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明細書 :生物窒素固定制御因子及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6489676号 (P6489676)
公開番号 特開2015-173652 (P2015-173652A)
登録日 平成31年3月8日(2019.3.8)
発行日 平成31年3月27日(2019.3.27)
公開日 平成27年10月5日(2015.10.5)
発明の名称または考案の名称 生物窒素固定制御因子及びその利用
国際特許分類 C12N   1/21        (2006.01)
A01H   5/00        (2018.01)
C12N  15/63        (2006.01)
C12P   1/04        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12N 1/21 ZNA
A01H 5/00 A
C12N 15/63 Z
C12P 1/04 Z
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 16
全頁数 37
出願番号 特願2014-054088 (P2014-054088)
出願日 平成26年3月17日(2014.3.17)
審査請求日 平成29年2月23日(2017.2.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】藤田 祐一
【氏名】辻本 良真
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 特開昭61-282077(JP,A)
特開平01-225483(JP,A)
Annu.Rev.Microbiol., 2008, Vol. 62, pp. 93-111
Journal of Bacteriology, 1998, Vol. 180, No. 6, pp. 1504-1511
Journal of Bacteriology, 1990, Vol. 172, No. 2, pp. 643-647
Plant Cell Physiol., 2011, Vol. 52, No. 11, pp. 1983-1993
調査した分野 C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個~30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に備える、形質転換体。
【請求項2】
L.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかの制御下にニトロゲナーゼをコードする遺伝子を発現可能に備える、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
低酸素及び窒素枯渇条件下で誘導的に前記窒素固定が増強可能である、請求項2に記載の形質転換体。
【請求項4】
さらに、シアノバクテリア由来の窒素固定遺伝子群から選択される1種又は2種以上の遺伝子を発現可能に備える、請求項1~3のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項5】
前記窒素固定遺伝子群は、L. boryanaの窒素固定遺伝子群である、請求項4に記載の形質転換体。
【請求項6】
さらに、以下の(f)~(j)のいずれかに記載のタンパク質;
(f)配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(g)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、L. boryanaにおいて構成的に発現され、かつ低酸素条件下でクロロフィル・ヘム・ビリン色素の生合成に関わる遺伝子の発現の誘導活性を有するタンパク質
(h)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個~30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、L. boryanaにおいて構成的に発現され、かつ低酸素条件下でクロロフィル・ヘム・ビリン色素の生合成に関わる遺伝子の発現の誘導活性を有するタンパク質
(i)配列番号3で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(j)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、L. boryanaにおいて構成的に発現され、かつ低酸素条件下でクロロフィル・ヘム・ビリン色素の生合成に関わる遺伝子の発現の誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現を発現可能に備える、請求項1~5のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項7】
前記形質転換体は、光合成生物体である、請求項1~6のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項8】
前記光合成生物体は、シアノバクテリアである、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
前記光合成生物体は、植物体である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項10】
以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個~30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、形質転換ベクター。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の形質転換体の製造方法であって、
宿主生物細胞に、以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個~30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入して形質転換する工程、
を備える、製造方法。
【請求項12】
窒素固定を利用して有用物質を生産する方法であって、
請求項1~9のいずれかに記載の形質転換体に窒素を固定させて、前記形質転換体を生育又は増殖させて有用物質を生産する工程、
を備える、生産方法。
【請求項13】
前記形質転換体は、光合成生物体である、請求項12に記載の生産方法。
【請求項14】
前記光合成生物体は、シアノバクテリア又は植物体である、請求項12に記載の生産方法。
【請求項15】
窒素固定を利用して生物体を生産する方法であって、
前記生物体としての請求項1~9のいずれかに記載の形質転換体に窒素を固定させて、前記形質転換体を生育又は増殖させる工程、
を備える、生産方法。
【請求項16】
低酸素及び窒素枯渇条件下で作動可能な転写制御因子のスクリーニング方法であって、
以下の(b)、(c)及び(e):
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個~30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、低酸素及び窒素枯渇条件下においてL.boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255bp(配列番号5)に含まれている2つのプロモーターのうちいずれかに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現の増強活性を有するタンパク質から選択される1種又は2種以上の被験タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された非窒素固定生物体における低酸素及び窒素化合物枯渇条件下での前記被験タンパク質による1又は2以上の窒素固定遺伝子の発現増強を評価する工程、
を備える、スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書は、生物による窒素固定(生物窒素固定)を制御する因子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
作物の生産性は、大量の化学肥料に依存している。化学肥料は、高いエネルギーコストのかかる工業的な窒素固定、空気中に存在する窒素分子を安定な窒素化合物に変換するプロセスによって生産され、その過程で大量の化石燃料が消費されている。
【0003】
限られた原核生物が窒素固定を行うことが知られている(生物窒素固定)。生物窒素固定とは、ニトロゲナーゼによって分子状窒素がアンモニアに変換される過程をいう。生物窒素固定には、ニトロゲナーゼの構造遺伝子のみならず、その活性中心となる金属クラスターの生合成や還元力供給などの多数の遺伝子が関わっていると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
窒素固定を行う原核生物としては、例えば、Leptolyngbya boryana(L. boryana)が挙げられる。L. boryanaは、いわゆるシアノバクテリアであって、嫌気条件下でヘテロシストを形成せずに窒素固定を行う糸状性シアノバクテリアである。このシアノバクテリアは、ヘテロシストを形成しないため、同一細胞内において光合成と窒素固定とを行うという特徴も有している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Rubio and Ludden Ann. Rev. Microbiol. 62: 93-111(2008)
【非特許文献2】J.C. Venter et l., Plos Biol., 2007, 5, e266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物窒素固定能を植物体に付与することができれば、化学肥料への依存性を低減し、かつ化石エネルギー消費も低減できると考えられる。
【0007】
しかしながら、生物窒素固定を担う酵素ニトロゲナーゼの複雑な金属中心は、その生合成に多くの遺伝子の発現制御を必要とする。また、これら3つの金属中心は、酸素に曝されると数秒単位で破壊されるという脆弱性を有している。この脆弱性は酸素を発生する光合成との共存が問題となる。さらに、ニトロゲナーゼは大量のATPを消費するため、窒素枯渇条件以外では発現を抑制することも要請される。
【0008】
本明細書は、光合成生物においてニトロゲナーゼを発現させて生物窒素固定を実現するための遺伝子を特定し、その遺伝子を非窒素固定生物への適用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、窒素固定性シアノバクテリア、なかでも、L. boryanaは単一の細胞内で光合成と窒素固定とを共存させていることから、光合成生物への窒素固定能付与に適していると考えて着目した。本発明者らは、L. boryanaにおける窒素固定遺伝子クラスターの機能解析を行った。その結果、生物窒素固定に関与するいくつかの遺伝子を特定するとともに、窒素枯渇及び低酸素に関連して窒素固定を発現あるいは制御できる系を確立できるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
【0010】
(1) 以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現の活性化を備える、形質転換体。
(2) ニトロゲナーゼによる窒素固定が増強可能である、(1)に記載の形質転換体。
(3)低酸素及び窒素化合物枯渇によって誘導的に前記窒素固定が増強可能である、(2)に記載の形質転換体。
(4) さらに、シアノバクテリア由来の窒素固定遺伝子群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の活性化を備える、(1)~(3)のいずれかに記載の形質転換体。
(5) 前記窒素固定遺伝子群は、L. boryanaの窒素固定遺伝子群である、(4)に記載の形質転換体。
(6) さらに、以下の(f)~(j)のいずれかに記載のタンパク質;
(f)配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(g)配列番号4で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(h)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(i)配列番号3で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(j)配列番号3で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子の発現の活性化を備える、(1)~(5)のいずれかに記載の形質転換体。
(7) 前記形質転換体は、光合成生物体である、(1)~(6)のいずれかに記載の形質転換体。
(8) 前記光合成生物体は、シアノバクテリアである、(7)に記載の形質転換体。
(9) 前記光合成生物体は、植物体である、(7)に記載の形質転換体。
(10) 以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、形質転換ベクター。
(11) (1)~(9)のいずれかに記載の形質転換体の製造方法であって、
宿主生物細胞に、以下の(a)~(e):
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
から選択されるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入して形質転換する工程、
を備える、製造方法。
(12) 窒素固定を利用して有用物質を生産する方法であって、
(1)~(9)のいずれかに記載の形質転換体に窒素を固定させて、前記形質転換体を生育又は増殖させて有用物質を生産する工程、
を備える、生産方法。
(13) 前記形質転換体は、光合成生物体である、(12)に記載の生産方法。
(14) 前記光合成生物体は、シアノバクテリア又は植物体である、(12)に記載の生産方法。
(15) 窒素固定を利用して生物体を生産する方法であって、
前記生物体としての(1)~(9)のいずれかに記載の形質転換体に窒素を固定させて、前記形質転換体を生育又は増殖させる工程、
を備える、生産方法。
(16) 低酸素及び窒素枯渇条件下で作動可能な転写制御因子のスクリーニング方法であって、
以下の(b)、(c)及び(e):
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質から選択される1種又は2種以上の被験タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された非窒素固定生物体における低酸素及び窒素化合物枯渇条件下での前記被験タンパク質による1又は2以上の窒素固定遺伝子の発現増強を評価する工程、
を備える、スクリーニング方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】L. boryanaの50-kb nif 遺伝子クラスターを示す図である。この遺伝子クラスターに含まれる50個の遺伝子に対し左から通し番号を付した。各遺伝子破壊株NK1-NK11で欠失した領域を黒いバーで示す。また、このクラスターの中央に配置されている25個の遺伝子(赤で示した遺伝子15~39)をSynechocystis sp. PCC 6803に移入する。加えて、cnfR (41) を転写制御タンパク質として別の中立部位に構成的プロモーターtrc制御下で発現させるようになっている。
【図2】各遺伝子欠損株の生育とニトロゲナーゼ活性比較を示す図である。上方の棒グラフは、NK1~NK11を窒素固定条件下で12 h インキュベートし、細胞のニトロゲナーゼ活性をアセチレン還元活性(エチレン生成速度)で評価した。*は野生株(WT)と統計的な有意差が得られた結果を示す。また、下方は、硝酸培地と無窒素培地、好気/嫌気条件下で培養し、生育を比較した。
【図3】nif遺伝子クラスターの転写物レベルのRT-PCR解析を示す図である。nif遺伝子クラスターの27遺伝子について、硝酸の有無と好気・嫌気条件下での転写物レベルを、野生株とNK4でRT-PCRにより評価した。遺伝子の通し番号(図1)を左に、遺伝子名を右に示した。NK4において窒素固定条件での転写物量が低下もしくは検出されなくなった遺伝子(14-38)を太字で示した。
【図4】cnfRによるnifBプロモーターの発現制御を示す図である。レポーターとしてnifBプロモーター下にluxAB遺伝子を連結し、エフェクターとしてtrcプロモーター制御下にcnfRを連結した (T-B1株)。対照として、cnfRをもたない株N-B1を用いた。これらの株を、硝酸培地と無窒素培地、好気/嫌気条件下で培養し、ルシフェラーゼ活性を生物発光として検出した。
【図5】nif遺伝子群のSynechocystis sp. PCC 6803への順次移入のための一連のプラスミドを示す図である。A. nif遺伝子群の中央部分 (modA~cnfR)の遺伝子配置。B~F. 野生株の中立部位3に順次挿入していくためのサブ断片を組み込んだ一連のプラスミド。L. boryanaに由来する断片を濃灰色、Synechocystis sp. PCC 6803に由来する断片を淡灰色で示す。
【図6】nif遺伝子群のSynechocystis sp. PCC 6803への順次挿入の手順を示す図である。野生型 (WT) にプラスミドpSeqNif1KFで形質転換を行い、得られたカナマイシン耐性形質転換体SN1に対し第2のプラスミドpSeqNif2SFで形質転換を行い、スペクチノマイシン耐性(カナマイシン感受性)形質転換体SN2を得る。このように順次形質転換を繰り返し、L. boryanaのnif遺伝子クラスターの中央部fdxB~nifTまでの領域を含むカナマイシン耐性形質転換体SN5を単離する。細い交差する実線は、相同組換えを示す。
【図7】nif遺伝子群のSynechocystis sp. PCC 6803への順次挿入の最終段階を示す図である。図6で得られたSN5の中立部位1(psbA2)にPtrc-cnfRを挿入し、スペクチノマイシン-カナマイシン二重耐性の最終形質転換体CnfR-Nif株を得る。
【図8A】インバースPCRと縮重プライマーでのPCRによる遺伝子ウォーキングと用いたプライマーリストを示す。
【図8B】インバースPCRと縮重プライマーでのPCRによる遺伝子ウォーキングと用いたプライマーリストを示す。
【図8C】インバースPCRと縮重プライマーでのPCRによる遺伝子ウォーキングと用いたプライマーリストを示す。
【図9A】L. boryanaの窒素固定遺伝子クラスターの遺伝子リストを示す。
【図9B】L. boryanaの窒素固定遺伝子クラスターの遺伝子リストを示す。
【図10A】遺伝子欠損株の単離のためのプラスミド構築に用いたプライマーリストを示す。
【図10B】遺伝子欠損株の単離のためのプラスミド構築に用いたプライマーリストを示す。
【図11A】RT-PCRに用いたプライマーリストを示す。
【図11B】RT-PCRに用いたプライマーリストを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の開示は、生物窒素固定を制御する因子及びその利用に関する。本明細書に開示される因子、すなわち、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質及びこれと機能的に同等なタンパク質の、生物による窒素固定に関する窒素固定遺伝子群の発現制御や特定条件下での所望の遺伝子の発現制御への利用に関する。

