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明細書 :酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6270197号 (P6270197)
公開番号 特開2015-000992 (P2015-000992A)
登録日 平成30年1月12日(2018.1.12)
発行日 平成30年1月31日(2018.1.31)
公開日 平成27年1月5日(2015.1.5)
発明の名称または考案の名称 酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法
国際特許分類 C22C  38/00        (2006.01)
C22C   1/10        (2006.01)
C22C  38/50        (2006.01)
C22C  33/02        (2006.01)
B22F   1/00        (2006.01)
B22F   3/24        (2006.01)
B22F   3/20        (2006.01)
B22F   3/15        (2006.01)
FI C22C 38/00 302Z
C22C 1/10 J
C22C 38/00 304
C22C 38/50
C22C 33/02 103B
C22C 33/02 103G
B22F 1/00 E
B22F 3/24 B
B22F 3/20 B
B22F 3/20 C
B22F 3/15 M
請求項の数または発明の数 4
全頁数 22
出願番号 特願2013-124747 (P2013-124747)
出願日 平成25年6月13日(2013.6.13)
審査請求日 平成28年3月18日(2016.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】丹野 敬嗣
【氏名】大塚 智史
【氏名】矢野 康英
【氏名】皆藤 威二
【氏名】田中 健哉
【氏名】中井 辰良
【氏名】天野 裕介
個別代理人の代理人 【識別番号】110000442、【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
審査官 【審査官】鈴木 葉子
参考文献・文献 特開2005-076087(JP,A)
特開2004-084071(JP,A)
特開2002-332503(JP,A)
特開2012-067344(JP,A)
特開平01-287252(JP,A)
特開2001-049335(JP,A)
調査した分野 C22C 38/00-38/60
C22C 33/02
C22C 1/04- 1/05
C22C 1/08- 1/10
C22C 47/00-47/14
特許請求の範囲 【請求項1】
合金粉末原料を所定の割合に配合して、真空溶解によりプレアロイ粉末を生成する工程と、そのプレアロイ粉末に所定量のY粉末を配合して、高速攪拌により前記プレアロイ粉末とY粉末が合金化したメカニカルアロイング粉末を生成する工程と、そのメカニカルアロイング粉末を固化する工程と、その固化した材料に焼きならし・焼き戻し処理を施す工程とを含む完全プレアロイ法による、焼き戻しマルテンサイト相と残留αフェライト相の複相組織を有する酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法において、
前記メカニカルアロイング粉末は、Crの含有率が8重量%~13重量%、Cの含有率が0.05重量%~0.25重量%、Wの含有率が0.1重量%~3重量%、Tiの含有率が0.1重量%~1重量%、Niの含有率が0.05重量%~1重量%、Yの含有率が0.1重量%~0.5重量%、残部がFeと不可避不純物であり、
前記複相組織中の前記残留αフェライト相の含有率が16体積%~30体積%である酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼を製造することを特徴とする酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法において、
前記酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、 [Cr-eq]≦5[Ni]+11の関係あることを特徴とする酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法。
ただし、前記Cr当量[Cr-eq]は下式(1)で算出され、
Cr当量[Cr-eq] =[Cr]+0.75[W] +1.5[Ti-eq]・・・(1)
その式(1)中の[Ti-eq]は下式(2)で算出される。
[Ti-eq] = [Ti]-[Ex.O]/A(O)/2×A(Ti)・・・(2)
これら式中、[Cr] :Cr濃度(重量%)、
[W] :W濃度(重量%)、
[Ti] :Ti濃度(重量%)、
[Ex.O] :過剰酸素濃度(重量%)、
A(O):Oの原子量 (=16)、
A(Ti):Tiの原子量 (=48)
である。
【請求項3】
請求項に記載の酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法において、
前記酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、5[Ni]+9.4≦[Cr-eq]≦5[Ni]+11の関係あることを特徴とする酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法。
【請求項4】
請求項ないしのいずれか1項に記載の酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法において、
前記メカニカルアロイング粉末は、Crの含有率が10.5重量%~13重量%であることを特徴とする酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
優れた高温特性(高温強度および高温相安定性)に加えて、耐食性や靭性・延性が要求される部材として、例えば高速増殖炉の燃料被覆管などの炉心材料、ボイラ伝熱管やタービンブレードなどの火力発電用部材、核融合炉ブラケット部材などがあり、本発明はそれらへの適用が可能である。
【0003】
焼き戻しマルテンサイト鋼は、オーステナイト鋼に比べて、低熱膨張率、高熱伝導率および耐スエリング特性(中性子照射下での寸法安定性)などの優れた特性を有している。
【0004】
特に、酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼(以下、マルテンサイト系ODS鋼と略記する)は加工性が良く、炭窒化物による析出強化や固溶強化を主な強化機構とする従来の焼き戻しマルテンサイト鋼に比べて高温強度が格段に高いため、高温・中性子照射環境で使用される原子炉材料や核融合炉材料、高温環境で使用される火力発電用材料として研究・開発が進められてきた。
【0005】
なお、マルテンサイト系ODS鋼と類似の材料として、高温に加熱してもフェライト(α)⇒オーステナイト(γ)相変態が生じないフェライト相を母相とする酸化物分散強化型フェライト鋼(以下、フェライト系ODS鋼と略記する)がある。
【0006】
この材料も、マルテンサイト系ODS鋼と同様に、熱膨張率、熱伝導率および耐スエリング特性に優れているが、焼き戻しマルテンサイト系ODS鋼に比べると加工性と靭性が劣る。
【0007】
高速増殖炉や核融合炉の経済性や安全性の向上のため、焼き戻しマルテンサイト母相特有の優れた諸特性(耐スエリング特性、加工性、低熱膨張率、高熱伝導率)に加えて、優れた高温特性(高温強度、高温相安定性(高い変態温度))、耐食性、さらには靭性・延性を有する材料の開発が望まれている。
【0008】
また、火力発電プラントの高効率化の観点からも耐スエリング特性を除く前記諸特性全ての点で優れた材料の開発が望まれている。
【0009】
これまでにもマルテンサイト系ODS鋼およびその製造方法に関する技術が提案されてきたが、いずれの技術も、高温強度単独もしくは高温強度に加えて靭性を改善するものであり、高温強度、高温相安定性、靭性、耐食性の全ての特性が優れたマルテンサイト系ODS鋼およびその製造方法は、これまで提案されていない。
【0010】
なお、先行技術文献としては、例えば下記のような文献を挙げることができる。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特許第3753248号公報
【特許文献2】特許第1813225号公報
【特許文献3】特許第1995699号公報
【0012】

