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明細書 :ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6468728号 (P6468728)
公開番号 特開2015-004054 (P2015-004054A)
登録日 平成31年1月25日(2019.1.25)
発行日 平成31年2月13日(2019.2.13)
公開日 平成27年1月8日(2015.1.8)
発明の名称または考案の名称 ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物およびその製造方法
国際特許分類 C08L  67/04        (2006.01)
C08L  63/00        (2006.01)
B29B   7/00        (2006.01)
C08J   5/18        (2006.01)
D01F   6/62        (2006.01)
B29K  67/00        (2006.01)
FI C08L 67/04
C08L 63/00 A
B29B 7/00
C08J 5/18 CFD
D01F 6/62 305A
B29K 67:00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 13
出願番号 特願2014-104081 (P2014-104081)
出願日 平成26年5月20日(2014.5.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 成形加工シンポジア’12予稿集(平成24年11月22日発行)、第423頁にて発表
特許法第30条第2項適用 第20回プラスチック成形加工学会 秋季大会 成形加工シンポジア’12において、平成24年11月30日に発表
優先権出願番号 2013106896
優先日 平成25年5月21日(2013.5.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年5月18日(2017.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
発明者または考案者 【氏名】大山 秀子
【氏名】安部 早紀
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100106208、【弁理士】、【氏名又は名称】宮前 徹
【識別番号】100120112、【弁理士】、【氏名又は名称】中西 基晴
【識別番号】100129311、【弁理士】、【氏名又は名称】新井 規之
審査官 【審査官】長岡 真
参考文献・文献 特開2009-235198(JP,A)
国際公開第2010/053167(WO,A1)
特開2012-066403(JP,A)
国際公開第2009/099225(WO,A1)
特開2014-051571(JP,A)
Hongzhi Liu et al.,Macromolecules,2011年,44(6),p.1513-1522
調査した分野 C08L 67/00-67/08
C08L 63/00-63/10
C08L 33/00-33/26
B29B 7/00- 7/94
C08J 5/18
D01F 6/00- 6/96
特許請求の範囲 【請求項1】
(A)10~90重量%の、L乳酸単位を主成分とするポリL乳酸および
(B)90~10重量%の、D乳酸単位を主成分とするポリD乳酸を、
(C)前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して2~50重量部の、エポキシ基含有エチレン共重合体の存在下で
溶融混練してなる、ポリ乳酸ステレオコンプレックス共重合体組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基含有エチレン共重合体が、エチレン単位、エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位またはエチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基含有エチレン共重合体の、JIS K7210に準じ、190℃、21Nの荷重にて測定したMFRが2~50g/10分であり、示差走査熱量測定(DSC)による融点が45~100℃である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
DSCを用いたファーストスキャンでの測定またはX線回折分析の少なくとも一方において、ホモキラル結晶に由来するピークが存在しない、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記成分(A)と(B)の混合比が、「60~75重量%」:「40~25重量%」または「40~25重量%」:「60~75重量%」である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(A)10~90重量%の、L乳酸単位を主成分とするポリL乳酸、および
(B)90~10重量%の、D乳酸単位を主成分とするポリD乳酸を、
(C)前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して2~50重量部の、エポキシ基含有エチレン共重合体の存在下で
溶融混練することを含む
ポリ乳酸ステレオコンプレックス共重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の組成物から得られる、射出成形体、押し出し成形体、チューブ成形体、シート成形体、フィルム成形体、または繊維。
【請求項8】
請求項7に記載の成形体を含む、家電、電気部品、電子部品、通信機器部品、または自動車部品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境改善が大きな課題になっている。特に、石油化学樹脂の代替として、植物由来樹脂のような環境適合型樹脂に対するニーズは非常に高い。植物性樹脂として、ポリL乳酸は安価な植物由来の樹脂として知られているが、耐熱性や機械的性質が十分ではないという問題がある。ポリL乳酸はポリD乳酸と混合することにより耐熱性に優れたステレオコンプレックスを形成することが知られている。例えば特許文献1(特開2007-191625号公報)にはポリL乳酸とポリD乳酸を溶液中でブレンドしてキャストフィルムを作成する方法が開示されている。特許文献2(特開2005-325286号公報)にはポリL乳酸とポリD乳酸とを二軸押出し機で溶融混練してポリ乳酸ステレオブロックを作製する方法が記載されている。特許文献3(特開2008-163111号公報)には、ポリL乳酸とポリD乳酸とを二軸押出し機により高温(220℃)で溶融混練し、熱処理してステレオコンプレックスを形成することが開示されている。特許文献4(特開2008-63455号公報)には、分子量を規定したポリL乳酸とポリD乳酸とをフラスコ中で加熱処理してステレオコンプレックスを形成することが記載されている。特許文献5(国際公開第2008/096895号)にはポリL乳酸とポリD乳酸を混練して結晶化させ固体を得る工程と得られた固体を溶融混練する工程からなるポリ乳酸ステレオコンプレックスの製法が開示されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2007-191625号公報
【特許文献2】特開2005-325286号公報
【特許文献3】特開2008-163111号公報
【特許文献4】特開2008-63455号公報
【特許文献5】国際公開第2008/096895号
【0004】

