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明細書 :近赤外線の波長特性を利用した非侵襲性医療装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6347910号 (P6347910)
公開番号 特開2013-230211 (P2013-230211A)
登録日 平成30年6月8日(2018.6.8)
発行日 平成30年6月27日(2018.6.27)
公開日 平成25年11月14日(2013.11.14)
発明の名称または考案の名称 近赤外線の波長特性を利用した非侵襲性医療装置
国際特許分類 A61M  37/00        (2006.01)
A61N   5/06        (2006.01)
FI A61M 37/00
A61N 5/06 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 8
出願番号 特願2012-103379 (P2012-103379)
出願日 平成24年4月27日(2012.4.27)
審判番号 不服 2016-015252(P2016-015252/J1)
審査請求日 平成27年4月27日(2015.4.27)
審判請求日 平成28年10月11日(2016.10.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
発明者または考案者 【氏名】岡本 芳晴
【氏名】田村 裕
【氏名】菅波 晃子
【氏名】豊田 太郎
【氏名】林 秀樹
【氏名】真殿 智行
【氏名】松原 久裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100125874、【弁理士】、【氏名又は名称】川端 純市
【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100210701、【弁理士】、【氏名又は名称】萩原 義則
参考文献・文献 特表2002-534218(JP,A)
特開2010-69001(JP,A)
特開2007-277218(JP,A)
国際公開2011/152046(WO,A1)
調査した分野 A61M 37/00
A61N 5/06
特許請求の範囲 【請求項1】
光線温熱化学療法に使用され、癌治療用の薬剤を内包したリポソーム複合体が投与された患部に対して光を照射する装置であって、
810nmの単一波長の光を照射する光照射手段を備え、
前記リポソーム複合体は、近赤外領域に吸収波長を有するインドシアニングリーン色素に結合したリポソーム膜構成物質を含み、かつ、リポソーム内に癌治療用の薬剤を含む、
医療用装置。
【請求項2】
前記光照射手段は発光ダイオードを含む請求項1記載の医療用装置。
【請求項3】
前記リポソーム膜構成物質が脂質からなる請求項1記載の医療用装置。
【請求項4】
前記インドシアニングリーン色素に結合したリポソーム膜構成物質が、下記式(I)で示される、請求項1または2記載の医療用装置。
A-(CH2a-B1-(CH2b-B2-D-E (I)
Aはインドシアニングリーン色素であり;
、Bはそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-SO2-、
-SO2NH-、-NHSO2-、-PO4M-(Mはアルカリ金属イオン)または-(CH2CH2O)c-、(cは1~10の整数)であり;
Dは-CHE2-、-NE2-、-C642-、-CH2CH(OCOE2)-CH2OCO-または-CHE2-CH2OCO-であり;
1は、炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
aは0~4の整数であり、bは0~6の整数である。
【請求項5】
1及びB2がそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-または-S-であり、
Dが-CHE2-であり、E2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基である、
請求項4記載の医療用装置。
【請求項6】
1及びB2が-CH2-である、請求項5記載の医療用装置。
【請求項7】
インドシアニングリーン色素は、ICG-11である、請求項1ないし請求項6のうちいずれか1項に記載の医療用装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線の波長特性を利用した非侵襲性医療装置であって、特に、光線力学療法/光線温熱療法/光線温熱化学療法に使用される医療用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグデリバリーシステム(DDS)において、癌組織周辺の未成熟な血管組織から20~200nmの粒子が漏れる現象であるEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果を利用して薬物を癌組織選択的に送達することにより、薬効向上と副作用軽減を発揮する薬物キャリアーを用いたターゲッティング・システムが開発されている。
【0003】
