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Specification :(In Japanese)高病原性口腔細菌の高感度検出法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P5747370
Publication number P2010-233552A
Date of registration May 22, 2015
Date of issue Jul 15, 2015
Date of publication of application Oct 21, 2010
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)高病原性口腔細菌の高感度検出法
IPC (International Patent Classification) C12Q   1/04        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P   7/04        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12R   1/46        (2006.01)
FI (File Index) C12Q 1/04 ZNA
G01N 33/50 Z
G01N 33/569 B
A61K 39/395 D
A61P 7/04
C12N 15/00 A
C12Q 1/04 ZNA
C12R 1:46
Number of claims or invention 9
Total pages 35
Application Number P2009-088239
Date of filing Mar 31, 2009
Date of request for substantive examination Mar 30, 2012
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】梅村 和夫
【氏名】外村 和也
【氏名】仲野 和彦
【氏名】大嶋 隆
【氏名】野村 良太
【氏名】和田 孝一郎
Representative (In Japanese)【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
【識別番号】100135943、【弁理士】、【氏名又は名称】三橋 規樹
Examiner (In Japanese)【審査官】北村 悠美子
Document or reference (In Japanese)特開平02-218616(JP,A)
特開昭56-075435(JP,A)
特開昭56-025113(JP,A)
特開昭53-121942(JP,A)
国際公開第2005/007800(WO,A1)
特表2002-537270(JP,A)
特表平07-506959(JP,A)
小児歯科学雑誌,2006年,Vol.44, No.2,p.167
Journal of Dental Research,2008年,Vol.87, No.10,p.964-968
Journal of Dental Research,2004年,Vol.83, No.7,p.534-539
JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,2007年,Vol.45, No.8,p.2616-2625
小児歯科学雑誌,2009年 4月15日,Vol.47, No.2,p.392
第21回日本脳循環代謝学会総会プログラム・抄録号,2009年10月 1日,Vol.21, No.1,p.120, O-32
ARCHIVES OF ORAL BIOLOGY,2010年 1月,Vol.55,p.34-39
Field of search C12Q 1/00-1/70
G01N 33/569
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
出血増悪口腔細菌を検出する方法であって、試料中の口腔細菌のCBPを検出することを含み、CBPが検出されることにより、出血増悪口腔細菌が存在すると判断する、前記方法。
【請求項2】
出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニング方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のCBPを検出することを含み、CBPが検出されることにより、出血増悪の危険性が高いと判断する、前記方法。
【請求項3】
対象における出血増悪の危険性の判定方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のCBPを検出することを含み、CBPが検出されることにより、前記対象において出血増悪の危険性が高いと判断する、前記方法。
【請求項4】
出血が破綻性出血である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
口腔細菌が、Streptococcus mutansである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
CBPが、配列番号5または9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
口腔細菌のCBP検出剤を含む、出血増悪口腔細菌の検出用試薬。
【請求項8】
PA検出試薬、および
CBP検出試薬
を少なくとも含む、出血増悪口腔細菌の検出および/または出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における出血増悪の危険性の判定のためのキット。
【請求項9】
口腔細菌CBPのコラーゲン結合ドメインに結合し、口腔細菌がコラーゲン露出部位に結合することを阻害する抗体を含む、出血増悪抑制剤。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、出血増悪を引き起こす口腔細菌を検出する方法、出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニング方法、対象における出血増悪の危険性の判定方法、これらの方法に用いるための検出試薬およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
血管の損傷による出血を伴う状態として、外傷や圧力による血管の破綻による出血、出産時の出血、脳内出血などが挙げられ、例えば脳内出血の場合、出血に伴う脳の圧迫や壊死による神経組織の損傷、またはくも膜下出血などの場合は出血により誘導される大脳血管攣縮による神経症状などにより、重度の障害を生じる可能性がある。出血の予後を改善するためには、効果的な出血の治療(止血)のみならず、出血の増悪の予防が必要であり、また、出血が増悪するリスクを診断することも重要である。
【0003】
出血を伴う疾患の診断においては、例えば、脳卒中の可能性を診断するマーカーとして、Apo C-III、血清アミロイドA、Apo C-I、アンチトロンビンIIIフラグメント、Apo A-Iなど(特許文献1)、脳卒中および脳損傷の予後を診断するマーカーとして、アデニレートキナーゼなどの脳虚血の脳脊髄液マーカー、β-トロンボグロブリン、血管細胞接着因子(VCAM)、ナトリウム利尿ペプチド、また、後に起こる脳血管痙攣を予測するマーカーとして、フォン・ビルブラント因子(vWF)、血管内皮増殖因子(VEGF)およびマトリクスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)など(特許文献2)が用いられている。しかし、これらはいずれも生体内において既に起こっている出血を検出するためのマーカーであり、出血の増悪のリスクを診断することはできない。
【0004】
したがって、出血の増悪を引き起こすリスクや、かかるリスクを有する個体を判定またはスクリーニングするための方法、および出血の増悪を予防または治療する方法の確立が必要とされている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2007-502401号公報
【特許文献2】特表2005-522669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、出血の増悪を引き起こす原因因子を同定し、出血の増悪のリスクを有する患者を迅速且つ容易に特定できるシステムを構築することにある。また、本発明の別の課題は、かかるリスクを有する個体において、出血時の増悪を防止することにある
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行う中で、特定の株のS. mutansに感染した対象において、出血が悪化するという知見を得た。本発明者らによるさらなる研究により、最も重篤な出血増悪の病原性を発揮するのは、主要な菌体表層タンパクであり分子量約190kDaのタンパク質抗原であるPA(Protein Antigen、別名PAc、SpaP、antigen I/II、antigen B、SR、IF、P1、MSL-1)を保有せず、かつ分子量約120kDaのコラーゲン結合タンパクであるCBP(Collagen Binding Protein、別名Cnm)を保有する菌株であるという知見を得た。S. mutansが出血に及ぼす影響についてはこれまで全く報告されておらず、S. mutansの特定の株が出血の予後を悪化させること、またPAおよびCBPがかかる病原性に関与しているという発見は、驚くべき結果であった。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、CBP陽性菌が血小板凝集抑制能を有することなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、出血増悪口腔細菌を検出する方法であって、試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、出血増悪口腔細菌が存在すると判断する、前記方法に関する。
【0009】
また、本発明は、出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニング方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、出血増悪の危険性が高いと判断する、前記方法に関する。
【0010】
あるいは、本発明は、対象における出血増悪の危険性の判定方法であって、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、前記対象において出血増悪の危険性が高いと判断する、前記方法に関する。
【0011】
また、本発明は、出血が破綻性出血である、前記いずれかの方法に関する。
本発明はまた、口腔細菌が、Streptococcus mutansである、前記いずれかの方法に関する。
本発明はさらに、PAが、
(1)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(4)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、
からなる群より選択される、前記方法に関する。
本発明はさらに、PAが、配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、前記方法に関する。
【0012】
本発明はまた、CBPが、
(1)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号6または10で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(4)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、
からなる群より選択される、前記方法に関する。
本発明はまた、CBPが、配列番号5または9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、前記方法に関する。
【0013】
また、本発明は、口腔細菌のPA検出剤および/またはCBP検出剤を含む、出血増悪口腔細菌の検出用試薬に関する。
また、本発明は、出血増悪口腔細菌の検出のための、口腔細菌PA特異的抗体に関する。
【0014】
さらに、本発明は、
PA検出試薬、および
CBP検出試薬
を少なくとも含む、出血増悪口腔細菌の検出および/または出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における出血増悪の危険性の判定のためのキットに関する。
【0015】
また、本発明は、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸を含む、止血剤に関する。
また、本発明は、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸に結合する物質を含む、血小板凝集抑制剤に関する。
また、本発明は、口腔細菌CBPまたはCBPタンパク質をコードする核酸に結合する物質を含む、出血増悪抑制剤に関する。
【0016】
あるいは、本発明は、口腔細菌CBPを含む、組織におけるコラーゲン露出部位の検出剤に関する。
また、本発明は、口腔細菌CBPを含む、コラーゲン露出部位への物質送達用担体に関する。
【0017】
本発明はまた、口腔細菌CBPおよび止血剤を含む、出血治療剤に関する。
さらに、本発明は、コラーゲンに対する血小板の感受性が低い対象のための、上記出血治療剤に関する。
また、本発明は、口腔細菌除去剤を含む、出血増悪予防剤に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、個体が出血増悪を引き起こすリスクを迅速且つ簡易に診断することが可能となる。また、本発明の方法により、唾液やプラークなどの容易に入手可能な生体試料を用いて、特別な分析機器を使用することなく、出血増悪の原因因子を検出することが可能となる。これにより、出血増悪のハイリスク集団を特定し、この集団に属する個体に対して原因菌の除菌や歯科衛生指導などの措置を行うことにより、出血増悪を効果的に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、出血増悪をもたらし得るS. mutans株を唾液から検出する系のフローチャートである。
【図2】図2は、S. mutansの培養方法および検出方法のスキームである。
【図3】図3は、PA欠失S. mutansおよびCBP保有S. mutansの検出方法のスキームである。
【図4】図4は、マウスに生理食塩水(コントロール)またはS. mutans株を感染させ、脳出血を誘導した場合の、脳の冠状スライス写真である。
【図5】図5は、マウス中大脳動脈損傷モデルにおいて血管を損傷させ、TW295株を投与して3時間後に摘出した脳組織から作製したサンプルの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、TW295株を頸静脈より感染させたマウスの片側の中大脳動脈に損傷を与えて軽度の脳出血を発症させた場合の、24時間後の菌特異的マーカーに対するプライマーによるPCR増幅産物の電気泳動の結果を示した図である。

