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明細書 :軽元素分析装置及び分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5553308号 (P5553308)
公開番号 特開2012-008082 (P2012-008082A)
登録日 平成26年6月6日(2014.6.6)
発行日 平成26年7月16日(2014.7.16)
公開日 平成24年1月12日(2012.1.12)
発明の名称または考案の名称 軽元素分析装置及び分析方法
国際特許分類 G01N  23/225       (2006.01)
FI G01N 23/225
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2010-146206 (P2010-146206)
出願日 平成22年6月28日(2010.6.28)
審査請求日 平成25年6月6日(2013.6.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】小林 峰
【氏名】上田 一之
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100102576、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 敏章
審査官 【審査官】田中 洋介
参考文献・文献 特開2009-250903(JP,A)
特開2001-255290(JP,A)
特開2009-517844(JP,A)
特開平02-165038(JP,A)
特開平10-269983(JP,A)
特開2009-163981(JP,A)
Takashi Fuse et al.,Electron-stimulated desorption of hydrogen from H/Si(001)-1x1 surface studied by time-of-flight elastic recoil detection analysis,Surface Science,1999年,Vol.420,pp.81-86
渡辺誠 他,8KにおけるAr,Kr,およびXe薄膜の400eV He+イオン衝撃による二次イオンのTOF解析,J.Mass Spectrom.Soc.Jpn.,2002年,Vol.50 No.6,pp.350-352
調査した分野 G01N 23/00-23/227
G01N 27/62
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
真空排気された真空槽内に設置された試料ホルダと、
前記試料ホルダに保持された試料に電圧を印加する第1の電源と、
前記試料ホルダに保持された試料にパルスイオンビームとしてHe+イオンビーム1keVから500keVの範囲の入射エネルギーで照射するイオンビーム源と、
粒子検出器と、
前記粒子検出器に電圧を印加する第2の電源と、
前記試料ホルダと前記粒子検出器の間で、前記試料ホルダの近くに配置され、接地された第1のグリッドと、
前記試料ホルダと前記粒子検出器の間で、前記粒子検出器の近くに配置され、接地された第2のグリッドと、
前記パルスイオンビームの入射によって前記試料ホルダに保持された試料からイオンビーム刺激脱離によって放出されるイオンの飛行時間tを測定し、イオン種を同定する演算部とを備え、
前記演算部は、前記イオンの質量をm、前記イオンの試料脱離時の運動エネルギーをEk、前記イオンの電荷をq、試料の電位をVs、試料と前記第1のグリッド間の距離をL1、前記第1のグリッドと前記第2のグリッド間の距離をL2、前記第2のグリッドと前記粒子検出器の表面間の距離をL3、前記粒子検出器の表面の電位をVMCPとするとき、t=t1+t2+t3の関係を用いて前記イオン種を同定することを特徴とする元素分析装置。
【数1】
JP0005553308B2_000006t.gif

【請求項2】
請求項1記載の元素分析装置において、前記粒子検出器はマイクロチャネルプレートであることを特徴とする元素分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の元素分析装置において、前記演算部は試料から放出された水素イオン又はリチウムイオンを同定することを特徴とする元素分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の元素分析装置において、前記イオンビーム源は走査型イオンビーム源であることを特徴とする元素分析装置。
【請求項5】
請求項4記載の元素分析装置において、
表示部を有し、
記演算部は試料から放出された水素イオン又はリチウムイオンを同定し、
前記表示部に試料表面における水素原子又はリチウム原子の空間分布を表示することを特徴とする元素分析装置。
【請求項6】
真空中に保持された試料に1keVから500keVの範囲の入射エネルギーでHe+イオンビームを間欠的に照射する工程と、
イオンビーム刺激脱離によって試料から放出されたイオン又は粒子を飛行時間分析する工程とを有し、
試料表面に存在する軽元素の分析を行うことを特徴とする元素分析方法。
【請求項7】
請求項6記載の元素分析方法において、
試料と粒子検出器の間で、試料の近くに配置され接地されたグリッドを第1のグリッドとし、粒子検出器の近くに配置され接地されたグリッドを第2のグリッドとし、前記イオン又は粒子の質量をm、前記イオン又は粒子の試料脱離時の運動エネルギーをEk、前記イオン又は粒子の電荷をq、試料の電位をVs、試料と前記第1のグリッド間の距離をL1、前記第1のグリッドと前記第2のグリッド間の距離をL2、前記第2のグリッドと前記粒子検出器の表面間の距離をL3、前記粒子検出器の表面の電位をVMCPとするとき、
試料の電位Vsを変更して複数回の測定を行い、
測定された飛行時間をtとするとき、t=t1+t2+t3の関係を用いて前記イオン種又は粒子種を同定することを特徴とする元素分析方法。
【数2】
JP0005553308B2_000007t.gif

