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明細書 :油からのビタミンE類の選択的な連続回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6256981号 (P6256981)
公開番号 特開2015-147900 (P2015-147900A)
登録日 平成29年12月15日(2017.12.15)
発行日 平成30年1月10日(2018.1.10)
公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
発明の名称または考案の名称 油からのビタミンE類の選択的な連続回収方法
国際特許分類 C11B  11/00        (2006.01)
FI C11B 11/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 14
出願番号 特願2014-022613 (P2014-022613)
出願日 平成26年2月7日(2014.2.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成25年8月21日にウェブサイトのアドレス(http://www3.scej.org/meeting/45f/prog/sess_12.html)にて発表
審査請求日 平成29年2月1日(2017.2.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】北川 尚美
【氏名】米本 年邦
【氏名】廣森 浩祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】吉田 邦久
参考文献・文献 特開2009-190989(JP,A)
米国特許出願公開第2005/0131240(US,A1)
国際公開第2010/125988(WO,A1)
特開2008-231430(JP,A)
特開昭61-093178(JP,A)
調査した分野 C11B 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程:
(1)ビタミンE類を含む油とアルコールの混合溶液を陰イオン交換体に接触させ、
(2)該陰イオン交換体を触媒としてエステル交換反応によって該油に含まれるトリグリセリドの側鎖である脂肪酸基を吸着不活性な脂肪酸エステルに変換させ、同時に、該油に含まれるビタミンE類を該陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後
(3)酸とアルコールを含む脱離液を使用して、該陰イオン交換体からビタミンE類を脱離及び回収する、
ことを含む該油からビタミンE類を選択的、かつ、高純度で製造する方法であって、
該混合溶液が該油中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分の80~120%の量のアルコールを含み、該脱離液における酸の濃度が2~5wt%であり、各工程を45℃~55℃で行う、ことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
アルコールとしてエタノールを使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酸として酢酸を使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
分離されたビタミンE類から、更に、トコトリエノールを分離することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
クロマト分離により、ビタミンE類からトコトリエノールを分離する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
油に含まれるビタミンE類を陰イオン交換体に接触させる前に、該油中の遊離脂肪酸のエステル化を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
陽イオン交換体を用いて遊離脂肪酸のエステル化を行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
陰イオン交換体が陰イオン交換樹脂である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
油として脱臭流出物(スカム油)を使用する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
樹脂を充填した反応器を用いて、反応及び/又は吸着分離を連続的に行う請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
樹脂を充填した反応器からなり、反応及び/又は吸着分離を連続的に行うことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、油、特に、パーム油や米糠油等の天然油からトコトリエノール等のビタミンE類を分解損失なし、かつ、選択的に分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンE類(トコトリエノールとトコフェロール)は、高い抗酸化活性を有する健康機能物質として注目されている。特に、トコトリエノールは、トコフェロールと基本構造が等しく側鎖に3つの二重結合を有するため、トコフェロールの40-60倍もの高い抗酸化活性を持つ(非特許文献1)。最近では、トコトリエノールの動脈硬化改善作用や抗ガン作用などの高い生理活性が報告されており(非特許文献2)、医薬品や食品分野での積極的な利用が期待されている。
【0003】
しかし、トコフェロールが大豆や菜種、ひまわり、コーンなど種々の植物油に広く含まれているのに対し、トコトリエノールはパームや米ぬかなど一部の植物油に極低濃度で含まれている。また、トコトリエノールは、側鎖の二重結合のために熱による酸化分解を生じやすく、容易に生理活性を失ってしまう。
【0004】
これらビタミンE類の分離回収のための原料には、食用油製造時の脱臭工程で排出する脱臭流出物(スカム油)が用いられる。表1に、トコフェロール含有量が高い大豆油由来の脱臭流出物、およびトコトリエノール含有量が高い米ぬか由来の脱臭流出物の一般的な組成を、各々の原油と比較して示す。スカム油のビタミンE類含有量はいずれも原油の数十倍と高くなっているものの、主成分は遊離脂肪酸類であり、トリグリセリド類やステロール類、種々の炭化水素類を含む。そのため、どちらのビタミンEを対象とした場合でも、原料からビタミンE類をリッチに含む溶液を回収する工程と、回収液中のトコフェロールとトコトリエノール、その他の混入物を高度分離する工程が必要となる。後者の高度分離工程に関しては、種々のクロマト分離法が提案されており、必要に応じて、トコフェロールとトコトリエノールのα、β、γ、δ異性体まで分離することが可能である。しかし、回収液のビタミンE類濃度が低くその他の混入物が多いと、多量の溶離液供給や溶離時間が必要となり、クロマト分離によるコストや環境への負荷が増大する。そのため、前者の原料からビタミンE類リッチ溶液を回収する工程で、いかにビタミンE類の分解損失を抑制し、かつ、濃度を高く、その他の不純物混入量を少なくできるかが重要なポイントとなる。
【0005】
【表1】
JP0006256981B2_000002t.gif

