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明細書 :シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6244833号 (P6244833)
公開番号 特開2014-168043 (P2014-168043A)
登録日 平成29年11月24日(2017.11.24)
発行日 平成29年12月13日(2017.12.13)
公開日 平成26年9月11日(2014.9.11)
発明の名称または考案の名称 シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法
国際特許分類 H01L  21/66        (2006.01)
G01N  29/04        (2006.01)
G01N  29/07        (2006.01)
FI H01L 21/66 N
G01N 29/04
G01N 29/07
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2013-232353 (P2013-232353)
出願日 平成25年11月8日(2013.11.8)
優先権出願番号 2013017811
優先日 平成25年1月31日(2013.1.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年10月26日(2016.10.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】後藤 輝孝
【氏名】根本 祐一
【氏名】金田 寛
【氏名】赤津 光洋
【氏名】三本 啓輔
【氏名】鹿島 一日兒
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
審査官 【審査官】鈴木 和樹
参考文献・文献 特開2007-263960(JP,A)
特開平01-098960(JP,A)
特開平03-129748(JP,A)
特開昭63-165754(JP,A)
特開2009-033102(JP,A)
国際公開第2011/027670(WO,A1)
調査した分野 H01L 21/66
G01N 29/00
特許請求の範囲 【請求項1】
シリコン試料の弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44を測定する測定工程と、この測定工程で測定された前記低温ソフト化量ΔC44/C44に基いてシリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する決定工程とを備えたことを特徴とするシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法。
【請求項2】
前記決定工程において、前記低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して前記原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定することを特徴とする請求項1記載のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法。
【請求項3】
前記測定工程は、20mK~20Kの温度で行われることを特徴とする請求項1又は2記載のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法。
【請求項4】
シリコン試料の弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44を測定する測定工程と、この測定工程で測定された前記低温ソフト化量ΔC44/C44に基いてシリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する決定工程とを備えたことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
超音波発振部と超音波受信部とを形成したシリコン試料と、前記シリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、前記シリコン試料を冷却する冷却手段と、前記超音波発振部から発振された超音波パルスと、前記シリコン試料を伝播して前記超音波受信部により受信された超音波パルスとの位相差を検出する検出手段と、前記位相差に基づき前記シリコン試料の弾性定数C44を算出する算出手段と、前記弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定する決定手段とを備えたことを特徴とするシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DRAMやフラッシュメモリに代表される半導体素子(LSI:Large Scale Integration)は、通信機器等の高度化に伴い、多機能化、高品質化が進むとともに、携帯電話や携帯音楽プレイヤーなどの普及によって、需要が急速に増加している。これに対応して、半導体素子の材料であるシリコンウェーハの需要も急速に増加しており、今後も増加すると予想される需要に対応するべく、高品質のシリコンウェーハを効率的に生産することができる技術が求められている。