しかしながら、従来の技術では、EPR効果により、血管内に投与した薬物キャリアーを癌組織選択的に送達・集積させることは可能になったものの、内包した薬剤を効果的に除放させることは困難であった。
【0004】
一方、赤外領域に吸収波長を持つ色素の発熱作用や活性酸素を発生する作用(PDT効果)を利用した、光線温熱化学療法や光線力学療法が注目されている。これは、生体内における近赤外光の透過性及び近赤外光を吸収する化合物を利用した療法である。
【0005】
例えば、光線温熱化学療法については、特許文献1に、光感受性色素剤としてインドシアニングリーン(以下「ICG」という)を用いて、その発熱作用及び活性酸素発生作用を利用した光線温熱化学療法が開示されている。
【0006】
また、経皮的光力学治療については、特許文献2に、ICG等の光感作性薬剤を用いたものが開示されている。特許文献2では、光感作性薬剤からなるリポソーム送達系を用いている。ここでは、光感作性薬剤をリポソームに内包させて使用している。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-69001号公報
【特許文献2】特開2002-534218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光線力学療法/光線温熱療法/光線温熱化学療法に使用される医療用装置であって、例えば癌の治療に好適な医療用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は、癌組織(主に、皮膚癌・脳腫瘍・胸膜播種・腹膜播種)に特異的かつ十分な壊死の誘導をもたらす(最終的には、寛解に至る)医療用装置を開発した。
【0010】
その医療用装置は光線力学療法/光線温熱療法/光線温熱化学療法に使用される装置であって、810nmの波長の光を照射する光照射手段を備える。光照射手段は例えばレーザ発光素子で構成されてもよい。また、医療用装置は、癌の温熱治療に使用され、例えば、癌治療用の薬剤を内包したリポソーム複合体が投与された患部に対して、光を照射するために使用される。
【0011】
リポソーム複合体は具体的には以下のものである。
[1]近赤外領域に吸収波長を有するインドシアニングリーン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素及びジインモニウム色素からなる群より選択される光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質を含み、かつ、リポソーム内に薬剤を含む、リポソーム複合体。(「光吸収化合物」とは、近赤外領域の光を吸収してリポソームを開裂させるのに十分な熱を発生する化合物であり、好ましくはさらに、一重項酸素を発生させ、及び/又は、腫瘍細胞を死滅させるのに十分な熱を発生させる。)
[2]上記[1]のリポソーム複合体において、リポソーム膜構成物質が脂質からなるリポソーム複合体。(脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。)
[3]上記[1]のリポソーム複合体において、光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質が、下記式(I)で示されるリポソーム複合体:
A-(CH2a-B1-(CH2b-B2-D-E (I)
ここで、
Aは光吸収化合物であり;
、Bはそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-SO2-、-SO2NH-、-NHSO2-、-PO4M-(Mはアルカリ金属イオン)または-(CH2CH2O)c-、(cは1~10の整数)であり;
Dは-CHE2-、-NE2-、-C642-、-CH2CH(OCOE2)-CH2OCO-または-CHE2-CH2OCO-であり;
1は、炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
aは0~4の整数であり、bは0~6の整数である。
[4]上記[3]のリポソーム複合体において、B1及びB2がそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-、または-S-であり、Dが-CHE2-であり、E2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基である。
[5]上記[4]のリポソーム複合体において、B1及びB2が-CH2-である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用装置によれば、810nmの波長の光を癌組織に照射することができる。これにより、効果的に患部の温度を上昇させることができ、例えば効果的に癌細胞を壊死に誘導させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における、光線力学療法/光線温熱療法/光線温熱化学療法に使用される医療用装置を示した図
【図2】照射光の波長の違い(800nm、810nm)による温度上昇の違いを説明するための図
【図3】810nm波長の光を照射したときの治療効果を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。

