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Specification :(In Japanese)矯正歯科治療中のユーザ用スプリント

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P6061243
Publication number P2014-079274A
Date of registration Dec 22, 2016
Date of issue Jan 18, 2017
Date of publication of application May 8, 2014
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)矯正歯科治療中のユーザ用スプリント
IPC (International Patent Classification) A61C   7/08        (2006.01)
A61C  19/00        (2006.01)
A61C   7/00        (2006.01)
FI (File Index) A61C 7/08
A61C 19/00 L
A61C 7/00
Number of claims or invention 6
Total pages 16
Application Number P2012-227134
Date of filing Oct 12, 2012
Date of request for substantive examination Oct 8, 2015
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】谷本 幸太郎
【氏名】丹根 一夫
【氏名】國松 亮
【氏名】廣瀬 尚人
Representative (In Japanese)【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
Examiner (In Japanese)【審査官】胡谷 佳津志
Document or reference (In Japanese)米国特許出願公開第2002/0144694(US,A1)
米国特許出願公開第2004/0154626(US,A1)
特開昭61-100273(JP,A)
登録実用新案第3164673(JP,U)
特開平11-056876(JP,A)
特開平04-092659(JP,A)
米国特許第05794627(US,A)
Field of search A61C 7/08
A61C 7/00
A61C 19/00
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
上下顎の歯列で咬合される略馬蹄形の咬合部を備え、
前記咬合部は、臼歯で咬合される臼歯咬合部及び前歯で咬合される前歯咬合部を有し、
前記臼歯咬合部は、硬質素材から構成される骨格を有し、
前記前歯咬合部は、前記骨格を有さず、前歯の咬合形状に沿って塑性変形可能な軟質素材から構成され
歯列に矯正装置が装着されたユーザの前歯の位置の継続的な変化に合わせて前記前歯咬合部の形状が変化する、
ことを特徴とする矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
【請求項2】
左側の臼歯で咬合される前記臼歯咬合部の前記骨格と右側の臼歯で咬合される前記臼歯咬合部の前記骨格は、前記前歯咬合部を迂回するとともに前歯の歯列に沿って連結されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
【請求項3】
前記骨格は、前記前歯咬合部の位置が開口している略馬蹄形の板状体である、
ことを特徴とする請求項2に記載の矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
【請求項4】
前記臼歯咬合部は、前記骨格の片面もしくは両面に配置され、臼歯が接触する軟性の臼歯接触部を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
【請求項5】
前記前歯咬合部は、1枚又は複数枚のシート状のシリコーンゴムから構成され、その厚みは2.5mmから5.5mmであり、
前記骨格は、0.5mmから1.5mm厚の板状体であり、
前記臼歯接触部は、前記骨格の両面に配置されており、それぞれ1mmから2mm厚のシート状のシリコーンゴムから構成される、
ことを特徴とする請求項4に記載の矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
【請求項6】
