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Specification :(In Japanese)スキゾキトリウム属の微生物を用いた長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質の製造方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P4344827
Publication number P2007-143479A
Date of registration Jul 24, 2009
Date of issue Oct 14, 2009
Date of publication of application Jun 14, 2007
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)スキゾキトリウム属の微生物を用いた長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質の製造方法
IPC (International Patent Classification) C12P  13/00        (2006.01)
C07F   9/10        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
A23J   7/00        (2006.01)
A61K  31/685       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI (File Index) C12P 13/00
C07F 9/10 A
C12N 1/14 A
C12P 7/64
A23J 7/00
A61K 31/685
C12N 15/00 ZNAA
Number of claims or invention 8
Accession of microorganism FERM P-20727
Total pages 19
Application Number P2005-342182
Date of filing Nov 28, 2005
Exceptions to lack of novelty of invention (In Japanese)特許法第30条第1項適用 平成17年5月28日 第8回マリンバイオテクノロジー学会大会 大会実行委員会発行の「第8回マリンバイオテクノロジー学会大会 講演要旨集」に発表
Date of request for substantive examination Nov 10, 2008
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】伊東 信
【氏名】安部 英理子
【氏名】林 康広
【氏名】林 雅弘
Accelerated examination, or accelerated appeal examination (In Japanese)早期審査対象出願
Representative (In Japanese)【識別番号】100089705、【弁理士】、【氏名又は名称】社本 一夫
【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100113309、【弁理士】、【氏名又は名称】野▲崎▼ 久子
Examiner (In Japanese)【審査官】戸来 幸男
Document or reference (In Japanese)国際公開第03/011873(WO,A1)
特開平10-072590(JP,A)
特開2003-052357(JP,A)
特表2004-536059(JP,A)
Field of search C12P 13/00
C07F 9/10
C12N 1/14
C12N 15/00-15/90
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS/
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
式I:
【化1】
JP0004344827B2_000008t.gif
の構造からなる化合物。
【請求項2】
スキゾキトリウム属F26-b株の微生物(FERM P-20727)。
【請求項3】
請求項2の微生物を用いることを特徴とする、式Iの化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項2の微生物を培地で培養し;
得られた培養物から、長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を採取すること;
を含む、PC-DHAを含有する食品又は医薬用組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項2の微生物を培地で培養し;
得られた培養物から、炭素数16以上で22以下の不飽和結合2以上の長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を採取すること;
を含む、PC-DHAを含有する食品又は医薬用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項2の微生物を培地で培養し;
得られた培養物から、炭素数20以上で22以下の不飽和結合2以上の長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を採取すること;
を含む、PC-DHAを含有する食品又は医薬用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項2の微生物を培地で培養し;
得られた培養物から、DHA含有リン脂質を採取すること;
を含む、PC-DHAを含有する食品又は医薬用組成物の製造方法。
【請求項8】
リン脂質がホスファチジルコリン(PC)である、請求項4~7記載の方法。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、PC-DHAである新規化合物に関する。本発明はまた、スキゾキトリウム属の微生物を用いた該化合物及び長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質、特にPC-DHAの製造方法に関する。本発明は、食品、医薬の分野において特に有用である。
【背景技術】
【0002】
ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22の炭素鎖、6個の二重結合から成るn-3系高度不飽和脂肪酸である。DHAは特にイワシやサバなどの青魚に多く含まれる脂肪酸で、海産魚においてはその生育に重要な必須脂肪酸であることが知られている。DHAが多様な生理活性を有することも報告され、多くの健康食品や乳児用ミルクに添加されている。また近年では、DHAのみならずDHA含有リン脂質の機能にも注目が集まっている。
【0003】
このようなDHA及びDHA含有リン脂質の機能に注目が集まり需要が高まる一方で、現在の主な供給源であるイワシやサバ、マグロは資源の減少の問題を抱えている。また、海洋汚染により、例えばダイオキシン、PCB(ポリ塩化ビフェニール)、DDT、BHC等の化学物質や、有機スズ化合物等の重金属化合物等の海洋汚染物質は食物連鎖の過程で生物濃縮を起こし、魚体内に高濃度に蓄積される。そこで、魚に代わる新たなDHA及びDHA含有リン脂質の供給源が求められている。
【0004】
特許文献1は、PC、LPC、PF、LPE、PE等をリン脂質とし、DHA、EPAを主要な構成脂肪酸とする、イカ皮から得た脂肪酸含有グリセロリン脂質が、脳卒中易発症自然発症高血圧ラットの死亡を予防することについて記載する。
【0005】
近年、海洋性単細胞真核生物のラビリンチュラ (Labyrinthula) が高度にDHAを産生することが報告され(非特許文献1)、新たなDHA供給源として注目されている。豊富にDHAを蓄積するラビリンチュラ類をワムシやアルテミアの餌料の栄養強化に用いる試みについても報告されている(非特許文献2)。しかし、DHAがどのようなリン脂質にどのように組み込まれているかについては明らかにされていなかった。リン脂質の形のDHA(例えばPC-DHA)を用いることで、DHA単独時と比較して付加価値があることが期待できる。
【0006】
特許文献2は、ラビリンチュラ目(Labyrinthulales)に分類されるシゾキトリウム属SR21株の微生物をポリペプトン及び/又はコーンスチープリカーを含む培地で培養し、(n-6)系DPA及び(n-3)系DHAの含有量が多い油脂(全脂肪酸中のC15:0は最大で10.1%)を得る方法について記載する。該油脂中の脂肪酸含有PCの脂質について、主に16:0-22:6、16:0-22:5、22:5-22:6、22:6-22:6であることが記載されている。
【0007】
特許文献3は、培養方法等について特に記載のないスキゾキトリウム種(ラビリンチュラ目)の微生物から抽出したリン脂質の各脂肪酸含量をGCにより決定した結果、C16:0、C22:5n6、C22:6n3が主に含まれていたことを記載する。
【0008】
特許文献4は、シゾキトリウム属KH105株(FERM P-18431)の微生物、及び該微生物を培地中で培養し、培養物からカロテノイド系物質及び/又はDHAを多量に含む高度不飽和脂肪酸を得るのための培養条件の検討について記載する。
【0009】

【特許文献1】特開2000-239168号
【特許文献2】特開平10-72590号
【特許文献3】特表2004-536059号
【特許文献4】特開2003-52357号
【非特許文献1】Barbara B. Ellenbogen, S. Aaronson, Comp. Biochem. PHysiol. (1969) 29, 805
【非特許文献2】林 雅弘, 松本 竜一, 吉松 隆夫, 田中 悟広, 清水 昌; 日本水酸学会誌 68(5), 674-678 (2002)
【発明の開示】
【0010】
本発明者らは、高度不飽和脂肪酸含有リン脂質生産能、特にDHA含有PC生産能を有し、かつ培養の容易な海洋性微生物を見出し、更には、該海洋性微生物が産生するDHA含有PCについてDHAがどのように組み込まれているか明らかにし、新規化合物を見出して該化合物を特定し、本発明を完成させた。
【0011】
化合物
すなわち、本発明は、式I:
【0012】
【化1】
JP0004344827B2_000002t.gif

【0013】
の構造を有する化合物を提供する。
式Iに示すように、本発明の化合物(1-Pentadecanoyl-2-docosahexanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine: 通称 Pentadecanoyl-docosahexanoyl-lecithine)は、PCのグリセロールの1位にC15:0の脂肪酸が、2位にC22:6の脂肪酸がそれぞれエステル結合した化合物であり、以下に詳しく説明するPC-DHAの一種である。
【0014】
本発明の化合物は様々な光学異性体として存在することができ、そのすべてが本発明の範囲に含まれる。
【0015】
微生物
本発明はまた、スキゾキトリウム属F26-b株の微生物(FERM AP-20727)又は、18S rRNAの配列が配列番号:1と99.3%以上相同であって、請求項1に記載の化合物の生産能を有する、その変異体を提供する。
【0016】
本明細書中において、スキゾキトリウム属の微生物とは、クロミスタ界(Chromista)、ラビリンチュラ亜門(Labyrinthista)、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulae)、ラビリンチュラ目(Labyrinthulales)、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)、スキゾキトリウム属(SChizochytrium、シゾキトリウム属ともいう)に属する微生物であり(地球環境調査計測辞典第3巻沿岸域編第3編第3章第5節参照)、より具体的には、後述の実施例5に記載の、スキゾキトリウム属 F26-b株(FERM AP-20727)の微生物である。本明細書中において、微生物を菌(体)ということもある。なお、ラビリンチュラ目の微生物についてはその分類体系が確立していないのが現状ではあるが、以下に述べる手法により判断される、F26-b株と18S rRNAの配列が99.3%以上相同であって、本発明の化合物の生産能を有する、その変異体又はF26-b株と実質的に同一の菌学的性質を有する変異体も、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
微生物採取
