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明細書 :L-パラボロノフェニルアラニンの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第2979139号 (P2979139)
公開番号 特開平11-255773 (P1999-255773A)
登録日 平成11年9月17日(1999.9.17)
発行日 平成11年11月15日(1999.11.15)
公開日 平成11年9月21日(1999.9.21)
発明の名称または考案の名称 L-パラボロノフェニルアラニンの製造方法
国際特許分類 C07F  5/02      
C07B 53/00      
C07M  7:00      
FI C07F 5/02 C
C07B 53/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 7
出願番号 特願平10-059346 (P1998-059346)
出願日 平成10年3月11日(1998.3.11)
審査請求日 平成10年3月11日(1998.3.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012394
【氏名又は名称】東北大学長
発明者または考案者 【氏名】山本 嘉則
【氏名】中村 浩之
【氏名】藤原 優
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
審査官 【審査官】本堂 裕司
参考文献・文献 Synlett(1996),[2],p.167-168
調査した分野 C07F 5/02
特許請求の範囲 【請求項1】
N-ベンジロキシカルボニル-L-チロシン、N-アリロキシカルボニル-L-チロシンおよびN-t-ブトキシカルボニル-L-チロシンからなる群より選ばれた原料から
【化1】
JP0002979139B2_000002t.gifのトリフラート誘導体(Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基であり、Yは、ベンジロキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基およびt-ブトキシカルボニル基からなる群より選ばれた保護基であり、Bnはベンジル基である)を得、このトリフラート誘導体を、
【化2】
JP0002979139B2_000003t.gifのテトラアルコキシジボロンと反応させることによって、
【化3】
JP0002979139B2_000004t.gif(Yは、ベンジロキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基およびt-ブトキシカルボニル基からなる群より選ばれた保護基であり、Bnはベンジル基である)の化合物を得、この化合物を、パラジウム系系触媒の存在下に水素添加することによって、
【化4】
JP0002979139B2_000005t.gifのL-パラボロノフェニルアラニンを得ることを特徴とする、L-パラボロノフェニルアラニンの製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、L-パラボロノフェニルアラニンの製造方法、およびこれに使用できる中間体に関するものである。

【0002】
【従来の技術】いわゆる中性子捕捉法は、これまでは日本でのみ臨床応用されてきたガン治療法であったが、最近では、アメリカ合衆国、欧州、オーストラリアでも臨床応用が始まりつつある。現在、臨床応用されている治療薬は、BSHとL-パラボロノフェニルアラニンの2つしかない。L-パラボロノフェニルアラニンは、皮膚ガンだけでなく、脳腫瘍にもよく取り込まれる唯一の治療薬であり、現在は米国のBBI社によって供給されている。現在用いられている合成法を以下に示す。

【0003】
【化5】
JP0002979139B2_000006t.gif【0004】この合成法では、パラボロノフェニルアラニンがLD体として得られるので(H. R. Synder, A. J. Reedy, W. M. J. Lennarz, J. Am. Chem. Soc.」1958年、80、835 頁) 、最終的に光学分割によってL体を分離精製する必要があった。このため、コストが高く、一回の治療における患者の負担は数百万円にものぼる。

【0005】
このため、最近では光学活性L-パラボロノフェニルアラニンの選択的合成法が開発されてきたので、例示する。

【0006】
【化6】
JP0002979139B2_000007t.gif【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記のような、ロジウム触媒を用いた不斉還元法では、不斉収率が最高88%であり、最終的にはL体を分離精製する必要がある(E. G. Samsel, 米国特許第5157149 号、1992年) 。また、上記のような、L-セリンから誘導する方法では、ヨウ化アリールとのカップリング反応の収率が50-55%と低いことが問題点であった(C. Malan, C. Morin, 「SYNLETT 」1996年、167)。

【0008】
本発明の課題は、光学異性体を最終段階で分離することなく、L-パラボロノフェニルアラニンを合成する新たな方法を提供することである。

【0009】
また、本発明の課題は、低コストの化合物を出発原料とし、光学異性体の分離精製プロセスを不要とすることによって、分離精製等によるコストを削減することである。