【0006】
前者のビタミンE類リッチ溶液の回収工程に関しては、これまでトコフェロールを対象として様々な検討が行われてきた。大半が原料の分子蒸留を行う手法であり、熱による分解損失を低減するための操作条件の緩和や、不純物混入量を低減するための付加的な操作(蒸留性状が近い遊離脂肪酸を除去するための工程や、分離性状が近いステロールを除去するための工程の検討が行われ、既に工業化に至っている。しかし、トコトリエノールを含む米ぬかやパーム由来の脱臭流出物に対して分子蒸留を行う手法を適用すると、原料中の含有量自体が低いことに加え、蒸留による熱分解損失が大きいため、回収液のトコトリエノール濃度も純度も非常に低くなる。従って、後段のクロマト分離の負荷が大きく量産困難のため、極めて高価となり、市販品提供には至っていない(特開平8-100131、特許公表平10-508605、特開2002-194381、特開2002-3488、特開2003-171376、特開2004-305155、特開2005-536191、特開2007-521382、特開2007-176801)。
【0007】
一方、トコトリエノールを含むパーム由来の脱臭流出物に対して、分子蒸留を行わない温和な条件での物理的な吸脱着による回収法が検討されている。吸着剤としては、酸化アルミニウムや多孔性高分子、シリカゲルなどが用いられており、シリカゲルを用いた場合にビタミンE類の回収率が高いことが示されている。この手法では、蒸留による熱分解損失を回避できるものの、吸着性状が近い遊離脂肪酸の除去工程と分離性状が近いステロールの除去工程が依然として必要で、これらの工程でトコトリエノールが損失するため、回収率に関しては改善がない。
【0008】
このように、高機能かつ高付加価値を有するトコトリエノールを天然油から効率よく、安定かつ大量に回収できる技術はなく、産業化の大きな障害となっている。即ち、従来技術の問題点は、1)極端なpH、温度条件によりトコトリエノールが変性・劣化する、2)トコトリエノールを選択的に回収することができず分離性状が近い種々の不純物が混入する(純度が低い)、3)分子蒸留プロセスの機器およびランニングコストが高い、4)選択的な分離法がないためトコトリエノールが濃縮されたスカム油(トコトリエノール含有量2wt%程度)を原料とせざるを得ず、原料が制限されている、というものである。
【0009】
一方、本発明者である北川らは、陰イオン樹脂を不均相固体触媒として用いる独自発想で、比較的低温(50℃)でトリグリセリドのエステル交換を行う脂肪酸エステル連続合成技術を世界に先駆け開発している(非特許文献2、特許文献1、特許文献2)。更に、このような脂肪酸エステル連続合成に使用する陰イオン樹脂の触媒活性を弱酸溶液で洗浄することによって再生する方法も提供した(特許文献3)。尚、特許文献1及び2には、エステル交換反応と並行して脂肪酸残基の樹脂への吸着が生じるため、これを脱着させるために酸水溶液での洗浄が必要で或る旨記載されている。又、特許文献3には、弱酸溶液で洗浄する目的として、エステル交換活性劣化の原因となる樹脂に吸着したオレイン酸残基などの油分の除去が挙げられている。しかしながら、これら特許文献には、陰イオン樹脂によるビタミンE類の分離回収に関しては何ら記載されていない。
【0010】
更に、本発明者等は、油からのトコトリエノールとバイオディーゼル燃料の同時生産方法も開発した(特許文献4)。この方法では、分子蒸留工程を必要としないので、室温等の穏和な操作条件によって、トコトリエノール等ビタミンE類の劣化防止が可能となった。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2006-104316号公報
【特許文献2】特開2007-297611号公報
【特許文献3】特開2007-14871号公報
【特許文献4】特開2009-190989号公報
【0012】

