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明細書 :一方向性光増幅器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2972879号 (P2972879)
登録日 平成11年9月3日(1999.9.3)
発行日 平成11年11月8日(1999.11.8)
発明の名称または考案の名称 一方向性光増幅器
国際特許分類 H01S  3/30      
G02F  1/01      
FI H01S 3/30 A
G02F 1/01
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願平10-231251 (P1998-231251)
出願日 平成10年8月18日(1998.8.18)
審査請求日 平成10年8月18日(1998.8.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591006335
【氏名又は名称】金沢大学長
発明者または考案者 【氏名】山田 実
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
審査官 【審査官】河原 正
参考文献・文献 特開 昭56-50591(JP,A)
特開 昭63-240091(JP,A)
特開 平2-106726(JP,A)
電気学会 自由電子レーザー調査専門委員会編「自由電子レーザーとその応用」(1990年8月18日)コロナ社 p.1-5
電子情報通信学会技術研究報告 Vol.97 No.360 p.39-44
調査した分野 H01S 3/30
G02F 1/01
要約 【課題】 真空中の電子と、光を遅延させる誘電体光導波路から真空中にしみ出した光とを用いて光の一方向性増幅を行う、一方向性光増幅器を実現する。
【解決手段】 電子放射部1と、電子放射部1から放射される電子ビーム4から受けたエネルギーを利用して入力された光12を一方向に増幅する光増幅部2とを真空中に配置して構成した一方向性光増幅器の光増幅部2は、電子ビーム走行方向(z方向)に誘電体光導波路6が形成された誘電体基板5と、誘電体光導波路6を挟むように対向配置された一対の電子ビーム収束用電極9および10とから成り、誘電体基板5は、電子ビーム走行方向(z方向)に光の電界成分Eを生じさせるとともに電子ビーム走行方向(z方向)の光の走行速度を低下させるように配置されている。
特許請求の範囲 【請求項1】
電子ビームを放射する電子放射部と、該電子放射部から放射される電子ビームから受けたエネルギーを利用して入力された光を一方向に増幅する光増幅部とを真空中に配置して成る一方向性光増幅器であって、
前記光増幅部は、真空中を走行する電子ビームに接するように電子ビーム走行方向に形成された誘電体光導波路を有する誘電体基板と、前記誘電体光導波路を挟むように対向配置された一対の電子ビーム収束用電極とから成り、
前記誘電体光導波路は、電子ビーム走行方向に光の電界成分を生じさせ、伝搬する光の一部を電子ビーム走行路にしみ出させるとともに、電子ビーム走行方向の光の走行速度を低下させるように、前記誘電体基板上に形成されていることを特徴とする一方向性光増幅器。

【請求項2】
前記誘電体基板は、前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ曲線部を介して直交方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備して成ることを特徴とする請求項1記載の一方向性光増幅器。

【請求項3】
前記誘電体基板は、前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ所定角度をなすように斜め方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備して成ることを特徴とする請求項1記載の一方向性光増幅器。

【請求項4】
前記誘電体光導波路は、当該波長領域において透明性を有する高屈折率の材料であって、可視光領域に用いる場合にはZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaN 等のIII-V 族化合物半導体より成り、マイクロ波領域から近赤外領域に用いる場合にはSi, Ge等のIV族半導体、ZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaAs, InP, GaNおよびこれらの混晶等のIII-V 族化合物半導体より成ることを特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の一方向性光増幅器。

【請求項5】
前記誘電体基板は、マイクロ波領域から可視光領域までの範囲において透明性を有する材料であって、石英ガラスや有機物より成ることを特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の一方向性光増幅器。

【請求項6】
前記電子ビーム収束用電極は、Ni, Ag, Alや各種合金等の金属材料より成ることを特徴とする請求項1~5の何れか1項記載の一方向性光増幅器。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子工学、量子電子工学、光エレクトロニクス、レーザ工学等の多くの分野に適用可能な、光を一方向のみに増幅する一方向性光増幅器に関するものである。