前記咬合部の前庭側と口腔側の少なくとも一方の縁部に咬合面に略垂直に固定され、上顎および下顎両方の歯列の側面を覆って顎位の偏位を抑制する側壁部、を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の矯正歯科治療中のユーザ用スプリント。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、矯正歯科治療中のユーザ用スプリントに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラキシズム(歯ぎしり、噛み締め)発生時の歯、歯周辺組織、顎関節への負荷軽減、スポーツ競技者の能力向上や口腔内保護等を目的としてスプリント(マウスピース)が使用される。特許文献1や2には、上顎または下顎の歯冠に密着させて使用する従来型のスプリントが開示されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平04-092659号公報
【特許文献2】特開平07-039554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯の噛み合わせが不自然な状態となると、「挺出」や「圧下」といった現象が起こる。挺出や圧下が起こると、咬合全体のバランスが崩れ、やがては咀嚼力低下や体の歪み等による体調不良が発生する。
【0005】
スプリントを装着すると、上下顎の間に物が挟まることになるため、歯列に加わる咬合圧は不自然な状態となる。特に、前歯は、不正咬合の疾患が生じやすい部位であるため、スプリント装着により不自然な咬合圧が加わりやすい。挺出や圧下を起こさないためには、歯列全体で咬合圧が均一となるようにしなければならないが、特許文献1や2のスプリントではこれらの事情は一切考慮されていない。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、不自然な咬合圧が加わることの少ない矯正歯科治療中のユーザ用スプリントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の矯正歯科治療中のユーザ用スプリントは、
上下顎の歯列で咬合される略馬蹄形の咬合部を備え、
前記咬合部は、臼歯で咬合される臼歯咬合部及び前歯で咬合される前歯咬合部を有し、
前記臼歯咬合部は、硬質素材から構成される骨格を有し、
前記前歯咬合部は、前記骨格を有さず、前歯の咬合形状に沿って塑性変形可能な軟質素材から構成され
歯列に矯正装置が装着されたユーザの前歯の位置の継続的な変化に合わせて前記前歯咬合部の形状が変化する、
ことを特徴とする。
【0008】
左側の臼歯で咬合される前記臼歯咬合部の前記骨格と右側の臼歯で咬合される前記臼歯咬合部の前記骨格は、前記前歯咬合部を迂回するとともに前歯の歯列に沿って連結されていてもよい。
【0009】
前記骨格は、前記前歯咬合部の位置が開口している略馬蹄形の板状体であってもよい。
【0010】
前記臼歯咬合部は、前記骨格の片面もしくは両面に配置され、臼歯が接触する軟性の臼歯接触部を備えていてもよい。
【0011】
前記前歯咬合部は、1枚又は複数枚のシート状のシリコーンゴムから構成され、その厚みは2.5mmから5.5mmであり、
前記骨格は、0.5mmから1.5mm厚の板状体であり、
前記臼歯接触部は、前記骨格の両面に配置されており、それぞれ1mmから2mm厚のシート状のシリコーンゴムから構成されていてもよい。
【0012】
前記咬合部の前庭側と口腔側の少なくとも一方の縁部に咬合面に略垂直に固定され、上顎および下顎両方の歯列の側面を覆って顎位の偏位を抑制する側壁部、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不自然な咬合圧が加わることの少ない矯正歯科治療中のユーザ用スプリントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係るスプリントを説明するための図であり、(A)はスプリントの上面側、(B)はスプリントの下面側である。
【図2】本実施の形態に係るスプリントの構造を説明するための図であり、(A)はスプリント全体の斜視図、(B)は咬合部の平面図、(C)はスプリントの断面図である。
【図3】咬合部の構造を説明するための図である。
【図4】骨格板を説明するための図であり、(A)は骨格板の平面図、(B)骨格板の貫通穴に軟性シートが嵌め込まれた様子を示す図である。
【図5】咬合部の構造を説明するための図であり、(A)は咬合部の平面図、(B)は咬合部の臼歯部の断面図、(C)は咬合部の前歯部の断面図である。
【図6】前歯咬合部がユーザの前歯の咬合形状に合わせて塑性変形する様子を示す図である。
【図7】骨格板の変形例を説明するための図であり、(A)は口腔側にのみ縁部を設けた骨格板を示す図、(B)は前庭側にのみ縁部を設けた骨格板を示す図、(C)左右の臼歯部が硬質素材の骨格で連結されていない骨格板を示す図である。
【図8】咬合部に硬質材料のみを使用した場合の咬合圧分布を示す図である。
【図9】硬質材料と軟質ゴム材料を組み合わせた場合の咬合圧分布を示す図である。
【図10】硬質材料とスポンジ材料を組み合わせた場合の咬合圧分布を示す図である。
【図11】実施例2で使用した咬合板の構造を説明するための図である。
【図12】貫通穴の硬質材料と軟質ゴム材料を組み合わせた場合の咬合圧分布、および軟質ゴム材料のみを使用した場合の咬合圧分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。

