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明細書 :生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法及び検出キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2952359号 (P2952359)
登録日 平成11年7月16日(1999.7.16)
発行日 平成11年9月27日(1999.9.27)
発明の名称または考案の名称 生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法及び検出キット
国際特許分類 G01N 31/00      
G01N 33/15      
G01N 33/493     
G01N 33/52      
FI G01N 31/00 V
G01N 33/15
G01N 33/493
G01N 33/52
請求項の数または発明の数 3
全頁数 6
出願番号 特願平10-272823 (P1998-272823)
出願日 平成10年9月28日(1998.9.28)
審査請求日 平成10年9月28日(1998.9.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012648
【氏名又は名称】広島大学長
発明者または考案者 【氏名】奈女良 昭
【氏名】内海 兆郎
【氏名】屋敷 幹雄
【氏名】小嶋 亨
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
審査官 【審査官】亀田 宏之
調査した分野 G01N 31/00
G01N 33/15
G01N 33/493
G01N 33/52
要約 【課題】 生体内に摂取された有機リン系農薬のみを選択的に、迅速にかつ専門的技術を用いることなく簡便に、しかも高感度に検出することができる方法を提供すること。
【解決手段】 次の工程:尿試料中に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを添加する第1の工程と;第1の工程により得られた反応溶液を加熱する第2の工程と;第2の工程により得られた反応溶液をアルカリ性にする第3の工程と;第3の工程により得られた反応溶液に有機溶媒を添加する第4の工程と;第4の工程により得られた反応溶液の有機相の着色量を測定する第5の工程を有する生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法において、次の工程:
尿試料中に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを添加する第1の工程と、
第1の工程により得られた反応溶液を加熱する第2の工程と、
第2の工程により得られた反応溶液をアルカリ性にする第3の工程と、
第3の工程により得られた反応溶液に有機溶媒を添加する第4の工程と、
第4の工程により得られた反応溶液の有機相の着色量を測定する第5の工程を有する方法。

【請求項2】
上記第4の工程で添加する有機溶媒が、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチルからなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【請求項3】
有効量の4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを収容する容器と、アルカリ性にするための試薬を収容する容器と、有効量の有機溶媒を収容する容器を備えてなる生体内に摂取された有機リン系農薬を検出するためのキット。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法に関する。

【0002】
【従来の技術】薬物・毒物等による中毒患者の治療は、その中毒の起因物質を同定し、その起因物質に適合した処置を迅速に行うことが重要である。

【0003】
薬物・毒物等による中毒の起因物質の推定方法の一つとして従来用いられているものに、コリンエステラーゼ測定法がある。コリンエステラーゼ測定法は、誤飲等により体内に摂取された有機リン系及びカーバメート系の殺虫剤を検出することができるものである。

【0004】
コリンエステラーゼ測定法には、いくつかの種類の方法を用いるものがある。例えば、中毒患者の血清を採取し、コリンエステラーゼの基質試薬を加えた後、一定時間反応させ、反応液の吸光度を測定し、コリンエステラーゼの阻害活性を測定することにより、有機リン系及びカーバメート系農薬の摂取の有無を推定する方法がある。しかしながら、この測定法は上記農薬類に特異的な反応ではなく、他の生理的要因や化学物質によって、あたかも上記農薬を摂取した結果を呈することがある。また、試料調製や分析機器の操作に専門的な技術が必要であり、結果が得られるまでに数時間を要するため、緊急治療に利用するためには実用的でないという問題点がある。

【0005】
さらに、上述の手法のコリンエステラーゼ測定法は、いずれも、有機リン系及びカーバメート系の両者の農薬の中毒に対する検出方法である。従って、このコリンエステラーゼ測定法を用いた場合は、有機リン系又はカーバメート系のいずれの農薬による中毒であるかを判別することができないという問題点もある。有機リン系の農薬とカーバメート系の農薬は、いずれも生体内で、コリンエステラーゼ活性を阻害し、縮瞳や意識混濁等の同様の臨床症状を引き起こすが、これらの中毒に対する適切な処置方法は異なる。これらの農薬による中毒は、処置の遅れによっては死に至らしめることがあり、有機リン系又はカーバメート系農薬のいずれかの中毒を選択に、かつ迅速に判定することのできる方法が必要とされている。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生体内に摂取された有機リン系農薬のみを選択的に、迅速にかつ専門的技術を用いることなく簡便に、しかも高感度に検出することができる方法及びそのような方法を実施するための検出キットを提供することを目的とする。