【0020】
【図7】図7は、マウス全血とS. mutansの各株とを反応させ、5分後にI型コラーゲンを添加した場合の血小板凝集率を示すグラフである。
【図8】図8は、マウス全血より抽出した多血小板血漿とS. mutansの各株とを反応させ、5分後にコラーゲンを添加したものの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、S. mutans株の血小板抑制作用により血管内皮損傷後の出血が悪化する機序を表す模式図である。
【図10】図10は、マウスに生理食塩水(コントロール)またはS. mutans株を投与後、脳出血を誘導し、出血部位の面積を定量化した結果を示すグラフである。

【0021】
【図11】図11は、PA欠失S. mutansおよびCBP保有S. mutansの存在を判定する分析結果の例を示す。
【図12】図12は、S. mutansを培養する際の至適条件(好気条件/嫌気条件での培養、抗生物質濃度、栄養濃度)の検討結果を示すグラフである。
【図13】図13は、病原性S. mutansを検出するために使用可能な唾液の保存期間を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、出血増悪口腔細菌を検出する方法を提供し、該方法は、試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、出血増悪口腔細菌が存在すると判断する。

【0023】
本発明は、別の態様において、出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニング方法を提供し、該方法は、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、出血増悪の危険性が高いと判断する。

【0024】
本発明は、さらに別の態様において、対象における出血増悪の危険性の判定方法を提供し、該方法は、対象から得られた生体試料中の口腔細菌のPAおよび/またはCBPを検出することを含み、PAが検出されないことおよび/またはCBPが検出されることにより、前記対象において出血増悪の危険性が高いと判断する。

【0025】
齲蝕の主要な病原細菌である口腔細菌、ミュータンスレンサ球菌Streptococcus mutansには、4つの血清型(c、e、fおよびk)が公知である。S. mutansはまた、菌血症及び感染性心内膜炎の起炎菌としても知られており、また、心臓弁および大動脈瘤検体からS. mutansの細菌DNAが検出されたことから、循環器疾患との関連性についても報告されている(Nakano et al., 2008, Japanese Dental Science Review, 44: 29-37)。しかしながら、S. mutansと他の疾患との関連性、例えば脳血管疾患などに与える影響については、これまで全く検討されていなかった。

【0026】
本明細書において開示する本発明者らの研究により、S. mutansのいくつかの異なる株を静脈投与すると、中大脳動脈損傷により軽度の脳出血を誘導した場合に、自発的な止血作用を阻害し、出血の増悪を引き起こすことが明らかとなった。口腔から一般的に単離されるMT8148株(血清型c)(Minami et al., 1990, Oral Microbiol. Immunol., 5: 189-194)は、かかる作用を引き起こさないが、血清型kの中には出血増悪を引き起こす株があり、特にTW295株およびTW871株(Nakano et al., 2004, Journal of Clinical Microbiology, 42(1): 198-202)、ならびにSA53株(Nakano et al., 2007, J. Clin. Microbiol., 45: 2614-2625)は、著しい出血増悪を引き起こす。

【0027】
本発明者らは、これらの高病原性のS. mutans株が、主要な菌体表層タンパク質であるPAを欠失していることを見出した。また、本発明者らは、PAを欠失する株の中でも、別の菌体表層タンパク質であるCBPを保有する株の病原性が特に高いことを見出した。さらに、本発明者らは、遺伝子操作によりTW295株のCBPをコードする遺伝子を欠失させた場合、TW295株のような出血増悪を示さないこと、および、MT8148株のPAをコードする遺伝子を欠失させた株は、出血増悪を示すことを確認し、CBPおよびPAがS. mutansの出血増悪作用に関与することを確認した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、これらの菌体表層タンパク質が、出血を増悪させるS. mutans株の検出のため、出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニングのため、および対象における出血増悪の危険性の判定のための有用なマーカーとして利用できることを実証した。

【0028】
本発明の方法により検出される口腔細菌は、あらゆる出血を増悪させる可能性があるが、特に、外傷や潰瘍、動脈瘤破裂などにより血管壁に損傷が生じることにより起こる破綻性出血を増悪させるものである。破綻性出血の代表的な例としては、脳出血(脳内出血、くも膜下出血、慢性硬膜下血腫)、外傷もしくは圧力による出血、分娩後出血、疾患に関連する皮下出血などが挙げられる。また、出血傾向を生じる疾患として、結合組織異常(アレルギー性紫斑病など)、血小板の減少(播種性血管内凝固症候群、再生不良性貧血など)もしくは血小板異常(血小板無力症など)、または凝固系障害(肝臓病関連凝固異常、ビタミンK欠乏症など)などが挙げられる。内因性または外因性の循環抗凝固物質(ループスアンチコアグラント、VIII因子抗凝固物質など)により出血傾向を生じる場合もある。

【0029】
本明細書において、出血増悪とは、かかる内因性または外因性の要因により起こる出血に対する自発的な止血作用が、正常な対象と比較して、遅延するか、低下するか、または失われることを意味する。また、出血増悪の危険性が高い対象とは、当該対象において、内因性又は外因性の要因により出血が起こった場合に、血小板による自発的な止血作用が、正常な対象と比較して、遅延するか、低下するか、または失われる可能性が高いことを意味する。

【0030】
PA(Protein Antigen)は、S. mutansの野生株であるMT8148株において見出された約190kDaの表面タンパク質であり、PAc(Protein Antigen c)、SpaP、抗原I/II(Antigen I/II)および抗原B(Antigen B)、P1およびMSL-1などの多くの別名が公知である。PAポリペプチドは、N末端側に3つのアラニンリッチな反復ドメイン(A領域)、中央部に3つのプロリンリッチな反復ドメイン(P領域)を含み、C末端に細胞壁-細胞膜貫通ドメインを有し、A領域が菌体の歯への付着に関与することが報告されている(Matsumoto-Nakano et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:265-270)。また、PAがS. mutansによる感染性心内膜炎に関与すること(Nakano et al., 2008, Japanese Dental Science Review, 44: 29-37)、PAに対する抗体が菌体のヒドロキシアパタイト基質への付着を阻害すること(Kawato et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:14-20)、およびPAに対する抗血清が齲蝕のワクチンとして有用であることが報告されている(Okahashi et al., 1989, Molecular Microbiology, 3(2): 221-228)。PAのA領域とP領域との間には株間でのアミノ酸配列の変化に富む領域(例えばMT8148株では残基679~827)が存在するが、反復ドメインや細胞膜貫通ドメインは株間において保存性が高い。

【0031】
また、感染性心内膜炎の患者において多く検出される血清型kの株は、PAを欠失している率が高く、この血清型では、菌体の疎水性が低く、食作用(貪食)に対する感受性も低いことが報告されている(Nakano et al., 2008, Journal of Dental Research, 87(10): 964-968)。

【0032】
既知のPAとしては、例えば血清型cのMT8148のPA(DDBJアクセッション番号:X14490、アミノ酸:配列番号1、核酸:配列番号2)、LJ23株のPA(DDBJアクセッション番号:AB364261、アミノ酸:配列番号17、核酸:配列番号18)、SA98株のPA(DDBJアクセッション番号:AB364285、アミノ酸:配列番号19、核酸:配列番号20)の他、antigen I/IIのspaP遺伝子(DDBJアクセッション番号:X17390、Kelly et al., 1989, FEBS Lett. 258(1), 127-132、アミノ酸:配列番号21、核酸:配列番号22)、髄膜炎菌Neisseria meningitidisの鉄結合タンパク質fbp遺伝子(X53469、Berish et al., 1990, Nucleic Acid Research, 18(15): 4596-4596、アミノ酸:配列番号23、核酸:配列番号24)などが知られている。

