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明細書 :免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬、がん治療薬及びメタボリック症候群の予防または治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6242071号 (P6242071)
公開番号 特開2014-214093 (P2014-214093A)
登録日 平成29年11月17日(2017.11.17)
発行日 平成29年12月6日(2017.12.6)
公開日 平成26年11月17日(2014.11.17)
発明の名称または考案の名称 免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬、がん治療薬及びメタボリック症候群の予防または治療薬
国際特許分類 A61K  31/155       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  37/04        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/155
A61P 35/00
A61P 37/04
A61P 43/00 107
請求項の数または発明の数 5
全頁数 9
出願番号 特願2013-090431 (P2013-090431)
出願日 平成25年4月23日(2013.4.23)
審査請求日 平成28年2月5日(2016.2.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】鵜殿 平一郎
【氏名】榮川 伸吾
【氏名】西田 充香子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】茅根 文子
参考文献・文献 特表2013-503171(JP,A)
Nature,2009年,Vol. 460,pp. 103-107
臨牀と研究,2004年,81巻11号,pp. 1808-1812
Cancer Immunol. Immunother.,2011年,Vol. 60,pp. 1221-1225
調査した分野 A61K 31/00-31/327
A61P 35/00
A61P 37/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれるビグアニド系抗糖尿病薬を有効成分とする、免疫疲弊を有し、CD8+T細胞のIL-2及び/又はTNFαの産生能が減弱したがん患者に対するがん治療薬。
【請求項2】
CD8+T細胞の疲弊マーカーの発現により前記免疫疲弊が生じる、請求項に記載の治療薬。
【請求項3】
前記疲弊マーカーがProgram cell death protein 1(PD-1)及びT cell membrane protein 3 (Tim-3)からなる群から選ばれる、請求項に記載の治療薬。
【請求項4】
がんの化学療法及び放射線療法を受けていないがん患者に対して前記有効成分を投与するための、請求項1~3のいずれかに記載の治療薬。
【請求項5】
有効成分がメトホルミンである、請求項1~4のいずれかに記載の治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬、がん治療薬及びメタボリック症候群の予防または治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
一部のがん患者では、がんに対する免疫応答が著しく低下(免疫疲弊)している。がん抗原を認識・活性化されたT細胞はがん組織内に入った後、様々な抑制性の免疫チェックポイント分子を発現し、またがん細胞自身はチェックポイント分子のリガンドを発現しており、これらの相互作用ががん特異的T細胞を次第に疲弊に追い込むためである。T細胞疲弊の治療薬はこれまでに報告は無いが、昨今、免疫チェックポイント分子-リガンドの会合をブロックするモノクローナル抗体が脚光を浴びている。しかし、複数種類のチェックポイント分子-リガンドが存在し、且つ新たな分子の発見が相次いでいるため、何種類もの抗体投与が必要となり実際の医療現場では実用性に乏しい。
【0003】
特許文献1は、メトホルミンが化学療法剤の効果増強作用を有することを開示しているが、メトホルミン自身は腫瘍の治療効果を有しないことが実施例で示されている。
【0004】
非特許文献1は、2型糖尿病治療薬であるメトホルミンの作用メカニズムを開示する。
【0005】
非特許文献2は、メトホルミンが抗腫瘍作用を有することを示唆している。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2013-503171
【0007】