【請求項8】
請求項6記載の元素分析方法において、
試料と粒子検出器の間で、試料の近くに配置され接地されたグリッドを第1のグリッドとし、粒子検出器の近くに配置され接地されたグリッドを第2のグリッドとし、前記イオン又は粒子の質量をm、前記イオン又は粒子の電荷をq、試料の電位をVs、試料と前記第1のグリッド間の距離をL1、前記第1のグリッドと前記第2のグリッド間の距離をL2、前記第2のグリッドと前記粒子検出器の表面間の距離をL3、前記粒子検出器の表面の電位をVMCPとするとき、
試料の電位Vsを、q・Vsに比較して前記イオン又は粒子の試料脱離時の運動エネルギーが無視できるような値に設定し、
測定された飛行時間をtとするとき、t=t1+t2+t3の関係を用いて前記イオン種又は粒子種を同定することを特徴とする元素分析方法。
【数3】
JP0005553308B2_000008t.gif

【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項記載の元素分析方法において、
前記イオンビームを走査して試料表面の複数の位置で軽元素の分析を行い、検出された軽元素の試料表面上での分布を表示することを特徴とする元素分析方法。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1項記載の元素分析方法において、前記軽元素は水素又はリチウムであることを特徴とする元素分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面近くに存在する水素やリチウム等の軽元素を分析する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料表面の軽元素の濃度を分析するための方法として、二次イオン質量分析法(SIMS:1277686212564_0)や電子励起イオン脱離法(ESD:Electron stimulated desorption)が知られている。SIMSでは、試料(材料)に数100eVから数万eVのエネルギーをもったイオンビームを入射させる。すると、エネルギーを受け取った試料原子の一部が飛び出す。これをスパッタリングという。スパッタリングでは、試料表面に入射するイオンが弾性衝突によって試料構成原子に運動量を与え、運動量を付与された原子が反跳し近傍の原子と次々に衝突を繰り返す。その結果として試料から放出される二次イオンを質量分析する方法がSIMSである。二次粒子が中性粒子である場合、レーザ照射等によってイオン化させることもある。ESDは、試料に電子ビームを入射し、試料から放出するイオンを飛行時間分析する方法である。特許文献1には、電子ビームを試料に入射させ、試料から放出するイオンを飛行時間分析法により分析することで試料表面に存在する水素の分析を行う方法が記載されている。また、非特許文献1,2には、準安定ヘリウム原子や多価イオンによる刺激によっても軽元素が脱離することが報告されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平10-269983号公報
【0004】