本発明の微生物は、例えば次のような、非特許文献2に記載のフィルター法により、天然海水中から容易に単離することができる。すなわち、沿岸から堆積物や落葉、海藻などと共に採取した沿岸海水を濾紙(例えば平均孔径25μm)で濾過することにより大きな浮遊物等を除去し、次いでメンブランフィルター(例えば孔径0.8μm)で濾過し、目的の微生物を含む粒径0.8~25μmの粒子をメンブランフィルター上に捕捉する。このフィルターを、培地(例えばペニシリンG及びストレプトマイシンをそれぞれ800及び365u/mL含有するPDA培地)上にのせて培養する。フィルター上に多数出現したコロニーの中から、例えば色、艶、形状、そして顕微鏡観察により所望の微生物のコロニーを選別し、培地(例えばGY平板培地)上に接種する。培地上で増殖の認められる株をスラント等に保存すると共に、当業者に公知の手法を用いて液体培養して脂質含量と脂肪酸組成を分析し、例えば培養液の光学密度(OD610)、乾燥細胞中のDHA含有率等を指標に、増殖性及びDHA生産性の良好な株を選抜することが出来る。菌株の分離及び/又は保存には、例えばポテト-デキストロース寒天培地を50%人工海水で調製し、必要に応じスラントあるいは滅菌シャーレ中に平板培地として使用することができる。
【0018】
F26-b株は、前記非特許文献2に記載の方法により、石垣島マングローブ落葉から単離された株である。F26-b株の微生物は図1のような外観を有し、18S rRNAをコードする遺伝子(18S rDNA)の全配列をNCBI blast検索した結果、標準菌株のSchizochytrium sp. FJU-512と99.2601%の同一性を有し(実施例5参照)、顕微鏡下の観察で二分裂することが確認できたので、その配列の同一性及び分裂様式から、スキゾキトリウム属であると同定された。18S rRNAを用いたラビリンチュラ目の同定方法については、J. Eukaryot. Microbiol., 46(6), 1999, 637-647を参照した。なお、F26-b株は、種、属の分類体系の確立していない分野の微生物であるが、18S rRNAの配列が配列番号:1(F26-b株の18S rRNAの配列)と99.3%以上相同であって、本発明の化合物の生産能を有する微生物であれば、本発明の微生物の変異体として、本発明の範囲に含まれる。
【0019】
上記F26-b株と同一の種に属する菌株、又は該株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株か否かは、菌学的性質を観察することにより、及び/又は18S rDNA解析により、当業者であれば容易に判断することが出来る。
【0020】
微生物の培養
本発明の微生物の培養は、海水及び/又は人工海水を用いて調製した適当な培地に微生物を接種し、当業者に公知の手法を用いて行うことが出来る。
【0021】
培地
培地には、例えば液体培地及び/又は寒天培地を用いることができる。より具体的には、例えば、3%グルコースと1%酵母エキスとを含むGY培地を50%人工海水で調製し、液体培地又は1.5%寒天で平板培地として使用することができる。
【0022】
培地に添加することができる炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、サッカロース等の糖類、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、プロピオン酸、パルミチン酸等の低級脂肪酸、オレイン酸、大豆油等の油脂類、デンプン、グリセリン等が用いられるが、これらに限定されるものではない。これらの炭素源を、例えば、培地1Lあたり20~100g(好ましくは25~40g、より好ましくは30g程度)の濃度で使用することができる。なお、本発明の特徴として、培地に脂肪酸等の油脂類を添加せずに培養物から高度不飽和脂肪酸含有リン脂質等の油脂類を採取することができる。
【0023】
培地に添加することができる窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、尿素、グルタミン酸ソーダ、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が用いられるが、これらに限定されるものではない。これらの窒素源を、例えば、培地1Lあたり5g~20g(好ましくは8g~14g、より好ましくは10g程度)の濃度で使用することができる。
【0024】
さらに、必要に応じて、リン酸イオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、銅イオン、マンガンイオン等の無機イオン、及びビタミン類も微量栄養源として使用できる。所望の微生物以外の生育を阻害する目的で、抗生物質を添加することも出来る。例えば、ストレプトマイシンを0.05%添加することが出来る。これらの培地成分は所望の微生物の成長を害しない濃度であれば特に制限はない。
【0025】
培養に伴い消費される上記炭素源、窒素源等を、培養中に補ってもよい。
培地を調製した後、適当な酸又は塩基を用いて、pHを4.0~9.5、好ましくは6.0~7.0の範囲に調製し、オートクレーブ等を用いて滅菌することができる。
【0026】
培養条件
微生物の培養は、培養温度10℃~45℃、好ましくは25~28℃にて、通常3~14日間(特に培養量が多い場合には14日程度)、振とう培養、静地培養、タンク中での工業的培養、寒天培地等の固形培地での培養等により、培地中で微生物を増殖させることができる。例えば、pHを6.0に調整後、28℃のインキュベータ内で、寒天平板培地で4~5日、液体培地では110strokes/分で振とうしながら3日間行うことができる。大量培養には、例えば10L容ジャーファーメンター中に6LのGY培地を0.1%のシリコン系消泡剤と共に入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した後、GY培地中で定常期に達した100mLの培養液を接種し、28℃、0.5vvmの空気通気、攪拌速度400rpmで5日間培養することができる。
【0027】
本発明の微生物の採取、培養、分離方法については、上述の方法に特に限定されず、当業者に公知の適切な手法を用いることが出来る。
【0028】
変異体
上記の微生物は天然から採取したものでもよく、また、本発明の化合物、長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質、PC-DHA生産能を有するよう設計された変異体及び/又は組換え体も、本発明の範囲内に含まれる。このような変異体及び/又は組換え体は、同組成の培地を用いて培養したときに野性株と比べてこれらの生産能が高くなるよう意図して設計されたものが含まれる。上記化合物の「生産能を有する」とは、有効な条件で培養したときに上記の化合物を生産することをいう。有効な条件は、当業者であれば適宜決定できる。