【0003】
因みに、半導体産業において、シリコンウェーハは、一般的にチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン(FZ法)で製造される。これらの方法で形成されたシリコンウェーハには、一定の割合で格子欠陥が含まれる。この格子欠陥は、主に格子中のシリコン原子1個が抜けた原子空孔と格子の不規則な位置にシリコン原子が入った格子間原子からなる点欠陥である。とくに点欠陥である原子空孔が集合し二次欠陥であるボイドを形成すると、シリコンウェーハを用いて製造するデバイスの電気特性や歩留まりに悪影響を及ぼすことになる。従って、上記したような通信機器等に用いられるいわゆるハイエンド・デバイスの製造には、加工を施したアニールウェーハ、エピタキシャルウェーハ、及び、二次欠陥であるボイドの成長を抑制した完全結晶シリコンウェーハが使われている。
【0004】
ところが、アニールウェーハは、表面層の欠陥を除去するために、基板ウェーハにアニール処理を施すものである。また、エピタキシャルウェーハは、ウェーハ上に不純物濃度と厚みを精密に制御したエピタキシャル層を形成するものである。すなわち、アニールウェーハ、及び、エピタキシャルウェーハでは、いずれもシリコンインゴットから切り出したシリコンウェーハに対し二次加工をする必要があるので、生産工数が増加することとなり、効率的にシリコンウェーハを生産することは困難である。また、アニールウェーハ、及び、エピタキシャルウェーハでは、大口径のウェーハ上へ、上記した二次加工を施すことが困難であるという問題もある。
【0005】
このような理由から、近年では、2次欠陥であるボイドの成長を抑制し、点欠陥である原子空孔と格子間原子のみとした完全結晶シリコンウェーハが実用化されている。但し、この完全結晶シリコンウェーハにおいても、デバイスの電気特性や歩留りを向上するためには、結晶インゴット内における原子空孔リッチの部分の領域と、格子間原子リッチの部分の領域を判定する必要がある。さらに、一つの原子空孔リッチの部分の領域の中においても、原子空孔濃度の分布をデバイス製造に先だって事前に評価することが必要である。
【0006】
したがって、点欠陥を制御した高品質CZシリコン結晶インゴットの成長技術の開発には超音波計測による原子空孔濃度の定量評価が必要となっている。上記CZシリコン結晶インゴットをスライスして製造される完全結晶シリコンウェーハ中の原子空孔の存在濃度を超音波計測によって予め評価することで、完全結晶シリコンウェーハを用いたデバイスの製造における特性制御が可能であり、歩留り向上に大きな寄与があると期待されている。
【0007】
本発明者らのうちの1人は、これまでに超音波計測を用いた原子空孔分析装置を提案している(特許文献1)。この原子空孔分析装置では、シリコン試料に外部磁場を印加し、冷却しながら結晶試料に超音波を通過させて、シリコン試料での超音波音速変化とシリコン試料の冷却温度との関係を示す曲線の急峻な落ち込み量に基づいて、原子空孔欠陥濃度を求めるものである。
【0008】
ところで、半導体産業では、シリコンウェーハ内部及び表層の原子空孔濃度の絶対値を計測したいとの強い要請がある。これまで超音波による低温での音速落ち込みの測定により原子空孔濃度を求める方法は、シリコンウェーハの原子空孔濃度の相対的な分布を決定できる。しかし、シリコン中の音速の低温変化量と原子空孔濃度との定量的な比例関係が確立されておらず、原子空孔濃度の絶対値を計測する技術は今まで知られていなかった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開平7一174742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上記した問題点に鑑み、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値を決定するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、低温ソフト化の量から原子空孔濃度の絶対値を決定する手段を開発した。超音波計測を用いて半導体産業で使われている直径300mmのボロン添加CZシリコンインゴット中の原子空孔濃度の評価を進めた。5Kから20mKまで温度を降下させることによる弾性定数C44のソフト化量はインゴット中の場所による顕著な依存性があり、インゴット中での原子空孔濃度に分布があることを証拠づけている。他方、赤外線散乱によりボイドの密度とその大きさを計測した。ボイド形成に消費された原子空孔の量とウェーハ中に残留している原子空孔との総和則に着目し、Γと呼ばれる4重に縮退した基底状態をもつ原子空孔軌道一個あたりの電気四極子と歪みεzxとの結合の大きさが以下であることを見いだした。ただし、実験の誤差を考慮した。この知見に基づき、本発明に想到した。
