブとして、また、Grh2領域のゲノム塩基配列、Grh2 cDNAの塩基配列に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からGrh2遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することができる。
【0017】
本発明のDNAには、ゲノムDNA、cDNA及び化学合成DNAが含まれる。本発明のDNAは、一本鎖DNA及び二本鎖DNAであり得る。ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段により行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、Grh2遺伝子(本明細書において本発明を説明するとき、本発明のDNAのうちGrh2遺伝子を例に説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明はGrh2遺伝子のホモログにも当てはまる。)を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、本発明のDNA(例えば、配列番号:1又は2)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで調製できる。また、本発明のDNA(例えば、配列番号:1又は2)に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRを行って調製することも可能である。cDNAは、例えば、Grh2遺伝子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAPなどのベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで、またPCRを行うことにより調製できる。
【0018】
本明細書において、植物の形質又は遺伝子の機能に関し、「耐虫性」というときは、特別な場合を除き、吸汁性の昆虫に吸汁された際に殺虫活性を有することをいう。「耐虫性」には、ツマグロヨコバイ属(Nephotettix)の昆虫(例えば、タイワンツマグロヨコバイ、クロスジツマグロヨコバイ、マラヤツマグロヨコバイ)に吸汁された際の殺虫活性が含まれ、イネ萎縮病防除上好ましいと考えられる他の性質、例えばイネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性等を有しているか否かにかかわらず、少なくとも前記の殺虫活性を有している限り、本明細書でいう「耐虫性」がある場合に含まれる。また、「耐虫性」には、トビイロウンカ属(Nilaparvata)の昆虫(例えば、トビイロウンカ、トビイロウンカモドキ、ニセトビイロウンカ)に吸汁された際の殺虫活性が含まれる。
【0019】
他の吸汁性の昆虫の例としては、セジロウンカ(Whitebacked planthopper (WBPH), Sogatella furcifera Horvath)及びそれと同じ属に属する昆虫、並びにヒメトビウンカ(Small brown planthopper (SBPH), Laodelphax striatellus (Homoptera:Delphacidae)及びそれと同じ属に属する昆虫がある。
【0020】
本明細書において、耐虫性を「付与(する)」というときは、特別な場合を除き、耐虫性のない植物に耐虫性を与えること、及び植物の耐虫性を高めることをいう。
本明細書において、「耐虫性を付与する機能を有するDNA」というときは、特別な場合を除き、耐虫性のない植物(又は耐虫性が高くない植物)にそのDNAを導入したとき、耐虫性とある(又は耐虫性が導入前より高くなる)ように形質転換することができるものであるときをいう。
【0021】
対象となるDNAが「耐虫性を付与する機能を有するDNA」であるか否かの判断を行う際に、対象DNAを導入する宿主となる植物は、Grh2を有さない(したがって耐虫性がないか耐虫性が低い、又は以下で説明する感受性である)ことが予め分かっている植物であることが好ましく、またGrh2を有さず、かつGrh4を有する(したがってGrh2を導入した際、以下で説明する強度抵抗性が現れることが期待できる)植物であることが好ましい。また、対象となるDNAが「耐虫性を付与する機能を有するDNA」であるか否かの判断をするための実験に際しては、当業者であれば、周知の手法にしたがって、適当な数の実験を企画することができる。
【0022】
耐虫性の検定には、当業者に公知の手法、例えば、ツマグロヨコバイの幼虫の生存・死亡を調べる抗生作用検定(本明細書の実施例1参照)、及び虫の寄主選好反応を利用した非選好性検定がある。前者の方法においては、幼虫死亡以外に、幼虫死亡の有無、発育遅延、成虫死亡等、昆虫防除上好ましいと考えられる他の要素を判断に加えてもよい。前者の方法においては、幼虫死亡率(NM)で、耐虫性の程度を表すことができる。例えば、70%以上の強度抵抗性(R)を示す場合、及びNM30%以上70%未満の中度抵抗性(MR)を示す場合を「抵抗性」とし、NM30%未満の場合を「感受性(S)」とすることができる。本明細書で単に「抵抗性」又は「感受性」というときは、特別な場合を除き、このような意味で用いている。幼虫死亡率が30%未満であっても、死亡した場合があるということは、その個体において抵抗性が発現していることを意味しうる。
