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Specification :(In Japanese)アルミニウム耐性に関与する遺伝子、およびその利用

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P4555970
Publication number P2008-220308A
Date of registration Jul 30, 2010
Date of issue Oct 6, 2010
Date of publication of application Sep 25, 2008
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)アルミニウム耐性に関与する遺伝子、およびその利用
IPC (International Patent Classification) C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI (File Index) C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/415
A01H 5/00 A
Number of claims or invention 5
Total pages 21
Application Number P2007-065630
Date of filing Mar 14, 2007
Date of request for substantive examination Jan 18, 2010
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】馬 建鋒
【氏名】佐藤 和広
Accelerated examination, or accelerated appeal examination (In Japanese)早期審査対象出願
Representative (In Japanese)【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
Examiner (In Japanese)【審査官】小川 明日香
Document or reference (In Japanese)国際公開第02/079756(WO,A1)
J Exp Bot.,2004年,Vol.55,pp.1335-1341
Plant J.,2005年,Vol.41,pp.353-363
Proc Natl Acad Sci U S A.,2007年 1月,Vol.104,pp.1424-1429
Field of search C12N 15/00-15/90
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
記の(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチド:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアルミニウム耐性に関与するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドにコードされる、ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3に記載の組換え発現ベクター発現可能に導入する工程を包含する、アルミニウム感受性の植物にアルミニウム耐性を付与する方法。
【請求項5】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3に記載の組換え発現ベクターを含む、アルミニウム感受性の植物にアルミニウム耐性を付与するためのキット。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム耐性に関与する新規遺伝子およびその利用に関するものであり、より詳細にはオオムギのアルミニウム耐性品種から単離されたアルミニウム耐性に関与する遺伝子(HvMATE遺伝子)およびその利用に関すものである。
【背景技術】
【0002】
酸性土壌は、世界の耕地面積の約4割を占めている。酸性土壌は、植物の生育を阻害することが問題となる土壌である。植物の生育阻害は、アルミニウム毒性によって引き起こされる。アルミニウムイオンは、低濃度(数μM)でも、すばやく根の伸張阻害を引き起こし、根からの養水分の吸収を阻害する。その結果、植物が、様々なストレスに弱くなる。このため、酸性土壌での植物の生産性は、非常に低い。
【0003】
アルミニウムによる生育阻害は、植物の種類によって異なる。つまり、植物の種類によって、アルミニウム耐性は大きく異なる。イネ科植物(禾穀類)でも、種によってアルミニウム耐性が大きく異なり、イネ,ライ麦>コムギ>オオムギの順となる。
【0004】
アルミニウム耐性は、植物の品種間でも大きく異なる。例えば、オオムギは、イネ科植物の中でもアルミニウム耐性の低い植物種である。しかし、オオムギのアルミニウム耐性は、品種によって大きく異なる。
【0005】
しかし、イネ科植物の生産量が多い地域は、酸性土壌であることが多い。例えば、酸性硫酸土水稲栽培地域および酸性陸栽培地域であることが多い。このため、生産性が、非常に低くなる。従って、酸性土壌での植物の生産性を向上するために、アルミニウム耐性の強い植物の作出が求められる。
【0006】
本願発明者は、植物のアルミニウム耐性について、精力的に研究を行っている(特許文献1~3,非特許文献1~4参照)。例えば、本発明者は、オオムギ品種間のアルミニウム耐性の差が、根からのクエン酸分泌量の違いに基づくことを、生理学的な解析から明らかにしている。

【特許文献1】特開2004-105164号公報(2004年4月8日公開)
【特許文献2】特開2004-344024号公報(2004年12月9日公開)
【特許文献3】特開2005-058022号公報(2005年3月10日公開)
【非特許文献1】Ma, J. F. 2005. Plant root responses to three abundant soil minerAlsilicon, aluminum and iron. Crit. Rev. Plant Sci. 24, 267-281.
【非特許文献2】Ma, J. F., Nagao, S., Huang, C. F., Nishimura, M. 2005. Isolation and characterization of a rice mutant hypersensitive to Al. Plant Cell Physiol. 46, 1054-1061.
【非特許文献3】Ma, J. F., Shen, R., Zhao, Z., Wissuwa, M., Takeuchi, Y., Ebitani, T. and Yano, M.: Response of rice to Alstress and identification of quantitative trait loci for Al tolerance. Plant Cell Physiol. 43:652-659 (2002).
