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明細書 :TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6332723号 (P6332723)
公開番号 特開2014-171425 (P2014-171425A)
登録日 平成30年5月11日(2018.5.11)
発行日 平成30年5月30日(2018.5.30)
公開日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明の名称または考案の名称 TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
A01K  67/033       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/47
A01K 67/027
A01K 67/033 501
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/68
請求項の数または発明の数 3
全頁数 20
出願番号 特願2013-046451 (P2013-046451)
出願日 平成25年3月8日(2013.3.8)
審査請求日 平成28年3月7日(2016.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
発明者または考案者 【氏名】漆谷 真
【氏名】北原 亮
【氏名】藤原 範子
【氏名】伊東 秀文
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 国際公開第2009/125646(WO,A1)
EMBO J.,2012年,vol.31, no.5,pp.1241-1252
FEBS Lett.,2013年 2月,vol.587, no.6,pp.575-582
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)TDP-43のアミノ酸配列において、配列番号1で示されるアミノ酸配列の173位及び/又は175位に相当するシステインが置換されたアミノ酸配列からなるTDP-43変異体又は該TDP-43変異体内のRRM1ドメインに候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の凝集体形成阻害活性を検出する工程、及び
(3)凝集体形成を阻害する化合物を選択する工程。
【請求項2】
TDP-43のアミノ酸配列において、配列番号1で示されるアミノ酸配列の173位及び/又は175位に相当するシステインが置換されたアミノ酸配列からなるTDP-43変異体をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物を用いることを特徴とする、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記非ヒト動物がマウス、ラット、線虫又はショウジョウバエである、請求項2に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集体形成能を有するTDP-43変異体及び該TDP-43変異体内のRRM1ドメイン、並びに該TDP-43変異体又はRRM1ドメインを利用したTDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患のモデルとなるトランスジェニック非ヒト動物に関する。さらに、本発明は、TDP-43の凝集体に結合する抗体又は抗体断片、該抗体又は抗体断片を含む診断薬、診断用キット、並びに医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
主要な認知症の1型である前頭側頭葉変性症(FTLD)と最難治性致死性神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質として、核タンパク質であるTDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43kDa)が同定されている。TDP-43はFTLDやALSにおいて核の局在性が低下し、細胞質内で病的凝集体を形成するがその機序は不明である。
【0003】
TDP-43は、FTLDとALSにおけるユビキチン化封入体において非常に高率に認められることが判明している。現在TDP-43の異常病理所見を呈する疾患は、TDP-43プロテイノパチーという疾患群と位置づけられ、各種の報告からTDP-43の機能異常がALS病態の本質である可能性が高まっている。
【0004】
このようにTDP-43の生理的・病理的機能を解明することはALSの克服に繋がる可能性があり、世界中で精力的な研究が進められている。TDP-43プロテイノパチーの最も明確且つ重要な病理所見は、TDP-43の核染色性の低下と細胞質での封入体形成である。この異所性局在の機能解明はALSの病態理解に不可欠である。
【0005】
TDP-43の分子構造は、2ヶ所のRNA結合領域(RRM)とカルボキシル(C)末端側のグリシンリッチ領域、核移行シグナル(NLS)、及び核外輸送シグナル(NES)を有する。
【0006】
TDP-43は、本来核タンパク質であるが、FTLDやALSでは核外脱出と凝集体形成をし、それらがユビキチン化とリン酸化を受けることが特徴とされている。さらにその際、TDP-43が35kDa、25kDaの凝集性の高いC末端側の断片(C末断片)に切断されることが知られており、病巣における共通の所見である。しかしながら、これまでの研究の蓄積から、こうした現象は疾患の進行期のものであり、タンパク質構造異常を惹起する病初期の構造変化については未だ不明である。
【0007】
TDP-43のC末断片は、実際に患者組織に存在し、培養細胞や遺伝子改変マウスで細胞質内に封入体形成をすることが広く知られており(例えば、非特許文献1、2)、このシステムを用いた薬剤スクリーニングは存在する。しかしながら、これら断片化が疾患発症の初期に出現する証拠は皆無であり、動物実験でもこれら断片の過剰発現はALSモデルとしては非典型的且つ不完全である。
【0008】
また、FTLD及びALS以外にもTDP-43の異所性局在を呈する疾患として、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が報告されている。
【0009】
TDP-43は、頭部外傷や軸索の引き抜き損傷、挫滅損傷で一過性に細胞質に異所性局在することが報告されているが、この場合TDP-43の局在異常は一過性でFTLDやALSの病型を示さない(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】T. Nonaka et al.; Human Molecular Genetics, 2009, Vol.18, No.18, 3353-3364
【非特許文献2】Y-J Zhang et al.; Journal of Neuroscience, 2007, Vol.27, No.39, 10530-10534
【非特許文献3】T Sato et al.; Neuroscience, 2009, Vol.164, 1565-1578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、TDP-43 トランスジェニック(Tg)マウスにおいてC末断片の出現は、表現系出現の後期現象であり、C末断片の過剰発現のみでは細胞死は生じない。また、C末断片のTDP-43 TgマウスはALSの表現系を示さない。このように、インビボにおいてTDP-43のC末断片が疾患のトリガーとなることを示す証拠はない。また、全長TDP-43を用いたTDP-43プロテイノパチーのモデルは現在存在しておらず、全長TDP-43のミスフォールディングにいたる構造変化も不明である。
【0012】
そこで、本発明は、全長配列において凝集体形成能及び細胞毒性を有するTDP-43変異体、並びに該TDP-43変異体を利用したTDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。また、本発明は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患のモデルとなるトランスジェニック非ヒト動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、TDP-43の凝集体形成にRRM1の構造変化が関わること、更にRRM1の構造変化に重要な分子内配列を特定し、その突然変異体が培養細胞でFTLD、ALS患者と同様の病理変化を示す疾患モデルとなるという知見を得た。
【0014】
本発明は、これら知見に基づき、完成されたものであり、次のTDP-43変異体、RRM1ドメイン、化合物のスクリーニング方法、トランスジェニック非ヒト動物等を提供するものである。
【0015】
(I) TDP-43変異体、RRM1ドメイン
(I-1) TDP-43のアミノ酸配列において、173位及び/又は175位のシステインが置換されたアミノ酸配列からなるTDP-43変異体。
(I-2) (I-1)に記載のTDP-43変異体内のRRM1ドメイン。
【0016】
(II) 化合物のスクリーニング方法(A)
(II-1) 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)(I-1)に記載のTDP-43変異体又は(I-2)に記載のRRM1ドメインに候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の凝集体形成阻害活性を検出する工程、及び
(3)凝集体形成を阻害する化合物を選択する工程。
【0017】
(III) トランスジェニック非ヒト動物
(III-1) (I-1)に記載のTDP-43変異体をコードするDNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
(III-2) 前記非ヒト動物がマウス、ラット、線虫又はショウジョウバエである、(III-1)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(III-3) (III-1)又は(III-2)に記載のトランスジェニック非ヒト動物を用いることを特徴とする、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法。