【0010】
また、本発明の課題は、不要な廃金属を出さない、環境にやさしいコンバージェントタイプの合成法を確立することである。

【0011】
【課題を解決するための手段】本発明では、N-t-ブトキシカルボニル-L-チロシン、N-アリロキシカルボニル-L-チロシンまたはN-ベンジロキシカルボニル-L-チロシンから
【化7】
JP0002979139B2_000008t.gifのトリフラート誘導体(Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基であり、Yは、ベンジロキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基およびt-ブトキシカルボニル基からなる群より選ばれた保護基であり、Bnはベンジル基である)を得、このトリフラート誘導体を、
【化8】
JP0002979139B2_000009t.gifのテトラアルコキシジボロンと反応させることによって、
【化9】
JP0002979139B2_000010t.gif(Yは、ベンジロキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基およびt-ブトキシカルボニル基からなる群より選ばれた保護基であり、Bnはベンジル基である)の化合物を得、この化合物を、パラジウム系系触媒の存在下に水素添加することによって、
【化10】
JP0002979139B2_000011t.gifのL-パラボロノフェニルアラニンを得ることを特徴とする。

【0012】
この水素添加の際のパラジウム系触媒としては、水酸化パラジウムが最も好ましく、パラジウムブラックや活性炭素担持パラジウムも使用可能性がある。水素添加の際の溶媒としては、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール、エタノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフランが使用できる。反応温度は、例えば室温-40℃で実施できる。

【0013】
N-ベンジロキシカルボニル-L-チロシンは市販品として入手でき、あるいはL-チロシンから周知の方法によって合成できる。N-アリロキシカルボニル-L-チロシン、N-t-ブトキシカルボニル-L-チロシンは、L-チロシンから周知の方法によって合成できる。N-ベンジロキシカルボニル-L-チロシン、N-アリロキシカルボニル-L-チロシンまたはN-t-ブトキシカルボニル-L-チロシンから、上記のトリフラート誘導体を合成する際には、CsCO3の存在下に臭化ベンジルと反応させてカルボキシル基をベンジルエステル化し、次いでTf2Oと反応させることができる(W. Wang, N. U. Obeyesekere, J.S. McMurray, 「Tetrahedron Lett. 1996, 37, 6661) 。

【0014】
前記のテトラアルコキシジボロンは、ジボロンをプロパンジオール化合物と反応させることで、得ることができる。また、前記のトリフラート誘導体とテトラアルコキシジボロンとのカップリング反応は、パラジウム系触媒の存在下に進行させることができ、このパラジウム系触媒としては、塩化パラジウムが最も好ましく、π-アリルパラジウムクロリドやパラジウムテトラキストリフェニルホスフィンも使用可能性がある。この際の溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドが使用できる。反応温度は、例えば80℃-100℃で実施できる。

【0015】
以上の製造方法を使用することによって、低コストのL-チロシンから、高い収率でL-パラボロノフェニルアラニンを不斉合成することに成功した。

【0016】
従来のホウ素導入反応では、イオニックな強塩基条件を必要とするため、反応性の高い官能基(例えばアミノ酸、カルボニル基、カルボキシル基などの生体関連物質に必須の官能基)を有する化合物への応用が困難であった。その結果、化合物を合成する過程で、まずホウ素原子導入を行った後、化合物の骨格の構築および官能基の導入を行うため、キラルな化合物のラセミ化や、反応点の立体制御などが問題となり、最終的には混合物を分離精製せざるを得なかった。

【0017】
本発明は、基質の水酸基をきっかけにして、その水酸基の位置にホウ素原子を導入できるものであり、従来のイオニックな反応とは異なり、パラジウム系触媒を用いることにより、非常に温和な反応条件下で行うことができる。この結果、反応性の高い官能基(例えばアミノ酸、カルボニル基、カルボキシル基などの生体関連物質に必須の官能基)を有する化合物への応用が可能になった。

