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明細書 :フラップエンドヌクレーゼ活性増強因子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5030265号 (P5030265)
公開番号 特開2008-136446 (P2008-136446A)
登録日 平成24年7月6日(2012.7.6)
発行日 平成24年9月19日(2012.9.19)
公開日 平成20年6月19日(2008.6.19)
発明の名称または考案の名称 フラップエンドヌクレーゼ活性増強因子
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C07K  14/195       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/22        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C07K 14/195
C12N 15/00 A
C12N 9/22
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2006-328160 (P2006-328160)
出願日 平成18年12月5日(2006.12.5)
審査請求日 平成21年12月1日(2009.12.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】堀江 祐範
【氏名】謝 敏▲玉▼
【氏名】福井 孝一
【氏名】景山 義隆
【氏名】松本 和子
【氏名】石野 良純
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
審査官 【審査官】神谷 昌男
参考文献・文献 特開2002-315588(JP,A)
Mol. Cell,2003年,11,275-82
Mol. Microbiol.,2007年,64(2),308-18
Mol. Cell,2006年10月,24,279-91
Acta. Crystallogr. Sect.F,2006年10月,62(10),944-8
調査した分野 C12N15/00-15/90

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなるヘテロ3量体蛋白質の存在下でフラップエンドヌクレアーゼを作用させる、一塩基多形のタイピング方法。
【請求項2】
配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質からなり、かつフラップエンドヌクレアーゼ活性を増強する活性を有するヘテロ3量体蛋白質の存在下で、フラップエンドヌクレアーゼを作用させる、一塩基多形のタイピング方法。
【請求項3】
フラップエンドヌクレアーゼがアエロピラム(Aeropyrum)属細菌もしくはスルホロバス(Sulfolobus)属細菌由来のフラップエンドヌクレアーゼである、請求項1又は2に記載の一塩基多形のタイピング方法。
【請求項4】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなるヘテロ3量体蛋白質及びフラップエンドヌクレアーゼを含む、一塩基多形のタイピング用キット。
【請求項5】
配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質からなり、かつフラップエンドヌクレアーゼ活性を増強する活性を有するヘテロ3量体蛋白質及びフラップエンドヌクレアーゼを含む、一塩基多形のタイピング用キット。
【請求項6】
フラップエンドヌクレアーゼがアエロピラム(Aeropyrum)属細菌もしくはスルホロバス(Sulfolobus)属細菌由来のフラップエンドヌクレアーゼである、請求項4又は5に記載の一塩基多形のタイピング用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は一塩基遺伝子多刑(SNP)のタイピングに利用されるフラップエンドヌクレアーゼの活性を増強する因子とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子多形、特に一塩基多形(single nucleotidepolymorphism、SNP)は、遺伝暗号である核酸の塩基配列の個人間における一遺伝暗号の違いを意味する。かかる塩基配列の違いが、疾患へのかかりやすさ(疾患易罹患性)や薬物作用の程度を決定する要因の一つとなり得ることから、このSNPの有無とその判定方法は、多くの関心を集めている技術である。