【非特許文献4】Delhaize E, Ryan PR, Hebb DM, Yamamoto Y, Sasaki T and Matsumoto H 2004: Engineering high-level aluminum tolerance in barley with the ALMT1 gene. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101: 15249-15254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オオムギはイネ科植物の中でも特にアルミニウム耐性の低い種であるが、品種によってアルミニウム耐性が大きく異なる。しかし、この耐性の差に寄与するアルミニウム耐性遺伝子は、まだ同定されていない。このため、オオムギのアルミニウム耐性遺伝子を同定することができれば、アルミニウム耐性の優れたオオムギ品種の効率的な判別、アルミニウム耐性を付与した形質転換植物の作製およびその植物の育種にも利用できる。
【0008】
本発明の目的は、オオムギ由来のアルミニウム耐性に関与する遺伝子を同定し、その遺伝子の利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、これまでに取得されていなかったアルミニウム耐性に関与する遺伝子について鋭意に検討した。その結果、オオムギのアルミニウム耐性品種(むらさきもち)と、オオムギのアルミニウム感受性品種(Morex)とを交配して得られたF2集団を用いて、マーカーを作製しながら、ファインマッピングを行うとともに、マイクロアレイ解析も行うことによって、オオムギ由来のアルミニウム耐性遺伝子(HvMATE:Hordeum vulgare Multidrug And Toxin Extrusion)を同定し、その配列を特定するとともに、HvMATE遺伝子が根からのクエン酸分泌に必要なトランスポータをコードすることに成功して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記の課題を解決するために、アルミニウム耐性に関与するポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドからなることを特徴としている。
【0011】
ここで、本発明において、上記「アルミニウム耐性」とは、アルミニウム存在下においても正常に成長できる植物の能力のことである。言い換えると、「アルミニウム耐性」は、アルミニウムによる生育阻害に対する抵抗性のことである。「アルミニウム」は、イオン化されているものでも、塩を形成しているものであってもよい。また、「アルミニウム」は、アルミニウムおよびアルミニウムを含む化合物を示すものとする。「アルミニウム耐性に関与する」とは、アルミニウム耐性能を有する(付与する)ことを示す。
【0012】
上記のポリヌクレオチドによれば、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを翻訳産物として得ることができる。
【0013】
本発明にかかるポリペプチドは、上記の課題を解決するために、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドであって、
下記の(a)または(b)のポリペプチド:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴としている。
【0014】
上記のポリペプチドによれば、アルミニウム耐性を付与することができる。
【0015】
このような、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドは、例えば、オオムギでは、第4染色体に座乗する遺伝子にコードされるアミノ酸を含む領域に存在する。オオムギは、イネ科植物の中でも、アルミニウム耐性が特に弱い。このため、酸性土壌でのオオムギの生産性は、非常に低い。一方、オオムギのアルミニウム耐性は、品種によって大きく異なる。すなわち、アルミニウム耐性オオムギは、アルミニウム耐性に寄与するポリペプチド(ポリヌクレオチド)を有している。しかし、上記のポリヌクレオチドの発現量の低い品種では、アルミニウム耐性能をほとんど有さない(アルミニウム感受性である)。なお、配列番号2に示されるポリペプチドは、アルミニウム耐性の高いオオムギに多く発現する、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドである。
【0016】
本発明にかかるポリペプチドは、アルミニウムによる根の伸長阻害を防ぐものであってもよい。これにより、根からアルミニウムを排除して、アルミニウムによる生育阻害を防ぐことができる。
【0017】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記いずれかのポリペプチドをコードするものであってもよい。上記のポリヌクレオチドによれば、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを、翻訳産物として得ることができる。なお、このポリヌクレオチドとしては、例えば、前述した、上記(a)または(b)のポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0018】
本発明にかかるアルミニウム耐性植物選抜用マーカー遺伝子は、上記の何れかのポリヌクレオチドからなるものである。
【0019】
前述のように本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞(特に植物細胞)に、アルミニウム耐性を付与することができる。このため、このポリヌクレオチドの少なくとも一部を含む本発明にかかるアルミニウム耐性植物選抜用マーカー遺伝子は、アルミニウム耐性が強い品種を選抜するために利用することができる。さらに、このマーカー遺伝子は、本発明にかかるポリヌクレオチドを導入した形質転換体を生産する場合に、アルミニウムに関与しているポリヌクレオチドが発現している細胞を選抜するためのマーカー遺伝子(形質転換体選抜用マーカー遺伝子)としても利用できる。
【0020】
