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Specification :(In Japanese)ウイルス潜伏感染の検査方法および検査用キット

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P4182227
Publication number P2007-068508A
Date of registration Sep 12, 2008
Date of issue Nov 19, 2008
Date of publication of application Mar 22, 2007
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)ウイルス潜伏感染の検査方法および検査用キット
IPC (International Patent Classification) C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/70        (2006.01)
FI (File Index) C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
C12Q 1/70
Number of claims or invention 9
Total pages 11
Application Number P2005-261917
Date of filing Sep 9, 2005
Date of request for substantive examination Sep 27, 2005
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】岩月 啓氏
【氏名】山本 剛伸
Representative (In Japanese)【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100129160、【弁理士】、【氏名又は名称】古館 久丹子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
Examiner (In Japanese)【審査官】新留 豊
Document or reference (In Japanese)国際公開第99/045155(WO,A1)
国際公開第02/010339(WO,A1)
国際公開第02/061148(WO,A1)
Mazur, C. et al.,Molecular analysis of contagious pustular dermatitis virus: a simplified method for viral DNA extraction from scab material,J. Virol. Methods,1991年,Vol.35,pp.265-272
Robinson, A.J. et al.,The genome of orf virus: restriction endonuclease analysis of viral DNA isolated from lesions of orf in sheep,Arch. Virol.,1982年,Vol.71,pp.43-55
柴忠義,バイオテクノロジー実験操作入門(第3刷),株式会社講談社,1991年,p.17,「2.2.1 細胞,組織からのRNAの調製」の項
Field of search C12N 15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 1/70
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
以下の工程を含む、検査用検体中に含有可能性のある潜伏感染関連遺伝子産物を検出することを特徴とするウイルス潜伏感染の検査方法:
1)採取された痂皮および/または鱗屑からウイルスの潜伏感染関連遺伝子産物であるRNAを抽出する工程
2)抽出されたRNAを基にして、核酸を増幅する工程;
3)増幅した核酸からウイルス潜伏感染産物を検出する工程。
【請求項2】
ウイルスが、EBウイルス(Epstein-Barr virus)またはKSHV(Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus)である請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物が、感染細胞の核内または細胞質に存在しうるRNAである請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
感染細胞の核内または細胞質に存在しうるRNAが、EBウイルス由来のEB virus-encoded small RNA(EBER)および/またはBamH1 A rightward transcripts(BARTs(BARF0))である請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