【非特許文献1】Loomis GL, Murdoch JR, Gardner KH. Polym. Prepr. 1990;31:55.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、これらの文献に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックスまたはポリ乳酸ステレオコブロック共重合体について予備的に検討した。その結果、これらは成形加工が困難である、あるいは成形加工すると引張強度や耐衝撃性のような機械的性質が低下する傾向があるとの知見を得た。また、これらの文献に記載の方法でステレオコンプレックスを形成するには、ポリL乳酸とポリD乳酸とをほぼ同等量配合する必要があり、そうでない場合には、生成物中にポリ乳酸のホモキラル結晶がある程度残り、耐熱性が低下することがあるとの知見も得た。
【0006】
耐熱性、成形加工性、および機械的性質に優れたポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物が求められていたが、前記特許文献に記載の方法では、未だ満足の行くものは得られていない。当該事情を鑑み、本発明は、耐熱性、成形加工性、および機械的強度や耐衝撃性等の機械的性質に優れたポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ポリL乳酸、ポリD乳酸およびエポキシ基含有エチレン共重合体を溶融混練してなるポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物が前記課題を解決することを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
[1](A)10~90重量%の、L乳酸単位を主成分とするポリL乳酸、
(B)90~10重量%の、D乳酸単位を主成分とするポリD乳酸、および
(C)前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して2~50重量部の、エポキシ基含有エチレン共重合体、
を溶融混練してなる、ポリ乳酸ステレオコンプレックス共重合体組成物。
[2](A)10~90重量%の、L乳酸単位を主成分とするポリL乳酸、
(B)90~10重量%の、D乳酸単位を主成分とするポリD乳酸、および
(C)前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して2~50重量部の、エポキシ基含有エチレン共重合体、
を溶融混練することを含む
ポリ乳酸ステレオコンプレックス共重合体組成物の製造方法。
[3]前記[1]に記載の組成物から得られる、射出成形体、押し出し成形体、チューブ成形体、シート成形体、フィルム成形体、または繊維。
[4]前記[1]に記載の成形体を含む、家電、電気部品、電子部品、通信機器部品、または自動車部品。
【発明の効果】
【0008】
耐熱性、成形加工性および機械的強度や耐衝撃性等の機械的性質に優れたポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DSC曲線
【図2】DSC曲線
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においてX~Yは両端の値、すなわちXおよびYを含む。
本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、(A)10~90重量%の、L乳酸単位を主成分とするポリL乳酸、(B)90~10重量%の、D乳酸単位を主成分とするポリD乳酸、および(C)前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して2~50重量部の、エポキシ基含有エチレン共重合体、を溶融混練してなる。以下、組成および溶融混練について説明する。

【0011】
1.組成
(1)ポリL乳酸:成分A
ポリL乳酸は、L乳酸を重合してなる重合体またはL乳酸を主成分として他成分と共重合してなる共重合体である。ポリL乳酸の重量平均分子量は5000~100万が好ましく、1万~70万がより好ましく、3万~50万がさらに好ましい。当該重量平均分子量が前記下限値未満であると、強度、弾性率等の機械的特性が不十分となる傾向にある。また、重量平均分子量が上限値を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。