【0015】
1.医療用装置の構成
図1は、本発明の医療用装置の一実施形態の構成を説明した図である。医療用装置10は光線力学療法/光線温熱療法/光線温熱化学療法において使用される装置であり、光源として光照射部11を備える。光照射部11は各々810nmの波長の光を出力する6個のLED(発光ダイオード)13で構成されている。光照射部11に含まれるLED13の数は、6に限定されず、照射光の所望の強度に応じて適宜設定されれば良い。例えば、LED13の数は、癌細胞を壊死させるためには、被照射部位を40~42度程度まで加熱させる必要がある。よって、光照射部11からの照射光の強度は、そのような温度が得られるように設定されればよい。

【0016】
LEDは光が照射された皮膚の温度上昇を招かないことから、本実施形態の医療用装置10の光源として好ましい。しかしながら、皮膚温度の上昇を招かないように照射強度や照射時間等を調整することができれば、本実施形態の医療用装置10の光源として、他の種類の光源(例えば、レーザ光源)を用いることも可能である。

【0017】
2.リポソーム複合体を用いた薬剤の癌組織への送達
本願の発明者は、ICGを基本骨格とする「薬剤封入型近赤外蛍光標識リポソーム」を開発した(特願2011-223273参照)。本願の発明者が開発したリポソーム複合体は具体的には以下のものである。

【0018】
[1]近赤外領域に吸収波長を有するインドシアニングリーン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素及びジインモニウム色素からなる群より選択される光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質を含み、かつ、リポソーム内に薬剤を含む、リポソーム複合体。(「光吸収化合物」とは、近赤外領域の光を吸収してリポソームを開裂させるのに十分な熱を発生する化合物であり、好ましくはさらに、一重項酸素を発生させ、及び/又は、腫瘍細胞を死滅させるのに十分な熱を発生させる。)
[2]上記[1]のリポソーム複合体において、リポソーム膜構成物質が脂質からなるリポソーム複合体。(脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。)
[3]上記[1]のリポソーム複合体において、光吸収化合物に結合したリポソーム膜構成物質が、下記式(I)で示されるリポソーム複合体:
A-(CH2a-B1-(CH2b-B2-D-E (I)
ここで、
Aは光吸収化合物であり;
、Bはそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-SO2-、-SO2NH-、-NHSO2-、-PO4M-(Mはアルカリ金属イオン)または-(CH2CH2O)c-、(cは1~10の整数)であり;
Dは-CHE2-、-NE2-、-C642-、-CH2CH(OCOE2)-CH2OCO-または-CHE2-CH2OCO-であり;
1は、炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基であり;
aは0~4の整数であり、bは0~6の整数である。
[4]上記[3]のリポソーム複合体において、B1及びB2がそれぞれ独立して、-CH2-、-CH=CH-、-O-、または-S-であり、Dが-CHE2-であり、E2は、水素または炭素数8~18の置換または非置換の炭化水素基である。
[5]上記[4]のリポソーム複合体において、B1及びB2が-CH2-である。

【0019】
本願の発明者は、上記のリポソーム複合体にシスプラチン等の抗癌剤を内包し、直径を約100nmに調整した。770nmの波長の光を照射し、830nm蛍光を観測することで本薬剤が癌組織に集積することを非侵襲的に確認できた。また、本願の発明者は、800-810nmの波長の照射により、ICG誘導体の光吸収による発熱と活性酸素の発生、並びに、封入されていたシスプラチン(抗癌剤)等の除放による癌組織の壊死誘導が可能であることを見出した。特に、本願発明者は、810nmの波長の照射により、より効果的に癌組織の壊死誘導が可能であることを見出した。

【0020】
3.試験結果
本願発明者は、上記のリポソーム複合体を投与したラットの腫瘍に対して上記の医療用装置10と同様の構成を有する装置を用いて光を照射する試験を行い、腫瘍内の温度変化及び腫瘍の治療効果を確認した。

【0021】
(1)波長の違いによる腫瘍内温度変化の違い
-リポソーム分散液:
卵黄由来フォスファチジルコリン(DOPC MC-8181,10 mM)、コレステロール(5 mM)、ポリエチレングリコール修飾型ホスファチジルエタノールアミン(PEG-phosphatidyleetahanolamine, 0.5 mM)、ICG-11(1 mM)を含む、クロロフォルム/メタノール(9:1, v/v)溶液により溶解し、一部を減圧乾燥し、生成した薄膜に生理食塩水を添加し、孔径100nmのフィルターで処理してリポソームを得た。

