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明細書 :光学活性ビスホスフィノメタン並びにそれらのロジウム又は銅錯体を用いる不斉合成

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2972887号 (P2972887)
登録日 平成11年9月3日(1999.9.3)
発行日 平成11年11月8日(1999.11.8)
発明の名称または考案の名称 光学活性ビスホスフィノメタン並びにそれらのロジウム又は銅錯体を用いる不斉合成
国際特許分類 C07F  9/50      
C07B 53/00      
C07C 29/159     
C07C 33/18      
C07C 45/69      
C07C 49/413     
C07C231/18      
C07C233/47      
C07F  1/08      
C07F 15/00      
C07F 19/00      
C07B 61/00      
FI C07F 9/50
C07B 53/00
C07C 29/159
C07C 33/18
C07C 45/69
C07C 49/413
C07C 231/18
C07C 233/47
C07F 1/08
C07F 15/00
C07F 19/00
C07B 61/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 7
出願番号 特願平10-308977 (P1998-308977)
出願日 平成10年10月29日(1998.10.29)
審査請求日 平成10年10月29日(1998.10.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】394010252
【氏名又は名称】千葉大学長
発明者または考案者 【氏名】今本 恒雄
【氏名】山野井 慶徳
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
審査官 【審査官】本堂 裕司
参考文献・文献 特表 平6-505260(JP,A)
J.Chem.Res.(S)1978,[9],p.368-369
調査した分野 C07F 9/50
C07C 29/159
C07C 33/18
C07C 45/69
C07C 49/413
C07C 231/18
C07C 233/47
C07F 1/08
C07F 15/00
C07F 19/00
要約 【課題】 最小であるが、極めて高い立体選択性と触媒活性を併せ持つジホスフィン配位子並びにこのロジウム又は銅錯体を不斉合成反応に利用する方法を提供する。
【解決手段】 次の一般式
【化1】
JP0002972887B1_000023t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘシキル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる置換基より選ばれる1種を示す)で表される光学活性な1,1-ビス(アルキルメチルホスフィノ)メタンを配位子とするロジウム又は銅錯体を不斉合成反応に使用する。
特許請求の範囲 【請求項1】
次の一般式
【化1】
JP0002972887B1_000002t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘシキル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる置換基より選ばれる1種を示す)で表される光学活性な1,1-ビス(アルキルメチルホスフィノ)メタン<HAN>。</HAN>

【請求項2】
請求項1記載の光学活性な1,1-ビス(アルキルメチルホスフィノ)メタンを配位子とするロジウム又は銅錯体。

【請求項3】
次の一般式
【化2】
JP0002972887B1_000003t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘキシル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる置換基より選ばれる1種を示す)で表される有機リン化合物。

【請求項4】
次の一般式
【化3】
JP0002972887B1_000004t.gif(式中、R1 ,R2 及びR3 は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示しかつR1 ,R2 及びR3 は同一であっても異なってもよく<HAN>、</HAN> またR4 はアルキル基、アリール基、CH2 CO2 5 基(式中、R5は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)及びNHR6 (式中、R6 はホルミル基<HAN>、</HAN> アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)で表される基を示す)で表わされる不飽和カルボン酸またはそのエステルを請求項2記載のロジウム錯体を用いて不斉水素化し、次の一般式
【化4】
JP0002972887B1_000005t.gif(式中、R1 ,R2 及びR3 は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る群より選ばれる1種を示しかつR1 ,R2 及びR3 は同一であっても異なってもよく<HAN>、</HAN> またR4 はアルキル基、アリール基、CH2 CO2 5 基(式中、R5 は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)及びNHR6 (式中、R6 はホルミル基<HAN>、</HAN> アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)で表される基を示す)で表される光学活性な飽和カルボン酸またはそのエステルを製造することを特徴とする不斉合成方法。

【請求項5】
次の一般式
【化5】
JP0002972887B1_000006t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされるプロキラルなケトンを請求項2記載のロジウム錯体を用いて不斉ヒドロシリル化し、次の一般式
【化6】
JP0002972887B1_000007t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされる光学活性な二級アルコールを製造することを特徴とする不斉合成方法。