【非特許文献1】ステンレス鋼便覧第3版 長谷川正義監修 ステンレス協会編 1995年発行 日刊工業新聞社 p.104.
【非特許文献2】B.Raj and M.Vijayalakshmi,“4.03 Ferritic Steels and Advanced Ferritic-Martensitic Steels”,Comprehensive Nuclear Materials, Elsevier, Vol.4 (2012) p.107.
【非特許文献3】S.Ohtsuka, T.Kato, T.Tanno, Y.Yano, S.Koyama, K.Tanaka, “Microstruchure and high temperature strength of high Cr ODS tempered martensitic steels”,Presented at ICFRM-15(2011.10), submitted for J.Nucl.Mater.
【非特許文献4】T.Tanno, S.Ohtsuka, Y.Yano, T.Kaito, S.Koyama, K.Tanaka, “Evaluation of mechanical properties and nano-meso structures of high-Cr ODS steels”,Presented at NuMat-2012(2012.10), submitted for J.Nucl.Mater.
【非特許文献5】B.Silwal, L.Li, A.Deceuster, and B.Griffiths, “Effect of postweld heat treatment on the toughness of heat-affected zone for Grade 91 steel”,Weld.J. Vol.92 (2013) p.80-87
【非特許文献6】矢野康英 皆藤威二 大塚智史 丹野敬嗣 上羽智之 小山真一「11Cr-フェライト/マルテンサイト鋼(PNCFMS)ラッパ管材の物性値」JAEA-Data/Code 2012-022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述したように、従来の技術は、高温強度単独もしくは高温強度に加えて靭性を改善するものであり、高温強度、高温相安定性、靭性、耐食性の全ての特性が優れたマルテンサイト系ODS鋼およびその製造方法は、これまで提案されていない。
【0014】
本発明は、このような技術背景においてなされたものであり、その目的は、加工性、耐スエリング特性、熱伝導率、熱膨張率、耐食性、靭性および高温特性(高温強度、高温相安定性)に優れた酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、
合金粉末原料を所定の割合に配合して、真空溶解によりプレアロイ粉末を生成する工程と、そのプレアロイ粉末に所定量のY粉末を配合して、高速攪拌により前記プレアロイ粉末とY粉末が合金化したメカニカルアロイング粉末を生成する工程と、そのメカニカルアロイング粉末を固化する工程と、その固化した材料に焼きならし・焼き戻し処理を施す工程とを含む完全プレアロイ法による、焼き戻しマルテンサイト相と残留αフェライト相の複相組織を有する酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法において、
前記メカニカルアロイング粉末は、Crの含有率が8重量%~13重量%、Cの含有率が0.05重量%~0.25重量%、Wの含有率が0.1重量%~3重量%、Tiの含有率が0.1重量%~1重量%、Niの含有率が0.05重量%~1重量%、Yの含有率が0.1重量%~0.5重量%、残部がFeと不可避不純物であり、
前記複相組織中の前記残留αフェライト相の含有率が16体積%~30体積%である酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼を製造することを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第の手段は、前記第の手段において、
前記酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、 [Cr-eq]≦5[Ni]+11の関係あることを特徴とする酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法。
ただし、前記Cr当量[Cr-eq]は下式(1)で算出され、
Cr当量[Cr-eq] =[Cr]+0.75[W] +1.5[Ti-eq]・・・(1)
その式(1)中の[Ti-eq]は下式(2)で算出される。
[Ti-eq] = [Ti]-[Ex.O]/A(O)/2×A(Ti)・・・(2)
これら式中、[Cr] :Cr濃度(重量%)、
[W] :W濃度(重量%)、
[Ti] :Ti濃度(重量%)、
[Ex.O] :過剰酸素濃度(重量%)、
A(O):Oの原子量 (=16)、
A(Ti):Tiの原子量 (=48)
である。
【0021】
本発明の第の手段は、前記第の手段において、
前記酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、5[Ni]+9.4≦[Cr-eq]≦5[Ni]+11の関係あることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の第の手段は、前記第ないし第の手段において、
前記メカニカルアロイング粉末は、Crの含有率が10.5重量%~13重量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は前述のような構成になっており、優れた耐食性、靭性および高温特性(高温強度、高温相安定性)を有する酸化物分散強化型焼き戻しマルテンサイト鋼およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】完全プレアロイ法のプロセス説明図である。
【図2】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼のNi量とCr当量[Cr-eq]に対する残留αフェライトの含有体積分率を、本発明の仕様組成範囲外にあるマルテンサイト系ODS鋼と比較して示す図である。
【図3】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)と、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の酸化による質量増加量を比較した図である。
【図5】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)と比較例である改良SUS316(PNC316)の酸化試験後の断面の組織を示す金相写真と試験体の外観写真である。
【図6】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM05)と、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)を、模擬FP中で腐食試験を実施した結果を比較して示めす図である。
【図7】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HA01、HM02)と、比較例である従来型の溶解鋳造耐熱鋼(PNC-FMS)のシャルピー衝撃試験結果を示す特性図である。
【図8】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HA01)の透過型電子顕微鏡写真(TEM)で、図8(a)は焼き戻しマルテンサイト領域での酸化物粒子の分散状態を示し、図8(b)は残留αフェライト領域での酸化物粒子の分散状態を示している。
【図9】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HA01、HM02)と、比較例であるマルテンサイト系ODS鋼(9Cr-ODS)、従来型の溶解鋳造耐熱鋼(PNC-FMS)および改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の高温(700℃)での引張試験結果を示す特性図で、下段に引張強さ、上段に破断伸びを示している。
【図10】本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HA01、HM01、HM02)と、比較例であるマルテンサイト系ODS鋼(9Cr-ODS)、従来型の溶解鋳造耐熱鋼(PNC-FMS)および改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の高温(700℃)でのクリープ試験結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、以下の5つの特徴部分を有している。
(1)耐食性を向上するためのCrの濃度範囲
本発明では耐食性を向上するために、Cr濃度の適正範囲について諸種の検討を行った。その結果、Cr濃度が8重量%未満であると、十分な耐食性が得られないことが分かった。一方、Cr濃度が13重量%を超えると、耐食性は更に改善するが、焼き戻しマルテンサイトを主体とする母相組織が確保できないだけでなく、熱時効もしくは中性子照射によりCrリッチ相(αプライム相)が形成し易く、材料の延性・靭性が劣化するという問題があることが分かった。
このようなことから、優れた耐食性を得るためにCr濃度の下限値を8重量%としつつ、優れた諸特性(耐スエリング特性、加工性、低熱膨張率および高熱伝導率)を有する焼き戻しマルテンサイト相を主体母相とするため、Cr濃度の上限値を13重量%とした。すなわち、Crの濃度範囲を、8重量%~13重量%、好ましくは10.5重量%~13重量%の範囲に規制することにより、2相分離を抑制して、耐食性を向上し、延性・靭性などに優れたマルテンサイト系ODS鋼を得ることができた。