【0012】
ポリL乳酸の製造方法は特に制限されず、L乳酸を直接重合してもよく、乳酸の環状2量体であるLラクチドを開環重合してもよい。また、これらの原料に加えて、グリコリド、カプロラクトン等の異種モノマーを共重合してもよい。当該共重合体における異種モノマー由来の成分が占める割合は、モノマー換算で30mol%以下であることが好ましく、20mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることがさらに好ましい。すなわち、L乳酸を主成分としてなるとは、L乳酸が70mol%超、好ましくは80mol%超、より好ましくは90mol%超であることをいう。

【0013】
ポリL乳酸のホモキラル結晶の融点は分子量に依存するが、本発明においては、当該融点の上限は180℃未満が好ましく、170℃以下がより好ましい。また融点の下限は140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。

【0014】
(2)ポリD乳酸:成分B
ポリD乳酸体は、D乳酸を重合してなる重合体またはD乳酸を主成分として他成分と共重合してなる共重合体である。ポリD乳酸の重量平均分子量は、ポリL乳酸について述べたとおりである。当該重量平均分子量が前記下限値未満であると、強度、弾性率等の機械的特性が不十分となる傾向にある。また、重量平均分子量が上限値を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。

【0015】
ポリ乳酸の製造方法は特に制限されず、D乳酸を直接重合してもよく、乳酸の環状2量体であるDラクチドを開環重合してもよい。また、これらの原料に加えて、グリコリド、カプロラクトン等の異種モノマーを共重合してもよい。当該共重合体における、異種モノマー由来の成分が占める割合は、ポリL乳酸について述べた値であることが好ましい。

【0016】
ポリD乳酸のホモキラル結晶の融点は分子量に依存するが、本発明においては、当該融点の上限は180℃未満が好ましく、170℃以下がより好ましい。また融点の下限は140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。

【0017】
(3)エポキシ基含有エチレン共重合体:成分C
エポキシ基含有エチレン共重合体は、エチレンと他の成分との共重合体であってエポキシ基を含有する共重合体である。エポキシ基含有エチレン共重合体としては、エポキシ基含有エチレン二元共重合体またはエポキシ基含有エチレン三元共重合体が好ましい。

【0018】
エポキシ基含有エチレン二元共重合体は、(a)エチレン単位と、(b1)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位または(b2)エチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位からなる共重合体である。エチレン単位とは、共重合体中のエチレンに由来する部分をいい、具体的には-(CH-CH)-で表される単位である。(a)単位:(b)単位は、95~40重量%:5~60重量%が好ましく、90~50重量%:10~50重量%が好ましい。

【0019】
エポキシ基含有エチレン三元共重合体は、(a)エチレン単位、(b1)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位または(b2)エチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位、および(c)酢酸ビニル単位またはアクリル酸メチル単位からなる共重合体である。(a)単位:(b)単位:(c)単位は、40~94重量%:1~20重量%:5~40重量%が好ましく、50~90重量%:2~15重量%:8~35重量%が好ましい。

【0020】
前記成分(b)、すなわち(b1)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位または(b2)エチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位を与える化合物は、それぞれ下記一般式(3)、(4)で表される。

【0021】
【化6】
JP0006468728B2_000002t.gif

【0022】
一般式(3)において、Rは、一つのエチレン結合を有する炭素数2~13の炭化水素基である。Rの炭素数は、好ましくは2~10である。一般式(3)で表されるエチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル等のα,β-不飽和カルボン酸グリシジルが挙げられる。

【0023】
一般式(4)において、Rは、一つのエチレン結合を有する炭素数2~13の炭化水素基である。また、Xは、-CH-O-または下記化学式(4-1)で表される基である。Rの炭素数は、好ましくは2~10である。

【0024】
【化8】
JP0006468728B2_000003t.gif

【0025】
この他に、エポキシ基含有エチレン共重合体として、スチレンをグラフトしたエポキシ基含有エチレン共重合体あるいはメチルメタクリレートをグラフトしたエポキシ基含有エチレン共重合体も用いることができる。当該共重合体は、前述のエポキシ基含有エチレン共重合体セグメントの幹にポリスチレンあるいはポリメチルメタクリレートが枝として結合するようにグラフト変性された共重合体である。エチレン共重合体セグメントにグラフト鎖を結合するには、公知の方法を用いてよい。例えば、特開平2007-63506号公報に記載のとおり、エチレン三元共重合体セグメントの溶液に、過酸化物存在の下、ビニル系単量体を加えてビニル系単量体を重合して得ることができる。