【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題は、次の方法により達成できることを見出し、本発明を完成した。

【0008】
即ち、本発明は、生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法において、次の工程:尿試料中に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを添加する第1の工程と、第1の工程により得られた反応溶液を加熱する第2の工程と、第2の工程により得られた反応溶液をアルカリ性にする第3の工程と、第3の工程により得られた反応溶液に有機溶媒を添加する第4の工程と、第4の工程により得られた反応溶液の有機相の着色量を測定する第5の工程を有する方法を提供する。上記第4の工程で用いる有機溶媒は、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチルからなる群から選択されるものである。

【0009】
また、本発明は、有効量の4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを収容する容器と、アルカリ性にするための試薬を収容する容器と、有効量の有機溶媒を収容する容器を備えてなる生体内に摂取された有機リン系農薬を検出するための検出キットも提供する。

【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の生体内に摂取された有機リン系農薬の検出方法(以下、単に「本発明の検出方法」ともいう。)を詳細に説明する。

【0011】
本発明の検出方法を適用することのできる有機リン系の農薬には、殺虫剤等の制御物質として知られているいずれもの有機リン化合物が含まれる。具体的には、亜リン酸、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、ピロリン酸及びホスホン酸等の無機リン酸から誘導されるいずれものリンを含有する有機化合物が含まれる。

【0012】
本発明の検出方法は、上記有機リン系農薬が生体内に摂取されたか否かを判定することのできるものである。即ち、上記有機リン系農薬のほとんどの種は、生体内に摂取された後、生体内で少なくともその一部分が代謝等の作用を受け、その化学構造が変化する。生体内に摂取された有機リン系農薬は、摂取量の20~60%が代謝され、尿中排出されるといわれている。本発明の検出方法は、これらの尿中に存在する有機リン系農薬及びそれに由来する生成物(以下、「代謝物等」ともいう)を検出することができるものである。

【0013】
本発明の検出方法の各工程について詳細に説明する。

【0014】
本発明の検出方法は、尿試料中に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを添加する第1の工程と、第1の工程により得られた反応溶液を加熱する第2の工程と、第2の工程により得られた反応溶液をアルカリ性にする第3の工程と、第3の工程により得られた反応溶液に有機溶媒を添加する第4の工程と、第4の工程により得られた反応溶液の有機相の着色量を測定する第5の工程を有する。

【0015】
まず、本発明の検出方法の第1の工程において、尿試料中に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを添加する。

【0016】
本発明の検出方法を適用することができる尿試料としては、有機リン系農薬による中毒の疑いがある患者等から採取した尿を、何ら処理することなくそのまま用いることができる。尿は、採取直後のものでも、採取してから一定の時間経過したものでもよい。

【0017】
上述の尿試料に添加する4-(4-ニトロベンジル)ピリジンは、固体のまま添加することもできるが、尿試料との混和及び有機リン系農薬との反応性の観点から有機溶媒に溶解して添加することが好ましい。

【0018】
4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを溶解するための有機溶媒としては、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを常温(10~35℃)で溶解し得る有機溶媒であって、後の工程に悪影響を及ぼさないものあれば特に制限はない。一例を挙げると、有機溶媒としては、アセトン、炭素数1~20のアルコール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール等を用いることができる。これらの有機溶媒のうち、アセトンは、尿試料との混和性及び生体内物質の妨害を最小限に抑えるという観点から好ましい。

【0019】
有機溶媒の量は、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを溶解できる量であれば特に制限はなく、尿試料の量、用いる有機溶媒の種類、用いる容器の種類(材質)等に応じて適宜設定することができるが、用いる溶媒に飽和する量まで溶解することが好ましい。一例を挙げると、0.1~0.45g/ミリリットル(以下、ミリリットルを「mL」とも表記する。)、好ましくは0.3~0.45g/mLの濃度を有する4-(4-ニトロベンジル)ピリジンのアセトン溶液として添加することができる。0.45g/mLは、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンアセトンへの飽和量である。

【0020】
4-(4-ニトロベンジル)ピリジンの添加量は、尿試料の量、第2工程において加熱する時間、第3工程において加えるアルカリの量等に応じて適宜設定することができる。一例を挙げると、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンの添加量は、尿試料1mL当たり、10~200mg、好ましくは30~80mgに設定することができる。