【請求項6】
次の一般式
【化7】
JP0002972887B1_000008t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされるα,β-不飽和ケトンへのジエチル亜鉛の不斉マイケル反応を請求項2記載の銅錯体を用いて、次の一般式
【化8】
JP0002972887B1_000009t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされる光学活性ケトンを製造する不斉合成方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学活性ビスホスフィノメタン並びにそれらのロジウム又は銅錯体の利用法、特に不斉合成に利用する方法に関するものである。

【0002】
【従来の技術】金属錯体を触媒とする有機合成反応は古くから知られており、特にキラル化合物を配位子として用いた、光学活性な化合物を触媒的に不斉合成することが極めて有用であることから、多くの研究成果が報告されている。例えば、野依良治著“Asymmetric Synthesis in Organic Synthesis ”や尾島巌編“Catalytic Asymmetric Synthesis”に記載されているように、触媒性能を高めるために様々な構造の光学活性なホスフィン化合物が多数開発されている。

【0003】
特に近年、医薬、農薬、材料などの分野において光学活性化合物の重要性が増加しており、光学活性化合物を合成するには、実用的な触媒的不斉合成の確立が重要となっている。金属錯体は不斉合成反応の不斉触媒として有用であり、これは、不斉配位子として用いられるホスフィン化合物の構造に大きく依存することが知られている。特に、1,1-ビスホスフィンは、遷移金属と歪んだ4員環キレーション錯体や複核錯体を生成し、これらは有用な合成反応の触媒として用いることができる。

【0004】
例えば、キラル配位子の多くは、骨格炭素原子上の不斉がリン原子上の2つのフェニル基の非等価性を誘導することとなり、これが不斉環境を構築している。従って、リン原子そのものが不斉である配位子(P-キラルホスフィン)の方が優れた成果が達成できると考えられる。

【0005】
しかしながら、P-キラルホスフィンは1,2-ビス[(o-メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン(DIPAMP)など、極めて少数なものしか報告されていない。これは高い光学純度で合成する技術が確立されていないためである。

【0006】
上述のように不斉合成の触媒としてより高い性能を供給するために、これまで膨大な数の光学活性ジホスフィン配位子が開発されてきたが、これらも対象とする基質によっては選択性、触媒活性等の面で十分に満足できなかった。また、高い不斉認識能を有する光学活性な1,1-ビスホスフィンはこれまで全く知られていなかった。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、これまで報告されている配位子の中で最小であるが、極めて高い立体選択性と触媒活性を併せ持つジホスフィン配位子、及びこのロジウム又は銅錯体、並びにこれらを不斉合成反応に利用する方法を提供することである。

【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を行った結果、化9で表される、リン原子上に不斉源を有する光学活性1,1-ジホスフィン配位子が、既知のジホスフィン配位子と比べて極めて小さいにもかかわらず、立体選択性並びに触蝶活性に優れていることを見いだし、本発明を完成させた。

【0009】
従って、まず請求項1記載の光学活性な1,1-ビス(アルキルメチルホスホスフィノ)メタンは、次の一般式
【化9】
JP0002972887B1_000010t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘシキル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる群より選ばれる1種を示す)で表される。

【0010】
請求項2記載のロジウム又は銅錯体は、請求項1記載の光学活性な1,1-ビス(アルキルメチルホスフィノ)メタンを配位子とする。

【0011】
本請求項3記載の有機リン化合物は、次の一般式
【化10】
JP0002972887B1_000011t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘキシル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる群より選ばれる1種を示す)で表される。

【0012】
請求項4記載の不斉合成方法は、次の一般式
【化11】
JP0002972887B1_000012t.gif(式中、R1 ,R2 及びR3 は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示しかつR1 ,R2 及びR3 は同一であっても異なってもよく<HAN>、</HAN> またR4 はアルキル基、アリール基、CH2 CO2 5 基(式中、R5は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)及びNHR6 (式中、R6 はホルミル基<HAN>、</HAN> アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)で表される基を示す)で表わされる不飽和カルボン酸またはそのエステルを請求項2記載のロジウム錯体を用いて不斉水素化し、次の一般式
【化12】
JP0002972887B1_000013t.gif(式中、R1 ,R2 及びR3 は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示しかつR1 ,R2 及びR3 は同一であっても異なってもよく<HAN>、</HAN> またR4 はアルキル基、アリール基、CH2 CO2 5 基(式中、R5は水素原子、アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)及びNHR6 (式中、R6 はホルミル基<HAN>、</HAN> アルキル基及びアリール基から成る置換基より選ばれる1種を示す)で表される基を示す)で表される光学活性な飽和カルボン酸またはそのエステルを製造する。