【0029】
本明細書中において、微生物の所望の化合物等の生産能は、微生物(微生物自体、微生物の乾燥物、微生物の培養液、微生物の抽出物等も含む)を、例えば、以下の実施例中で記載するように、GC等を用いて定法に従って分析した場合に、所望の化合物等が含まれることで確認できる。このような生産能を有する微生物には、培養条件(培地の組成、培養時の温度条件、培養時のpH条件、培養密度、等)を適宜調整した場合に長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質の生産能を有するようになる微生物も含む。
【0030】
化合物の製造方法
本発明はまた、上記の微生物又は変異体を用いることを特徴とする、上記の化合物の製造方法を提供する。製造方法は、下記に詳しく述べる。
【0031】
組成物の製造方法
本発明はまた、上記の微生物又は変異体を培地で培養し;得られた培養物から、長鎖高度不飽和脂肪酸(好ましくは炭素数16以上で不飽和結合2以上の脂肪酸、より好ましくは炭素数20以上で不飽和結合2以上の脂肪酸、さらに好ましくはDHA)含有リン脂質(好ましくはホスファチジルコリン(PC))を採取することを含む、PC-DHAを含有する食品又は医薬用組成物の製造方法を提供する。このような製造方法で得られた組成物は、海水等に由来する不純物をほとんど含まないものになるため、食品や医薬品用に特に適する。
【0032】
本発明はまた、前記培地がDHAを含まない培地である、上記の製造方法を提供する。
本明細書中において、リン脂質とは、グリセロリン脂質及びスフィンゴリン脂質を指し、特にグリセロリン脂質を指す。更に特定すれば、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルコリン(PC)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)及びホスファチジルイノシトール(PI)を指す。グリセロールの1位及び/又は2位にエステル結合した脂肪酸の少なくとも1つが長鎖高度不飽和脂肪酸である場合、該化合物を特に長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質という。エステル結合した脂肪酸の少なくとも1つが長鎖高度不飽和脂肪酸であれば、他の脂肪酸の炭素数及び不飽和度に関わらず、該化合物を長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質という。
【0033】
本明細書中において長鎖高度不飽和脂肪酸とは、炭素数16以上、好ましくは炭素数20以上の脂肪酸であって、不飽和結合を2以上、好ましくは4以上有する脂肪酸を指し、例えば、リノール酸(C18:2n6)、α-リノレン酸(C18:3n3)、アラキドン酸(C20:4n6)、エイコサペンタエン酸(C20:5n4、EPA)、ドコサテトラエン酸(C22:4)、ドコサペンタエン酸(C22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)、C16:2n4、C18:4n3、C20:4n3等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の方法で得られる組成物が含有する長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質に含まれ得る長鎖高度不飽和脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えばC15:0、C13:0、C14:0、C16:0、C16:1n7、C18:0、C18:1n7等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書中において、PC-DHAとは、前記長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質において長鎖高度不飽和脂肪酸がDHAであり、リン脂質がPCであって、PCのグリセロールの1位及び/又は2位の炭素にDHAがエステル結合した化合物の総称である。該化合物において、例えば1位(又は2位)にDHAが、2位(又は1位)に他の脂肪酸がエステル結合している場合、他の脂肪酸の炭素数及び不飽和度は特に制限されず、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。
【0036】
本発明の製造方法で得られるPC-DHAを含有する組成物は、PC-DHAを含む限り、2以上の脂肪酸含有リン脂質からなる組成物であっても、他の構成成分を含むものであっても良い。含まれ得る他の構成成分としては、糖脂質、中性脂質、ステロール類等が挙げられる。好ましくは、上記の組成物は、リン脂質、糖脂質、中性脂質等の脂肪酸を含有する構成成分からなる。
【0037】
高度不飽和脂肪酸含有リン脂質、特にPC-DHA生産能を有する微生物を含む培養物から、当業者に公知の手法を用いて、上記微生物に含まれる高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を含む組成物を回収することができる。例えば:培養物中の微生物を破砕しその破砕した微生物から直接ヘキサン等の有機溶媒によって抽出する;微生物を濾取し得られた微生物を直接圧搾して油分を取り出す;微生物を乾燥後、粉砕機等で粉砕しヘキサン等で抽出する;等の手法を用いることができるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の方法ははまた、DHAを添加しない培地で培養した上記の微生物の培養物からPC-DHA含有組成物を得ることができるため、DHAを効率よく生産することができる。