【非特許文献1】M.Kurahashi, Y.Yamauchi, Phys. Rev. Lett., 84, (2000) 4725.
【非特許文献2】K.Kuroki, N.Okabayashi, H.Torii, K.Komaki, Y.Yamazaki, Appl. Phys. Lett., 81, (2002) 3561.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SIMSは、イオン、原子、クラスターを試料表面にぶつけて表面を削る、あるいは表面物質を跳ね飛ばす分析手法であり、試料表面を破壊しながら分析するものである。また、現在では電子ビームもイオンビームもナノメートル程度あるいはそれ以下に収束できるようになってきているが、電子ビームはイオンビームより試料表面で大きく散乱し、広域の水素を放出させることから、ESDは空間分解能がイオンビームを用いるときに比べて劣る。電子ビームを用いて絶縁物質を分析した場合には、試料のチャージアップの問題も生じる。また、入射準安定ヘリウム原子や入射多価イオンは、収束させることが難しいことから、空間分解能を上げることが困難である。
【0006】
本発明は、非破壊かつ高い空間分解能で、試料の表面付近に存在する軽元素の面内分布を測定し、可視化する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、試料にイオンビームを間欠的に入射させ、試料から放出されるイオン・粒子をその入射に同期して検出する、すなわち飛行時間分析することによって、試料表面に存在する軽元素(特に水素、リチウム)の分析を行う。また、試料表面の各点での分析結果をマッピングすることで、試料表面における注目元素の空間分布を可視化して表示することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、高空間分解能で、試料を薄膜処理することなく、試料の表面近くに存在する水素やリチウムといった軽元素を分析し、その空間分布を可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のイオンビーム刺激脱離による軽元素分析顕微鏡装置の全体構成例を示す概念図。
【図2】時間分析回路の一例を示す概略図。
【図3】試料と飛行時間分析検出器の間におけるグリッドの配置及び電位分布を示す説明図。
【図4】MgLi合金をイオンビーム刺激脱離により分析した例を示す図。
【図5】飛行時間の試料電位依存性を示す図。
【図6】図4の縦軸の拡大図。
【図7】軽元素の一価イオンに対する飛行時間の試料電位依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、イオンビーム刺激脱離による軽元素の分析法を提案するものであり、これまで発見されていなかった実験結果に基づいた分析方法である。なお、本明細書で軽元素とは、Na元素より軽い元素を指す。従来技術では電子ビームを試料に入射させるが、本発明はイオンビームを試料に入射させ軽元素を分析する点で従来技術と決定的に違う。イオンビームを用いることで電子ビームを用いる場合に比べ、究極的に軽元素を放出させる領域を小さくすることができることから、軽元素の濃度分布をより高空間分解能で分析できる顕微法と成し得る。電子ビームを試料に照射すると、ビームの電子は試料中で速やかに散乱し、ビーム径よりずっと広い領域で試料と相互作用する。そのため、空間分解能が悪くなる。一方、イオンビームを試料に照射した場合には、イオンは電子より重いため、試料の表面近くでは散乱が少ない。そのため、イオンが相互作用する領域が狭くなり、高空間分解能が得られる。その結果、電子ビームを使った分析法に比較して、10倍以上の空間分解能を達成することが可能である。

【0011】
イオンビーム刺激脱離の機構は次のようである。イオンビーム刺激脱離の機構は基本的には電子遷移誘起脱離(Desorption induced by electronic transition:DIET)によるものと考えられる。すなわち、イオンビームが試料に入射することによって試料表面近傍の電子が励起され、励起された電子が結合性軌道から外れることによって、イオンとして放出される原子と材料原子間に斥力が生じ、脱離が起こる。具体的には、
(1)イオンビームと電子の衝突による電子励起が起こる
(2)イオンビームと電子の衝突によって発生した二次電子による電子刺激脱離(ESD)が起こる
(3)イオンビームの荷電変換が起こる
ことによってDIETが引き起こると考えられる。

【0012】
一方、電子刺激脱離(Electron stimulated desorption:ESD)とは
(a)試料中の原子が電子刺激によりイオン化(試料中の電子が励起)され、そのイオンが脱離する。あるいは脱離の過程で再び基底状態に戻り、その時点で余剰のエネルギーがある場合には中性粒子として脱離する
(b)電子刺激により物質中の原子の内殻軌道の電子が励起され(ホールを発生し)、放出物の電子がホールに落ち込む原子間オージュ遷移によって脱離する
と考えられている現象である。

【0013】
すなわちイオンビーム刺激脱離の機構は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)のようにイオンビームが試料原子に直接エネルギー移換するものとは違う。

【0014】
また、入射ビームとしてイオンビームを用いることで、試料からの散乱粒子を並行して分析しつつ軽元素の分析を行うことが可能である。すなわち、軽元素の空間分布とともに試料の組成を並行して知ることができる。それによって軽元素の濃度と試料組成の相関関係を知ることができる。更に、イオンビームを用いかつ飛行時間分析することによって絶縁体の分析も可能である。何故ならば、絶縁体試料がチャージアップしてもイオンビームは電子線に比べ重いことからぼけが少なく、かつ飛行時間分析では常に測定時間領域全体を測定していることからチャージアップによって脱離イオンが加速されたとしてもなんら問題なく測定可能である。