【0026】
(2)延性・靭性の改善のための製造方法
焼き戻しマルテンサイト鋼は、温度の低下とともに破壊モードが延性破壊から脆性破壊に変化する特徴がある。

【0027】
焼き戻しマルテンサイト鋼の内部に酸化物などの介在物を含む場合、より高い温度で脆性破壊を示す。また、延性破壊する場合でもより小さなエネルギーで破壊し、靭性の低下する傾向がある。

【0028】
延性・靭性の改善のためには、焼き戻しマルテンサイト鋼中の介在物を極力少なくすることが望ましい。本発明では焼き戻しマルテンサイト鋼中の介在物を低減するために、焼き戻しマルテンサイト鋼の製造方法として完全プレアロイ法を適用した。

【0029】
マルテンサイト系ODS鋼の製造工程は、原料粉末のメカニカルアロイング(MA)による機械的合金化、このMA粉末の固化、および最終熱処理からなる。前述のMA粉末の固化方法としては、例えば熱間押し出しや熱間静水圧プレス(HIP)などがある。また、マルテンサイト系ODS鋼の場合の最終熱処理は、焼きならし・焼き戻し処理である。

【0030】
従来のプレミックス法では、単体元素粉末(Fe,Cr,C,Ti,W,Niなど)およびY粉末を原料粉末として、これらの混合物をメカニカルアロイング(MA)することで合金化MA粉末を製造する。そのため、合金化MA粉末に不均一(不均質)が生じ易く、介在物の低減には限界がある。

【0031】
これに対して完全プレアロイ法では、単体元素粉末の代わりに、予め真空溶解により均質化した合金粉末を用い、これとY粉末をメカニカルアロイング(MA)により合金化して、その後固化するため、従来よりも均質性が高く、介在物の少ないマルテンサイト系ODS鋼を製造することができ、材料の延性・靭性の改善が図れる。

【0032】
ここで、代表的な高清浄度プレアロイ粉末の製造方法の例として、真空溶解炉で溶解した溶湯をArガスアトマイズ法で粉末化する方法がある。

【0033】
図1は、この完全プレアロイ法を用いてマルテンサイト系ODS鋼を製造する工程を説明するためのプロセス図である。

【0034】
図1に示すように、完全プレアロイ法を用いてマルテンサイト系ODS鋼を製造する工程は、(1)プレアロイ粉末の製造工程と、(2)粉末配合工程と、(3)メカニカルアロイング(MA)工程と、(4)カプセルへの粉末充填および真空封入工程と、(5)熱間押し出し工程と、(6)曲がり矯正工程と、(7)最終熱処理工程からなっている。

【0035】
図1(1)において、符号1は真空溶解炉、2は合金の溶湯、3は溶解炉格納容器、4はArガス源、5はArガス噴出ノズル、6は噴霧された溶湯、7は不活性ガス(Arガス)を充満した密閉容器、8は捕集容器、9は製造されたプレアロイ粉末である。

【0036】
図1(1)に示すプレアロイ粉末の製造する工程では、Fe,Cr,C,Ti,W,Niなどの合金粉末原料が所定の割合に配合されて、真空溶解炉1内に投入され、溶解炉格納容器3内は真空状態に維持されている。真空溶解炉1の加熱により合金粉末原料が均質に溶解され、高清浄度の溶湯2を精製する。