本発明はまた、前記組成物中において、前記培養物由来である全脂質についてGCを用いて各脂肪酸を定量した場合、全脂質の15%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上)がC15:0であり、全脂質の15%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは33%以上)がDHAである、前記の製造方法を提供する。本発明はまた、前記組成物中において、前記培養物由来である全リン脂質についてGCを用いて各脂肪酸を定量した場合、脂肪酸のの10%以上(好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上)がC15:0であり、脂肪酸の30%以上(好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上)がDHAである、前記の製造方法を提供する。本発明はまた、前記組成物中において、前記培養物由来である脂肪酸含有PCについてGCを用いて1位の脂肪酸を定量した場合に脂肪酸の35%以上(好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上)がC15:0である、前記の製造方法を提供する。本発明はまた、前記培養物由来である脂肪酸含有PCについてGCを用いて2位の脂肪酸を定量した場合に脂肪酸の40%以上(好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上)がDHAである、前記の製造方法を提供する。
【0039】
分析方法
前記のように微生物から抽出した高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を含む組成物について、例えば以下の実施例に記載するような当業者に公知の分析手法を用いて、全脂質、中性脂質、糖脂質、リン脂質等を分画し、各画分を定量することができる。また、分画した各脂質についても、例えば以下の実施例に記載するような当業者に公知の手法を用いて、それぞれ脂肪酸組成を調べることができる。
【0040】
全リン脂質について、HPLCを用いた分析により、全ピーク面積に対する各脂肪酸のピーク面積の割合を算出することで各リン脂質クラス(PC、LPC、PE、PS、PI)の定量的な分析を行うことができる。また、各リン脂質クラスの1位又は2位の脂肪酸について、以下の実施例3のような手法によりGCを用いて脂肪酸組成を分析し、全ピーク面積に対する各脂肪酸のピーク面積の割合を算出することにより、定量的に分析を行うことができる。
【0041】
用途
本発明はまた、上記の化合物を含む、食品又は医薬用組成物を提供する。
本発明はまた、癌又はレム睡眠に関連した疾患又は状態を処置するための、上記の組成物を提供する。
【0042】
本発明の製造方法を用いて製造された組成物並びに本発明の化合物、組成物、及び微生物は、例えば、食品、飼料、医薬、化粧用、特に食品又は医薬品用に用いることができ、例えば食品、飼料、医薬品、化粧品に添加して用いることができる。本発明の製造方法において、例えばタンク培養等の閉鎖培養系を用いれば、得られる組成物への海洋汚染の影響は限りなくゼロに近くなる。海洋汚染物質による汚染の度合いが低いという観点からは、本発明の製造方法で得た組成物は特に、粉ミルク等の乳児用食品、アルテミアやワムシなど食物連鎖の初期の段階に位置する生物用の飼料、乳幼児や妊婦用の食品、医薬品及び敏感肌用化粧品等にも利用することができる。種菌の汚染は、例えば、18S rDNA解析等の手法を用いて調べることが可能である。
【0043】
該利用に際しては、上記の化合物、組成物、組成物を精製して得られる脂肪酸含有リン脂質、上記の微生物若しくはその乾燥物、微生物を培養して得られる培養物若しくはその殺菌した培養物、又は微生物を培養して培養物から長鎖高度不飽和脂肪酸含有リン脂質を採取した後の残渣も使用することができる。
【0044】
上記の食品の例としては、栄養補助食品、乳幼児用調製乳、未熟児用調整乳、幼児用食品、妊婦用食品、老人用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、油脂を含む食品(肉、魚、卵又はナッツ等の天然食品、調理時、加工時、加工仕上げ時に油脂を用いる食品等)、油脂を含まない食品(農産食品、発酵食品、畜産食品、水産食品等)、飲料等が挙げられ、当業者に公知の手法を用いてこれらに本発明の組成物等を配合することができる。配合量は、当業者であれば適宜決定できる。
【0045】
また、本明細書中において、本発明の組成物等を飼料として育てた動物に由来する、本発明の組成物等を含む食品(肉、魚、卵等)も、本発明の特徴を有する限り、本発明の組成物を添加した食品に含まれる。
【0046】
上記の飼料の例としては、動物用飼料(例えば、犬、猫等のペット用飼料、鶏、豚、牛等の家畜用飼料、魚介類や甲殻類用の飼料、魚介類や甲殻類の養殖において種苗(稚仔魚)に用いる動物プランクトン(例えばワムシ、アルテミア)等の微小飼料生物用飼料が挙げられ、当業者に公知の手法を用いてこれらに本発明の組成物等を配合することができる。
【0047】
上記の化粧品の例としては、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄剤等が挙げられ、当業者に公知の手法を用いてこれらに本発明の組成物等を配合することができる。
【0048】
DHAは、アレルギーやガンに対する抑制効果(Duchen K, Casas R, Fageras-Bottcher M, Yu G, Bjorksten B. Pediatr Allergy Immunol. (2000) 11, 29)等多様な生理活性を有することが知られる。また、PC-DHAはレム睡眠の増加(Cheruku SR, Montgomery-Downs HE, Farkas SL, Thoman EB, Lammi-Keefe CJ. Am J Clin Nutr. (2002) 76, 608)、脳卒中の抑制効果(井上 良計, 金田 輝之; オレオサイエンス (2002) 2, 76 )を有することが知られている。さらに、ホスホリパーゼA2(PLA2)によって遊離したDHAは、哺乳類の脳において、核内レセプターのリガンドとして転写を調節するシグナル分子の機能をもつことが報告され(de Urquiza AM, Liu S, Sjoberg M, Zetterstrom RH, Griffiths W, Sjovall J, Perlmann T. Science. (2000) 290, 2140)、遊離したDHAがエイコサノイド様の機能を持つことも注目されている。2位にDHAが導入されている本発明のPC-DHAをヒトに与えた時には、体内でホスホリパーゼ A2で切れることによりDHAが遊離し、エイコサノイド様の作用をすることが期待できる。
【0049】
