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明細書 :生体内に毛細血管が豊富な組織を作成するのに用いる新生血管床形成用用具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3089299号 (P3089299)
公開番号 特開2000-178180 (P2000-178180A)
登録日 平成12年7月21日(2000.7.21)
発行日 平成12年9月18日(2000.9.18)
公開日 平成12年6月27日(2000.6.27)
発明の名称または考案の名称 生体内に毛細血管が豊富な組織を作成するのに用いる新生血管床形成用用具
国際特許分類 A61F  2/02      
A61L 27/00      
A61L 31/00      
FI A61F 2/02
A61L 27/00
A61L 31/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 7
出願番号 特願平10-354287 (P1998-354287)
出願日 平成10年12月14日(1998.12.14)
審査請求日 平成10年12月14日(1998.12.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012442
【氏名又は名称】京都大学長
発明者または考案者 【氏名】岩田 博夫
【氏名】井上 一知
【氏名】筏 義人
個別代理人の代理人 【識別番号】100059258、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
審査官 【審査官】横尾 俊一
参考文献・文献 特表 平8-503715(JP,A)
調査した分野 A61F 2/02
A61L 27/00
A61L 31/00
特許請求の範囲 【請求項1】
組織中埋め込まれ、埋め込まれた際に細胞移植またセンサーの埋め込みが可能な毛細血管が豊富な組織が周囲にある空隙を作成するための新生血管床形成用用具であって、
該新生血管床形成用用具は、用具基体と毛細血管を豊富に作製することが可能な新生血管誘導因子とを有し、新生血管誘導因子が徐放されるようになっていることを特徴とする新生血管床形成用用具。

【請求項2】
用具基体がハイドロゲルからなっている請求項1に記載した新生血管床形成用用具。

【請求項3】
用具基体が高分子膜また無機材料から作製されたバッグからなっている請求項1に記載した新生血管床形成用用具。

【請求項4】
新生血管誘導因子と相互作用して、新生血管誘導因子の放出速度をコントロールすることの出来る請求項1乃至3のいずれかに記載した新生血管床形成用用具。

【請求項5】
新生血管誘導因子が、溶液、新生血管誘導因子と高分子との複合体、新生血管誘導因子と水溶性高分子ゲルとの複合体、新生血管誘導因子と無機材料との複合体の形態の少なくとも1つの形態をとり、それによって新生血管誘導因子の放出速度をコントロールするようになっている請求項1乃至4のいずれかに記載した新生血管床形成用用具。

【請求項6】
新生血管誘導因子が、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β) 、オステオネクチン(Osteonectin) 、アンギオポイエチン1(Ang1)及びアンギオポイエチン2(Ang2)からなる群から選ばれた少なくとも1種類の新生血管誘導因子である請求項1乃至5のいずれかに記載した新生血管床形成用用具。

【請求項7】
新生血管誘導因子が、請求項6に記した新生血管誘導因子の複数の組み合わせである請求項1乃至5のいずれかに記載した新生血管床形成用用具。

【請求項8】
組織非接着となっている請求項1乃至7のいずれかに記載した新生血管床形成用用具。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、病気の治療のために細胞を移植する部位を患者の体内に作製るるため及び/または生体内分子の濃度変化をモニターするセンサーを埋め込む部位を患者の体内に作製するために用いる用具に関し、さらに詳しくは、細胞を移植するための空間の確保及び/またはセンサーを埋め込むための空間の確保と、空間周囲の組織に細胞に酸素や栄養を供給するために、及び/またはセンサーにより血液中の分子の濃度変化を感度よく観測するために、空間周囲の組織に豊富な毛細血管床を形成させるための新生血管誘導因子を徐放するのに用いる用具に関する。
【従来の技術】

【0002】
ホルモンや各種因子が正常に分泌されないで起こる疾患を治療、特に、内分泌疾患の治療は、従来は相当するホルモンや因子の合成物や精製物を注射することで行われてきた。しかし、それらの生体内寿命が短いため、高価な薬物を頻回に投与する必要があったり、さらに、注射による投与では生体内濃度が生理的に制御でないため、治療効果があまり見られないことや、種々の合併症を発症するなどの問題があった。また、これらのホルモンや因子が市販されていないため、投与さえ行われず対症療法のみが行われてきた疾患も多い。