【0018】
また、従来の化学量論的な反応とは異なり、本発明における触媒反応は、不要な廃金属を出さない、環境にやさしいコンバージェントタイプの合成法である。

【0019】
【実施例】以下、更に具体的な実験結果について述べる。低コストで入手可能なL-チロシンを出発原料とし、(W. Wang, N. U. Obeyesekere, J. S. McMurray, 「Tetrahedron Lett. 1996, 37, 6661) に記載の方法に従って、下記のトリフラート誘導体1を得た。ただし、Zはベンジロキシカルボニル基である。また、トリフラート誘導体1の理化学的性質を表1に示す。

【0020】
【化11】
JP0002979139B2_000012t.gif【0021】
【表1】
JP0002979139B2_000013t.gif【0022】また、下記の反応式に示すように、ジボロン2をプロパンジオール3a、3bとそれぞれ反応させ、テトラアルコキシジボロン4a、4bをそれぞれ合成した。

【0023】
【化12】
JP0002979139B2_000014t.gif【0024】テトラアルコキシジボロン4bの合成例を述べる。ジボロン2(3.16g、16.0mmol)をテトラヒドロフラン(40ml)に溶かし、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオール3b(7.3g,32mmol)のテトラヒドロフラン(40ml)溶液を室温でゆっくりと加えた。50℃で一昼夜攪拌し、減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をテトラヒドロフランから再結晶させ、化合物4bを得た。(白色固体、5.43g、収率72%)。この理化学的性質を表2に示す。

【0025】
【表2】
JP0002979139B2_000015t.gif【0026】トリフラート誘導体1を、パラジウム系触媒下、テトラアルコキシジボロン4(4aまたは4b)と反応させたところ、カップリング反応が進行し、目的のアリールボレート5(5aまたは5b)が高い収率で生成した。

【0027】
【化13】
JP0002979139B2_000016t.gif【0028】ピナコールから誘導したテトラアルコキシジボロン4aでは、ジオキサン中、80℃、5時間で反応が終了し、アリールボレート5aをほぼ定量的に与えた(T. Ishiyama, M. Murata, N. Miyaura, J. Org. Chem. 1995, 60, 7508) 。また、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオール3bから誘導したテトラアルコキシジボロン4bでは、ジメチルホルムアミド中、100℃、3時間で反応が終了し、アリールボレート5bを65%の収率で与えた。

【0029】
以下、化合物5bの合成例を述べる。トリフラート誘導体1(1.34g、2.49mmol)、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオラト)ジボロン4b(1.30g、2.74mmol)、酢酸カリウム(0.73g、7.48mmol)、ジクロロ(ビス-ジフェニルフォスフィノフェロセン)パラジウム(0.15g、0.20mmol)を、ジメチルホルムアミド(20ml)に溶かし、100℃で3時間攪拌した。反応混合物を、室温まで冷却し、酢酸エチルで希釈後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒の留去を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフ(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)で精製し、化合物5bを得た(白色固体、1.04g、収率65%)。この理化学的性質を、表3に示す。

【0030】
【表3】
JP0002979139B2_000017t.gif【0031】次いで、アリールボレート5aは、ピナコール保護を外す条件である過ヨウ素酸ナトリウムと酢酸アンモニウムのアセトン溶液中では、ラセミ化が見られた。

【0032】
そこで、アリールボレート5bを用いて、水酸化パラジウム触媒下で、水素添加を行うことによって、すべての保護基を離脱させることを試みたところ、下記に示すように、目的化合物であるL-パラボロノフェニルアラニン(L-BPA)か、ラセミ化を伴うことなく、74%の収率で得られた。

【0033】
【化14】
JP0002979139B2_000018t.gif【0034】即ち、アリールボレート5b(0.38g、0.59mmol)を、酢酸エチル(5ml)、クロロホルム(5ml)、メタノール(5ml)の混合溶媒に溶かし、水酸化パラジウム(0.10g)を加えた後、酢酸を一滴加え、水素置換を行い、40℃で24時間攪拌した。セライト濾過により、パラジウムを除去し、水1mlを反応混合物に加え、減圧下に溶媒を留去し、得られた白色粉末を塩化メチレンで洗い、L-パラボロノフェニルアラニンを得た(0.09g、収率74%)。