【0037】
この溶湯2は噴出ノズル5に供給され、噴出ノズル5において不活性ガス(Arガス)とともに噴霧されて、細かな液滴を形成する。液滴は不活性ガス(Arガス)を充満した密閉容器7内に散布され、粉末状に凝固してプレアロイ粉末9を生成し、容器8に捕集される。

【0038】
図1(2)に示す粉末配合工程では、プレアロイ粉末9に必要量の酸化物(Y)粉末10を配合する。

【0039】
図1(3)において、符号11はアトライタ、12はアトライタ11内に投入されている硬質の摩砕ボール、13はその摩砕ボール12を攪拌する複数本の回転羽根、14は回転羽根13を回転駆動する駆動軸である。

【0040】
図1(3)に示すメカニカルアロイング(MA)工程では、プレアロイ粉末9と酸化物(Y)粉末10の配合物と摩砕ボール12をアトライタ11内に投入し、高速で攪拌する(メカニカルアロイング)。この際、粉末への衝撃が繰り返され、粉末間の冷間接合および破断といったプロセスを通じて、プレアロイ粉末9と酸化物(Y)粉末10が合金化した複合粒子であるメカニカルアロイング(MA)粉末15が生成される。

【0041】
次の図1(4)に示すカプセルへの粉末充填および真空封入工程において、MA粉末15を金属カプセル16に充填し、真空脱気した後に封入する。

【0042】
ついで図1(5)に示す熱間押し出し工程では、ダイス17を備えた熱間押し出し成型機に前述の金属カプセル16を装填し、高圧荷重18を加えて、金属カプセル16に封入したMA粉末15を例えば1,150℃での熱間押し出しにより固化して、熱間押出棒材19を生成する。
なお、この実施例では熱間押し出しの方法を採用したが、熱間静水圧プレス(HIP)によりMA粉末15を固化することもできる。

【0043】
この熱間押出棒材19は図1(6)に示す曲がり矯正工程において、例えば1,100℃で曲がり矯正が実施される。次いで図1(7)に示す最終熱処理工程で熱間押出棒材19の焼きならし・焼き戻し処理が行われる。この熱処理は、例えば1,050℃×1h,AC(空冷)⇒800℃×1h,AC(空冷)で行われる。

【0044】
なお、プレミックス法および完全プレアロイ法の他に部分プレアロイ法がある。この部分プレアロイ法では、プレアロイ粉末と酸化物粉末を主な原料粉末とするが、化学組成の微調整のため、単体元素粉末を一部添加する方法である。本発明では、鋼の清浄度(均質性)を高めるため、単体元素粉末を一切添加しない完全プレアロイ法を適用するため、マルテンサイト系ODS鋼に優れた延性・靭性を付与することが可能となる。

【0045】
(3)焼き戻しマルテンサイト/残留αフェライトの複相組織制御
マルテンサイト系ODS鋼の製造の際には、MA後の粉末を高温での熱間押し出しや熱間静水圧プレス(HIP)により固化するが、この高温での固化の際にα⇒γ変態を経験せずにαフェライト相のままの相が存在する。この相のことを本明細書では残留αフェライト相と呼ぶ。

【0046】
Crは耐食性改善元素であると同時にフェライト生成元素であるため、Cr濃度を増量すると耐食性が改善されるだけでなく、残留αフェライト相が増加するが、これが過度に形成すると焼き戻しマルテンサイトを主体とした母相が維持できなくなるおそれがある。

【0047】
本発明では、複数の化学組成を有するマルテンサイト系ODS鋼を試作して、その複相組織構造を実験的に定量評価することにより、焼き戻しマルテンサイト母相を主体としつつ、高温強度改善に有効な残留αフェライトを含む複相組織を得るための化学組成範囲を明らかにした。

【0048】
下記の表1は、本発明の仕様組成範囲内にある各種マルテンサイト系ODS鋼の化学組成と合金粉末の製造方法とを示す表である。複相組織の定量評価は、高温XRD法と金相組織観察により実施した(非特許文献3、4参照)。

【0049】
パラメータとした元素は、残留αフェライトの割合に影響を及ぼすCr,Ni,W,Ti,Ex.O(過剰酸素:材料に含まれる酸素のうち酸化物Yとして化合している酸素を除いたもの)の5元素である。このうちCr、WとTiはフェライト生成元素であり、残りのNiとEx.Oはオーステナイト生成元素である。
【表1】
JP0006270197B2_000002t.gif

【0050】
なお、表1中の鋼種の左側2文字は、
H:高Cr(igh-Cr)
A:完全プレアロイ(Full Pre-lloyed)
M:プレミックス(Pre-ixed)
を、それぞれ示している。
従って、表1中の鋼種HA01は、完全プレアロイ法で製造した高濃度Crのマルテンサイト系ODS鋼であることを示している。
また、表1中の鋼種HM01~HM09は、プレミックス法で製造した高濃度Crのマルテンサイト系ODS鋼であることを示している。

【0051】
本発明者らの諸種の実験結果から、マルテンサイト系ODS鋼の高温強度を改善するためには、残留αフェライトの導入が有効であることが分かった。しかし、残留αフェライトを過度に導入すると、耐照射性、靭性および加工性に優れる焼き戻しマルテンサイトを主体とする母相を維持できなくなることも分かった。

【0052】
図2は、表1中の各試作材のNi量とCr当量[Cr-eq]に対する残留αフェライトの含有体積分率を示す図であり、高温XRD法により測定した結果である。図中の縦軸の[Cr-eq]および[Ti-eq]の算出式は、以下に示す通りである。ここで [Ti-eq]は、母相の固溶Tiの一部が、(Ti:Ex.O)=(1:2)の比でEx.Oと化合し、母相中のTi濃度が低下するとの考えで算出した有効Ti濃度である。