【0003】
これらの問題を解決するため、これらのホルモンや因子を分泌する細胞を移植する実験的研究、さらにそれの臨床応用が行われてきた。ホルモンは一度血液循環に入り、作用部位へは血流により運ばれるため、ホルモン分泌細胞では移植部位の制限があまりない。しかし、細胞は十分な酸素と栄養の供給がないと生きていけないため、細胞移植部位として毛細血管が多数ある部位、例えば、腎臓の被膜下、肝臓内や脾臓内が用いられてきた。また、腹腔内は毛細血管が多数あるとはいえないが、細胞密度を低く移植し移植細胞間で酸素の奪い合いをなくすことができるため、腹腔内も細胞移植部位として用いられてきた。

【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、残念ながらこのような方法では、移植に使える部位が限られているため種々の問題、例えば、多量の細胞が移植できず、また、再々にわたる移植が困難であった。また、いずれも体内の深い部位にあるため細胞移植といえども大きな手術が必要である等の問題があった。また、サイトカインなどの因子を分泌する細胞では、その作用部位の近傍に移植する必要があるが、その部位近傍に毛細血管が密な部位がないため、細胞移植の治療効果が限られていた研究例も多い。さらに、移植した細胞が患者に悪影響を及ぼした場合は移植細胞を摘出する必要があるが、体の深い部位に移植した場合には摘出に再度の大手術が必要であり、腹腔内に細胞をばらまいて移植した場合や肝臓などの臓器に移植した場合には移植細胞の除去自体が不可能である。

【0005】
また、過去に体内埋め込み型のセンサーが種々試みられてきた。例えば、埋め込み型グルコースセンサーでは、センサー上で体内分子グルコースの酸化反応を行いこのときに消費される酸素の濃度変化を測定したり、あるいは、生成される過酸化水素を測定している。皮下にセンサーを埋め込む場合、皮下は酸素濃度が低く、酸素の供給量が制限されるためセンサー感度が十分でないことが多かった。また、血液中の所与の分子の濃度の変化を経時的に測定するためには、直接血管内へセンサーを埋め込む必要が有るが、現在優れた抗血栓性材料がないため、長期間連続使用にたえる血液中分子濃度変化の測定が可能なセンサーはないのが現状である。

【0006】
患者の人体等に細胞を移植あるいはセンサーを埋め込む際の困難を解決するために、従来の研究例では、移植部位の毛細血管密度を高くするために細胞移植あるいはセンサーを埋め込み、それと同時に塩基性繊維芽細胞増殖因子などの新生血管を誘導する因子を投与したり、あるいは、細胞移植等と同時に塩基性繊維芽細胞増殖因子の徐放システムを埋め込むことが試みられた。しかし、これらの方法では、移植の直後は毛細血管床が豊富でないため、移植細胞は低酸素にさらされ、多くの移植細胞は死滅してしまい、当初の目的は達成されなかった。細胞移植による治療を行うためには、細胞を簡便に移植でき、かつ移植細胞の除去が必要なときに簡便に除去できる移植部位を患者の体に新たに作製することが強く望まれていた。

【0007】
また、センサーの回りに新生血管を誘導する試みは現在まで行われていない。センサーを豊富な毛細血管周囲で囲まれた状態に埋め込むことで、血液中生理物質をモニタリングできれば、センサーを直接血管内に埋め込む必要がなくなり、センサーの感度の向上、また、長期使用も可能になる。従って、本発明の課題は、上記の従来の問題点を解決し、細胞を簡便に移植でき、移植細胞の除去が必要なときに簡便に除去できる毛細血管で覆われた空隙部位、また、センサー埋め込み可能な毛細血管で覆われた空隙部位を新たに体内に作製することに用いる、用具を提供することにある。

【0008】
本発明は、近年著しい注目を集めている細胞を用いた治療法、いわゆるTissueEngineering(組織工学)の重要な基礎技術的要素となると予想される。即ち、従来は生理活性物質の単なる投与だけでは効果のなかった疾患の治療のためや、さらに一度の治療行為で永続的な治療効果を目ざして、組織工学の研究が行われているが、未だ組織工学は研究されて歴史が浅い分野であるため、細胞の移植法に未解決な問題が多い。本発明はこれらの問題を解決する一助となるものである。また、体内埋め込みセンサーの研究の歴史は古いが、未だ長期間臨床で使用できる技術は開発されていないが、本発明によるとセンサー埋め込み部の環境を改良することですでに開発されてきたセンサーを用いても高感度・長寿命の体内計測が可能になる。