【0003】
このSNPの有無の判別方法、いわゆるSNPのタイピング法に、「インベーダー法」と呼ばれる方法がある。この方法の原理は非特許文献1に詳しく説明されているが、要すれば、SNPの存在が想定される塩基を境に、その3’末端側で鋳型DNAとハイブリダイズすることのできる塩基配列を有し、かつその5’末端側で鋳型DNAとはハイブリダイズしない塩基配列を有するアレルプローブと、SNPの存在が想定される塩基を3’末端としてその上流側の配列とハイブリダイズすることのできる塩基配列を有するインベーダープローブを用意し、これらを鋳型DNAにハイブリダイズさせた後、アレルプローブのハイブリしていない5’末端部分をエンドヌクレアーゼで切断し、このとき生じるDNA断片を基にして、SNPの存在を確認する方法である。
【0004】
このインベーダー法で使用されるエンドヌクレアーゼは、別名フラップエンドヌクレアーゼ(Flap EndoNuclease、FEN)と呼ばれている。FENは、二本鎖DNA上で相補的結合を形成せずに存在している部分(フラップ)を、相補的結合をしている塩基の5’末端側で切断して遊離させるが、その特異性は切断されるDNAの塩基配列には依存しないという特徴を有する、エンドヌクレアーゼの一種である。
【0005】
実用化され、広く利用されているインベーダー法では、cleavaseと呼ばれるArchaeoglobus fulgidus由来の酵素(非文献特許2)がFENとして利用されることが多いが、このcleavaseの他にも、微生物由来のFENが幾つか報告されている。その一つに、超好熱性古細菌の一種のアエロピルム属細菌 であるAeropyrum pernix(A.pernix)由来のFENがある(AP-FEN、非特許文献3)。
【0006】
しかし、このAP-FENは、cleavaseと比較してDNAフラップを切断する活性(フラップ切断活性)が低いことなどから、AP-FENを用いたインベーダー法は実用化されるまでには至っていない。

【非特許文献1】中村祐輔編、SNP-遺伝子多形の戦略、2001年、第4刷、中山書店、東京。
【非特許文献2】Cookseyら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2000年、第 44巻、第5号、第1296~1301頁
【非特許文献3】Collinsら、Acta Crystallograhica sectionD, Biological Crystallography. 2004年、第60巻、第1674~1678頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、AP-FENを用いたインベーダー法の実用化に向けた、AP-FENのフラップ切断活性を増強する機能を有する因子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、A.pernixからDNAポリメラーゼ補助活性因子として単離されているPCNAから構成される特定のヘテロ3量体タンパク質が、AP-FENのみならず、クレナーキオタ(Crenarchaeota)門に属するアーキアの一種のスルホロバス属細菌であるSulfolobus.tokodaii(S. tokodaii、WakagiおよびOshima、Biochimica et biophysica acta. (1985) 817(1):33-41.)由来のFENのフラップ切断活性をも増強する機能を有していることを見いだし、以下に記載の本発明を完成した。
【0009】
1) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質よりなるヘテロ3量体蛋白質。
【0010】
2) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質よりなる、フラップエンドヌクレアーゼ活性を増強する活性を有するヘテロ3量体蛋白質。
【0011】
3)1)又は2)に記載のヘテロ3量体の存在下でフラップエンドヌクレアーゼを作用させる、DNAフラップの切断方法。
【0012】
4)フラップエンドヌクレアーゼがアエロピラム(Aeropyrum)属細菌もしくはスルホロバス(Sulfolobus)属細菌由来のフラップエンドヌクレアーゼである、3)に記載の切断方法。
【0013】
5)1)または2)のヘテロ3量体の存在下でフラップエンドヌクレアーゼを作用させる、一塩基多形のタイピング方法。
【0014】
6)フラップエンドヌクレアーゼがアエロピラム(Aeropyrum)属細菌もしくはスルホロバス(Sulfolobus)属細菌由来のフラップエンドヌクレアーゼである、5)に記載の切断方法。
