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明細書 :乳酸菌を用いた漬物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3091196号 (P3091196)
登録日 平成12年7月21日(2000.7.21)
発行日 平成12年9月25日(2000.9.25)
発明の名称または考案の名称 乳酸菌を用いた漬物の製造方法
国際特許分類 A23B  7/10      
FI A23B 7/10 A
請求項の数または発明の数 1
全頁数 5
出願番号 特願平11-304921 (P1999-304921)
出願日 平成11年10月27日(1999.10.27)
審査請求日 平成11年10月27日(1999.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591106462
【氏名又は名称】茨城県
発明者または考案者 【氏名】橋本 俊郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100081927、【弁理士】、【氏名又は名称】北條 和由
審査官 【審査官】鈴木 恵理子
参考文献・文献 特開 平3-285675(JP,A)
特開 平4-63587(JP,A)
調査した分野 A23B 7/10
A23B 4/00
要約 【課題】 安定した発酵漬物の生産と食味の改善、L-乳酸の豊富な漬物を製造する。
【解決手段】 漬物の製造方法は、漬物原料である洗浄された野菜に、漬物用スターターとして乳酸菌を添加して発酵させる。漬物用スターターとしての乳酸菌は、ラクトバチルス・サケHS1(FERM P-17617)が使用される。この乳酸菌ラクトバチルス・サケHS1は、発酵キムチから分離される。
特許請求の範囲 【請求項1】
野菜を原料とする漬物を製造する方法であって、漬物原料である洗浄された野菜に、漬物用スターターとしての乳酸菌としてラクトバチルス・サケHS1(Lactobacillus sakeHS1:FERM P-17617)を添加して発酵させることを特徴とする乳酸菌を用いた漬物の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は発酵漬物の製造法に関し、特に漬物用スターターとして乳酸菌であるラクトバチルス・サケを野菜に添加し、野菜を発酵させて野菜漬物を製造する方法に関するものである。

【0002】
【従来の技術】乳酸菌や乳酸発酵食品が人の健康に良い影響を与えることは,メチニコフの「ヨーグルトの不老不死説」以来,疫学的研究やヒトを含めた動物実験の結果からひろく知られている。今では乳酸菌摂取による腸管菌相の安定,血中コレステロールの低下及び発癌の抑制などが確認されている。また、食品製造の立場からは乳酸菌による食中毒菌の抑制などの安全性の向上、塩慣れ効果や発酵及び発酵産物による風味の向上が認められている。

【0003】
しかし、野菜を原料とし、これを発酵して作る漬物は、全国の漬物生産量111万トンの0.1%以下(平成10年統計)であり、ごく僅かしか生産されていない。

【0004】
工業的漬物製造において、乳酸発酵が利用されない理由は、品質を安定させるのが難しいためである。品質の安定を妨げる要因はいくつか上げられるが、決定的要因は漬物に適した乳酸菌スターターがないことである。つまり、植物成分で生育が良く、食塩耐性を有し、食品として適度な酸を生成し、食中毒菌が生育しない低温でので生育が良いなどの優れた性質を持つ乳酸菌スターターがないことがその主な要因としてあげられる。

【0005】
日本の代表的発酵漬物である長野県のスンキは、赤カブ(王滝カブ)の葉茎を60~70℃の温湯に浸して雑菌を殺菌し、前年に良くできたスンキを種として一緒に漬け込んで作られる。しかし、スンキ種には優良な乳酸菌とともに、耐熱性バチルスや酵母などの不必要な微生物も混在し、安定した品質のスンキを得ることを困難としている。従って、純粋培養の漬物用乳酸菌スターターが発酵漬物の生産拡大に不可欠である。

【0006】
【発明が解決しようとしている課題】これまで、漬物用スターターとして植物性乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスやラクトバチルス・プランタラムが勧められてきた。しかし、ロイコノストック・メセンテロイデスは、低食塩、低温での生育が速やかであるが、ヘテロ発酵菌で乳酸以外に酢酸、エタノール、炭酸ガスなどを副生するため、食味が悪い。また、ラクトバチルス・プランタラムは、ホモ発酵菌であるが酸生成能が強いため、pHが低くなりすぎること、製品化後に後発酵をおこして酸敗しやすいなどの欠点がある。