【0016】
本発明の実施の形態に係るスプリント100は、例えば、顎関節症の治療の際に、歯や顎関節への負荷軽減等を目的として使用されるスタビライゼーション型のスプリント(全歯列接触型スプリント)である。なお、以下に説明するスプリントは、咬合面をユーザの歯冠形状に一致させた従来型のスプリントではなく、例えば図1(A)や図1(B)に示すような、咬合面を平面とした量産可能型のスプリントである。

【0017】
スプリント100は、図2(A)に示すように、咬合部110と、側壁部120とから構成される。

【0018】
咬合部110は、上下顎の歯列がそれぞれ垂直に接する例えば図2(B)に示すような馬蹄形の板状体である。咬合部110は、平行配置された側壁部120の平面中央に、図2(C)に示すように、断面がH字状になるよう固定されている。咬合部110は、咬合圧により形状が大きく変形しないよう硬質素材の骨格を有している。その骨格は咬合圧が分散されるよう軟質素材の歯冠接触部で覆われている。

【0019】
なお、以下の説明では、理解を容易にするため、咬合部110の前歯(中切歯、側切歯、犬歯)に相当する部分を「前歯部」、臼歯(小臼歯、大臼歯)に相当する部分を「臼歯部」と呼ぶ。また、前歯部において、前歯で咬合される部分を「前歯咬合部」、臼歯部において、臼歯で咬合される部分を「臼歯咬合部」と呼ぶ。

【0020】
咬合部110は、図3に示すように、骨格板111と、前歯部軟性シート112と、上側軟性シート113と、下側軟性シート114とから構成される。

【0021】
骨格板111は、咬合部110の骨格となる硬質素材の板状体である。素材としては、硬質樹脂、例えば、耐衝撃性が高く軽いポリカーボネートが使用可能である。厚みとしては、安静空隙を考慮して3mm以下が望ましい。厚くなりすぎると、開口量が大きくなりすぎて不快症状が発現したり、歯の移動などの副作用の危険性が高まったりするからである。ここで、「安静空隙」とは、安静時にできる上下の歯の空隙(スペース)のことであり、上下の中切歯間で約2~3mm、臼歯間ではそれよりもやや大きい。なお、骨格板111を取り囲む軟質素材の厚みを考慮すると、特に望ましい骨格板111の厚みは1mm前後、例えば0.5mm~1.5mmの範囲である。

【0022】
骨格板111の形状は図4(A)に示すような馬蹄形をしている。骨格板111の前歯部には歯列に沿って弓状の貫通穴が形成されている。骨格板111の左右の臼歯部は貫通穴の前庭側と口腔側に形成された縁部により連結されている(以下、前庭側の縁部を「前庭側縁部」、口腔側に縁部を「口腔側縁部」とよぶ)。左右の臼歯部が硬い骨格(前庭側縁部や口腔側縁部)でしっかり固定されているので、顎位にズレや傾きのある人がスプリント100を装着しても、咬合部110は左右に大きく変形することはない。ここで「前庭側」とは、歯列の口腔前庭に向いている側(唇側や頬側)のことであり、「口腔側」とは、歯列の固有口腔に向いている側(舌側)のことである。

【0023】
図3に戻り、前歯部軟性シート112は、貫通穴の形状に合わせて加工された軟質素材の軟性シートである。素材としては、ゴム状体、例えば、撥水性に優れ耐久性の高いシリコーンゴムが使用可能である。前歯部軟性シート112の厚みは骨格板111の厚みと同じ厚み(例えば、0.5mm~1.5mm)となっており、骨格板111の貫通穴に、例えば図4(B)に示すように、その平面が骨格板111の両平面と一体となるよう嵌め込まれている。

【0024】
図3に戻り、上側軟性シート113は、臼歯や前歯が接触する歯冠接触部(臼歯接触部や前歯接触部)として機能する軟質素材の軟性シートである。上側軟性シート113は、咬合部110と同様の馬蹄形をしており、前歯部軟性シート112が嵌め込まれた骨格板111の一方の面に貼付されている。上側軟性シート113の素材としては、例えば、シリコーンゴム等のゴム状体が使用可能である。厚みとしては、咬合圧の分散の機能を考慮しつつ、なおかつ骨格板111と後述の下側軟性シート114とを含めた厚みが大きくなりすぎないように、1.5mm前後、例えば1mm~2mmの範囲とするのが望ましい。

【0025】
下側軟性シート114は、臼歯接触部や前歯接触部として機能する軟質素材の軟性シートである。下側軟性シート114は、上側軟性シート113と同様に馬蹄形をしており、例えば図5のB-B’線断面図やC-C’線断面図に示すように、骨格板111の上側軟性シート113が貼付されていない方の面に貼付されている。下側軟性シート114の素材としては、例えば、シリコーンゴム等のゴム状体が使用可能である。厚みとしては、咬合圧の分散の機能を考慮しつつ、なおかつ骨格板111と後述の上側軟性シート113を含めた厚みが大きくなりすぎないように、1.5mm前後、例えば1mm~2mmの範囲とするのが望ましい。