【非特許文献1】Biochem.Biophys.Res.Commun.,348,170(2006)
【非特許文献2】Bioresource Technol.98,416(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献4に記載された方法では、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を用いてパーム油や米ぬか油からビタミンE類を分離回収する場合、ビタミンE類が酸化分解し易く安定性が低いこと、吸着は温度が低い方が速やかに進行することから、ビタミンE類の陰イオン交換樹脂を用いる吸着・脱離等の処理を行なう際の反応温度は0℃~室温の範囲が好ましいとされており、ビタミンE類の純度に関する検討はされていなかった。しかし、ビタミンE類の効率的な回収のためには、熱分解損失を抑制するだけでなく、回収量や純度を高めることが望まれていた。また、原料として脱臭流出物(スカム油)を用いる場合、融点の低い遊離脂肪酸を多く含むため、常温以下で上記工程を行うと原料が固化して配管を閉塞させる問題が生じていた。さらに、実際の工業化プロセスを考えた場合には、経済的及び効率的な点などから全ての工程を出来るだけ同一条件で行うことが好ましく、陰イオン交換樹脂を用いる上記工程における温度条件をその前の工程である陽イオン交換樹脂を用いたエステル化反応における温度条件(通常、約50℃)となるべく揃えることが好ましい、とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、陰イオン交換樹等の陰イオン交換体を用いたビタミンE類の吸着分離の温度を約45℃~55℃と高温にした場合に、ビタミンE類が陰イオン交換体に吸着する際に、同時に原料油に含まれるトリグリセリド(TG)の側鎖である脂肪酸基も該陰イオン交換体に吸着してしまい、吸着したビタミンE類を回収する際に、同様に吸着した該脂肪酸基が遊離脂肪酸として混入することを初めて見出した。
【0015】
本発明者は、かかる新たな知見に基づき、鋭意研究の結果、陰イオン交換体を用いたビタミンE類の吸着分離を約45℃~55℃という非特許文献に開示の方法に比べてかなり高い温度条件下で実施し、かつ、油に添加するアルコールの量、及び、陰イオン交換体に吸着したビタミンE類を分離するために用いる脱離液における酸の濃度を特定の範囲に設定することによって、ビタミンE類の回収率や量、純度を高めることに成功し、上記課題を解決した。
【0016】
即ち、本発明は、以下の各態様にかかるものである。
[態様1]以下の工程:
(1)ビタミンE類を含む油とアルコールの混合溶液を陰イオン交換体に接触させ、
(2)該陰イオン交換体を触媒としてエステル交換反応によって該油に含まれるトリグリセリドを吸着不活性な脂肪酸エステルに変換させ、同時に、該油に含まれるビタミンE類を該陰イオン交換体に吸着及び分離させ、その後
(3)酸とアルコールを含む脱離液を使用して、該陰イオン交換体からビタミンE類を脱離及び回収する、
ことを含む該油からビタミンE類を選択的、かつ、高純度で製造する方法であって、
該混合溶液が該油中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分の80~120%の量のアルコールを含み、該脱離液における酸の濃度が2~5wt%であり、各工程を45℃~55℃で行う、ことを特徴とする前記方法。
[態様2]アルコールとしてエタノールを使用する、態様1記載の方法。
[態様3]酸として酢酸を使用する、態様2記載の方法。
[態様4]分離されたビタミンE類から、更に、トコトリエノールを分離することを含む、態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]クロマト分離により、ビタミンE類からトコトリエノールを分離する、態様4記載の方法。
[態様6]油に含まれるビタミンE類を陰イオン交換体に接触させる前に、該油中の遊離脂肪酸のエステル化を行う、態様1~5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]陽イオン交換体を用いて遊離脂肪酸のエステル化を行う、態様6記載の方法。
[態様8]陰イオン交換体が陰イオン交換樹脂である、態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
[態様9]油として脱臭流出物(スカム油)を使用する、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]樹脂を充填した反応器を用いて、反応及び/又は吸着分離を連続的に行う態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]樹脂を充填した反応器からなり、反応及び/又は吸着分離を連続的に行うことを特徴とする、態様1~10のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法は、分子蒸留工程を必要としない。そのため、分子蒸留工程のコスト(機器およびランニングコスト)が削減されるため、安価な製造が可能である。又、樹脂とトコトリエノールとの選択的な反応を用いて、多成分混合物中からトコトリエノールのみを高純度で選択回収できる。そのため、トコトリエノールとの分離が困難なステロールなどの不純物を含まず、さらに高度な異性体分離も容易となる。又、本発明方法は、均相触媒を用いないので、中和・脱塩などの触媒分離操作が不要となる。そのため、簡便な操作でトコトリエノールを回収できるため、安価な供給が実現できる。更に、陰イオン交換体として樹脂という固体触媒を用いる場合ため、樹脂を充填した反応器に、反応液を通液するだけの簡便な操作で、反応や吸着分離を行うことが可能となり、連続化も容易となる。
【0018】
本発明によって、ビタミンE類等を含む油にアルコールを添加して混合溶液を調製する際に、該油中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分程度(例えば、該反応量論分の約80~120%、好ましくは約90~100%の量)のアルコールを添加することによって、該陰イオン交換体を触媒として該油に含まれるトリグリセリドのエステル交換反応が速やかに進行してトリグリセリドの側鎖である脂肪酸基が吸着不活性なエステル体となり、該油に含まれるビタミンE類が陰イオン交換体に吸着する際に、トリグリセリドの側鎖脂肪酸基が該陰イオン交換体に同時に吸着することを防ぐことが可能となった。
更に、陽イオン交換体及び陰イオン交換体を用いる油からのビタミンE類の連続回収方法において、約45℃~55℃という高温条件下においてもビタミンE類の回収量や純度を高めることが可能となった。
又、米糠及びパームの原油中のトコトリエノール含有量は0.1wt%と非常に低く、既存法では回収不能であったが、本発明方法によって、多成分混合物中からトコトリエノールのみを熱分解損失なしに高純度で選択回収することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明方法の一例をフローチャートで示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明方法において原料として用いる油は、トコトリエノール等のビタミンE類を含むものである限り、特に制限はなく、天然油(原油)、合成油、又はこれらの混合物でも良い。更に、これらの油類の一部を酸化、還元等の処理をして変性した変性油、並びに、これらの油を主成分とする油加工品も原料とすることができる。