【0015】
7)1)又は2)に記載のヘテロ3量体蛋白質及びフラップエンドヌクレアーゼを含む、一塩基多形のタイピング用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛋白質(以下、FENAFとする)は、A. pernix由来のFENであるAP-FENとともに使用することで、該AP-FENをSNPのタイピング方法であるインベーダー法において利用可能となるまで、AP-FENのフラップ切断活性を増強することができる。また、本発明のFENAFは、A. pernix由来のFENのみならず、他の微生物由来のFEN、例えばクレナーキオタ(Crenarchaeota)門に属するアーキアの一種のS.tokodaii由来のFENのフラップ切断活性をも増強することができる。すなわち、本発明のFENAFは、FENの由来に制限されることなく、SNPのタイピング法であるインベーダー法においてFENのフラップ切断活性を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のFENAFは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質よりなるヘテロ3量体蛋白質であり、FEN、特にA.pernixならびにS.tokodaii由来のFENのフラップ切断活性を増強する活性を有している。
【0018】
このFENAFを構成する蛋白質のうち、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は特開2002-315588(特許文献1)に記載されたApePCNA-1と同一の蛋白質であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、特許文献1に記載されたApePCNA-2Lと同一の蛋白質であり、また配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、特許文献1に記載されたApePCNA-3と同一の蛋白質である。本発明では、FENAFを構成する配列番号1~3に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質を、それぞれFenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3と表すこととする。すなわち、ApePCNA-1とFenAfs1は同一のアミノ酸配列からなる蛋白質であり、ApePCNA-2LとFenAfs2は同一のアミノ酸配列からなる蛋白質であり、またApePCNA-3とFenAfs3も同一のアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0019】
以上のように、FenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3はそれ自体公知の蛋白質であるが、特許文献1には、これら3種類の蛋白質を構成要素とした、FenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3それぞれ1分子よりなるヘテロ3量体タンパク質それ自体について、さらにはかかるヘテロ3量体タンパク質がFENのフラップ切断活性を活性化する機能を有することについては、全く報告されていない。また、特許文献1は、ApePCNA-1~3はいずれもA.pernix由来のPol-1とPol-2、すなわちDNAポリメラーゼに対するDNA鎖合成活性を促進する補助因子として把握されており、FENとの関連性は何ら示唆されてはいない。
【0020】
本発明のFENAFは、後に述べる反応条件で使用されることで、FENのフラップ切断活性を1.5~2倍に増強する活性を有している。その結果、FENを用いたインベーダー法によるSNPタイピングの判別限界、すなわち、判別に必要な検体DNAの最小必要量は、FENAFの非存在時に比べ6倍となり、より少ない検体量でSNPの判別が可能となる。
【0021】
なお、本発明には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質よりなるヘテロ3量体蛋白質のみならず、かかる蛋白質のアミノ酸配列の一部が変異したいわゆる変異体であっても、依然としてヘテロ3量体を形成し、かつFEN活性増強作用を有する限り、本発明に含まれる。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる変異体蛋白質よりなり、フラップエンドヌクレアーゼ活性を増強する機能を有するヘテロ3量体蛋白質は、本発明の範囲内にあるとして理解される。その様な変異の例としては、グルタミン酸とアスパラギン酸との間での置換、セリンとスレオニンとの間での置換その他の、いわゆるアミノ酸残基の保存的置換や、グリシンやアラニンの付加、欠失、疎水性アミノ酸残基間の置換など、当業者に広く理解されている許容され得る変異が挙げられる。