【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究したところ、組織中に埋め込まれる新生血管床形成用用具であって、埋め込まれた際に新生血管床形成用用具の周囲に毛細血管の豊富な組織を作成することが可能な新生血管床形成用用具を発明した。本発明に係る新生血管床形成用用具は、前記新生血管床形成用用具は、用具基体と毛細血管を豊富に作製することが可能な新生血管誘導因子(「新生血管誘導物質」の概念も含む)とを有し、新生血管誘導因子を必要な期間放出されるようになっている。新生血管の誘導を促進する物質を内包する用具基体からなる新生血管床形成用用具を体の所望部位に移植し、この部位に基体から血管新生誘導物質を徐放させることで、新たな血管床を誘導することが出来る。新生血管床形成用用具を組織非接着性とすることによって、新生血管床形成用用具の周囲に新たな血管床を誘導・形成後に、周囲の細胞・組織に損傷を与えること無く新生血管床形成用用具を除去して形成される空間に細胞の移植、センサー等の埋め込みをすることが出来る。また、中空の新生血管床形成用用具を用いることで、毛細血管の豊富な組織を誘導後に、中空部に細胞の移植、センサー等の埋め込みをすることが出来る。なお、徐放とは、必要な期間に渡り必要な量、速度で新生血管誘導物質を徐々に放出することを云う。用具基体は、例えば、後に詳述するように種々材料より作製したハイドロゲルまたはバッグから形成することが出来る。

【0010】
【発明の実施の形態】〈本発明の組織中に毛細血管の豊富な組織を作成するのにもちいる新生血管床形成用用具〉本発明の組織中に毛細血管の豊富な組織を作成するのに用いる新生血管床形成用用具は、好ましくは、組織非接着性の材料より作製された、例えば、薄い平板状または円柱状形状のもの、または、生体毒性のない材料から作製された中空の薄い平板状または円柱状形状のもので、その壁また内部に新生血管誘導因子が含有されている。

【0011】
組織中に毛細血管の豊富な組織を作成するのに用いる本発明の新生血管床形成用用具としては、例えば、図1に示されるものが例示できる。図1Aに例示した新生血管床形成用用具は、平板状または円柱状の組織非接着性のハイドロゲルからなり、ハイドロゲルそれ自体に新生血管誘導物質が含まれ、適度な速度で新生血管誘導物質が放出されるように設計されている。

【0012】
また、毛細血管の豊富な組織を作成するのに用いる本発明の他の新生血管床形成用用具としては、例えば、図1Bに示されるものが例示できる。図1Bに例示した用具は生体毒性のない高分子また無機材料からなる平板袋状または円筒状の中空形状を有し、その壁また内部に新生血管誘導物質を含み、適度な速度で新生血管誘導物質を放出するように設計されている。

【0013】
図1Aに例示した平板状または円柱状のハイドロゲルからの、新生血管誘導物質の放出速度のコントロールは、ハイドロゲルの密度を高くして拡散速度をコントロールすることによって行うか、または、ハイドロゲル自体と新生血管誘導物質との間の相互作用により、または、ハイドロゲルに新生血管誘導物質と相互作用する物質を含ませそれとの相互作用を通して行う。

【0014】
図1Bに例示した平板袋状または円筒状の中空物は、ハイドロゲルか、または、細胞が浸入出来ない大きさの孔を有する多孔質膜から作製される。新生血管誘導物質の放出速度のコントロールは、中空物を構成する高分子膜また無機材料膜の透過性を変化させることによって行うこともでき、また、中空部内に含ませた新生血管誘導物質と相互作用する物質との相互作用によっても行うことができる。

【0015】
ハイドロゲルを作製するのに用いる材料としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリ-2- ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ-2- ヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの合成高分子の化学架橋体や放射照射による架橋体、さらに、上記高分子を構成するモノマーの共重合体の架橋体など、ハイドロゲルを形成することのできる各種合成高分子材料を挙げることができる。また、天然高分子であるアガロース、アルギン酸、デキストラン、セルロースなどの多糖やその誘導体、また、ゼラチンやアルブミンなどのタンパクやその誘導体の架橋体なども用いることができる。