【0013】
請求項5記載の不斉合成方法は、次の一般式
【化13】
JP0002972887B1_000014t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされるプロキラルなケトンを請求項2記載のロジウム錯体を用いて不斉ヒドロシリル化し、次の一般式
【化14】
JP0002972887B1_000015t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされる光学活性な二級アルコールを製造する。

【0014】
請求項6記載の不斉合成方法は、次の一般式
【化15】
JP0002972887B1_000016t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされるα,β-不飽和ケトンへのジエチル亜鉛の不斉マイケル反応を請求項2記載の銅錯体を用いて、次の一般式
【化16】
JP0002972887B1_000017t.gif(式中、R1 及びR2 は異なったアルキル基又はアリール基を示す)で表わされる光学活性ケトンを製造する。

【0015】
【発明の実施の形態】本発明のビスホスフィノメタンは、次の一般式
【化17】
JP0002972887B1_000018t.gif(式中Rは、イソプロピル基、シクロヘシキル基、t- ブチル基及びフェニル基からなる置換基より選ばれる1種を示す)で表される。

【0016】
本発明の新規な光学活性1,1-ビスホスフィンは、
【外1】
JP0002972887B1_000019t.gif対称性を有し、この1,1-ビスホスフィン配位子は、同一リン原子上に最小のアルキル基であるメチル基とt-ブチル基のようなかさ高いアルキル基を有しており、金属キレートを形成すると堅固な4員環となるため、高い不斉誘導を起こし得る不斉空間を構築する(図1)。

【0017】
これらの本発明のホスフィン化合物は、以下の反応スキーム(化18)で示すように、D.A.EvansらのJournal of American Chemical Society, 第117 巻、第9075~9076頁、又は今本らのJournal of American Chemical Society, 第120 巻、第1635~1636頁に記載された方法に準じてホスホン化合物を製造した後、T.Livinghouse らによるTetrahedron Letters, 第35巻、第9319~9322頁に記載された方法に準じてボラナート基を除去することにより製造することができる。

【0018】
【化18】
JP0002972887B1_000020t.gif【0019】即ち、まず三塩化リンにアルキルマグネシウムクロリドを反応させ、次いで2当量のメチルマグネシウムブロミドを反応させた後、ボランーテトラヒドロフラン錯体で処理することによりアルキルジメチルホスフィン・ボランを得る。次いでこれを(-)-スパルティン存在下、
【外2】
JP0002972887B1_000021t.gif-ブチルリチウムにてエナンチオ選択的にプロキラルなメチル基の水素を脱プロトン化し、アルキルジクロロホスフィン、メチルマグネシウムブロミド、ボランーテトラヒドロフラン錯体を順次反応させる。

【0020】
主中間体であるC2 対称のビスホスフィン・ボランの合成にはメソ体の生成を伴うが、これらはメタノールまたはエタノールを用いて再結晶を行うことにより取り除くことができる。得られた光学的に純粋な中間体をトリフルオロメタンスルホン酸、続いて水酸化カリウムで処理することにより脱ボラン化し、本発明のジホスフィン配位子を製造することができる。

【0021】
これらの配位子はすべて分子量200 程度(特に図1中の1aは分子量192 )の極めて小さい光学活性ビスホスフィン配位子であり、発明者はMiniPHOSと命名した。

【0022】
このようにして得られたジホスフィン化合物からロジウム錯体を得るには、例えば、実験化学講座第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行)第18巻、第327~353 頁に記載されている方法にて製造することができるが、特に限定はされず、公知の方法を使用することができる。具体的には例えば、ジホスフィン化合物と〔Rh(nbd)2] + - (X=BF3 又はPF6)をテトラヒドロフラン中攪拌し、溶媒留去ののち精製することで、ロジウム:ジホスフィン化合物=1:2から成る錯体を得る。