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記の何れかのポリヌクレオチドを含むものである。上記の組換え発現ベクターは、本発明にかかるポリヌクレオチドを細胞に導入するための組換え発現ベクターとして利用できるだけでなく、本発明にかかるポリヌクレオチドを選抜用マーカーとして用いた場合には、他の遺伝子を細胞に導入するための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0021】
本発明にかかる形質転換体は、上記のポリヌクレオチドまたは上記の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを発現しているものである。
【0022】
また、本発明にかかる形質転換体は、下記の(a)または(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されており、かつ、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを発現してなるものである
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0023】
また、本発明にかかる形質転換体の生産方法は、下記の(a)または(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入し、かつ、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを発現させることを特徴としている
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0024】
ここで、上記ポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性に関与するポリヌクレオチドであるため、上記形質転換体は、植物(形質転換植物)であることが好ましい。
【0025】
この形質転換体は、上記ポリヌクレオチドまたは組換え発現ベクターが、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入されている。このため、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを発現させることによって、この形質転換体のアルミニウム耐性を高めることができる。
【0026】
アルミニウム耐性が高められた形質転換体は、アルミニウムによる生育阻害が低減されるため、酸性土壌での生産性を高めることができる。
【0027】
本発明にかかる食品は、上記いずれかの形質転換体を含むものである。この食品は、アルミニウム耐性が付与されているため、酸性土壌でも、生育することが可能となる。従って、酸性土壌が原因となる食料不足問題の解決を図ることができる。
【0028】
なお、少なくとも上記のポリヌクレオチド、あるいは、上記の組換え発現ベクターは、形質転換キットとして利用することができる。この形質転換キットを用いれば、本発明にかかるポリペプチドを発現する形質転換体を簡便かつ効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるポリヌクレオチドによれば、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドを産生することによって、アルミニウム耐性を付与することができる。本発明のポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された本発明の形質転換体には、アルミニウム耐性が付与されるため、アルミニウムによる生育阻害を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。なお、配列番号1は、アルミニウム耐性オオムギ(むらさきもち)に由来するアルミニウム耐性遺伝子(HvMATE遺伝子(cDNA))の塩基配列である。配列番号2は、配列番号1のHvMATE遺伝子にコードされるHvMATEタンパク質のアミノ酸配列である。配列番号3は、アルミニウム感受性オオムギ(Morex)に由来する改変型HvMATE遺伝子(cDNA)の塩基配列である。配列番号4は、配列番号3の改変型HvMATE遺伝子にコードされる改変型HvMATEタンパク質のアミノ酸配列である。
【0031】
(1)本発明にかかるポリヌクレオチド
本発明にかかるポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドをコードするものである。
【0032】
ここで、上記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図されている。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドを示している。
【0033】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であってもよい。
【0034】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性に関与するポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドである。
【0035】
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0036】
上記(a)または(b)のポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性(抵抗性)に関与するポリヌクレオチドである。
【0037】
上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC 洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001) に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる。
【0038】
上記のポリヌクレオチドのうち、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、オオムギにおいて初めて同定された、アルミニウム耐性に関与する遺伝子である。
【0039】