【0013】
本開示の窒素固定を制御する因子(以下、単に本制御因子という。)は、ニトロゲナーゼを含む窒素固定遺伝子群の発現を活性化することができる。また、本制御因子は、低酸素及び窒素枯渇条件下で所望の遺伝子の発現を活性化することもできる。

【0014】
本発明者らによれば、本制御因子は、L. boryanaにおいて窒素枯渇条件下において誘導的に合成される転写因子である。本明細書における開示を拘束するものではないが、本制御因子は、窒素枯渇条件下において誘導的に合成され、さらに、低酸素条件下において活性型に変換されて、特定のプロモーターに作用して当該プロモーターの制御下にある遺伝子の発現を活性化すると考えられる。L. boryanaにおいては、このプロモーターの制御下にニトロゲナーゼを構成する遺伝子群が連結されているため、ニトロゲナーゼ等の発現が増強され、この結果、窒素固定が増強されると推論される。

【0015】
ニトロゲナーゼによる窒素固定には、ATPが必要である。必要なATPは低酸素条件下において本制御因子が低酸素下での光合成及び呼吸関連酵素群を活性化することで、ATPを供給することができる、と推論される。

【0016】
上記のとおり、本開示によれば、本制御因子を利用することで、窒素固定を増強することができる。すなわち、本制御因子が作用するプロモーターに作動可能に窒素固定遺伝子群を連結することで、窒素固定遺伝子群を発現させることができる。

【0017】
また、本開示によれば、本制御因子を利用することで、特定条件下、典型的には、低酸素及び窒素枯渇条件下で、所望の遺伝子の発現を増強することができる。すなわち、本制御因子が作用するプロモーターに作動可能に所望の遺伝子群を連結することで、低酸素及び窒素枯渇条件下等で当該遺伝子を発現させることができる。

【0018】
本明細書において、低酸素条件とは、嫌気ジャー(BBL GasPak anaerobic systems, BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, USA、およびこれに相当する密閉できるジャー)内おいて酸素消費剤(Gas Generation Kit Anaerobic System, Oxoid, Basingstroke, Hants, UK、およびこれに相当する酸素消費剤)によってジャー内の酸素を完全に消費した条件であって、かつ、シアノバクテリア細胞の光合成による酸素発生は阻害しないという条件をいう。なお、ここで光合成による酸素発生を阻害しない条件とは、例えば、40 μmolphotonm-2 s-1程度であってもよいが、100μmol μmolphoton m-2 s-1程度まででもよい。

【0019】
また、本明細書において、窒素枯渇条件とは、通常は培地に窒素源として加える硝酸カリウム(KNO3)などの硝酸塩を実質的に含有しない培地で生育させる条件をいう。なお、実質的に含有しない、とは、硝酸塩が添加されていない培地に対して硝酸塩を添加しないことをいう。不可避不純物としての硝酸塩は許容されうる。

【0020】
以下では、本開示の代表的かつ非限定的な実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された本制御因子及びその利用を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。

【0021】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。

【0022】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施形態及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。

【0023】
(本制御因子)
本制御因子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又は当該タンパク質と機能的に同等なタンパク質である。

【0024】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である本制御因子は、名古屋大学保存系統であるL. boryana IAM-M101及びその変異株であるL. boryana IAM-M101 dg5、L. boryana sp.PCC6306において見出されている。なお、名古屋大学保存系統であるL. boryana IAM-M101及びその変異株であるL. boryana IAM-M101 dg5は、国立大学法人名古屋大学大学院生命農学研究科(日本国愛知県名古屋市千種区不老町1番)より分譲可能である。

【0025】
本発明者らによれば、既に記載したように、本制御因子は、L. boryanaの窒素固定遺伝子群(クラスター)においてニトロゲナーゼを構成するタンパク質をコードする遺伝子の発現制御を担う転写因子である。そして、低酸素及び窒素枯渇条件下で特定プロモーターに作用して、その制御下にある遺伝子の発現を促進することができる。

【0026】
本制御因子としては、既に開示されているもののほか、配列番号2で表されるアミノ酸配列と一定の関係を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等であるタンパク質であってもよい。

【0027】
かかる本制御因子の他の一態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有していることが好ましく、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上の同一性を有しており、70%以上の同一性、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、一層好ましくは90%以上、より一層好ましくは95%以上、さらに一層好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性のアミノ酸配列を有していることが好ましい。

【0028】
本制御因子の他の一態様は、さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列とアラインメントしたとき、当該アミノ酸配列の第9位~第20位における第1のCysモチーフ(CxxCxxCxxxCP)及び第39位~第45位における第2のCysモチーフ(CxxCx8CxxxC)のそれぞれのモチーフをこれらに対応する部位に備えているタンパク質であることが好ましい。これらのモチーフは、配列番号2で表されるアミノ酸配列のBLAST等を利用したホモログ検索により見出されている。

【0029】
本制御因子の他の一態様は、さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列とアラインメントしたとき、当該アミノ酸配列の第485位~第534位におけるDNA結合モチーフ(へリックス-ターン-ヘリックスモチーフ)を、これらに対応する部位に備えているタンパク質であることが好ましい。これらのモチーフは、配列番号2で表されるアミノ酸配列のBLAST等を利用したホモログ検索により見出されている。

