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明細書 :ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6344968号 (P6344968)
公開番号 特開2015-214499 (P2015-214499A)
登録日 平成30年6月1日(2018.6.1)
発行日 平成30年6月20日(2018.6.20)
公開日 平成27年12月3日(2015.12.3)
発明の名称または考案の名称 ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤
国際特許分類 A61K  38/36        (2006.01)
A61P   7/02        (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
C07K  14/745       (2006.01)
FI A61K 38/36 ZNA
A61P 7/02
A61P 37/06
C07K 14/745
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2014-097202 (P2014-097202)
出願日 平成26年5月8日(2014.5.8)
審査請求日 平成29年4月24日(2017.4.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】日臺 智明
【氏名】北野 尚孝
【氏名】真宮 淳
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】井関 めぐみ
参考文献・文献 国際公開第2013/162078(WO,A1)
国際公開第1998/029453(WO,A1)
The Journal of Biological Chemistry,1994年,Vol.269, No.41,p.25494-25501
調査した分野 A61K 38/36
A61P 7/02
A61P 37/06
C07K 14/745
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
【請求項2】
以下の(a)若しくは(b)のペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
【請求項3】
非ヒト被験動物に請求項1又は2記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表出抑制剤を含む、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制用の医薬組成物。
【請求項5】
抗リン脂質抗体症候群の治療又は予防に用いるものである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する疾患の治療又は予防に用いるものである、請求項4記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜の内側に偏在しているホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤等に関する。詳しくは、細胞膜の内側に偏在しているPSの細胞膜の外側(細胞表面)への表出を抑制する活性を有するペプチドを含む、前記表出抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、血液凝固反応の過程において、凝固第11因子と凝固第7因子により、重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部(Activation peptide(F9-AP))が切断され、活性化される。切断後も重鎖と軽鎖はジスルフィド結合によりつながっており、1つの分子として、血液凝固反応を促進する(非特許文献1)。しかしながら、中間部であるF9-APの機能についての報告はほとんどない。
【0003】
ところで、抗リン脂質抗体症候群(Anti-phospholipid antibody syndrome; APS)は、リン脂質に対する自己抗体によって発症する自己免疫疾患の一種である。APSでは、リン脂質の中でもホスファチジルセリン(PS)やカルジオリピンなどが、細胞表面等に表出して抗原となり発症する場合が多く、習慣性流産や血栓症(脳梗塞、肺梗塞など)を引き起こす。全国で10000人程度の患者がいると推定されており、若年性脳梗塞を起こす第一の要因である。特に問題となるのは、劇症型のAPSであり、全身に微小血栓形成を生じて多臓器不全をきたし、生命予後も悪い。
【0004】
従来、APSの治療に当たっては、抗凝固療法、大量ステロイド療法、血漿交換、血漿吸着などが併用されているが、確立した治療法は存在しない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Textbook of Medical Physiology, 10e. Arthur C. Guyton MD
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、細胞膜の内側の脂質膜に偏在するホスファチジルセリン(PS)が外側の脂質膜に表出(いわゆる外転)するのを抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤の開発が望まれていた。特に、PSが抗原となって発症しているAPS患者においては、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制することが、自己免疫反応の抑制に重要であることから、前記表出抑制剤の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、PSの細胞表面への表出抑制剤や、当該表出抑制剤を含む医薬組成物等を提供するものである。
【0008】
(1)血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
【0009】
(2)以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤。
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
(c) 配列番号10に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
【0010】
(3)被験動物に上記(1)又は(2)記載の表出抑制剤を投与することを特徴とする、ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制方法。
(4)上記(1)又は(2)記載の表出抑制剤を含む、医薬組成物。
上記(4)の医薬組成物としては、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物や、過剰な血栓もしくは塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物等が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞の細胞膜の内側に偏在するホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出を効果的に抑制することができる、PSの細胞表面への表出抑制剤を提供することができる。
本発明の表出抑制剤は、凝固第9因子(F9)の重鎖(トリプシンドメイン)と軽鎖との間に存在する中間部のペプチド(F9-APペプチド)を含むものであるが、正常細胞に対する障害性は低く、副作用等が無いものと推察される。しかも、本発明の表出抑制剤は、従来、有効な治療法が無かった抗リン脂質抗体症候群(APS)に対し、自己抗体の標的抗原となり得るPSが細胞表面に表出するのを抑制できるため、自己免疫反応を顕著に抑制でき、従来の治療法に比べて飛躍的に治療効果を向上させ得るという顕著な効果を奏する点で、極めて有用なものである。
【0012】
さらに、ヒトF9由来のF9-APペプチドは、内因性のタンパク質の一部であるため抗原性や毒性の問題がなく、血液凝固因子の一部ではあるものの、それだけでは凝固反応には影響しないため凝固に関連する副作用が起こる可能性も低い。また、F9-APペプチドは45残基のアミノ酸からなるペプチドであるため、安価に合成することもできる。そのため、このような安全性や経済性の面からも、当該ペプチドを含む前記表出抑制剤は、技術的有用性及び実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】後述する参考例1における結果を示す図である。具体的には、F9-EGF1ペプチドが、PSの細胞表面への外転(表出)を亢進する結果を示す図である。なお、図1は、ヒト扁平上皮癌由来培養細胞(A431細胞)をPS検出プローブであるp-SIVAとAnnexin Vで染色し、培養皿の上方向から共焦点顕微鏡を用いて撮影し蛍光検出した結果である。