【0002】
【従来の技術】光増幅を行う従来技術としては、各種のレーザがあり、これらを用いて光の一方向性増幅を実現しようとする種々の試みがなされてきた。

【0003】
現在実用化されているレーザとしては、例えば、気体レーザ、固体レーザ、液体レーザ、半導体レーザがある。これらのレーザは、光の発生や増幅を行う代表的な光エレクトロニクス素子あるいは光エレクトロニクス装置であるが、レーザ材料中の原子や分子に拘束されている電子のエネルギーを使用するため、増幅される光の方向は可逆であり、前進波および後進波の両方が増幅される。したがって、出射した光がレンズや光ファイバあるいは光ディスク等の表面で反射されて戻り、レーザ内に再入射すると、この戻り光も増幅してしまう。そのため、レーザの発振特性や増幅特性を不安定に劣化させるとともに、過剰な雑音を発生してしまう。

【0004】
現在までに提案されている上記不具合の対策としては、光を一方向に通過させるアイソレータをレーザの出射側に設けることにより戻り光の再入射を防止する手法が一般的である。しかし、光アイソレータは磁性材料を主材としてバルク形状で作製することしかできず、また、その価格が高価であるため、利用範囲が制限されることになる。このため、光学分野での基礎的研究や大容量の光ファイバ通信システムには光アイソレータを利用することができるが、光ディスク技術のように小型でかつ安価なことを要求される用途には光アイソレータを利用することができず、上記戻り光による特性劣化や雑音発生がレーザを採用する際の技術的な障害となる。

【0005】
また、レーザ光発生部、光増幅部、変調部等を光集積回路として一体化し、光による高速の情報処理を行う方式も提案されているが、この方式は、次段部から前段部へ光が戻るため、複合的な機能を有する光回路としての合成ができないという問題がある。

【0006】
また、広範囲な波長で発振可能な光発生装置として自由電子レーザが開発されている。この自由電子レーザは、他種類のレーザとは異なる動作原理を用いており、真空中で一方向に伝搬する電子ビームのエネルギーを光に与えるようにしているため、電子ビームと同ー方向に伝搬する光成分のみを増幅する特性を有している。しかし、自由電子レーザは、光の発生に主眼を置いて開発されたものであるため、上記一方向性増幅特性を生かすような設計は行われていない。さらに、自由電子レーザでは、電子ビームの励起電圧が10MV以上と極めて高く、また電子ビームに振動を与えるために超高磁場を必要とすることから、特殊な高エネルギー用途を目標に開発されているため、信号増幅を目的とするエレクトロニクス分野には適していない。

【0007】
また、一方向性の機能電子素子である通常の電子管やトランジスタの動作可能周波数の上限値(1GHz程度)を上回る、最も高い動作可能周波数を有する一方向性の電子管としては進行波管がある。この進行波管は、金属による遅延伝送路を用いて電磁波の伝搬速度を低下させ、この電磁波に電子銃から放射された電子ビームがエネルギーを与えるものであり、周囲を真空にすることにより、電子が周囲物質と衝突して散乱することに伴うエネルギー損失を抑制している。この進行波管では、電子ビームの速度および電磁波の伝搬速度が一致したときに電磁波が増幅されるため、逆方向へ伝搬する電磁波は増幅されない。しかし、波長は高周波になるほど短くなり、進行波管の使用周波数の上限値は伝送路の金属加工技術により決定されるため、進行波管は数十GHz以上の周波数(波長;数cm以下)では使用できない。したがって、波長が1μm以下となる光に適用し得る進行波管を作製することは、現在の金属加工技術の限界を遥かに越えることになり、現時点では不可能である。

【0008】
上述した種々の問題を解決するため、本願発明者は、先に、特願平9-71147号明細書において、固体中の電子ビームを用いた一方向性光増幅器を提案済みである。この一方向性光増幅器では、固体中に放射される電子ビームを走行させるための電子ビーム走行路と、増幅すべき光を遅延させるための誘電体遅延導波路とを組み合わせることにより、光の一方向性増幅が実現可能であることを理論的に示している。