すなわち、配列番号1のポリヌクレオチドは、オオムギのアルミニウム耐性品種に由来するアルミニウム耐性遺伝子(HvMATE遺伝子)の塩基配列(cDNA配列)である。オオムギのアルミニウム耐性は、イネ科植物の中でも特に弱い。一方、オオムギのアルミニウム耐性は、品種によって大きく異なる。例えば、後述の実施例のように、オオムギのアルミニウム耐性品種の一種である「むらさきもち」と、アルミニウム感受性(アルミニウム耐性が低い)品種「Morex」とでは、アルミニウム存在下での生育速度が大きく異なる。このため、これらの品種を酸性土壌で栽培すると、「むらさきもち」では生育が阻害されにくいのに対し、「Morex」では顕著に生育が阻害される。このように、配列番号1は、アルミニウム耐性の強いオオムギに由来するアルミニウム耐性に関与するポリヌクレオチド(HvMATE遺伝子)である。「むらさきもち」では、配列番号1に示されるHvMATE遺伝子が多く発現している。
【0040】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0041】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0042】
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0043】
配列番号2は、本発明が見出したアルミニウム耐性に関与するポリペプチドである。このポリペプチドは、例えば、配列番号1に示されるHvMATE遺伝子(アルミニウム耐性遺伝子)にコードされる。
【0044】
本発明者は、後述する実施例に示すように、本発明にかかるポリヌクレオチドの1つであるオオムギのアルミニウム耐性に関与するポリヌクレオチドが、オオムギの第4染色体に座乗することを明らかにした。
【0045】
なお、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、アルミニウム感受性品種「Morex」におけるアルミニウム耐性遺伝子である。配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおける172番目のアミノ酸が、バリンからロイシンに置換されている。ただし、この置換は、アルミニウム耐性には関与せず、「Morex」では、配列番号4に示されるポリペプチドをコードする遺伝子の発現量が少ない。従って、配列番号2および4のポリペプチドをコードする遺伝子の発現量がアルミニウム耐性に関係している。つまり、配列番号4に示されるポリペプチドは、上記(b)のポリペプチドの1種である。
【0046】
なお、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドであってもよい。ここで、このオリゴヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドと同様に、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖(コード鎖)およびアンチセンス鎖(非コード鎖)といった各1本鎖DNAやRNA(例えば、mRNA)を包含する。また、DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。
【0047】
さらに、本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。例えば、配列番号1に示すcDNA配列は、配列番号2に示すポリペプチドのORF(Open Reading Frame)である。
【0048】
本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明にかかるポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。これにより、確実にアルミニウム耐性に関与する遺伝子を取得できる。
【0049】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。また、例えば、公知のオオムギの配列情報に基づいて、HvMATE遺伝子領域を増幅できるようなプライマーを設計し、そのプライマーを用いて、ゲノムDNA(またはcDNA)またはRT-PCR産物を鋳型にして、HvMATE遺伝子領域を増幅することによっても、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得することができる。
【0050】
本発明にかかるポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、イネ科植物であることが好ましい。後述する実施例においては、アルミニウム耐性品種(むらさきもち)から本発明にかかるポリヌクレオチドの1つを取得しているが、これに限定されるものではない。
【0051】
なお、本発明にかかるポリヌクレオチドは、これまでに明らかにされてこなかった、植物(特にオオムギ)のアルミニウム耐性メカニズムの解明に利用することができる。
【0052】
(2)本発明にかかるポリペプチド
本発明にかかるポリペプチドは、上記(1)に記載したポリヌクレオチドの翻訳産物であり、少なくともアルミニウム耐性に関与するものである。
【0053】
ここで、上記「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」とも換言できる。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片を示している。
【0054】
本発明にかかるポリペプチドは、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。ここで、「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質を示す。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されたものとする。
【0055】
本発明にかかるポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主によっては、本発明にかかるポリペプチドは、グリコシル化など、糖鎖修飾される場合もある。本発明にかかるポリペプチドには、このような修飾されたポリペプチドも含まれる。
【0056】
本発明にかかるポリペプチドとしては、例えば、少なくともアルミニウム耐性に関与するポリペプチドであって、以下の(a)または(b)のポリペプチドである。