【0022】
FenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3は、これらを適当な条件下に共存させると、自発的にヘテロ3量体、すなわち本発明のFENAFを形成する性質を有している。従って、本発明のFENAFは、FenAfs1、FenAfs2、FenAfs3をそれぞれ遺伝子組換手法等によって別個に調製した後、これらを適当な条件下で混合することで、製造することができる。また、FenAfs1、FenAfs2、FenAfs3をそれぞれコードする遺伝子を一つの宿主細胞内に共存させ、これらの遺伝子を発現させた後、該細胞からFENAFを回収することによって製造してもよい。
【0023】
FneAct1、FenAfs2ならびにFenAfs3の調製は、特許文献1に記載される通りの方法で行うことができる。具体的には、1)FenAfs1(配列番号1)、FenAfs2(配列番号2)、FenAfs3(配列番号3)をコードするDNAを調製し、2)該DNAをそれぞれ別々に発現ベクターに挿入し、3)該ベクターで適当な宿主細胞を別々に形質転換して形質転換体を得、4)該形質転換体をそれぞれ培養し、5)各培養物から所望の蛋白質をそれぞれ回収し、5)回収された各蛋白質を混合すればよい。
【0024】
あるいは、1)FenAfs1(配列番号1)、FenAfs2(配列番号2)、FenAfs3(配列番号3)をコードするDNAを調製し、2)該DNAを一種あるいは複数の発現ベクターに挿入し、3)該ベクターを一つの宿主細胞に導入して形質転換体を得、4)該形質転換体を培養し、5)該培養物からFENAFを単離することもできる。
【0025】
上記の操作で利用可能なベクター、宿主細胞、遺伝子工学用試薬、培地その他の本発明の実施に必要な材料、遺伝子組み換え手法、形質転換法、宿主細胞の培養方法、蛋白質の精製方法などは、全て特許文献1に記載された材料ならびに方法を流用することができる。具体的には、特許文献1において、ApePCNA-1、ApePCNA-2LならびにApePCNA-3をそれぞれFenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3へそれぞれ置き換えた上で、特許文献1の記載に従えばよい。また、遺伝子工学的手法を解説する種々の実験解説書が説明する材料や方法を利用して、本発明のFENAFを製造してもよい。
【0026】
本発明のDNAフラップの切断方法は、FEN、好ましくはA.pernix由来のFENあるいはS.tokodaii由来のFENと前述したFENAFとを共存させて、DNAのフラップ部分を切断する方法である。
【0027】
本発明において好適に使用されるFENとしては、Aeropyrum属細菌やSulforobus属細菌を含むクレナーキオタ(Crenarchaeota)門に属する微生物が産生するFENを挙げることができる。好ましくは、Aeropyrum属細菌またはSulforobus属細菌由来のFENであり、特に好ましくはA.pernix由来のFEN(非特許文献3)またはS.tokodaii由来のFENである。これらのFENは各文献に記載された方法に従って調製し、本発明の方法に利用することができる。
【0028】
FENとFENAFは、蛋白重量比で1:1、好ましくは1:2~1:4、より好ましくは1:5の比率で共存させることができる。
【0029】
また、本方法におけるDNAフラップの切断反応時のpH、反応時間、温度、基質となるDNAフラップと酵素の比率等の各種反応条件は、使用するFENに好適な条件、すなわちFENAFの非存在下でDNAフラップを切断するときの各FENに好適な条件と同じにすればよい。例えば、AP-FENを用いる場合には、pHは7.0~8.0、温度は63℃前後、FENと基質のモル比は1:5で、60分程度反応させればよい。すなわち、FENによるDNAフラップの切断反応へのFENAFの追加は、同切断反応の反応条件に格別の変化をもたらさない。
【0030】
前記の方法は、そのままSNPのタイピング方法の一種であるインベーダー法に適用することが可能である。すなわち、FENAFの存在下でFENを用いてDNAフラップを切断する行程を含む一塩基多形のタイピング方法が、本発明として提供される。この方法も、前記のDNAの切断方法と同様の条件下で、FENAFとFENとを共存させて、従来公知の方法に従ってインベーダー法を行えばよく、FEN[を用いたインベーダー法へのFENAFの追加は、インベーダー法自体の一般的な反応条件に格別の変化をもたらさない。