【0009】
また、上述した種々の問題を解決するため、本願発明者は、先に、特願平9-293819号明細書において、真空中に放射される電子ビームを用いた電子管型一方向性光増幅器を提案済みである。この電子管型一方向性光増幅器では、真空中に配置されて光の遅延導波路を形成する一対の波状形状鏡を用いて、電子放射部から放射される電子ビームから受けたエネルギーを利用して、入力された光を一方向に増幅する光増幅部を構成することにより、光の一方向性増幅が実現可能であることを理論的に示している。

【0010】
【発明が解決しようとする課題】上記本願発明者の先願の一方向性光増幅器にあっては、電子ビーム走行部を例えばZnSeで構成した場合には加速電圧が2.5Vを超えると電子が走行できなくなるため、電子ビームの加速電圧を大きくすることができず、電磁界の空間的位相変化が極めて微細になるため、遅延導波路の作製をnm以下の精度で行う必要がある。そのため、今後の作製技術の進展が課題となっている。また、上記本願発明者の先願の電子管型一方向性光増幅器にあっては、上記と同様の理由により、波状形状鏡の作製をnm以下の精度で行う必要があるため、今後の作製技術の進展が課題となっている。

【0011】
本発明は、真空中の電子と、誘電体光導波路から真空中にしみ出した光と、電子ビーム走行方向の光の電界成分とを用いた光増幅により、これまで不可能と思われていた光の一方向性増幅を実現する装置を一方向性光増幅器として具体化することにより、上述した問題を解決することを目的とする。

【0012】
【課題を解決するための手段】この目的のため、本発明の請求項1の構成は、電子ビームを放射する電子放射部と、該電子放射部から放射される電子ビームから受けたエネルギーを利用して入力された光を一方向に増幅する光増幅部とを真空中に配置して成る一方向性光増幅器であって、前記光増幅部は、真空中を走行する電子ビームに接するように電子ビーム走行方向に形成された誘電体光導波路を有する誘電体基板と、前記誘電体光導波路を挟むように対向配置された一対の電子ビーム収束用電極とから成り、前記誘電体光導波路は、電子ビーム走行方向に光の電界成分を生じさせ、伝搬する光の一部を電子ビーム走行路にしみ出させるとともに、電子ビーム走行方向の光の走行速度を低下させるように、前記誘電体基板上に形成されていることを特徴とするものである。

【0013】
本発明の請求項1においては、真空中に配置される光増幅部に入力される光が、真空中を走行する電子ビームに接するように前記誘電体基板の電子ビーム走行方向に形成された誘電体光導波路内を伝搬する際には、電子ビーム走行方向に光の電界成分が生じ、伝搬する光の一部が前記誘電体光導波路から真空中にしみ出すとともに前記誘電体光導波路を構成する誘電体の等価屈折率に依存して電子ビーム走行方向の光の走行速度が低下する。それにより、前記真空中にしみ出した光は、電子放射部から放射される電子ビーム(この電子ビームは、真空中を走行するため、周囲物質との衝突による散乱に伴うエネルギー損失が抑制されている)と交差することにより該電子ビームからエネルギーを受けるため、一方向に増幅される。

【0014】
本発明の請求項1によれば、光増幅部に形成される誘電体光導波路において、電子ビーム走行方向に光の電界成分が生じ、伝搬する光の一部が電子ビーム走行路にしみ出すとともに、電子ビーム走行方向の光の走行速度が遅延するようにしたため、真空中の電子と、真空中にしみ出した光と、電子ビーム走行方向の光の電界成分とを用いた増幅により光の一方向性増幅を行う一方向性光増幅器を実現することができる。

【0015】
本発明の請求項2の構成は、前記誘電体基板は、前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ曲線部を介して直交方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備して成ることを特徴とするものである。

【0016】
本発明の請求項2によれば、前記誘電体基板は前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ曲線部を介して直交方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備しているため、前記光入力導波路から導いた光を前記誘電体光導波路で光増幅した後に前記光出力導波路から出力することができる。

【0017】
本発明の請求項3の構成は、前記誘電体基板は、前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ所定角度をなすように斜め方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備して成ることを特徴とするものである。