【0015】
入射イオンは多価イオンである必要はない。入射イオンには、一価のHe+イオン、Ga+イオンなどを用いることができる。入射イオンとしてGaを用いることもできる。ただし、Gaのような重いイオンを入射イオンとして用いる場合には、散乱の情報がGaより重い原子からしか得られない。

【0016】
イオンビームの入射エネルギーは、1keVから500keVの範囲とするのが好ましい。散乱の情報に関しては、試料のごく表面の情報を得るには低エネルギーのイオンビームを入射させればよく、表面から深い領域の情報を得るには高エネルギーのイオンビームを入射させればよい。例えば、表面から1nm程度の深さ領域を分析したい場合には入射エネルギーを1keV程度とし、表面から50nm程度までの深さ領域を分析したい場合には入射エネルギーを100keV程度とする。イオンビーム刺激脱離の情報に関しては、表面からしかイオンは脱離しない。

【0017】
連続ビームとしてのビーム電流(パルスビームの場合は平均ビーム電流)は、0.01pA~100nAとするのが好ましい。イオンビームはパルスビームとして試料に入射するのが好ましく、パルスイオンビームのパルス幅は1ns以上、500ns以下とするのが好ましい。このイオンビームのパルスは、試料から時間分析型検出器までの飛行経路の長さに応じて最も脱離イオンがS/Nの良い状態にすればよい。ただ、イオンビームの場合、1ns以下のパルスビームを発生することは難しい。

【0018】
パルスイオンビームのパルス繰り返し周波数は、脱離イオンの信号が前のパルスイオンビームに起因する脱離イオンの信号と重ならないように配慮する必要がある。例えば、試料から検出器までの距離が250mmの場合、繰り返し周波数は100kHz以下とする必要がある。

【0019】
本発明の分析法は、非破壊分析である。それは、この分析の機構がDIETである、すなわち非弾性衝突によるものであるからである。実際には、次式のように、1.875×1012[ions/cm2]程度のイオンの入射によって測定が可能であることによる。

【0020】
【数1】
JP0005553308B2_000002t.gif

【0021】
ここで、
連続イオンビーム強度:50[nA]
電荷素量:1.60×10-19[C]
パルスイオンビームの繰り返し:50[kHz]
パルスイオンビームのパルス幅:2[ns]
測定時間:300[s]
測定面積:0.05cm×0.1cm

【0022】
飛行時間分析のための粒子検出器としては、マイクロチャネルプレートを用いることができる。マイクロチャネルプレートとワイヤアノードを組み合わせて使うと、試料表面における軽元素の結合方向を知ることができ、またS/N比を高めることができる可能性があるが、ワイヤアノードの使用は必須ではない。

【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。

【0024】
図1は、本発明のイオンビーム刺激脱離による軽元素分析顕微鏡装置の全体構成例を示す概念図である。

【0025】
試料10は、試料ホルダ17に保持され、排気装置11によって真空排気される真空槽12内に設置されている。装置は、走査型収束パルスイオンビーム源13、飛行時間分析検出器14、及び演算・表示部15を備える。飛行時間分析検出器14は、例えばワイヤアノードを持つ位置敏感・時間分解型マイクロチャネルプレート検出器とすることができる。演算・表示部15は時間分析器としての機能を有し、パーソナルコンピュータによって実現することができる。時間分析器は、走査型収束パルスイオンビーム源13からピックアップした信号をスタート信号として用い、パルスイオンビームの入射によって試料10から発生された散乱粒子及び水素等の軽元素イオンが飛行時間分析検出器14に入った後にアノードに現れる信号をストップ信号として用い、スタート信号が現れた時間とストップ信号が現れた時間の時間差を分析することにより、散乱粒子と軽元素イオンを検出する。

【0026】
なお、イオンビーム源としてパルスイオンビーム源ではなく走査型収束イオンビーム源を用いることも可能である。その場合には、試料10の近くに二次電子検出器16等を設置し、イオンビームが試料に入射したとき試料から放出される二次電子を二次電子検出器16で検出する。そして、二次電子検出器16からピックアップした信号をスタート信号として用いる。