【0018】
(IV) 抗体又は抗体断片
(IV-1) TDP-43の108~116位に対応するアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体又は抗体断片。
(IV-2) (IV-1)に記載の抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断薬。
(IV-3) (IV-1)に記載の抗体又は抗体断片を含むTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用キット。
(IV-4) (IV-1)に記載の抗体又は抗体断片を含む医薬組成物。
(IV-5) TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療用及び/又は予防用である、(IV-4)に記載の組成物。
【0019】
(V) 化合物のスクリーニング方法(B)
(V-1) 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)(I-1)に記載のTDP-43変異体又は(I-2)に記載のRRM1ドメインに、(IV-1)に記載の抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
(V-2) 以下の工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用の化合物のスクリーニング方法:
(1)(I-1)に記載のTDP-43変異体又は(I-2)に記載のRRM1ドメインに、(IV-1)に記載の抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。
【0020】
(VI) ペプチド、核酸
(VI-1) TDP-43の108~116位に対応するアミノ酸配列を含むペプチド。
(VI-2) (VI-1)に記載のペプチドをコードする核酸。
(VI-3) (VI-1)に記載のペプチド又は(VI-2)に記載の核酸を含む、TDP-43の凝集体に対する抗体の産生を刺激又は増強するための医薬組成物。
(VI-4) ワクチンである(VI-3)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、TDP-43の凝集体形成に関わる機能ドメインとキー配列を初めて同定した。また、本発明のTDP-43変異体を発現する培養細胞は、患者の病理所見を再現した有効な初めての培養細胞モデルとなる。
【0022】
本発明のTDP-43変異体及びRRM1ドメインは、インビトロ又は細胞内での凝集体形成阻害を指標とすることにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニングに活用可能である。
【0023】
また、本発明のTDP-43変異体をコードするDNAを動物に導入することで、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患(例えば、ALS等)のモデル動物の作成が可能になり得る。
【0024】
本発明の抗体及び抗体断片は、TDP-43細胞質封入体を特異的に認識できるので、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の早期診断や治療及び予防への適用が期待される。また、本発明の抗体又は抗体断片は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断用及び治療用の化合物のスクリーニング方法への適用も期待される。
【0025】
また、本発明のペプチド又は核酸は、TDP-43の凝集体形成前の病的状態に対する抗体の産生を刺激又は増強し得ることから、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び予防への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】RRM1残基の概略図である。凝集したRRM1のプロナーゼ抵抗性フラグメントはLC-MS/MSによって分析した;モノアイソトピックm/z > 800を有する領域が示されている。アスタリスクで示されたアミノ酸残基は、2 kbar圧力処理後のNMR化学シフトでの不可逆的変化を示し、ミスフォールディングに関連するコア-a、-b及び-cとして示されている。
【図2】(A) 還元条件(DTT(+))又は非還元条件(DTT(-))下でのWT又は1つのRRM1 C/S変異体(C173S又はC175S)のウェスタンブロット分析の結果を示す。タンパク質は、0 h (-)又は16 h (+)震盪後に4℃で7日間インキュベートされた。(B)ダイマー/モノマー比の濃度分析の結果を示すグラフである。これは1つのC/S変異が分子間ジスルフィド結合形成を促進することを示している。
【図3】RRM1凝集体がアミロイドフィブリルを形成することを示すチオフラビンT (ThT)蛍光分析の結果を示す。RRM1タンパク質(0.03 mM)を4又は37℃で24時間インキュベート後にThT誘導体(BTA-1)と反応させた。データはコントロールと比べたThT比を示している。*one way ANOVAによるコントロールに対するp<0.05 各値は、3回の平均±平均の標準誤差(SE)を表している。【図5】(A) TDP-43-EGFPの全長のWT又はRRM1 C/S変異体を遺伝子導入したSHSY-5Yの共焦点顕微鏡分析の結果を示す。細胞はS409/S410でのphospho-TDP-43 (a-i)及びK48結合ユビキチン(j-o)を標的化する抗体を用いて染色した。核はDAPIによって染色した。細胞質におけるリン酸化又はユビキチン化封入体は矢印によって示されている。細胞質の封入体は両方の抗体に強く染色される。スケールバー10μm 上段:TDP-43-EGFP、中段:抗体、下段:TDP-43-EGFP+抗体+DAPI (B) RRM1-C/S置換を有するTDP-43が、ラクタシスチンによるプロテアソームの分解抑制によって、オリゴマー化することを示すウェスタンブロットの結果である。TDP-43-FLAGをHEK293A細胞に過剰発現させた;SDS処理された全細胞溶解液をSDS-PAGEによって分析し、FLAGとGAPDHを標的とする抗体と反応させた。(C) S409/S410でリン酸化されたTDP-43を標的とする抗体を用いたRRM1-C/S置換を有するTDP-43のウェスタンブロットの結果である。RRM1-C/S置換を有するTDP-43はより強くリン酸化され、ラクタシスチン処理はリン酸化されたTDP-43を増加させた(レーン5-10)。
【図6】(A) TDP-43-EGFPの全長WT又はRRM1 C/S変異と改変NLS (mNLS)を有するTDP-43-EGFPを一過性に過剰発現したSHSY-5Yの共焦点顕微鏡分析の結果を示す。細胞はS409/S410でのphospho-TDP-43 (a-i)及びK48結合ユビキチン(j-o)を標的化する抗体で染色した。核はDAPIによって染色した。細胞質におけるリン酸化又はユビキチン化封入体は矢印によって示されている。細胞質の封入体は両方の抗体に強く染色される。スケールバー10μm 上段:TDP-43-EGFP、中段:抗体、下段:TDP-43-EGFP+抗体+DAPI (B) RRM1-C/S置換を有するTDP-43がラクタシスチンによるプロテアソームの分解抑制によって、オリゴマー化することを示すウェスタンブロットの結果である。TDP-43-FLAGをHEK293A細胞に過剰発現させた;SDS処理した全細胞溶解液を、SDS-PAGEによって分析し、FLAGとGAPDHを標的とする抗体と反応させた。(C) S409/S410でリン酸化されたTDP-43を標的とする抗体を用いたRRM1-C/S置換を有するTDP-43のウェスタンブロットの結果を示す。変異NLSとRRM1-C/S置換を有するTDP-43は、RRM1-C/S置換のみの変異体よりも強くリン酸化され、ラクタシスチン処理による増強効果も強かった(レーン5-10)。
【図7】(A) HEK細胞にWT又は変異体TDP-43-EGFPを一過性に過剰発現させ、ウサギポリクローナル抗TDP-43抗体を用いて分析した。スケールバー50μm上段:TDP-43-EGFP+抗体、下段:TDP-43-EGFP+抗体+DAPI (B) 細胞質に異所性局在したTDP-43を有するTDP-43-EGFP発現細胞の定量の結果を示す。DCS, double C/S変異体 データは平均±SEで表されている(n=4)。各実験において21-70個の細胞をカウントした。*Newman-Keulsテストを用いたone way ANOVAによるWTに対するp<0.05【図9】家族性ALSで同定されたTDP-43の突然変異体(A315T及びQ331K)を有するEGFP融合TDP-43タンパク質にC175S変異を導入し(d-f) (対照としてはC175S変異を有さないものを用いた(a-c))、HEK293A細胞に一過性に過剰発現させた。これを共焦点顕微鏡で観察し、盲目的にデジタルイメージを取得し、TDP-43-EGFPを発現した全細胞中の凝集体発現細胞の個数を計測した。データは平均±SEを表している(n=8画像)。各画像で20-120個の細胞をカウントした。*Newman-Keulsテストを用いたone way ANOVAによるp<0.05【図12】孤発性ALS患者(a-b)と非ALS被験者(c)からの脊髄切片をRRM1-aを標的とする抗体で染色した。矢印はレビー小体様ヒアリン封入体を示している。スケールバー50μm
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0028】
本発明者らはTDP-43における主なRNAの結合部位であるRRM1ドメインに着目した。RRM1の安定同位体タンパク質を用いた高圧NMRとRRM1凝集体の質量解析によって、RRM1が易凝集性を有し、その凝集に3つの特定アミノ酸配列(aa113-122、133-147、166-173)が関与することを突き止めた。特にaa166-173を含むβシート構造は、圧力や震盪刺激、酸化ストレスといった異常ストレス下でRRM1が異常会合する際の会合面となり、更に同部位に存在する2つのシステイン残基(C173とC175)がフリー状態でないと凝集体形成が促進されることを発見した。