【0030】
なお、本明細書において、アミノ酸配列又は塩基配列において「同一性」とは、比較される配列間において、各々の配列を構成するアミノ酸残基又は塩基の一致の程度の意味で用いられる。このとき、アミノ酸配列については、ギャップの存在及びアミノ酸の性質が考慮される(Wilbur, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:726-730 (1983))。同一性の計算には、市販のソフトであるBLAST(Altschul: J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))、FASTA(Peasron: Methods in Enzymology 183:63-69 (1990))等を用いることができる。「同一性」の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。

【0031】
配列番号2で表されるアミノ酸配列等に基づくと、以下のタンパク質が本制御因子の態様に含まれる。

【0032】
【表1】
JP0006489676B2_000002t.gif

【0033】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等とは、低酸素及び窒素枯渇条件下において、後述する特定プロモーターに作用して当該特定プロモーターによって作動可能に連結される遺伝子の発現を促進する機能を実質的に同程度維持することを意味している。機能的に同等か否かは、シアノバクテリア等において、比較対象となるタンパク質をコードする遺伝子及び特定プロモーターの制御下に適当なレポーター遺伝子等を発現可能に保持させて、低酸素及び窒素枯渇条件下における当該レポーター遺伝子の発現レベルを評価することなどによって決定できる。すなわち、当該レポーター遺伝子の発現レベルが低酸素及び窒素枯渇条件下において増強されているとき、その遺伝子がコードするタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等であると決定できる。

【0034】
また、本制御因子の他の一態様は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失及び付加されたアミノ酸配列を有して配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするものであってもよい。こうしたタンパク質は、例えば、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、一層好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、欠失及び付加を備えることができる。これの置換は、保存的置換であることが好ましい。

【0035】
ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。

【0036】
さらに、本制御因子の他の一態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするDNA若しくはその一部又はこれらと相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする相補性を有するDNAによってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質であってもよい。

【0037】
「ストリンジェントな条件下」とは、当業者が通常使用し得るハイブリダイゼーション緩衝液中で、温度が40℃~70℃、好ましくは60℃~65℃などで反応を行い、塩濃度が15~300mmol/L、好ましくは15~60mmol/Lなどの洗浄液中で洗浄する方法に従って行なうことができる。温度、塩濃度は使用するプローブの長さに応じて適宜調整することが可能である。さらに、ハイブリダイズしたものを洗浄するときの条件は、0.2または2×SSC、0.1%SDS、温度20℃~68℃で行うことができる。ストリンジェント(high stringency)な条件にするかマイルド(low stringency)な条件にするかは、洗浄時の塩濃度または温度で差を設けることができる。塩濃度でハイブリダイズの差を設ける場合には、ストリンジェント洗浄バッファー(high stringency wash buffer)として0.2×SSC、0.1%SDS、マイルド洗浄バッファー(low stringency wash buffer)として2×SSC、0.1%SDSで行うことができる。また、温度でハイブリダイズの差を設ける場合には、ストリンジェントの場合は68℃、中等度(moderate stringency)の場合は42℃、マイルドの場合は室温(20℃~25℃)でいずれの場合も0.2×SSC、0.1%SDSで行えばよい。

【0038】
本制御因子の他の一態様は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列と一定の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等であるタンパク質であってもよい。かかる態様の本制御因子は、例えば、配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされていることが好ましい。より好ましくは55%以上の同一性であり、さらに好ましくは60%以上の同一性であり、より好ましくは65%以上の同一性であり、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、一層好ましくは90%以上、より一層好ましくは95%以上、さらに一層好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有していることが好ましい。

【0039】
上記各種態様のタンパク質をコードする本遺伝子は、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、イネ科植物等から抽出したDNA、各種cDNAライブラリ又はゲノムDNAライブラリ等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリ等由来の核酸を鋳型とし、本遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは本遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。

【0040】
また、上記各種態様のタンパク質をコードする本遺伝子は、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。

【0041】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様のタンパク質をコードする本遺伝子を取得することができる。

【0042】
(形質転換体)
本明細書に開示される形質転換体(以下、単に本形質転換体ともいう。)は、本制御因子をコードする遺伝子(以下、単に本遺伝子ともいう。)の発現の活性化を備えている。

【0043】
形質転換体のための宿主としては特に限定されないが、本制御因子が窒素固定を増強するものであること、同時に、低酸素及び窒素枯渇条件下で遺伝子の発現を促進するものであることから、非窒素固定生物であることが好ましい。また、本制御因子が、光合成と共存される窒素固定に関連していることから、光合成生物であることが好ましい。より好ましくは酸素発生型の光合成生物である。

【0044】
本形質転換体の宿主としては、例えば、特に限定しないで、各種の原核生物及び真核生物が挙げられるが、好ましくは、シアノバクテリアなどの光合成原核生物が挙げられる。シアノバクテリアとしては、Anabaena sp. PCC 7120などの窒素固定シアノバクテリアであってもよいが、Synechocystis sp. PCC 6803やSynechococcus elongatus PCC 7942などの非窒素固定シアノバクテリアであることがより好ましい。

【0045】
また、宿主としての真核生物としては、光合成性であり非窒素固定性を考慮すると、植物体であることが好ましい。植物としては、特に限定しないで、各種の単子葉及び双子葉植物体が挙げられる。典型的には、穀物、野菜及び果実などの作物となる植物体であることが好ましい。

【0046】
植物細胞としては特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられるが、好ましくは、双子葉植物であり、さらに好ましくはイネ科植物である。イネ科植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガム等が挙げられる。また、植物細胞には、懸濁培養細胞等の培養細胞の他、プロトプラスト、カルスも含まれる。また、植物細胞には、苗条原基、多芽体、毛状根などのほか、葉の切片等の植物体中の細胞も含まれる。

【0047】
本制御因子をコードする遺伝子は、各種態様の本制御因子をコードすることができる。遺伝子は、DNA又はRNAなどのポリヌクレオチドを介して本制御因子をコードする遺伝情報を塩基配列として有するものであればよい。概して、遺伝子はDNAで構築される。本遺伝子は、本制御因子をコードするものであればよく、cDNAのほか、ゲノムDNA等であってもよい。

【0048】
本遺伝子の発現の活性化とは、本遺伝子が保有する遺伝子情報に基づくタンパク質としての本制御因子の合成が促進されることをいう。したがって、本遺伝子が宿主において本来的に合成されており本制御因子が本来的に合成される場合には、本制御因子の合成がさらに増大することを意味し、また、本遺伝子が宿主において本来的に合成されない場合には、本制御因子の合成が新たに付与されることを意味する。

【0049】
本遺伝子の発現の活性化を備えるとは、概して、本遺伝子を発現可能とする発現カセットを、宿主染色体上あるいは宿主染色体外において保持されていることを意味している。いう。

【0050】
本形質転換体において、本遺伝子は、構成的に発現されるように保持されていてもよいし、何らかの要因によって誘導的に発現されるように保持されていてもよい。シアノバクテリアや植物体において、所望の遺伝子を構成的に発現させるためのプロモーターは当業者においては公知であり、当業者であれば、こうしたプロモーターの制御下に本遺伝子を連結することができる。また、本遺伝子を誘導的に発現させる場合において、当業者であれば、所望の誘導要因に応じてプロモーターを適宜選択することができる。

【0051】
例えば、シアノバクテリアでは、psbA2プロモーター、rbcプロモーター、cpcプロモーターや、E. coliの発現ベクターに由来するtrcプロモーターが挙げられる。

【0052】
また、植物体では、構成的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al. 1985 Nature 313:810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al. 1993 Plant Mol.Biol. 23:567)などが挙げられる。また、本遺伝子を、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 Plant Mol.Biol.30:387)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2:95)、イネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol.GenGenet. 240:1)、イネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193:57)、シロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al. 1990 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1406)、パセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al. 1989 EMBO J. 8:651)、トウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6624)などが挙げられる。

【0053】
また、植物体で本制御因子を発現させる場合において、葉緑体において発現させることが好ましい。この場合、例えば、リボゾームRNAオペロンのrrnプロモーターを備えたpHK20(Kuroda and Maliga (2001) Nucleic Acids Res 24:970-975)などのプラスチド発現ベクターを、植物体の幼葉などの組織に対してパーティクルガンによって植物細胞に導入し、相同組換えを介して葉緑体DNAの特定部位に発現ベクターが挿入された形質転換体を得ることができる(Lu et al. (2013) PNAS E623-E632)。

【0054】
本制御因子が本来的に由来する生物において本制御因子の発現を制御するプロモーターを用いることもできる。例えば、L. boryanaにおいて本制御因子は窒素枯渇条件において誘導的に発現されるため、本制御因子のコード領域の上流にある領域をプロモーター領域として利用してもよい。

【0055】
本形質転換体においては、本遺伝子を1又は2以上保持していてもよい。これらは同じプロモーターによって作動可能とされていてもよいし、異なるプロモーターによって作動可能とされていてもよい。

【0056】
本形質転換体は、本遺伝子を発現可能に保持することで、本遺伝子の産物である本制御因子を用いて所望の遺伝子を発現させるための宿主(材料)として好適である。すなわち、本制御因子が作用するプロモーターの制御下に連結される外来性のあるいは内在性の遺伝子の発現カセットを本形質転換体に導入し保持させることで、当該遺伝子の発現を調節することが可能となる。特に、低酸素及び窒素枯渇条件下でこれらの遺伝子の発現を誘導し、促進することができる。

【0057】
本形質転換体は、さらに、本遺伝子の産物である本制御因子が作用可能な1又は2以上の遺伝子を発現可能に保持することができる。かかる形質転換体によれば、本制御因子が作用するプロモーターを介して当該プロモーターの制御下に連結された外来性のあるいは内在性の遺伝子の発現を調節することが可能となる。特に、低酸素及び窒素枯渇条件下でこれらの遺伝子の発現を誘導し、促進することができる。