【0053】
Cr当量[Cr-eq] =[Cr]+0.75[W] +1.5[Ti-eq]…(1)
式(1)中の[Ti-eq]は下式(2)によって算出される。

【0054】
[Ti-eq] =[Ti]-[Ex.O]/A(O)/2×A(Ti)…(2)
なお、これら式中、[Cr] :Cr濃度(重量%)、
[W] :W濃度(重量%)、
[Ti] :Ti濃度(重量%)、
[Ex.O] :過剰酸素濃度(重量%)、
A(O):Oの原子量 (=16)、
A(Ti):Tiの原子量 (=48)である。

【0055】
なお、図2中に示されている体積%は、マルテンサイト系ODS鋼中の残留αフェライトの体積含有率を示している。
この図2中に示されている鋼種HM06ならびにHM09と、比較例に係るHM08を比べた場合、3種類ともCr当量[Cr-eq]は約13重量%であるが、鋼種HM06のNi含有率は0.71重量%、鋼種HM09のNi含有率は0.73重量%であるのに対して、鋼種HM08のNi含有率は0.01重量%と極端に少ない。

【0056】
そのため、残留αフェライトの含有率を比較したとき、鋼種HM06と鋼種HM09は20体積%以下であるのに、鋼種HM08は約40体積%と高い。この鋼種HM08は多くの残留αフェライト相を含み、マルテンサイト相を主体とする母相の維持が難しくなるので、マルテンサイト相の優れた特性が得られない。

【0057】
本発明では、マルテンサイト相の優れた特性を維持しながら、高温強度の改善を図るために、残留αフェライト相の含有率を30体積%以下に規制した。図2中の直線[Cr-eq]=5[Ni]+11よりも下側の領域、すなわち焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、 [Cr-eq]≦5[Ni]+11の関係にあると、Cr濃度を8重量%以上としつつ、マルテンサイト相を主体とする母相を維持しながら、残留αフェライト相の含有率を30体積%以下に規制することができる。

【0058】
また、図2中の直線[Cr-eq]=5[Ni]+11と直線[Cr-eq]=5[Ni]+9.4の間の領域(斜線領域)、すなわち焼き戻しマルテンサイト鋼中のCr当量[Cr-eq]とNi量とが、5[Ni]+9.4≦[Cr-eq]≦5[Ni]+11であれば、Cr濃度を8重量%以上としつつ、マルテンサイト相を主体とする母相を維持しながら、残留αフェライト相の含有率を16体積%~30体積%の範囲内に規制することができることが分かった。

【0059】
すなわち、鋼種の化学組成範囲を下記のように定めることにより、Cr濃度を8重量%以上としつつ、マルテンサイト相を主体とする母相を維持しながら、残留αフェライト相の含有率を30体積%以下に規制することができる。
[Cr-eq]≦5[Ni]+11

【0060】
また、鋼種の化学組成範囲を下記のように定めることにより、Cr濃度を8重量%以上としつつ、マルテンサイト相を主体とする母相を維持しながら、残留αフェライト相の含有率を16体積%~30体積%の範囲内に規制することができる。
5[Ni]+9.4≦[Cr-eq]≦5[Ni]+11

【0061】
図3は、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02:11重量%Cr-1.4重量%W-0.4重量%Ni-0.3重量%Ti-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト20.7体積%)のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。

【0062】
この写真で白く見える部分が残留αフェライトであり、それ以外の領域が焼き戻しマルテンサイト相である。これにより、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)の主体母相は、焼き戻しマルテンサイト/残留αフェライト複相組織となっていることが金相組織からも分かる。

【0063】
(4)高温相安定性および高温強度の改善
高温環境での材料の耐久性向上の観点から、相変態点温度を上昇させて高温での相安定性を高めること、および高温での機械的強度を高めることが重要である。炭化物や窒化物に比べて熱力学的安定性が高く、高温環境でも安定に存在する酸化物粒子を微細かつ高密度に母相組織に分散させることにより、高温での相変態が抑制されて変態点温度は上昇すると考え、酸化物粒子を母相組織に微細分散させることとした。

【0064】
高温環境でも安定な酸化物粒子が材料の変形を抑制するため、酸化物粒子の微細・高密度分散は、高温強度の改善にも有効と考え、高温強度改善の観点からも酸化物粒子を母相組織に微細分散させることとした。

【0065】
本発明では、酸化物の中でも特に熱力学的安定性の高いY粒子をメカニカルアロイング(MA)により母相に微細かつ高密度に分散させることにより、高温相安定性および高温強度の改善を図ることとした。

【0066】
(5)組成範囲およびその選定理由
次に、本発明のマルテンサイト系ODS鋼の化学成分およびその選定理由について説明する。

【0067】
(a)Crについて
Cr含有率を8重量%以上とすることにより、優れた耐食性を確保することができるが、Cr含有率が13重量%を超えると母相を焼き戻しマルテンサイト主体とすることが難しくなる。また、高温もしくは高温・中性子照射環境での使用中に熱時効もしくは中性子照射により、Crリッチ析出物が形成され、材料の延性・靭性が劣化する。
このような理由からCrの含有率は、8重量%~13重量%、好ましくは10.5重量%~13重量%の範囲に規制した。

【0068】
(b)Cについて
CはCrの含有率が8重量%~13重量%の場合に、母相組織を焼き戻しマルテンサイト主体とするために0.05重量%以上含有させる必要がある。この焼き戻しマルテンサイト組織は、1,000℃~1,150℃焼きならし熱処理と、700℃~850℃焼き戻し熱処理により得られる。