【0021】
次に、本発明の検出方法の第2の工程において、第1の工程により得られた反応溶液を加熱する。

【0022】
加熱温度及び時間は、尿試料の量、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンの添加量、用いる容器の種類(材質)、加熱に使用する加熱器及び用いる有機溶媒の種類等に応じて適宜設定することができる。一例を挙げると、30~100℃で、5~40分加熱することができる。

【0023】
本発明の検出方法において、第2の加熱工程の後、反応溶液は、常温付近まで放冷することが、安全性の観点から好ましい。

【0024】
次に、本発明の検出方法の第3の工程において、第2の工程により得られた反応溶液をアルカリ性にする。好ましくは、反応溶液のpH値は、9~14、好ましくは、13以上に調整することができる。

【0025】
第3の工程で用いることのできるアルカリ性にするための試薬としては、後の工程に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はないが、尿試料中に存在する反応(発色)を妨害する物質の影響、取扱い性及び経済性等の観点から水酸化物、無機塩及び有機アミン類等を用いることができる。

【0026】
水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物等、例えば、水酸化ナトリウムを用いることができ、無機塩としては、アルカリ金属の炭酸塩等、例えば、炭酸カリウムを用いることができる。無機塩は、発色性が有機アミン類には劣るものも、不揮発性であるため、悪臭を発せず、取扱者が不快感を覚えない観点から好ましい。

【0027】
有機アミン類としては、ジエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、テトラエチレンペンタミン等がある。有機アミン類は、発色性に優れるものが多いが、特にトリエチルアミン等のような短鎖アルキルアミンは、揮発性であり、悪臭を発生するため、取扱い者に不快感を与えることがある。

【0028】
アルカリ性にする試薬としては、テトラエチレンペンタミンは、試薬の操作性、発色強度及び着色物質の安定性の観点から好ましい。

【0029】
次に、本発明の検出方法の第4の工程において、第3の工程により得られた反応溶液に有機溶媒を添加する。

【0030】
第4の工程に供する反応溶液には、生体内に摂取された有機リン系農薬及びそれに由来する生成物と4-(4-ニトロベンジル)ピリジンとの反応による生成物が存在する。第4の工程で添加する有機溶媒として、尿と比較して、当該反応生成物を溶解し易いものを用いることにより、反応生成物をその添加した有機溶媒中に転移させることができる。さらに、添加する有機溶媒が尿と非混和性のものであれば、その中に反応生成物が存在する有機相と、尿由来の水性相との2相に分離することができる。このようにして得られた有機相の色を次の第5の工程で測定することにより、本発明の検出方法は、高い感度と精度を達成することができる。本発明の検出方法に供する尿試料はそれ自体が着色しているので、有機相と水性相とに分離することなく、第3の工程で得られた反応溶液の色を測定したのでは、尿試料が元来有している色も合わせて測定することになり、反応による生成物のみを測定することができないからである。

【0031】
第4の工程で添加すべき有機溶媒としては、上述したように、生体内に摂取された有機リン系の農薬及びそれに由来する生成物と4-(4-ニトロベンジル)ピリジンとの反応による生成物を尿が溶解するよりも多く溶解し、尿と非混和性であり、かつその後の工程に悪影響を及ぼさないものを用いることができる。添加し得る有機溶媒の一例を挙げると、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチル等があり、尿試料との分離の観点からジエチルエーテルが好ましい。

【0032】
第4の工程で添加する有機溶媒の量は、尿試料の量、4-(4-ニトロベンジル)ピリジン溶液の量及びアルカリの量等に応じて適宜設定することができる。一例を挙げると、有機溶媒を添加すべき試料溶液の体積に対して0.1~3倍量、好ましくは1~2倍量の有機溶媒を添加することができる。

【0033】
第4の工程において有機溶媒を添加した後、水性相と有機相との分離を十分にするために撹拌することが好ましい。

【0034】
次に、本発明の検出方法の第5の工程において、第4の工程により得られた反応溶液の有機相の着色量を測定する。

【0035】
着色量の測定は、緊急度、精度等の測定の目的に応じた方法で行うことができる。例えば、それ自体は既知の分光光度計を用いる吸光度測定方法、色彩表による比色法を用いることができる。

【0036】
色彩表による比色法を用いる場合、目視により有機相の着色を彩色表と比較することにより、有機リン系の農薬の摂取の有無を検出することができる。この場合、第4の工程で得られた有機相と水性相とを分離することなく、そのまま比色法を行うことができる。色彩表による比色法は、感度、精度の点では吸光度を測定する場合に比べて劣ることがあるが、特殊な測定機器、専門技術を必要とすることなく、極めて簡便に、有機リン系農薬の摂取の有無を検出することができるという利点を有する。