【0014】
【図2】本願実施例1における結果を示す図である。具体的には、F9-EGF1ペプチドによるPSの細胞表面への外転(表出)亢進効果が、F9-APペプチドにより抑制され得る結果を示す図である。なお、図2は、ヒト扁平上皮癌由来培養細胞(A431細胞)をPS検出プローブであるp-SIVAで染色し、培養皿の上方向から共焦点顕微鏡を用いて撮影した透過像と、蛍光検出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

【0016】

1.ホスファチジルセリンの細胞表面への表出抑制剤
本発明のホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制剤(以下、本発明の表出抑制剤ということがある。)は、前述のとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長から重鎖であるトリプシンドメイン部分と軽鎖部分とを除いた部分(すなわちF9-APペプチド)を含むペプチド、その誘導体、あるいはこれらの塩を含むものである。
本発明の表出抑制剤による、PSの細胞表面への表出抑制の対象となる細胞は、特に限定はされないが、PSの細胞表面への表出が異常に亢進している細胞などが好ましく挙げられ、例えば、活性化された血小板等が挙げられる。

【0017】
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号12;GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列(配列番号2;計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である。したがって、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号11に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1417番目の塩基からなるDNAであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号1に示される塩基配列(すなわち、配列番号11に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。

【0018】
F9の全長(配列番号2)は、重鎖(すなわちF9のトリプシンドメイン)(配列番号4)と軽鎖(配列番号6)と、これらの間に存在する中間部(F9-APペプチド)(配列番号10)から構成されるものである。F9-EGF1ペプチド(配列番号8)は、上記軽鎖(配列番号6)の一部からなるペプチドである。
ここで、上記配列番号4、6、8及び10に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号3、5、7及び9に示される塩基配列である。

【0019】
本発明の表出抑制剤は、具体的には、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a) 配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。

【0020】
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の表出抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。

【0021】
また本発明の表出抑制剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b) 配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。

【0022】
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。

【0023】
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(c)のペプチドも挙げられる。
(c) 配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性(相同性)を有するアミノ酸配列を有し、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチド。
当該(c)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドが好ましい。

【0024】
さらに、当該(c)のペプチドとしては、配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し(又は当該アミノ酸配列からなり)、かつ、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するペプチドも好ましく挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。

【0025】
本発明において、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制活性とは、細胞膜の内側の脂質膜に存在する(偏在する)PSを、細胞膜の外側の脂質膜に外転させ、PSを細胞表面に表出させることを抑制する活性を意味する。当該活性は、例えば、蛍光物質等により標識化したPS結合タンパク質(Annexin等)を用いる蛍光検出法や、免疫染色法等を用いて評価及び測定することができる。

【0026】
本発明の表出抑制剤に含まれる前記(a)~(c)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(c)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。

【0027】
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。

【0028】
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。

【0029】
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。

【0030】
本発明の表出抑制剤は、前記(a)~(c)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris-HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(PSの細胞表面への表出抑制活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3 ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5 ng/ml、さらに好ましくは0.3~2 ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5 ng/ml、特に好ましくは0.6~1 ng/ml、最も好ましくは0.8~1 ng/mlである。