【非特許文献1】Nature 439, 682-687 (2006)
【非特許文献2】J Exp Clin Med 2012; 4(3): 140-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、免疫疲弊を改善し、がんを治療ならびにメタボリック症候群を予防又は治療する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、メトホルミンなどのビグアニド系抗糖尿病薬が免疫疲弊したCD8+T細胞のサイトカイン産生能を回復し、免疫疲弊によりがんが増殖・拡大したがん患者の治療薬、メタボリック症候群の予防又は治療薬として有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下の免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬、がん治療薬及びメタボリック症候群の予防または治療薬を提供するものである。
項1. フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれるビグアニド系抗糖尿病薬を含む、免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬。
項2. 免疫疲弊CD8+T細胞のサイトカイン産生能を回復させる、項1に記載の機能改善薬。
項3. 前記免疫疲弊T細胞が疲弊マーカーを発現しており、疲弊マーカーを発現した免疫疲弊CD8+T細胞のサイトカイン産生能を回復させる、項2に記載の機能改善薬。
項4. CD8+T細胞のアポトーシスを抑制する、項1~4のいずれかに記載の機能改善薬。
項5. 項1~4のいずれかに記載の機能改善薬を有効成分とする、免疫疲弊を有するがん患者に対するがん治療薬。
項6. CD8+T細胞の疲弊マーカーの発現により前記免疫疲弊が生じる、項5に記載の治療薬。
項7. 前記疲弊マーカーがProgram cell death protein 1(PD-1)及びT cell membrane protein 3 (Tim-3)からなる群から選ばれる、項6に記載の治療薬。
項8. がんの化学療法及び放射線療法を受けていないがん患者に対して前記有効成分を投与する、項5~7のいずれかに記載の治療薬。
項9. 有効成分がメトホルミンである、項5~8のいずれかに記載の治療薬。
項10. 項1~4のいずれかに記載の機能改善薬を有効成分とする、メタボリック症候群の予防又は治療剤。
項11. メタボリック症候群による炎症を抑制する、項10に記載の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、免疫疲弊により腫瘍部位において機能低下したCD8+T細胞のサイトカイン産生能を回復させ、それにより腫瘍細胞を死滅させることができ、腫瘍の退縮を実現できる。免疫疲弊したCD8+T細胞は、PD-1及びTim-3などの疲弊マーカーを発現し、TNFα、IFNγ、IL-2などのサイトカインの産生量が低下する。従来は、この疲弊マーカーの発現を抑制することによりCD8+T細胞の機能回復を試みていたがうまくいかなかった。
【0012】
本発明では、疲弊マーカーを発現したままで免疫疲弊したCD8+T細胞のサイトカイン産生能を回復させ、がん及びメタボリック症候群の予防・治療が実現可能であることを初めて明らかにした。
【0013】
本発明のがん治療薬は、外科手術、放射線療法、化学療法と併用することにより予後を改善することが期待される。また術前化学療法としての使用は効果が大きいと考えられる。さらに治療後の再発を抑える効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1A,B メトホルミンによる一旦生着した腫瘍塊の拒絶。

【0015】
図1C,D メトホルミンの濃度効果と投与時期に関する検討
図1E メトホルミンによる抗腫瘍効果のエフェクター細胞の検討
【図2】メトホルミンによる腫瘍内浸潤T細胞の増加
【図3A】腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊マーカーの検討
【図3B】腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊マーカーの検討
【図3C】腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊マーカーの検討
【図4】機能疲弊としてのサイトカイン産生能に関するメトホルミンの効果検討
【図5】大量カロリー摂取はCD8T細胞にPD-1, Tim-3の発現増加をもたらす。
【図6】大量カロリー摂取を行ったヒトの血清中には、正常CD8T細胞のPD-1, Tim-3の発現を亢進させるが、メトホルミンによりこれを防止することが可能である。
【図7】大量カロリー摂取を行ったヒトの血清は、正常CD8T細胞のサイトカイン産生能を減弱させるが、メトホルミンによりこれを防止、回復させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の免疫疲弊CD8+T細胞の機能改善薬及びがん治療薬の有効成分は、ビグアニド系抗糖尿病薬であり、具体的にはフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンが挙げられ、特にメトホルミンが好ましい。

【0017】
本発明のがん治療薬は、いったん増殖したがんを退縮もしくは拒絶することができるので、がんを有する患者の治療薬として、さらにがん転移の抑制薬として有用である。本発明のがん治療薬は、CD8T細胞の機能回復により効果を発揮するので、他のがん化学療法剤が効かない難治性のがん、転移したがんにも同様に有効である。

【0018】
本発明の有効成分は、疲弊マーカーを発現したCD8+T細胞に作用してサイトカイン産生能を回復させ、がん細胞を攻撃し、排除する機能を回復させる。さらに、CD8+T細胞のアポトーシスを抑制し、CD8+T細胞の機能を正常な状態に回復することで、メタボリック症候群における炎症を抑制することができる。

【0019】
本発明のがん治療薬は、疲弊マーカーを発現した(疲弊した)CD8T細胞を機能回復し、がんを排除する能力を高めることでがん治療効果を発現する。疲弊マーカーの発現ではなく、CD8+T細胞が死滅するか、機能が損なわれたがん患者に対しては有効性が大きく低下する。したがって、本発明のがん治療薬は、このような他のがん治療薬、放射線療法などによるCD8+T細胞の機能低下が生じる前に投与するのがよく、他のがん治療薬、放射線療法を行った後でも、CD8+T細胞の免疫疲弊以外の機能が回復した状態で投与するのが好ましい。