【0026】
前述したように、骨格板111の前歯部には貫通穴が形成されているため、前歯咬合部は骨格のない軟質素材のみから構成されている。そのため、前歯咬合部は、ユーザの前歯の咬合形状に合わせ、例えば図6に示すように、S字状もしくは鋸歯状に塑性変形が可能である。その結果、不正咬合があるユーザがスプリント100を装着しても、前歯咬合部に咬合圧が偏ることはない。なお、前歯咬合部の厚みは、2.5mm~5.5mmの範囲とするのが望ましい。これは、上述した前歯部軟性シート112、上側軟性シート113、及び下側軟性シート114の好適な厚み(それぞれ、0.5mm~1.5mm、1mm~2mm、1mm~2mm)を加えたものである。

【0027】
側壁部120は、咬合部110の前庭側と口腔側の縁部に、咬合部110に略垂直に配置された側壁である。側壁部120は、ユーザの歯茎や頬に傷をつけないよう、軟質素材で構成される。側壁部120は、ユーザの下顎が前後左右に大きく動かないように、上下顎両方の歯列の側面(舌側面および頬側面)を覆うよう配置されている。

【0028】
本実施の形態によれば、前歯咬合部が軟質素材のみで構成されているため、不正咬合のあるユーザがスプリント100を装着しても、前歯部に咬合圧が偏らず、歯列全体に均一に咬合圧が加わる。その結果、スプリント装着による挺出や圧下等の歯の移動が抑制され、ユーザが長期間装着しても咬合圧バランスを崩すことがない。

【0029】
また、咬合部110の前歯咬合部以外は硬質素材から構成される骨格を備えているので、強い噛み締め等によりスプリント100に大きな咬合圧が加わっても、スプリント全体が大きく変形することはない。

【0030】
なお、特許文献1や2に示されるような従来型のスプリントは、矯正歯科治療中に装着することが困難であった。矯正歯科治療中は、歯列に装着される矯正装置により歯の位置を継続的に変化させる必要性から、均一な咬合接触状態を維持するのが困難なためであり、また、矯正装置がスプリント装着の妨げとなるためである。そのため、矯正歯科治療中はスプリントの装着を断念せざるを得ず、顎関節症のある患者が矯正歯科治療をした場合、顎関節症の症状を悪化させる等の問題が生じていた。しかしながら、本実施の形態のスプリント100は、前歯咬合部が軟質素材のみで構成されているため、矯正歯科治療により前歯の位置が継続的に変化しても、その変化に合わせて咬合部110の形状が柔軟に変化する。しかも、咬合部110は平面状になっているため、咬合面が歯冠形状となった従来型のスプリントとは違って、矯正装置がスプリント装着の妨げとなることもない。そのため、ユーザは、矯正歯科治療中であっても、スプリント100の装着を長期にわたって継続することができる。

【0031】
また、矯正歯科治療中、スプリントと前歯が強く接触しすぎることは、移動中の前歯の歯根や歯槽骨に過剰な負荷をかける可能性があるとともに、歯の移動の妨げとなる恐れがある。本実施の形態のスプリント100は、前歯咬合部が軟質素材のみで構成されているため、通常の咬合の場合は、前歯も含め歯列全体に均等に咬合圧を加えることができる。一方で、強い噛み締めが発生した場合は、前歯への咬合圧を減らし、臼歯部でより多くの負荷を受け止めることができる。そのため、ユーザは、矯正歯科治療中も安心してスプリント100の装着を継続できる。

【0032】
また、咬合部110の左右の臼歯部は、硬質素材の骨格(前庭側縁部と口腔側縁部)で固定されているので、咬合部110が左右に大きく変形することはない。例え顎位に傾きがあるユーザが装着しても、スプリント100はユーザの顎位の傾きを矯正して咬合圧を均一に保つことができる。

【0033】
また、スプリント100は、上下顎の位置を正常な位置に保つ側壁部120を備えている。そのため、顎位の偏位によって咬合圧が不均一となっているユーザが装着しても、顎位の偏位を解消して咬合圧を均一に保つことができる。

【0034】
なお、上述の実施の形態は一例であり、種々の変更及び応用が可能である。

【0035】
例えば、上述の実施の形態では、骨格板111の素材をポリカーボネートとしたが、骨格板111の素材はポリカーボネートに限定されず、例えば、ポリスチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ乳酸、アクリル樹脂、ABS樹脂、硬質塩化ビニル等の他の種類の硬質樹脂とすることも可能である。また、鉄やアルミニウム等の金属とすることも可能である。