【0012】
【数1】
JP0006244833B2_000002t.gif

【0013】
すなわち、本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法は、シリコン試料の弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44を測定する測定工程と、この測定工程で測定された前記低温ソフト化量ΔC44/C44に基いてシリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する決定工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、前記決定工程において、前記低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して前記原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013cm-3が相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定することを特徴とする。
【0015】
また、前記測定工程は、20mK~20Kの温度で行われることを特徴とする
【0016】
本発明のシリコンウェーハの製造方法は、シリコン試料の弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44を測定する測定工程と、この測定工程で測定された前記低温ソフト化量ΔC44/C44に基いてシリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する決定工程とを備えたことを特徴とする
【0017】
本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定装置は、超音波発振部と超音波受信部とを形成したシリコン試料と、前記シリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、前記シリコン試料を冷却する冷却手段と、前記超音波発振部から発振された超音波パルスと、前記シリコン試料を伝播して前記超音波受信部により受信された超音波パルスとの位相差を検出する検出手段と、前記位相差に基づき前記シリコン試料の弾性定数C44を算出する算出手段と、前記弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013cm-3が相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定する決定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法によれば、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値を決定することができ、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値を表示したシリコンウェーハの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法に用いられる測定装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】同上シリコン試料をセッティングした試料ホルダー部の拡大図である。
【図3】同上シリコン試料の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】同上検出手段の構成を示すブロック図である。
【図5】シリコン試料の断面図である(a)と、低温ソフト化の大きさを示す棒グラフ(b)。
【図6】図5に示す各部位の低温ソフト化を示すグラフである。
【図7】ボイド形成に消費された原子空孔量とウェーハに残留している原子空孔量の総和が結晶育成時に生成された原子空孔量であること(総和則)を示すグラフである。
【図8】弾性定数の低温ソフト化がウェーハ中に残留している原子空孔量Nと結合定数gの2乗の積Ngに比例することを示すグラフである。
【図9】低温ソフト化から求めたNgと総和則から推定したウェーハに残留している原子空孔量により、原子空孔軌道と横波超音波の歪みとの結合定数g=2.6~3.0×10Kが得られることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、本発明者らが新たに見出した原子空孔軌道と横波超音波C44の歪みεzxとの結合定数がg=(2.8±0.2)×10Kであるという知見に基づくものである。そして、本発明は、この知見に基づき、原子空孔濃度の絶対値を決定することを可能とするものである。

【0021】
なお、本発明において「絶対値」という用語は、絶対的に決定された数値のことをいい、相対的に求められる数値と区別するために用いられる。