【0057】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0058】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、HvMATE遺伝子にコードされる555アミノ酸からなるHvMATEタンパク質である。配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、例えば、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの翻訳産物である。
【0059】
また、上記ポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0060】
(3)本発明のポリヌクレオチドの利用
本発明にかかるポリヌクレオチドは、例えば、アルミニウム耐性植物選抜用マーカー遺伝子および形質転換用マーカー遺伝子として利用することができる。すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子としてのみ用いることも可能であるし、形質転換用マーカー遺伝子としても利用することができる。
【0061】
これらのマーカー遺伝子は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドからなるものであればよい。本発明にかかるポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性を付与する。このため、本発明にかかるポリヌクレオチドを導入された細胞は、アルミニウム存在下でも、生育が阻害されない。これは、アルミニウムを排除した結果、アルミニウム蓄積量が減少するためである。従って、アルミニウム存在下での生育状態またはアルミニウムの蓄積量(アルミニウム吸収量)を測定することにより、当該ポリヌクレオチドが導入された細胞を選抜することができる。
【0062】
具体的には、アルミニウム耐性植物選抜用マーカー遺伝子として利用するには、本発明のポリヌクレオチドまたはそのオリゴヌクレオチドをプローブとする。そして、対象となる植物がそのプローブの少なくとも一部に特異的ハイブリダイズした場合に、その対象となる植物はアルミニウム耐性植物として選抜することができる。
【0063】
一方、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子(形質転換体選抜用マーカー遺伝子)として利用するには、例えば、当該ポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを目的の細胞に導入する。当該発現ベクターが導入され、アルミニウム耐性を付与するポリペプチドが発現している細胞のアルミニウム蓄積量は減少する。従って、アルミニウム存在下で培養して、発現ベクターの導入前後のアルミニウム蓄積量を測定することによって、アルミニウムに関与しているポリヌクレオチドが発現している細胞を選抜することができる。また、例えば、アルミニウム耐性が強い品種を選抜することもできる。このように、この例では、本発明にかかるポリヌクレオチドを形質転換細胞に発現させる遺伝子とマーカー遺伝子との両方の目的で用いることになる。
【0064】
また、本発明のポリヌクレオチドは、これらのマーカー遺伝子としての利用以外にも、例えば、植物のカルス細胞に特異的な転写プロモーターを使用することにより、本発明にかかるポリヌクレオチドの選択マーカーとしての発現時期の制御も可能である。この場合は、さらに目的の細胞内で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを用いて形質転換すればよい。また、本発明にかかるポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築せずに、本発明にかかるポリヌクレオチドを単独で目的の細胞に導入することも可能である。
【0065】
HvMate遺伝子の発現量が多くなれば、アルミニウム耐性も強くなる。すなわち、このようなポリヌクレオチドは、アルミニウム耐性に関与する細胞(アルミニウム耐性の強い細胞)を選抜するためのマーカー遺伝子として利用することができる。
【0066】
(4)本発明にかかる組換え発現ベクターおよびその利用
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、配列番号1~3に示すcDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0067】
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかるポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
【0068】
本組換え発現ベクターは、本発明にかかるポリペプチドを発現させるために用いることができることはいうまでもないが、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子として利用し、他の遺伝子を組み込んで当該他の遺伝子がコードするタンパク質を発現させるための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0069】
本発明にかかるポリヌクレオチドがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明にかかるポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。
【0070】
上記ホスト細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、オオムギ,イネ,きゅうり,アブラナ,またはトマト等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0071】
上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、アグロバクテリウム感染法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびパーティクルガン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0072】