【0026】
エポキシ基含有エチレン共重合体のMFRは、2~50g/10分が好ましく、3~30g/10分がより好ましい。MFRはJIS K7210に規定された方法に準拠して、樹脂温度190℃、測定荷重21N(2.16kg・f)の条件で測定される。このMFRが2g/10分未満、または50g/10分を超えると、得られる成形品の外観が悪化したりすることがある。エポキシ基含有エチレン共重合体の融点は30~120℃が好ましく、40~110℃がさらに好ましい。また、エポキシ基含有エチレン共重合体の融点は1.2~1.4であることが好ましい。

【0027】
(4)混合比
従来、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体を得るには、ポリL乳酸由来の成分とポリD乳酸由来の成分をほぼ同量で混合することが必要であった。しかし、本発明においては、いずれか一方が多い場合でも耐熱性、機械的特性に優れたポリ乳酸ステレオブロック共重合体を得ることができる。すなわち、本発明においては成分(A):成分(B)は、前述のとおり「10~90重量%」:「90~10重量」であり、「45~55重量%」:「55~45重量%」が好ましいが、「60~75重量%」:「40~25重量%」または「40~25重量%」:「60~75重量%」であってもよい。いずれか一方が多い場合でもポリ乳酸ステレオブロック共重合体が得られる理由は、成分(C)のエポキシ基含有エチレン共重合体の存在によると考えられる。成分(A):成分(B)の配合比を1:1からずらすことにより耐熱性や機械的性質(特に伸び率)が向上するという利点がある。

【0028】
また、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体を得る際に第三成分が存在するとステレオコンプレックスの形成が妨げられる恐れがあるため、従来、第三成分を存在させないことが常識であった。しかし、本発明においては、あえて第三成分としてエポキシ基含有エチレン共重合体を用いることで、前記の予期せぬ効果が奏される。この理由は限定されないが、ポリ乳酸中の官能基には-OH基と-COOH基が存在するが、これらの基はエポキシ基と反応性が高すぎないため、エポキシ基含有エチレン共重合体はステレオブロック共重合体の生成を妨げないためと推察される。この効果を奏するため、エポキシ基含有エチレン共重合体の配合量は、成分(A)と(B)の合計100重量部に対して2~50重量部であるが、3~40重量部が好ましく、5~35重量部がさらに好ましい。エポキシ基含有エチレン共重合体がこの範囲外であると、得られた組成部中にホモキラルなポリ乳酸が多く生成したり、得られた組成物の機械的性質が不十分になったりする場合がある。

【0029】
2.溶融混練
(1)温度
本発明では、前記成分を溶融混練して、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物を得る。好ましい混練温度Tは、Th<T<Tsと定義される。Thは、前記ポリL乳酸およびポリD乳酸のホモキラル結晶の融点のうち高い方の融点である。本発明において融点は示差走査熱量分析(DSC)により測定できる。測定は定法によるが、昇温速度10℃/分で測定することが好ましい。

【0030】
Tsは、ポリL乳酸およびポリD乳酸を、200℃にてエステル交換触媒を添加せずに混練して得た生成物の融点である。ポリL乳酸およびポリD乳酸は、モノマーを重合した際の触媒残渣を含んでいる場合があるが、本発明において、触媒残渣を含むポリL乳酸およびポリD乳酸を混練することは、エステル交換触媒を添加せずに混練することに該当する。

【0031】
すなわちTsは、ポリL乳酸およびポリD乳酸を単純に混練して形成したステレオコンプレックス結晶の融点である。融点が複数存在する場合は、その最高の温度をTsとする。Tsは、用いるポリL乳酸およびポリD乳酸の分子量、配合比等により変動するが、通常は、210~240℃であり、好ましくは225~235℃である。

【0032】
(2)混練条件
混練時のせん断速度は、せん断速度は600sec-1以上が好ましく、800sec-1以上がより好ましい。せん断速度の上限は2000sec-1が好ましい。