【0023】
本発明はまた、本発明のGrh2遺伝子又はそのホモログ(以下、単に「本発明のGrh2遺伝子」という。)を含む組み換えベクター、そのようなベクターにより形質転換された形質転換植物体又はその一部を提供する。
【0024】
本発明のGrh2遺伝子を利用して形質転換植物体を作製する場合には、本発明のGrh2遺伝子を適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。本発明者等により単離された耐虫性遺伝子Grh2は、植物に耐虫性を付与する機能を有し、この遺伝子を耐虫性でない植物品種に導入し、発現させることによりそれらの品種の耐虫性を高めることが可能である。この形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わずに耐虫性が制御された品種が得られる点で有用である。なお、形質転換される植物は、予めGrh4遺伝子を有することが分かっている植物でもよい。Grh4遺伝子とGrh2遺伝子の両方が存在すると、強い耐虫性を発現しうるから、このような観点からは、形質転換の宿主としてGrh4遺伝子を有する植物を選択することが好ましい。
【0025】
本明細書で「植物体」というときは、特別な場合を除き、植物個体の意味で用いておりその子孫及びクローンを含む。また植物体に関して「その一部」というときは、特別な場合を除き、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。植物体又はその一部は、繁殖材料も含む。
【0026】
本発明のDNAが挿入されるベクターは、植物細胞内で挿入物の機能を発揮させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内で恒常的に遺伝子を発現させるためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることもできる。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、種子、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0027】
植物細胞へのベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。アグロバクテリウム(例えば、EHA101)を介する方法においては、例えば、超迅速単子葉形質転換法(特許第3141084号)を用いることが可能である。また、パーティクルガン法においては、例えば、バイオラッド社のものを用いることが可能である。
【0028】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki S、 et al: Plant Physiol 100: 1503、 1995)。
例えば、イネにおいて形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールを用いてプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta SK: In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg、 Eds) pp.66-74、 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki S、 et al: Plant Physiol 100: 1503、 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou P、 et al: Biotechnology 9: 957、 1991)、及びアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei Y、 et al: Plant J 6: 271、 1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0029】
ゲノム内に本発明のGrh2遺伝子が導入された形質転換植物体がいったん得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることができる。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなど)を得て、それらを基に植物体を量産することも可能である。
【0030】
なお、本発明で「形質転換植物(体)」というときは、特別な場合を除き、本発明の方法により組換え植物細胞を得て、該植物細胞を植物体に再生させることにより得た形質転換植物(体)(T0世代)のみならず、該形質転換植物より得られた後代(T1世代等)の植物(体)も、新たに付与された耐虫性が維持されている限り含む。