【0058】
本制御因子が作用するプロモーター(調節領域)は、例えば、L. boryanaの窒素固定遺伝子群のnifB-nifP遺伝子間領域1255 bp(配列番号5)に含まれている。2のプロモーターがこの領域に含まれており、互いに作用する向きが反対方向である。1つは、例えば、nifB遺伝子の上流側の1223bpの領域(配列番号6)であり、他の1つは、例えば、nifP遺伝子の上流側にある315bpの領域(配列番号7)である。

【0059】
これらの遺伝子の上流領域を本制御因子が作用するプロモーターとして用いることで、低酸素及び窒素枯渇条件下でこれらプロモーターの制御下にある所望の遺伝子を発現させることができる。なお、本制御因子が作用するプロモーターは、上に示したプロモーターと機能的に同等であって、塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加等があってもよい。こうした改変プロモーターは、L. boryana以外のシアノバクテリア等の窒素固定遺伝子群からスクリーニングにより取得することができる。

【0060】
こうしたプロモーターの制御下に連結される遺伝子は、特に限定されないが、既述のように窒素固定遺伝子とすることができる。窒素固定遺伝子としては、当業者であれば適宜選択できるが、例えば、シアノバクテリアにおける窒素固定遺伝子を利用できる。なかでも、L. boryanaについて本発明者らが見出している以下の遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子はニトロゲナーゼの構成タンパク質及びニトロゲナーゼの活性に関わるタンパク質をコードしている。窒素固定を意図する場合には、これらのうち、少なくともnifD、nifK及びnifHを備えることが好ましい。より好ましくは、nifP、nifW及びnifZの各遺伝子から選択される1種又は2種以上を備えることが好ましい。さらに好ましくは、nifN、nifE及びnifBから選択される1種又は2種以上を備えることが好ましい。他に、nifX、nifS、nifU、nifV、nifT、fdxN、fdxH、fdxB、feoA、hesA、hesBから選択される1種又は2種以上を備えることが好ましい。

【0061】
【表2】
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【0062】
【表3】
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【0063】
【表4】
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【0064】
【表5】
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【0065】
【表6】
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【0066】
本形質転換体は、さらに、chlRタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持することができる。本発明者らによれば、かかる遺伝子は、L. boryanaにおいて構成的に発現され、かつ低酸素条件下でクロロフィル・ヘム・ビリン色素の生合成に関わる遺伝子の発現を誘導する。これらのタンパク質は、低酸素条件下での光合成や呼吸に関わると考えられ、低酸素及び窒素枯渇条件下での窒素固定のためのATP供給に寄与すると考えられる。L. BoryanaにおけるchlR遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は配列番号3及び配列番号4でそれぞれ表される。ChlR遺伝子の発現には、psbA2プロモーター、rbcプロモーター、cpcプロモーターや、E. coliの発現ベクターに由来するtrcプロモーター等を用いることができる。

【0067】
なお、これらの各種遺伝子についても、それぞれ特定の配列番号で表されるアミノ酸配列と一定の関係を有し、当該アミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。

【0068】
以上のとおり、本形質転換体は、これらの本制御因子、さらには本制御因子に加えて窒素固定遺伝子などの所望の遺伝子を発現可能に保持することができる。これらの遺伝子の発現にあたって必要な要素、例えば、プロモーターやターミネーター等などの要素は必要に応じて適宜備えられる。

【0069】
(形質転換ベクター及び形質転換体の製造)
かかる形質転換体は、本明細書に開示される形質転換ベクターを用いて宿主の種類に応じて当業者に公知の手法で作製されうる。本明細書に開示される形質転換ベクター(以下、単に、本形質転換ベクターともいう。)は、本制御因子をコードするポリヌクレオチドを含むことができる。本形質転換体ベクターは、宿主に窒素固定化能を付与するのに好適であるほか、低酸素及び窒素枯渇条件下で所望の遺伝子を付与するのに好適である。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよいが、概してDNAであることが好ましい。

【0070】
本形質転換ベクターは、本制御因子を発現するための発現カセットを備えることができる。本制御因子は、構成的発現のためのプロモーターの制御下にあってもよい。

【0071】
本形質転換ベクターは、既に説明した1又は2以上の窒素固定遺伝子など所望の遺伝子を発現可能に備えていてもよい。これらの所望の遺伝子は、例えば、L. boryanaに内在するようなクラスター形態であるいは独立して、本制御因子が作用するプロモーターの制御下に備えられていてもよい。

【0072】
本制御因子を宿主において発現可能に備える本形質転換ベクターとともに、既に説明した1又は2以上の窒素固定遺伝子など所望の遺伝子を発現可能に備える形質転換ベクターをキットとして組み合わせることができる。この形質転換ベクターには、本制御因子が作用するプロモーターの制御下に1又は2以上の所望の遺伝子を備えることができる。

【0073】
なお、窒素固定遺伝子以外の所望の遺伝子としては、例えば、各種の有用物質あるいは当該有用物質を生産するための1又は2以上の酵素をコードするものであってもよい。例えば、医薬成分として有用なタンパク質(例えばインターフェロン、インスリン、エリスロポエチン、ヒト成長ホルモン、各種サイトカイン)、試薬として有用なタンパク質(例えばDNA/RNAポリメラーゼ、プロテアーゼ、制限酵素)、蛍光タンパク質(例えばGFP、DsRed、フィコシアニン)、バイオプラスチック製造関連タンパク質(例えばポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)又はポリヒドロキシ吉草酸(PHV)合成酵素)、アミノ酸合成酵素、バイオ燃料関連合成酵素(例えばトリグリセリド、脂肪酸(ステアリン酸若しくはオレイン酸など)又は炭化水素(アルカン/アルケン)合成酵素、水素生産酵素)、抗菌活性物質合成酵素、機能性物質合成酵素(機能性物質としては、例えばγ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸、β-カロテン、アスタキサンチンがある)などをコードする遺伝子が挙げられ、特に、バイオ燃料関連合成酵素遺伝子が好ましい。こうした有用物質等をコードする遺伝子は、GenBankなどの既存のデータベースに登録されている塩基配列又はアミノ酸配列の情報から設計したプライマー又はプローブを利用して、PCR法又はハイブリダイゼーション法などの公知の方法により取得することができる。

【0074】
なお、こうした所望の遺伝子は、必ずしも本制御因子が作用するプロモーターの制御下に備えられていなくてもよい。本形質転換ベクターにより宿主に窒素固定能が付与されて、効率的な生育又は増殖が可能な形態であれば、当該生育等に伴い、こうした有用物質を効率的に増産できるからである。

【0075】
形質転換ベクターは、宿主の種類等に応じて、概して、1つ以上のエンハンサー若しくはサイレンサー、オペレーター、プロモーター、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、1つ以上の薬剤耐性遺伝子、外来遺伝子を挿入するためのクローニング部位などを含むことができる。

【0076】
薬剤耐性遺伝子としては、以下に限定されるものではないが、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。

【0077】
形質転換ベクターは、特にその形態を特定しないで、各種形態を採ることができる。DNA断片であってもよいが、典型的にはプラスミドベクターであるが、例えば、ウイルスベクターなどの非プラスミドベクターも使用できる。また好ましくは、形質転換ベクターは、複数の宿主細胞に適合させるためのシャトルベクターである。例えば、大腸菌及びシアノバクテリアのいずれの細胞にも導入可能であり、これらの宿主細胞中で外来遺伝子を発現し得るベクターが挙げられる。このようなシャトルベクターは大腸菌を用いて大量に複製することが可能である。

【0078】
形質転換ベクターをシアノバクテリアに適用する場合、シアノバクテリアで高効率に遺伝子を発現させ得る限り、母体となるベクターの由来は特に限定されない。例えば、シアノバクテリアで使用されるベクターであるpVZ321(Zinchenko VV, Piven IV, Melnik VA, Shestakov SV (1999) Genetika 35:291-296)、pMB1(Kreps S, Ferino F, Mosrin C, Gerits J, Mergeay M, Thuriaux P (1990) Mol. Gen. Genet. 221:129-133)、RSF1010(Meyer R (2009) Plasmid 62:57-70)などの公知のベクターを利用することができる。

【0079】
また、形質転換ベクターを植物体に適用する場合、例えば、プラスミドpBI121、pBI221、pBI101(いずれもClontech社製)などを利用することができる。

【0080】
宿主に対して本形質転換ベクターを用いて、宿主に応じた公知の形質転換法を用いることで、本形質転換体を得ることができる。シアノバクテリアの形質転換法としては、例えば、自然形質転換法及びエレクトロポレーション法を使用することができる。また、接合伝達法を用いることができる。自然形質転換法とは、シアノバクテリアと形質転換体ベクターとを混合するだけで遺伝子導入が可能な方法である。エレクトロポレーション法とは、シアノバクテリアと形質転換体ベクターの混合溶液に電気パルスをかけることで、遺伝子導入を行う方法である。接合伝達法とは、導入したい遺伝子を挿入したプラスミドを大腸菌に形質転換した後、その大腸菌とシアノバクテリアを混合し遺伝子導入を行う方法である。これらの方法は、当業者であれば適宜実施することができる。また、形質転換体を選択するには、形質転換ベクターに保持させた薬剤耐性遺伝子等を用いることができる。

【0081】
植物体(植物細胞、植物組織、葉緑体等)へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコールによるプロトプラストへ遺伝子導入(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによるプロトプラストへ遺伝子導入(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)等の各種方法が挙げられる。また、転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられる。