【0033】
混練機のせん断速度Sは、下記式(i)で定義される。
S=π・Dm・N/h (i)
Sはせん断速度、Nはスクリュー毎秒回転数、hはクリアランスである。混練機が一軸または二軸の押出し機である場合は、Dmはスクリュー溝の平均径である。スクリュー溝の平均径とは、スクリューの各溝部分(凹部)におけるスクリュー径の平均値である。
また、混練機がラボプラストミルのようなディスクを使用したバッチ式の混練機の場合には、Dmは、シリンダー内径とディスク長軸直径の差で定義される。

【0034】
クリアランスとは、スクリューまたはディスクと混練機壁面との間の距離であり、チップクリアランスともいう。スクリューは、一部にニーディング部分を含む場合等があり、そのクリアランスはスクリューの長手方向で異なる場合がある。このような場合、本発明においては、クリアランスはスクリュー全体の平均値とするか、またはニーディング部分以外のクリアランスの平均値として計算することもできる。通常の溶融混練工程においては、Dmとhは変更されないため、Nの回転数によって、せん断速度Sは調整される。

【0035】
本発明で使用する混練機としては、せん断力の調整が容易である二軸の押出機が好ましい。
混練時間は適宜調整してよいが、2~20分が好ましい。上限値よりも混練時間が長いとポリL乳酸等が分解しやすくなることがある。また下限値より混練時間が短いと、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体の形成が十分でない場合がある。

【0036】
(3)エステル交換触媒
混練工程においては、適度なエステル交換反応が生じるのでステレオブロック共重合体を形成できる。この反応を促進するためにエステル交換触媒を添加してもよい。エステル交換触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、スズ化合物、亜鉛化合物、チタン化合物などが挙げられる。アルカリ金属化合物の例としては、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物の例としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物が挙げられる。スズ化合物の例としては、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズアルコキシド、エトキシスズ、メトキシスズ、酸化スズが挙げられる。チタン化合物の例としてはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドが挙げられる。亜鉛化合物の例としては、酢酸亜鉛、酸化亜鉛が挙げられる。中でも、スズ化合物、亜鉛化合物、およびチタン化合物が好ましい。エステル交換触媒の量は、ポリL乳酸およびポリD乳酸の合計量100重量部に対して、0.01~0.8重量部が好ましい。

【0037】
3.得られた組成物の組成
このようにして得られたポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体と、エポキシ基含有エチレン共重合体またはこれから誘導される重合体を必須成分として含む。

【0038】
(5-1)ポリ乳酸ステレオブロック共重合体
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、「ポリL乳酸ブロック」と「ポリD乳酸ブロック」を含むブロック共重合体であり、これら以外の部分を含んでいてもよい。ポリL乳酸ブロックとポリD乳酸ブロック(以下「ステレオブロック部分」ともいう)は、ステレオコンプレックスを形成している。ステレオブロック部分は、主鎖中、70mol%以上、好ましくは80mol%以上、より好ましくは90mol%以上を占めることが好ましい。また、ステレオブロック部分でない部分としては、L乳酸とポリD乳酸とのランダム共重合部分が好ましい。

【0039】
(5-2)エポキシ基含有エチレン共重合体等
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、エポキシ基含有エチレン共重合体またはこれから誘導される重合体を含む。誘導される重合体の例には、エポキシ基含有エチレン共重合体のエポキシ基同士が重合してなる重合体、エポキシ基含有エチレン共重合体と前記ポリ乳酸ステレオブロック共重合体との重合体、エポキシ基含有エチレン共重合体とポリL乳酸またはポリD乳酸との重合体等が含まれる。

【0040】
(5-3)他の成分
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、上記必須成分以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分の例には、L乳酸およびD乳酸のランダム共重合体や単独重合体が挙げられる。これらの単独のポリL乳酸およびポリD乳酸は、ステレオコンプレックスを形成していることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体は、単独のポリL乳酸およびポリD乳酸に起因するホモキラル結晶を含まないことが好ましい。
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、さらに公知の高分子材料、無機もしくは有機充填剤、または添加剤を含んでいてもよい。

【0041】
4.特性
(1)結晶由来のピーク
本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、DSCを用いたファーストスキャンでの測定において、得られる融解ピークの大部分がポリ乳酸ステレオブロック共重合体のステレオコンプレックス結晶由来である。同様に、X線回折におけるピークの大部分がステレオコンプレックス結晶由来である。