【0020】
がん治療薬の治療対象のがんとしては、例えば頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫などが挙げられる。

【0021】
CD8+T細胞の疲弊マーカー以外の機能が維持されていることは、血液検査などによりチェックできる。即ち、PMA、イオノマイシンによる6時間培養刺激で正常T細胞では3種類の細胞内サイトカイン(TNFα、IFNγ、IL-2)の同時発現が認められるが、Tim-3発現したT細胞ではIFNγのみの発現が大多数を占める。

【0022】
CD8+T細胞の疲弊マーカーとしては、PD-1、Tim-3、lymphocyte activation gene 3 (LAG3)、Adenosine A2a receptor(A2aR)、Cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4(CTLA4)などが挙げられ、特にTim-3が挙げられる。疲弊マーカーの発現は、これらマーカーに対する抗体を用いて検出することができる。

【0023】
CD8+T細胞の疲弊マーカーが発現するとTNFα、IFNγ、IL-2などのサイトカインの産生量が低下し、CD8+T細胞のがん細胞を死滅させる能力が損なわれ、かつ、CD8+T細胞のアポトーシスが誘導される。本発明の有効成分は、疲弊マーカーの発現は抑制できないが、疲弊マーカーが発現した状態であってもサイトカインの産生量を回復させ、アポトーシスを抑制し、がん細胞を死滅させる能力を回復できる。CD8+T細胞の機能回復とは、サイトカインであるTNFα, IL2、IFNγの3種類のサイトカインを同時に産生する能力が回復する、という意味である。本発明の有効成分は、疲弊マーカーとは無関係にCD8+T細胞のアポトーシスの抑制とがん細胞を攻撃、さらに死滅させる能力を回復させることができる。

【0024】
本発明の有効成分は、メタボリック症候群の予防又は治療に有効であり、特にメタボリック症候群における炎症の予防又は治療に有効である。メタボリック症候群は、CD8+T細胞がメタボリックシンドロームを引き起こす脂肪組織の炎症に必須であることが知られている。

【0025】
本発明の有効成分は、CD8+T細胞を機能回復し、そのアポトーシスを抑制することができる。したがって、CD8+T細胞の誘導を抑えることができ、CD8+T細胞による脂肪組織の炎症抑制に有効である。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者はメタボリックシンドロームにおける脂肪組織の炎症の少なくとも一部は疲弊マーカーを発現したCD8+T細胞により誘発されると考えている。持続する脂肪組織での炎症はT細胞疲弊を惹起し、ひいては免疫疲弊即ちTim-3等の疲弊マーカーの発現の誘導に至ると考えられる。メタボリック症候群の基礎病態として存在すると予想されるこの免疫機能抑制状態を本発明の有効成分が改善できる。本発明の有効成分は、CD8+T細胞の疲弊マーカーの発現を抑制することはできないが、機能回復させることができるので、それにより脂肪組織の炎症を抑制できる。