なお、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチド、および、本発明にかかる組換え発現ベクターの少なくとも一方は、形質転換キットとして利用できる。このキットの具体的な構成は特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。この形質転換キットを用いることにより、簡便かつ効率的に形質転換細胞を取得することができる。
【0073】
(5)本発明にかかる形質転換体およびその生産方法
本発明にかかる形質転換体は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチド、または、上記(4)に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、アルミニウム耐性に関与するポリペプチドが発現している形質転換体であれば、特に限定されるものではない。ここで「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
【0074】
また、ここで、「ポリヌクレオチドが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味するが、本発明では、これに加えてゲノム中に含まれる本発明のポリヌクレオチドが生体内で発現している場合も含むものとする。
【0075】
形質転換体の作製方法(アルミニウム耐性植物の生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換え発現ベクターをホスト細胞に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記(4)においてホスト細胞として例示した植物細胞等を挙げることができる。
【0076】
本発明にかかる形質転換体は、植物細胞または植物体であることが好ましい。このような形質転換植物には、アルミニウム耐性が付与される。このため、細胞内または植物体内において、アルミニウムの含有量(蓄積量)を減少することができる。そして、上記ポリヌクレオチドまたは組み換え発現ベクターが、ポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された上記形質転換体では、アルミニウム耐性が付与されることにより、根からアルミニウムを排除する結果、アルミニウムの吸収が抑制され、アルミニウムの蓄積量を減少させることができる。これにより、アルミニウムによる生育阻害を低減できる。
【0077】
このように、本発明の形質転換体は、本発明にかかるポリヌクレオチドを導入されているため、アルミニウム耐性を有する。このため、アルミニウムによる生育阻害を低減することができる。
【0078】
なお、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができ、具体的には、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーターを挙げることができる。なお、植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0079】
植物細胞への組み換え発現ベクターの導入には、アグロバクテリウム感染法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびパーティクルガン法等、従来公知の方法を用いることができる。また、形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて公知の方法で行うことが可能である。
【0080】
ゲノム内に本発明にかかるポリヌクレオチドが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から得られる種子にも当該ポリヌクレオチドが導入されている。本発明には、形質転換植物から得られる種子も含まれる。
【0081】
(6)本発明にかかる食品
すなわち、本発明の食品は、本発明にかかる形質転換体を含むものである。すなわち、この食品は、アルミニウム耐性が付与された形質転換体を含むものである。
【0082】
本発明の食品には、ヒトが摂取するものはもちろん、家畜に与える飼料なども含まれる。
【0083】
ここで、配列番号1に示すHvMATE遺伝子は、オオムギにおけるアルミニウムによるクエン酸の分泌を司る。このため、HvMATE遺伝子を、アルミニウム耐性の低いオオムギ、またはその他の作物に導入することによって、作物にアルミニウム耐性を付与することができる。アルミニウム耐性が付与された作物は、生育を阻害するアルミニウムを排除することができるため、世界の耕地面積の3~4割を占める酸性土壌でも、生育することが可能となる。従って、酸性土壌が原因となる食料不足問題の解決を図ることができる。
【0084】
ここで、オオムギやコメなどの穀物は、日本ばかりではなく、世界各地で消費量の多い植物である。また、果物や野菜も、世界各地で生産量および消費量が多い。従って、高いアルミニウム耐性が付与された形質転換体を含む食品は、オオムギやコメなどの穀物、野菜、および果物のような農産物であることが好ましい。これにより、安全性が高く、有用な穀物、野菜、および果物の栽培を実現できる。
【0085】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0086】
以下の実施例では、アルミニウム耐性の異なるオオムギ品種である、むらさきもちとMorexとを用いて、新たなマーカーを作製しながら、アルミニウム耐性に関与する遺伝子のセミファインマピングを行った。さらに、両品種のマイクロアレイ解析も行った。これらにより、アルミニウム耐性に関与する遺伝子(HvMATE遺伝子)を同定することに成功した。さらに、種々の機能解析の結果、この遺伝子がクエン酸分泌に必要なトランスポータをコードすることが判明した。なお、オオムギのゲノムサイズは大きいため、このようなアルミニウムによって活性化されるクエン酸トランスポータ遺伝子は、これまで単離されてこなかった。
【0087】
〔実施例に用いた植物〕
図3は、実施例で用いたアルミニウム耐性品種むらさきもち、および、アルミニウム感受性品種Morexの生育状態を比較する図である。むらさきもちおよびMorexを、それぞれ中性土壌(-Al)および酸性土壌(+Al)で、1週間栽培したところ、図3のように、どちらの品種も、中性土壌に比べて、酸性土壌での生育状態が悪くなっている。特に、Morexの酸性土壌での生育状態は、顕著に悪くなっている。