【0037】
より高感度及び高精度の測定が必要な場合、分光光度計による吸光度の測定により行うことができる。この場合、第4の工程で得られた水性相と有機相とを分離し、有機相のみについて吸光度を測定することが好ましい。分光光度計の波長は、520nmに設定することができる。

【0038】
以上説明した本発明の検出方法の各工程を行う順序は、1つの態様であり、本発明の検出方法は、これに限定されるものではない。

【0039】
本発明者らは、本発明の分析方法において、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンは、有機リン系農薬のリン酸部分反応し、その反応生成物は、アルカリ性の溶液中で構造変化を起こし、発色すると考えている。この構造変化は、一種の酸化還元反応であると思われる。従って、本発明の検出方法は、尿試料中に含有される有機リン系農薬及び/又はその代謝物等と4-(4-ニトロベンジル)ピリジンとの反応生成物が発色する条件であれば、各工程の順番を変えることも、複数の工程を同時に行うこともできる。

【0040】
本発明の検出方法の他の態様の例を挙げると、尿試料に4-(4-ニトロベンジル)ピリジンとアルカリ溶液を同時(又は順次)に添加した後に、反応溶液を加熱することができる。

【0041】
本発明は、また、有効量の4-(4-ニトロベンジル)ピリジンを収容する容器と、有効量のアルカリ性にするための試薬を収容する容器と、有効量の有機溶媒を収容する容器を備えてなる生体内に摂取された有機リン系農薬を検出するためのキット(以下、「本発明のキット」ともいう)を提供する。

【0042】
本発明のキットは、上述した本発明の検出方法を実施するために好適に用いることができるものである。

【0043】
本発明のキットにおいて、4-(4-ニトロベンジル)ピリジンは、上述した本発明の検出方法の第1の工程に関連して説明した有機溶媒に溶解した状態で容器に収容することができる。

【0044】
本発明のキットが備えるアルカリ性にするための試薬としては、上述した本発明の検出方法の第3の工程に関連して説明したものを用いることができる。

【0045】
本発明のキットが備える有機溶媒としては、上述した本発明の検出方法の第4の工程に関連して説明したものを用いることができる。

【0046】
上記の各反応試薬を収容する容器としては、各試薬に対して耐性のあるものであれば、その材質、形状、大きさ等は、適宜選択することができる。また、本発明のキットは、上述した各反応試薬を収容する容器の他に、例えば、検査すべき尿試料を収容するための反応容器をさらに備えることができる。この追加の容器は、本発明の方法において用いる尿試料、試薬等に対して耐性があり、本発明の第2の工程に関連して説明した加熱条件に耐え得るものであれば、その形状、大きさ、材質等は適宜選択することができる。例えば、容量10mL程度の耐熱性ガラス試験管を用いることができる。

【0047】
【実施例】本発明を実施例により説明するが、本発明の方法は、この実施例に限定されるものではない。

【0048】
実施例1
耐熱性試験管に、有機リン系農薬による中毒の疑いがある患者から採取した尿約1mLを入れ、0.45g/mLの濃度に調整した4-(4-ニトロベンジル)ピリジンのアセトン溶液を、尿試料1mL当たり45mgになるように添加した。この溶液を100℃で20分間加熱した後、反応溶液を常温になるまで放冷した。放冷後の反応溶液にテトラエチレンペンタミンを0.1mL添加した。次いで、反応溶液にジエチルエーテル1.0mLを添加した。得られた溶液の有機相を予め作成した色彩表と比較した結果、当該患者が有機リン系農薬を摂取した反応を認めた。

【0049】
実施例2
数種類の濃度に調整した中毒を起こす代表的な有機リン系農薬15種類を正常人の尿に添加したものを尿試料として用いて、実施例1と同様の方法により最低検出濃度を求めた。但し、着色量の測定は、分光光度計(島津製作所、UV-200S)を用いて520nmにおける吸光度を測定した。

【0050】
一方、同じ尿試料について、環境水中の農薬検出のための市販のキット(コリンエステラーゼ法を用いるもの)の操作説明書に従い付属のアンプルを尿試料中で割り、尿と試薬をよく撹拌して放置した。農薬検出キットの基質部に前述の反応液を浸し、反応液がしみこんだ基質部と酵素部とを手で重ね合わせて反応させ、3分後に酵素部のディスクを目視により着色の有無を判別した。