【0022】
以下、本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法について、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
[測定装置]
本実施例のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法に用いられる測定装置の構成の一例について説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例の測定装置を示す図1において、装置1は、試料ホルダー部2、冷却手段としての希釈冷凍機3、磁力発生手段4、及び検出手段たる検出同軸ライン5を備える。この装置1は、全体として、試料ホルダー部2に設置したシリコン試料6に外部磁場を印加した状態で、該シリコン試料6を所定温度に冷却し、シリコン試料6中を伝播した超音波パルスの音速を検出可能に構成されている。
【実施例1】
【0025】
磁力発生手段4は、シリコン試料6に対し外部磁場を印加するため、シリコン試料6がセッティングされた位置を取り囲んで配置されている。磁力発生手段4としては、例えば、超伝導磁石を用いることができる。また、シリコン試料6に対し外部磁場を必要に応じて印加した状態で、シリコン試料6中を伝播した超音波パルスの音速を検出するため、磁力発生手段4は、少なくとも0~10テスラの範囲で制御可能に構成されている。
【実施例1】
【0026】
希釈冷凍機3は、試料ホルダー部2に設置したシリコン試料6を冷却し、少なくとも20mK~20Kの範囲で制御可能に構成されている。本実施例において、希釈冷凍機3は、He-He混合ガス系10と、He系11の2系統からなり、デューワ12内を所定温度に冷却可能に構成されている。デューワ12は、内層12aと外層12bの二重構造を有し、この内層12aと外層12bとの間に真空の空間12cが形成されている。このデューワ12内には、液体のHeが貯留されている。
【実施例1】
【0027】
He系10は、希釈冷凍機3としての冷却能力を得るように構成されている。このHe-He混合ガス系10は、貯留タンク14、循環ポンプ15、コンデンサ16、混合器17、及び分留器18を備える。循環ポンプ15は、通常のポンプとは異なり、Heが外気へ逃げないような構造がとられている。コンデンサ16は、循環ポンプ15から送り出されたHeガスを冷却してHe濃厚相とHe希薄相とに相分離するようになっている。
【実施例1】
【0028】
混合器17は、希釈冷凍機3において最も温度が低い部分である。この混合器17内には、相分離したHe-He混合液の界面が存在する。混合器17内の上半分は、He濃厚相であり、上記コンデンサ16から絶えず供給されている。また、混合器17内の下半分はHe希薄相(濃度約6%で、残りが超流動He)であり、分留器18へとつながっている。この混合器17において、Heは、エントロピーが大きい濃厚相から、エントロピーが殆どない希薄相に強制的に移動させられ、このときに生ずるエントロピー差によって、希釈冷凍機3の冷却能力が生じるようになっている。
【実施例1】
【0029】
分留器18は、希薄相にあるHeのみを選択的に蒸発させ得るように構成されている。この分留器18は、所定温度(例えば、0.8K以下)に保持されるようになっている。これにより、分留器18は、Heの蒸気圧は0であるのに対し、Heの蒸気圧は有限に保たれる現象を利用して、Heのみを蒸発させるようになっている。
【実施例1】
【0030】
He系11は、Heガスを液化可能に構成されている。このHe系は、排気ポンプを有する1Kポット20を備えている。このHe系11では、1Kポット20内のHeを排気ポンプで排気することにより、冷却能力を得るようになっている。本実施例では、コンデンサ16を介してデューワ12内から直接4.2KのHe液を取り込むことにより、連続的な運転が可能に構成され、コンデンサ16においてHeガスを液化するようになっている。
【実施例1】
【0031】
なお、図1では、シリコン試料6をセッティングした試料ホルダー部2が、混合器17内ではHe濃厚相とHe希薄相とに相分離する構成を示している。本実施例では冷却した混合器17を形成する部材を熱伝導率の高い材質で構成し、混合器17を形成する部材からの熱伝導を利用してシリコン試料6を間接的に冷却するようにしている。このような構成とした場合には、特に冷却する温度域を高温側に広げられる点で有利である。
【実施例1】
【0032】
検出同軸ライン5は、シリコンウェーハの表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコンウェーハ中に伝播させた超音波パルスを受信し、シリコンウェーハ中を伝播した超音波パルスの音速を検出可能に構成されている。
【実施例1】
【0033】
図2に示すように、試料ホルダー部2は、コイルバネ24によって軸方向に付勢された一対のピン25によって構成されている。このように構成された試料ホルダー部2は、一対のピン25の間にシリコン試料6を挟んで、シリコン試料6を保持している。