【0027】
図2は、時間分析回路の一例を示す概略図である。この回路図は、ワイヤアノードを持つ二次元位置敏感・時間分析型マイクロチャネル検出器を用いた場合に使用する回路例である。軟X線、散乱粒子、そしてイオンビーム刺激脱離によって放出されたイオンは、マイクロチャネルプレート(MCP)20に入射し、二次電子に変換される。二次電子はMCP内で読み出し可能な電荷量まで増倍される。その電荷はワイヤアノード21に引き込まれ、電荷はさらに四つのアノード端A~Dへ向かう。アノードには電荷を引き込むために電圧が印加されていることから、アノード端A~Dは、コンデンサーにより直流電流を通さないカップリングになっている。カップリングコンデンサー22を経て現れた信号は差動増幅器(あるいはパルストランス)23により増幅され、信号がいつアノード端に到着したかを知ることのできるCFD(コンスタントディスクリミネータ)回路24に入力される。CFD回路24は、信号の波高の違いによる信号到着時間のジッタを生じさせないためのものである。CFD回路24によって四端A~Dに信号が到着したタイミングを作りだし、その信号をTDC(Time to Digital Converter)25のストップ信号とする。

【0028】
また、ビームチョッピング用高圧パルス発生器26がパルスビームを発生させるタイミングに出力する信号をTDC25のスタート信号に用いる。さらに、MCP20では、MCPに軟X線、散乱粒子、そしてイオンビーム刺激脱離によって放出されたイオンが入った場合、MCPに印加されている電圧が変動することから、MCPの裏面に電流が流れる。この事象にコインシデントさせて測定を行う。TDC25によって測定された時間(位置)情報はパーソナルコンピュータ27により演算され、ディスプレー上に表示される。

【0029】
アノード端Aとアノード端B、アノード端Cとアノード端Dは対になっている。スタート信号が発生されてからアノード端A~Dで粒子入射に起因する信号を検出するまでの時間をそれぞれTA~TDとすると、その粒子の飛行時間tは、次のように計算される。

【0030】
t=(TA+TB)/2、あるいは
t=(TC+TD)/2

【0031】
図3は、試料と飛行時間分析検出器の間におけるグリッドの配置及び電位分布を示す説明図である。試料10と飛行時間分析検出器のMCP20の間には、試料に近い位置に配置された試料側グリッド31と検出器に近い位置に配置された検出器側グリッド32からなる一対のグリッドが設置されている。試料側グリッド31と検出器側グリッド32は共にグラウンドに接地され、その間の空間はフィールドフリーになっている。また、試料10には直流電源33から電圧が印加され、グラウンドに対して正電位とされている。MCP20は直流電源34から電圧が印加され、グラウンドに対して負電位とされている。したがって、パルスイオンビーム41の照射によって試料10から脱離した正電荷を有する脱離イオン42は、試料10と試料側グリッド31の間の加速場で加速され、次に試料側グリッド31と検出器側グリッド32の間を等速運動し、最後に検出器側グリッド32とMCP20の間の加速場で再び加速されてMCP20に入射する。

【0032】
試料10から試料側グリッド31までの飛行時間をt1、試料側グリッド31から検出器側グリッド32までの飛行時間をt2、検出器側グリッド32から検出器表面すなわちMCP20までの飛行時間をt3とすると、全飛行時間tはt1+t2+t3になる。ここで、イオンビーム刺激脱離によって脱離したイオン42の質量をm、脱離イオンの脱離時の運動エネルギーをEk、脱離イオンの電荷をq(=n・e)、nを価数、eを電子素量、試料電位をVs、試料10と試料側グリッド31間の距離をL1、試料側グリッド31と検出器側グリッド32間の距離をL2、検出器側グリッド32と検出器(MCP20)表面間の距離をL3、検出器(MCP20)表面の電位をVMCPとすると、各飛行時間t1,t2,t3はそれぞれ次のようになる。