【0051】
実施例2で用いた15種類の有機リン系農薬は、次の通りである。イソキサチオン(O,O-ジエチル O-5-フェニル-1,1-オキサゾル-3-イル フォスフォロチオエート(商品名カルホス))、ジメトエート(O,O-ジメチル S-メチルカルバモイルメチル フォスフォロジチオエート)、ダイアジノン(0,0-ジエチル O-2-イソプロピル-6-メチルピリミジン-4-イル フォスフォロチオエート)、ジスルホトン(O,O-ジエチル S-2-エチルチオエチル フォスフォロジチオエート(商品名ダイシストン))、フェニトロチオン(又はMEP、O,O-ジメチル O-4-ニトロ-m-トルイル フォスフォロチオエート(商品名スミチオン))、ポロチオフォス(O-2,4-ジクロロフェニル O-エチル-S-プロピル フォスフォロジチオエート(商品名トクチオン))、ホルモチオン(S-ホルミル(メチル)カルバモイルメチル O,O-ジメチルフォスフォロジチオエート(商品名アンチオ))、マラチオン(ジエチル(ジメトキシフォスフィノチオイルチオ)サクシネート(商品名マラソン))、BRP(又はNaled、1,2-ジブロモ-2,2-ジクロロエチル ジメチルフォスフェート(商品名ジブロム))、DDVP(又はジクロルボス、2,2-ジクロロビニルジメチルフェスフェイト(商品名デス))、DEP(又はトリクロルホン、ジメチル 2,2,2-トリクロロ-1-ヒドロキシエチルフォスフェート(商品名ディプテレクス))、DMTP(又はメチダチオン、S-2,3-ジヒドロ-5-メトキシ-2-オキソ-1,3,4-チアジアゾール-3-イルメチル O,O-ジメチルフォスフォロジチオエート(商品名スプラサイド))、EDDP(又はエディフェンホス、O-エチル S,S-ジフェニル フォスフォロジチオエート、(商品名ヒノザン))、EPN(O-エチルO-4-ニトロフェニルフェニル フォスフォロチオエート)、ESP(S-(2-エチルスルフィニルイソプロピル) O,O-ジメチル フォスフォロチオエート(商品名エストックス))。

【0052】
測定の結果、本発明の方法は、市販のキットを用いる場合よりも3~5倍の低濃度まで検出することができた。

【0053】
また、市販のキットを用いた場合、1試料について測定に20mLの試料を要したのに対し、本発明の検出方法を用いた場合は、1mLと、その測定に要する試料量を著しく削減することができた。

【0054】
【発明の効果】従来のコリンエステラーゼ法を用いた場合、カーバメート系の農薬のみならず、酵素(コリンエステラーゼ)の活性部位に作用する試料内の全ての化合物を検出してしまうので、有機リン系の農薬を摂取していないにもかかわらず、あたかもそのような検査結果を示すことがある。生体内にはコリンエステラーゼの活性部位に作用し得る化合物が多数存在し、それらが尿として排出されるからである。これに対して、本発明の方法によれば、有機リン系の農薬のみの摂取の有無を選択的に検出することができる。

【0055】
さらに、従来のコリンエステラーゼ法では、酵素阻害活性を用いて測定するため、コリンエステラーゼの活性部位に作用し得ない有機リン系農薬、及び代謝等を受けた結果、活性部位に作用し得なくなってしまった代謝物等については検出することができない。これに対して、本発明の方法では、有機リンのリン酸部分の反応性を利用するため、上述したような活性部位に作用し得ないものであっても検出することができる。例えば、本発明の検出方法を用いることにより検出できるが、従来のコリンエステラーゼ法では検出できない有機リン系農薬及びその代謝物には、ジチオリン酸、亜リン酸ジメチル、リン酸トリメチル等が含まれる。

【0056】
また、本発明の検出方法を用いることにより、従来の方法に比べて著しく少量の試料で有機リン系農薬の摂取の有無を判定することができる。

【0057】
このように、本発明の検出方法によれば、生体内に摂取された有機リン系農薬のみを選択的に、迅速にかつ専門的技術を用いることなく簡便に、しかも高感度に検出することができる。従って、本発明の検出方法を用いることにより、有機リン系の農薬を摂取したか否かを迅速かつ正確に判定することができ、特に、緊急の現場での患者等の処置、治療に大いに役立つことが期待される。