核酸を増幅する工程が、EBER由来核酸およびβ2-ミクログロブリン由来核酸を、同一の増幅条件において同時に増幅する工程を含む、請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
核酸を増幅する工程が、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)操作によるものであり、PCR操作用のcDNA混合溶液25μl当たりに、MgCl2が最終濃度1.5±0.2mM含まれていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一に記載の検査方法。
【請求項7】
PCR操作において、アニーリングを62±2℃の範囲で行うことを特徴とする請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
検体採取用の粘着部材を含むことを特徴とし、さらに以下の1)~4)を含む請求項1~7のいずれか一に記載の検査方法に使用する検査用キット:
1)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物の逆転写用アンチセンスオリゴヌクレオチド;
2)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物増幅用プライマーセット;
3)ハウスキーピング遺伝子増幅用プライマーセット;
4)逆転写酵素
【請求項9】
前記1)~3)に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/またはプライマーセットが、以下である請求項8に記載の検査用キット:
1)配列表の配列番号1に記載のオリゴヌクレオチド;
2)配列表の配列番号2および1に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるEBER増幅用プライマーセット;
3)配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるβ2-ミクログロブリン増幅用プライマーセット。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
ウイルスの潜伏感染によって生じる潜伏感染関連遺伝子産物を検出することによるウイルス潜伏感染の検査方法に関する。具体的には、皮膚に生じた痂皮(かさぶた)や鱗屑中に存在しうるウイルスの潜伏感染によって生じる潜伏感染関連遺伝子産物を検出することによるウイルス潜伏感染の検査方法に関する。さらには、これらの検査方法に使用する検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルペスウイルス科のEpstein-Barr virus(以下単に、「EBウイルス」という。)は、約40年前にバーキットリンパ腫というアフリカの小児に多くみられる腫瘍から発見された。EBウイルスは一般には唾液を介して感染し、ヒトのリンパ球の一つであるB細胞を主な標的として感染し、その後体内に潜伏持続感染する。EBウイルスがB細胞に初感染し、発熱や肝脾腫などの症状があらわれた場合を伝染性単核球症という。しかし、免疫系の発達が未熟な乳幼児期での初感染はほとんどが感染しても無症状で(不顕性感染)、伝染性単核球症と診断されるのは、乳幼児の一部や青壮年での初感染の場合が多くを占める。
【0003】
EBウイルスが原因となる代表的な疾患として、急性の感染症では伝染性単核球症やEBウイルス関連血球貪食症候群、悪性の疾患ではバーキットリンパ腫や上咽頭癌、胃癌などがある。さらに、慢性活動性EBウイルス感染症などがあげられる。
【0004】
慢性活動性EBウイルス感染症は、大部分がB細胞以外のT細胞やNK細胞にEBウイルスが感染し発症する。症状として、発熱、肝腫、脾腫、リンパ節腫脹などが挙げられ、EBウイルスがNK細胞に感染した場合には蚊刺過敏症(蚊アレルギー)の症状を持っている場合がある。蚊刺過敏症の症状として、重症で発熱を伴い、蚊刺部の発赤、腫脹は10~20cm以上に拡大し、水疱形成に引き続き1~2cmの潰瘍を形成する。吸収不全を伴う慢性下痢、間質性肺炎、心筋炎、冠動脈瘤などの心血管障害、葡萄膜炎、脳炎、脊髄炎、末梢神経炎などの神経症状などが比較的高頻度に観察される。予後はきわめて不良で、数年後には最終的に心不全、肝不全、腎不全などの多臓器不全や、悪性リンパ腫、白血病など悪性疾患を患う場合がある。
【0005】
ウイルスの検出方法は種々検討されており、多くの報告がある。生体液(血液、唾液等)や組織または細胞からウイルスを分離して同定する方法や、血清中のウイルスカプシド抗原(VCA)または核内抗原などを測定する免疫学的な方法があった。しかし、ウイルスを分離する診断では結果を得るまでに時間がかかり、免疫学的方法では抗体非特異反応が起きたり、高感度が得られないなどの問題があった。