【0023】
これらの錯体の立体構造は、第1及び第3象限を小さいメチル基、第2及び第4象限をかさ高いt-ブチル基が占めており、理想的な不斉空間が形成されている。

【0024】
本発明のロジウム錯体を触媒として利用して、不飽和カルボン酸またはそのエステルを不斉水素化して飽和カルボン酸またはそのエステルを製造する方法は特に限定されず、定法に従って実施することができる。例えば、不飽和カルボン酸または、そのエステル、前記ロジウム錯体及びメタノールをアルゴン雰囲気中、耐圧容器に引用例、水素を充填することにより行うことができる。このようにして得られた飽和カルボン酸またはそのエステルは、88~100 %の光学純度を有する。また、デヒドロアミノ酸やイタコン酸の還元(不斉水素化)においてもロジウム錯体を使用でき、これにより88~100 %の光学純度を有する還元生成物が得られる。ロジウム錯体は、単離した状態での使用が好ましいが、反応系中で合成して使用することも可能である。

【0025】
次に、本発明のロジウム錯体を触媒として利用し、単純ケトンを不斉ヒドロシリル化して二級アルコールを製造する方法は特に限定されず、定法に従って実施することができる。例えば、単純ケトン、前記ロジウム錯体、1-ナフチルフェニルシランをテトラヒドロフラン中攪拌することにより行うことができる。

【0026】
従来の光学活性なビスホスフィン配位子はケトンの不斉ヒドロシリル化には有効ではなく、90%ee を越えるものは2,2″-ビス〔1-(ジアルキルホスフィノ)エチル〕-1,1″-ビフェロセン(TRAP)など、ごく少数のものに限られていたが、本発明のロジウム錯体は、ケトンの不斉ヒドロシリル化反応にも有用である。例えば、種々のアリールアルキルケトンの不斉ヒドロシリル化は、ほぼ90%を越える選択性で対応する光学活性なアルコールが得られ、また、ジアルキルケトンの場合でも80%程度の不斉収率で還元反応が進行する。ロジウム錯体は、不斉水素化の時と同様に単離した状態での使用が好ましいが、反応系中で合成して使用することも可能である。

【0027】
更に、本発明の銅錯体を触媒として利用し、α,β-不飽和ケトンヘのジエチル亜鉛の不斉マイケル反応を行い、飽和ケトンを製造する方法は特に限定されず、定法に従って実施することができる。例えば、α,β-不飽和ケトン、前記銅錯体、ジエチル亜鉛をトルエン中攪拌することにより行うことができる。銅錯体は、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II) とジホスフィン化合物を反応系中で調製し、これを使用することが好ましい。

【0028】
マイケル反応は有機合成化学上重要な炭素-炭素結合生成反応の1つであり、最近、銅-キラルホスフィン錯体を触媒として用いると環状エノンへのジエチル亜鉛の不斉マイケル反応が高収率、高立体選択性をもって進行することが明らかとなった。これらの反応で用いられるキラルホスフィンは単座もくしはP,N-ハイブリッド配位子であり、従来の光学活性なビスホスフィン配位子(例えばBINAP,DuPHOS, CHIRAPHOSなど) を用いた場合には、不斉収率は極めて低いが、本発明の銅錯体(ジホスフィン化合物-Cu(OTf)2触媒)を例えば1mmoL %用いて-80 ℃で不斉マイケル反応を行ったところ、反応は円滑に進行し、最高97% eeで対応するマイケル付加体を得ることができる。

【0029】
【実施例】本発明を次の実施例を参照してさらに具体的に説明する。
実施例1 1,1-ビス[(t- ブチル)ジメチルホスフイノ]メタン・ボランの合成
アルゴン下、20mLのジエチルエーテルに溶かした(-)-スパルティン(24 mmoL,5.64g) を-78 ℃に冷却し、これに25 mL の
【外3】
JP0002972887B1_000022t.gif(0.97Mのシクロヘキサン溶液、24 mmoL)を加えた。10分後、この溶液に、t-ブチルジメチルホスフィン・ボラン(20mmoL,2.64g)を粉末のまま加え、-78 ℃で3時間攪拌した。次いで得られた溶液にt-ブチルジクロロホスフィン(20 mmoL,3.18g) のジエチルエーテル溶液(20 mL) を-78℃で滴下した。この反応液を徐々に室温まで加温した後、0℃に冷却し、20 mL のメチルマグネシウムブロミド(1.0M のTHF溶液、20mmoL) を滴下した。この反応液を再び室温まで加温した後、0℃に冷却し、これにボラン-テトラヒドロフラン錯体のテトラヒドロフラン溶液70mL(1.0M,70mmoL) を滴下して、反応させた。