【0007】
本発明は、前記従来の漬物用スターターを使用した発酵漬物の製造手段における課題に鑑み、検討の結果、食味良好なキムチに着目し、発酵キムチから良質な漬物用スターターとしての乳酸菌を分離し、これにより、安定した発酵漬物の生産と食味の改善、L-乳酸の豊富な漬物を製造することが可能な漬物の製造方法を提供することを目的とするものである。

【0008】
【課題を解決するための手段】発明者は浅漬けや発酵キムチの微生物を調査し、これまで漬物の乳酸菌として報告されてなかった乳酸菌を分離した。この乳酸菌、ラクトバチルス・サケを漬物用スターターとして利用することで、安定して食味の良好な発酵漬物の製造を可能とするものである。

【0009】
すなわち、本発明による漬物の製造方法は、漬物原料である洗浄された野菜に、漬物用スターターとして乳酸菌を添加して発酵させることを特徴とする。ここで、漬物用スターターとしての乳酸菌は、ラクトバチルス・サケHS1(Lactobacillus sakeHS1:FERM P-17617)が使用される。

【0010】
発酵キムチから分離されたラクトバチルス・サケHS1(工業技術院生命工学技術研究所特許微生物寄託センター受託番号:FERM P-17617)は、低温(5~15℃)でよく増殖し、食品として過剰でない適量の乳酸を生成する。漬物用野菜に、この乳酸菌を添加して発酵させることにより食味の良い発酵漬物を得ることができる。

【0011】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について、具体的且つ詳細に説明する。本発明では、漬物用スターターとしての乳酸菌を使用するが、この乳酸菌スターターの分離源として、食味良好なキムチに着目した。仕込み後1~2週間の韓国型の発酵キムチを入手し、ストマッカーで均質にした一部を乳酸菌分離用のMRS白亜寒天培地で培養した。

【0012】
炭酸カルシウムを溶解した酸生成コロニーをダーラム管入りGYP培地に移して培養し、ガス発生の有無を観察した。ガスを生成した乳酸菌はロイコノストック・メセンテロイデスであったが、スターターとして不適切なので棄却した。残りの酸生成細菌は、顕微鏡観察の結果、いずれも桿状であり、グラム染色陽性、カタラーゼ陰性、グルコースから乳酸のみを生成するホモ発酵型乳酸菌であった。同定のための生理試験結果を表1に示した。

【0013】
【表1】
JP0003091196B1_000002t.gif【0014】残りの酸生成細菌は、ペプチドグリカンの型、糖類発酵性、酢酸塩存在下での乳酸異性体タイプの変化などの特徴からラクトバチルス・サケと同定された。この発酵キムチから分離したラクトバチルス・サケは後述するようにスターターとして有益だったのでLactobacillus sake HS1と命名し、平成11年10月22日に工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターへ寄託し、受託番号:FERM P-17617を得た。

【0015】
前記のラクトバチルス・サケHS1(FERM P-17617)のスターターとしての適性を述べる。表2にラクトバチルス・プランタラム(IFO-15891)と比較して示した。

【0016】
【表2】
JP0003091196B1_000003t.gif【0017】ラクトバチルス・サケHS1(FERM P-17617)とラクトバチルス・プランタラム(IFO-15891)とで生育条件に大きな違いはないが、乳酸生成量に2倍の差があり、その結果、発酵野菜の酸味に大きな違いがみられる。これは耐酸性の違いであり、ラクトバチルス・サケHS1の方が酸に弱く、pH4.1で生育しないのに対し、ラクトバチルス・プランタラムはpH3.5でも生育可能であり、結果として強い酸味を食品に付与する欠点となる。

【0018】
これまでの発酵漬物であるスグキやスンキの欠点として食味の淡泊さがある。発酵後にアミノ酸や糖分を加えて豊かな風味にすることが考えられるが、ラクトバチルス・プランタラムの場合、加えた糖分を更に乳酸発酵して酸をつくってしまう。表1に示したようにラクトバチルス・サケの場合、ソルビトールなどの甘味料を発酵しないため、食味品質の高い発酵漬物をつくることが可能である。

【0019】
乳酸菌の代謝産物である乳酸にはDとLの2つの異性体が存在し、人間の筋肉等でで作られる乳酸はすべてL-乳酸である。FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機構)の専門家会議は乳幼児、高齢者及び免疫機能の衰えた人々に大量のD-乳酸を与えないことを勧告している。0.5%以上の酢酸塩を添加してラクトバチルス・サケで発酵させることによりL-乳酸の豊富な漬物を得ることができる。