【0042】
また、本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、DSCを用いたファーストスキャンでの測定またはX線回折分析の少なくとも一方において、ホモキラル結晶に由来するピークが存在しないことが好ましい。すなわち、DSCを用いたファーストスキャンでの測定およびX線回折分析の双方でホモキラル結晶に由来するピークが存在しない、または、これらの測定のいずれか一方においてホモキラル結晶に由来するピークが存在しないことが好ましい。

【0043】
DSCを用いたファーストスキャンでの測定とは、当該組成物を前記方法によって製造した後、放冷して室温まで冷却した後、速やかにDSCで分析を行う測定をいう。具体的には、DSCのファーストスキャンにおいて単独のポリL乳酸およびポリD乳酸に起因するホモキラル結晶に由来する融解ピークが観察されないことが好ましい。ファーストスキャンにおける昇温速度は10℃/分が好ましい。DSCで測定された融解ピークがステレオコンプレックス結晶に由来するかどうかは、下記のとおりX線回折により特定できる。

【0044】
X線回折分析において、ホモキラル結晶に由来するピークは、例えばCuKα線源を用いた場合に、12°、21°、24°付近に観察される。したがって、X線回折分析においてホモキラル結晶に由来するピークが存在しないとは、上記ピークが観察されないことをいう。

【0045】
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物のステレオコンプレックス結晶の結晶化度は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。この結晶化度は公知の方法で求められる。例えば、結晶化度はDSCを用いてステレオコンプレックス結晶の融解熱量から求めることができる。非特許文献1(Loomis GL, Murdoch JR, Gardner KH. Polym. Prepr. 1990;31:55.)によれば、結晶化度100%のステレオコンプレックス結晶の融解熱量は142J/gである。よって、本発明の組成物のステレオコンプレックス結晶の融解熱量をDSCによって求め、その値を142J/gで除することによって結晶化度を求めることができる。

【0046】
(2)分子量
ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物の重量平均分子量は、原料として用いたポリL乳酸およびポリD乳酸の分子量よりも低下しないことが好ましい。本発明においてはポリL乳酸およびポリD乳酸の重量平均分子量は5,000~1,000,000であることが好ましいので、ポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物の重量平均分子量も5000~100万が好ましく1万~70万がより好ましい。分子量は、組成物全体を溶液に溶解させGPC等を用いて測定できる。

【0047】
(3)耐熱性、機械的特性
本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、単独のポリL乳酸およびポリD乳酸に起因するホモキラル結晶をほとんど含まない。このため、本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、ホモキラルのポリL乳酸およびポリD乳酸、ならびに従来のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物と比較して、耐熱性、成形加工性、機械的性質に優れる。