【0033】
S. mutansの別のアンカータンパク質であるCBP(Cnmとも記載される)は、分子量約120kDaのI型コラーゲン結合タンパク質であり、コラーゲン結合ドメイン(CBD、残基152~316)、B反復ドメイン(残基328~455)およびLPXTGモチーフ(残基507~511)を有する(Sato et al., 2004, Journal of Dental Research, 83(7): 534-539)。S. mutansのCBP遺伝子保有頻度は、約10~20%であり、CBP陽性株は血清型fおよびkにおいて主に発現する(Nakano et al., 2007, J. Clin. Microbiol., 45: 2616-2625)。

【0034】
本発明者らの研究により、血清型kのTW295株のCBP(DDBJアクセッション番号:AB102689、アミノ酸:配列番号3、核酸:配列番号4)について、CBD(アミノ酸:配列番号5、核酸:配列番号6)およびLPXTGモチーフは株間での保存性が高いが、B反復ドメインの反復(リピート)の数は株によって異なることが明らかとなった(未公開のデータ)。

【0035】
本発明の一態様において、PAは、
(1)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上、好ましくは1~20個、1~15個、1~10個、1または数個の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、または
(4)配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
として定義される。
好ましくは、PAは、配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。より好ましくは、PAは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。

【0036】
本発明の方法において用いることができるPAは、配列番号2、18、20、22または24で表される核酸配列(PAタンパク質をコードする核酸配列)もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号1、17、19、21または23で表されるアミノ酸配列(PAタンパク質のアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有する限り、1または2以上のアミノ酸の変異(欠失・置換・付加)を含むポリペプチドであってもよい。変異は、天然のものであっても、既知の任意の手法、例えば、制限酵素による核酸の切断または挿入、部位特異的変異導入、放射線もしくは紫外線の照射などにより作製されたものであってもよい。また、変異アミノ酸の数は、例えば1~20個、1~15個、1~10個、1または数個であってもよい。

【0037】
また、本発明の一態様において、CBPは、
(1)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)(1)のポリペプチドに対して1または2以上、好ましくは1~20個、1~15個、1~10個、1または数個の変異を含むが、(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
(3)配列番号6または10で表される核酸配列もしくはその相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、または
(4)配列番号5または9で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ(1)のポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチド、
として定義される。

【0038】
本発明の方法において用いることができるCBPポリペプチドは、配列番号6または10で表される核酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBDをコードする核酸配列)もしくはそれらの相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号5または9で表されるアミノ酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBDアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有する限り、1または2以上、例えば、1~20個、1~15個、1~10個、1または数個のアミノ酸の変異(欠失・置換・付加)を含むポリペプチドであってもよい。

【0039】
例えば、CBPポリペプチドは、配列番号4または8で表される核酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBPをコードする核酸配列)もしくはそれらの相補配列またはその断片にストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を含み、かつ配列番号3または7で表されるアミノ酸配列(S. mutans TW295株またはTW871株のCBPタンパク質のアミノ酸配列)を含むポリペプチドと同等の機能を有するポリペプチドであってもよい。
好ましくは、CBPは、配列番号5または9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。

【0040】
PAまたはCBPの変異体がPAまたはCBPと同等の機能を有するか否かは、公知の手段を用いて確認することができる。例えば、PAの変異体が菌体をヒドロキシアパタイト基質へ付着させる能力については、公知の方法により変異体ペプチドに対する特異的抗体を作製し、Kawato et al., 2008, Oral Microbiology and Immunology, 23:14-20に記載の方法により、該抗体菌体のヒドロキシアパタイトへの付着の阻害を判定することができる。あるいは、CBPの変異体のI型コラーゲンへの結合性は、Nomura et al., 2009, J. Med. Microbiol., 58(4): 469-475に記載のコラーゲン結合アッセイにより判定することができる。かかる手段により、変異体が有する機能を、適切な陰性対照や、陽性対照としてのPAまたはCBPと比較することによって評価することができる。例えば、ある変異体において、上記の少なくとも1つの機能が陰性対照より優れている場合、例えば、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、さらには100%以上優れている場合、および/または、同機能が陽性対照の1/100以上、1/50以上、1/25以上、1/10以上、1/5以上、さらには1/2以上である場合、この変異体を機能的変異体に含める。

【0041】
出血増悪口腔細菌として同定される主な菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・クリセツス(Streptococcus cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)、ストレプトコッカス・ダウネイ(Streptococcus downei)などのミュータンス連鎖球菌(mutans streptococci)などが挙げられる。特に、S. mutansのTW295株およびTW871株は、重篤な出血増悪を引き起こす。

【0042】
出血増悪を引き起こし得る他の細菌のスクリーニングは、NCBIのGenBank(登録商標)、DDBJ(DNA Data Bank of Japan:日本DNAデータバンク、http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、EMBLなどのデータベース、およびBLASTなどの一般に公開された公衆が利用可能な検索ツールを利用して行うことができる。

【0043】
本発明は、一態様において、口腔細菌のPA検出剤および/またはCBP検出剤を含む、出血増悪口腔細菌の検出用試薬を提供する。
一態様において、PA検出剤は、口腔細菌PA特異的抗体を含む。本発明者らにより開発されたPA特異的抗体を用いて、高病原性のS. mutansの存在または非存在を、迅速且つ容易に検出することができる。PA特異的抗体は、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片によって誘導される抗体またはそのフラグメントである。あるいは、PA特異的抗体は、配列番号1、17、19、21または23のアミノ酸配列に対し、少なくとも80%の相同性を有し、かつ配列番号1、17、19、21または23のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体産生を誘導する免疫原性を有するポリペプチドによって誘導される抗体またはそのフラグメントであってもよい。例えば、上記ポリペプチドを含むリコンビナントPA(例えば、Nakano et al., 2006, Microbes and Infection, 8:114-121を参照)を抗原として、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を得ることができる。

【0044】
一態様において、CBP検出剤は、I型コラーゲンによりコートされた基材(マイクロプレート、試験管、スライドグラスなど)を含む。CBPのI型コラーゲンへの結合性(Nomura et al., 2009, J. Med. Microbiol., 58(4): 469-475)を利用して、CBPを発現する菌体をI型コラーゲンによりコートされた基材へ付着させ、容易に検出することができる。

【0045】
別の態様において、CBP検出剤は、口腔細菌のCBPに対する特異的抗体を含む。CBP特異的抗体は、CBPのコラーゲン結合ドメインに対する特異的抗体であってもよく、好ましくは、配列番号5または9のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその免疫原性断片によって誘導される抗体またはそのフラグメントである。あるいは、CBP特異的抗体は、配列番号5または9のアミノ酸配列に対し、少なくとも80%の相同性を有し、かつ配列番号5または9のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体産生を誘導する免疫原性を有するポリペプチドによって誘導される抗体またはそのフラグメントであってもよい。
本発明において、抗体のフラグメントは、例えば限定されずに、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv(ジスルフィド安定化V領域断片)、およびCDR含有断片などの種々の機能的断片を含む。

【0046】
本発明は一態様において、出血増悪口腔細菌の検出および/または出血増悪の危険性が高い対象のスクリーニングおよび/または対象における出血増悪の危険性の判定のためのキットを提供する。キットは、PA検出試薬およびCBP検出試薬を少なくとも含む。
一態様において、キットは、PA検出試薬として、口腔細菌PA特異的抗体を含む。
一態様において、キットは、CBP検出試薬として、I型コラーゲンによりコートされた基材(マイクロプレート、試験管、スライドグラスなど)を含む。
別の態様において、キットは、CBP検出試薬として、CBP特異的抗体を含む。

【0047】
本発明のキットは、S. mutansの培養のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- 唾液採取スピッツなどの唾液採取用器具(滅菌で採取および播種しやすいものであれば材質や形状は特に限定されない)。
- 唾液を10μl程度採取することができるスポイトなどの採取器具。
- S. mutans選択培地(専用培地A)。例えば、滅菌基材に、MSB寒天培地(Mitis-salivarius寒天培地(Difco Laboratoriesなど)に抗生物質(例えば、バシトラシン(SIGMA-ALDRICHなど))とスクロース(和光純薬など)とを添加したもの)をコートしたもの。基材は、ディッシュやウェルプレートであれば特に限定されないが、典型的には、24ウェル程度のプレート(例えば24 well with Lid MICROPLATE(IWAKI)など)を用いる。バシトラシンは、好ましくは約100 unit/mlで用いる。スクロースは、好ましくは約15%で用いる。
- アネロパックやCO2チャンバーなどの、嫌気条件下において培養を行うための密封および/または脱酸素装置。
- 菌のコロニーをピックアップするための、滅菌棒(つまようじやチップのようなもの)。
- ピックアップしたコロニーを培養するための液体培地(専用培地B)。例えば、ディスポーサブルの試験管に、滅菌したBrain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco Laboratories)を加えたもの。