【0018】
本発明の請求項3によれば、前記誘電体基板は前記誘電体光導波路の両端部にそれぞれ所定角度をなすように斜め方向から接続される光入力導波路および光出力導波路を具備しているため、前記光入力導波路から導いた光を前記誘電体光導波路で光増幅した後に前記光出力導波路から出力することができる。

【0019】
本発明の請求項4の構成は、前記誘電体光導波路は、当該波長領域において透明性を有する高屈折率の材料であって、可視光領域に用いる場合にはZnSe, CdSおよびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaN 等のIII-V 族化合物半導体より成り、マイクロ波領域から近赤外領域に用いる場合にはSi, Ge等のIV族半導体、ZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaAs, InP, GaNおよびこれらの混晶等のIII-V 族化合物半導体より成ることを特徴とするものである。

【0020】
本発明の請求項4によれば、前記誘電体光導波路は、当該波長領域において透明性を有する高屈折率の材料であって、可視光領域に用いる場合にはZnSe, CdSおよびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaN 等のIII-V 族化合物半導体により構成され、マイクロ波領域から近赤外領域に用いる場合にはSi, Ge等のIV族半導体、ZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaAs, InP, GaNおよびこれらの混晶等のIII-V 族化合物半導体により構成されるため、可視光領域の光を対象とする場合もマイクロ波領域から近赤外領域の光を対象とする場合も、当該誘電体光導波路の等価屈折率に依存して前記光増幅部における電子ビーム走行方向の光の走行速度を低下させることができる。

【0021】
本発明の請求項5の構成は、前記誘電体基板は、マイクロ波領域から可視光領域までの範囲において透明性を有する材料であって、石英ガラスや有機物より成ることを特徴とするものである。

【0022】
本発明の請求項5によれば、前記誘電体基板をマイクロ波領域から可視光領域までの範囲において透明性を有する材料である石英ガラスや有機物により構成するため、この誘電体基板上に電子ビーム走行方向の光の走行速度を低下させる誘電体光導波路を形成することができる。

【0023】
本発明の請求項6の構成は、前記電子ビーム収束用電極は、Ni, Ag, Alや各種合金等の金属材料より成ることを特徴とするものである。

【0024】
本発明の請求項7によれば、前記電子ビーム収束用電極をNi, Ag, Alや各種合金等の金属材料により構成したため、誘電体基板の電子ビーム走行方向に形成された誘電体光導波路の表面に電子ビームを収束させることができる。

【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1(a),(b)はそれぞれ、本発明の第1実施形態の一方向性光増幅器の基本構造を示す原理図およびそのA-A断面図である。本実施形態の一方向性光増幅器は、図1(a)に示すように、電子放射部1と光増幅部2とから成る。上記電子放射部1および光増幅部2は、図示しない真空容器中に配置して、例えば電子管型装置として構成する。なお、上述したように電子放射部1および光増幅部2の周囲を真空にした理由は、電子放射部1から放射される電子が光増幅部2内を通過する際に不要な物質に衝突して散乱することによりエネルギー損失が生じるのを防止するためである。上記電子放射部1としては、例えば電子銃を用いるものとし、この電子銃1は、所定電圧値の加速電圧を印加することにより電子ビーム4を放射する。

【0026】
上記増幅部2は、誘電体基板5と、真空中を走行する電子ビーム4に接するように誘電体基板5上の電子ビーム走行方向(図示z軸方向)に形成された誘電体光導波路6と、図1(b)に示すように、誘電体光導波路6の図示左右両端部にそれぞれ曲線部を介して直交方向から接続される光入力導波路7および光出力導波路8と、誘電体光導波路6を上下方向から挟むように対向配置された一対の電子ビーム収束用電極9および10とから成り、電子ビーム収束用電極10は誘電体基板5の下面に結合されている。上記電子ビーム収束用電極9および10の間に、所定電圧値の電子ビーム収束電圧11を、電子ビーム収束用電極9側が負電位となり、電子ビーム収束用電極10側が正電位となるように印加すると、誘電体基板5の誘電体光導波路6の上部に形成される電子ビーム走行路を走行する電子ビーム4は、誘電体光導波路6の表面に収束する。