【0021】
即ち、既に記載したように、従来法で原料として利用されている米糠油及びパーム油の精製工程で副生し有効利用されていない脱臭流出物(スカム油)等が利用可能である。更に、生産量の観点から、米糠及びパームの原油を用いることが好ましい。これにより、トコトリエノールの市場への供給量が従来の50倍程度増大する。

【0022】
尚、油以外の任意の異物成分が混入している油を使用することも可能である。これらの異物成分は、好ましくは沈降、濾過、分液など当業者に公知の適当な手段により除去した後に本発明方法に用いる。

【0023】
ビタミンE類には、α-、β-、γ-、及びδ-トコトリエノール、並びに、α-、β-、γ-、及びδ-トコフェノール等が含まれる。

【0024】
既に記載したように、陰イオン交換体には油中に含まれる遊離脂肪酸及びトリグリセリドの側鎖である脂肪酸も吸着されるため、これを多量に含む油を直接処理する場合には、これらの遊離脂肪酸及び側鎖脂肪酸基も該陰イオン交換体に吸着させないようにすることが重要である。

【0025】
そこで、本発明の特徴は、ビタミンE類等を含む油にアルコールを添加して混合溶液を調製する際に、該油中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分程度の量(例えば、該反応量論分の約80~120%、好ましくは約90~100%の量)のアルコールを添加することによって、該陰イオン交換体を触媒として該油に含まれるトリグリセリドのエステル交換反応が速やかに進行してトリグリセリドの側鎖である脂肪酸基が吸着不活性なエステル体となり、該油に含まれるビタミンE類が陰イオン交換体に吸着する際に、トリグリセリドの側鎖脂肪酸基が該陰イオン交換体に同時に吸着することを防ぐことである。これによって、ビタミンE類の回収量や純度を高めることが可能となる。