【0048】
本発明のキットは、S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- 菌液を10μl程度採取できるスポイトなどの採取器具。
- S. mutans検出のための専用培地(専用培地C)。例えば、基材に、スクロース(和光純薬)含有BHI溶液100μlを添加したもの。基材は、ウェルプレートや試験管などであれば特に限定されないが、典型的には、96ウェルプレート(例えばMULTI WELL PLATE for ELISA(スミロン)など)を用いる。スクロースは、約1%で用いる。
- 洗浄液(洗浄液A:PBS溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくはPBS溶液を用いる。)
- グラム陽性菌検出試薬(バッファー1:例えば、滅菌蒸留水にグラム陽性菌検出試薬として約0.5%のクリスタルバイオレット(和光純薬など)を加えた溶液)。
- 媒染試薬(バッファー2:前記菌検出試薬に応じて好適な媒染試薬を選択することができる。例えばクリスタルバイオレットに対しては、7%酢酸(和光純薬など)溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくは酢酸溶液を用いる。)

【0049】
本発明のキットは、PA欠失S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- PA欠失S. mutansの検出のためのプレート。滅菌のウェルプレートであれば特に限定されないが、典型的には96ウェルプレート(MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON)など)を用いる。
- 洗浄液(洗浄液B:PBS溶液または滅菌水にTriton X-100(和光純薬など)などの界面活性剤を約0.05%添加した溶液。好ましくはPBS溶液を用いる。)
- バッファー(バッファー3:pH6.8のトリス塩緩衝液、100mM ジチオスレイトール(和光純薬など)、20%グリセリン(和光純薬など)を混合したもの。)
- ブロッキング液(バッファー4:PBST溶液にスキムミルク(BECTON DICKINSONなど)を約5%加えた溶液。)
- 一次抗体(バッファー5:PBSTに抗PA抗血清を約0.1%添加した溶液)
- 二次抗体(バッファー6:PBSTに一次抗体宿主の免疫グロブリンに対する抗体(Dakopattsなど)を約0.1%添加した溶液。)
- 発色試薬(バッファー7:AP(100mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、5mM 塩化マグネシウム、100mM 塩化ナトリウム)緩衝液に、NBT溶液(和光純薬)を終濃度0.6%で、BCIP溶液(和光純薬)を終濃度0.33%で加えた溶液。)

【0050】
本発明のキットは、CBP保有S. mutansの検出のための以下の1または2以上をさらに含んでもよい:
- CBP保有S. mutansの検出のための専用培地(専用培地D:分析3で使用した専用プレートに、0.6%酢酸を添加した滅菌蒸留水とI型コラーゲン(Sigma)を 9:1の割合で混合した溶液を添加したもの。)
- 洗浄液(洗浄液A:PBS溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくはPBS溶液を用いる。)
- バッファー(バッファー8:洗浄液Aに約5%ウシアルブミン(Sigma)を加えたもの。)
- 洗浄液(洗浄液C:PBS溶液または滅菌水に約0.01%のTween 20(和光純薬)などの界面活性剤を加えた溶液。好ましくはPBS溶液を用いる。)
- 固定液(バッファー9:例えば滅菌蒸留水に約25%のホルムアルデヒド(和光純薬)を加えたもの。)
- グラム陽性菌検出試薬(例えば上記バッファー1:滅菌蒸留水に、グラム陽性菌検出試薬として約0.5%のクリスタルバイオレット(和光純薬)を加えた溶液)
- 媒染試薬(例えば上記バッファー2:7%酢酸(和光純薬など)溶液または滅菌水を用いることができるが、好ましくは酢酸溶液を用いる。)

【0051】
当業者は、上記の成分、例えば抗血清、二次抗体、ホルムアルデヒド、クリスタルバイオレットなどの濃度を、実験条件に応じて至適濃度になるように適宜調整することができる。

【0052】
本発明の出血増悪口腔細菌の検出方法は、具体的には例えば図1~3に示すように、以下の4つのステップを含むスキームにおいて行う。
分析1.S. mutansの培養
分析2.S. mutansの検出
分析3.PA欠失S. mutansの検出
分析4.CBP保有S. mutansの検出

【0053】
分析1において、菌の培養は、例えば上述のキット中のミュータンスレンサ球菌の培養のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
唾液採取スピッツで被験者の唾液を少量採取する。スポイトで唾液をスピッツから10μl採取し、S. mutans選択寒天培地(例えば上記の専用培地A)に播種して、37℃で48時間、好ましくは嫌気条件下において培養を行う。培養後、菌のコロニーが生えていることを肉眼で確認し、コロニーをピックアップして液体培地(例えば上記の専用培地B)に加えて、37℃で18時間培養し、以下の分析2、3、4に使用する。S. sobrinusがスムースコロニーを形成するのに対してS. mutansはラフコロニーを形成するので、好ましくはラフコロニーをピックアップする。

【0054】
分析2において、S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のS. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
培地(例えば上記の専用培地C)に分析1の方法により培養した菌液を10μl加えて、37℃で3時間インキュベートする。前記培地を洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗った後、3回目の洗浄液を加えた状態で約15分静置する。洗浄液を除去し、再度前記培地を洗浄液Aで1回洗った後、グラム陽性菌染色試薬を含むバッファー(例えば上記バッファー1)を加え、1分静置する。洗浄液で3回洗浄し、媒染剤を含むバッファー(例えば上記バッファー2)を加える。培地の色が変化した場合、S. mutans陽性と判定し、培地の色に変化がない場合、S. mutans陰性と判定する。染色試薬と媒染剤が既に組み合わされた形態の試薬を用いてもよい。

【0055】
分析3において、PA欠失S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のPA欠失S. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
(1)サンプル調整
上記分析1の方法により培養した菌液に適当なバッファー(例えば上記バッファー3)を加えて、沸騰した湯に10分間浸漬した後、保存する場合は冷凍保存する。

【0056】
(2)PA欠失S. mutansの検出
1)上記(1)により作製したサンプルをプレートに加え、4℃で一晩静置する。
2)プレートを洗浄液(例えば上記洗浄液B)で3回洗浄した後、スキムミルク(例えば上記バッファー4)を加え、常温で1時間静置する。
3)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、一次抗体(例えば上記バッファー5)を加え、常温で1時間反応させる。
4)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、標識二次抗体(例えば上記バッファー6)を加え、常温で1時間反応させる。
5)プレートを洗浄液で3回洗浄した後、発色試薬(例えば上記バッファー7)を加え、適切な時間の経過後、液の色の変化を観察する。液の色が変化した場合、PA陽性と判定し、液の色が変化しない場合、PA陰性と判定する。

【0057】
分析4において、CBP保有S. mutansの検出は、例えば上述のキット中のCBP保有S. mutansの検出のための器具および試薬を用いて、以下の手順において行う。
(1)培地(例えば上記用培地D)を洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗浄した後、アルブミンを含むバッファー(例えば上記バッファー8)を加え、37℃で1時間静置する。
(2)界面活性剤を含む洗浄液(例えば上記洗浄液C)で3回洗浄した後、上記1の方法により培養した菌液を加え、37℃で2時間インキュベートする。
(3)洗浄液(例えば上記洗浄液A)で3回洗浄した後、固定液(例えば上記バッファー9)を加え、常温で30分静置する。
(4)洗浄液で3回洗浄した後、グラム陽性菌染色試薬(例えば上記バッファー1)を加え、1分静置する。
(5)洗浄液Aで3回洗浄した後、媒染剤(例えば上記バッファー2)を加える。
液の色が変化した場合、CBP陽性と判定し、液の色が変化しない場合、CBP陰性と判定する。

【0058】
上記いずれの検出方法においても、菌の濃度は、1CFU以上であれば検出可能である。
また、S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivariusなどの培養物をコントロールとして用い、分析1ではS. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを、分析3ではPA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないこと、また、分析4ではCBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを、それぞれ確認することができる。