【0027】
上記誘電体光導波路6を構成する材料としては、利用する光の波長領域において、屈折率ができる限り高く、かつ透明性を有する材料が良い。これらの条件に該当する材料としては、可視光領域に用いる場合にはZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaN 等のIII-V 族化合物半導体を用いることができる。また、マイクロ波領域から近赤外領域に用いる場合には、Si, Ge等のIV族半導体、ZnSe, CdS およびこれらの混晶等のII-VI 族化合物半導体もしくはGaAs, InP, GaNおよびこれらの混晶等のIII-V 族化合物半導体を用いることができる。

【0028】
上記誘電体基板5を構成する材料としては、利用する光の波長領域において、屈折率ができる限り低く、かつ透明性を有する材料が良い。これらの条件に該当する材料としては、マイクロ波領域から可視光領域までの全範囲において、石英ガラスや有機物等を用いることができる。上記電子ビーム収束用電極9および10を構成する材料としては、Ni, Ag, Alや各種合金等の金属材料を用いることができる。

【0029】
次に、第1実施形態の一方向性光増幅器の動作原理を説明する。光(入射光12)の角周波数および波数をそれぞれωおよびβとし、電子銃1により放射される電子のエネルギーおよび波数をそれぞれWb およびkb とし、光12にエネルギーを与えた後の電子のエネルギーおよび波数をそれぞれWa およびka とし、プランク定数をhとすると、以下の式(1)および(2)の関係が満たされる場合に光12が増幅される。
b -Wa =h・ω/2π (1)
b -Ka =β (2)

【0030】
光の速度はω/βであるため、自由空間での光は速度cが速いので光の波数βが小さくなり過ぎることになり、式(2)が成立しない。そこで、本実施形態では、誘電体基板5上に形成する誘電体光導波路6の材料を上述した材料の中から適宜選択することにより光を減速させ、光の波数βを大きくしている。

【0031】
誘電体光導波路6は誘電体により構成され、その等価屈折率をneff とすると伝搬速度はc/neff となる。したがって、
ω/β=c/neff (3)
のときに光増幅がなされる。この光増幅を実現するためには、光の波数β=neff ω/cを大きくする(電子ビーム走行方向(z方向)への光の伝搬速度c/neff を小さくする)とともに、電子走行方向(z方向)に光の電界成分を生じさせることが要求され、本実施形態では誘電体光導波路6の高屈折率化によって光の伝搬速度c/neff を小さくしている。ここで、z方向に光の電界成分が無いと光は増幅されない。また、逆方向の光は波数が-βとなり式(2)を満足しないので増幅されない。

【0032】
上述した光増幅部2での光増幅作用は、量子力学の解析手法の1つである密度行列法を用いて理論解析され、光の利得定数gは、次式で表わされる。
【数1】
JP0002972879B1_000002t.gifここで、μ0 は真空中の透磁率、eは電子の電荷、λは光の波長、Jは電子ビームの電流密度、Lは光増幅部2の有効長、hはプランク定数、ξは真空中にしみ出した光成分14の比率および電子ビーム収束性により定まる、光および電子ビームの結合率、Dは光増幅および光吸収の相違を示す係数である。

【0033】
光増幅部2における光増幅率Aは、次式で表わされる。A= exp(gL) (5)この場合、光増幅に必要な加速電圧Ve は、電子の質量をmとすると、次式で表わされる。
【数2】
JP0002972879B1_000003t.gif【0034】次に、本実施形態の一方向性光増幅器の作用を説明する。入射光12は、図1(b)に示すように、電子ビーム走行方向と直交する方向に形成された光入力導波路7から入射して、曲線部で方向を90度変えられて誘電体光導波路6に導かれた後、誘電体光導波路6を伝搬する。その後、曲線部で方向を90度変えられて光出力用導波路8に導かれ、そこから出射して出力光13となる。