【0088】
〔実施例1〕
アルミニウム耐性品種(Murasakimochi)と、アルミニウム感受性品種(Morex)とを交配してF4集団を作製した。F4集団の新葉からDNAを、改良CTBA法により抽出した。すなわち、1.5mLエッペンドルフチューブに、破砕した葉の組織を約50mgと、DNA抽出用緩衝液(125 mM pH 8.0 Tris-HCl, 20 mM EDTA, 150 m M sソルビトール, 30 mM N-ラウロイルサルコシンナトリウム, 800 mM NaCl, 20 mM CTAB)600μLを加えた。数回穏やかにVotexさせて、65℃で40分間インキュベーション後、溶解物にクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を600μL加え、攪拌・混合した。10分間、14000rpmで遠心分離後、上澄み液(~500μL)を、1.5mLエッペンドルフチューブに移した。そして、冷イソプロパノールを加え、穏やかにVotexすることによって、DNAを沈殿させた。次に、14000rpmで10分間遠心分離することにより、DNA沈殿物を得た。注意深くイソプロパノールを除去した後、DNA沈殿物に、70%エタノール1.0mLを加え、13000rpmで5分間遠心分離して洗浄した。乾燥後、DNA沈殿物を12ng/mL RNaseA100μLに再溶解させた。なお、この方法を利用して得られるDNAの濃度は、約100ng/μLである。
【0089】
次に、オオムギESTデータベース内のEST配列情報に基づいて、6つのマーカー(K00500, K02565, K02338, K03066, K04725, K06496)を構築した。そして、EST配列に基づいてデザインしたプライマーを用いて、むらさきもちおよびMorexのゲノムDNAを増幅した。そして、増幅したむらさきもちおよびMorexの各DNAの配列を決定し、配列を比較した。その結果、マーカーK04725にIn/Del多型が見られ、他のマーカーにもSNPsが見られた。なお、マーカーHvP1は、日本晴(イネ日本種)の第3染色体上のイネBACクローン(OSJNBa0090D11)の配列に基づいて構築した。このBACクローン上にあるピリドキサールリン酸(PALP)依存型酵素ファミリータンパク質遺伝子(LOC_Os03g11660)のmRNA配列は、オオムギESTデータベース上のEST(bags5e04)の配列と相同であった
次に、HvMATE遺伝子領域内のプライマーペア(HvP1およびK06496)によって識別されたF4組換え植物、および、F5ファミリーにおける17~20のF5個体を、6時間10μMのAlで処理してクエン酸分泌量を測定し、スクリーニングした。
【0090】
次に、スクリーニングした793個体について、マーカーBmac310、マーカーHvMATE、およびマーカーBmag353 の遺伝子座について遺伝子型を確認して、遺伝子組換え体をスクリーニングした。マーカーBmac310とマーカーHvMATE間、または、マーカーBmag353 とマーカーHvMATE間に組換えが生じた植物を、マーカーHvP1およびK06496を用いた解析により選択した。このようにして選択した全F4植物を用いて、ファインマップを構築した。図2は、ファインマッピングの結果を示す図である。図2のように、アルミニウム耐性遺伝子(HvMATE遺伝子)が、4Hの長腕(マーカーHvP1とマーカーK06496の間)に存在すること、および、HvMATE遺伝子がイネの第3染色体とシンテニが見られることが確認された。
【0091】
次に、HvMATE遺伝子領域内のプライマーペア(マーカーHvP1およびマーカーK06496)を用いて、むらさきもちおよびMorexについてHvMATE遺伝子領域を増幅し、配列を比較した。図1は、むらさきもちのHvMATE遺伝子(配列番号1参照)およびMorexの改変型HvMATE遺伝子の塩基配列(配列番号3参照)を比較する図である。
【0092】
これらの塩基配列を比較すると、第514塩基および第1107塩基の2箇所に、一塩基多型(SNPs)が存在する。すなわち、第514塩基が、むらさきもちでは「G」、Morexでは「T」となっている。これにより、この塩基を含むコドンにコードされるアミノ酸が、むらさきもちでは「バリン」、Morexでは「ロイシン」となっている。
【0093】
また、第1107塩基が、むらさきもちでは「A」、Morexでは「G」となっている。しかし、この塩基を含むコドンにコードされるアミノ酸は、いずれも「アラニン」である。つまり、第1107塩基の違いによって、コードするアミノ酸は、変化しない。
【0094】
このように、第514塩基の一塩基多型は非同義置換であり、第1107塩基の一塩基多型は同義置換である。
【0095】
なお、図4は、同定したHvMATE遺伝子の系統樹である。
【0096】
〔実施例2〕
次に、むらさきもちおよびMorexについて、マイクロアレイ解析により、HvMATE遺伝子領域の遺伝子の発現を比較した。表1は、マイクロアレイ解析の結果である。マイクロアレイ解析は、むらさきもち(表中MU)およびMorex(表中MO)について、1.0mM CaCl2を含むpH 5.0のアルミニウム溶液で6時間処理したもの(表中(+))と、アルミニウム処理していないもの(表中(-))とを用い、根(先端から1cmまで)から抽出した全RNAについて行った。この結果、アルミニウム処理の有無に関係なく、推定アルミニウム耐性ファミリータンパク質をコードする遺伝子の発現が、むらさきもちで高かった(表中◎)。なお、表中の◎は、発現レベルが5以上であることを示し、△は、発現レベルが0.25~5であることを示す。この結果は、前述したマッピングの結果と一致する。
【0097】
【表1】
JP0004555970B2_000002t.gif

【0098】
〔実施例3〕