【0048】
(4)用途
本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、成形加工性が良好で高い融点を有し、耐熱性も優れている。よって、本発明のポリ乳酸ステレオブロック共重合体組成物は、射出成形体、押し出し成形体、チューブ成形体、シート成形体、フィルム成形体、または繊維として有用であり、さらには家電、電気部品、電子部品、通信機器部品、または自動車部品に好適である。
【実施例】
【0049】
1.原料
以下のポリ乳酸を使用した。
成分(A)
A-1:ポリL乳酸(レイシア H400、三井化学株式会社製)
A-2:ポリL乳酸(レイシア H100、三井化学株式会社製)
成分(B)
B-1:ポリD乳酸(HIGH IV、PURAC株式会社製)
B-2:ポリD乳酸(試作品)
表1に成分(A)と(B)の分子量および融点を示す。
【実施例】
【0050】
【表1】
JP0006468728B2_000004t.gif
【実施例】
【0051】
成分(C)
C-1:エポキシ基含有エチレン共重合体(住友化学株式会社製 ボンドファスト7L)
エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=70/27/3(重量比)の共重合体。MFR=7g/10分(190℃、2.16kg荷重、10分)。DSCによる融点は60℃であった。
【実施例】
【0052】
2.物性測定
(1)ポリ乳酸の分子量
GPC(DG-2080-53型、JASCO社製)を使用して測定した。カラムにはTSKgel GMHXLφ7.8×300mm(東ソー株式会社製)、ガードカラムにはTSKguardcolumn HXL φ6.0×40mm(東ソー株式会社製)を使用した。
屈折率検出器としてRI-2031 Plus (JASCO製)を用いた。
溶離液にはクロロホルム(高速液体クロマトグラム用試薬、和光純薬株式会社製)を使用し、流速1.0ml/分、測定温度40℃で測定した。
原料のポリ乳酸の分子量は、ポリ乳酸をクロロホルムに溶解して測定した。
得られた組成物の分子量は、組成物0.05gを1mlのヘキサフルオロイソプロパノールに溶解した後、クロロホルム5mlを加えて溶液を調製し、当該溶液を用いて測定した。
得られた分子量をポリスチレン換算して重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
【実施例】
【0053】
(2)融点、結晶化度
示差走査熱量計(DSC):DSC-Q200(TAインスツルメント製)を用い、JIS K7121に準拠して求めた。温度範囲は25~250℃とし、昇温速度10℃/分、窒素ガス流量50ml/分、サンプル量4~6mgとした。
融点は、DSC曲線のピークから求めた。また、結晶化度はDSC分析によりステレオコンプレックス結晶の融解熱量を測定し、その熱量を142J/gで割ることによって求めた。
【実施例】
【0054】
(3)動的粘弾性試験
得られた共重合体組成物からプレスシートを作製し、レオバイブロン株式会社製 DDV-01FP-W型を使用して以下の条件で測定を行なった。
温度 -100℃から250℃
昇温 2℃/min、1Hz
【実施例】
【0055】
(4)引張試験
ストログラフVE20型(東洋精機製作所株式会社製)を使用し、速度10mm/minで引張試験を行い、破断伸び率と強度を求めた。試験片はダンベル形状であり、中心部の幅を3mm、厚さを約0.5mmとした。
【実施例】
【0056】
(5)引張衝撃試験
フィルム打ち抜き機を使用してポリマーフィルムを打ち抜き、JIS K6251 5号試験片サイズの試験片を作成し測定に供した。
測定は、引張衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製、Digital Impact TesterDG-DB型)を使用し、室温で持ち上げ角度150°、荷重2Jまたは4Jで行った。
【実施例】
【0057】
[実施例1~6]
成分(A)および(B)を60℃で一晩真空乾燥した後、さらに110℃で2時間真空乾燥し、ポリマー中に含まれる水分を完全に除去した。成分(C)は25℃で1晩真空乾燥した。
株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル4M150型を使用してこれらの成分を混練した。混練温度は200℃、スクリュー回転数は100rpm、混練時間は5分とした。
【実施例】
【0058】
混練機の混練部は、内容積が約70mL、シリンダー内径が47.7mm、ディスク長軸外径が46.9mm、ディスク単軸外径が29.3mm、ディスクと混練機壁面のクリアランスが0.4mm、軸間距離が38.5mm、噛み合い比(ディスク長径/ディスク短径)が1.6であった。
溶融混練物を取出し、200℃でプレス成形して測定に供した。
【実施例】
【0059】
[比較例1]
成分(B-1)および成分(C-1)を使用しない以外は、実施例と同様にして組成物を得た。
[比較例2]
成分(B-1)を使用しない以外は、実施例と同様にして組成物を得た。
【実施例】
【0060】
原料である成分(A-1)および(B-1)のDSC曲線を図1に、得られた組成物のDSC曲線を図2に示す。図1のホモキラル結晶に由来するピークが図2の比較例1、2では観察された。しかし、実施例1~4ではホモキラル結晶に由来するピークは観察されず、代わりに230℃付近に新たにステレオコンプレックス結晶の融点のピークが観察された。
【実施例】
【0061】
表2に実施例1~4で得た組成物と比較例で得た組成物の物性を示す。実施例1~4で得た組成物の融点および75℃での貯蔵弾性率(E’)は、比較例で得た組成物よりも高く、優れている。
【実施例】
【0062】
表3に実施例5、および7で得た組成物と比較例1で得た組成物の物性を示す。実施例で得た組成物の引張伸率および75℃での貯蔵弾性率(E’)は、比較例で得た組成物よりも高く、優れている。
【実施例】
【0063】
【表2】
JP0006468728B2_000005t.gif
【実施例】
【0064】
【表3】
JP0006468728B2_000006t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1