中性脂質形態の高度不飽和脂肪酸を含む魚油に比べ、リン脂質形態の高度不飽和脂肪酸の方が、脳卒中自然発症高血圧ラットを長生きさせる効果が高いという報告もある(「食品と開発」Vol.34, No.8, P41-43, 1999, 健康産業新聞社発行)。これらのことから、上記の医薬品の例としては、上記のようなDHA又はPC-DHAの機能に関連した疾患又は状態を処置するための医薬品が挙げられ、例えば、アレルギー、癌、脳卒中、レム睡眠に関連した疾患又は状態を処置するための医薬品が挙げられる。特に、抗癌作用を有する食品やレム睡眠を誘導するサプリメント等への利用が期待できる(日経バイオビジネス、2004、10巻、p29)。該医薬品は、当業者に公知の手法を用いて本発明の組成物等を配合して散剤、錠剤、カプセル剤、内用液剤、乳剤等、適切な形態に調製することができる。配合量は、当業者であれば適宜決定できる。
【0050】
本発明の組成物には、その具体的な用途(例えば、栄養補助のため、成長促進のため、体質改善のため、必須脂肪酸(例えばDHA)供給のため、脳卒中予防/抑制のため、レム睡眠増加のため、アレルギー抑制のため、ガン予防のため等)及び/又はその具体的な用い方(例えば、量、回数、期間等)を表示することが出来る。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
F26-b株における全脂肪酸の組成分析 (Qiu X, Hong H, MacKenzie SL. J Biol Chem. (2001) 276, 31561の手法に従って行った)
(1.菌体の培養と回収)
ラビリンチュラ目に属するF26-b株の菌体(林雅弘先生(宮崎大学)より御分与頂いた。FERM AP-20727)をGY培地(pH 6.0、グルコース 3.18g、酵母エキス 1.06g、ストレプトマイシン 0.05g、50%人工海水 100ml) 300ml中で4日間、25℃、150rpmで培養した。3,000rpmで10分遠心し、上清を除去した。0.9% NaClを適当量加え、よく懸濁し、次いで3,000rpmで10分遠心し、上清を除去する作業を繰り返した。超純水を適当量加え、よく懸濁し、3,000rpmで10分遠心し、上清を除去した後、回収した菌体を凍結乾燥した(1.0g)。
【0053】
(2.Folch法による全脂質抽出)
1の工程で回収した菌体に20mlのクロロホルム/メタノール混液(2/1)を加え、超音波処理で菌体を破壊した。3,000rpmで15分間遠心し、上清を回収した。沈殿に20mlのクロロホルム/メタノール混液(2/1)を加え、再度脂質を抽出した。上清を遠心で集め、先の上清合わせ、分液ロートに移した。8mlの2% KCl溶液を加え、二層分配した。下層を回収し、エバポレーターで濃縮乾固した。乾固物を10mlのクロロホルム/メタノール混液(2/1)に溶解し、適当量を試験管に移しメチル化後、脂肪酸の分析を行った。
【0054】
(3.FAのメチル化)
2で得た濃縮乾固したサンプルに2mlの3N methanolic HClを添加し、80℃で、一晩インキュベートした。室温まで冷まし、1mlの0.9% NaClを添加した。2mlのn-ヘキサンを加えてボルテックスし、次いで3,000rpmで10分遠心し、上層(ヘキサン層)を回収する作業を繰り返した。無水硫酸ナトリウムを少量添加した後、ろ過によって無水硫酸ナトリウムを除去し、ろ液を窒素ガスで濃縮乾固した。濃縮乾固したサンプルを200μlのn-ヘキサンで溶解した。
【0055】
(4.GCによるFA分析)
3で得た試料を以下の条件で分析した。使用機材:Shimazu GC-14A (Shimazu Co., Japan)、カラム:HR-SS-10, 30 m x 0.25 mm i.d. (Shinwa Chemical Ind. Ltd., Japan) 、カラム温度: 150℃から220℃に昇温(2℃/分)。各ピークの同定はPUFA 3 standard mixture(Matreya)を使用した。
【0056】
結果:
図2は、F26-b株の菌体からn-ヘキサンで抽出した全脂肪酸の組成をGCを用いて分析した結果である。保持時間23分台のピークがマーカーのDHAメチルエステル(SIGMA)の保持時間と一致することが確認されたので、さらにこのピークについてGC/MS解析を行った(図3)。その結果、標品のDHAとフラグメントが一致したので23分台のメジャーなピークはDHAであることが同定された。GC AREAをもとに算出したF26-b株の菌体の全脂質の脂肪酸組成を、表2中に示す。
この結果、F26-b株の菌体において全脂肪酸の約33%がDHAであることがわかった。また興味深いことに、飽和脂肪酸、特に哺乳動物には存在しない奇数飽和脂肪酸(C13:0、C15:0)、特にC15:0が非常に多く含まれていることが分かった。
【0057】
実施例2
F26-b株における中性脂質、糖脂質、リン脂質の脂肪酸分析
(全脂質の中性脂質、糖脂質、リン脂質への分離)
Sep-Pak Silica (Waters)を30mlのクロロホルムで平衡化した。濃縮乾固した全脂質を、2mlのクロロホルムに溶解し、サンプルを全量、カラムに負荷した。溶出は次の溶媒を用いて行った:クロロホルム30ml(中性脂質)、アセトン50ml(糖脂質)、メタノール20ml(リン脂質)。この順で溶出し、5mlずつのフラクションを回収した。以下の条件で、TLCによって各脂質が回収できていることを確認した。展開溶媒:n-ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=80:20:1(v/v/v)(中性脂質)、クロロホルム/メタノール/水=65:25:4 (v/v/v) (糖脂質、リン脂質)。発色試薬:50%硫酸 (中性脂質)、オルシノール硫酸 (糖脂質)、Dittmer 試薬(リン脂質)。各フラクションをエバポレーターで濃縮した。FAの抽出、FAのメチル化、GCによるFA分析については、実施例1と同様の手法を用いて行った。
【0058】
結果:
表1は、抽出に用いた菌体の乾燥重量と抽出した脂質重量を示す。
【0059】
【表1】
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【0060】
表2は、GC AREAからF26-b株の全脂質、中性脂質、糖脂質、リン脂質に画分おける脂肪酸組成を算出した結果を示す。
【0061】
【表2】
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【0062】