【0026】
本発明の有効成分は成人1日当たり1~5000mg、好ましくは10~4000mg、より好ましくは50~3000mg程度、特に100~2500mg程度を摂取すればよい。有効成分は1日1回でもよく、2~4回に分けて摂取してもよい。
【実施例】
【0027】
本発明は以下の実施例によってさらに例示されるが、これらはさらなる限定として解釈されるべきではない。
実施例1
(1)メトホルミンによる腫瘍塊の拒絶
まず放射線白血病細胞RL1の同系マウスへの移植実験に関する検討を行った。
【実施例】
【0028】
2 x105個のRL1細胞をBALB/cJマウスの背部皮内に移植し、経時的に長径と短径を測定しその平均腫瘍径をプロットした。腫瘍移植後7日目にメトホルミン5 mg/mlを含んだ水を自由飲水として投与する群(黒丸)としない群(白丸)を作成した。その結果、図1Aにあるように、メトホルミン投与群では次第に腫瘍増殖が弱くなり、約1ヶ月の後に腫瘍の完全退縮をみるに至った。一方、同様の実験をBALB/cJ SCIDマウス(T細胞とB細胞が存在しない)で行った結果が図1Bである。対照的にメトホルミンの効果は完全に消失した。以上の結果より、メトホルミン投与は一旦生着した腫瘍塊を拒絶に至らしめるが、これは獲得免疫系細胞の働きによると結論することができる。
【実施例】
【0029】
(2)メトホルミンの濃度効果と投与時期
次に、飲水中のメトホルミン濃度を5,1,0.2mg/mlと3段階に希釈し、同様の実験を行った。その結果0.2mg/ml低濃度の飲水でも明白な抗腫瘍効果を認めた。つまり広い濃度で薬効がある可能性を示唆した(図1C)。さらに、メトホルミン投与時期を腫瘍移植後、0、10日目に行った。その結果、0日目投与が最も効果があるものの、10日目でも十分に効果が認められ、投与開始時期はかなり遅くなっても効果が認められる、という結論に至った(図1D)。
(3)メトホルミンによる抗腫瘍効果のエフェクター細胞
メトホルミンによる腫瘍拒絶がCD8+T 、CD4+Tの効果によるものか否かを検討するために、抗CD8抗体または抗CD4抗体、さらにその両方をメトホルミン投与時に静脈内注射し、該当するT細胞を体内から消失させた。その結果、抗CD8抗体を投与したときに限り腫瘍拒絶反応が消失した。即ち、メトホルミンによる腫瘍拒絶はCD8+T細胞によると結論づけられた。
実施例2
メトホルミンによる腫瘍拒絶の際に、腫瘍局所に浸潤したT細胞の数を検討した。7日目(d7)にメトホルミン飲水を開始し、10日目(d10)、13日目(d13)に腫瘍塊を取り出し、そこに浸潤したリンパ球の数を計測した。その結果、メトホルミン投与(+)は、非投与(-)に比べて10日目、13日目に浸潤細胞数が劇的に増加しており、とりわけCD8+T細胞にその傾向が強いことが判明した(図2)。なお、データには示さないが増加した浸潤CD8T細胞はCD44を発現しており、記憶T細胞である。以上のことが、腫瘍拒絶におおいに関係していると考えられる。
実施例3:腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊マーカーの検討
(1)最近の研究では活性化された腫瘍特異的T細胞であっても、腫瘍塊内に入ると次第に疲弊していくことがわかってきた。疲弊マーカーとしてPD-1分子, Tim-3分子が細胞膜表面に出現するようになる。そこで、メトホルミン投与の有無とPD-1分子, Tim-3分子の発現の相関性について検討を行った。図3Aには腫瘍内浸潤からリンパ球領域にゲートしさらにCD4, CD8マーカーで分離し、そのうちCD8+T細胞にゲートをかけ、そのPD-1, Tim-3の発現を見る過程を示す。isoとはisotype control 抗体で染めた場合であり、negative controlを示している。メトホルミン投与の有無に関わらず、PD-1+Tim-3-, PD-1-Tim-3+, PD-1+Tim-3+が出現していることがわかった。即ち、メトホルミンはPD-1分子, Tim-3分子の発現に影響を与えないと結論づけることができた。
(2)疲弊マーカーの出現と同時に、アポトーシスに陥ることも疲弊の特徴的な像である。この概念をもとに腫瘍浸潤CD8T細胞のアポトーシスの有無をAnnexin V染色により検討した。Total CD8T細胞で見た場合、d7ではすでに多くのCD8T細胞がAnnexin V陽性となっていることが判明した(図3B)。その傾向はd10でより顕著になりd13でもその傾向は続いているようである。一方、メトホルミンをd7から開始した場合、d10では顕著にAnnexin V陽性が減少し、d13でもその傾向が認められた。また、PD-1+Tim-3-, PD-1-Tim-3+, PD-1+Tim-3+細胞集団のAnnexin陽性率を見る限り、PD-1分子, Tim-3分子の発現とは無関係にメトホルミンの効果が認められた。