【0031】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【実施例】
【0032】
1.FENAFの調製
1)FenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3の調製
特許文献1の実施例の記載の通りの操作を行い、ApePCNA-1、ApePCNA-2LならびにApePCNA-3、すなわちFenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3を単離、精製した(図1)。
【0033】
FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3それぞれをSuperdex-200カラム(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いた分子篩いクロマトグラフィーに供し、溶出パターンを分析した(図2)。タンパク質の溶出を280nmの吸収により検出し、FenAsfの溶出位置を分子量マーカーのものと比較して、各FenAsf複合体の形態を推定した。さらに、各画分をSDS-PAGEに供してCBB染色した。この結果、FenAfs1、FenAsf3は30kDa付近にピークが現れたことから、単量体で存在することが明らかとなった。一方、FenAsf2は90kDa付近にピークが現れたことから三量体の形で存在すると考えられた。従って、FenAsf2のみが三量体をとり得ることが明らかとなった。
【0034】
2)FENAFの調製
1)で単離精製したFenAfs1~3をそれぞれ等モルとなるように混合し、1)と同様に分子篩クロマトグラフィーに供した(図3)。この結果、FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3を混合した場合、ヘテロ三量体に相当する109kDaの位置にタンパク質の溶出が見られた。このとき、単量体や二量体に相当する分子量の位置にはなんらピークが見られなかったことから、この三量体はFenAfs1、FenAsf2、FenAsf3それぞれ一分子が会合してなるヘテロ三量体(FenAsf123、本発明のFENAF)であることが確認された。FenAfs2およびFenAsf3の混合によってもヘテロ三量体をとるが、分子篩いクロマトグラフィーによる分子量の解析とSDS-PAGEの結果から、FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3を混合した場合には、ほぼ全てがFenAfs1-2-3ヘテロ三量体として構成されていると考えられる。
【0035】
さらに、免疫沈降法により、FenAfs三量体の構成成分を確認した。精製した各PCNA、FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3を各組み合わせ(図4の下部に示した。+で示したものが含まれる)で混合し、それぞれ抗FenAfs1抗体、抗FenAsf2抗体、抗FenAsf3抗体により沈降させた(図4上部に示した)。抗体と反応した沈殿物を、図4の左に示した各抗体を用いてウエスタンブロット法により分析した。この結果、FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3を混合した場合には、全ての抗体について反応が見られたことから、三種類のFenAsfを混合した結果生ずるヘテロ三量体にはFenAfs1、FenAsf2、FenAsf3すべてが含まれることが確認された。
【0036】
<実施例2>フラップ切断活性の増強効果の確認
1)基本反応プロトコル
10×バッファ(100mM Tris-HCl, pH7.4, 75mM MgCl, 0.5% Tween20)1μl、シグナルプローブ2μl、ターゲットDNA 0.5μl、蒸留水2.5μlを混合し、95℃で5分間保持する。氷冷後、さらにU1プローブ2μl(100nM)、AP-FEN(200ng/μl)1μl、FENAF1μl (AP-FENに対しモル比2倍)を加え、63℃で15分または60分保持する。所定時間インキュベートした後、等量(10μl)のローディングバッファ(95%ホルムアミド、10mM EDTA、0.03%ブロモフェノールブルー)を加え、95℃、5分加熱し、2.4%尿素を含む20%アクリルアミドゲルで電気泳動した。泳動後のゲルをUV照射下で観察し、FITCの蛍光によりU0またはU1プローブの切断/非切断を確認する。
【0037】