乾燥菌体から抽出した全脂質量及び、該全脂質中のDHA含有量から算出したところ、F26-b株の乾燥菌体1gから約87mg(8.67%)のDHAが抽出できたことが分かった。以上のことから、F26-b株の菌体は従来の報告どおり、高度にDHAを産生することが確認された。一般に、DHAを高度に含む魚とされるイワシの場合、1匹(100g)あたり1g程度のDHAを含むとされる。このデータと比較しても本株はDHAを豊富に含有しており、DHAの単離源として優れているといえる。また、リン脂質画分のDHAは約51%であることが分かった。
【0063】
実施例3
F26-b株におけるDHA含有リン脂質の分子種の同定(Mawatari S, Murakami K. Analytical Biochemistry. (1998) 264, 118の手法を用いて行った)
(1.HPLCを用いたリン脂質画分のクラス分離)
実施例2で回収したリン脂質画分をエバポレーターで濃縮し、200μlのn-ヘキサン/イソプロパノール=3:1(v/v)に溶解した。次の条件で分離を行った。カラム:wakosil 5 NH2 Column, 250 x 4.6 mm (和光純薬)、移動相:アセトニトリル/メタノール/0.2%トリエチルアミン=67:22:11(v/v/v)(0.2%トリエチルアミンはリン酸でpH4.0に調整)、流速:1ml/分、カラム温度:40℃、検出波長:210nm。
PC (Avanyi Polar Lipids)、PE(SIGMA)、PS (DOOSAN Serdary Research Laboratories)、PI (DOOSAN Serdary Research Laboratories)、LPC (1-Palmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine; Matreya)(各1μg/μl)をマーカーとして20μlを負荷し、F26-b株由来のリン脂質画分を20μl負荷した。マーカーの保持時間に従って、クラスごとに試験管に回収した。エバポレーターで回収したサンプルを濃縮し、2mlのクロロホルム/メタノール=2:1(v/v)を加え、400μlの2%KCl溶液を添加した。よくボルテックスし、3,000rpmで5分遠心をかけ、上層を除き、残った下層を窒素ガスで濃縮乾固した。
【0064】
(2.PLA2によるFAの遊離)
濃縮乾固したサンプルに2mlのジエチルエーテルを加え、よく懸濁した。酵素液(200 mM Tris-HCl buffer (pH9.0)、6 mM CaCl2、PLA2(ホスホリパーゼA2、Naja mossambica mossambica由来; SIGMA))を調整し、5Unitを100μl加え、2分ボルテックスした。37℃で2時間インキュベートした。窒素ガスでジエチルエーテルを除き、2mlのクロロホルム/メタノール=2:1(v/v)を加え、400μlの2%KCl溶液を添加した。よくボルテックスし、3,000rpmで5分遠心した。下層を回収し、残った上層に1mlのクロロホルムを添加した。よくボルテックスし、3,000rpmで5分遠心した。下層を回収し、先に回収した分と合わせ、300μlを分取し、以下の条件でTLCによって反応産物を確認した。展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水=65:25:4(v/v/v)、発色試薬:50%硫酸、Dittmer試薬。残りは窒素ガスで濃縮乾固した。
【0065】
(3.FAの精製)
Sep-Pak Silica (Waters)を30mlのクロロホルムで平衡化し、濃縮乾固したサンプルを、2mlのクロロホルムに溶解した。サンプルを全量、カラムに負荷し、次の溶媒で溶出した:クロロホルム30ml(遊離脂肪酸)、アセトン10ml、メタノール20ml(リゾリン脂質)。この順で溶出し、溶媒ごとにフラクションを回収した。以下の条件で、TLCによって脂肪酸が精製できていることを確認した。展開溶媒:クロロホルム/メタノール/水=65:25:4(v/v/v)、発色試薬:50%硫酸(遊離脂肪酸)、Dittmer試薬(リゾリン脂質)。クロロホルム画分とアセトン画分を合わせて、濃縮乾固し、sn-2位の脂肪酸組成を分析した。さらに、メタノール画分も濃縮乾固し、sn-1位の脂肪酸組成を分析した(PLA2によって遊離する脂肪酸を2位、残りの脂肪酸(リゾリン脂質の脂肪酸)を1位の脂肪酸とする)。
FAのメチル化、GCによるFA分析については、実施例1と同様の手法を用いて行った。
【0066】
結果:
F26-b株から抽出したリン脂質画分を、HPLCを用いてPC、LPC、PE、PI、PSの各種リン脂質クラスに分離した(図4)。HPLCのクロマトグラムから5分台にPC、10分台にLPC、13分台にPE、18分台にPI、25分台にPSが溶出することがわかった。
表3は、HPLCのAREA比から算出した各リン脂質クラスの割合を示す。
【0067】
【表3】
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【0068】
また各種リン脂質クラスごとに2位に含まれるFAの組成をGCで分析し、各画分のFAの割合をGC AREAから算出した結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
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【0070】
さらに、各種リン脂質クラスごとに1位に含まれるFAの組成をGCで分析し、各画分のFAの割合をGC AREAから算出した結果を表5に示す。
【0071】
【表5】
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【0072】
HPLC AREAより、F26-b株に含まれるリン脂質は約70%以上がPC画分から構成されており、次いでPE画分が約16%、PS画分が約9%、LPC及びPI画分が共に約3%の順に多く含まれていることが分かった。つまりF26-b株においてPC-DHAが豊富に存在することが確認された。これまでの研究で、DHA含有リン脂質の主な単離源の1つであるムラサキイカの場合、リン脂質中の50%がコリン含有リン脂質であり、そのコリン含有リン脂質に含まれる脂肪酸の50%がDHAであることが報告されている。今回の結果と比較すると、F26-b株はムラサキイカに匹敵するPC-DHAの供給源となりうることが示唆された。
【0073】
実施例4
新規PC-DHAの構造決定
(1.HPLCを用いたPC画分の脂肪酸種による分離)