【0059】
当業者は、本発明の方法を、目的に応じて適宜改変することができる。例えば、PA欠失S. mutansを検出するために、PAまたはCBPに対する特異的抗体を結合させた基材と、菌液を接触させた後、洗浄して基材と結合していない菌を除去し、基材に結合した菌のみを、グラム陽性菌染色試薬により検出してもよい。あるいは、PAまたはCBPをコードする核酸に対するプライマーまたはプローブを用いて、培養した菌がPAまたはCBPの遺伝子を有するか否かを検出してもよい。

【0060】
本発明の好ましい態様において、PA欠失口腔細菌の検出における陽性対照として、および/または、CBP保有口腔細菌の検出における陰性対照として、S. mutans MT8148株を用いてもよい。PA欠失口腔細菌の検出における陽性対照として、検出方法に応じて、単離されたPAタンパク質、PAをコードするDNAまたはそのフラグメントを含む核酸もしくはベクター、該ベクターにより形質転換された細胞などを用いることもできる。また、CBP保有口腔細菌の検出における陰性対照として、TW295株のCBPをコードする遺伝子を欠失させたCND株、CBPを発現しないグラム陽性細菌などを用いることもできる。

【0061】
本発明は、一態様において、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸を含む、止血剤を提供する。対象がPAを欠失する高病原性菌に感染している場合に、PAタンパク質を補うか、または対象もしくは菌においてPAを発現させることにより、血小板凝集を誘導することによる止血効果がもたらされる。
したがって、本発明はまた、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸の止血剤の製造への使用、さらには、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸を投与する工程を含む止血方法を提供する。

【0062】
本発明は、別の態様において、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸に結合する物質を含む、PA発現口腔細菌による血小板凝集の抑制剤を提供する。対象がPAを発現する口腔細菌に感染している場合、PAタンパク質に結合する物質により菌体表層のPAをブロックするか、またはPAタンパク質の発現を阻害する物質により菌体のPA産生を阻害することにより、細菌の血小板凝集作用を抑制することができる。
したがって、本発明はまた、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸に結合する物質のPA発現口腔細菌による血小板凝集の抑制剤の製造への使用、さらには、口腔細菌PAタンパク質またはPAタンパク質をコードする核酸に結合する物質を投与する工程を含む、PA発現口腔細菌による血小板凝集を抑制する方法を提供する。

【0063】
本発明は、別の態様において、口腔細菌CBPまたはCBPタンパク質をコードする核酸に結合する物質を含む、出血増悪抑制剤を提供する。対象がCBPを発現する出血増悪口腔細菌に感染している場合、例えばCBP特異的抗体などのCBPタンパク質に結合する物質により、菌体表層のCBPタンパク質をブロックし、菌体がコラーゲン露出部位(すなわち、血管内皮の損傷部位)に結合することを阻害し、これにより出血増悪を処置または予防することができる。あるいは、CBPタンパク質をコードする核酸に結合する物質(例えばsiRNA、アンチセンス核酸など)により、菌体によるCBP産生を阻害し、菌体がコラーゲン露出部位に結合することを阻害することができる。
したがって、本発明はまた、口腔細菌CBPまたはCBPタンパク質をコードする核酸に結合する物質の出血増悪抑制剤の製造への使用、さらには、口腔細菌CBPまたはCBPタンパク質をコードする核酸に結合する物質を投与する工程を含む、出血増悪抑制方法を提供する。

【0064】
本発明は、別の態様において、口腔細菌CBPを含む、組織におけるコラーゲン露出部位の検出剤を提供する。血管内皮の損傷などにより結合組織のコラーゲンが露出している場合、本発明の検出剤を用いることにより、損傷部位を検出することができる。特に本発明の検出剤により、例えば頭部などの出血部位を特定することが困難な領域であっても、非侵襲的に損傷部位を検出することができる。本検出剤には、検出の便宜のために、種々の標識を付すことができる。標識は、既知の任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、前記成分に結合する物質(例えば抗体)、ビオチン、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、核磁気共鳴する元素(水素、リン、ナトリウム、フッ素など)および酵素などから選択することができる。
したがって、本発明はまた、口腔細菌CBPの組織におけるコラーゲン露出部位の検出剤の製造への使用、さらには、口腔細菌CBPを投与する工程を含む、組織におけるコラーゲン露出部位の検出方法を提供する。

【0065】
また、本発明は、さらに別の態様において、口腔細菌CBPを含む、コラーゲン露出部位への物質送達用担体を提供する。本発明の止血剤または他の薬剤(例えば、抗生物質または抗炎症剤など)を前記輸送用担体に組み込み、生体に投与することにより、止血剤や薬剤を損傷部位に標的化することができ、損傷部位特異的な治療を行うことが期待される。担体は、例えば、CBPタンパク質またはそのコラーゲン結合ドメイン(CBD)と融合させたリポソームであってもよい。本発明の担体には、本発明の止血剤または他の薬剤を組み込んでもよい。あるいは、本発明の担体はCBPタンパク質自体であってもよく、この場合、治療剤とCBPタンパク質またはCBDとを直接的に結合させて用いることができる。

【0066】
本発明は、別の態様において、口腔細菌CBPおよび止血剤を含む、出血治療剤を提供する。本発明の出血治療剤は、コラーゲンに対する血小板の感受性が低い対象において、特に有用である。コラーゲンに対する血小板の感受性が低い対象として、再生不良性貧血、急性白血病、血小板減少性紫斑病、播種性血管内凝固症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、全身性エリテマトーデス、血小板無力症、ストレージ・プール症候群などを罹患する対象が挙げられる。また、本発明の出血治療剤は、血友病などの凝固因子異常による疾患などを罹患する対象において、特に有用である。

【0067】
本発明のコラーゲン露出部位への物質送達用担体および出血治療剤に用いるためのCBPは、例えばCBP遺伝子を含む核酸構築物を好適な発現ベクターに組み込み、好適な宿主細胞においてCBPタンパク質を発現させることによって得ることができる。かかる技術は当該分野において周知であり、例えば、例えば、CBPの遺伝子を含むプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、YAC、BACのベクター系を、種々の核酸導入法、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、電気穿孔法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、リポソーム法(例えば、カチオン性リポソームによるもの)、コンピテントセル法、プロトプラスト法などにより、宿主細胞に導入し、CBP遺伝子を発現させることができる。また、CBPは、CBP陽性菌自体であってもよく、CBP陽性菌のCBP含有成分であってもよい。かかる成分は、例えば、CBP陽性菌を溶菌および/またはホモジェナイズし、I型コラーゲンでコートした基材に曝すことにより単離することができる。CBP陽性菌自体を用いる場合、同菌は、寛容の方法で不活化されていてもよい。

【0068】
また、本発明は、別の態様において、口腔細菌除去剤を含む、出血増悪予防剤に関する。本発明の方法により出血増悪口腔細菌が検出された場合、出血増悪の危険性を軽減し、出血増悪を予防するために、出血増悪口腔細菌を対象から除菌することが求められる。口腔細菌除去剤としては、βラクタム系抗菌薬などを用いることができる。βラクタム系抗菌薬としては、例えばペニシリン、メチシリン、セファロスポリン、セファマイシン、カルバペネムなどが挙げられる。

【0069】
本発明の止血剤、血小板凝集抑制剤、出血増悪抑制剤、出血増悪予防剤、出血治療剤、コラーゲン露出部位の検出剤およびコラーゲン露出部位への物質送達用担体等は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、口腔内、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年等を参照)。

【0070】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤等が挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤等の注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。具体的には、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食 塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、適切な単位投与形態に製剤化することができる。これら製剤における有効成分量は、処置に有効な用量を想定された投与回数で対象に供給できるように適宜設定することができる。

【0071】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50等と併用してもよい。

【0072】
油性液としてはゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤等と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプル、バイアル、チューブ、ボトル、パック等の容器に充填する。

【0073】
本発明の止血剤、血小板凝集抑制剤、出血増悪抑制剤、出血増悪予防剤、出血治療剤、コラーゲン露出部位の検出剤およびコラーゲン露出部位への物質送達用担体等の対象の体内への投与は上記いずれの経路によってもよいが、好ましくは非経口投与、より好ましくは局所投与または静脈内投与、特に好ましくは門脈内もしくは腫瘍内投与である。投与回数は1回が好ましいが、状況に応じて複数回投与することもできる。また、投与時間は短時間でも長時間持続投与でもよい。本発明の組成物は、より具体的には、注射によりまたは経皮的に投与することができる。注射による投与の例としては、例えば、局所注射、静脈内注射、動脈内注射、選択的動脈内注入、門脈内注入、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、腫瘍内注射、髄腔内注射、関節内注射、脳室内注射等によるものが挙げられるが、これらに限られない。静脈内注射等の場合、通常の輸血の要領での投与が可能となり、対象を手術する必要がなく、さらに局所麻酔も必要ないため、対象および術者双方の負担を軽減することができる。また手術室以外での投与操作が可能である点で有利である。