上記のシグナルプローブ、ターゲットDNAならびにU1プローブの塩基配列は次の通りである。
【0038】
シグナルプローブ 5’-FITC-AACGAGGCGCACACTCCCGCAGACAC-3’(配列番号4)
ターゲットDNA 5’-GTGTCTGCGGGAGTCGATTTCATCATCACG -3’(配列番号5)
U1プローブ 5’-CAAAGAAAAGCTGCGTGATGATGAAATCGC-3’(配列番号6)
シグナルプローブは、切断の検出のために5’末端側にFITCを標識した。下線はフラップ部分を示す。U1プローブは、ターゲットDNA、シグナルプローブとの間に3重鎖を形成することができ、その結果シグナルプローブがFENによる切断を受ける。
【0039】
2)FENのフラップ切断活性の活性化
基本反応プロトコルの条件でAP-FENのフラップ切断活性を測定した(15分間反応/図5左、60分間反応/図5右)。左右いずれの図においても、レーン1はbufferAを加えたコントロール、レーン2はFenAfs1の添加を、レーン3はFenAsf2の添加を、レーン4はFenAsf3の添加を、レーン5はFENAFの添加をそれぞれ示す。
【0040】
その結果、コントロールに比べて、FENAFの添加によって1.5~2.0倍の切断活性(左右ともレーン5)の上昇が確認された。このフラップ切断活性の上昇は、FenAfs1、FenAsf2、FenAsf3の添加では殆ど観察されなかった。
【0041】
3)FENの基質特異性への影響
下記の塩基配列からなるU0プローブを用意した。
【0042】
U0プローブ 5’-CAAAGAAAAGCTGCGTGATGATGAAATCG-3’(配列番号7)
U0プローブはターゲットDNAとシグナルプローブとの間に3重鎖部分を形成しないため、AP-FENはU0プローブ存在下でシグナルプローブを切断することはない。上記基本反応プロトコールにおけるU1プローブに換えてこのU0プローブを用い、FENAの各存在下でAP-FENの活性を測定した(15分間反応/図6左、60分間反応/図6右)。左右いずれの図においても、レーン1はbufferAを加えたコントロール、レーン2はFenAfs1の添加を、レーン3はFenAsf2の添加を、レーン4はFenAsf3の添加を、レーン5はFENAFの添加をそれぞれ示す。。
【0043】
その結果、U0プローブを用いた場合には全てのサンプルについてフラップ切断活性は検出されなかった。以上から、FenAfs1、2、3ならびにFENAFの添加はAP-FENの基質特異性に影響を与えないことが確認された。
【0044】
3)鋳型濃度への影響
1)の基本反応プロトコルにおけるターゲットDNAの濃度を、1nM、2nM、4nM、6nM、8nM、10nM、50nM、100nMとして反応を行い、同プロトコル条件下での基質濃度に関する反応検出限界を確認した。反応限界は、蛍光強度をY軸に、ターゲット濃度をX軸にとって検量線を引いた後、濃度0(コントロール)のときの値にSD値を3倍したものを加えた値が検量線と交わる濃度とした。
【0045】
その結果、本発明のFENAFの存在下では、基質濃度が4nMでも活性が確認されたが、FENAF非存在下でのAP-FENのフラップ切断活性は、基質濃度が4nMでは確認されなかった(図7)。以上から、FENAFは、AP-FENの活性検出限界を約6倍高めることが確認された。
【0046】
4)FENとFenAfs各3量体との比率
1)の基本反応プロトコルにおけるFENAFの添加量を、AP-FEN(200ng/μl)に対してモル比で10、5、2、1、0.1倍と変化させて、AP-FENのフラップ切断活性に対する影響を測定した(図8)。
【0047】
その結果、AP-FENに対して加えたFENAF量に比例してフラップ切断活性が上昇した。切断された断片のFITC強度による比をとると、FENAFを加えない場合を1としたとき、AP-FENに対するFENAFのモル比が0.1、1、2、5及び10のとき、それぞれ1.3、1.7、2.0、2.1及び2.2であった。この結果から、AP-FEN:FENAFが1:2でおおよそ平衡に達すると考えられた。1:2以上ではFENAFを過剰に加えてもそれに見合った効果は得られなかった。またFENAFはこれを過剰に加えた場合にも、AP-FENの切断活性に対して阻害作用は示さなかった。従って、AP-FEN:FENAFの比は、モル比で1:1、好ましくは1:2~1:5とすればよい。
【0048】
実施例3 FenAfs123(FENAF)のSTL-FENへの影響
1)STL-FENの調製