【0026】
尚、上記反応量論分程度の量よりもアルコール添加量が多い場合には、トリグリセリドのエステル交換反応の進行が遅くなり、逆に低い場合には、トリグリセリドのエステル交換反応が十分に進行せず、いずれもトリグリセリドの側鎖である脂肪酸基が該陰イオン交換樹脂に吸着することを十分に防ぐことができなくなり、ビタミンE類の回収量や純度の低下をもたらす原因となる。

【0027】
又、油中に遊離脂肪酸が含まれる場合には、ビタミンE類よりも優先的に陰イオン交換体に吸着するため、ビタミンE類の回収量や純度の低下をもたらす。そのため、該油を陰イオン交換体に接触させる前に、陽イオン交換体により該油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化反応を進行させ吸着不活性なエステル体とする必要がある。そのために、まず、ビタミンE類を含む油を遊離脂肪酸の総量に対する反応量論分程度のアルコールにより陽イオン交換体で処理する。

【0028】
陽イオン交換体としては、例えば、ダイヤイオンPK-208LH(三菱化学社製)のような当業者に公知の陽イオン樹脂を使用することが出来る。尚、この、陽イオン交換体により油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化は、トコトリエノールの熱損失を防ぎ、かつ、反応を速やかに進行させるため、イオン交換体を用いる吸着及び分離等の各操作と同じ温度範囲、例えば、約45℃~55℃、例えば、約50℃の温度条件で実施することが好ましい。また、遊離脂肪酸の残存量をできる限り少なくするため、エステル化の転化率は97%以上とすることが好ましく、このような高転化率を上記の穏やかな条件で達成できるのは、陽イオン交換体の優れた特長である。

【0029】
尚、上記の陽イオン交換体により上記反応におけるその他の諸条件、例えば、反応時間、及び反応圧力は、特許文献1及び特許文献2に記載されたような当業者に公知の任意の条件を適宜設定することが出来る。

【0030】
本発明の方法において、「遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量に対する反応量論分」の量のアルコールとは、使用するアルコールが、例えば、エタノール等の1価のアルコールの場合には、[(遊離脂肪酸のモル数)+(トリグリセリドのモル数)X 3]のモル数のアルコールとなる。

【0031】
尚、原料油中に含まれる遊離脂肪酸及びトリグリセリド量は、夫々、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、バイオ燃料の規格(JIS K 2390)で用いられる試験法に記載された方法で求めることができる。

【0032】
或いは、該油中に含まれる遊離脂肪酸及びトリグリセリドの量を実際に測定する代わりに、原料となる油中に含まれる遊離脂肪酸及びトリグリセリドの総量として当該技術分野において一般的に知られている大凡の範囲、例えば、スカム油の場合には、遊離脂肪酸:30~50wt%程度、及びトリグリセリド:10~20wt%程度に基づき、これらの含有量に基づき、便宜的に反応量論分のアルコールを計算で求めることが出来る。例えば、上記スカム油の場合には、反応量論分として、該油に対して約6~10wt%程度となる。

【0033】
本発明方法においては、ビタミンE類の陰イオン交換体への吸着及び分離、並びに、そこからの脱離及び回収の各操作を行う。例えば、油と陰イオン交換体を接触させることによって、油に含まれるビタミンE類を陰イオン交換体に吸着させ、その後、ビタミンE類が吸着した陰イオン交換体を油と濾過等の適当な方法で分離する。その後、酸のアルコール溶液を脱離液として使用して、該陰イオン交換体を洗浄等することによりビタミンE類を脱離させる。

【0034】
陰イオン交換体(アニオン交換体)としては、特開2006-104316号公報及び特開2007-297611号公報等に記載された当業者に公知の任意のものを使用することが出来る。特に、強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。陰イオン交換樹脂を架橋度又は多孔度から分類した場合、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、ポーラス型、ハイポーラス型が好ましい。

【0035】
因みに、市販品としては、例えば、ダイヤイオンPA-306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA-306S(同)、ダイヤイオンPA-308(同)、ダイヤイオンHPA-25(同)ダウエックス1-X2(ダウケミカル社製)、アンバーライトIRA-45(オルガノ社製)、アンバーライトIRA-94(同)等を用いることができる。