【実施例1】
【0034】
また、シリコン試料6は、シリコンウェーハ26と、シリコンウェーハ26の一面に設けられた超音波発振部27と、他面に設けられた超音波受信部28とからなる。この超音波発振部27と超音波受信部28とはトランスデューサ30を備える。
【実施例1】
【0035】
図3に示すように、トランスデューサ30は、膜状に形成された薄膜振動子31と、薄膜振動子31に電場を印加する電極としての内部電極32及び外部電極33からなる。なお、薄膜振動子31は、LiNbO、ZnO、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの公知の材料から構成することができる。
【実施例1】
【0036】
つぎに、図4に基づいて検出同軸ライン5の構成と作用について説明する。検出同軸ライン5は、シリコン試料6に印加される超音波パルスの基本信号を直接測定した参照信号と、シリコン試料6中を伝播した超音波パルスの測定信号との位相差を検出するように構成されている。本実施例では、検出同軸ライン5は、標準信号発生器35、周波数カウンタ36、パーソナルコンピュータ37、ダイオードスイッチ38、パルス発生器39、位相移行器40、及び、位相検出器41を備えている。
【実施例1】
【0037】
標準信号発生器35は、基本信号を発生する。この基本信号は、参照信号系5aと測定信号系5bとに分岐される。尚、周波数カウンタ36は、基本信号を計測し、その結果をパーソナルコンピュータ37に出力する。
【実施例1】
【0038】
参照信号系5aは、位相移行器40を介して、位相検出器41に接続されている。一方、測定信号系5bは、パルス発生器39が接続されたダイオードスイッチ38、シリコン試料6が順に配置され、位相検出器41に接続されている。ダイオードスイッチ38は、基本信号を所定の幅に分割する。
【実施例1】
【0039】
位相検出器41は、基本信号に基づく参照信号と、シリコン試料6から出力された測定信号とを比較して、シリコンウェーハ26中の超音波パルスの音速を検出する。
【実施例1】
【0040】
なお、検出同軸ライン5は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有することがより好適である。また、多数個のシリコン試料6及び一のシリコン試料6の複数点について、同時に位相差を測定できるように構成するのが好ましい。
【実施例1】
【0041】
[原子空孔軌道と横波超音波C44の歪みεzxとの結合定数の決定]
つぎに、原子空孔軌道と横波超音波C44の歪みεzxとの結合定数の決定について説明する。
【実施例1】
【0042】
CZシリコンインゴットの引き上げ条件を制御して育成したボイド領域から切り出したシリコンウェーハに着目し、ウェーハ中のボイドの量をレーザー光を用いた光散乱法で測定するとともに、ウェーハの弾性定数の低温ソフト化の量を超音波で測定した。ここで、低温ソフト化とは、シリコンウェーハを低温度域に冷却したときの冷却温度に対する弾性定数の変化を測定したときに見られる、温度の逆数に比例して弾性定数C44が著しく低下する現象のことをいう。低温ソフト化は、上記の測定装置を使用することによって測定することができる。また、低温ソフト化量は、残留原子空孔量に比例することが知られている。
【実施例1】
【0043】
図5に測定に用いたシリコン試料の断面を、図6には、図5に示す各部位の低温ソフト化を示す。
【実施例1】
【0044】
その結果、図7に示すように、とくに、原子空孔の量が一定しているシリコンウェーハの中心部では、ボイド形成に寄与した原子空孔量と低温ソフト化量(ΔC44/C44(×10-5))との間に相関が存在することがわかった。これは、シリコンウェーハの残留原子空孔量(Residual vacancy concentration)とボイド形成に寄与した原子空孔量(Consumed vacancy)の総和保存則が成立していることを示している。
【実施例1】
【0045】
なお、残留原子空孔量に相違が現れるのは、結晶育成時には同量の原子空孔が形成されるものの、引き上げ冷却時でのボイド形成に消費される原子空孔量が引き上げ速度等により異なってくることによるものと考えられる。また、シリコンウェーハの外周部は、ウェーハの育成時に取り込まれた原子空孔量が中心部に比べて多いため、ボイド量と低温ソフト化量との間に相関が認められないものと考えられる。
【実施例1】
【0046】
このため、ボイドの大きさとその存在濃度から、ボイド形成に消費された原子空孔の量が推定できる。
【実施例1】
【0047】
また、図7を参照すると、上述のとおり、シリコンウェーハの残留原子空孔量とボイド形成に寄与した原子空孔量の総和保存則が成立することから、ブロックDのウェーハ中心から0mmのシリコン試料の残留原子空孔濃度は、N=3.5~4.0×1012/cmと見積もられる。また、このシリコン試料の低温ソフト化量の測定値は、ΔC44/C44=3.5×10-5であり、残留原子空孔濃度と低温ソフト化量が比例することから、ΔC44/C44=1×10-4の低温ソフト化量は、残留原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmに相当する。