【0016】
図1Bに例示した平板袋状または円筒状の中空物を作製するのに用いる材料としては、ハイドロゲルを膜として使用する場合には、上記した平板状または円柱状のハイドロゲルを作製するのに用いるのと同様の材料を、ハイドロゲルでない膜の場合には従来から各種工業用また実験室用の膜を作製するのに用いられてきた材料、例えば、セルロースや酢酸セルロースなどのその誘導体、ポリビニルアルコールとその誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、テフロン、(登録商標)フッ化ビニリデン、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体などの高分子材料を用いることができる。無機材料としては、アルミナ、ジルコニア、水酸化アパタイトなどのセラミックやステンレス鋼やチタン合金など従来生体材料として使用されてきたものを挙げることができる。また、現在市販されている精密濾過膜また限外濾過膜の中にも本目的に使用できるものがある。

【0017】
新生血管誘導因子としては、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β) 、オステオネクチン(Osteonectin) 、アンギオポイエチン1(Ang1)やアンギオポイエチン2(Ang2)などの細胞増殖因子があり、また、その効果は大きくはないがヘパリンやヒアルロン酸なども同様の作用がある物質として使用できる。

【0018】
図1Aに例示した平板状または円柱状のハイドロゲル内に新生血管誘導因子を担持させる方法としては、ハイドロゲルに単純に含浸させるだけの方法、静電的相互作用や疎水相互作用などの物理化学的相互作用で担持させる方法、新生血管誘導物質との生物学的な特異的相互作用を有する物質をハイドロゲルに含ませそれとの相互作用を利用して担持させる方法などが考えられる。ハイドロゲルに単純に含浸させる場合には、新生血管誘導因子の放出速度をコントロールするために、ハイドロゲルの分子網目密度を調節する必要がある。静電的相互作用や疎水相互作用などの物理化学的相互作用で担持させる場合には、生体内での新生血管誘導因子の物理化学的状態を十分考慮して担持せる必要がある。例えば血管内皮細胞増殖因子や塩基性繊維芽細胞増殖因子は、生体内で分子全体として正に荷電しているため、アクリル酸やメタクリル酸から作製されたハイドロゲルのようにハイドロゲル自体が負に荷電していれば静電的相互作用で担持でき放出速度もコントロール出来る。生物学的な特異的相互作用を利用する場合には、新生血管誘導因子と生物学的な特異的相互作用することの出来る物質を前もってハイドロゲルに担持させておくく必要がある。例えば、血管内皮細胞増殖因子や塩基性繊維芽細胞増殖因子はヘパリンやヘパラン硫酸等のムコ多糖と生物学的な特異的相互作用をするため、ヘパリンなどのムコ多糖を担持させたゲルを作製しこれに増殖因子を含浸させることで目的を達することが出来る。ハイドロゲル作製に用いる材料によっては、3者を同時に混合して目的のハイドロゲルを作製する事もできる。

【0019】
図1Bに例示した平板袋状または円筒状の中空物に新生血管誘導物質を担持させる方法としては、中空物内に単純に封入する方法とか、また封入時に新生血管誘導因子と静電的相互作用や疎水相互作用などの物理化学的相互作用する物質、または新生血管誘導因子との生物学的な特異的相互する物質と混合した後、封入する方法がある。また、上記した新生血管誘導因子とハイドロゲルの複合体を中空物内に封入する方法もある。また、図1Bに例示した平板袋状または円筒状の中空物をハイドロゲルから作製する場合は、図1Aに例示した平板状または円柱状のハイドロゲル内に新生血管誘導因子を担持させる方法を用いることが出来る。

【0020】
図2A及び図2Bは、血管の新生を促進する新生血管誘導因子の放出、血管の新生を促進、形成された毛細血管の豊富な組織に、細胞を移植する工程をしめすフロー図である。新生血管床形成用用具を埋め込むことで、周囲に毛細血管の豊富な組織形成させる。その後、新生血管床形成用用具を除去した空隙、または、中空新生血管床形成用用具の内部空間に細胞を移植するか、センサーを埋め込む。移植された細胞は豊富の毛細血管から酸素と栄養の供給を受けで生存し、また、細胞から分泌されたホルモンなどの生理活性物質は毛細血管内に入っていく。埋め込まれたセンサーは毛細血管から出てくる生体内分子を感度よく測定できる。