【0036】
更に、pKa9.8以下を満足する陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、ダイヤイオンSA20A(三菱化学社製)、ダイヤイオンSA21A(同)、並びに、多孔質型のII型強塩基陰イオン交換樹脂であるダイヤイオンPA408(同)、ダイヤイオンPA412(同)及びダイヤイオンPA418(同)等を用いることができる。ここで、II型強塩基陰イオン交換樹脂とは前記したジメチルエタノールアンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂を指す。

【0037】
陰イオン交換樹脂の市販品は、購入時点ではCl型となっているためOH基に置換してから本発明に使用される。例えば、置換剤には0.5~2モル/dm3のNaOH水溶液が用いられ、置換剤の通液速度は、陰イオン交換樹脂1ml当たり、2~10ml-NaOH/分程度が好ましい。通液量は陰イオン交換樹脂1ml当たり5~20ml使用される。置換終了後、カラムから樹脂を取り出し、置換剤が残留しないように蒸留水で充分洗浄する。樹脂の洗浄液のpHを測定し、蒸留水と同じpHになったことを確認し、最後に所定のアルコールで洗浄して本発明に使用する。

【0038】
陰イオン交換樹脂の使用量は、撹拌槽型反応器の場合は、油類1モル当たり、通常100~1000g、好ましくは200~800gの範囲から選択される。使用後は繰り返し同じ反応に利用できるが、適宜、樹脂を再生することが好ましい。イオン交換樹脂を充填層として使用する場合は、樹脂1リットル当たりの油類の通液量は、通常10~100mL、好ましくは15~60mL程度が使用される。

【0039】
本発明方法においては、ビタミンE類の陰イオン交換体への吸着及び分離、そこからの脱離及び回収の各操作を、イオン交換体の耐熱温度以下の範囲であって、例えば、約45℃~55℃、好ましくは、約50℃の温度条件の範囲で実施することを特徴とする。この結果、陰イオン交換樹脂を用いる上記工程もその前の工程である陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂などを用いる全ての工程を同じ温度範囲で実施することが可能となり、実際の工業化プロセスを考えた場合には、経済的及び効率的な点などから好ましく、更に、原料が固化して配管を閉塞させる虞もない。

【0040】
更に、本発明の技術的特徴の一つは、陰イオン交換体を洗浄等することによりビタミンE類を脱離させるために脱離液として使用する酸溶液における酸の濃度を2~5wt%、好ましくは、3.0~3.5wt%(0.40~0.45mol/L)、より好ましくは、約3.3wt%(0.43mol/L)とすることである。このように脱離液における酸の濃度を特定の範囲にすることによって、ビタミンE類と共に陰イオン交換体に吸着した遊離脂肪酸の溶出時間を、ビタミンE類の溶出時間とずらすことができ、ビタミンE類の回収量や純度を高めることが可能となる。

【0041】
本発明方法において使用するアルコール類は特に限定されず、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~5の、飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素骨格を有するアルコール類が挙げられる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。本発明においては、入手の容易性及び得られた脂肪酸エステルの利用性の観点から、メタノール及び/又はエタノールを使用するのが好ましい。この操作においてアルコール類は、油類を加アルコール分解(エステル交換反応)する反応基質として作用するほか、油類の希釈や粘度を調節するための溶媒作用も併せ有するものである。

【0042】
このような酸として、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸若しくはその塩、又はそれらの混合物を使用することができる。特に、酸溶液としては、酢酸とエタノール等のアルコールとの混合溶液のような弱酸や弱酸塩溶液が好適である。

【0043】
上記の各操作におけるその他の条件・手段は当業者に公知の任意の中から適宜選択することができる。例えば、それぞれの反応時間(接触時間、脱離時間)は反応温度、イオン交換樹脂の使用量等に応じて、当業者が適宜設定することが出来る。例えば、攪拌層では通常1~10時間、好ましくは3~5時間、また、流通系では5分~2時間、好ましくは10分~1時間程度で実施する。