【0022】
-ラット:
試験には、F344/JCL(31-34週齢,雌)を用いた。腫瘍は、AFB-1(アフラトキシン誘発線維肉腫-1)であり、1カ所当たり1×10個接種した。接種後16日目より実験を開始した。

【0023】
F344/JCLラット(31-34週齢,雌,AFB-1細胞接種)において,腫瘍径約10mmの腫瘍組織を用いた。1mLのICG-11を脂質二重膜に有するリポソーム分散液をラットの頸静脈より投与した。投与の24時間後,上記の医療用装置10と同様の構成を有する装置により20分間、光を照射した。装置には、エピテックス社製のHigh Power TOP LED,2.5 mW(波長800nm、810nm)を用いた。

【0024】
ICG-11を脂質二重膜に有するリポソーム分散液([1]のリポソーム複合体)を投与したラットの腫瘍に対して、2種類の波長(800nm、810nm)の光を照射し、腫瘍内温度の変化を観測した。図2は、2種類の波長(800nm、810nm)の光に対する腫瘍内温度の変化を示した図である。横軸は照射時間(分)を示し、縦軸は温度変化(ΔK)を示す。曲線Aは810nmの波長の光を照射したときの温度変化を示し、曲線Bは800nmの波長の光を照射したときの温度変化を示す。図2に示すように、800nmの波長の光を照射した場合よりも、810nmの波長の光を照射した場合の方が、より高い温度まで温度が上昇しているのが分かる。癌細胞を壊死させるためには、40~42度程度まで温度を上昇させる必要がある。810nmの波長の光によれば、約4度の温度上昇が観察され(ラットの皮下体温は約36~37度)、癌細胞を壊死させるために十分に高い温度(例えば42度程度)まで温度を上昇させることができることが分かる。一方、800nmの波長では、約2度の温度上昇であり、十分な温度上昇を得ることは難しい。この実験結果により、810nmの波長の光が、癌細胞を壊死させるための温度上昇に効果的に作用することが理解できる。

【0025】
(2)810nmの波長光の照射による治療効果
図3は、810nmの波長光の照射による温熱治療による効果を説明するための図である。実験に用いたリポソーム分散液及びラットは前述のとおりである。前述のとおり、F344/JCL(31-34週齢,雌,AFB-1細胞接種)において,腫瘍径約10mmの腫瘍組織を用いた。1mLのICG-11を脂質二重膜に有するリポソーム分散液をラットの頸静脈より投与した。投与の24時間後、エピテックス社製の光照射装置により、20分間、810nmの波長の光を照射した。その後、約100日間に渡って腫瘍径の計測を行った。

【0026】
図3において、縦軸は腫瘍体積、横軸は光照射後の日数を示す。曲線Xは、前述のリポソーム分散液を投与した場合の結果を示し、曲線Yは、対比実験として生理食塩水を投与した場合の結果を示す。図3を参照すると、生理食塩水を投与し、810nmの波長の光を照射した場合(曲線Y)、日数の経過とともに腫瘍体積が増加している。これに対して、リポソーム分散液を投与し、810nmの波長の光を照射した場合(曲線X)は、腫瘍体積の増加が抑制されているのがわかる。特に、投与後30日経過後に腫瘍体積の増加が抑制されており、顕著な効果が現れているのが分かる。これは、810nmの波長光の照射により、腫瘍部の温度を癌細胞を壊死させるのに十分高い温度に上昇させすることができたためであると考えられる。

【0027】
以上のように、本実施形態の癌医療用装置により810nmの波長の光を照射することで、より効果的に癌細胞を壊死させることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0028】
10 医療用装置
11 光照射部(光源)
13 LED(発光ダイオード)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2