【0031】
本発明の形質転換の対象となる植物は、特に限定されないが、好ましくは被子植物であり、より好ましくは単子葉植物網に属する植物であり、さらに好ましくはツユクサ亜網に属する植物であり、最も好ましくはイネ科(Poaceae(Gramineae))に属する植物、例えばイネ(Oryza)、オオムギ、ライムギ、パンコムギ、イヌムギ、ハトムギ、サトウキビ、トウモロコシ、モロコシ、アワ、キビ、ヒエいずれかの属に属する植物である。イネ科に属する植物のうちでは、好ましくはイネ属に属する植物であり、より好ましくはイネ(Oryza sativa L.)であり、さらに好ましくは、ツマグロヨコバイ感受性の品種、例えば日本晴、台中65号、トヨニシキ、晴々、あそみのり、星の光等が好ましい。
【0032】
日本の育成品種のほとんどはツマグロヨコバイ及びトビイロウンカに感受性なので、形質転換の対象となりうる。他の日本の育成品種の例としては、水稲・粳(うるち)である、あきたこまち、関東205号、キヌヒカリ、きらら397、コシヒカリ、ササニシキ、どんとこい、月の光、農林6号、農林8号、農林22号、はえぬき、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、ほしのゆめ、ほのか224及びユメヒカリ;並びに水稲・糯(もち)である、朝紫、おどろきもち、近畿糯39号、クスタカモチ、クレナイモチ、こがねもち、サイワイモチ、札系糯96121、大系糯1076、台中糯70号、たかやまもち、ヒデコモチ、マンゲツモチ、モチミノリ及びわたぼうし等がある。
【0033】
本発明はさらに、本発明のベクターを植物組織に導入し、形質転換体を得る工程;該形質転換体を再生し、形質転換植物体を得る工程;及び該形質転換植物体のうち耐虫性の高くなったものを選抜する工程を含む、植物を改良する方法を提供する。この本発明の改変方法は、イネ等の植物の育種(品種改良)に適用することができる。
【0034】
本発明はまた、本発明のGrh2遺伝子により改良された、耐虫性イネ品種、例えば、感受性イネ品種に由来し、本発明のGrh2遺伝子を用いて形質転換することを含む育成過程により、改良されたイネ品種を提供する。本発明はまた、そのような改良イネ品種の繁殖材料、及びそのような改良イネ品種を利用することにより得られる、収穫物も提供する。
【0035】
本明細書でいう「繁殖材料」とは、特別な場合を除き、植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの(「種苗」ということもある。)をいい、例えば、種子、苗、細胞、カルス、幼芽がある。本明細書でいう「収穫物」とは、特別な場合を除き、通常の意味で用いており、植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されないもの、例えば、植物がイネ属に属するものである場合、収穫物には、刈穂、もみ、玄米、精米された米が含まれる。
【0036】
本発明はまた、植物における本発明のGrh2遺伝子の全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物の耐虫性を評価する方法、及び植物における本発明のGrh2遺伝子のDNAの全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物の品種の判定方法を提供する。これらの方法における本発明のGrh2遺伝子の検出には、当業者にはよく知られたPCR法やDNAアレイを用いる方法を利用することができる。これらの検定には、本発明のGrh2遺伝子の塩基配列の一部を利用したオリゴヌクレオチドを利用することができる。このオリゴヌクレオチドは、本発明のGrh2遺伝子の塩基配列と、本発明のGrh2遺伝子を機能可能に有さない植物の本発明のGrh2遺伝子に対応するゲノム領域の塩基配列とを、コンピュータを用いて比較することにより、設計することができる。本発明はまた、本発明のGrh2遺伝子の塩基配列情報を利用した、植物の耐虫性評価又は植物品種の判定のためのオリゴヌクレオチドの、設計方法も提供する。
【0037】
本発明の方法による植物の耐虫性の評価及び植物品種の識別は、遺伝子レベルで行うものであり、植物をある程度生長させて表現型により判断する育成試験に比較して、極めて迅速であり、簡便である。
【0038】
本発明はまた、本発明のGrh2a遺伝子又はそのホモログによってコードされる、下記の(e')、(f')又は(g')のタンパク質を提供する。
(e')配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f')配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質;
(g')配列番号:3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
【0039】
本発明はまた、本発明のGrh2b遺伝子又はそのホモログによってコードされる、下記の(l')、(m')又は(n')のタンパク質を提供する。