【0074】
さらに本発明は一態様において、対象へ上記止血剤、出血増悪抑制剤、出血増悪予防剤および/または出血治療剤の有効量を投与することを含む、出血の処置方法に関する。また、本発明は一態様において、対象へ上記血小板凝集抑制剤の有効量を投与することを含む、血小板の凝集による疾患状態の処置方法に関する。血小板の凝集による疾患状態として、血栓症、播種性血管内凝固症候群などが挙げられる。
また、本発明は一態様において、対象へ上記コラーゲン露出部位の検出剤を投与することを含む、出血部位の診断のための方法に関する。さらに、本発明は一態様において、対象へ上記コラーゲン露出部位への物質送達用担体の有効量を投与することを含む、出血に関連する疾患の処置方法に関する。

【0075】
本発明の処置または診断の方法において、本発明の処置または診断用組成物の対象への投与は、例えば、上述の投与方法に従って好適に実施することができる。また、医師または獣医師においては、上記投与方法を適宜改変して、本発明の剤を対象へ投与することが可能である。ここで、有効量とは、上記止血剤、出血増悪抑制剤および/または出血治療剤については、出血を抑制、軽減または防止する量であり、上記血小板凝集抑制剤については、血小板の凝集による疾患状態の発症を低減し、症状を軽減し、または進行を防止する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞等を用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタ等のモデル動物における試験により適宜決定することができる。

【0076】
本発明の処置または診断の方法において投与する本発明の処置または診断用組成物の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンス等を考慮して決定され得るため、一般的な有効量と異なることもあるが、かかる場合であっても、これらの方法はなお本発明の範囲に含まれる。

【0077】
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、口腔内、静脈内、筋肉内、皮下、局所、腫瘍内、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、髄腔内、関節内、脳室内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎等)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎等)であってもよい。