むらさきもち由来のHvMATE遺伝子のcRNA(HvMATE-cRNA)を作製し、そのcRNA50ngを、アフリカツメガエルの卵母細胞に注入した。cRNAを注入した卵母細胞を、MBS溶液中、18℃で24時間培養した。次に、クエン酸ナトリウム(25μM)またはリンゴ酸ナトリウム(25μM)50nLを、卵母細胞に注入した。1~3時間培養後、改良MBS溶液(トリス緩衝液なし、Ca濃度21倍、pH4.5)を用いて、測定を開始した。HvMATEタンパク質によるAlの効果を観察するために、その溶液(改良MBS溶液を添加した溶液)に、最終濃度が100μMとなるまで、AlCl3を加えた。5分以上、定常電流を安定化させた後、電位差-40~100mVまでの電流を負荷し、電流を測定した。電流は、アルミニウム存在下(+Al)または非存在下(-Al)で、測定した。
【0099】
図5は、HvMATEタンパク質を発現した卵母細胞におけるアニオン輸送活性を示すグラフである。図6はHvMATEタンパク質を発現した卵母細胞における電流電圧曲線を示すグラフである。
【0100】
これらの図のように、HvMATEタンパク質は、クエン酸を輸送する能力あり、かつ、その能力はアルミニウムによって活性化されることが確認された。また、HvMATEタンパク質は、リンゴ酸に対して輸送能力がないことも確認された。このように、HvMATEタンパク質は、クエン酸に特異的な輸送体である。
【0101】
〔実施例4〕
次に、むらさきもちおよびMorexのアルミニウム耐性遺伝子(HvMATE遺伝子)の発現パターンを解析した。むらさきもちの苗とMorexの苗を各々、5μMのAlを含有する1.0mMのCa溶液(pH5.0)またはAl非含有1.0mMCa溶液(pH5.0)に、6時間曝した。そして、根の先端部(先端~1cmまで)、根の基部(1~2cmまで)、および葉に分けて、各組織からRNAを抽出した。次に、HvMATE遺伝子に特異的なプライマーセットを用いて、定量的RT-PCRを行った。
【0102】
図7は、むらさきもち(Mi)とMorex(Mo)とのHvMATE遺伝子の発現パターンを比較したグラフである。図7のように、HvMATE遺伝子は、主に根に発現しており、根の先端よりも基部に多く発現することが確認された。さらに、HvMATE遺伝子の発現は、アルミニウムによって誘導されないこと、および、いずれの組織でも、Al耐性品種であるむらさきもちの発現量が多いことが確認された。
【0103】
〔実施例5〕
次に、アルミニウム耐性が異なる8つのオオムギ品種(Morex,Murasakimochi,Haruna,ALP7,ALP21,ALP25,BC26,Z504)について、塩化アルミニウム素存在下または非存在下にて処理した後、根の分泌液を回収し、クエン酸分泌量と、アルミニウム耐性遺伝子の発現量との相関関係を検討した。図8は、アルミニウム耐性の異なる品種間における、クエン酸分泌量とアルミニウム耐性遺伝子との相関関係を示すグラフである。図8のように、クエン酸分泌量とアルミニウム耐性遺伝子の発現量との間には、正の相関関係が認められた。
【0104】
〔実施例6〕
次に、アルミニウム耐性遺伝子にコードされるタンパク質(HvMATEタンパク質)の局在性を検討した。図9は、HvMATEタンパク質の局在部位を示す図である。まず、玉ねぎの表皮細胞に、HvMATE-GFP融合遺伝子を、パーティクルガンで導入し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図9のHvMATE-GFPのように、発現したHvMATE-GFP融合タンパク質は、細胞膜に局在化していることが確認された。
【0105】
また、HvMATEタンパク質に対するペプチド抗体を作製し、根の切片と反応させて、顕微鏡観察した。その結果、図9のAnti-HvMATEとコントロールを比較しても明らかなように、HvMATEタンパク質は、根の表皮に局在化していることが確認された。さらに、HvMATEタンパク質は、膜貫通ドメインを7つ有する(7回貫通型)膜タンパク質であると推定された。
【0106】
以上のように、HvMATEタンパク質は、クエン酸分泌に必要なトランスポータであり、クエン酸分泌によって、根からアルミニウムを排除して、アルミニウムによる生育阻害を防ぐことができる。従って、アルミニウム耐性の低い植物に、HvMATE遺伝子を導入することによって、アルミニウム耐性を付与し、酸性土壌での生産性を改善できる。それゆえ、酸性土壌が原因となる世界の食糧不足問題の解決を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のポリヌクレオチドは、オオムギにおいて初めて同定された、アルミニウム耐性に関与する遺伝子である。この遺伝子を発現させることにより、アルミニウムによる植物の生育阻害を、低減できる。それゆえ、本発明は、特に農業、および食品産業に、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】むらさきもちのHvMATE遺伝子およびMorexの改変型HvMATE遺伝子の塩基配列を比較する図である。
【図2】HvMATE遺伝子をマッピングした結果を示す模式図である。
【図3】むらさきもちおよびMorexの生育状態を比較する図である。
【図4】HvMATE遺伝子の系統樹である。
【図5】HvMATEタンパク質を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞におけるアニオン輸送活性を示すグラフである。
【図6】HvMATEタンパク質を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞における電流電圧曲線を示すグラフである。
【図7】むらさきもちおよびMorexにおけるアルミニウム耐性遺伝子の発現部位を示すグラフである。
【図8】アルミニウム耐性の異なる品種間における、クエン酸分泌量とアルミニウム耐性遺伝子との相関関係を示すグラフである。
【図9】HvMATEタンパク質の局在部位を示す図である。
Drawing
(In Japanese)【図1】
0
(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5】
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(In Japanese)【図6】
4
(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図3】
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(In Japanese)【図9】
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