【0020】
洗浄した生あるいは下漬けした野菜に、前記のようにして培養、分離したラクトバチルス・サケHS1を104~105CFU/mlになるように添加し、10~15℃で2日~15日間保持すると、添加した乳酸菌が急速に増殖し、乳酸を生成する。漬液のpHが4前後になると発酵が止まり、野菜の乳酸含量は多くとも0.4~0.5%以内にとどまる。発酵野菜はこのまま、或いは低温下で貯蔵し、アミノ酸系調味料やソルビトールなどの甘味料で調味して製品化する。

【0021】
【実施例】次に、漬物スターターとして、実際にラクトバチルス・サケHS1を使用して漬物を製造した実施例について説明する。
(実施例1)白菜漬けに適用した実施例
4Kgの白菜に食塩1.2Kg、酢酸20ml及び水4Lを加えて4時間の下漬けを行った。この下漬け条件で白菜のグラム陰性菌はほとんど死滅する。下漬け白菜に食塩1%、酢酸ナトリウム0.5%、酵母エキス0.1%及びラクトバチルス・サケHS1を1gあたり1.3×106CFU加えて15℃で発酵させた。比較として乳酸菌無添加の試験を同様に行った。その結果を表3に示す。

【0022】
【表3】
JP0003091196B1_000004t.gif【0023】表3に示したように、発酵2日で乳酸菌添加区の乳酸菌は10倍以上に増加し、漬液は少し濁った。乳酸生成量は約0.1%であったが、白菜は塩慣れして美味となった。同時に大腸菌群は不検出であり、乳酸発酵によって雑菌の増殖が抑制された。なお、生成乳酸のL-乳酸比率は82%であった。乳酸菌無添加区の乳酸菌は生白菜由来のものでロイコノストック・メセンテロイデスが主要菌種と考えられる。発酵2日で105 台に増殖したが、白菜は塩角を感ずる。表4に発酵1週間後の変化を示した。

【0024】
【表4】
JP0003091196B1_000005t.gif【0025】ラクトバチルス・サケHS1添加区の漬液は著しく白濁したが、発酵白菜に異味、異臭は認められず、違和感のない酸味となった。乳酸菌無添加区は、白濁と同時に粘質物の生成が認められ、炭酸ガスと思われるガスが生じていた。発酵白菜は不快な酸味と異臭があり、食することは困難であった。ロイコノストック・メセンテロイデスが主要発酵菌になった場合に起こる症状である。

【0026】
ラクトバチルス・サケHS1で7日間発酵させた白菜1、000gに醤油60ml、水40ml、グルタミン酸ナトリウム6gを加えて調味漬けとした。発酵白菜では不足のアミノ酸が追加され、とても美味となった。この製品は非加熱であるが室温下に3週間放置しても腐敗せず、微生物検査で乳酸菌のみが検出された。

【0027】
(実施例2) 大根を発酵させタクアン様製品にした実施例
洗浄した生大根33Kgに塩10%を加えて下漬けした。下漬け大根30Kgを洗浄後、5%の塩水21L、酢酸ナトリウム40g、酵母エキス20gと乳酸菌スターターHS1を最終1×106CFU/mlになるように添加し15~20℃で発酵させた。5日後に漬液pHは4台に低下したが、そのまま放置したところ、漬液表面に産膜酵母の発生が認められたので2週間後に5℃の冷蔵庫に移した。この時の大根の性状を表5、漬液の微生物検査の結果を表6に示す。

【0028】
【表5】
JP0003091196B1_000006t.gif【0029】
【表6】
JP0003091196B1_000007t.gif【0030】発酵大根を洗浄して調味漬け製品をつくった。アミノ酸系粉末調味料0.3%、ソルビトール1.5%、発酵風味料1%となるように調味し真空包装とした。発酵中に酵母が著しく増殖したが、調味製品に酵母の影響は特に認められなかった。一般消費者100人に試食させたところ、90人以上の人に好評であった。この製品は5℃の冷蔵で、変色や膨れが無く、少なくとも2ヶ月間の貯蔵が可能であった。

【0031】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明による漬物の製造方法では、従来困難であった乳酸菌スターターを用いた発酵漬物の製造が容易になる。ラクトバチルス・サケHS1は漬物から分離された乳酸菌であり、発酵スターターとして優れた性質を有し、安定した発酵漬物の生産と食味の改善、L-乳酸の豊富な漬物を提供することができる。漬物製品の新しい分野を拓くものである。