(l')配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(m')配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質;
(n')配列番号:6に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
【0040】
このようなタンパク質の調製及び機能の確認は、当業者であれば、本明細書の記載及び/又は周知の知見に基づいて、充分に行うことができる。
従来、イネの品種改良は、(1)交雑による変異の創出、(2)放射線や化学物質による突然変異誘起などによって増大させた遺伝変異の中から、収量性や生物ストレス耐性などに関する有用変異を保有する系統を選抜する、等の方法により行われてきた。これらの方法には長期間を要し、各種形質の評価と選抜に多大な労力を要するなど問題点が多かった。さらに、変異の程度や方向性を制御できない点は従来の交雑育種の限界であった。しかしながら、本発明者等が単離したGrh2遺伝子を利用することにより,イネに耐虫性を付与することができ,イネ栽培における殺虫剤使用の低減をはかることができる。さらに、本発明の耐虫性遺伝子の利用により、イネの重要害虫であるツマグロヨコバイなどの吸汁性昆虫発生地域におけるイネ収量の安定化を実現することができる。本発明は、食糧の安定供給に貢献しうるものである。
【0041】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0042】
研究目的:
安定な耐虫性品種を育成するためには、耐虫性機構の解明が不可欠である。水稲品種DV85が示すツマグロヨコバイ抵抗性は、2つのツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子 (Grh2とGrh4)に支配され、両遺伝子が存在すると強い殺虫活性を示す(図1)。そこで、Grh2 とGrh4 をポジショナルクローニング法により単離し、その遺伝子機能を解明することを本研究の目的とした。Grh2を保有すると考えられるKasalath由来のBACクローンのゲノムシークエンスをもとに候補ゲノム領域内のサブクローンを用いた相補性検定により、Grh2候補遺伝子を特定した。
【0043】
研究方法:
約12,000個体のGrh2大規模分離集団を用いて高精度連鎖地図を作成し、日本晴のBACクローンBb0030E22上のマーカーa28とa31に挟まれた約72kb中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ。しかしながら、その内側には組換え個体が存在せず、これ以上の絞り込みができなかった。そこで、KasalathのBACライブラリーよりGrh2候補ゲノム領域を含むBACクローンを取得し、サブクローン化してGrh2近傍の物理地図を作成した。Grh2候補ゲノム領域を含むサブクローンをGrh4のみを保有するツマグロヨコバイ感受性の近似同質遺伝子系統(NIL: GRHNIL37-2)に形質転換して相補性検定を行った。また、Grh2とGrh4を保有するNIL(GRHNIL54-4)に昆虫を放飼した後にRT-PCR法によりGrh2候補遺伝子の発現解析を行った。さらに、研究支援により解読された原品種DV85の候補遺伝子領域の塩基配列を日本晴ならびにKasalathと比較した。
【0044】
(1)Grh2候補遺伝子の相補性検定:
Kasalath由来BACクローンB219B5上のCAPSマーカーa28とa31に挟まれた約55kbp中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ(図2A及びB)。この領域にはBACクローンB219B5の配列情報をもとにすると14個の候補遺伝子(KasPredgene12(KPg12)~KasPredgene 25(KPg25))が予測された。マーカー間に挟まれたGrh2候補ゲノム領域内には、日本晴とKasalath間に大きなrearrangementが存在し、KPg24の右側の塩基配列では日本晴ゲノム上に多くの挿入配列が確認され、KPd24とKPd12の間の約30kbpの塩基配列が日本晴ゲノム上では欠失していた。なお、近傍マーカーのプライマー情報を配列表の配列番号13~24に示した。
【0045】
Grh2候補ゲノム領域内に7つのサブクローンを作成し、下記のように形質転換体を作成し、評価した。
(1.1)形質転換体の作成
(1.1.1)ベクターの調製