【0021】
【実施例1】以下のようにして、血管誘導因子を担持した細胞移植用血管新生用具を作製した。20デニールのポリエステル糸からなる 150メッシュの網を14×14 mm に切り出し、2枚の網を合わせて、この三辺をポリウレタンシートをバインダーとして高周波融着機を用いて融着させてバッグの骨組みを作製した。このバッグの骨組みの内側に厚さ 100μm 、9×2.5 mmのポリエチレンフィルムを挿入した後、濃度3%ポリビニルアルコール(重合度8800)、0.14%グルタルアルデヒドと0.04N 塩酸の混合溶液中に浸し、十分網中にポリビニルアルコール溶液を浸透させた。これををポリビニルアルコール溶液から引き上げ、室温下、空気中にてポリビニルアルコールとグルタルアルデヒドとの反応を進行させゲル化させることでポリエステル網目にポリビニルアルコールゲルを付着させた。ポリビニルアルコールゲルを付着させたポリエステル網目バッグを高圧蒸気滅菌した。一方、2.5 %アガロースと 1.0%ヒアルロン酸のリン酸緩衝生理食塩水溶液を高圧蒸気滅菌した後、37℃の恒温水槽に試験管ごと10分間浸して、溶液温度を37℃にした。この溶液 100μl に10μg の塩基性繊維芽細胞増殖因子を添加し、これを上記で作製したバッグ内に 100μl 注入した後、氷上に放置することで、アガロースをゲル化させた。以上の工程により細胞移植用血管新生用具の作成を行った。

【0022】
作製したバッグをストレプトゾトシンの投与により糖尿病にした Lewis系ラット背部皮下に清潔下に埋め込んだ。一週間経過後にバッグを除去することで背部皮下に形成された空隙を膵ランゲルハンス島の移植部位として用いた。一方、Lewis 系ラットの膵臓組織からの膵ランゲルハンス島の分離を常法通りにコラゲナーゼ法により行い、移植に必要な膵ランゲルハンス島の確保を行った。分離した膵ランゲルハンス島 5,000個をラット背部に形成された細胞移植部位に移植した。移植されたラットは、自由に飲食できる状態で飼育した。膵ランゲルハンス島の移植による糖尿病治療効果の判定は、移植前と、移植後は一週に2回、ラットの血糖値を測定することにより判定した。いずれのラットも移植前は、ストレプトゾトシンの投与により自己膵臓内の膵ランゲルハンス島が破壊されインスリンが分泌されないため、血糖値は400mg/dl以上の高値を示し、明らかに糖尿病状態であった。膵ランゲルハンス島を背部皮下に形成された細胞移植部位に移植したところ、非空腹時血糖値は経日的に低下した。移植した5例で、血糖値の正常化に要した移植後の日数はそれぞれ、13日、1日、21日、7日、6日であった。いずれのラットにおいても、血糖値正常化後の 100日以上の経過観察期間の間には再び高血糖値に戻ることはなかった。

【0023】
【比較例1】ストレプトゾトシンの投与で糖尿病状態にした5匹の Lewisラットの背部皮下に、他の Lewisラットから分離した膵ランゲルハンス島 5,000個を移植した。移植されたラットを自由に飲食できる状態で維持した。膵ランゲルハンス島の移植による糖尿病治療効果の判定は、移植前と、移植後は一週に2回、ラットの血糖値を測定することにより判定した。5匹のラットいずれにおいても、膵ランゲルハンス島移植後も非空腹時血糖値は400 mg/dl 以上であり、血糖値の正常は見られず、糖尿病状態は改善されなかった。

【0024】
【比較例2】実施例1で作成したポリビニルアルコールをコーティングしたバッグに、塩基性繊維芽細胞成長因子を含まないアガロース溶液を注入し、氷上で放置することで、アガロース溶液をバッグ内でゲル化させた。実施例1と同様に、ストレプトゾトシンで糖尿病にした Lewisラット皮下に埋め込み、一週間経過した後にバッグを除去した。背部皮下に形成された空隙に、他の Lewisラットより分離した膵ランゲルハンス島 5,000個を移植した。移植されたラットを自由に飲食できる状態で飼育した状態で、血糖値の変動を観察したところ、5匹いずれのラットにおいても、血糖値は移植前の値よりはわずかに低下するものの、いずれも高値を示し、糖尿病状態はさほど改善されなかった。この5匹のラットを12時間絶食下においた後、血糖値を測定したところ、5匹中2匹の血糖値は 200 mg/dl前後まで低下したが、他は高血糖値のままであった。このように塩基性繊維芽細胞を含まないバッグを背部皮下に埋め込むことで形成される空隙に膵ランゲルハンス島を移植することでも、多少ラ島の生着が望めるものの、膵ランゲルハンス島の生着効率は低く、糖尿病の治療にはいたらなかった。