【0033】
【数2】
JP0005553308B2_000003t.gif

【0034】
従って、全飛行時間tは、t=t1+t2+t3となるが、L3がL1+L2に比べて小さく、かつVMCPが十分に小さい(VMCPの絶対値が十分に大きい)場合には、全飛行時間tは近似的にt≒t1+t2とすることができる。

【0035】
なお、強制的にパルスイオンビームを発生していない場合には、二次電子検出器16を用いてイオンビーム41が試料10に入射したことを検知することができる。従って、二次電子検出器16から発生される信号をスタート信号として飛行時間計測を行えばよい。例えば、イオンビームを低強度にしていくと、強制的にパルスイオンビームを作らなくても間欠的なイオンの流れとなる。例えば一価のイオンの0.1pAであれば、

【0036】
【数3】
JP0005553308B2_000004t.gif
となる。言い換えれば、1.6μsに1個のパルスビームに相当する。

【0037】
図1から図3で説明した本発明の装置を用いて、MgLi合金試料を測定した。試料として寸法10mm×10mmのMgLi合金を、10-9 Torr以下に真空排気した真空槽の中に設置した。試料10から試料に近い試料側グリッド31までの距離は0.025[m]、試料側グリッド31とMCP20に近い検出器側グリッド32の間の距離は0.23[m]、検出器側グリッド32からMCP20までの距離は0.01[m]とした。これらの電位や距離の設定により、試料から脱離した脱離イオンの飛行時間を変えることができる。それによって、脱離イオンをS/Nの良好な状態で到着時間を変えることができる。あるいは、TDCの測定範囲内に到着させることができる。

【0038】
パルスイオンビーム41としては、He+イオンビームを用いた。走査型収束パルスイオンビーム源13は、He+イオンを100[keV]に加速した連続イオンビームから、ビーム偏向方式により繰り返し周波数50[kHz]、パルス幅2[ns]のパルスイオンビーム41を発生する。すなわち、平行平板チョッパの片側電極を接地し、もう一方の電極に偏向電場を発生させる高電圧パルス発生器パルサーに接続して高電圧パルスを印加し、連続イオンビームを周期的に偏向し、前方にあるチョッピングアパチャによって連続イオンビームを切り出してパルスイオンビーム41を発生させる。発生したパルスイオンビーム41を、試料10に入射した。He+イオンビームの平均ビーム電流は0.1pA、ビーム径は0.5mm×1mmである。

【0039】
試料電位を100[V]、200[V]、300[V]、400[V]、500[V]と変化させて測定を行った。なお、真空槽12は接地されており、電位は真空槽12からの電位である。一対のグリッド31,32も接地されている。MCP20は三枚組のものを使用し、MCP表面の電位(MCPフロント電位)を-3000[V](接地電位より)として測定を行った。

【0040】
測定結果を図4に示す。飛行時間を上記の近似式t≒t1+t2に当てはめ、刺激脱離によって脱離したイオンの質量mと、脱離イオンの電荷q(=n・e)と、脱離イオンの脱離時の運動エネルギーEkを計算した。未知数が3つであるため、試料電位を変えて3回以上の測定を行えば、イオンの質量m、すなわちイオン種と、脱離イオンの電荷eと、脱離時の運動エネルギーEkを求めることができる。その結果、イオンビーム刺激脱離によりm=1.008[u]の水素イオンH+と、m=7.016[u]のリチウムイオンLi+が検出された。

【0041】
図5に、理論計算値を実線で、実験値を白丸でプロットして示した。それぞれのイオンの飛行時間の試料電位依存性は測定値と理論計算でよく一致しているのが見て取れる。理論計算において、水素イオンH+及びリチウムイオンLi+の脱離時の運動エネルギーEkは、それぞれ18[eV]と16[eV]として計算した。

【0042】
なお、イオンビーム刺激脱離により放出するイオン種の同定だけを行うのであれば、
q・Vs≫Ek
が成立するように、試料電位Vsを比較的高い電位、例えば数kVに設定すればよい。その場合、上記した飛行時間の関係式t=t1+t2+t3において、Ekを無視することができるため、下式のように未知のパラメータが2つとなって、2度の測定で脱離したイオン種と脱離イオンの電荷を同定することができる。このときも、L3がL1+L2に比べて小さく、かつVMCPが十分に小さい(VMCPの絶対値が十分に大きい)場合には、全飛行時間tは近似的にt≒t1+t2とすることができる。