【0082】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。

【0083】
ゲノム上に本遺伝子が組み込まれた形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本明細書の開示には、既に説明した(1)本遺伝子が導入された植物細胞、(2)該細胞を含む植物体のほか、(3)該植物体の子孫およびクローン、並びに(4)該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。

【0084】
(窒素固定を利用して有用物質を生産する方法)
本明細書に開示される窒素固定を利用して有用物質を生産する方法は、本形質転換体に窒素を固定させて、本形質転換体を生育又は増殖させて有用物質を生産する工程、を備えることができる。本生産方法によれば、生物窒素固定を利用して窒素肥料の利用を低減又は回避して、効率的に、しかも環境汚染や温暖化への影響を抑制しつつ有用物質を生産できる。

【0085】
本形質転換体は、必要な窒素固定遺伝子を備えて、本制御因子が作用するプロモーターの制御下に窒素固定遺伝子を発現できるようになっていることが好ましい。形質転換体は、光合成生物であることが好適である。光合成生物であると太陽エネルギーを利用できるからである。

【0086】
本形質転換体の生育又は増殖条件は特に限定しないで、宿主の種類に応じた条件を採用できる。地球上の自然の24時間周期条件下で生育等してもよいし、人工的な条件であってもよい。窒素固定を増強するには、低酸素及び窒素枯渇条件による生育工程を含めることが好ましい。低酸素及び窒素枯渇条件下での生育工程は特に限定しないが、1日あたり12時間~24時間程度とすることができる。低酸素及び窒素枯渇条件は、人工的に付与することができるほか、植物体の部位や生育環境等によっては人工的に付与しなくても生じる場合がある。したがって、地球上の自然の24時間周期条件で生育しても部分的には低酸素及び窒素枯渇条件下での生育工程が成立する。例えば、植物体の維管束鞘細胞のような組織深部の細胞においては、低酸素及び窒素枯渇条件となる場合がある。植物深部の組織においては光合成を行わない夜間において低酸素条件となり、施肥などがなされない状況で成育させることで恒常的な窒素枯渇条件となるからである。

【0087】
本形質転換体の窒素固定能を増強し生育等させることで、効率的な生育が可能となり、本形質転換体が有用物質を生産する場合、有用物資を効率的に生産することができる。有用物質は、形質転換体の宿主において本来的に生産されるもののほか、遺伝的改変によって生産されるものが含まれる。

【0088】
(窒素固定を利用して生物体を生産する方法)
本明細書に開示される窒素固定を利用して生物体を生産する方法は、前記生物体としての本形質転換体に窒素を固定させて、形質転換体を生育又は増殖させる工程、を備えることができる。本生産方法によれば、生物窒素固定を利用して窒素肥料の利用を低減又は回避して、効率的に、しかも環境汚染や温暖化への影響を抑制しつつ生物体を生産できる。本形質転換体が、シアノバクテリアや植物体であるとき、それ自体が有用である場合には、栄養源や有用作物を効率的に増産できるので有用である、また、これらのシアノバクテリアや植物体が有用物質を生産する場合であっても抽出後の残部の生物体も有用である。

【0089】
本生産方法においても、本形質転換体の生育又は増殖条件は特に限定しないで、宿主の種類に応じた条件を採用できる。地球上の自然の24時間周期条件下で生育等してもよいし、人工的な条件であってもよい。窒素固定を増強するには、有用物質の生産方法と同様、低酸素及び窒素枯渇条件による生育工程を含めることが好ましい。

【0090】
本明細書の開示によれば、低酸素及び窒素枯渇条件下で作動可能な転写制御因子のスクリーニング方法が提供される。本スクリーニング方法は、
以下の(b)、(c)及び(e):
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)配列番号1で表される塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質から選択される1種又は2種以上の被験タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された非窒素固定生物体における低酸素及び窒素枯渇条件下での前記被験タンパク質による1又は2以上のレポーター遺伝子の発現増強を評価する工程、を備えることができる。

【0091】
本スクリーニング方法によれば、低酸素及び窒素枯渇条件下で作動可能な転写制御因子であるタンパク質をスクリーニングできる。この制御因子は、低酸素及び窒素枯渇条件下で転写を制御(促進)することができるほか、窒素固定に有用である。