【0029】
C173、C175をセリンに置換した変異体は、核内、細胞内で著明な封入体を形成し、細胞質においてALSやFTLD患者で見られるようにユビキチン化やリン酸化を認め、更に運動ニューロン培養細胞に神経毒性を示すことが明らかとなった。興味深いことに、C173/C175変異によるRRM1の構造変化は、遺伝性ALSで報告されているTDP-43の突然変異の凝集原性を著明に増悪し、これまで不明であった野生型TDP-43と変異型TDP-43の差異を明確に示したことから、ALSにおけるTDP-43の異常な構造変化に関与することが強く示唆された。

【0030】
この3つのアミノ酸配列に対するウサギポリクローナル抗体を作製し、培養細胞でaa113-122、166-173に対する抗体が正常の核内TDP-43を認識しないこと、C173、C175変異による細胞内凝集体を認識することを確認した。ALS患者脊髄を用いた組織染色を行い、疾患特異的なTDP-43の封入体がaa113-122に対する抗体で染色されることを明らかにし、C173、C175の封入体モデルが疾患の病態を反映することを確認した。

【0031】
本発明におけるTDP-43の凝集体が蓄積する疾患としては、これらに限定されるものではないが、例えば、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が挙げられるが、特に筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭型認知症である。

【0032】
TDP-43変異体、RRM1ドメイン
本発明のTDP-43変異体は、TDP-43のアミノ酸配列において、173位及び/又は175位のシステインが置換されたアミノ酸配列からなることを特徴とする。

【0033】
ヒト由来のTDP-43は、414アミノ酸からなるタンパク質であり、一次構造はヘテロリボ核タンパク質(hnRNA)ファミリーと高い相同性を有している。TDP-43は2つの高く保存されたRNA認識モチーフ(RRM1、RRM2)を有し、C末端側にはグリシンリッチ領域を含んでおり、このグリシンリッチ領域はhnRNPファミリーのメンバーと結合する。