【0078】
また、本発明の出血の処置法においては、本発明の止血剤、出血増悪抑制剤および/または出血治療剤のほか、上述の出血関連疾患の処置に有効な他の薬剤を併用することができる。また、本発明の血小板の凝集による疾患状態の処置法においては、本発明の血小板凝集抑制剤のほか、血小板の凝集による疾患状態の処置に有効な他の薬剤を併用することができる。
本発明における用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
例1:マウス脳出血モデルにおけるStreptococcus mutansの病原性の検討
脳出血に対するS. mutansの各株のもたらす影響およびその要因について、マウス脳動脈損傷モデルを用いて検討した。
【実施例】
【0080】
材料と方法
1.S. mutans菌株
抜歯後菌血症患者の血液より分離されたTW295株(血清型k)、および感染性心内膜炎患者の血液より分離されたTW871株(k型)を用いた。これらの菌株は、東京女子医科大学より供与された。また、標準株として日本人小児口腔より分離されたMT8148株(c型)を供試菌として用いた。
【実施例】
【0081】
2.マウス脳動脈損傷モデル
BALB/c系マウス(8週齢オス、体重20~30g)に対し、1×107集落形成単位(Colony Forming Unit;CFU)の供試菌を頸静脈より感染させた。菌感染直後に光増感反応によって片側の中大脳動脈に損傷を与え、軽度の脳出血を発症させた。血管傷害の24時間後に動物を安楽死させ、摘出した脳組織を一定間隔ごとにスライスして、出血部位の面積を定量化した。また、血管を損傷後、TW295株を投与して3時間後に摘出した脳組織から作製したサンプルを、電子顕微鏡で観察した。また、脳およびその他の臓器(肺・肝臓・小腸)における菌の局在を、以下のS. mutans特異的プライマー(Hoshino et al.(2004) Dian Microbiol Infect Dis 48:195-199, 2004)を用いたPCR法にて検討した。
S. mutans特異的プライマー:
フォワード:5’-GGC ACC ACA ACA TTG GGA AGC TCA GTT-3’(配列番号11)
リバース:5’-GGA ATG GCC GCT AAG TCA ACA GGA T-3’(配列番号12)
【実施例】
【0082】
3.マウス全血における血小板凝集能の比較アッセイ
ICR系マウス(8週齢オス、体重35~40g)より採取した全血と1×107CFU/mlの供試菌とを反応させ、5分後に4.0μgのI型コラーゲンを加えたのち、血小板凝集計(CHRONO-LOG)を用いて血小板凝集能を測定した。血小板凝集率は、全血とコラーゲンのみを反応させた結果を100%として示した。各々の株の血小板凝集率の差を、t検定もしくはANOVAにより評価した。また、マウス全血より多血小板血漿を抽出し、1×109CFU/mlの供試菌と反応させ、5分後にコラーゲンを加えて反応させたものを2%グルタルアルデヒドにて固定し、電子顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0083】
4.ゼータ電位の測定
供試菌を1×109CFU/mlになるように生理食塩水で調整し、その電位をゼータ電位測定システム(電気泳動光散乱光度計ELSZ)を用いて測定した。
【実施例】
【0084】
5.CBP遺伝子欠損株(CND株)の作製:
TW295株のCBPをコードするcnm遺伝子全配列(配列番号4:DDBJアクセッション番号AB469913)に基づき設計した以下のプライマーにより、TW295株のcnm遺伝子断片を増幅した。
cnm増幅用プライマー:
cnm1F 5’-GAC AAA GAA ATG AAA GAT GT-3’(配列番号13)
cnm1R 5’-GCA AAG ACT CTT GTC CCT GC-3’(配列番号14)
【実施例】
【0085】
増幅された断片をpGEM-T Easyベクター(Promega, Madison, WI, USA)に組み込み、プラスミドpTN11を作製した。pTN11を制限酵素BsmIで処理し、cnmのオープンリーディングフレーム(Open reading frame)の中央部あたりを消化し、プラスミドpKN100から取り出したエリスロマイシン耐性遺伝子断片を組み込んだプラスミドpTN12を作製した。制限酵素PstIを用いて、pTN12を一本鎖にした後、馬血清を用いた化学的手法によってTW295株に相同組み換えを行った。cnm遺伝子中央部にエリスロマイシン耐性遺伝子を有する株(CND株)のスクリーニングは、エリスロマイシン含有のS. mutans選択培地を用いた。作製した株は、サザンハイブリダイゼーションとコラーゲン結合能の測定で確認した。
【実施例】
【0086】
6.PA遺伝子欠損株(PD株)の作製:
Nakano et al. Microbes Infect. 2006 8(1):114-21に記載の方法に従い、MT8148株のPAをコードするpac遺伝子全配列(配列番号2:DDBJアクセッション番号X14490)に基づいたプライマーを用いて、上記CND株と同様の方法により、PD株を作成し、確認を行った。
pac増幅用プライマー
pac-F 5’-GCG CGC ATG CTT TAT TCA GAT TTG GAG GAT-3’(配列番号15)
pac-R 5’-GCG AAA GCG CAT GCT GTG ATT TAT CGC TTC-3’(配列番号16)
【実施例】
【0087】
7.S. mutansの菌体表層タンパク質の保有頻度の統計
2002年~2003年に大阪大学歯学部小児歯科を受診した小児患者170人から分離した170株のS. mutansについて、PAおよびCBPの保有頻度を調べた。また、代表的な菌株における出血増悪の悪性度を、マウス脳出血モデルにおいて判定した。
【実施例】
【0088】
結果
1.マウス脳出血モデルにおける検討:
全く菌を投与しないコントロール群においては非常に軽度の脳出血が認められた。一方、MT8148株を感染させた群においては、脳出血の悪化は認められなかったが、血液分離株であるTW295株やTW871株を投与した群では、脳出血の劇的な悪化が認められた(図4)。走査型電子顕微鏡観察により、血管損傷部の血管内皮に付着するS. mutans菌体を確認した(図5)。PCR法によって各臓器への菌の移行を検討したところ、TW295株では損傷側の脳においてのみ S. mutansの局在が認められた(図6)。
【実施例】
【0089】
2.血小板凝集能:
図7は、マウス全血を用いた血小板凝集能の検討結果を示す。(A)MT8148株とTW871株について血小板凝集率を測定した。(A)と同様の方法により、58の臨床株の血小板凝集率を測定し、結果を、供試菌の血清型別(B)または分離の由来別(口腔内または血液)(C)により示す。(D)MT8148株とその遺伝子不活株であるGDおよびPD、ならびにTW295およびTW871株について血小板凝集率を比較した。MT8148株と比較して、TW295株やTW871株では、全血血小板凝集能の有意な低下が認められた(A、B)。また、口腔から分離された株と比較して、血中から分離された株では、血小板凝集能の有意な低下が認められた(C、D)。また、電子顕微鏡下にて、I型コラーゲン、供試菌、血小板を反応させてその状態を観察したところ、MT8148株との反応では血小板が正常に活性化されたのに対して、TW295株との反応では血小板の活性化は認められなかった(図8)。
【実施例】
【0090】
3.ゼータ電位の測定:
生理食塩水中に溶解させた条件では、TW295株およびTW871株のゼータ電位は,それぞれ-13.51mVと-8.42mVであり、MT8148株(-0.75mV)よりも低い値を示した。
【実施例】
【0091】
考察
本研究で用いた脳出血マウスモデルにおいて、血液分離株であるTW295株およびTW871株は、標準株であるMT8148株と比較して脳出血を劇的に悪化させることが示された。これらの血液分離株は、菌表面の膜電位が標準株にくらべて大きく変化していることより、血小板とコラーゲンの相互作用に影響を与え、その結果、血小板凝集を抑制する可能性が示唆された。この血小板凝集抑制作用が、脳血管傷害における脳出血を誘発、悪化させることにつながるものと考えられる。具体的には、血管内皮損傷後、高い負の電荷を有する菌が正の電荷を有する露出したコラーゲンと高い親和性を示し、血小板との反応を抑制することにより、出血が持続するものと考えられる(図9)。
【実施例】
【0092】
4.PAおよびCBPの脳出血に与える影響
臨床分離株を用いたこれまでの研究から、S. mutansによる脳出血の悪化に菌体表層タンパク抗原が関与している可能性が考えられたため、主要な表層タンパク抗原であるPAおよびCBPの遺伝子欠損株を作製し、PAおよびCBPが脳出血に与える影響を調べた。
【実施例】
【0093】
上記のマウス脳出血モデルと同様の方法により、BALB/c系マウスにS. mutans遺伝子欠損株を頸静脈より静脈注射により感染させ、光増感反応により脳出血を誘導し、出血部位の面積を定量化した。比較対照のためにTW295株およびMT8148株を、コントロールとして生理食塩水をそれぞれ用いて、同様の実験を行った。結果を図10に示す。PAを欠失しCBPを保有するTW295株は、マウス脳出血モデルにおいて、コントロールと比較して脳出血の面積を有意に増大させることが明らかとなった(p<0.05)。CBPをコードする遺伝子を欠失させたCND株においてかかる効果が観察されなかったことからも、CBPが出血増悪に関与していることが示唆された。一方、PAを保有しCBPを欠失するMT8148株は、コントロールと比較して脳出血の面積の増大も減少も示さなかった。しかし、MT8148株のPAをコードする遺伝子を欠失させたPD株は、コントロールと比較して脳出血の面積の有意な増大をもたらした。
【実施例】
【0094】
これらの結果は、S. mutansの表層タンパク質抗原であるPAが出血を抑制する細菌の機能に関与し、コラーゲン結合タンパク質CBPの作用が出血を悪化させることを示唆すると共に、S. mutans株によるPAおよび/またはCBPの保有の有無が、保菌者における出血時のリスクを判定する指標となることを示している。
【実施例】
【0095】
5.PAおよびCBPの保有株の出現頻度と出血増悪の悪性度との相関関係
表1は、小児患者170人から分離した170株のS. mutansについて、S. mutansの菌体表層タンパク質の保有頻度を調べた結果をまとめたものである。悪性度とはマウス脳出血モデルにおける各菌株が及ぼす出血領域の面積から推定している。
【実施例】
【0096】
【表1】
JP0005747370B2_000002t.gif
【実施例】
【0097】
PAを発現しない株は全体の3%であり、CBPを保有しない株は全体の90%を占めた。マウスモデルにおける各菌株が及ぼす出血領域の面積から、PAを保有せずCBPを保有する1.8%の株が、脳出血における悪性度が最も高いと判定し、これを悪性度100%と定義した。この定義に従い、PAを発現せずCBPを保有していない株(頻度=約1.2%)、およびPAを発現しCBPを保有している株(頻度=約8.2%)の悪性度を、それぞれ約50~70%および約40~60%と判定した。この結果は、PAおよびCBPの遺伝子欠損株を用いた上記の実験結果と一致する。
【実施例】
【0098】
検出例1.出血時のリスクとなる菌体表層構造を有するStreptococcus mutansの検出
材料と方法
供試菌:検出系の確立には以下の菌を用いた。
S. mutans MT8148株(PA+/CBP-)/TW295株(PA-/CBP+)
S. sobrinus B13株/6715株
S. sanguinis ATCC10556株
S. oralis ATCC10557株
S. gordonii ATCC10558株
S. salivarius HHT株
【実施例】
【0099】
分析1.S. mutans(ミュータンスレンサ球菌)の培養方法
(操作時間約5分、待ち時間(菌の培養など)2日)
S. mutansの培養には以下のものを用いる:
・唾液採取スピッツ(滅菌で採取および播種しやすいものなら特に限定されない)
・唾液を10μl採取することができる専用スポイト
・専用培地A(寒天培地)(24ウェルプレート(例えば、24 well with Lid MICROPLATE(IWAKI)など、24ウェル程度のプレートであれば特に限定されない)に、Mitis-salivarius寒天培地(Difco Laboratories)にバシトラシン(100 unit/ml;SIGMA-ALDRICH)と15%スクロース(和光純薬)とを添加したMSB寒天培地をコートしたもの。アネロパックを添付することが好ましい。)
・菌のコロニーをピックアップするための、滅菌したつまようじのようなもの
・専用培地B(液体培地)(滅菌したBrain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco Laboratories)を加えたディスポーサルの試験管)
【実施例】
【0100】
S. mutansの培養は以下の通り行う。
唾液採取スピッツで被験者の唾液を少量採取する。専用スポイトで唾液をスピッツから10μl採取し、専用培地Aに播種して、37℃で48時間、好ましくは嫌気条件下において培養を行う。培養後、菌のコロニーが生えていることを肉眼で確認し、コロニー(ラフコロニーが望ましい)をピックアップして専用培地Bに加えて、37℃で18時間培養し、以下の分析2、3、4に使用する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析1において、S. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを確認する。