【0092】
発現増強を評価するためのレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ等、当業者に公知のレポーター遺伝子を適宜選択して用いることができる。非窒素生物固定生物体としては、シアノバクテリアや植物体等、特に限定しないで用いることができる。レポーター遺伝子を制御可能に連結するプロモーターとしては、既に説明したL. boryanaで見出されたプロモーターを利用できる。なお、このスクリーニング方法に準じて、予め低酸素及び窒素枯渇条件下で作用する転写制御因子を用いて、種々の塩基配列を被験塩基配列としてのプロモーターとして用いて、低酸素及び窒素枯渇条件下でのレポーター遺伝子の発現増強を評価することで、特定の転写制御因子が作用するプロモーターをスクリーニングできる。
【実施例】
【0093】
以下、本開示を具現化した具体例について説明するが、以下の具体例は本開示を限定するものではない。
【実施例1】
【0094】
本実施例では、L. boryanaの窒素固定遺伝子群の塩基配列を決定した。
【実施例1】
【0095】
(使用したシアノバクテリアの菌株と培養条件)
実験には嫌気条件下で窒素固定を行う糸状性シアノバクテリアLeptolyngbya boryana (旧名Plectonema boryanum) と窒素固定能をもたない単細胞性シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803 (Syn. 6803) を用いた。L. boryanaについては、完全暗所での従属栄養的生育能の高いdg5株を野生型として用いた。両株の培養にはBG-11培地 (Rippka et al. 1979, J Gen Microbiol 111: 1-61) を用いた。寒天培地は1.5% (w/v)の寒天 (BactoAgar, Difco)を加えて調製した。BG-11培地のpHはL. boryanaが7.5、Syn. 6803が8.2となるように20 mM HEPES-KOHにより調整した。通常の継代培養には窒素源として10 mM KNO3を含む培地(以下硝酸培地とする)を用いたが、窒素固定誘導処理の際には硝酸などの窒素化合物を含まない培地(以下無窒素培地とする)を用いた。嫌気条件下での培養は嫌気パック(酸素消費剤) (Gas Generating Kit Anaerobic System, Oxioid, Basingstoke, Hants, UK) を入れた嫌気ジャー (BBL GasPak anaerobic systems, BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ) の中で行った (Aoki et al. 2012, J Biol Chem 287:13500-13507)。
【実施例1】
【0096】
(L. boryanaゲノムDNAの抽出と遺伝子ウォーキング)
L.boryanaのゲノムDNAはWillamsの方法にて行った(Williams 1988, Methods Enzymol., eds Packer L & Glazer AN, Academic Press, vol 167: 766-778)。Fujitaらが既に報告していたnifUHD遺伝子 (Fujita et al. 1991, Plant Cell Physiol 32: 1093-1106) から両方向に向かって連続したinverse PCRによる遺伝子ウォーキングを行った。L. boryanaのゲノムDNA 230 ngをBglII、EcoRI、HindIIIまたはXbaIで完全に消化した。熱処理によって制限酵素を失活させた後にエタノール沈殿によってDNAを回収し、15 μlの蒸留水に溶解した。これらのDNA断片をDNA Ligation Kit (Mighty Mix; Takara, Kyoto, Japan) によって環状化してinverse PCRの鋳型とした。inverse PCRで断片が増幅されなかった場合には縮重プライマーによるゲノムPCRで未知領域の増幅を行った。増幅はnested PCRによって行い、酵素はKOD FX Neo polymerase (TOYOBO, Osaka, Japan) を用いた。増幅された断片は Wizard SV Gel and PCR Clean-UP System (Promega, Madison, WI, USA) によって精製し、ABI3100 sequencer (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて塩基配列を決定した。各PCRに用いたプライマーと増幅した領域を図8A~8Cに示した。塩基配列を決定した50 kb領域の遺伝子配置を図1に、各遺伝子の詳細を図9A~9Bに示す。
【実施例1】
【0097】
なお、図8A~8C中の注記を以下に示す。
1断片番号。番号はnifUHD断片を0としてその上流側方向をU、下流側方向をDとして順次番号を振った。
2次のDNA断片を得るために用いた方法。inverse PCR(インバースPCR)もしくはdegenerate PCR(縮重プライマーによるPCR。For inverse PCR)。インバースPCRにおいて用いた制限酵素を括弧内に示す。制限酵素のスター活性によって断片が得られたと推察される場合には*を付した。
3インバースPCRで得られた断片の長さではなく、制限酵素処理によって得られる断片の長さを示した。
4nif遺伝子クラスターのすぐ外側の2つの遺伝子を**で示す。
5非特異的増幅を低減するために連続する2回の入れ子PCR(nested PCR)を行った。
6U6断片の配列は、2.4-kb EcoRI断片の塩基配列としてすでに報告されている (Schrautemeimer et al, 1994, J Bacteriol 176: 1037-1046).
7U2断片は、ゲノムDNAを鋳型とするPCRで得られた。この時用いたプライマー7425nifE-r1 と 7425nifE-r2はCyanothece sp. PCC 7425の既知のnifE配列をもとに設計した。
【実施例1】
【0098】
また、図9A~9B中の注記を以下に示す。
1 遺伝子名は、最も高いスコアを示した遺伝子の名前で示す。機能未知の推定遺伝子の遺伝子名は暫定的にorfNとしN はアミノ酸残基の数を示す。
2 +と-は遺伝子の方向(各々右方向、左方向)を示す(図1参照)。
3 最も高いスコアを示すタンパク質名。
4 最も高いスコアを示したタンパク質の起源となった生物名。
5 BLAST検索の結果に基づき、遺伝子を下記のようにグループ分けをした; S, すべてのシアノバクテリアで保存; A, すべての窒素固定性シアノバクテリアで保存; B, いくつかの窒素固定性シアノバクテリアで保存; C, いくつかのシアノバクテリアで保存(窒素固定性シアノバクテリアに限定されない); AC, すべての窒素固定性シアノバクテリアに保存され、かついくつかの非窒素固定性シアノバクテリアで保存D, L. boryana特有の遺伝子
6 Microcoleus chthonoplastesPCC 7420
7Anabaena variabilis ATCC 29413
8Fischerella sp. UTEX ‘LB1931’
9 Leptolyngbya boryana IAM M-101
10Nodularia spumigena CCY9414
【実施例2】
【0099】
本実施例では、nif遺伝子破壊株を作製し、機能欠損を評価した。
(dg5株の遺伝子破壊に用いたプラスミドの構築)
11種類のプラスミドpNK1~pNK11は全て同様の方法により構築した。すなわち、プラスミドpUCK192のカナマイシン耐性カセットの両端に、L. boryanaのゲノムを鋳型として増幅した標的遺伝子の上流及び下流領域のPCR断片を挿入した。使用したプライマーと制限酵素は図10A及び図10Bに示した。なお、pUCK192は、pMC19(Fujita et al. 1992, Plant Cell Physiology, 33: 81-92)のカナマイシン耐性カートリッジ(BamHI断片)をpUC19のBamH部位に挿入したプラスミドである。
【実施例2】
【0100】
なお、図10A~10B中の注記を以下に示す。
1プラスミド名は、欠損株名にちなんで命名した。
2遺伝子欠損株単離用のプラスミドは、ターゲット遺伝子の3’-領域, カナマイシン耐性カートリッジおよびターゲット遺伝子の5’-領域 から構成されている。3’- と 5’-領域はいずれもPCRで増幅した。
3Dは、PCRプライマーの方向性を示す; F, forward; and R, reverse.
4PCR断片をpUC192にサブクローニングする際に用いた制限酵素を示す。pUCK192は、pUC19のBamHI部位にカナマイシン耐性カートリッジを挿入したプラスミドである。
5エレクトロポレーション法に供する際にプラスミドを直線化するために用いた制限酵素。
【実施例2】
【0101】
(nif遺伝子破壊株の単離)
dg5株の二重相同組換えを介した遺伝子欠損株の単離のために、遺伝子破壊用プラスミドをエレクトロポレーション法によって細胞に導入し形質転換を行った (Fujita et al. 1992, Plant Cell Physiol, 33: 81-92)。形質転換には、構築した遺伝子破壊用プラスミドを図10A及び図10Bに示した制限酵素によりゲノムとの相同領域の外側で切断して直鎖状にしたものを用いた。硝酸寒天培地(30°C)で光合成的に生育させたdg5の細胞を滅菌水でボトルトップフィルター(0.22μm)に回収し、その後吸引ろ過により水を除いた。この操作を計3回行うことで細胞懸濁液に含まれる塩を除いた。この細胞を0.5-2.0 mlの冷却した滅菌水に再懸濁し、これをエレクトロポレーションに供するコンピテントセルとした。
コンピテントセル50 μlと直鎖化した各DNA断片10 μlを混合し、電圧1410 V、抵抗250 Ω、静電容量25 μF、電極間距離1 mmの設定で減衰パルス処理を行った(Gene Pulser XcellTM, Bio-Rad)。パルス処理した細胞を350 μlのBG-11 (20 mM HEPES-KOH; pH 7.5含有) を加えて回収し、ナイロン膜(Amersham HybondTM-N+, GE Healthcare)を載せたBG-11寒天培地に広げた。30℃、光強度2 μmol photon m-2s-1で2日間生育させた後、ナイロン膜とともにカナマイシン(終濃度15 mg/L)を添加したBG-11寒天培地に移し、光強度50 μmol photon m-2 s-1照射下で薬剤耐性株の選抜を行った。
2週間後、カナマイシン耐性株として選抜されたnif遺伝子破壊株を各々NK1 (nifD, nifK欠損)、NK2 (nifZ, nifT欠損)、NK3 (orf206a欠損)、NK4 (cnfR欠損)、NK5 (coxB2, coxA2欠損)、NK6 (orf159-orf108欠損)、NK7 (nifP-orf99欠損)、NK8 (nifX欠損)、NK9 (hesA-mop欠損)、NK10 (orf118, orf332欠損)、NK11 (chlR欠損)と命名した。これらの変異株における遺伝子破壊は、細胞から直接DNA断片を増幅するコロニーPCRによって確認された。
【実施例2】
【0102】
(cnfR相補株NK4CSの作製)
cnfR相補のためのプラスミドpPBHcnfRSはプラスミドpPBHLI18から構築した。pPBHLI18はT5プロモーターとそれに続くChlL-6xHisタンパク質コード領域およびpPBH202由来のターミネーターを含むプラスミドである(Yamamoto et al. 2009, Plant Cell Physiol, 50: 1663-1673)。cnfRのコード領域をL. boryanaのゲノムDNAを鋳型としたPCRによって増幅した。用いたプライマーはSphIサイト(一重線)とStrep-tag配列(後の一重線)を含むPbpatB-f12SphI; GCATTGCATGCCGGCTAGCTGGAGCCACCCGCAGTTCGAAAAAGGCGCCTACAAAATTTCTGGTGACと BamHIサイト(一重線)を含むPbpatB-r9BamHI; CCTATCGGATCCAGATAATCAGTCCATCである。得られた断片をSphIとBamHIで処理し、同じ酵素で処理してChlL-6xHis領域を切り出したプラスミドに挿入した。このようにして得られたpPBHcnfRSはpQE-60(QIAGEN)に由来するtrcプロモーターによってN末端側にStrep-tagが付加されたCnfRを発現する。上記のエレクトロポレーション法によりこのプラスミドをNK4株に導入した。ただしpPBHcnfRSはL. boryanaの細胞内でプラスミドとして保持されるので、制限酵素処理による直鎖化は行わなかった。形質転換された細胞の選抜にはクロラムフェニコール(終濃度15 mg/L)を使用した。