【0034】
ヒト由来のTDP-43タンパク質のアミノ酸配列は、GenBank Accession No.NP_031401として登録され、配列番号1に示されている。また、ヒト由来のTDP-43タンパク質をコードする遺伝子は、GenBank Accession No.NM_007375.3として登録され、cDNAは配列番号2に示されている。

【0035】
本発明におけるTDP-43としては、上記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体であってもよい。

【0036】
本発明のTDP-43は、通常、動物由来であり、好ましくは哺乳動物由来、特に好ましくはヒト由来である。

【0037】
本発明の「173位及び/又は175位のシステイン」とは、基本的には配列番号1で示されるアミノ酸配列の173位及び/又は175位のシステインであるが、他のアミノ酸配列を有するTDP-43については同様の位置が該当する。

【0038】
173位及び/又は175位のシステインを置換するアミノ酸の種類としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、好ましくはセリン又はアラニンである。

【0039】
本発明のTDP-43変異体は、更に核移行シグナル(NLS)が機能しない形で改変されていることが好ましい。

【0040】
本発明のTDP-43変異体は、核内及び細胞内で封入体を形成し、運動ニューロン培養細胞に神経毒性を示す。また、上記TDP-43変異体内のRRM1ドメインだけであっても、容易に凝集体を形成する。そのため、本発明のTDP-43変異体及びRRM1ドメインは、以下に示すTDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法等に使用可能である。

【0041】
RRM1ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列では103~183位の部分である。

【0042】
化合物のスクリーニング方法(A)
本発明の化合物のスクリーニング方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインに候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の凝集体形成阻害活性を検出する工程、及び
(3)凝集体形成を阻害する化合物を選択する工程。

【0043】
上記方法により選択される、上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインの凝集体形成を阻害する化合物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防に有効であり得る。

【0044】
候補となる化合物は、特に制限なく使用することができるが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。

【0045】
上記工程(1)における「接触させる」とは、上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインにインビトロで候補となる化合物を接触させること、及び上記TDP-43変異体を発現する培養細胞に候補となる化合物を接触させることの両方を包含する。

【0046】
候補となる化合物の存在により、インビトロでの上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインの凝集体の形成が、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下した場合、当該化合物をTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防に有効なものとして選択できる。

【0047】
インビトロでの凝集体形成阻害活性の測定方法としては、特に制限なく使用できるが、例えば、吸光度計、ELISA法、SDS-PAGE又はウェスタンブロッティング法を用いることにより凝集体の存在を確認する方法が挙げられる。

【0048】
また、候補となる化合物の存在により、上記TDP-43変異体を発現する培養細胞中の(好ましくは細胞質中の)封入体の形成が、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下した場合、当該化合物をTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防に有効なものとして選択できる。

【0049】
培養細胞を用いた凝集体形成阻害活性の測定方法としては、特に制限なく使用できるが、例えば、EGFPを結合させた上記TDP-43変異体を発現する培養細胞を蛍光顕微鏡を用いて観察することにより封入体の存在を確認する方法が挙げられる。

【0050】
トランスジェニック非ヒト動物
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、上記TDP-43変異体をコードするDNAが導入されていることを特徴とする。

【0051】
本発明における非ヒト動物とは、ヒトを含まない脊椎動物や無脊椎動物を意味し、トランスジェニック動物の作製が可能な非ヒト動物であれば特に限定されず、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ、ニワトリ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル、線虫、ショウジョウバエ等を挙げることができるが、マウス、ラット、線虫及びショウジョウバエが好ましく、マウスが特に好ましい。

【0052】
トランスジェニック非ヒト動物の作製方法は公知である。具体的には、上記TDP-43変異体をコードするDNAを動物の全能細胞に導入し、この細胞を個体へと発生させる。そして、得られた個体の中から、体細胞及び生殖細胞中に導入遺伝子が組み込まれた個体を選別することによって、目的とするトランスジェニック非ヒト動物を作製することができる。遺伝子を導入する全能細胞としては、受精卵や初期胚以外に、ES細胞のような培養細胞などが挙げられる。

【0053】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物としては、上記TDP-43変異体をコードするDNAを有するものであれば、トランスジェニック非ヒト動物のいずれの世代の動物であってもよい。また、本発明のトランスジェニック非ヒト動物としては、上記TDP-43変異体をコードするDNAをヘテロ又はホモのいずれで保持するものであってもよい。

【0054】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、導入されたTDP-43変異体が核内及び細胞内で封入体を形成し、運動ニューロン培養細胞に神経毒性を示すため、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患のモデル動物として利用することができ、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療効果及び予防効果を評価することが可能である。そのため、本発明のトランスジェニック非ヒト動物を使用することにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニングを行うことができる。

【0055】
例えば、本発明のトランスジェニック非ヒト動物に、候補となる化合物を投与し、該トランスジェニック非ヒト動物の運動能力などを評価することにより、該化合物のTDP-43の凝集体が蓄積する疾患に対する治療効果や予防効果を評価することができる。また、本発明のトランスジェニック非ヒト動物に候補となる化合物を投与し、投与後における脳内の細胞中のTDP-43封入体について分析することにより、該化合物のTDP-43の凝集体が蓄積する疾患に対する治療効果や予防効果を評価することもできる。

【0056】
抗体又は抗体断片
本発明の抗体又は抗体断片は、TDP-43の108~116位に対応するアミノ酸配列からなるペプチドに結合することを特徴とする。

【0057】
ここで、結合の対象となるペプチドは、TDP-43の一部分の状態のもの、及び当該ペプチドのみからなるものの両方を含む。

【0058】
「108~116位に対応するアミノ酸配列」とは、基本的には配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるVLGLPWKTTであるが、他のアミノ酸配列を有するTDP-43については同様のアミノ酸配列が該当する。

【0059】
TDP-43の108~116位のアミノ酸残基は、TDP-43の凝集体において構造変化により外部露出しているため抗体と結合し易い構造になるが、野生型では抗体と結合し難い構造を取っていると考えられる。