【0030】
反応終了後、反応液を水(約100mL )と酢酸エチル(約20mL)からなる溶液で処理した後、有機層を分離し、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を収集して飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにて脱水し、得られた溶液を減圧下で濃縮して、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた結晶をメタノールから再結晶することにより、光学的に純粋な(S,S)-1,1-ビス[(t-ブチル)ジメチルホスフイノ]メタン・ボランを得た。(1.1g,収率22%)

【0031】
その物性は、以下の通りである;融点188.0-190.0 ℃;〔α〕14D -4.7°( c0.93, CHCl3); 1HNMR(400MHz ,CDCL3)δ0.20-1.04(m,6H), 1.18(d,J =13.9Hz,18H),1.54(d,J=10.0Hz,6H), 1.77(t,1H); 13CNMR(100MHz,CDCl3) δ 7.2(d,J=33.6Hz),13.4(t),25.2(d,J=2.5Hz),29.4(d,J=4.9Hz), 29.8(d,J=4.1Hz); IR(KBr)2980, 2400, 1460, 1170, 910cm-1, HRMS calcd for C11H29P2B2 245. 1935,found 245. 1932。

【0032】
実施例2~4
(S,S)-1,1- ビス[(イソプロピル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボラン、(S,S)-1,1-ビス[(シクロヘキシル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボラン及び(S,S)-1,1-ビス[(フェニル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボランも実施例1と同様の方法にて合成した。

【0033】
これらの物性は、以下の通りである;(S,S)-1,1-ビス[(イソプロピル)ジメチルホスフィノ〕メタン・ボラン:融点105.0-106.0 ℃;〔α〕16D -1.0°( c0.87, CHCl3); 1HNMR(400MHz ,CDCL3)δ0.36-0.68(m,6H), 1.16-1.21(q,12H),1.49(d,6H),1.49(d,6H,J=10.1Hz ), 1.82(t,2H);2.02-2.12(m,2H); 13CNMR(100MHz,CDCl3) δ 8.7(d,J=35.3Hz),16.2(d,12.3Hz),16.4(t),26.0(dd,J=4.1Hz,J=39.4Hz);IR(KBr)2980, 2380, 1460, 1070, 920 cm-1, HRMS calcd for C9H25P2B2 217. 1621, found 217. 1630 。

【0034】
(S,S)-1,1-ビス[(シクロヘキシル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボラン:融点135.0-136.5 ℃;〔α〕16D -5.7°( c0.96, CHCl3); 1HNMR(400MHz,CDCL3)δ0.07-0.85(m,6H), 1.17-1.41(m,14H),1.46(d,6H,J=10.1Hz),1.74+1.88(m,14H); 13CNMR(100MHz,CDCl3)δ 8.7(d,J=35.3Hz),16.3(t),25.8(d,J=5.7Hz),26.0,26.3(d,J=3.3Hz),26.5(d,J=2.5Hz),35.6(dd,J=38.6Hz,J=3.3Hz);IR(KBr)2940, 2380, 1450, 1170, 920 cm-1, HRMS calcd for C15H33P2B2 297. 2249, found 297. 2198。

【0035】
(S,S)-1,1-ビスビス[(フェニル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボラン:融点150.0-152.0 ℃;〔α〕20D -5.1°( c1.28, CHCl3); 1HNMR(400MHz,CDCL3)δ0.55-1.26(m,6H), 1.84(d,6H,J=10.1Hz),2.41(t,2H),7.27-7.56(m,10H); 13CNMR(100MHz,CDCl3)δ12.7(d,J=35.3Hz),27.1(t),128.7(d,J=9.8Hz),131.2(d,J=9.8Hz),131.2(d,J=9.8Hz),131.5;IR(KBr)3050, 2940, 2380, 1440,1110, 920cm-1, HRMS calcd for C15H21P2B2 285. 1310, found 285. 1317。