【0036】
また、軟性シート(前歯部軟性シート112、上側軟性シート113、下側軟性シート114)の素材もシリコーンゴムに限定されない。素材としては、例えば、低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(エチレンビニルアセテート:EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)、軟質塩化ビニル、ウレタンゴム等他の種類の軟質材料を使用することが可能である。また、ウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジ、発砲CR(クロロプレン)ゴム、NRスポンジゴム等のスポンジ材料を使用することも可能である。

【0037】
また、前歯部軟性シート112と上側軟性シート113と下側軟性シート114の貼付方法は特定の方法に限定されない。接着剤により貼り合わせてもよいし、熱溶着してもよい。なお、上述の実施の形態では、咬合部110の前歯咬合部が3枚の軟性シートにより構成されていたが、前歯咬合部の構成は3層構造に限定されない。1枚の軟性シートから構成されていてもよいし、2枚の軟性シートから構成されていてもよい。前歯咬合部が骨格のない軟質素材から構成されるのであれば、その形成方法は任意である。

【0038】
なお、上述の実施の形態では骨格板111の両面に軟質素材の歯冠接触部(上側軟性シート113と下側軟性シート114)が配置されていたが、必ずしも骨格板111の両面に軟質素材の歯冠接触部を配置する必要はない。例えば、骨格板111の片面にのみ軟質素材の歯冠接触部を配置してもよい。この場合には、歯冠接触部の厚みを上側軟性シート113と下側軟性シート114の好適範囲(1.5mm前後)の2倍の3mm前後、例えば2mm~4mmの範囲としてもよい。片面にのみ軟質素材の歯冠接触部が配置された場合であっても、十分に咬合圧を分散することができる。

【0039】
なお、上述の実施の形態ではスプリント100を量産可能型のスプリントとして説明したが、スプリント100は個々のユーザに合わせて製作するオーダーメイド型のスプリントであってもよい。従って、片面にのみ軟質素材の歯冠接触部を形成する場合、骨格板111の歯冠接触部が形成されない面は、従来型のスプリントのように、ユーザの歯冠が密着可能な形状に加工されていてもよい。

【0040】
また、上述の実施の形態では、側壁部120は咬合部110の前庭側と口腔側に配置されていたが、前庭側と口腔側のいずれか一方にのみ配置される構成であってよい。また、側壁部120は、上顎の歯列のみの側面を覆うよう配置されていても、下顎の歯列のみの側面を覆うよう配置されていてもよい。

【0041】
また、骨格板111の形状は馬蹄形の板に貫通穴を形成した形状に限定されず、例えば、図7(A)に示すように、前歯部の口腔側にのみ縁部がある形状であってもよいし、図7(B)に示すように、前歯部の前庭側にのみ縁部がある形状であってもよい。また、図7(C)に示すように、左右の骨格板111が硬質素材の骨格で連結されていない独立した形状であってもよい。この場合、左右の骨格板111は前歯部に配置される軟性シートのみで連結されていてもよい。