【実施例1】
【0048】
一方、図8の温度-C44曲線のフィッティングにより、ブロックA0ではNg=2.4×1023/cm、ブロックD0ではNg=4×1023/cmとなる。また、図9にブロックA3におけるNg=2.4×1023/cmの関係と、ブロックD0におけるNg=4×1023/cmの関係を示す。
【実施例1】
【0049】
以上より、原子空孔軌道と横波超音波C44の歪みεxyとの結合ハミルトニアンH=gOεzxの結合定数は、g=(2.8±0.2)×10Kと決定された。
【実施例1】
【0050】
[シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法]
つぎに、本実施例のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法について説明する。
【実施例1】
【0051】
まず、シリコンインゴットから所定の部位を切り出したシリコンウェーハ26の表面に、超音波発振部27と超音波受信部28とをそれぞれ形成したシリコン試料6に対し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、20K以下の温度域まで冷却する。
【実施例1】
【0052】
つぎに、標準信号発生器35により、基本信号を発振する。この基本信号は、参照信号系5aと測定信号系5bとに分岐される。測定信号系5bの基本信号は、ダイオードスイッチ38によって例えば0.5μsの幅に分割される。
【実施例1】
【0053】
トランスデューサ30では、ダイオードスイッチ38によって分割された基本信号によって、外部電極33と内部電極32間に電場としての交流電場が印加される。この交流電場によって、薄膜振動子31が弾性歪みを誘起し、これにより超音波発振部27は、基本信号に基づいて超音波パルスを発生する。このようにして、基本信号は、超音波発振部27のトランスデューサ30によって、機械信号、すなわち、超音波パルスに変換される。
【実施例1】
【0054】
超音波パルスは、シリコンウェーハ26の一端から他端へ伝搬する。シリコンウェーハ26の内部を伝搬する超音波パルスは、シリコンウェーハ26の一端及び他端で反射を繰り返し、超音波受信部28のトランスデューサ30において測定波パルスとして受信され、再び電気信号に変換され測定信号として出力される。
【実施例1】
【0055】
この測定信号と参照信号とを位相検出器41において比較し、超音波パルスと測定波パルスとの位相差φを計測する。この位相差φを用いて、音速vを式1:φ=2π(2n-1)lf/vより算出する。ここで、(2n-1)lはn番目のエコーの伝搬長であり、fは超音波周波数である。
【実施例1】
【0056】
このようにして算出された音速vから、弾性定数C44を式2:C44=ρvより算出する。ここで、ρはシリコンの密度である。
【実施例1】
【0057】
上記のようにして、超音波パルスの位相差φより逐次音速vを検出する。そして、音速vから冷却温度の低下に伴う弾性定数C44の減少量ΔC44を算出し、この弾性定数C44の減少量ΔC44から、弾性定数の低温ソフト化の量ΔC44/C44を算出することができる。
【実施例1】
【0058】
そして、上記の測定により得られたシリコン試料の弾性定数の低温ソフト化の量ΔC44/C44に基いて、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する。具体的には、低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して原子空孔濃度\N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて、原子空孔濃度Nを決定する。これにより、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値を決定することができる。
【実施例1】
【0059】
半導体基板材料であるボロン添加シリコンウェーハ中の原子空孔軌道がもつ電気四極子に起因して、弾性定数が低温でソフト化を示す。低温ソフト化の大きさが原子空孔濃度に比例する量子力学の原理を用いるとシリコンウェーハの原子空孔を評価する革新的技術として発展が期待できる。サイトiの原子空孔軌道がもつ電気四極子と超音波歪みとの相互作用は
【実施例1】
【0060】
【数2】
JP0006244833B2_000003t.gif
【実施例1】
【0061】
と書ける。gは本実施例で決定した結合定数である。さらに異なったサイトにある原子空孔の電気四極子の結合は
【実施例1】
【0062】
【数3】
JP0006244833B2_000004t.gif
【実施例1】
【0063】