【実施例】
【0101】
分析2.S. mutans(ミュータンスレンサ球菌)の検出方法
(操作時間約15分、待ち時間(菌の培養など)約3時間)
上記分析1のミュータンスレンサ球菌培養法は、ミュータンスレンサ球菌群(S. mutans/S. sobrinus)が生育しやすい条件を整えているが、バシトラシン耐性を有するミュータンスレンサ球菌以外の菌が生えることもあるため、このステップで確認を行う。
【実施例】
【0102】
検出には以下のものを用いる:
・菌液を10μl採取できる専用スポイト
・専用培地C(96ウェルプレート(例えばMULTI WELL PLATE for ELISA(スミロン))に、1%スクロース(和光純薬)含有BHI溶液100μlを添加したもの)
・洗浄液A(PBS溶液)
・バッファー1(滅菌蒸留水に0.5%クリスタルバイオレット(和光純薬)を加えた溶液)
・バッファー2(7%酢酸(和光純薬)溶液)
【実施例】
【0103】
検出は以下の通り行う。
専用培地Cに分析1の方法により培養した菌液を10μl加えて、37℃で3時間インキュベートする。専用培地Cを洗浄液Aで3回洗った後、3回目の洗浄液Aを加えた状態で約15分静置する。洗浄液Aを除去し、再度専用培地Cを洗浄液Aで1回洗った後、100μlのバッファー1を専用培地Cに加え、1分静置する。洗浄液Aで3回洗浄し、バッファー2を200μl加える。
培地の色が変化した場合、S. mutans陽性と判定し、培地の色に変化がない場合、S. mutans陰性と判定する。
【実施例】
【0104】
分析3.PA欠失S. mutansの検出方法
(操作時間約30分、待ち時間(菌の培養など)約11時間30分)
PA欠失S. mutansを検出するために、以下のものを用いる:
・専用プレート(96ウェルプレート;MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON))
・洗浄液B(分析2で使用した洗浄液AにTriton X-100(和光純薬)を0.05%添加したPBST溶液)
・バッファー3(pH6.8のトリス塩緩衝液、100mM ジチオスレイトール(和光純薬)、20%グリセリン(和光純薬)を混合したもの)
・バッファー4(PBST溶液にスキムミルク(BECTON DICKINSON)を5%加えた溶液)
・バッファー5(PBSTにウサギ抗PA抗血清(当教室保有)を0.1%添加した溶液)
・バッファー6(PBSTにブタ抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Dakopatts)を0.1%添加した溶液)
・バッファー7(AP(100mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、5mM 塩化マグネシウム、100mM 塩化ナトリウム)緩衝液に、NBT溶液(和光純薬)を終濃度0.6%で、BCIP溶液(和光純薬)を終濃度0.33%で加えた溶液)
【実施例】
【0105】
PA欠失S. mutansの検出を以下のとおり行う。
(1)サンプル調整
上記分析1の方法により培養した菌液100μlにバッファー3を加えて、沸騰した湯に10分間浸漬した後、保存する場合は冷凍保存する。
(2)PA欠失S. mutansの検出
1)上記(1)により作製したサンプルを専用プレートに100μl加え、4℃で一晩静置する。
2)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー4を100μl加え、常温で1時間静置する。
3)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー5を100μl加え、常温で1時間反応させる。
4)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー6を100μl加え、常温で1時間反応させる。
5)専用プレートを洗浄液Bで3回洗浄した後、バッファー7を100μl加え、15分後液の色の変化を観察する。液の色が変化した場合、PA陽性と判定し、液の色が変化しない場合、PA陰性と判定する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析3においてPA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認する。
【実施例】
【0106】
分析4.CBP保有S. mutansの検出方法
(作業時間約30分、待ち時間(菌の培養など)約3時間30分)
CBP保有S. mutansの検出には、以下のものを用いる
・専用培地D(分析3で使用した専用プレートに、0.6%酢酸を添加した滅菌蒸留水とI型コラーゲン(Sigma)を 9:1の割合で混合した溶液を添加したもの)
・洗浄液A(上記分析2(S. mutansの検出方法)で使用しているものと同じもの)
・バッファー8(洗浄液Aに5%ウシアルブミン(Sigma)を加えたもの)
・洗浄液C(洗浄液Aに0.01% Tween 20(和光純薬)を加えたPBST溶液)
・バッファー9(滅菌蒸留水に25%ホルムアルデヒド(和光純薬)を加えたもの)
・バッファー1(上記分析2で使用しているものと同じもの)
・バッファー2(上記分析2で使用しているものと同じもの)
【実施例】
【0107】
CBP保有S. mutansの検出は、以下のとおり行う。
(1)専用培地Dを洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー8を200μl加え、37℃で1時間静置する。
(2)洗浄液Cで3回洗浄した後、上記1の方法により培養した菌液を200μl加え37℃で2時間インキュベートする。
(3)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー9を200μl加え、常温で30分静置する。
(4)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー1を200μlを96ウェルプレートに加え、1分静置する。
(5)洗浄液Aで3回洗浄した後、バッファー2を200μl加える。
液の色が変化した場合、CBP陽性と判定し、液の色が変化しない場合、CBP陰性と判定する。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして用い、分析4においてCBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認する。
【実施例】
【0108】
分析例1
図11は、3個体の対象から採取した唾液サンプル(A、BおよびC)中のS. mutansがPAおよび/またはCBP保有株であるか否かを分析した結果の例である。分析1のステップにおいて、専用培地A(バシトラシン選択寒天培地)で唾液サンプルを培養した結果、A、BおよびCのいずれも、コロニー形成を確認した。形成されたコロニーをピックアップし、専用培地B中で37℃で18時間培養した。また、S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の培養を行い、分析1において、S. mutansおよびS. sobrinus以外の菌が生育しないことを確認した。
【実施例】
【0109】
次いで、分析2のステップにおいて、分析1で培養した菌液を専用培地Cに加え、37℃で3時間インキュベートし、洗浄液Aで洗浄の後、クリスタルバイオレットを含むバッファー1で染色した。サンプルAおよびBを培養した培地においてバッファーが青紫色に変化したので、S. mutansが存在すると判定した。サンプルCを培養した培地においては、バッファーは透明なままであったので、S. mutansが存在しないと判定した。
【実施例】
【0110】
分析3のステップにおいて、分析1で培養したサンプルAおよびBの菌液を、バッファー3を加えて10分間煮沸し、冷凍保存したものを、専用プレート(96ウェルプレート:MICROTEST U-Bottom(BECTON DICKINSON))に加え、4℃で一晩静置した。洗浄液Bで洗浄の後、バッファー4を加えて常温で1時間ブロッキングし、ウサギ抗PA抗血清を含むバッファー5を加えて常温で1時間反応させた。洗浄液Bで洗浄の後、ブタ抗ウサギ免疫グロブリン抗体を含むバッファー6を加えて常温で一時間反応させた。洗浄液Bで洗浄の後、アルカリホスファターゼ反応検出試薬を含むバッファー7を添加し、15分後に液の色の変化を観察した。サンプルAのプレートにおいては、液がピンク色に変化したので、PAを保有するS. mutansが存在するものと判定した。サンプルBについては、液の色は透明のままであったので、PAを保有するS. mutansは存在しないものと判定した。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の分析を行い、PA保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認した。
【実施例】
【0111】
分析4のステップにおいて、I型コラーゲン(Sigma)でコートした専用培地Dに、5%ウシアルブミンを含むバッファー8を加えて37℃で1時間静置した。洗浄液Cで洗浄の後、分析1で培養した菌液を加えて37℃で2時間インキュベートした。洗浄液Aで洗浄の後、25%ホルムアルデヒドを含むバッファー9を加え、常温で30分間静置した。洗浄液Aで洗浄の後、バッファー1を加えて1分間静置した。洗浄液Aで洗浄の後、バッファーBを加えて液の色の変化を観察した。サンプルAを含むプレートにおいては、液の色は透明のままであったので、CBPを保有するS. mutansは存在しないものと判定した。サンプルBを含むプレートでは、液の色が青紫色に変化したので、CBPを保有するS. mutansが存在するものと判定した。S. sobrinus 、S. sanguinis、S. oralis、S. gordonii、およびS. salivarius培養物をコントロールとして同様の分析を行い、CBP保有S. mutans以外の菌が陽性反応を示さないことを確認した。
【実施例】
【0112】
例4.S. mutans培養の至適条件
上記分析2~4においてより精度の高い判定を得るためには、分析1においてできるだけ多くのS. mutansを培養し、かつできるだけS. mutans以外の菌が混入していないことが重要であると考えられる。培養のための条件として、(1)好気条件/嫌気条件での培養、(2)抗生物質(バシトラシン)濃度、(3)栄養(スクロース)濃度について検討を行った。図12は、バシトラシンを、定法のMSB培地中のバシトラシンを1当量としたときの(a)1当量および(b)5当量で、スクロースを、定法のMSB培地中のスクロースを1当量としたときの1~4当量で、各々MSB培地に添加した場合に分離された菌全量に対するS. mutansの割合を示すグラフである。嫌気条件下において、1当量のバシトラシンおよび1当量のスクロースを用いた場合に、最も高い濃度でS. mutansが単離できることが明らかとなった。したがって、より精度の高い判定を得るためには、密封できる容器中で嫌気条件において(例えばアネロパックを添付した密封パック中で)、通常のMSB培地中に含まれているものと同じ濃度のバシトラシン(100 unit/ml程度)およびスクロース(15%程度)を培地に添加して培養することが必要であることが明らかとなった。
【実施例】
【0113】
例5.サンプルの保存期間
採取後時間が経過した唾液を用いて分析を行った場合に、例4で求めた至適条件下において、病原性S. mutansを検出するために使用可能な唾液の保存期間を検討した。
図13は、採取した当日に滅菌生理食塩水で段階希釈した唾液をMSB寒天培地に播種した場合に分離できたS. mutansの分離率を100%として、採取してから0~6ヶ月間経過した唾液をサンプルとして分析1を行った場合のS. mutansの分離率を示すグラフである。唾液は採取後-20℃で凍結保存したものを用いた。サンプル数:N=8、ただし1~2ヶ月前のサンプルのみN=6。結果から、サンプルとする唾液は、好ましくは3ヶ月以内、好ましくは2ヶ月以内、最も好ましくは1ヶ月以内に使用することが望ましいと考えられる。
【実施例】
【0114】
本明細書において使用したタンパク質、ポリペプチドおよび核酸などの配列については、添付の配列表に以下の通り記載する。
【表2】
JP0005747370B2_000003t.gif
Drawing
(In Japanese)【図1】
0
(In Japanese)【図2】
1
(In Japanese)【図3】
2
(In Japanese)【図4】
3
(In Japanese)【図5】
4
(In Japanese)【図6】
5
(In Japanese)【図7】
6
(In Japanese)【図8】
7
(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図10】
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(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図12】
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(In Japanese)【図13】
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