Grh2候補ゲノム領域内の7つのサブクローン、KpnI (19.5kb)、XhoI (8.5kb)、BglII (8.2kb)、XmaJI (8.5kb)(図2参照)等を作成し、Ti-プラスミドベクターpPZP2H-lac (Fuse et al.、Plant Biotechnol. 18: 219-222、2001) に組み込んだ。得られた組換えベクターは、大腸菌(TOYOBO社、COMPETENT high DH5α)に導入し、この菌液をストレプトマイシンを20mg/l、 X-gal(5-Bromo-4-Chloro-3-Indolyl-β-D-galactopyranoside)を20mg/l、 IPTG(Isopropyl-Thio-β-D-Galactopyranoside) を200mg/l含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃で1晩培養した。得られたコロニーのうち、白いものをストレプトマイシンを20mg/l含むLB液体培地にピックアップ後、37℃で1時間培養し、スクリーニングを行った。すなわち、得られた菌液を下記のプライマー対:
コンストラクトKpnI (19.5kb), XhoI (8.5kb), BglII (8.2kb)のスクリーニングに用いたプライマー;
Grh2a 1f(forward primer)ACTGGAGGCACCATCATCAC(配列番号:25)
Grh2a 1r(reverse primer)CACCCAGAAACCTGCTCATC(配列番号:26)
コンストラクトXmaJI (8.5kb)のスクリーニングに用いたプライマー;
Grh2b-1f(forward primer)GTTCCATCTCCCAACGGTTC(配列番号:29)
Grh2b-1r(reverse primer)CTGGATCGAGCTGTTTGAGC(配列番号:30)
にてPCR増幅した。
【0046】
Grh2候補領域を含むベクターをもつことが確認された菌液を培養して、BIO RAD社 Quantum Prep Plasmid Miniprep Kitによりプラスミドを抽出し、Grh2遺伝子候補領域を含むゲノムDNAを含むベクターを得た。
【0047】
(1.1.2)形質転換カルスの調製
得られたベクター2μgを凍結融解法を用いてアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens EHA101)に導入し、選択マーカーによるスクリーニング、PCRによる目的産物の確認を経て、形質転換用アグロバクテリウムを準備した。
【0048】
このアグロバクテリウムをミニスパーテルで1さじ掻き取り、アセトシリンゴン(20mg/l)を含むAAM溶液50mlに懸濁した。これとは別に、2,4-D(2mg/l)を含むカルス誘導培地(N6D培地)にGrh4のみを保有するツマグロヨコバイ感受性の近似同質遺伝子系統(NIL: GRHNIL37-2)の種子を播種し、30℃の明所で培養し、4週間後に胚盤由来カルスを得た。シュートと胚乳部分を除去したカルスを50mlのプラスチック試験管に入れ、上記のアグロバクテリウム懸濁液50mlを加え、1分30秒間ゆっくり転倒混和し、アグロバクテリウムをカルスに付着させた。余分な菌液を除去した後、アセトシリンゴン(10mg/l)及び2,4-D(2mg/l)を含む2N6AS培地上で25℃の暗所にて3日間共存培養することによりアグロバクテリウムをカルスに感染させ、ベクター上のDNA断片をカルスに導入した。このカルスを滅菌水及びカルベニシリン溶液(500mg/l)で洗浄してアグロバクテリウムを除去後、カルベニシリン(500mg/l)、ハイグロマイシン(50mg/l)及び2,4-D(2mg/l)を含む除菌・選抜培地(2N6DS培地)上で30℃の明所にて4週間培養することにより形質転換カルスを得た。
【0049】
(1.1.3)植物体への再分化
得られた形質転換カルスはキネチン(2mg/l)及びナフタレン酢酸(0.02mg/l)を含む再分化培地(Regeneration medium III培地)に移し、30℃の明所で12週間~16週間培養することにより再分化シュートを得た。このシュートを再生培地(MSホルモンフリー培地)に移し、幼植物を得た。この再分化植物を温室に移して25℃で育成した。
【0050】
(1.2)耐虫性の検定:
(1.2.3)供試虫:
1991年に、福岡県粕屋郡粕屋町で採集したツマグロヨコバイ個体群を供試した。同個体群は、杉本(1969)に従って、25℃、16時間人工照明、湿度60%の恒温室内で累代飼育した。餌としてツマグロヨコバイ感受性である水稲品種日本晴の幼苗を与えた。
【0051】
(1.2.3)ツマグロヨコバイ抵抗性の検定:
岸野・安藤(1978)および井辺・岩崎(1987)の方法に準じて、個体ごとにツマグロヨコバイ抵抗性を評価した。試験管に約3mlの水と幼苗を入れ、1~2齢幼虫を7頭前後放飼した後、棉栓で封じた。検定は、25℃、16時間人工照明、湿度60%の恒温室内で行った。幼虫放飼後、4日目における幼虫死亡率を求めて抵抗性の評価を行った。死亡率が30%未満の個体を感受性、30~70%未満の個体を中度抵抗性、70~100%の個体を強度抵抗性と判定した。
【0052】
結果:
KPg24もしくはKPg12 を含むコンストラクトによる形質転換体でのみ中度抵抗性個体が出現し、これら以外のコンストラクトによる形質転換体では感受性であった。KPg24のみを含むコンストラクトによる相補性検定の結果、T0植物54個体中5個体がツマグロヨコバイ幼虫死亡率が30~70%の中度抵抗性を示し、これらを含む9個体でツマグロヨコバイ幼虫の死亡が確認された(表1)。なお、幼虫死亡率が30%未満であっても、死亡したということは、その形質転換体において抵抗性が発現していることを意味する。