【実施例2】
【0103】
(遺伝子欠損株の生育比較)
硝酸寒天培地、好気条件で2日間培養した野生株及び変異株を白金耳によって蒸留水に回収し、OD730を1.0にそろえた細胞懸濁液を調製した。これを6 μlずつ硝酸または無窒素寒天培地にスポットした。培養は好気または嫌気条件、40 μmol photon m-2 s-1の連続光、30°Cで4日間行った。NK1~NK11の生育比較は図2に示す。
【実施例2】
【0104】
図2に示すように、嫌気及び無窒素条件においてNK4株においては、ニトロゲナーゼ活性が全く観察されなかった。
【実施例2】
【0105】
(L. boryana遺伝子発現解析)
寒天培地上で生育させたL. boryanaの細胞を回収し、Minamizakiらの方法 (Miamizaki et al. 2008, J Biol Chem 283:2684-2692) によってRNAを抽出した。これを鋳型としてランダムヘキサマーとReverTra Ace (TOYOBO)を用いて逆転写反応を行い、一本鎖cDNAを合成した。1サンプルあたり13 ng のtotal RNAに相当するcDNAを鋳型として1.5 UのKOD Plus polymerase (TOYOBO)によるPCR (総量15 μl) を行った。各遺伝子に特異的なプライマーは図11A~11Bに示した。RNAポリメラーゼのαサブユニットをコードする遺伝子であるrpoAを内部標準とした。増幅されたDNA断片(反応液6 μl)を2% (w/v) のアガロースゲルで電気泳動し、GelRed (Biotium, Hayward, CA, USA) により染色して可視化した。結果は図3に示す。
【実施例2】
【0106】
図11A~11B中の注記を以下に示す。
1番号は図9A~~9Bと図1に示した遺伝子番号に対応している。
2RT-PCRで得られた断片の長さを示す。
3 RT-PCRのサイクル数を示す。
【実施例2】
【0107】
図3に示すように、野生型において、cnfR遺伝子は、嫌気・無窒素条件下において、強くcnfR遺伝子の発現が誘導されていることがわかった。また、野生型において、嫌気・無窒素条件下において、窒素固定遺伝子の主要なメンバー(mop、fdxB、hesA、nifW、nifN、nifE、nifP、nifB、nifS、nifH、nifD、nifK、nifV、nifZ、ocxB2、orf206b)の発現が誘導されていることがわかった。一方、cnfR遺伝子を欠損した場合において、窒素固定遺伝子の主要なメンバーの転写物が検出されなかった。このことは、これらのメンバーがcnfRタンパク質により制御されていることが考えられた。
【実施例2】
【0108】
(In vivoニトロゲナーゼ活性測定)
ニトロゲナーゼの活性は、アセチレンからエチレンへの還元反応によって測定した。硝酸を含む培地で2日間生育させたL. boryanaの野生株または変異株を、白金耳を用いて蒸留水に回収しOD730=6.0の細胞懸濁液とした。これを400 μlずつ硝酸または無窒素寒天培地にまき、嫌気、50 μmol photon m-2 s-1の連続光、30°Cで12 h 培養した。寒天培地上に1.5 mlの液体BG-11培地を滴下し、コンラージ棒を用いて細胞を懸濁し、1 mlの懸濁液(OD730は約3となる)を密栓できる8-ml バイアル瓶に封入した。液体培地の窒素条件は培養に用いた寒天培地と同じとした。この回収作業は嫌気チャンバー(model A, COY Laboratory Products, Grass Lake, MI, USA)で行った。バイアル瓶内部の気相を混合ガス (10% acetylene in argon; as standard gas; Japan Fine Products, Oyama, Japan) で置換し、50 μmol photon m-2 s-1の光照射下、30°Cで10 minインキュベートした。気相部分をサンプリングしガスクロマトグラフィー により生成したエチレンをFIDで検出し定量した(GC-2014AF, Shimadzu, Kyoto)。カラムは Porapak N column (0.3 m × 3 mm) を使用し、カラム温度は40°Cとした (Gavini and Burgess, 1992, J Biol Chem 267: 21179-21186)。この条件下ではエチレンは0.8 minに溶出される。エチレンの定量後に細胞懸濁液を回収し、OD730の正確な値を測定し、一定OD730の活性補正値を得た。ニトロゲナーゼ活性の結果は図2に示す。
【実施例2】
【0109】
図2に示すように、窒素固定条件(嫌気及び無窒素条件)の生育とエチレン生成速度がよく相関していた。以上の結果から、cnfR遺伝子産物が窒素固定遺伝子の複数のメンバーの発現を窒素固定条件下で強く促進することがわかった。
【実施例3】
【0110】
(Syn.6803レポーターアッセイ用変異株の単離)
レポーターアッセイに用いたSyn. 6803はゲノム上の中立部位1 (psbA2 (slr1311) コード領域内) からエフェクターであるCnfRを発現させ、中立部位2 (ssr1880コード領域内) に挿入したL. boryana のnifBプロモーターに作用させることでレポーターであるluxAB遺伝子を発現させる。
【実施例3】
【0111】
(エフェクター導入用プラスミドの作製)
Syn. 6803のゲノムDNAを鋳型としてプライマー6803psbA2-f1とslr1312-r1EcoRIでPCRを行い、psbA2遺伝子の下流slr1312を含む領域(1697 bp)を増幅した。この断片とプラスミドpUC19をEcoRIとKpnIで処理し、ライゲーションして得られたものをp6803EF1とした。同様にプライマーsll1212-r1SphIと6803psbA2-r1SalIで増幅したpsbA2上流領域(1389 bp)をSalIとSphIによってp6803EF1に挿入し、p6803EF2を得た。さらに、pUCK192からBamHIとSalIによって切り出したカナマイシン耐性カセットをp6803EF2のpsbA2上流領域と下流領域の間に逆向きに挿入し、p6803EF3とした。L. boryanaのcnfR遺伝子がE. coliの人工プロモーターtrcで制御されるプラスミドpPtrc-cnfRは、p6803EF3のカナマイシン耐性遺伝子コード領域の上流側にPtrc-cnfR断片を挿入することにより構築した。Ptrc-cnfR断片を作製するために2段階のPCRを行った。まずL. boryanaのゲノムDNAを鋳型とし、プライマーPbtrc-patB-f1とPbhypo1-f2 を用いて増幅したものを、断片A (1,755 bp) とする。一方、Ptrcを有するE. coliの発現ベクターpNF4-Pbpor (辻本・藤田, 未発表、trcプロモーターとしてE. coliの発現ベクターpQE-60(QIAGEN)のプロモーター配列(塩基番号7-112; 106 bp)を有する) を鋳型とし、プライマーp7とPtrc-patB-r1を用いて増幅したものを断片B (1,393 bp) とする。次に同じmol数の断片Aと断片Bを鋳型とし、プライマー6803por-f3SacIとPbpatB-r9BamHIを用いて増幅した。増幅した断片 (1,807 bp) をSacIおよびBamHI処理 を行った後、ライゲーションによりp6803EF3のSacIおよびBamHIサイトに連結し、プラスミドpPtrc-cnfRを構築した。このプラスミドのtrcプロモーターとcnfR遺伝子にPCRエラーが存在しないことはシークエンスにより確認された。
【実施例3】
【0112】
エフェクター導入用プラスミドの作製に使用したプライマーの塩基配列は以下の通りである。
【実施例3】
【0113】
6803psbA2-f1; GATCTACCCCATTGGTCAAGGCTC
slr1312-r1EcoRI; GCTTGACCGAATTCCACATAGAGTTGG
sll1212-r1SphI; GTCCTTGGCATGCCCCAATCCCGCT
6803psbA2-r1SalI; GTTGGTAGAGGTCGACCCACTGAC
Pbtrc-patB-f1; GAGGAGAAATTAAGCATGGCGTACAAAATTTCTGG
Pbhypo1-f2; GACTGCTTAGGCAAATGCTCAATGG
p7; CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC
Ptrc-patB-r1; CCAGAAATTTTGTACGCCATGCTTAATTTCTCCTC
6803por-f3SacI; TGTGCGAGCTCCTAAAGAATGGCAAAG
PbpatB-r9BamHI; CCTATCGGATCCAGATAATCAGTCCATC
【実施例3】
【0114】
(レポーター導入用プラスミドの作製)
Syn. 6803のゲノムDNAを鋳型として、プライマー6803ndhB-f1PstIとssl0410-r1XhoIによりssl0410の上流領域を増幅した。これをPstIとXhoIで処理した後、スペクチノマイシン耐性カセットを持つプラスミドであるpPbBU3 (pUC19のマルチクローニング部位に、中立部位3の上流配列 (slr2030) とスペクチノマイシン耐性カートリッジとpsbA2プロモーターに連結したnifHとカナマイシン耐性カートリッジのPstIから上流の部分断片を有するプラスミド;辻本・藤田, 未発表)をPstIとXhoIで処理した断片とライゲーションした。これにより得られたプラスミドをp6803RP1とした。次にプライマー6803ndhB-f2KpnIとslr0251-f1SacIで増幅したssl0410下流断片をKpnIとSacIで処理し、同様に処理したp6803RP1とライゲーションしてp6803RP2を得た。さらに発光細菌Vibrio harveyiのluxABを有するL. boryanaのシャトルベクターpKTL21 (Terauchi et al. 2005, Photosynthesis: Fundamental Aspects to Global Perspectives, Edited by van der Est, A. and Diner, B., Allen Press, vol. 2, pp. 729-730) を鋳型とし、プライマーluxA-f1BglIIとluxAB-r1BamHIを用いてluxABの断片を増幅した。これをBamHIとBglIIで処理し、p6803RP2のスペクチノマイシン耐性カセット上流に存在するBglIIサイトに逆向きに挿入した。こうして得られたプラスミドをpEmpty-luxABとした。L. boryana nifBの上流にはnifPが逆向きにコードされており、その遺伝子間領域は1,255 bpである。nifBのプロモーター領域として翻訳開始点の上流1,223 bpに相当する領域をプライマーPbnifB-f5KpnIとPbnifB-r8BglIIで増幅した。この断片をKpnIとBglIIで処理し、pEmpty-luxABのluxAコード領域上流にあるKpnIサイトとBglIIサイトに挿入した。得られたプラスミドをpPnifB-luxAB1とした。このプラスミドのnifBプロモーターとluxAB遺伝子にPCRエラーが存在しないことはシークエンスにより確認された。
【実施例3】
【0115】
使用したプライマーの塩基配列は以下の通りであった。
6803ndhB-f1PstI; GTAACGTCTGCAGCGCAACTCAATGC
ssl0410-r1XhoI; CCCAAGATCTCGAGCTTTAAATCGG