その後、患者の組織や生体検体中のウイルスを直接検出する方法として、例えばEBウイルスについて、検体中に存在するウイルス抗原を蛍光などで標識した抗体と反応させて検出する方法や、皮膚生検を施行して得られた組織からDNAを抽出して増幅するPCR法(特許文献1)、リアルタイムPCR法(特許文献2)、RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを調製したものについてDNAを増幅するRT-PCR法などの核酸増幅方法により検出する方法が報告されている。また、皮膚切片においてEBウイルス関連産物をin situ hybridization法で検出する方法(特許文献3)、細胞内EBウイルスの断片をサザンブロット法で検出する方法などが報告されている。その他、核酸増幅法やin situ hybridization法に適用可能なEBウイルス検出用オリゴヌクレオチドについても報告がある(特許文献4)。
上記、いずれの場合も皮膚生検や採血などの、痛みや出血を伴う侵襲的プロセスにより検体を採取しなくてはならず、とりわけ小児の患者には検査における苦痛が大きかった。
【0006】

【特許文献1】特許第3360737号公報
【特許文献2】特開平11-137300号公報
【特許文献3】特開2003-24077号公報
【特許文献4】特表2002-505122号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚生検や採血などによる痛みや出血を伴う侵襲的プロセスを経ることなく、潜伏感染関連遺伝子産物を検出するウイルス潜伏感染の検査方法を提供することを課題とする。さらには、上記ウイルス潜伏感染の検査に使用する検査用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、病変部における痂皮や鱗屑にはウイルス感染細胞が多く含まれ、乾固壊死の状態であることに着目し、痂皮や鱗屑を採取して検査用検体とすると、ウイルス感染細胞内の潜伏感染関連遺伝子産物などが安定な状態で抽出可能であることを確認し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は以下よりなる。
1.以下の工程を含む、検査用検体中に含有可能性のある潜伏感染関連遺伝子産物を検出することを特徴とするウイルス潜伏感染の検査方法:
1)採取された痂皮および/または鱗屑からウイルスの潜伏感染関連遺伝子産物であるRNAを抽出する工程
2)抽出されたRNAを基にして、核酸を増幅する工程;
3)増幅した核酸からウイルス潜伏感染産物を検出する工程。
2.ウイルスが、EBウイルス(Epstein-Barr virus)またはKSHV(Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus)である前項1に記載の検査方法。
3.ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物が、感染細胞の核内または細胞質に存在しうるRNAである前項2に記載の検査方法。
4.感染細胞の核内または細胞質に存在しうるRNAが、EBウイルス由来のEB virus-encoded small RNA(EBER)および/またはBamH1 A rightward transcripts(BARTs(BARF0))である前項3に記載の検査方法。
5.核酸を増幅する工程が、EBER由来核酸およびβ2-ミクログロブリン由来核酸を、同一の増幅条件において同時に増幅する工程を含む、前項4に記載の検査方法。
6.核酸を増幅する工程が、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)操作によるものであり、PCR操作用のcDNA混合溶液25μl当たりに、MgCl2が最終濃度1.5±0.2mM含まれていることを特徴とする前項1~5のいずれか一に記載の検査方法。
7.PCR操作において、アニーリングを62±2℃の範囲で行うことを特徴とする前項6に記載の検査方法。
8.検体採取用の粘着部材を含むことを特徴とし、さらに以下の1)~4)を含む請求項1~7のいずれか一に記載の検査方法に使用する検査用キット:
1)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物の逆転写用アンチセンスオリゴヌクレオチド;
2)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物増幅用プライマーセット;
3)ハウスキーピング遺伝子増幅用プライマーセット;
4)逆転写酵素
9.前記1)~3)に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/またはプライマーセットが、以下である前項8に記載の検査用キット:
1)配列表の配列番号1に記載のオリゴヌクレオチド;
2)配列表の配列番号2および1に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるEBER増幅用プライマーセット;