【0060】
上記抗体又は抗体断片は、公知の方法に従って取得することが可能であり、例えば、実施例に記載の方法により取得することができる。また、上記抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでもよく、またヒト化されたキメラ抗体であってもよい。抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv等が挙げられ、抗体又は抗体断片は蛍光色素等により修飾されていてもよい。当該抗体又は抗体断片は、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップによる解析法等に使用することで上記ペプチドを検出することができる。

【0061】
本発明の診断薬及び診断用キットは、上記抗体又は抗体断片を含むことを特徴とし、TDP-43の凝集体を検出することが可能である。そのため、本発明の診断薬及び診断用キットにより、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断が可能となり得る。

【0062】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与されるものであって、上記抗体又は抗体断片を含むことを特徴とし、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防の効果を有し得る。これは、TDP-43の108~116位のアミノ酸残基は、疾患や変異によって構造変化が起こり、抗体と結合し易い構造になるためと考えられる。

【0063】
本発明の医薬組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の医薬組成物は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。

【0064】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。

【0065】
化合物のスクリーニング方法(B)
本発明の 化合物のスクリーニング方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインに、上記抗体又は抗体断片と候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該化合物の結合阻害活性を検出する工程、及び
(3)該抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物を選択する工程。

【0066】
上記方法により選択される、上記TDP-43変異体又は上記RRM1ドメインへの上記抗体又は抗体断片の結合を阻害する化合物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患及び/又は予防、並びにTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断に有効であり得る。

【0067】
候補となる化合物は、特に制限なく使用することができるが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。

【0068】
候補となる化合物の存在により、上記の抗体又は抗体断片の結合が、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下した場合、当該化合物をTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防、並びにTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の診断に有効なものとして選択できる。結合阻害活性の測定方法としては、特に制限なく使用できるが、例えば、ELISA法が挙げられる。

【0069】
ペプチド、核酸
本発明のペプチドは、 TDP-43の108~116位に対応するアミノ酸配列を含むことを特徴とし、本発明の核酸は、該ペプチドをコードすることを特徴とする。

【0070】
「108~116位に対応するアミノ酸配列」とは、基本的には配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるVLGLPWKTTであるが、他のアミノ酸配列を有するTDP-43については同様のアミノ酸配列が該当する。

【0071】
本発明のペプチドは、 好ましくはTDP-43の108~116位に対応するアミノ酸配列からなる。

【0072】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与されるものであって、上記ペプチド又は上記DNAを含むことを特徴とし、TDP-43の凝集体に対する抗体の産生を刺激又は増強し得る。TDP-43の108~116位に対応するアミノ酸残基は、疾患や変異によって構造変化が起こり、抗体と結合し易い構造になるが、野生型のTDP-43では、抗体と結合し難い構造をとっていると考えられる。そのため、本発明の医薬組成物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の予防の効果を有するワクチンとして機能し得る。また、本発明の医薬組成物は、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療及び/又は予防の効果を有し得る。

【0073】
本発明の医薬組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の医薬組成物は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。

【0074】
また、本発明の医薬組成物は、細胞又は組織内で上記ペプチドを発現させることができるDNAを使用した非ウイルスベクター又はウイルスベクターを含むものであってもよい。非ウイルスベクターによる投与方法としては、リポソームを用いてDNAを導入する方法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃でキャリアとともにDNAを細胞に移入する方法等が挙げられる。ウイルスベクターを用いて投与する方法としては、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用する方法が挙げられ、上記ペプチドを発現するベクターを無毒化したアデノウイルス、レトロウイルス等に導入し、細胞又は組織にこのウィルスを感染させることにより細胞又は組織内に遺伝子を導入することができる。