【0053】
【表1】
JP0004399605B2_000002t.gif

【0054】
また、KPg12のみを含むコンストラクトによる相補性検定の結果、T0植物36個体中4個体が中度抵抗性を示し、これらを含む9個体でツマグロヨコバイ幼虫の死亡が確認された(表2)。
【0055】
【表2】
JP0004399605B2_000003t.gif

【0056】
しかしながら、前述のいずれの候補遺伝子による形質転換体でも、強度抵抗性を示すNIL(GRHNIL54-4)ほど強い殺虫活性を示さなかった。
そこで、両候補遺伝子をもつコンストラクトを作成して相補性検定を行った結果、強度抵抗性を示すNILと同程度の抵抗性を示す植物が得られた。その内訳はT0植物38個体中25個体が強度抵抗性、4個体が中度抵抗性、9個体が感受性であった(表3)。
【0057】
【表3】
JP0004399605B2_000004t.gif

【0058】
以上より、Grh4の存在下で Grh2が示す強度抵抗性には、KPg24と KPg12の両遺伝子の存在が必須であることが明らかとなった。そこで、KPg24、KPg12をそれぞれGrh2a、Grh2bと名付けた。
【0059】
Grh2aとGrh2bはいずれもNBS-LRR(Nucleotide-Binding Site domain-Leucine-Rich Repeat)タイプの病害抵抗性遺伝子と相同性の高い遺伝子で、Grh2aは、全長3,156bp、3個のエクソンから形成されていた(図3及び図4A~C)。また、Grh2bは、RiceGAASによる予測によると全長3,150bp、3個のエクソンから形成されていた(図5及び図6A~C)。
【0060】
(2)Grh2の発現解析:
Grh2とGrh4を保有する強度抵抗性のDV85と感受性の台中65号を用いて14個の候補遺伝子のRT-PCR法による発現解析を行った結果、両系統ともGrh2a とGrh2bの発現が確認された。Grh2aでは完全長cDNAを取得し、全領域でmRNAの発現を確認した。
【0061】
Grh2aの発現解析結果を図7に示した。ゲノムDNAを鋳型にした場合には 571bpの増幅断片が確認され、cDNAを鋳型にした場合にはイントロンを挟む442bpの増幅断片が確認された。一方Grh2bの発現解析ではcDNAを鋳型にした場合にイントロンを挟む約320bpが増幅した。
【0062】
(3)Grh2候補遺伝子内のDNA塩基配列の品種間比較:
特定したGrh2aならびにGrh2b内の塩基配列を感受性品種日本晴とGrh2を保有する抵抗性品種Kasalathならびに強度抵抗性を示す現品種のDV85間で比較した結果、双方の遺伝子の塩基配列はKasalathとDV85では全く同じであった。一方、日本晴との比較において、日本晴BACクローンBb0030E22上の Grh2候補ゲノム領域にはGrh2aとGrh2bに相同な予測遺伝子がそれぞれ2つずつ重複して存在していた(図8)。すなわちGrh2aに相同性のあるものとして日本晴予測遺伝子NipPredg(NPg)23、NPg26が予測され、Grh2b に相同性のあるものとしてNPg24、NPg27が予測された。双方の遺伝子の塩基配列を比較すると、アミノ酸変異に寄与するSNPや挿入・欠失が多数存在した。
【0063】
以上のことから、Grh2遺伝子座の分子学的な基盤はNBS-LRR構造を有する2個の遺伝子Grh2aとGrh2bであり、Grh4遺伝子座のDV85対立遺伝子を持つ系統の遺伝的背景において、Grh2a、Grh2bのDV85対立遺伝子が強度な殺虫活性を示すことが明らかとなった。
【実施例2】
【0064】
方法:
1999年に長崎県で採集されたトビイロウンカ個体群(1999-BPH)を用いて、ツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子に対する近似同質遺伝子系統(Grh2-NIL, Grh2+Grh4-NIL) のトビイロウンカ抵抗性検定を行った。評価方法は、Tanaka. And Matsumura (2000)を改変した個体別評価方法を用いた。すなわち、羽化後24時間以内のトビイロウンカ短翅型メス成虫を、ケージで囲った分ゲツ期のイネ個体に放飼した。放飼後のメス成虫を毎日観察し、放飼5日後のメス成虫の死亡率ならびに蔵卵メス率を求めて、抗生作用の程度を評価した。死亡率30%未満を感受性、死亡率30%以上70%未満を中度抵抗性、死亡率70%以上を抵抗性と判断した。(引用文献:Tanaka, K. and M. Matsumura, (2000), Development of virulence to resistant rice varieties in the brown planthopper, Nialparvata lugens (Homoptera: Delphacidae), immigrating into Japan. Appl. Entomol. Zool. 35(4);529-533.)