【0042】
本実施の形態のスプリント100は高い咬合圧分散性能を有する。そのため、スプリント100は顎関節症の治療だけでなく、例えば、歯を強く噛み締めることの多いスポーツ競技者の競技時の口腔内保護等を目的とした使用も可能である。また、側壁部120を備えることにより上下顎の位置が安定するため、矯正歯科治療時の顎位の診査や確認、その他、顎位の安定化を目的とした使用も可能である。
【実施例1】
【0043】
様々な物性(弾力、反発力)の素材を組み合わせ、咬合圧が最適に分散される組み合わせを検討した。
【実施例1】
【0044】
咬合接触点の解析と各咬合接触点における咬合圧の測定を、専用の測定機器(株式会社ジーシーのオクルーザー(登録商標))を用いて行った。被験者に各種条件の実験用咬合板を咬合圧測定用の専用フィルムとともに5秒間、座位にて最大噛み締め力で咬合させ、その際のデータを採取した。実験に用いた材料は以下の(1)~(8)である。形状はいずれも上述の実施の形態で説明した咬合部110と同じ馬蹄形であるが、実施例1ではいずれの材料にも前歯部に貫通穴は設けていない。
【実施例1】
【0045】
(1)ポリカーボネート 厚さ1.0/3.0mm
(2)エチレンビニルアセテート 厚さ1.0/3.0mm
(3)ウレタンゴム 厚さ3.0mm
(4)シリコーンゴム 厚さ3.0mm
(5)ウレタンスポンジ 厚さ3.0mm
(6)ポリエチレンスポンジ 厚さ5.0mm
(7)発砲CR(クロロプレン)ゴム 厚さ5.0mm
(8)NRスポンジゴム 厚さ5.0mm
【実施例1】
【0046】
A.正常咬合者(硬質材料のみ)
正常咬合者に厚さ1mmの硬いポリカーボネート製の骨格板のみを咬合させた。その測定結果を図8(A)および表1に示す。図8(A)は接触点の分布を示した図であり、中央の目盛バー横の2本の棒は左右の咬合圧の大きさを示したものである。また、図中の十字は咬合圧の重心位置を示したものである。左右の咬合接触面積はやや左側の方が大きいものの、接触点の分布を見る限り、咬合圧は臼歯部を中心に両側でしっかりと受け止められており、大きな偏りは認められない。1接触点あたりの平均咬合圧も左右でほぼ均等であり、咬合圧も左右でバランスがとれている。また、咬合圧の重心位置は、U字型をした歯列のほぼ中央に位置しており、正常咬合では、咬合圧が歯列弓の前後左右全体にバランス良く分散されることがわかった。
【実施例1】
【0047】
【表1】
JP0006061243B2_000002t.gif
【実施例1】
【0048】
B.不正咬合者(硬質材料のみ)
不正咬合者に厚さ1mmの硬いポリカーボネート製の骨格板のみを咬合させた。その測定結果を図8(B)および表2に示す。全体的に咬合接触点が少なく、しかも右側前歯部付近に偏って分布している。咬合接触の総面積は少なく、しかも右側が左側と比較してきわめて大きな値を示した。また、左右の咬合圧バランスも84.1%:15.9%で右側に偏っており、咬合圧の重心位置は、右側、かつ前後的には前歯部に位置することがわかった。
【実施例1】
【0049】
【表2】
JP0006061243B2_000003t.gif
【実施例1】
【0050】
スプリントの効果は、単に咬合高径を増加させることによるものではない。これを証明するため、厚さ1mmの硬いポリカーボネート製の骨格板にさらに3mmの硬いポリカーボネート製の骨格板を重ね、咬合面の硬さを変えずに咬合高径のみを増加させて不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図8(C)および表3に示す。咬合接触点の分布にはほとんど変化がなく、右側前歯部付近への偏りも解消されないことがわかった。左側の咬合接触面積がやや増加し、わずかに右側への偏りが改善されたが、咬合圧の左右バランスは76.4%:23.6%であり、依然として右側に偏っていた。図中に十字で示される咬合圧の重心位置は、咬合高径が1mmの場合も3mmの場合もほとんど変化しない。すなわち、咬合高径を上げただけでは、咬合バランスは改善しないことがわかった。
【実施例1】
【0051】
【表3】
JP0006061243B2_000004t.gif
【実施例1】
【0052】
C.不正咬合者(硬質材料と軟性ゴム材料)
厚さ1mmの硬いポリカーボネート製の骨格板の片面に、各種軟性ゴム材料を重ね合わせ、不正咬合者の咬合接触状態を測定した。まず、厚さ1mmのポリカーボネートに厚さ1.5mmのエチレンビニルアセテートを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図9(A)および表4に示す。ポリカーボネートのみの場合とは異なり、咬合接触点数が増加し、咬合接触面積の増加が認められた。しかし、咬合接触点は右側に多く、左右の咬合圧バランスは80.6%:19.4%で大きく右に偏っている。咬合圧の重心位置は、右側前方部に位置したままであり、明らかな改善は認められなかった。
【実施例1】
【0053】
【表4】
JP0006061243B2_000005t.gif
【実施例1】
【0054】
厚さ1mmのポリカーボネートの片面に厚さ3mmのエチレンビニルアセテートを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図9(B)および表5に示す。厚さ1.5mmの場合と比べ、2倍の咬合接触面積となった。左右の咬合圧バランスはやや改善したが、71.5%:28.5%で依然として右に偏っている。また、前後的には依然前歯部への偏りが認められ、著明な改善は見られなかった。これは、素材の圧力分散能力が不足しているためと考えられる。