【0036】
実施例5 (S,S)-1,1-ビス〔(t- ブチル)ジメチルホスフィノ]メタンの合成
アルゴン下、光学的に純粋な1,1-ビス〔(t- ブチル)ジメチルホスフィノ]メタン・ボラン(0.2mmol,0.055g)のトルエン溶液(1mL)を0℃に冷却し、これにトリフルオロメタンスルホン酸(1.0 mmoL,80μL )を加えた。この溶液を室温まで加温した後、さらに1時間攪拌して、この反応液に10%水酸化カリウムエタノール溶液を加え、50℃で2時間攪拌した。反応混合物をジエチルエーテルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した有機層をアルミナカラムに通し、溶媒を留去することにより、ホスフィンを無色の液体として得た。(0.044g,収率100%) 。

【0037】
(S,S)-1,1-ビス〔(イソプロピル)ジメチルホスフィノ]メタン、(S,S)-1,1-ビス[(シクロヘキシル)ジメチルホスフィノ]メタン及び(S,S)-1,1-ビス[(フェニル)ジメチルホスフィノ]メタンも同様の手法にて合成した。

【0038】
実施例6 ロジウム錯体の合成及び不斉水素化反応
アルゴン下、ビス(ビシクロ[2,2,1] ヘプタ-2,5- ジエン) ロジウム(I) テトラフルオロボレート塩(0.1mmoL,0.037g)と(S,S)-1,1-ビス[(t-ブチル)ジメチルホスフィノ]メタン(0.1mmoL,0.044g)とを、テトラヒドロフラン溶液中(10mL)で反応させて、反応液(ロジウム錯体の溶液)を得た。一方、別の反応装置に2-アセトアミドアクリル酸(1mmoL, 0.13g)とメタノール5mLを加え、この反応装置を水素置換した。前述の反応液(ロジウム錯体の溶液)0.2mL を反応装置に滴下した。反応は、室温、水素化圧1atm で行った。20時間後、反応液をキャピラリーガスクロマトグラフィー(カラムは、リポデックスA)により生成物を分析したところ、ほぼ光学的に純粋な生成物(>99.9% ee)が定量的に得られていることが確認された。

【0039】
実施例7 ロジウム錯体を用いる不斉ヒドロシリル反応
アルゴン下、-40 ℃に冷却した反応容器に1-アセトナフトン(1mmoL,0.17g)、1-ナフチルフェニルシラン(1.5 mmoL,0.35g)及びテトラヒドロフラン1mLを加え、実施例6で得られた反応液(ロジウム錯体の溶液)1mLを当該反応装置に滴下した。80時間後、反応液に1M塩酸を加え、有機層を分離した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を合わせて、飽和食塩水で1回洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、生成物である1-(1′- ナフチル)-1- エタノールを得た(0.16g, 収率90%)。光学純度は、高速液体クロマトグラフィー(カラムは、ダイセル製キラルセルOJ) で分析したところ97% eeであった。

【0040】
実施例8 銅錯体を用いる不斉マイケル反
アルゴン下、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)(0.05 mmoL,0.018g)と(S,S)-1,1-ビス[(t-ブチル)ジメチルホスフィノ]メタン(0.05 mmoL,0.011g)とをトルエン溶液中(5 mL)、室温で反応させた。この反応液を-80 ℃に冷却し、2-シクロヘプテン-1- オン(5 mmoL,0.55g)及びジエチル亜鉛6mL(1M トルエン溶液、6 mmoL)を加えた。24時間後、反応液に1M塩酸を加え、有機層を分離した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を合わせて、飽和食塩水で1回洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、生成物である3-エチル-1- シクロヘプタノンを得た(0.64g,収率91% )。光学純度は、キャピラリーガスクロマトグラフィー(カラムは、リポデックスA)で分析したところ97% eeであった。

【0041】
【発明の効果】本発明の光学活性なビスホスフィノメタンは、これまでに報告されている光学活性ビスホスフィン配位子の中で最も小さい配位子であり、そのロジウム錯体は、不斉水素化及び不斉ヒドロシリル化における触媒として、また銅錯体は不斉マイケル反応における触媒としてそれぞれ有用で、従来の既知のリン原子上に不斉中心を有するホスフィン化合物のロジウム及び銅錯体と比較して、立体選択性及び触媒活性が極めて優れている。また、本発明のビスホスフィノメタンを配位子とするロジウム及び銅錯体を用いることにより、極めて高い光学純度を有する物質を得ることができる。従って、分子不斉を有する医薬品、農薬、機能性材料等の高付加価値物質を容易に合成することができる。
図面
【図1】
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