【0035】
その際、誘電体光導波路6に導かれた光は、誘電体光導波路6を構成する誘電体の等価屈折率に依存して電子走行方向への走行速度を遅延されて、電子ビーム4からエネルギーを受けられる程度の速度となる(等価屈折率が大きくなるほど光の速度が遅延されることになる)。また、誘電体光導波路6に導かれた光が誘電体導波路6の中心に集まるように分布して導波される際に電子ビーム走行方向の電界成分が生じるが、誘電体光導波路6に導かれた光が導波路中に完全に閉じこめられることはなく、誘電体光導波路6中を伝搬する光の一部は、誘電体基板5側および真空側(誘電体基板5の上部の電子ビーム走行路側)にしみ出すことになる。この真空側にしみ出した光成分14は、電子ビーム4と交差する際に電子ビーム4からエネルギーを受けるため、光全体が増幅される。

【0036】
なお、本実施形態の一方向性光増幅器によれば、誘電体光導波路6の材料選定により増幅特性が決定されるため、より大きな増幅率を得るためには、利用する光の波長領域において高屈折率かつ透明性を有する上記各種材料の何れかを用いればよい。

【0037】
図2(a),(b)はそれぞれ、本発明の第2実施形態の一方向性光増幅器の基本構造を示す原理図およびそのB-B断面図である。本実施形態の一方向性光増幅器は、上記第1実施形態の一方向性光増幅器に対し、図2(b)に示す誘電体基板平面上で、誘電体光導波路6の図示左右両端部にそれぞれ所定角度をなすように光入力導波路7および光出力導波路8を斜め方向から接続して、誘電体光導波路6に対する入射角および出射角を変更し、それに伴い誘電体基板5の形状を変更したものであり、上記以外の部分は第1実施形態と同様に構成する。

【0038】
本実施形態の一方向性光増幅器によれば、上記第1実施形態の一方向性光増幅器と同様の作用効果が得られる。その上、上記変更により第1実施形態よりも作製が容易になる。

【0039】
図3(a),(b)はそれぞれ、本発明の第3実施形態の一方向性光増幅器の基本構造を示す原理図およびそのC-C断面図である。本実施形態の一方向性光増幅器は、上記第1実施形態の一方向性光増幅器に対し、図3(a)に示すように、誘電体光導波路6の図示左右両端部にそれぞれ誘電体基板5に対し所定角度をなすように光入力導波路7および光出力導波路8を斜め下方向から接続して、誘電体光導波路6に対する入射角および出射角を変更し、それに伴い誘電体基板5の形状を変更したものであり、上記以外の部分は第1実施形態と同様に構成する。

【0040】
本実施形態の一方向性光増幅器によれば、上記第1実施形態の一方向性光増幅器と同様の作用効果が得られる。

【0041】
次に、一方向性光増幅を実現する上記各実施形態の一方向性光増幅器と、上述した従来技術および本願発明者の先願(特願平9-71147号明細書および特願平9-293819号明細書)とを比較して、両者の共通点および相違点を説明する。

【0042】
第1に、上記各実施形態は光を一方向にのみ増幅する素子または装置であるため、双方向への可逆増幅を行う従来技術である「レーザ」とは本質的に異なる機能を有している。第2に、上記各実施形態における光増幅作用は、上記本願発明者の先願と同様に、発明者による新たな理論解析により予見される現象である。第3に、上記各実施形態の一方向性光増幅器は、原理的にマイクロ波領域から可視光領域までの全範囲で動作可能である。

【0043】
第4に、上記本願発明者の先願の「一方向性増幅器」(特願平9-71147号明細書)とは、電子ビームによる光増幅である点で共通している。しかし、上記本願発明者の先願が固体中の電子を使用しているのに対し、上記各実施形態は真空中の電子を使用している点で両者は相違している。さらに、上記各実施形態は高屈折率かつ透明性を有する材料より成る直線状の誘電体光導波路により光を遅延させている点で、光を蛇行させるような複雑な形状の誘電体光導波路を用いる上記本願発明者の先願と相違している。