独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門より、S. tokodaiiゲノムのクローンを入手した。Kawarabayashiら(DNA Research、20018巻、第4号、123-140)によって決定され、PubMed Accession No.:NC_003106で公開されているS.tokodaiiのゲノム配列情報から、フラップエンドヌクレアーゼ遺伝子(ID:1458101)とそのアミノ酸配列(ID:NP_376062)を特定した。このアミノ酸配列はN末端にメチオニンを持たないため、ORFが始まる最初のアミノ酸コドンをメチオニンコドンに変換することのできるフォワードプライマーとORFのC末端にHisタグを付加することのできるリバースプライマーとを用いてPCRを行い、増幅された約1065bpのDNA断片をpET-22bベクター上にクローニングした。このDNA断片をpET-22bベクターに組み込み、組換えプラスミドpET-STLfenを得た。該プラスミド中の増幅部分の塩基配列に変化がないことを確認した後、該プラスミドで大腸菌RosettaTM(DE)を形質転換し、Escherichia coli Rosetta / pET-STLfenを得た。
【0049】
E.coli Rosetta / pET-STLfenを、アンピシリンが100μg/mlの濃度で存在するLB培地(トリプトン10g/酵母エキス5g/NaCl 10g/リットル, pH7.0)200mlで37℃で培養した。OD600を測定し、0.5となった時点で、培地に誘導物質であるイソプロピル-D-チオガラクトシド(IPTG)を最終濃度1.0mMとなるように添加し、タンパク質の発現を誘導した。5時間培養した後、培養液を7,000rpm、15分遠心することにより集菌した。集菌後の菌体を、5mlの溶解バッファ(25mM Tris-HCl, pH8.0、1.0mM EDTA、1% TritonX-100)に懸濁した。 超音波破砕機にかけ、細胞を破砕した後、4℃、14,000g、20分の遠心分離により、粗抽出液を回収した。STL-FEN粗抽出液を60℃で15分処理をしたのち、14,000rpm、20分遠心分離し、上清を回収した。粗抽出液を0.2μmフィルターでろ過した後、リン酸バッファで平衡化したHisTrap HPカラム(アマシャムバイオサイエンス製)に供し、5mlの60mMイミダゾールにより夾雑タンパク質を洗浄した後、5mlの300mMイミダゾールでSTL-FENを溶出させた。溶出させたSTL-FENを含む溶液を、Microcon YM-30またはAmicon Ultra-4 分画分子量30,000(ミリポア製)によりバッファをTris-HCl, pH7.0に交換した。この後、ブラッドフォード法によりタンパク質量を測定し、使用時まで50%グリセロール存在下で-20℃で保存した。
【0050】
2)STL-FENに対するFENAFの活性化作用
2)-1に示した基本反応プロトコルにおいて、AP-FENを上記1)で調製したSTL-FEN(200ng/μl)に代えて、FENAFのSTL-FENに対するフラップ切断活性の増強効果を調べた(図9)。
【0051】
その結果、FENAFはSTL-FENに対してもフラップ切断活性を増強することが確認された。切断された断片のFITC強度による比をとると、FENAFを加えない場合を1としたとき、FENAFを加えた場合は1.6~2.0となった。このとき、STL-FEN:FENAFの比は1:2である。
【0052】
実施例4 FENAFを用いたインベーダーアッセイ
200mlのマイクロチューブに、プライマリープローブ 250nM、インベーダーオリゴ 50nM、FAM-DTBTA標識FRETプローブ125nM、インベーダーオリゴ 50nM、 ターゲットDNA、tRNA 5ng/μl、AP-FENまたはSTL-FEN 10ng/μl、FENAF 20ng/μlを含むバッファ(10mM Tris-HCl、pH7.4、7.5mM MgCl、0.05% Tween20)20μlを加えた。これを63℃で2時間保持した後、384穴マイクロプレートのウェルに添加し、プレート カメレオンII(HIDEX製)を用いて、励起波長340nm、測定波長616nm、delay time 100μsec.、window tome 1500μsec.の条件で測定した。
【0053】
上記のターゲットDNA、FAM-DTBTA標識FRETプローブ、プライマープローブならびにインベーダープローブの各塩基配列は次の通りである。
【0054】
ターゲットDNA(T) 5’-GTGTCTGCGGGAGTCGATTTCATCATCACGCAGCT
TTTCTTTG-3’(配列番号8)
FAM-DTBTA FRET プローブ