【実施例1】
【0055】
【表5】
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【実施例1】
【0056】
そこで、さらに柔軟性の高い厚さ3mmのウレタンゴムを厚さ1mmのポリカーボネートの片面に重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図9(C)および表6に示す。咬合接触点が増加したが、咬合接触点の右側への偏在は解消されていない。咬合接触面積はさらに増加したが、右側の面積が左側に比較して2倍以上であった。1接触点あたりの平均咬合圧の減少が認められ、左右の咬合圧バランスについても、エチレンビニルアセテートと比較して改善したが、依然63.9%:36.1%で右側に偏っていた。図中に十字で示される咬合圧の重心位置は、右側への偏位は改善されたが、前後的には依然前歯部への偏りが認められ、著明な改善は見られなかった。すなわち、素材の圧分散能力が十分でないことが分かった。
【実施例1】
【0057】
【表6】
JP0006061243B2_000007t.gif
【実施例1】
【0058】
厚さ1mmのポリカーボネートの片面に厚さ3mmのシリコーンゴムを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図9(D)および表7に示す。これまでの材料と比較してさらに咬合接触点数が増加し、左右に偏ることなく歯列全体に均一に分散した。また、一点あたりの咬合接触面積が小さくなった分、総咬合接触面積自体の増加はあまりみられないが、左右の咬合接触点の面積は4.3mm2:4.7mm2でほぼ均等になった。咬合圧においても、左右の咬合圧バランスも49%:51%でほぼ均等になった。すなわち、シリコーンゴムを咬合床に用いた場合、咬合接触点が歯列全体に細かく分散され、結果的に咬合圧が左右均等に分配されることが明らかとなった。ただ、図中に十字で示される咬合圧の重心位置については、右側への偏位は改善され、左右的に歯列弓のほぼ中心となったが、前後的には前歯部に寄った位置となった。
【実施例1】
【0059】
【表7】
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【実施例1】
【0060】
D.不正咬合者(硬質材料とスポンジ材料)
柔軟性および衝撃吸収性に優れたスポンジ素材についても検討した。まず、厚さ1mmのポリカーボネートの片面に厚さ3mmのウレタンスポンジを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図10(A)および表8に示す。咬合接触点数および総面積は、ポリカーボネート単体使用に比較して増加するものの、左右差は大きいままであった。左右の咬合圧バランスは若干改善されるものの63.4%:36.6%と不十分であることがわかった。図中に十字で示される咬合圧の重心位置については、歯列弓の右寄りであり、かつ前後的には他の軟質素材に比較してより前方部に位置していた。
【実施例1】
【0061】
【表8】
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【実施例1】
【0062】
厚さ1mmのポリカーボネートに厚さ5mmのポリエチレンスポンジを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図10(B)および表9に示す。咬合接触面積および咬合圧の左右比率はほぼ均等であり、良好な圧分散性を示したが、図中に十字で示される咬合圧の重心位置については、左右差は解消されたものの、やはり前歯部付近に偏位していた。
【実施例1】
【0063】
【表9】
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【実施例1】
【0064】
厚さ1mmのポリカーボネートに厚さ5mmの発泡CRゴムを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図10(C)および表10に示す。ポリエチレンスポンジと同様に良好な圧分散性を示したが、咬合圧の重心位置については前歯部付近に偏位していた。
【実施例1】
【0065】
【表10】
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【実施例1】
【0066】
厚さ1mmのポリカーボネートに厚さ5mmのNRスポンジゴムを重ね、不正咬合者に咬合させた。その測定結果を図10(D)および表11に示す。ポリエチレンスポンジと同様に良好な圧分散性を示したが、咬合圧の重心位置については前歯部付近に偏位していた。
【実施例1】
【0067】
【表11】
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【実施例1】
【0068】
E.まとめ