【0044】
第5に、上記本願発明者の先願の「電子管型一方向性増幅器」(特願平9-293819号明細書)とは、真空中の電子ビームによる光増幅である点で共通している。しかし、上記本願発明者の先願が2枚の波状形状鏡間を反射させることにより光を遅延させているのに対し、上記各実施形態は高屈折率かつ透明性を有する材料より成る直線状の誘電体光導波路により光を遅延させている点で、上記本願発明者の先願と相違している。また、上記各実施形態の方が、上記本願発明者の先願に比べて、真空中にしみ出す光の割合が大きくなるため、上記式(4)におけるξが大きくなり、利得定数gを大きくする上で有利である。

【0045】
第6に、上記各実施形態は、真空中で電子銃から放射される電子ビームを用いる電磁波増幅である点および電磁波の遅延導波路を有している点で、マイクロ波領域の「進行波管」と類似している。しかし、進行波管では電磁波の遅延を螺旋状(コイル状)線路で行っているが、上記各実施形態では誘電体光導波路で光(電磁波)を遅延させている点で両者は相違している。また、進行波管はマイクロ波領域では使用できるが、上記各実施形態で使用する光領域では使用できない。

【0046】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、現在までに実現されていない単一方向性の光増幅を実現することができる。このような一方向性光増幅器の出現は、いわば光周波数領域における電子管やトランジスタの発明に相当するようなものであり、現状の光通信技術、光計測技術、光記録技術等の信号処理を中心とした光エレクトロニクス分野の継続的な発展の他に、電気工学、電子工学、情報工学の分野の飛躍的な発展が期待できる。さらに、上記各実施形態の一方向性光増幅器は、材料加工や核融合等の高エネルギー光の用途の利用も期待できる。

【0047】
上記一方向性光増幅器の実現による最大の利点は、光信号を用いた回路合成が可能になることであり、これにより、光発振器、光増幅器、光変調器、光スイッチ、光メモリ等の各種の光機能素子を光回路として構成することができる。例えば、上記一方向性光増幅器を光ファイバ通信用の光源に適用したり、各種光計測器に適用した場合、光アイソレータを用いなくても、反射戻り光の障害が生じなくなる。また、光ディスクにおける光ピックアップに適用した場合、反射戻り光の影響はなくなり、高品位の光信号を維持することができる。また、増幅条件を適宜変更することにより光変調器や光スイッチの構成になり、光共振器を挿入すると光発生器になる等、幾多の光機能素子への応用が可能である。また、CD(コンパクトディスク)装置に適用した場合、レーザ光を一方向で増幅することにより低雑音化することが可能になる。

【0048】
また、レーザ光のエネルギーを利用したレーザ加工機やレーザメス等においては、レーザ発振器からのレーザ光を上記一方向性光増幅器で増幅して出射するように構成することにより、対象物からの反射戻り光があっても動作が変動しない安定化されたシステムとすることができる。

【0049】
さらに、上記各実施形態の一方向性光増幅器は、原理的にマイクロ波領域から可視光領域までの全範囲で動作可能であるため、光領域やマイクロ波領域のみならず、THz領域あるいは遠赤外線領域にも適用可能であり、これまで技術的にほとんど未開発であった電磁波領域を利用することも可能になる。したがって、THz帯から遠赤外線領域で電磁波発生や増幅を行う装置(例えばTHz帯増幅器、THz帯発振器、遠赤外線増幅器や遠赤外線発坂器)に適用することが可能になる。

【0050】
【実施例】図1(a),(b)に示すように電子放射部(電子銃)1および光増幅部2を構成し、誘電体基板5に石英ガラスを用い、誘電体光導波路6にGaAsを用いるとともに電子ビーム収束用電極9および10にAlを用いる。この構成において、電子銃1に加速電圧3を印加するとともに光入力導波路7から光12を入力させると、増幅された光13が光出力導波路8から出力される。この場合、理論解析を行うと、波長λ=1.5μmの光で、印加電圧(加速電圧Ve )3をVe =32KVとし、電流密度JをJ=10A/cm2 とすると、光増幅部2の長さLを2cmとした場合には、3000倍以上の増幅率Aが得られる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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