F26-b株に最も多く含まれる、DHA含有PCの構造を決定するため、さらに含有する脂肪酸種によるPCの分離を行った。分離にはMalissa Smith and Firoze B. Jungalwala. 1981. J. Lipid Res. 22: 697-704 中に記載の手法を参照した。
分離条件は以下の通りである。カラム:Inertsil ODS-3 (4.0×250 mm)、移動相:メタノール/1 mM リン酸カリウム緩衝液 (pH 7.4)=9.5:0.5、検出波長:205 nm、流速:1 ml/min、温度:30℃。
実施例3で回収したPC画分を窒素で乾固し、クロロホルム(適当量、約100~200μl)に溶解した。10μlを上記の条件でHPLCに負荷した。各ピークを回収し、エバポレーターで濃縮した。HPLCのチャートを図5に示す。
【0074】
(2.各PC画分の脂肪酸組成分析)
HPLCによって分離した各PC画分において最も占有率の高かった、図5中3番のピークについて、GCを用いて、脂肪酸組成を分析した。GCのチャートを図6に示す。
【0075】
(3.FAB-MS測定及びNMR測定)
GC分析により図5中3番ピークにおける脂肪酸組成が、C15:0及びDHAを含むPCであることが確認されたので(図6)、FAB-MS及びNMR測定を行い、構造決定を行った。図7はFAB-MS(negative)、図8はFAB-MS(positive)の結果を示す。また、図9は1H NMR、図10は2次元NMRの結果である。その結果、図11に示すような構造を持つ化合物であることがわかった。測定に際し、Nancy J. Jensen, Kenneth B. Tomer and Michael L. Gross. 1986. Lipids. 21: 580-581及び Holly C. Gaede, Ruth E. Stark. 2001. J. Chem. EduC. 78: 1248-1250を参照した。
今回決定された、2位にDHA、1位にC15:0の奇数の脂肪酸が結合しているPCは世界で最初の発見である。また哺乳類の脳の場合、PLA2の働きでリン脂質から遊離したDHAは核内レセプターのリガンドとして、転写を調節するシグナル分子の働きをもつことが報告されている(de Urquiza AM, Liu S, Sjoberg M, Zetterstrom RH, Griffiths W, Sjovall J, Perlmann T. Science. (2000) 290, 2140)。ラビリンチュラ目の微生物においてホスホリパーゼによってDHAが遊離する場合、哺乳類と同様に原生生物であるラビリンチュラ目の微生物においても、DHAがシグナル分子として働く可能性が示唆される。
【0076】
実施例5
F26-b株の18S rDNA解析
F26-b株の分子系統解析を行った。菌体から分離、精製した全ゲノムDNAをもとに、PCRで18S rRNA遺伝子(18S rDNA)を増幅した。このPCR産物をシークエンサーで全塩基配列を解析した。得られたF26-b株の18S rDNAの全塩基配列(1755bp、配列番号:1)をもとに、データベース(NCBI blast)で検索したところ、Schizochytrium sp. FJU-512と高い同一性(1744/1757 x100= 99.2601%)を持つことが分かり、また、その分裂様式についても、顕微鏡下の観察で二分裂することが確認されたので、F26-b株はスキゾキトリウム属の菌体であると結論した。図12は、18S rRNA遺伝子について、F26-b株(上段)と、FJU-512(下段)とを比較した図である。また、18S rRNA遺伝子の解析に基づく系統樹を、図13に示す。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、実施例1~3で用いたF26-b株の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例1において、F26-b株の脂肪酸を分析したGCによるクロマトグラムである。
【図3】図3は、実施例1において、F26-b株のDHAを同定したGC/MSのチャートである。
【図4】図4は、実施例3において、F26-b株のリン脂質画分をクラス分離したHPLCのチャートである。
【図5】図5は、実施例4において、F26-b株のPC画分を分離した逆相HPLCのチャートである。
【図6】図6は、実施例4において、HPLCで分離した画分をGC分析したチャートである。
【図7】図7は、実施例4において、HPLCで分離した画分をFAB-MS(negative ion)測定したチャートである。
【図8】図8は、実施例4において、HPLCで分離した画分をFAB-MS(positive ion)測定したチャートである。
【図9】図9は、実施例4において、HPLCで分離した画分を1H-NMR測定したチャートである。
【図10】図10は、実施例4において、HPLCで分離した画分を2次元NMR測定したチャートである。
【図11】図11は、実施例4において、FAB-MS及びNMRの測定結果から導かれた新規PC-DHAの構造を示す。
【図12-1】図12は、実施例5において、18S rRNA遺伝子について、F26-b株(上段)と、FJU-512(下段)とを比較した図である。
【図12-2】図12-1の続きである。
【図13】図13は、実施例5の、F26-b株の18S rRNA遺伝子解析に基づく系統樹を示す。
Drawing
(In Japanese)【図2】
0
(In Japanese)【図3】
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(In Japanese)【図4】
2
(In Japanese)【図5】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図10】
8
(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図12-1】
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(In Japanese)【図12-2】
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(In Japanese)【図13】
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(In Japanese)【図1】
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