【0069】
Cの含有率が多くなるほど、炭化物(例えばM23やMCなど)の析出量が多くなり、Cの含有率が0.25重量%より多いと、加工性および耐食性が劣化する。
このような理由からCの含有率は、0.05重量%~0.25重量%の範囲に規制した。

【0070】
(c)Wについて
Wは、合金中に固溶して高温強度を向上させる重要な元素であり、0.1重量%以上添加する必要がある。Wの含有率を多くすれば、固溶強化作用、炭化物(例えばM23やMCなど)の析出強化作用により、高温機械強度は向上するが、3重量%を超えると、脆性の金属間化合物の析出により、延性・靭性が低下する。
このような理由からWの含有率は、0.1重量%~3重量%の範囲に規制した。

【0071】
(d)Tiについて
TiはYの分散強化に重要な役割を果たし、Yと反応してYTiまたはYTiOという複合酸化物を形成して、酸化物粒子を微細化させる働きがある。この作用はTiの含有率が1重量%を超えると飽和する傾向にあり、一方、0.1重量%未満では酸化物粒子の微細化作用が小さい。
このような理由からTiの含有率は、0.1重量%~1重量%の範囲に規制した。

【0072】
(e)Yについて
は、分散強化により高温強度を向上させる重要な添加物である。Yの含有率が0.1重量%未満では分散強化の効果が小さく高温強度が低い。一方、0.5重量%を超えて含有すると、硬化が著しく加工性に問題が生じる。
このような理由からYの含有率は、0.1重量%~0.5重量%の範囲に規制した。

【0073】
(f)Niについて
Niは、焼き戻しマルテンサイト相を安定化させる元素であるが1重量%を超えて添加すると、相変態点の低下が著しく、高温での相安定性に問題が生じる。このような理由からNiの含有率は、1重量%以下、好ましくは0.05重量%~1重量%、さらに好ましくは0.3重量%~1重量%に規制した。

【0074】
各元素の含有率範囲を纏めて示せば下記の通りである。
Cr含有率 :8重量%~13重量%、好ましくは10.5重量%~13重量%
C含有率 :0.05重量%~0.25重量%
W含有率 :0.1重量%~3重量%
Ti含有率 :0.1重量%~1重量%
含有率:0.1重量%~0.5重量%
Ni含有率 :1重量%以下、好ましくは0.05重量%~1重量%、さらに好ましくは0.3重量%~1重量%。

【0075】
本発明に係るマルテンサイト系ODS鋼の基本組成は、11重量%Cr-0.15重量%C-1.4重量%W-0.4重量%Ni-0.3重量%Ti-0.35重量%Y-残部Feである。

【0076】
次に、本発明の具体的な実施例とその効果について、項目ごとに説明する。
(1)耐食性の向上
Cr含有率を8重量%以上とすることで、耐食性が向上していることを確認するため、700℃で1000時間の高温酸化試験(露点温度:30℃)、および720℃で1000時間の模擬FP(核分裂生成物)による腐食試験を実施し、その結果を以下に示す。

【0077】
(a)高温酸化試験
図4は、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)と、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の酸化による質量増加量を比較した図である。

【0078】
本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)の化学組成は、11重量%Cr-0.16重量%C-1.4重量%W-0.4重量%Ni-0.3重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト20.7体積%である。

【0079】
一方、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の化学組成は、17重量%Cr-14重量%Ni-1.8重量%Mn-2.6重量%Mo-0.06重量%C-Ti,Nb,V,Siである。

【0080】
また、図5は、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)と比較例である改良SUS316(PNC316)の酸化試験後の断面の組織を示す金相写真と試験体の外観写真である。

【0081】
この高温酸化試験から明らかなように、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM02)は、改良SUS316(PNC316)と同等の極めて優れた耐酸化性が付与されることが確認できた。

【0082】
なお、本試験に供したマルテンサイト系ODS鋼材料(HM02)は、プレミックス法で製造したものであるが、完全プレアロイ法で製造した場合、材料の均質性が高まるため、耐酸化性はプレミックス材と同等もしくはそれ以上となる。従って、表1に示した本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM08を除く)は、完全プレアロイ法で製造することにより、いずれも耐酸化性に関してプレミックス材と同等もしくはそれ以上となるものと推察される。

【0083】
(b)模擬FP腐食試験
図6は、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM05)と、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)を、CsOHとCsI(CsとIは主要な腐食性FP)を重量比1:1で混合した模擬FP中で腐食試験(720℃で1,000時間)を実施した結果を比較して示めす図である。

【0084】
本発明の仕様組成範囲内にあるHM05の化学組成は、12重量%Cr-0.15重量%C-1.9重量%W-0.8重量%Ni-0.3重量%Ti-0.36重量%Y-残部Feおよび不可避不純物である。

【0085】
一方、比較例である改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)の化学組成は、17重量%Cr-14重量%Ni-1.8重量%Mn-2.6重量%Mo-0.06重量%C-Ti,Nb,V,Siである。

【0086】
この模擬FP腐食試験は、両者とも初期厚さが3,000μmの試験片を用い、試験後、試験片を切断して母材全体の残留厚さと腐食によって形成された反応層の厚さを測定し、試験片の切断面の状態を写真に撮った。

【0087】
この模擬FP腐食試験から明らかなように、本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM05)の方が試験後の母材残留厚さは厚く、また反応層厚さは薄く、改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)と同等もしくはそれ以上の極めて優れた耐模擬FP腐食性が付与されることが確認できた。