【0031】
本発明においては、本発明の表出抑制剤を用いる、PSの細胞表面への表出抑制方法を提供することができる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の表出抑制剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の表出抑制剤の投与方法、用法、用量等については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の表出抑制剤を投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(c)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。

【0032】

2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1) DNA
本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号9に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。

【0033】
また本発明においては、前記(a)~(c)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件等が挙げられる。

【0034】
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性(同一性)検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号9に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の同一性(相同性)を有するDNAであって、PSの細胞表面への表出抑制活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。

【0035】
(2) DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。

【0036】
(3) 形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。

【0037】

3.医薬組成物
本発明の表出抑制剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(c)のペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、抗リン脂質抗体症候群(APS)の治療又は予防に用いる医薬組成物であることが好ましい。また、本発明の医薬組成物としては、過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)の治療又は予防に用いる医薬組成物も好ましく挙げられる。当該各種疾患としては、より具体的には、例えば、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患(急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞)、末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成などが好ましく挙げられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の表出抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。

【0038】
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の表出抑制剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。

【0039】
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の表出抑制剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。

【0040】
なお、本発明の一態様としては、抗リン脂質抗体症候群(APS)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とするAPSの治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、APSを治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。

【0041】
同様に、本発明の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患(例えば、既存の抗血小板薬の適用がある各種疾患)を治療又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。また、本発明の他の一態様としては、本発明の表出抑制剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患の治療又は予防方法も含まれる。さらに、本発明の他の一態様としては、前述の過剰な血栓・塞栓形成に起因する各種疾患を治療又は予防するための、本発明の表出抑制剤の使用も含まれる。ここでいう各種疾患のより具体的な例としては、前記列挙したものが同様に適用できる。

【0042】

4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の表出抑制剤を含むことを特徴とする、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への表出抑制用キットも提供される。
本発明のキットは、本発明の表出抑制剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。

【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【0044】

[製造例1]
以下の実施例においては、本発明の表出抑制剤に用いるペプチドとして、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるF9-APペプチド、及び、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるF9-EGF1ペプチドを用いた。本発明の表出抑制剤に用いるペプチドは、適宜、そのC末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることもできる。以下の実施例では、F9-APペプチドは、化学合成により作製したものを用い、F9-EGF1ペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として作製したものを用いた。

【0045】
なお、当該融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9-EGF1ペプチド)をコードするcDNA(具体的には、配列番号7に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9全体の遺伝子配列(配列番号11)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。

【0046】

[参考例1]
細胞表面(細胞膜の外側の脂質膜)に表出するホスファチジルセリン(PS)を、蛍光標識化PS結合タンパク(Annexin及びp-SIVA)を用いて検出した。
具体的には、各培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(A431細胞)を疎らに播いて、37℃で60分間培養した。その後、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9-EGF1ペプチド(1 pmol/ml)と、蛍光標識化PS結合タンパク質(Annexin V 及びp-SIVA)とを添加した後、5分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、共焦点顕微鏡を用いて撮影して蛍光検出した。その結果、当該ペプチドの添加から5分後には、A431細胞の細胞表面(細胞外)にPSが表出していることが確認された。この結果を図1に示した。

【実施例1】
【0047】
F9-APペプチドによるPSの細胞表面への表出抑制活性の有無を、上記参考例1と同様に培養したA431細胞を用いて検討した。
具体的には、参考例1と同様にして、A431細胞を60分間培養し、その後、培養液中に、コントロールペプチド、及びF9-APペプチド(10 pmol/ml)を添加して30分培養した。さらに、培養液中に、AP(陰性コントロール)、及びF9-EGF1ペプチド(1 pmol/ml)を添加した。参考例1と同様に、蛍光標識化PS結合タンパク質(p-SIVA)や共焦点顕微鏡を用いて、透過像の撮影と蛍光検出を行った。その結果を図2に示した。
【実施例1】
【0048】
図2から分かるとおり、F9-EGF1ペプチドのみを添加した場合の細胞では、細胞表面にPSが表出していることが確認された。他方、F9-EGF1ペプチドとF9-APペプチドを添加した場合(F9-EGF1/F9-AP)の細胞では、細胞表面へのPSの表出は確認されなかった。この結果から、F9-APペプチドは、PSの細胞表面への表出を効果的に抑制し得るものであることが実証された。
図面
【図1】
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【図2】
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