6803ndhB-f2KpnI; TTGGTTGGTACCTCGCTGGCAGG
slr0251-f1SacI; AGGGGTTTCGAGCTCCCCTACGGAAAC
luxA-f1BglII; GATCCAGATCTATGAAATTTGGAAACTTCC
luxAB-r1BamHI; GCTGAGGATCCCATGAAAATCAAGTC
PbnifB-f5KpnI; GCTATGGTACCTGGTCTGCTTTGC
PbnifB-r8BglII; GAGGGTGGTAGATCTCATTGAATTTCGG
【実施例3】
【0116】
(Syn.6803へのエフェクターとレポーターの導入)
硝酸寒天培地で2日間培養したSyn. 6803野生株を白金耳によって回収し、蒸留水に懸濁してOD730=1.0に調整した。懸濁液300 μlにp6803EF3またはpPtrc-cnfRを1 μg加え、ナイロン膜を載せた寒天培地に広げた。30℃、光強度2 μmol photon m-2s-1で1日間生育させた後、ナイロン膜とともにカナマイシン (終濃度15 mg/L) を添加した寒天培地に移し、光強度50 μmol photon m-2 s-1照射下で薬剤耐性株の選抜を行った。2週間後、カナマイシン耐性株として選抜された株をそれぞれNEF株およびTcnfR株とした。これらの株はカナマイシン存在下で継代培養を繰り返すことで全てのゲノムコピーが変異型に置き換えられたものである。さらに、同様の方法でNEF株およびTcnfR株それぞれに対してpPnifB-luxAB1を導入し、スペクチノマイシン (終濃度15 mg/L) により選抜したものをそれぞれN-B1株、T-B1株として単離した。N-B1株はエフェクターを持たないネガティブコントロール株である。
【実施例3】
【0117】
(ルシフェラーゼ活性測定)
発現したLuxAB(ルシフェラーゼ)の活性は蛍光基質であるn-decanalとの反応で生じる生物発光を検出することによって定量した。
好気・連続光 (50 μmol photon m-2 s-1) のもと、Syn. 6803 N-B1およびT-B1を硝酸寒天培地において3 日間前培養を行った。それらの細胞を白金耳によって硝酸または無窒素寒天培地に植菌して、好気または嫌気・連続光 (50 μmol photon m-2s-1) 照射下で14時間培養した。培養後、マイクロスパーテルで細胞を回収し、OD730=0.1の懸濁液1 mlを調製した。実験操作は好気、30℃にて行った。また、0.1% n-decanal 1ml を作製し、超音波洗浄機 (モデル3210J, Branson, Danbury, CT, USA) で30℃、10 分間ソニケーションによりエマルジョン化した。この溶液20 μlを細胞懸濁液に添加し、発光させた。ルシフェラーゼによる発光量はAQUACOSMOS/VIM (Hamamatsu Photonics, Hamamatsu, Japan) により検出した。ルシフェラーゼ活性の結果を図4に示す。
【実施例3】
【0118】
図4に示すように、cnfR遺伝子を構成的に発現させているにも関わらず、嫌気・無窒素条件下でのみルシフェラーゼ発光が認められた。このことから、cnfR遺伝子は、嫌気・無窒素条件下においてのみnifプロモーターに作用して当該プロモーター制御下の遺伝子を発現させることがわかった。
【実施例4】
【0119】
本実施例では、Syn. 6803に対して構成的にL. boryana由来のcnfR遺伝子を発現させるとともにnifBプロモーターの制御下にL. boryana由来の窒素固定遺伝子クラスターを導入した変異株を作製した。
【実施例4】
【0120】
(Syn.6803 nif遺伝子発現株の単離)
Syn. 6803 CnfR-Nif株はゲノム上の中立部位1からtrcプロモーターによってCnfRを発現させ、それによって中立部位3 (slr2030とslr2031の遺伝子間領域) に挿入したL. boryana nifクラスターのfdxBからnifTを含む20,763 bpの領域の遺伝子群を窒素固定条件下で発現させるように構築した株である。導入したnifクラスターは20 kb以上の大きな断片であるため、5つのサブ断片に分割してfdxBの側から順次導入した(図5~図7)。
【実施例4】
【0121】
(nifクラスター導入用プラスミドの作製)
Syn. 6803ゲノム中立部位3の上流領域をプライマーsll1910-f2XbaIとslr2030-r1XhoIで増幅し、pUCK19sacB2にXbaIとXhoIを用いて挿入した。pUCK19sacB2はpUCK192由来のカナマイシン耐性カセットとsacB遺伝子を持つプラスミドである。得られたプラスミドはpNSsacB1と名付けた。なお、sacBは、スクロースを分解し細胞にとって有毒なレバンを生成するレバンスクラーゼをコードしており、遺伝子操作のネガティブマーカーとして使用する。次に中立部位3の下流領域をプライマーslr2031-f3SacIとslr1133-r2SacIで増幅し、pNSsacB1のSacIサイトに挿入したものをpNSsacB2とした。さらにpNSsacB2からKpnI処理によってsacB遺伝子を抜いたものをpNSkmRとした。このプラスミドでは中立部位3にカナマイシン耐性カセットがslr2030およびslr2031の転写方向に対して逆方向に挿入された形になっている。また、KpnIとXhoIで処理することによってカナマイシン耐性カセットとsacB遺伝子をまとめて抜いたpNSsacB2に対して、pNSsacB2からプライマーKmR-f2XhoIとKmR-r2KpnIで増幅したカナマイシン耐性カセットまたはp6803RP1からプライマーSpeR-f2XhoIとSpeR-r3KpnIで増幅したスペクチノマイシン耐性カセットをそれぞれ挿入することでpNSkmFとpNSspeFを得た。前者はカナマイシン耐性カセット、後者はスペクチノマイシン耐性カセットが、slr2030およびslr2031の転写方向に対してそれぞれ順方向に挿入されている。
【実施例4】
【0122】
L. boryanaのmopコード領域途中からnifXコード領域途中までの4,171 bp (mop’-fdxB-feoA-fdxH-hesB-hesA-nifW-orf70-orf155-nifX’)をプライマーPbmop-r5SalIとPbnifX-f1SacXhoで増幅し、SalIとXhoIで処理したDNA断片をpNSkmFの中立部位3上流領域とカナマイシン耐性カセットの間にあるXhoIサイトに挿入した。得られたプラスミドをpSeqNif1KFとした。また、nifWコード領域下流からnifPコード領域途中までの5,525 bpをプライマーPbnifW-r3SalIとPbnifP-f2XhoIで増幅した。pNSspeRをSalIとXhoIで処理することにより中立部位3上流領域を除き、同様に処理したPCR断片を代わりに挿入した。得られたプラスミドをpSeqNif2SFとした。さらに、nifEコード領域途中からfdxNコード領域途中までの5,405 bpをプライマーPbnifE-r5SalIとPbfdxN-r2XhoIで増幅し、SalIとXhoIで処理した。これをSalI処理によって中立部位3上流領域を除いたpNSkmRとライゲーションすることによってプラスミドpSeqNif3KRを得た。nifBコード領域途中からnifDコード領域途中までの6,066 bpをプライマーPbnifB-f9XhoIとPbnifD-r7SalIで増幅した。pNSspeRをSalIとXhoIで処理することによって中立部位3上流領域を除き、同様に処理したPCR断片を代わりに挿入した。得られたプラスミドをpSeqNif4SFとした。nifHコード領域途中からnifTコード領域下流までの5,797 bpをプライマーPbnifH-f3SalIとPbnifT-r6SalIで増幅した。pNSkmRをSalIで処理することによりの中立部位3上流領域を除き、同様にSalI処理したPCR断片と入れ換えることでプラスミドpSeqNif5KRを得た(図5)。これらのプラスミドのnifクラスター領域にPCRエラーが存在しないことはシークエンスによって確認された。
【実施例4】
【0123】
使用したプライマーの塩基配列は以下の通りであった。
sll1910-f2XbaI; GAAGGGAAGCGTCTAGAATTGTCGAGG
slr2030-r1XhoI; CTACAACTCGAGCCTATTGAACCAGC
slr2031-f3SacI; TTGTTGAGCTCCCACTTCTCCGGTG
slr1133-r2SacI; GAAATTACCGAGCTCGGTATTCCTGG
KmR-f2XhoI; CCACCGATCTCGAGAACGACAGC
KmR-r2KpnI; GGTTCAATAGGTACCGAGTGGGTG
SpeR-f2XhoI; GTACCAAGCTCTCGAGTAACATCAAG
SpeR-r3KpnI; GATTTAAAGCTCGGTACCAACTATTGC
Pbmop-r5SalI; AGCTAAGCCGTCGACTGAGGATTTCG
PbnifX-f1SacXho; CTCATTTTGAGCTCGAGCCAGTAAGATTG
PbnifW-r3SalI; GACAGAGAGTCGACACTCAGCGAAG
PbnifP-f2XhoI; CGAACAGCTCGAGGAGCAACTGC
PbnifE-r5SalI; GATCAGTGCAGTCGACAAGTCGAATAG
PbfdxN-r2XhoI; GAATGGCTCCTCTCGAGCAAACTGG
PbnifB-f9XhoI; TCACTATGCTCGAGATGCACGTTGC
PbnifD-r7SalI; GCAATCTGAGTCGACCCGAAGAAG
PbnifH-f3SalI; GACGTACTAGGTCGACGTTGTATGC
PbnifT-r6SalI; TGAACGAAGTCGACGTGAACGGGAC
【実施例4】
【0124】
(cnfR発現プラスミドの作製)
Syn. 6803のゲノム中立部位1においてtrcプロモーターからCnfRを発現させるためのプラスミドは以下のようにして構築した。上記のpPtrc-cnfRをSacIとSalIで処理することによってカナマイシン耐性カセットを除いた。また、pPbBU3を鋳型としてプライマーslr2030-f2SacIとPAII-nifH-r1で増幅したスペクチノマイシン耐性カセットをSacIとSalIで処理し、両者をライゲーションすることで薬剤耐性を変換したプラスミドpPtrc-cnfR2を得た。
【実施例4】
【0125】
使用したプライマーの塩基配列は以下の通りであった。
slr2030-f2SacI; GCAATGAGCTCAATGGAAGCAAATCCGAC
PAII-nifH-r1; CTAATATTTTCGTCAGACATTTGGTTATAATTCC
【実施例4】
【0126】
(Syn.6803へのnifクラスターおよびcnfRの導入)
Syn. 6803の形質転換は実施例3に示す方法で行った。プラスミドはpSeqNif1KFから順次得られた形質転換体に対して次のプラスミドをpSeqNif5KRまで導入し、最後にpPtrc-cnfR2を導入した(図6、図7)。まず、pSeqNif1KFによって中立部位3にnifクラスターの一端(mopの途中からnifXの途中までの領域)とカナマイシン耐性カセットが挿入した形質転換体SN1を単離した。次に、SeqNif1KFにカナマイシン耐性カセットと入れ替える形で第2のプラスミドpSeqNif2SFを導入しSN2を単離した。以下同様に順次カナマイシンとスペクチノマイシンを交互に使用し、nifクラスター全体(fdxBからnifTに至る20,763 bp)が導入されたカナマイシン耐性株SN5を得た(図6)。最後に、nif遺伝子群の発現をCnfRによって制御するために、中立部位1にpPtrc-cnfRを導入し、カナマイシン、スペクチノマイシン二重耐性のCnfR-Nif株を得た(図7)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8A】
7
【図8B】
8
【図8C】
9
【図9A】
10
【図9B】
11
【図10A】
12
【図10B】
13
【図11A】
14
【図11B】
15