【0043】
【数4】
JP0005553308B2_000005t.gif

【0044】
また、Ekを求めるためには比較的低い試料電位Vs、例えば100[V]以下の異なる試料電位で測定を行えばよい。この実験で検出された水素は、試料表面に吸着していたものと考えられる。また、検出されたリチウムイオンは、表面近傍に存在するリチウムから放出したもので表面近傍のリチウムの濃度に対応する。

【0045】
以上の操作によりイオン種の同定が可能である。なお、飛行時間は基本的にはパルスビーム発生用のパルサーから引き出した信号をスタートとしているが、イオンビームが試料に入射することによって軟X線(光)が放出することを利用し、パルスイオンビームが試料に到着したタイミングからの飛行時間を算出することもできる。MCPは軟X線にも感度があることから、MCPを用いた時間分析検出器を用いれば軟X線も測定可能である。

【0046】
なお、図4に示したスペクトルは試料上の一点での測定結果であるが、入射イオンビームを試料上で走査して試料上の各点で同様の測定を行うことにより、試料表面における水素やリチウム等の軽元素の2次元空間分布を測定することができ、測定された空間分布は濃度に応じた色分けなど既知の適当な処理を施して演算・表示部15に表示することで可視化することができる。また、現在、He+イオンビームは径を0.35nm程度まで絞ることが可能であり、ビーム径0.35nmのイオンビームを用いた場合には、空間分解能1nm以下で軽元素の空間分布を測定することが可能である。

【0047】
ここで、試料電位や検出器の表面電位等の測定条件が同じであれば、注目する軽元素のピークは飛行時間スペクトルの同じ飛行時間の位置に現れる。従って、最初に上記計算式を用いて飛行時間スペクトルのピークと軽元素との対応関係を求めておけば、次の測定からは飛行時間スペクトルに出現する特定の飛行時間のピークに着目することによって注目する軽元素の存在あるいは濃度情報を直ちに得ることができる。

【0048】
イオンビーム刺激脱離では、三次元(飛行時間分析型)中エネルギーイオン散乱分光スペクトルを並行して得られることから、元素分析が可能である。

【0049】
図6は、図4の縦軸を拡大して示したものである。

【0050】
構成材からの散乱した粒子の飛行時間及び散乱収量から分析領域の組成の情報が得られる。表面Mg原子によって散乱し、散乱角140°へ散乱したHe粒子のエネルギーは55.56keVである。そのエネルギーのHe粒子の速度は1.637×108[cm/s]である。フライトパスが25.5[cm]である場合、155.8[ns]の飛行時間である。また、試料内部で散乱したものは1~2μs後まで検出される。水素イオンとリチウムイオンのEkがそれぞれ18[eV]と16[eV]で試料の電位が100[V]であり、L1とL2がそれぞれ2.5cmと23cmであった場合、水素イオンH+とリチウムイオンLi+の飛行時間は図5からわかるように、それぞれ1764nsと4700nsである。

【0051】
図7は、H-1からNa-23までの軽元素の一価イオンに対して計算した、飛行時間の試料電位依存性を示す理論曲線の図である。Ekは、H+に対しては18eV、Li+~Na+に対しては16eVとして計算した。また、H+とLi+に対しては、実験結果をプロットして示した。このような飛行時間と試料電位の関係を利用することにより、水素やリチウム以外の軽元素についても、試料表面に存在する軽元素を同定すると共に、その濃度分布を求めることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 試料
11 排気装置
12 真空槽
13 走査型収束パルスイオンビーム源
14 時間分析型検出器
15 演算・表示部
17 試料ホルダ
16 二次電子検出器
20 MCP
21 ワイヤアノード
22 カップリングコンデンサー
23 差動増幅器
24 CFD回路
25 TDC
26 ビームチョッピング用高圧パルス発生器
27 パーソナルコンピュータ
31 試料側グリッド
32 検出器側グリッド
33,34 直流電源
41 パルスイオンビーム
42 脱離イオン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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