5’-GC(T)TGTCTCGGTTTTTCCGAGACAAGCGTGCGCCTCGTT-3’(配列番号9)
プライマリープローブ 5’-AACGAGGCGCACACTCCCGCAGACAC-3’(配列番号10)
インベーダープローブ 5’-CAAAGAAAAGCTGCGTGATGATGAAATCGC-3’(配列番号11)
FAM-DTBTA FRETプローブについては、5’末端にFAMを標識し、(T)の位置に消光剤を付加した。
【0055】
ターゲットDNAの濃度を100fM, 500fM, 1pM, 10pMまたは100pMと変化させたところ、FENAFを加えない場合には基質濃度が10pM(計算で求められた検出限界は3972fM)の場合まで活性が検出されたが、FENAFを添加した場合には、基質濃度が1pM(計算により求められる検出限界は645fM)の場合も活性が検出された(図10)。
【0056】
また、ターゲットDNA濃度を100pMとし、63℃での保持開始から10、20、30、
45、60、90、120、240及び360分後の点でフラップ切断をプレート カメレオンII(HIDEX製)を用いて、励起波長485nm、測定波長535nm、delay time 100μsec.、window tome 1500μsec.の条件で測定したところ、FENAFを加えないものでは60分の時点でFAM蛍光強度が約7,000であったが、FENAFを添加した場合は約22,000であり、添加しない場合よりも3.1倍高かった。FENAFを添加したものでは、FAM蛍光強度は60分で平衡に達したが、 添加しないものでは4時間(240分)程度を要した。FENの特異性に対するPCNA添加の影響は、6時間の時点でコントロールでもやや信号の増加が見られたが、通常の測定に影響するような増加は無かった。
【0057】
また、FENを実施例2で示したSTL-FENに代えてターゲット濃度を100pMとし、63℃での保持開始から10, 20, 30, 45, 60, 90および120分後の点でフラップ切断をプレート カメレオンII(HIDEX製)を用いて、励起波長485nm, 測定波長535nmの条件で測定したところ、FENAFを加えないものでは60分の時点でFAM蛍光強度が約7,300であったが、FENAFを添加した場合は約13,000であり、添加しない場合よりも1.78倍高かった(図11)。FAM蛍光強度は120分で、FENAF添加/不添加ともほぼ等しくなった。FENの特異性に対するFENAF添加の影響は120分までの間では認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、精製されたFenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3のポリアクリルアミドゲル電気泳動写真である。レーン1:FenAfs1 、2:FenAfs2、3:FenAfs3
【図2】本発明のFENAFの分子篩いクロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。
【図3】FenAfs1、FenAfs2ならびにFenAfs3の分子篩いクロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。
【図4】FenAfs三量体の免疫沈降法による確認結果を示す図である。
【図5】FENAFのAP-FENのフラップ切断活性に対する増強効果を示す電気泳動写真である。左が15分の反応結果、右が60分の反応結果である。
【図6】FENAFのAP-FENの基質特異性に対する影響を示す電気泳動写真である。左が15分の反応結果、右が60分の反応結果である。
【図7】FENAF存在下でのAP-FEN活性の検出限界を示す。
【図8】FENAFとAP-FENとの量比とフラップ切断活性との関係を示す電気泳動写真である。
【図9】FENAFのSTL-FENのフラップ切断活性に対する増強効果を示す電気泳動写真である。
【図10】AP-FENを用いたインベーダー法に対するFENAFの影響を示すグラフである。図中、Cは三重体形成部位の塩基がCの場合、Tは三重体形成部位の塩基がTの場合であり、+-はそれぞれFENAFの添加、無添加を表す。
【図11】STL-FENを用いたインベーダー法に対するFENAFの影響を示すグラフである。図中、Cは三重体形成部位の塩基がCの場合、Tは三重体形成部位の塩基がTの場合であり、+-はそれぞれFENAFの添加、無添加を表す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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