3)配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるβ2-ミクログロブリン増幅用プライマーセット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の病変部における痂皮や鱗屑を採取して検査用検体とする方法によると、痛みや侵襲を伴わないで検査用検体を取得することができる。特に、種痘様水疱症、蚊刺過敏症や慢性活動性EBウイルス感染症などのEBウイルス潜伏感染による疾患は小児に多く、痛みや侵襲を伴う臨床検査は極力避けたいが、本発明の方法によると、患者の痛みなどに伴う負担を軽減化して、家庭でも容易に検査用検体を採取し、容易に検査機関に輸送することができる。また、痂皮や鱗屑中の細胞は、乾固壊死の状態であるため、細胞中に含有されるRNAなどは、分解されることなく安定した状態で保存されている。そのため、上記方法により採取した検査用検体に含有可能性のある潜伏感染関連遺伝子産物は、検査機関においても、安定した状態で確保することができる。特に、病変部痂皮にはウイルス感染細胞が多く含まれ、乾固壊死の状態であることから、核内に多量に存在するウイルス関連RNAだけでなく、宿主mRNAの抽出が可能であり、感度および特異性の高い検査方法を提供することができる。本発明の検査方法により、例えばEBER1を検出することができれば、EBウイルスに潜伏感染していたことが証明され、患者の治療計画を立てるに当たり、大変有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のウイルス潜伏感染の検査方法は、皮膚に生じた痂皮および/または鱗屑を採取し、検査用検体とする工程を含む方法である。
【0012】
本発明のウイルス潜伏感染の検査を行うためのウイルスは、潜伏感染を起こしうるウイルスであればよく、特に限定されない。本発明のウイルス潜伏感染の検査方法は、ヒトのための検査に限定されるものではないが、特に好適にはヒトの検査負担を軽減化することに意義があり、その意味ではヒトに感染しうるウイルスの検査に適用される。
【0013】
ヒトに感染するヘルペスウイルスとして8種類知られているが、これらのうち、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、水痘帯状疱疹ウイルスの3種類は、感染して皮膚に水疱を形成する。EBウイルス(Epstein-Barr virus)は伝染性単核球症を起こし、サイトメガロウイルスは、新生児や免疫機能の低下した人に重度の感染症を引き起こすが、免疫機能が正常なヒトの場合は、伝染性単核球症に似た症状を引き起こす。ヒトヘルペスウイルス6型と7型は、突発性発疹として知られている小児の病気を引き起こす。ヒトヘルペスウイルス8型であるKSHV(Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus, カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)は、エイズ患者に発症するカポジ肉腫という癌との関連が示唆される。
本発明におけるウイルスとして、特に好適には、具体的にはヘルペスウイルスが例示され、ヘルペスウイルスのうちでも、潜伏感染が特に問題となりうるEBウイルスまたはKSHVに適用される。
【0014】
ウイルス感染では、例えば皮膚や粘膜に水疱ができ、該水疱は自然につぶれ、数日で痂皮になり治癒するという経過をたどる場合がある。また、蚊過敏症(蚊アレルギー)は、蚊刺により局所反応が強く、水疱形成や壊死、潰瘍形成などが見られるとともに、発熱や肝脾腫、リンパ節腫大などの全身反応を伴うもので、このような患者においても水疱形成後、痂皮を生じる場合がある。とりわけ、蚊過敏症の症状がある場合に、慢性活動性EBウイルス感染症であるか否かを検査することは、その後の治療計画のためにも重要である。
【0015】
ウイルスは、細胞に侵入して感染すると、感染細胞内でウイルス自身のRNAやDNAを放出し、ウイルスを複製する。感染細胞はウイルスのRNAやDNAに支配されるため、通常は死に至るが、細胞が死ぬ前に新しく複製したウイルスが放出され、他の細胞に感染し、伝播する。ウイルスの中には、細胞を殺さずにその機能を変え、正常な細胞分裂を制御不能にして癌化させてしまうものや、DNAやRNAを宿主の細胞の中に潜ませて休眠状態にし(潜伏感染)、細胞が障害を受けると再び増殖を始める性質を有するものがある。
【0016】
潜伏感染において、宿主の免疫反応が保たれている状態では、EBウイルスがウイルス抗原の発現を制限し、最低限の機能分子を発現することで潜伏感染状態を維持し、あたかも宿主の免疫反応を回避するかのような感染様式をとる(日本医事新報, No.4136, p.33-36 (2003))。潜伏感染特有のエピゾーム状ゲノムから発現しているウイルス遺伝子産物は非常に限られている。例えば、EBウイルスの場合、潜伏感染関連遺伝子産物としてEBNA-1, EBNA-2, EBNA-3A, EBNA-3B, EBNA-3C, EBNA-LPや、LMP-1, LMP-2A, LMP-2Bなどのタンパク質が特定される。また、EB virus-encoded small RNAであるEBERや、BARTs(BARFO)なども、潜伏感染時関連遺伝子産物として特定される。その他、感染細胞の細胞質内に存在しうるウイルス由来のmRNAも、潜伏感染関連遺伝子産物として特定することができる。EBウイルスの潜伏感染は、上記タンパク質の発現の有無により、Latency I, II, IIIの3種の様式に分類される。一方、EBERやBARFOなどのRNAは、いずれの潜伏感染様式においても核もしくは細胞質に認められる。EBERとしてEBER1およびEBER2が知られているが、例えばEBER1は感染細胞の核に106~107コピー/細胞と、大量に存在する。本発明において、潜伏感染関連遺伝子産物は上記のいずれの遺伝子産物であってもよいが、好適にはEBERやBARFOなど核もしくは細胞質に存在しうるRNAであり、より好適には核に存在しうるEBER1である。