(3)メトホルミンによるアポトーシス抑制効果が統計学的に有為か否かを検討するために、n数を9~11で実験を行い、(2)と同様に解析し、結果をプロットした。図3C中横線はmedian値を示す。
【実施例】
【0030】
その結果、PD-1+Tim-3-, PD-1-Tim-3+, PD-1+Tim-3+細胞集団いずれにおいてもd10においてアポトーシス抑制効果が認められ、PD-1-Tim-3+についてはd13においても有意差が認められた。CD8+T細胞上のPD-1分子またはTim-3分子からシグナルが入り、T細胞はアポトーシスに陥ると考えられているが、PD-1+Tim-3+細胞でもAnnexin陽性率が低下していることより、PD-1経路とTim-3経路の双方に共通なアポトーシスメカニズムに対しメトホルミンは拮抗作用をもつと考えられる。
実施例4
腫瘍浸潤CD8T細胞が疲弊した場合、PD-1分子, Tim-3分子の発現と並んで最初に認められる現象はそのサイトカイン産生(TNFα, IFNγ, IL-2)の低下である。そこで、d7にメトホルミンを開始しd10における腫瘍浸潤CD8T細胞の細胞内サイトカイン染色を行った。浸潤細胞をPMA/ionomycinで6時間刺激活性化した後にTNFα, IFNγ, IL-2の細胞内染色を行い、FACS解析を行った。その結果、メトホルミン非投与群ではほとんどサイトカイン産生が認められないが、メトホルミン投与群では明らかに産生が認められた。即ち、メトホルミンはサイトカイン産生パターンからみる免疫疲弊を回避することが明らかとなった。
【実施例】
【0031】
以上の実験事実は、メトホルミン投与は腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊マーカー発現には影響を与えないものの、アポトーシスとサイトカイン産生の低下という機能的疲弊に陥らないよう防御する働きがあると結論づけることができる。このことが癌組織の中で効果的なCD8T細胞が働き続けることを可能にし、がん塊の自然退縮をもたらすことに繋がると考えられる。
【実施例】
【0032】
実施例5:メタボリック症候群との関連
本発明者らはマウス疲弊T細胞研究の傍ら、ヒトの場合一過性に大量カロリー摂取を行うとCD8T細胞にPD-1, Tim-3が発現してくること、さらにサイトカイン産生能の低下が認められることを発見した。
【実施例】
【0033】
いつもは夕食を午後7時くらいに摂取する健常人が、たまたま午前0時から大量に飲食を行った。翌日午前9時に血液を採取し、リンパ球を回収してCD8T細胞のPD-1, Tim-3の発現をFACSで解析を行った。その結果、大量のカロリー摂取を深夜に行った場合(図5左)は、そうでない場合(図5右)に比べPD-1, Tim-3の発現が有意に亢進していることがわかった。これは一過性の免疫疲弊が生じることを示唆している。
実施例6
大量カロリー摂取を行ったヒトの血清中には、正常CD8T細胞のPD-1, Tim-3の発現を亢進させるが、メトホルミンによりこれを防止することが可能である。
【実施例】
【0034】
図5に示した大量カロリー摂取を行った健常人の血液から血清を採取し、それを希釈して別の健常人のリンパ球に添加し24時間培養した(e-serum)。コントロールとして、大量カロリー摂取をしなかった夜の翌日の血清(n-serum)を使用した。また、e-serumにメトホルミン5mM濃度で加える群を用意した。その結果、e-serumと一緒に培養した場合はn-serumに比べて著しくPD-1, Tim-3の発現が亢進した(図6)。この現象はメトホルミンを入れて培養することによりほぼ完全にキャンセルされた。
実施例7
図6の実験で、24時間培養した後にCD8T細胞を回収しPMA とionomycinで刺激培養を6時間行った。その後、細胞内サイトカイン(IL-2, TNFα, IFNγ)の染色を行った。その結果、e-serumと一緒に培養した場合はIL-2, TNFαの産生能が減弱していることがわかった。一方、メトホルミンを入れて培養することによりこれらのサイトカイン産生減少は回避された。またIFNγの産生にはe-serumの影響は認められなかった(図7)。
【実施例】
【0035】
以上の実験結果は、過剰なカロリー摂取を継続的に行った場合、CD8T細胞が疲弊していくことを示唆している。このことは2型糖尿病における免疫機能低下の原因である可能性が高い。また、2型糖尿病の患者は発癌率が高いことが指摘されており、この免疫疲弊と関係する可能性が考えられる。一方で、2型糖尿病の治療薬でもあるメトホルミンは血糖値の低下作用、インスリン抵抗性の改善作用に加え、本実験結果より疲弊免疫T細胞の機能改善をもたらす可能性が示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図3C】
4
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
8