【0088】
なお、本試験に供したマルテンサイト系ODS鋼材料はプレミックス法で製造したものであるが、完全プレアロイ法で製造した場合、材料の均質性が高まるため、耐腐食性はプレミックス材と同等もしくはそれ以上となる。従って、表1に示した本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM08を除く)は、完全プレアロイ法で製造することにより、いずれも耐腐食性に関してもプレミックス材と同等もしくはそれ以上となるものと推察される。

【0089】
(2)延性・靭性の改善
本発明の仕様組成範囲内にあり、かつ完全プレアロイ法で製造したマルテンサイト系ODS鋼(HA01)とプレミックス11Cr-ODS鋼(HM02)のサブサイズシャルピー衝撃試験を実施した。

【0090】
なお、完全プレアロイ法で製造したマルテンサイト系ODS鋼(HA01)は図1で説明した方法で製造したものであり、それの化学組成は、11重量%Cr-0.14重量%C-1.3重量%W-0.4重量%Ni-0.2重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト含有率は21.3体積%である。
また、プレミックス11Cr-ODS鋼(HM02)の化学組成は、11重量%Cr-0.16重量%C-1.4重量%W-0.4重量%Ni-0.3重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト20.7体積%で、HA01とほぼ同一化学組成である。

【0091】
各衝撃試験片のサイズは、3.3mm×3.3mm×20mm、ノッチ深さは0.51mm、ノッチ先端の曲率半径は0.08mm、ノッチ角度は30°である。

【0092】
図7は、各種鋼種のシャルピー衝撃試験結果を示す特性図である。図中の▲印の特性曲線はプレミックスのマルテンサイト系ODS鋼(HM02)の特性曲線、■印の特性曲線は完全プレアロイのマルテンサイト系ODS鋼(HA01) の特性曲線、◆印の特性曲線は靭性が極めて優れているとされている従来のPNC-FMSの特性曲線である。

【0093】
また、下記の表2は、各種鋼種の延性-靭性遷移温度(DBTT)および延性領域での単位断面積当たりの破壊に必要な上部棚エネルギー(USE)をまとめて示した表である。

【0094】
なお、表2中に示した比較例のプレミックスのマルテンサイト系ODS鋼(9Cr-O
DS)の化学組成は、9.0重量%Cr-0.14重量%C-2.0重量%W-0.01重量%Ni-0.3重量%Ti-0.36重量%Y-残部Feおよび不可避不純物である。

【0095】
本試験では、フルサイズ(10mm×10mm×55mm)ではなく、サブサイズ(3.3mm×3.3mm×20mm)の衝撃試験片を用いているため、フルサイズ試験よりも低いUSE値が出ている。すなわち、シャルピー衝撃試験の比較は、同一試験片サイズの試料について、相対評価することが基本であることに注意が必要である。
【表2】
JP0006270197B2_000003t.gif

【0096】
完全プレアロイのマルテンサイト系ODS鋼(HA01)は、プレミックス11Cr-ODS鋼(HM02)ならびにプレミックス鋼9Cr-ODS鋼に対して、USEの著しい改善が見られる。

【0097】
通常、酸化物粒子を分散させると、高温強度は向上するものの、材質が硬くなるため、靭性が低下する。しかし、完全プレアロイ材の場合、酸化物分散強化していないで靭性が極めて優れているとされている従来のPNC-FMSに近いレベルの衝撃特性が得られる。その理由は、完全プレアロイ法によりマルテンサイト系ODS鋼を製造すると、プレミックス法により製造されたものに比べて、焼き戻しマルテンサイト鋼の内部に存在する酸化物などの介在物を低減できるためであると考えられる。

【0098】
図7ならびに表2の結果から、完全プレアロイ法で製造されたマルテンサイト系ODS鋼は、衝撃特性が著しく改善されることを確認した。従って、表1に示した本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM08を除く)は、完全プレアロイ法で製造することにより、いずれも衝撃特性に関してプレミックス材と同等もしくはそれ以上となるものと推察される。

【0099】
(3)高温特性(変態点温度および高温強度)の向上
本発明では、マルテンサイト系ODS鋼の変態点温度および高温強度を高めるために、メニカルアロイング法により、熱力学安定性が高く、高温でも安定なY粒子を、焼き戻しマルテンサイトを主体とする母相に微細かつ高密度に分散させる。

【0100】
このように酸化物粒子が母相に微細かつ高密度に分散していることを確認するため、透過型電子顕微鏡写真(TEM)による微細組織観察を実施した。そして酸化物粒子の効果を確認するため、熱機械分析装置を用いて変態点温度の測定と高温での引張試験およびクリープ試験を実施した。

【0101】
(a)Yの添加による酸化物粒子の形成
図8は、本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼(HA01:11重量%Cr-0.14重量%C-1.3重量%W-0.4重量%Ni-0.2重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト含有率は21.3体積%)の透過型電子顕微鏡写真(TEM)である。

【0102】
図8(a)は焼き戻しマルテンサイト領域での酸化物粒子の分散状態、図8(b)は残留αフェライト領域での酸化物粒子の分散状態を示している。図8(a)、(b)とも図中の黒点が、酸化物粒子(Y)である。

【0103】
図8から明らかなように、母相組織中には材料の強化に寄与する直径数nm程度の酸化物粒子(Y)が高密度に分散しており、Yの添加により大きな分散強化が期待できることが分かった。

【0104】
(b)分散粒子による変態点温度の上昇
下記の表3は、本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼(HA01)と、比較例である9Cr-ODS鋼(9A01)のAc1変態点を測定した結果を示す表である。