【0017】
本発明における、皮膚に生じた痂皮および/または鱗屑は、ウイルス感染において直接的に形成されたものに限定されず、上記蚊過敏症等のように、間接的にウイルス感染に起因することが考えられる全ての痂皮および/または鱗屑をいう。ここにおいて痂皮とは、当業者が一般的に使用する意味で用いられ、びらんまたは潰瘍面を覆う乾固した浸出液、分泌物、血液、壊死組織などをいう。また、鱗屑も当業者が一般的に使用する意味で用いられ、表皮の角質が肥厚し、剥離したものなどをいう。
【0018】
本発明において、痂皮や鱗屑を採取する方法は、特に限定されない。例えば、皮膚に生じた痂皮や鱗屑に、粘着部材の粘着面を押し当てたのち、皮膚から粘着部材を剥がして、粘着面に痂皮や鱗屑の断片を捕捉することにより採取することができる。また、皮膚に生じた痂皮や鱗屑の断片を、ピンセットなどの器具を用いたり、直接手や爪などで剥がして採取することができる。上記の方法により、検査機関が近隣してない場所、例えば家庭、学校、職場、病室などで検体を採取することができる。
【0019】
本発明において、粘着部材とは粘着性を有する部材であれば良く、特に限定されないが、例えば粘着シートや粘着テープなどが例示される。具体的には、セロハンテープ、サージカルテープなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明の皮膚に生じた痂皮および/または鱗屑を取得しうる粘着部材であれば良い。採取した検査用検体は、例えば粘着部材を二つ折りにしたり、保護用シートで粘着剤層を覆うなどすることにより密封し、検体が外部に漏れることのないように、例えば専用袋などに入れて検査機関などに送付することができる。
【0020】
また、ピンセットや手などで剥がした断片も、専用袋などに入れて検査機関などに送付することができる。採取した検査用検体は、乾燥した状態で保存、送付されるのが好ましい。
【0021】
痂皮や鱗屑中の細胞は、乾固壊死の状態であるため、細胞中に含有されるRNAなどは、分解されることなく安定した状態で保存されている。そのため、上記方法により採取した検査用検体に含有可能性のある潜伏感染関連遺伝子産物は、検査機関においても、安定した状態で確保することができる。特に、病変部痂皮にはウイルス感染細胞が多く含まれ、乾固壊死の状態であることから、核内に多量に存在するウイルス関連RNAだけでなく、宿主mRNAの抽出が可能であり、感度および特異性の高い検査方法を提供することができる。
【0022】
本発明のウイルス潜伏感染の検査方法は、1)皮膚に生じた痂皮および/または鱗屑を採取し、検査用検体とする工程に加え、さらに次の工程を含む方法による:
2)検査用検体からウイルスの潜伏感染関連遺伝子産物であるRNAまたはDNAを抽出する工程;
3)抽出されたRNAまたはDNAを基にして、核酸を増幅する工程;
4)増幅した核酸からウイルス潜伏感染を検出する工程。
【0023】
検査用検体を、例えばピンセットなどを用いて粘着部材から分離し、または検体保存用袋から取り出し、核酸抽出用のチューブに入れ、核酸を抽出する。検査用検体から核酸を抽出する方法は、自体公知の方法によることができる。例えば遺伝子工学実験ノート下(羊土社)等に教科書的に記載されている方法により抽出ことができるし、市販のRNA、DNA抽出用キットを用いて抽出しても良い。また、今後開発される核酸のあらゆる抽出方法を適用しても良い。
【0024】
抽出されたRNAまたはDNAを基にして、自体公知の方法により核酸を増幅することができる。核酸増幅の方法は、例えばポリメラーゼチェーンリアクション法(PCR法、Science, 230:1350-1354,1985)やNASBA法(Nucleic Acid Sequence Based Amplification 法、Nature, 350,91-92,1991)およびLAMP法(特開2001-242169号公報)等により行うことができる。より好適には、PCR法を適用することができる。
【0025】
EBウイルス感染を例示して説明する。病変部痂皮にはEBウイルス感染細胞が多く含まれる。病変部痂皮は乾固壊死の状態であることから、病変部痂皮細胞の核内に多量に存在するウイルス関連RNAだけでなく、宿主mRNAの抽出も可能である。検査の感度と特異性を高めるために、EBウイルス潜伏感染時に多量に産生されるEBERをターゲットにしたRT-PCR法を用いて、EBウイルス由来の核酸を増幅することができる。
【0026】