【0025】
【実施例2】組織中に毛細血管が多数あると、その毛細血管に赤血球が存在し、その組織はヘモグロビンを多く含む。このため、組織中のヘモグロビン量を測定することで、組織中の毛細血管の量を推定できると考えられるので以下の実験を行った。実施例1と同様にして作製した塩基性繊維芽細胞を含むバッグを5匹のLewis ラット背部皮下に埋め込んだ。埋め込み後一週間目に、埋め込んだバッグを取り除いた後、形成された空隙の周囲の組織を取り出した。また、バッグ埋め込み部位から3cm離れた部位の組織を取り出した。これら組織を別々に3mlの蒸留水につけた後組織粉砕機を用いて組織を微少な組織片になるまで分散させた。この組織分散液を 3,000回転/分で5分間遠心を行うことで上清と組織片に分離し、上清を回収した。再度3mlの蒸留水を加えて分散させ、これを 3,000回転/分で遠心することで上清と組織片にわけて、再度上清を回収した。1回目の上清と2回目の上清を加え混合した。この上清混合物中に含まれるヘモグロビン量を測定し、単位組織重量中のヘモグロビン量を決定した。バッグに接していた部位の組織と3cm離れた部位の組織中のヘモグロビン量を比較したところ、前者が、後者の34倍ものヘモグロビンを含んでいた。以上のことから、塩基性繊維芽細胞を含むバッグを一週間埋め込むことで、皮下に高密度に毛細血管を誘導できることがわかる。

【0026】
【実施例3】5%アガロースと 1.0%ヒアルロン酸のリン酸緩衝生理食塩水溶液を高圧蒸気滅菌した後、37℃の恒温水槽に試験管ごと10分間浸して、溶液温度を37℃にした。この溶液 160μl に20μg の血管内皮細胞増殖因子を添加した後、氷上のガラス板上にキャストし、直径1cm、厚さ0.2cmのハイドロゲル板を作製した。このハイドロゲル板を5匹のLewis ラット背部皮下に埋め込んだ。一週間目に、埋め込んだハイドロゲル板を取り除いた後、形成された空隙の周囲と埋め込み部位から3cm離れた部位の皮下組織を取り出し、実施例2と同様にして組織中のヘモグロビン量を測定した。ハイドロゲル接していた部位の組織と3cm離れた部位の組織中のヘモグロビン量を比較したところ、前者が、後者の46倍ものヘモグロビンを含んでいた。以上のことから、塩基性繊維芽細胞を含むハイドロゲルを一週間埋め込むことで、皮下に高密度に毛細血管を誘導できることがわかる。

【0027】
【発明の効果】本発明の新生血管床形成用用具を用いることで、例えば皮下に毛細血管床と空隙を形成でき、従来細胞移植が困難であるか不可能であるとされていた皮下への細胞移植を可能にすることが出来る。皮下への細胞移植は患者の侵襲が小さく、また、移植細胞を除去しなければならない時も容易に除去でき、さらに、再移植も容易である。また、従来細胞移植が行われていた部位でも、細胞移植直後に酸素不足から移植細胞のかなりのものが死滅するとされていた。本発明の新生血管床形成用用具を用いてこれらの部位に毛細血管床を形成させた後移植すれば、移植直後の移植細胞の脱落を小さく抑えられる。このことは、移植細胞を確保するためのドナーを少なくすることができ、現在の移植医療で問題となっているドナー不足を解消する一助になる。

【0028】
さらに、皮下に形成した毛細血管の豊富な空隙内にセンサーを埋め込むことで、酸化還元型のセンサーの感度の向上、また、毛細血管からの浸出液モニターすることで血流中へセンサーを留置することなく血液中の生理物質濃度を測定出来ることから、センサーの長寿命化と安全性を格段に向上させることが出来る。
図面
【図1】
0
【図2】
1