結果:
結果を下表に示した。
【0065】
【表4】
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【0066】
ツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子に対する近似同質遺伝子系統(Grh2-NIL, Grh2+Grh4-NIL) は、トビイロウンカに対しても抵抗性であった。
なお、本明細書の実施例で得られた配列の相同性に関する情報を下表に示した。
【0067】
【表5】
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【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、Grh2とGrh4に関するNILsにおけるGRHの幼虫死亡率を示したグラフである。
【図2】図2は、Grh2のMap-based cloningを示す。Kasalath由来BACクローンB219B5上のCAPSマーカーa28とa31に挟まれた約55kbp中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ。AはGrh2(GRH抵抗性遺伝子)の高精度連鎖地図、BはKasalathのゲノム配列に基づくGrh2 候補領域の物理地図、Cは形質転換に用いたゲノム断片を示す。
【図3】図3は、Grh2a(KPg24)遺伝子の構造を示した図である。幅広部分は、転写領域であり、灰色部分はタンパク質コード領域、白色部分は非翻訳領域を示す。細線はイントロンを示す。
【図4A】図4Aは、Grh2a(KPg24)遺伝子(ゲノムDNA)の塩基配列を示した図である。
【図4B】図4Bは、Grh2a(KPg24)遺伝子(cDNA)の塩基配列を示した図である。
【図4C】図4Cは、Grh2a(KPg24)遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を示した図である。波線で囲んだ部分は、NBS(Nucleotide-Binding Site)ドメイン、実線で囲んだ部分は、LRR(Leucine-Rich Repeat)ドメインである。
【図5】図5は、Grh2b(KPg12)遺伝子の構造を示した図である。幅広部分は、転写領域であり、灰色部分はタンパク質コード領域、白色部分は非翻訳領域を示す。細線はイントロンを示す。
【図6A】図6Aは、Grh2b(KPg12)遺伝子(ゲノムDNA)の塩基配列を示した図である。
【図6B】図6Bは、Grh2b(KPg12)遺伝子(cDNA)の塩基配列を示した図である。
【図6C】図6Cは、Grh2b(KPg12)遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を示した図である。波線で囲んだ部分は、NBS(Nucleotide-Binding Site)ドメイン、実線で囲んだ部分は、LRR(Leucine-Rich Repeat)ドメインである。
【図7】図7は、Grh2a遺伝子のRT-PCRによる発現に関する実験結果を示した写真である。1及び2はDV85 cDNAを、3はDV85ゲノムDNAを、Mは100bpサイズマーカーを泳動したレーンである。
【図8】図8は、Grh2a あるいはGrh2b と相同性のある日本晴予測遺伝子のゲノム上の位置関係を示した図である。Grh2a あるいはGrh2bと相同性のある遺伝子を同色の矢印で示し破線で結んだ。Grh2a あるいはGrh2b と相同性の高いゲノム塩基配列を保有する日本晴予測遺伝子の相同性の程度を括弧で示した。太線の破線部はKasalathと日本晴間にみられた顕著な rearrangement を含むゲノム領域(それぞれ30kbと10kb)である。
Drawing
(In Japanese)【図1】
0
(In Japanese)【図2】
1
(In Japanese)【図3】
2
(In Japanese)【図4A】
3
(In Japanese)【図4B】
4
(In Japanese)【図4C】
5
(In Japanese)【図5】
6
(In Japanese)【図6A】
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(In Japanese)【図6B】
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(In Japanese)【図6C】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図8】
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