【0044】
更に、反応圧力は特に制限ない。常圧下で実施するのが操作上簡便であるが、必要に応じて1~10気圧程度に加圧してもよい。

【0045】
分離されたビタミンE類から、そこに含まれるトコトリエノールは、クロマト分離等の当業者に公知の任意の方法で分離することが出来る。尚、カラム等にビタミンE類が吸着した陰イオン交換体を充填し酸溶液を使用してビタミンE類を陰イオン交換体から溶出させるような場合に、その諸条件(例えば、酸の種類、処理流量、時間等)を適当に設定することによって、陰イオン交換体に吸着したビタミンE類中の各成分の脱離(溶出)時間ピークをずらすことが出来、そのような場合には、上記のクロマト分離等は不要となる。

【0046】
尚、本発明方法における各操作段階において、反応基質とイオン交換体との接触方式については、バッチ法、連続法など特に限定されない。装置の形態としては、処理槽を設けたもの、循環系や向流系で樹脂移送するものなどが挙げられる。接触方法としては、流通(イオン交換樹脂の充填層に通液する方法)、撹拌(撹拌槽を用いる方法)、流動(流動層反応器)、振とう(振とう型反応器)などが挙げられる。原料物質の導入口、生成物質の回収口が一定のカラム通液型、展開床(エクスパンデットカラム)の他、回分型を用いることもできる。特に、樹脂を充填した反応器を用いて、反応又は吸着分離等の各操作を連続的に行う方法が好適である。

【0047】
特に、所定のイオン交換体を充填した容器(反応器)の一方に反応基質の導入口を、他方に、生成物の回収口をそれぞれ有する反応装置が望ましい。前記容器は、単独に有していてもよいが、並列および/または直列に、複数個接続されてなる構造を有していてもよい。また、前記容器の形状は特に限定はないが、通常、カラムが用いられる。イオン交換樹脂をカラムに充填して使用する場合、樹脂が膨潤して破損することを防止するため、空隙率の高いエクスパンデットベットカラム充填層を用いる態様は好ましい。ここで、エクスパンデッドベッドカラムとは、粘度の高い流体や固形分を含んだ流体中から溶解している目的成分を吸着剤粒子に吸着させて回収する分離精製法に用いられ、カラム内を上向きに流体を流し、比重の大きい吸着剤粒子を静止状態で浮遊させ、空隙率を大きく保った状態でカラムクロマトグラフィー操作を行うもの等をいい、例えば、化学工学論文集第27巻第2号(2001)第145-148頁等に記載される公知の方法を用いることができる。アルコール類に対する油類のモル比が大きい範囲において、膨潤によるイオン交換樹脂の破損の問題が生じ易いので、反応器の設計に際して留意される。従って、本発明はこのような本発明方法を実施するための装置にも係る。ただし、効率的な操作のため、油とアルコールの混合液を通液する吸着操作の際には上昇流を、酸とアルコールの混合液を通液する脱離操作の際には下降流を用いることが好ましい。