【0075】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
<プラスミド構築及びプロテイン精製>
ヒトのRRM1 (aa 103-183)のcDNAは、テンプレートとして以前報告されたコンストラクト(pcDNA3-TDP-43-FLAG)を用いたPCRによってクローン化した(1)。システインをセリン(C/S)にする置換変異、家族性ALS関連変異体(A315T及びQ331K)、及びNLS変異体(mNLS)は以前報告されたように部位特異的突然変異導入を使用して生成した(1)。ヒトTDP-43のRRM1欠失変異体(ΔRRM1)は、除去される欠失部位へのプライマーを設計することでPCRによって生成した。これらのcDNAは、pcDNA3、培養細胞実験のためのpEGFP-N2 (Clontech, Palo Alto. CA)、及び組換えタンパク質を生成するためにpGEX-6p-1に、それぞれBamHI/XhoI、XhoI/BamHI及びBamHI/XhoIサイトでサブクローン化した。組換えタンパク質は、以前報告されているようにE. coliで産生させ精製した(1)。
(1) J. Neurosci. Res. 88, 784-797(2010)
【実施例】
【0078】
<抗体>
ウサギポリクローナル抗TDP-43抗体(Sigma, St. Louis, MO)は、RRM1ドメインのウェスタンブロット分析のために使用した(1:1000希釈)。他のウサギポリクローナル抗TFP-43抗体(Proteintech, Chicago, IL)は、免疫蛍光のために使用した(1:1000)。マウスモノクローナル抗FLAG (M2) (Sigma)は、免疫蛍光染色、ウェスタンブロッティングとも1:500希釈で使用した。ウサギポリクローナル抗phospho-TDP-43抗体は、免疫蛍光、ウェスタンブロッティングともに1:500希釈で使用した。ウサギモノクローナル抗K48-specific ubiquitin (Millipore, Temecula, CA)は、免疫蛍光のために1:500希釈で使用した。RRM1ドメインのミスフォールド関連コアに対する抗血清を生成する方法は、以下に記載する。
【実施例】
【0079】
<NMR測定>
タンパク質のサンプルを、20 mM d-Tris-HClバッファー中に1.1 mM、pH 7.0で調製した。1H-NMRと15N/1H HSQC測定を、25℃で30 barから2000 barまで500 bar毎に行った。分析は、以前報告されているように高圧NMRセルと組み合わせたDRX600スペクトロメーター(Bruker biospin Co., Fallanden, Switzerland)を用いて行った(2)。溶液中のRRM1の3次元構造は、通常の三重共鳴NMR技術によって決定した。1H化学シフトはDSSのメチル共鳴を直接参照し、一方で15N化学シフトは、DSSの1H化学シフトを間接的に参照した。
(2) Chemical Reviews 106, 1814-1835(2006)
【実施例】
【0080】
<組換えタンパク質と培養細胞溶解液の生化学的分析>
組換えタンパク質は、22℃16時間800 rpmでマルチボルテックスミキサーにより震盪させ、次に4℃でインキュベートした。その後、タンパク質をLDSサンプリングバッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)と共に、70℃で20分間の反応よって変性させた後、SDS-PAGEを行った。パーフルオロオクタン酸(PFO, Fluorochem Ltd, Derbyshire, UK)は、細胞質と膜タンパク質の両方のタンパク質-タンパク質相互作用を保存する非解離性界面活性剤である。タンパク質サンプルは、同量のPFOサンプリングバッファー(100 mM Tris base, 2% NaPFO, 20% glycerol, 0.005% Bromophenol Blue, pH 8.0)と混合し、22℃で1時間インキュベートした。タンパク質サンプルは、予め冷却したランニングバッファー(0.5% NaPFO, 25 mM Tris-HCl, 192 mM Glycine, pH 8.5)を使用して4-12%勾配ポリアクリルアミドゲル(Novex, Tris-Bis gel, Invitrogen)で140Vで分離した。SDS-PAGE又はPFO-PAGEのために、サンプルは、ジチオスレイトール(DTT)を含む又は含まないプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)及び/又はホスファターゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)を含む2%SDS-サンプルバッファーで変性した。サンプルは、SDS-PAGEによって分離し、ウェスタンブロッティングのためのPVDF膜に転移した。抗体検出は、増強した化学ルミネセンス(Nacalai Tesque)を用いて行った。PFO-PAGE後のゲルは、クマシーブリリアントブルー(CBB、ナカライテスク)によって染色した。
【実施例】
【0081】
<チオフラビンTアッセイ>
熱変性RRM1によるアミロイド形成は、チオフラビンTアッセイを使用して評価した。示した時間4℃での事後的なインキュベーション後に、タンパク質溶液は当モル量のチオフラビン誘導体BTA-1 (Sigma)と反応させた。蛍光は、マルチプレートリーダー(Tecan, Mannedorf, Switzerland)を使用して440 nm (励起)及び480 nm (発光)で測定した。
【実施例】
【0082】
<LC-MS/MS分析>
プロナーゼ分解されたRRM1タンパク質凝集体のLC-MS/MS分析は、概ね以前に報告された方法に従って行った(3)。RRM1タンパク質凝集体(25μg)は、100μLの消化バッファー(50 mM Tris, 100 mM NaCl, 5 mM CaCl2, pH 8.0)に再懸濁し、5μgのプロナーゼ(Millipore)と混合し、37℃で1時間インキュベートした。反応混合液のタンパク質は100000 g、4℃で30分間超遠心によって沈降した。ペレットは20μLのバッファー(50 mM Tris, 500 mM NaCl, 6 M GdnHCl, 5 mM EDTA, 5 mM DTT, pH 8.0)中に回収し、NuTip C-18 (Glygen Co, Columbia, MD)を使用して脱塩した。バッファーは、蒸留水中の2%アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸(Nacalai, Kyoto, Japan)で置換した。分解されたフラグメントは、LC-MS/MS (Paradigm MS4, AMR, Kyoto, Japan; Finigan LCQ Advantage MAX, Thermo Electron, Waltham, MA)で分析した。
(3) J. Biol. Chem. 286, 18664-18672(2011)
【実施例】
【0083】
<細胞培養、形質導入>