と書ける。ボロン添加シリコンウェーハの原子空孔の周りに形成される原子空孔軌道には、奇数個の3個の電子が収容され、スピン-軌道相互作用により軌道縮退をした四重項基底(Γ)が実現する。このため、四極子感受率χは低温で温度の逆数に比例して増大し(χ~1/T)、弾性定数のソフト化
【実施例1】
【0064】
【数4】
JP0006244833B2_000005t.gif
【実施例1】
【0065】
は絶対零度に近づくことでより顕著になり、低温超音波計測が有効性を発揮する。さらに、原子空孔軌道はもともと無限に拡がったブロッホ電子から形成されており、その軌道半径は1nm程にも大きく拡がっているので、電気四極子は巨大化し、四極子-歪み相互作用はg~2.8×10と極めて大きい。フォノンやホールバンドを介した原子空孔軌道の間には、反強的な四極子結合g’<0により絶対零度でも四極子揺らぎが観測できる。このため、100億個のSi原子に1個の極めて希薄な濃度で存在する原子空孔を、超音波の低温ソフト化の測定により十分な精度で検出できることに気づき、超音波を用いた観測に基づく原子空孔濃度の絶対値を決定する手法の着想を得た。
【実施例1】
【0066】
また、最も大きい低温ソフト化が見られる弾性定数はC44である。結晶方位[100]の方向に伝搬する超音波による弾性定数C44の低温ソフト化を計測することで、最も高感度に低温ソフト化の量を測定することができる。
【実施例1】
【0067】
なお、低温ソフト化は外部から印加する磁場によって消失するが、磁場の印加方向によって消失する振る舞いが異なる。磁場を表面超音波の進行方向に平行に印加する場合、磁場を表面超音波の進行方向に垂直でウェーハ表面に平行に印加する場合、磁場をウェーハ表面に垂直に印加する場合について異なる振る舞いをする。
【実施例1】
【0068】
以上のように、本実施例のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法は、シリコン試料の弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44を測定する測定工程と、この測定工程で測定された前記低温ソフト化量ΔC44/C44に基いてシリコンウェーハ中の原子空孔濃度Nの絶対値を決定する決定工程とを備えたものである。より具体的には、前記決定工程において、前記低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して前記原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定する。また、好ましくは、前記測定工程は、20mK~20Kの温度で行われる。
【実施例1】
【0069】
したがって、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値を決定することができる。
【実施例1】
【0070】
そして、本発明によれば、超音波で計測した原子空孔濃度の数量を具体的に表示したシリコンウェーハの半導体産業での実用化が可能となる。シリコンウェーハ中の原子空孔は、半導体製造プロセスにおける酸化物の微少欠陥(BMD)析出を支配する要因になっている。このため、ウェーハに原子空孔濃度を表示することが実用化されると、ますます微細化が進行するメモリー、演算素子(CPU)、イメージセンサーなどの最先端デバイスの製造の歩留まりが飛躍的に向上する。クリーンエネルギーの制御で今注目を集めているパワー半導体の高性能化などに大きく寄与できる。
【実施例1】
【0071】
なお、本発明のシリコンウェーハ中の原子空孔濃度の絶対値の決定方法には、超音波発振部27と超音波受信部28とを形成したシリコン試料6と、前記シリコン試料6に対し外部磁場を印加する磁力発生手段4と、前記シリコン試料6を冷却する冷却手段3と、前記超音波発振部27から発振された超音波パルスと、前記シリコン試料6を伝播して前記超音波受信部28により受信された超音波パルスとの位相差を検出する検出同軸ライン5と、前記位相差に基づき前記シリコン試料の弾性定数C44を算出する算出手段と、前記弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定する決定手段とを備えた装置を用いることができる。ここで、前記位相差に基づき前記シリコン試料の弾性定数C44を算出する算出手段と、前記弾性定数の低温ソフト化量ΔC44/C44=1×10-4に対して原子空孔濃度N=(1.5±0.2)×1013/cmが相当することに基いて前記原子空孔濃度Nを決定する決定手段は、コンピュータソフトウェアなどにより構成することができる。
【符号の説明】
【0072】
3 希釈冷凍機(冷却手段)
4 磁力発生手段
5 検出同軸ライン(検出手段)
6 シリコン試料
27 超音波発振部
28 超音波受信部
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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