【0048】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、以下の実施例において特に断わりがない限り、当業者に公知の一般的な方法に従い実施した。
【実施例1】
【0049】
モデルスカム油系による模擬実験(1)
脂肪酸のエステル化後の油原料中に含まれるトリグリセドと添加アルコール量による、遊離脂肪酸の流出に対する影響を以下の実験によって評価した。
実験条件:
原料1:ビタミンE類(VEH)δ-トコフェノール3wt%-エタノール溶液
原料2:脂肪酸のエステル化後を想定したモデル油(δ-トコフェノール3wt%、トリグリセリド14wt%、脂肪酸エステル83wt%)とエタノールの混合液(トリグリセリド:エタノール混合モル比=1:3, 1:6及び1:20)
樹脂カラム:DiaionPA306Sを6.7g充填
吸着実験:原料溶液をカラム(Φ1.1 cm x 10 cm)に1cm3/minで上昇流で供給(50℃)
脱離実験:エタノールを同じ速度で下降流で供給してカラム内の原料を流出させた後、0.43mol/L酢酸-エタノール溶液を同様に供給
温度条件:50℃
結果:
表2に示されるように、原料中にトリグリセリド(GF3)が存在しなければ(原料1)、脱離液の弱酸の混入があるものの、遊離脂肪酸の流出はなかった(純度100%)。一方、原料中にトリグリセリドが存在する(原料2)と、化1に示されるように、側鎖脂肪酸基の吸着が競争的に生じ、脱離実験の際に、トコフェロール(VEH)と共に遊離脂肪酸(FH)が流出し、トコフェロールの回収を困難にした(表3)。本実験では、原料のトリグリセリドを14wt%とスカム油中と同じ低い値に設定しているが、この濃度が高ければさらに混入量は多くなる。
【実施例1】
【0050】
【化1】
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【実施例1】
【0051】
【表2】
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【実施例1】
【0052】
【表3】
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【実施例1】
【0053】
ここで、ビタミンE類の回収率及び純度は、夫々、以下の式で定義される。
回収率[%]=ビタミンE脱離量/(供給された原料中の総ビタミンE量-カラムから流出した原料中の総ビタミンE量)×100
純度[wt%]=ビタミンE脱離量/(ビタミンE脱離量+遊離脂肪酸脱離量)×100
(※全脱離量の90 %時点)
【実施例2】
【0054】
モデルスカム油系による模擬実験(2)
次に、脱離液中の酸の濃度が遊離脂肪酸の流出に対する影響を以下の実験によって評価した。
実験条件:
脱離実験:エタノールを供給してカラム内の原料を流出させた後、脱離液(酢酸-エタノール溶液)における酢酸濃度を0.86 mol/L、0.43mol/L及び0.22mol/Lと変化させた点以外は、実施例1と同じ。
結果:
表4に示されるように、酢酸濃度0.43mol/Lの脱離液を使用することによって、ビタミンE類の回収量と回収率及び純度を共に高めることに成功した。
【実施例2】
【0055】
【表4】
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【実施例3】
【0056】
実用系(スカム油)を用いた実験
実験条件:
油原料:米ぬか由来スカム油(三和油脂(株)より提供):ビタミンE類(VEH)(トコフェノール(T1)1.5 wt%及びトコトリエノール(T3)1.5 wt%)、トリグリセリド(GF3)14 wt%、遊離脂肪酸(FH)44wt%
添加エタノール:トリグリセリドと遊離脂肪酸に対する反応量論分(油原料の8.6 wt%)
遊離脂肪酸のエステル化:油原料とアルコールの混合溶液に33.3 %(w/w)樹脂(Diaion PK208LH)を投入し、50 ℃の恒温槽中、150 spmで36時間振とうすることによる回分反応を行ない、エステル化(転化率>97%)を行った。
吸着:原料溶液を樹脂カラム(DiaionPA306Sを6.7g充填:Φ1.1 cm x 10 cm)に1cm3/minで上昇流で供給(50℃)した。
脱離:エタノールを同じ速度で下降流で供給してカラム内の原料を流出させた後、0.43mol/L酢酸-エタノール溶液を同様に供給(50℃)し、吸着していたビタミンE類を脱離させた。
結果:
その結果、表5に示されるように、従来法(100-250℃の段階的な分子蒸留(5,6回)によってビタミンE類とエステルを分離する方法)においてはビタミンE類の回収率及び純度が、夫々、約35%及び20wt%であったのが、本発明方法によって、ビタミンE類の回収率100%(特に、熱分解損失が大きなトコトリエノールに関しても回収率100%)を達成し、さらに純度も3倍以上に増大し、含まれる不純物はクロマト分離が容易な遊離脂肪酸のみとなった。
【実施例3】
【0057】
【表5】
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【実施例3】
【0058】
尚、各実験では、溶液を採取し、必要に応じてエタノールで希釈した後、トリ、ジ、モノグリセリド、遊離脂肪酸、ステロール、スクアレン、脂肪酸エステルの濃度はUV検出器を備えたHPLCで、ビタミンE類濃度は蛍光検出器を備えたHPLCで、それぞれ測定した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は以下の産業上の利用可能性を有する。
(1)トコトリエノール等のビタミンE類をより安価で安定に社会に供給できる。
(2)トコトリエノールの高純度品を簡便に量産できるため、特化した機能評価やヒト試験が実施可能となる。
(3)より生産量が多いパームヤシ油や米糠原油を原料とすれば、トコトリエノール回収とバイオディーゼル燃料とグリセリンの同時製造を行うことが可能となり、人類の健康と環境に配慮した活力ある社会の実現に貢献できる。
図面
【図1】
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