全ての培養細胞は、5%CO2、湿度100%、37℃の状態にあった。HEK293A細胞(Invitrogen)は、10%ウシ胎児血清とペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含むダルベッコ改変イーグル培地で維持し、ヒトニューロブラストーマ細胞株SHSY-5Yは、15%ウマ血清、非必須アミノ酸(Invitrogen)を含むDMEM/F12-Ham培地で培養し、マウス運動ニューロン細胞株NSC34細胞(Cellutions biosystems, Vancouver, BC)は、10%FBSを含むDMEMで培養維持した。分化のために、培地を1%非必須アミノ酸(NEAA)を含むDMEM/F12-Ham中に3%FBSを含む分化培地に変更した。FuGene HD transfection kit (Roche, Basel, Switzerland)をプラスミド導入のために使用した。トランスフェクションの48時間後に、細胞に種々の分析を行った。
【実施例】
【0084】
<免疫細胞化学及び共焦点顕微鏡観察>
4%PFAで固定化後、細胞は5%ヤギ血清及び0.2%Triton X100を含むPBS中で室温で1時間インキュベートした。細胞は0.1% Triton X100を含むPBS中で各種一次抗体と室温で1時間反応させ、その後、同じバッファー中で蛍光二次抗体(Alexa 488, Invitrogen; CF 568, Biotium, Hayward, CA)と反応させた。PBSで三回洗浄後に、2μg/mLを含むPBS中で細胞をインキュベートすることによって核を染色した。染色された細胞は、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon, C1 SI, Tokyo, Japan)によって分析した。細胞カウント実験のために、7、8枚の写真をランダムに撮った(1画像当たり20~50個のGFP陽性細胞)。全蛍光細胞と封入体陽性細胞の細胞カウントは、ImageJソフトウェアを使用して盲目様式で行った。
【実施例】
【0085】
<細胞死アッセイ>
生細胞に由来するプロテアーゼ活性と死細胞から放出される細胞外空間に由来するプロテアーゼ活性を測定することによって生細胞と死細胞を同時に測定することができる、市販のダブル蛍光アッセイ(Multitox-Fluor Multiplex cytotoxicity assay, Promega)を用いて、過剰発現した細胞の生存率と毒性を評価した。この方法は、ウェル間での異なるトランスフェクション効率を最小化することができる。NSC34細胞は、トランスフェクション1日前に、ウェル当たり1×104の濃度で96ウェル蛍光観察用黒色プラスチック培養容器(CN137101, Nunc)に播種した。WT又は各種変異体のFlagタグTDP-43のプラスミドをFuGene HD transfection kit (Roche)を使用して0.2μg/wellで導入し、次の日に分化培地に交換した。トランスフェクションの48時間後に、それぞれ生細胞と死細胞に対する蛍光指示薬である、細胞浸透性GF-AFCと細胞不透過性bis-AAF-R110を加えた。2時間のインキュベーション後に、生細胞については400/505 nm、死細胞については485/520 nmの励起/発光を各々使用し、マルチプレートリーダー(Infinite 200, TECAN, Mannedorf, Switzerland)でRFUを得た。Bis-AAF-R110蛍光は生存率を評価するためにGF-AFCの内部標準として使用した。細胞毒性比はベクターコントロールとの比として表した。
【実施例】
【0086】
<凝集関連RRM1を標的化する抗体の生成>
ウサギを、LC-MS/MSと高圧NMR分析で凝集関連配列として特定したキーホールリンペットヘモシアニン結合ペプチド(CVLGLPWKTT, CQVKKDLKTG, SQRHMIDGRWC; それぞれRRM1-a, RRM1-b, RRM1-cと称している)で免疫した。RRM1-a及びRRM1-cでの免疫化後に得られた抗血清は、組換えRRM1と全長TDP-43タンパク質に対して特異的且つ高い反応性を示した。抗体特異性は、ウェスタンブロッティングとELISAによって確認した。プロテインAを使用して精製したIgGは、免疫蛍光及び免疫組織化学(1:500)のために使用した。
【実施例】
【0087】
<ALS患者由来の検体の免疫組織化学>
実験手順は、京都大学の倫理委員会のガイドラインによって承認され、当該ガイドラインの下で行われた。孤発性ALSの確定診断を有する3人の患者及び年齢が一致する3人の非ALS検体由来の腰髄を用いた。腰髄ブロックは切除後、直ぐに10%緩衝化ホルマリン中でインキュベートさせパラフィン包埋を行った。切片(6μm)は抗原賦活化のためにオートクレーブによって処理し(10 mMクエン酸ナトリウムバッファー中で121℃10分)、3%BSAを含むPBS中でRRM1-a又はRRM1-cに対する一次抗体で一晩4℃でインキュベートした。抗体反応は、色素原の3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩と共にVectastain Elite ABC kit (Vector Laboratories, Burlingame, CA)を使用して可視化した。染色特異性は、一次抗体を3%BSAを含む適当な量のPBSと置き換えて、染色性を認めなかったことによって評価した。
【実施例】
【0088】
<統計>
多重比較は、Prism software (Graphpad, La Jolla, CA)を用いたNewman-Keuls多重比較テストでのone way ANOVAによって解析した。
【実施例】
【0089】
試験例1
RRM1ドメインの部位特異的高次構造上の変動は、高圧NMR分光法を用いて調査した。圧力は、分子会合の潜在的リスクである部分的に乱れた高次構造を増加させるために使用した。通常多くのタンパク質で可逆的な構造変化を誘発する2000 barでの圧力処理前後の、30 barにおける該ドメインの15N/1H HSQCスペクトルの重ね合わせにより、化学シフトの不可逆的な変化が(特にaa 113-122, 133-147, 及び166-173における多くの残基で)明らかになった。
【実施例】
【0090】
NMRによって特定された3つのRRM1コア領域の役割を更に調査するために、非特異的プロテアーゼであるプロナーゼで分解された震盪誘導RRM1凝集体のマススペクトル分析を行った。多数の分解されなかったペプチドが特定されたが、これは物理的ストレスの間にこれらのコア領域が構造変化しプロテアーゼが接近できなくなったことを示している。面白いことに、プロテアーゼ抵抗性フラグメントの3つのクラスターは、NMRによって特定されたものにマッチしていた(core-a, core-b, core-c、図1)。特に4と5番目のβストランドに位置するcore-cは、最もプロテアーゼに抵抗性の非分解産物を豊富に含んでいた(図1)。
【実施例】
【0091】
試験例2