いずれの素材も咬合圧の重心位置は前歯に偏っていた。軟性ゴム材料では、厚さ1mmのポリカーボネートの片面に厚さ3mmのシリコーンゴムを重ねた構成が最も左右の咬合圧バランスが良かった。軟性ゴム材料を使用する場合、1mm前後(例えば、0.5mm~1.5mm)のポリカーボネートの片面に厚さ3mm前後(例えば、2mm~4mm)のシリコーンゴムを貼付する構成が好適と考えられる。なお、上述の検討ではポリカーボネートの片面にのみ軟性ゴム材料を貼付する構成としたが、ポリカーボネートの両面に軟性ゴム材料を貼付する構成であっても同様の結果が得られると考えられる。従って、ポリカーボネートの両面に軟性ゴム材料を貼付する場合、シリコーンゴムの一方の厚みは、上述の好適範囲の半分の1.5mm前後(例えば、1mm~2mm)が好適と考えられる。なお、スポンジ材料でも左右のバランスを保つことができるが、十分な圧分散性を得るためにはシリコーンゴムより厚みが必要である。
【実施例2】
【0069】
実施例1では、いずれの素材も咬合圧の重心位置は前歯に偏っていた。すべての不正咬合者において前歯の咬合圧が強くなるわけではないが、咬合圧バランスが前方に偏っている場合、強い咬合が持続的に生じた場合などに様々な問題が生じる可能性が懸念される。特に矯正歯科治療中に咬合部と前歯が強く接触しすぎることは、移動中の前歯の歯根や歯槽骨に過剰な負荷をかける可能性があるとともに、歯の移動の妨げとなる恐れもある。一方、前歯に咬合部を全く接触させず、前歯に咬合圧を加えなかった場合、前歯の挺出や臼歯の圧下が生じ、咬合全体のバランスを崩す結果となりかねない。すなわち、スプリントを使用した際に、スプリント咬合面と前歯の接触を確保しながらも、強く咬合した場合には、前歯への咬合圧の集中を避ける必要がある。そこで、歯冠接触部となる軟性材料はそのままに、その骨格となる硬質素材の形状を変更して咬合圧を測定した。
【実施例2】
【0070】
A.ポリカーボネート(貫通穴あり)とシリコーンゴム
骨格板は実施例1と同様に厚さ1mmの馬蹄形のポリカーボネートとした。ただし、前歯部には、図11(A)に示すように、貫通穴を形成した。貫通穴には、図11(B)に示すようにシリコーンゴムを適合した。その上で、骨格板の片面に図11(C)に示すような厚さ3mmのシリコーンゴムを重ねた。これを不正咬合者に咬合させ、その咬合接触状態を測定した。その測定結果を図12(A)および表12に示す。実施例1の貫通穴のないポリカーボネートと厚さ3mmのシリコーンゴムを重ね合わせた場合の結果と比較して、前歯における咬合接触点は残っているが、1点の面積が小さくなった。そのため、総接触面積は小さくなっているが、左右はほぼ均等であった。左右の咬合圧バランスは均等に保たれ、さらに、咬合圧の重心位置は、前歯方向に偏位していたものが、歯列弓の中心あたりに改善されることが分かった。
【実施例2】
【0071】
【表12】
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【実施例2】
【0072】
B.シリコーンゴムのみ
比較のため、厚さ3mmのシリコーンゴムのみを不正咬合者に咬合させた。測定結果を図12(B)および表13に示す。咬合接触点は均等に細かく分散していたが、咬合接触面積の左右のバランスには4.9mm2:2.2mm2で偏りが見られ、また、咬合圧の左右のバランスにおいても62.4%:37.6%で偏りが見られた。実施例1の貫通穴のないポリカーボネートと厚さ3mmのシリコーンゴムを重ね合わせた場合の結果と比較して右側前歯方向に偏る結果となった。すなわち、いずれの数値もポリカーボネートと重ね合わせた場合と比較して劣ることが示された。この理由として、シリコーンゴムのみを咬合した場合、咬合板全体が変形してしまうことが考えられる。
【実施例2】
【0073】
【表13】
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【実施例2】
【0074】
C.結論
硬質素材であるポリカーボネートに軟質素材であるシリコーンゴムを重ねて用いることにより、咬合圧の十分な分散が得られることが示された。また、硬質素材であるポリカーボネートの前歯部に貫通穴を形成することにより、さらに前後的にも咬合圧が分散されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
前歯咬合部は軟質素材のみで構成されており、患者の咬合状態にあわせて柔軟に変形する。そのため、不正咬合のある患者用のスプリントや矯正歯科治療中の患者用のスプリントとして利用可能である。また、スポーツ選手の競技用のスプリント(マウスガード)としても利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
100 スプリント
110 咬合部
111 骨格板
112 前歯部軟性シート
113 上側軟性シート
114 下側軟性シート
120 側壁部
Drawing
(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図3】
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(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図10】
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(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図12】
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