【0105】
マルテンサイト系ODS鋼(HA01)の化学組成は、11重量%Cr-0.14重量%C-1.3重量%W-0.4重量%Ni-0.2重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物で、残留αフェライト含有率は21.3体積%である。一方、9Cr-ODS鋼(9A01)の化学組成は、8.9重量%Cr-0.14重量%C-2.0重量%W-0.02重量%Ni-0.2重量%Ti-0.34重量%Y-残部Feおよび不可避不純物である。
【表3】
JP0006270197B2_000004t.gif

【0106】
酸化物分散強化されていない通常の耐熱鋼のAc1変態点は800℃前後である。例えば、Grade91(9重量%Cr-1重量%Mo)鋼の場合のAc1変態点は820℃(非特許文献5参照)、PNC-FMSの場合のAc1変態点は785~825℃である(非特許文献6参照)。

【0107】
一方、ODS鋼の場合、Ac1変態点は一般的な耐熱鋼のAc1変態点よりも高く、酸化物分散粒子によりAc1変態点が高められることが確認できた。また、Ac3変態点においても高められることが確認できた。

【0108】
通常、Niを添加すると変態点温度は低下するが、本発明の仕様範囲内のマルテンサイト系ODS鋼はNiを含有するにも関わらず、高速炉用燃料被覆管の使用温度に裕度を持たせた目安である850℃以上となっており、分散粒子による変態点温度の上昇が確認された。

【0109】
(c)分散強化による高温引張強度の向上
図9は、各種鋼種の高温(700℃)での引張試験結果を示す特性図で、下段に引張強さ、上段に破断伸びを示している。

【0110】
試験片として、本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼HA01ならびに本発明の仕様範囲内でプレミックスのHM02、比較例としての9Cr-ODS鋼(9A01)、従来型の強化機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)に基づく高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)、および改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)を用いている。

【0111】
本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼HA01ならびにHA01とほぼ同一化学組成でプレミックスのHM02の高温(700℃)での引張強さは、比較例の9Cr-ODS鋼(9A01)鋼より若干低いがほぼ同等であり、従来型の強化機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)に基づく高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)を大きく上回っている。

【0112】
また、本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼HA01の破断伸びは、HA01とほぼ同一化学組成でプレミックスのHM02を大きく上回っており、比較例の9Cr-ODS(9A01)鋼よりも高く、従来型の強化機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)に基づく高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)とほぼ同等である。なお、完全プレアロイ法で製造された前記HA01の特性は、鋼の清浄性(均一性)の向上が引張特性の改善にも有効であることを確認したことになる。従って、表1に示した本発明の仕様組成範囲内にあるマルテンサイト系ODS鋼(HM08を除く)は、完全プレアロイ法で製造することにより、いずれも破断伸びに関しても従来型の強化機構に基づく鋼種とほぼ同等になるものと推察される。

【0113】
(d)分散強化によるクリープ強度の向上
図10は、各種鋼種の高温(700℃)でのクリープ試験結果を示す特性図である。試験片として、本発明の実施例に係るマルテンサイト系ODS鋼HA01(●印表示)、HM01(▲印表示)ならびにHM02(◆印表示)、比較例としての9Cr-ODS(9A01■印表示)、従来型の強化機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)に基づく高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)、および改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)を用いている。

【0114】
この図から明らかなように、本発明の実施例に係るHA01、HM01ならびにHM02などの高Cr-ODS鋼のクリープ強度は、従来型の強化機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)に基づく高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)や9Cr-ODS鋼と比較すると高いクリープ強度を有する。

【0115】
長時間でのクリープでは析出物の粗大化などにより、強化量が低下するため、従来型の機構(炭窒化物析出強化、固溶強化)で強化された高強度フェライト/マルテンサイト鋼(PNC-FMS)や改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)は、長時間でのクリープ強度の低下がマルテンサイト系ODS鋼に比べて大きい。

【0116】
一方、マルテンサイト系ODS鋼の場合、Y添加による酸化物分散組織が高温でも長時間安定であり、分散強度が長期間に渡って維持されていることを示している。

【0117】
このように本発明による母相中への微細かつ高密度な酸化物粒子分散は、変態点の上昇および高温強度の向上をもたらすことが確認できた。さらに、酸化物粒子分散は高温においても長時間安定であるため、優れた耐久性を付与することができる。

【0118】
本発明の効果を簡単に纏めれば、下記の通りである。
(a)耐食性(燃料共存性、高温酸化特性):改良SUS316オーステナイトステンレス鋼(PNC316)と同等もしくはそれ以上確保できる。
(b)靭性:完全プレアロイ法の採用により、延性および靭性が飛躍的に改善され、従来型の溶解鋳造耐熱鋼と同等に確保できる。
(c)高温強度:従来型の溶解鋳造耐熱鋼よりも格段に改善され、従来の9Cr-ODS鋼と同等に確保できる。
(d)高温相安定性:従来型の溶解鋳造耐熱鋼よりも格段に改善され、従来の9Cr-ODS鋼と同等(Ac1変態点>850℃)に確保できる。
(e)メカニカルアロイングによるY粉末分散により、高温での強度および相安定性の改善が図れる。
【符号の説明】
【0119】
1:真空溶解炉、
2:合金の溶湯
3:溶解炉格納容器、
4:Arガス源、
5:Arガス噴出ノズル、
6:噴霧された溶湯、
7:密閉容器、
8:捕集容器、
9:プレアロイ粉末、
10:酸化物(Y)粉末、
11:アトライタ、
12:摩砕ボール、
13:回転羽根、
14:駆動軸、
15:メカニカルアロイング(MA)粉末、
16:カプセル、
17:ダイス、
18:高圧荷重、
19:熱間押出棒。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9