RRM1凝集体は、5番目のβストランドのC173とC175により媒介されたジスルフィド結合によるオリゴマーの画分を含んでいた。C173とC175が酸化されてTDP-43のオリゴマーを形成することが以前報告されているので、C173とC175のシステインをセリンに置換すること(C/S変異体)でオリゴマー形成が抑制できるかどうかを調査した。しかしながら、1つのC/S変異体(C173SとC175S)は、静置した状態でも、むしろDTT感受性オリゴマー形成が促進された(図2A, B)。さらに、二重のC/S変異体(C173S/C175/S)はより不安定であり、震盪がない場合でさえ不規則なオリゴマーや凝集体を形成した。チオフラビンTアッセイにおいても、システイン置換がβシート形成を増加させ、二重のC/S変異体は1つのC/S変異体より高いチオフラビンT蛍光を示した(図3)。
【実施例】
【0092】
試験例3
全長TDP-43の高次構造におけるC173とC175の役割を調査した。WT又はC/S変異体(C173S, C175S, C173S/C175S)RRM1を含むC末端EGFP融合TDP-43コンストラクトは、共焦点顕微鏡分析のためにHEK293A細胞に過剰発現させた。RRM1ドメイン分析から得られたデータと一致し、1つ又は二重のC/S変異は顕著な全長TDP-43の凝集体又は封入体の形成を生じた。それらは、主に核にあるが、一部で細胞質にも存在した(図4A)。RRM1はRNAとの結合能力を喪失すると、染色体のクロマチンに局在することで凝集体形成をすることが報告されている。RRM1 C/S変異を有するTDP-43の核封入体が単にDNA/RNAと結合できないためという可能性を除外するため、NLSを改変することによってC174S及び/又はC175Sを有する細胞質TDP-43変異体を生成した。その結果RRM1 C/S変異と変異体NLS (mNLS)を含むTDP-43は、クロマチンの存在しない細胞質においても丸い封入体を頻繁に形成した(図4B)。
【実施例】
【0093】
試験例4
RRM1-C/S変異体で共有されるプロテイノパチーの病原性の特徴の程度を評価するために、ユビキチン化又はリン酸化に対する免疫細胞化学を行った。ヒト神経SHSY-5Y細胞において、RRM1-C/S変異TDP-43の核封入体のほとんどがリン酸化されない一方、細胞質封入体はphospho-TDP-43標的化抗体(図5A、d-i)又はK48結合ユビキチン抗体(図5A、m-o)に強い反応性を示した。さらに、改変NLSシグナルを有するRRM1-C/S変異によって引き起こされる細胞質TDP-43封入体は、S409とS410で頻繁にリン酸化(図6A、d-i)、及びユビキチン化(図6A、m-o)された。全ての細胞質封入体がユビキチン又はリン酸化によって修飾されていないことは注目すべき点であり、これは凝集が細胞質でのそのような修飾より先に起こることを示している。RRM1 C/S置換無しでは細胞質TDP-43は、抗phospho-TDP-43抗体(図6A, a-c)又は抗ユビキチン抗体(図6A、j-l)への明確な反応性を示さなかった。WT (図5B)又は変異NLS (図6B)を有するRRM1-C/S置換を含むFLAGタグTDP-43のウェスタンブロット分析は、RRM1-C/S TDP-43がプロテアソーム阻害剤の存在下で容易にオリゴマー化することを明らかにした。さらに、RRM1-C/S置換を含むTDP-43タンパク質は、特にプロテアソーム阻害剤ラクタシスチンの存在下で、WT TDP-43タンパク質より多くS409/S410においてリン酸化された(図5C)。さらに、RRM1-C/S変異体の異所性局在の形態は、ラクタシスチンが無い場合でさえ、S409とS410のリン酸化に対してより感受性があった(図6C)。
【実施例】
【0094】
試験例5
TDP-43プロテイノパチーの特徴に注目し、RRM1-C/S変異によって引き起こされるミスフォールドしたTDP-43の機能的な評価を行った。
【実施例】
【0095】
特にRRM1-C/Sを有するTDP-43の核内凝集体の形成が、核内TDP-43の細胞質への異所性局在を誘導することが、抗TDP-43抗体を使用した免疫細胞化学によって明らかとなった(図7)。さらに、RRM1-C/Sを有するTDP-43の核と細胞質の両方の封入体は、共発現したWT TDP-43-FLAGタンパク質と共局在した(図8、f及びi)。これはミスフォールドしたTDP-43が、核と細胞質の両方で野生型の核TDP-43を凝集体に吸着し得ることを示している。
【実施例】
【0096】
試験例6
家族性ALS患者でこれまで同定されたTDP-43の突然変異体タンパク質は、優性形質を有するにも関わらず、WTと比べて変異TDP-43の著明な凝集傾向の違いを示さない(図9A a-c, B)。ところが、A315TとQ331Kの家族性ALS (FALS)関連変異TDP-43におけるRRM1-C/Sの導入は、明確にWTと比べてFALS変異体の凝集傾向を強めた(図9A d-f, B)。
【実施例】
【0097】
TDP-43プロテイノパチーにおいて神経毒性に直結するTDP-43の病原構造は不明である。特に、封入体の毒性の有無については一定の見解を見ない。よって、生存細胞と死細胞に関するマーカーの同時測定を行い、運動ニューロン細胞株NSC34細胞を使用してTDP-43の核又は細胞質凝集体の毒性を調査した。その結果、全ての改変されたNLSを有するRRM1-C/S変異体がベクターコントロールと比べて毒性を有意に増加させた一方、核に異所性局在するだけでは有意な毒性を示さなかった(図10A、B)。さらに、核凝集形態(C173S, C175S)とFALS関連変異TDP-43は明らかな毒性を引き起こさなかった(図10B)。
【実施例】
【0098】
試験例7
RRM1-C/S変異体によって引き起こされるTDP-43封入体がALSの病態に関連するか否かを調査するために、3つのRRM1コア領域(図11)に対するウサギポリクローナル抗体(pAbs)を生成した。RRM1と全長TDP-43の両方に対して高い抗体価を示した2つの抗血清が、core-aとcore-cについて得られた(pAb-RRM1-aとpAb-RRM1-c)。培養細胞では、pHb-RRM1-aとpAb-RRM1-cは、核で高濃度に発現したTDP-43を除いて、内在性又は外部のWT TDP-43には殆ど反応しなかった(図11)。一方、RRM1-C/S変異を有するTDP-43の凝集体は、両方のpAbによって明確に認識された(図11)。これらの結果は、凝集に関連するコアはTDP-43 RRM1-C/S変異体による凝集体で外部露出されていることを示している。
【実施例】
【0099】
上記pAbsがALS患者におけるTDP-43封入体を認識するかを試験した。免疫組織化学的分析は、pAb-RRM1-aは孤発性ALS患者の脊髄運動ニューロン中のレビー小体様ヒアリン封入体を認識した(図12)。核のTDP-43は、細胞質TDP-43凝集体の存在にも関わらず、運動ニューロンではpAb-RRM1-aによって染色されなかった。これは培養細胞の結果と一致している。これらの結果は、TDP-43のRRM1-C/S置換誘導封入体はALSのものと共通の高次構造変化を共有することを示唆している。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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