ウイルスRNAからcDNAを作製するためのプライマーや逆転写酵素は、自体公知のものを使用することができる。また、例えばEBウイルス由来のEBER1は167塩基からなる小さいRNAであるため、普通の逆転写法ではほとんどcDNAを作ることができない。このような場合は、EBER1のアンチセンス側のプライマーを用いて逆転写を行うことにより効率よくcDNAが形成される。その結果、ごく少数のEBウイルス感染細胞が認められている場合でもPCR法により感染細胞の証明ができる。このように、増幅する基の核酸がRNAの場合は、自体公知の方法によりcDNAを調製して、核酸を増幅することができる。
【0027】
核酸を増幅するために使用されるプライマーや、検出のために使用するプローブなども、所望のウイルスの所望の検出部位に応じて、自体公知のものを適宜適用することができる。例えば、EBウイルスの核酸の増幅と検出のために使用されるプライマーやプローブなどは、具体的には特許文献2、特許文献4、特開2005-58218号公報などに記載のものを用いることができ、核酸増幅方法や検出方法等もこれらに記載の方法を参照することができる。
【0028】
本発明は、ウイルス潜伏感染の検査方法および検査用キットにもおよぶ。
本発明のウイルス検査用キットは、少なくとも1)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物の逆転写用アンチセンスオリゴヌクレオチド、2)ウイルス潜伏感染関連遺伝子産物増幅用プライマーセット、および3)ハウスキーピング遺伝子増幅用プライマーセットを含んでいればよい。
【0029】
具体的には、1)配列表の配列番号1に記載のオリゴヌクレオチド、2)配列表の配列番号2および1に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるEBER増幅用プライマーセット、3)配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドの組み合わせによるβ2-ミクログロブリン増幅用プライマーセット、を含むキットが好適である。
【0030】
本発明において、ハウスキーピング遺伝子としてβ2-ミクログロブリンが好適であるのは、EBウイルスのEBERの増幅条件と全く同じ条件でPCRによる増幅が可能だからである。特に、PCR操作用のEBER由来cDNAおよびβ2-ミクログロブリン由来cDNAの混合溶液25μl当たりに、MgCl2が最終濃度1.5±0.2mM含まれていることが特徴的であり、さらにPCR工程でアニーリングが62±2℃の範囲を設定していることが特徴的である。
【0031】
また、検査用キットには、皮膚表面の痂皮および/または鱗屑を採取するための粘着部材や、検査用検体保存袋などを含めても良い。
【実施例】
【0032】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは明らかである。
【0033】
(実施例1)
<RNA抽出>
1.皮膚表面から、セロハンテープに痂皮(crust)を採取し、セロハンテープを二つ折りにして痂皮を密閉保存した。
2.セロハンテープで密閉保存した痂皮(crust)をピンセットなどで核酸抽出用チューブに採り、TRIzol(GIBCO社)1mlを加え、ピペッティングにより細胞を融解させた。
3.常温で5分間放置したのち、クロロホルム200μ1を加え、15秒間激しく振盪した。
4.2~3分間室温で放置したのち、4℃、12,000gで15分間遠心した。
5.グリコーゲン(濃度20μg/μl)1μlを加えた新しいチューブに、上記遠心後の透明な上層を600μl採取し、等容量のイソプロパノールを加えて攪拌した。
6.室温で10分間放置し、RNAを抽出し、4℃、12,000gで10分間遠心した。
7.上清を廃棄し、沈殿により得たRNAペレットに75%エタノール1mlを加え、軽く振盪し、さらに4℃、10,000gで5分間遠心した。再度上清を廃棄し、RNAペレットに75%エタノール1mlを加え、4℃、10,000gで5分間遠心した。
8.上清を廃棄し、エタノールを乾燥させたのち、沈殿物を蒸留水20μlに溶解した。
9.吸光度計でRNAの濃度を測定し、濃度が0.1μg/μlとなるように蒸留水で希釈した。
【0034】
<逆転写(RT)操作>
1.Random hexamer(タカラバイオ社製)19.4μl(100pmol/μl)とEBER1アンチセンスプライマー2.59μl(100pmol/μl)と蒸留水78.01μlを加えRT-プライマー混合液(primer mixture)を作成した。
2.RNA溶液(0.1μg/μl)(2μl)にRT-プライマー混合液 3.875μlを加え、60℃10分間加熱したのち、氷冷した。
3.以下の試薬を加えて、37℃で1時間反応させた。
5×RT緩衝液(Invitrogen社製)2μl 最終50mM Tris(pH8.3), 75mM KCl, 3mM MgCl2
100mM DTT(Invitrogen社製) 1μl 最終10mM
10mM dNTP(Invitrogen社製) 0.5μl 最終0.5mM
RNAsin(Promega社製) 0.125μl (5u)
MMLV-RT(Invitrogen社製) 0.5μl (100u)
4.95℃で10分加熱し、逆転写酵素を不活化した。
5.蒸留水10μlで希釈し、EBER1、β2-ミクログロブリンcDNA混合溶液(濃度0.01μg/μl RNA相当)を得、保存した。
6.EBER1逆転写用アンチセンスオリゴヌクレオチド
AS-C1 5'-AAAACATGCGGACCACCAGC-3' (配列番号1)
【0035】
<PCR操作(EBER1、β2-ミクログロブリン用共通)>
1.プライマー混合液の作成
EBER1、β2-ミクログロブリンそれぞれのセンスプライマー(100pmol/μl) 5μl、アンチセンスプライマー(100pmol/μl) 5μlを混ぜ、合計20μlのプライマー混合液を作った。
2.PCR用プライマー
EBER1用:
S-C1 5'-AGGACCTACGCTGCCCTAGA-3'(配列番号2)
AS-C1 5'-AAAACATGCGGACCACCAGC-3' (配列番号1)
β2-ミクログロブリン用:
S-B2-MG 5'-TACATGTCTCGATCCCACTTAACTAT-3' (配列番号3)
AS-B2-MG 5'-AGCGTACTCCAAAGATTCAGGTT-3'(配列番号4)
3.cDNA混合溶液5μlに次の試薬を加えた。
10×緩衝液(Promega社製) 2.5μl (最終20mM Tris(pH8.4), 40mM KCl)
25mM MgCl2 1.5μl (最終1.5mM)
2.5mM dNTP(Invitrogen社製)2μl (各々最終200μM)
プライマー混合液 0.4μl (各々最終10pmol)
Taqポリメラーゼ(Promega社製)0.25μl (1.25u)
蒸留水 最終量25μl
4.PCR増幅条件
変性 94℃、45秒
アニール 62℃、30秒
伸長 72℃、1分
30サイクル 実施
【0036】
<確認>
以下の方法により2%アガロースゲルに流して確認した。
1.1×TAEバッファー(Tris 0.04M, 氷酢酸 0.04M, 0.5M EDTA(pH8.0) 0.001M)にアガロース(タカラバイオ社製)が2%濃度になるように溶かし、その中にエチジウムブロマイド溶液(10mg/ml)をゲル溶液100mlあたり1μlの割合で加えてよく混合し、2%アガロースゲルを作成した。
2.PCR産物5μlを6×Loading dye(TOYOBO社製)1μlと混和し、各wellに注入した。100Vの電圧で約30分電気泳動し、UV発光させ、ゲルのバンドの有無の確認を行った。RNAの抽出ができていれば、β2-ミクログロブリンとして295bpのところにバンドが確認される。さらにEBウイルスが存在するとEBER1として166bpのところにバンドが確認される。
【0037】
<結果>
図1のようにPositive control(EBウイルス感染細胞株を使用)において、295bp(β2-ミクログロブリン)と166bp(EBER1)の2つのバンドが確認され、RNAの抽出ができていることが確認され、さらにEBウイルス感染細胞の存在が証明された。
同様にEBウイルス関連皮膚疾患症例(種痘様水疱症、NK/T細胞リンパ腫)の1~7の全ての例にEBウイルス感染細胞の存在が証明された。
一方、EBウイルス非関連皮膚疾患では、A~DにおいてEBER1のバンド(166bp)が認められなかったため、EBウイルス感染細胞は証明されなかった。さらに、A~D以外の12症例のEBウイルス非関連皮膚疾患に対しても同様の方法で検索した結果、EBウイルスの感染細胞の証明はされなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明の検査方法では痂皮および/または鱗屑を検査用検体とすることで、EBウイルスなどのウイルス潜伏感染を検査することができる。種痘様水疱症、蚊刺過敏症や慢性活動性EBウイルス感染症などのEBウイルス潜伏感染によって起きる疾患は小児に多く、痛みや侵襲を伴う検査用検体の採取は極力さけたい。皮膚表面の痂皮および/または鱗屑を家庭などで採取することにより、痛みや侵襲を伴うことなく検査用検体を採取することができ、遠方からでも検査機関に検査用検体を送付することができる。痂皮および/または鱗屑は乾固壊死した細胞を含むため、EBウイルスに潜伏感染している場合、該検査用検体にはEBER1などの潜伏感染関連遺伝子産物が多数存在し、安定である。したがって、痂皮および/または鱗屑を検査用検体とし、核酸を増幅する工程を含む本発明の検査方法によると、潜伏感染関連遺伝子産物に対して特異性が高く、臨床検査法として大きく寄与する。また、本発明の検査方法に使用する検査用キットは大変有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】2%アガロースゲルによるEBウイルス感染細胞の確認結果を示す図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0040】
1~7 EBウイルス関連皮膚疾患症例
A~D EBウイルス非関連皮膚疾患症例
Drawing
(In Japanese)【図1】
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