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明細書 :耐水蒸気腐食性多層皮膜、およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6399510号 (P6399510)
公開番号 特開2016-069229 (P2016-069229A)
登録日 平成30年9月14日(2018.9.14)
発行日 平成30年10月3日(2018.10.3)
公開日 平成28年5月9日(2016.5.9)
発明の名称または考案の名称 耐水蒸気腐食性多層皮膜、およびその製造方法
国際特許分類 C04B  41/87        (2006.01)
C04B  41/89        (2006.01)
B32B   9/00        (2006.01)
F01D   5/28        (2006.01)
FI C04B 41/87 A
C04B 41/89 K
B32B 9/00 A
F01D 5/28
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2014-200781 (P2014-200781)
出願日 平成26年9月30日(2014.9.30)
審査請求日 平成29年6月21日(2017.6.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】上野 俊吉
【氏名】瀬谷 恭佑
【氏名】古川 裕貴
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100126882、【弁理士】、【氏名又は名称】五十嵐 光永
【識別番号】100175824、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 淳一
審査官 【審査官】有田 恭子
参考文献・文献 特開2005-097007(JP,A)
特開2008-308374(JP,A)
特開2005-097061(JP,A)
特開2008-137860(JP,A)
特開2002-104892(JP,A)
国際公開第2011/122219(WO,A1)
特開2007-197320(JP,A)
特開平07-277861(JP,A)
特開2004-067480(JP,A)
調査した分野 C04B 41/87,41/89
B32B 9/00
F01D 5/28
特許請求の範囲 【請求項1】
炭化ケイ素複合材料からなる基材上に形成される耐水蒸気腐食性多層皮膜であって、
粒界ガラス相を内在させずに形成した、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる共晶構造層と、該共晶構造層と前記基材との間に形成され、前記金属酸化物と金属炭化物とを含み、前記基材に近づくほど前記金属炭化物の含有割合が高められた組成傾斜層と、を備え、前記共晶構造層は、HfOまたはZrOを含むことを特徴とする耐水蒸気腐食性多層皮膜。
【請求項2】
前記組成傾斜層は、前記共晶構造層に接する領域がHfOまたはZrOからなり、前記基材に接する領域がHfCまたはZrCからなることを特徴とする請求項記載の耐水蒸気腐食性多層皮膜。
【請求項3】
前記共晶構造層は、HfOおよびAlとの共晶構造体、またはZrOおよびCaZrOとの共晶構造体であることを特徴とする請求項または記載の耐水蒸気腐食性多層皮膜。
【請求項4】
炭化ケイ素複合材料からなる基材上に共晶組成物を含む塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を加熱して前記共晶組成物のみを短時間溶融させて、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる共晶構造層、および該共晶構造層と前記基材との間に形成され、前記金属酸化物と金属炭化物とを含み、前記基材に近づくほど前記金属炭化物の含有割合が高められた組成傾斜層からなる耐水蒸気腐食性多層皮膜を前記基材上に形成する加熱工程と、を備えたことを特徴とする耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、集光加熱熱源によって前記塗膜の前記共晶組成物のみを溶融させ、その後、前記基材と前記集光加熱熱源とを相対移動させることを特徴とする請求項記載の耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記共晶構造層はHfOまたはZrOを含み、
前記加熱工程は、加熱によって前記炭化ケイ素複合材料の一部を分解させ、分解によって生じた炭素で、溶融させた共晶組成物を還元雰囲気にして、HfOまたはZrO以外の酸化物の一部を蒸発させることにより、HfCまたはZrCを生じさせて、前記組成傾斜層を形成することを特徴とする請求項または記載の耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水蒸気腐食性多層皮膜に関するものであり、更に詳しくは、炭化ケイ素複合材料上にコーティングされる耐水蒸気腐食性多層皮膜、およびその製造方法に関するものである。本発明は、強度等の機械的性質に優れ、高温下での耐酸化性、耐食性が要求される、特に高温ガスタービン用部材又は自動車エンジン用部材あるいは超高速航空機用耐熱部材等の技術分野において、1000~1500℃の高温下で水蒸気が存在する環境においても、高温における水蒸気腐食に起因する腐食の促進を抑制することが可能な、炭化ケイ素複合材料の耐水蒸気腐食性多層皮膜を提供するものであり、特に、本発明は、化石燃料を燃焼することにより20%ほどの高い水蒸気成分が存在するとされる燃焼場に晒される、ガスタービンの部材に炭化ケイ素複合材料を応用する際に、高温での基材の腐食を抑制することができる耐水蒸気腐食性多層皮膜を提供するものとして有用である。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素複合材料は、高温における耐熱性、耐熱衝撃性及び耐クリープ特性に優れ、このような優れた機械特性から、ガスタービン用部品などの構造部材への適用がなされている。しかし、これらの炭化ケイ素複合材料は、1300℃以上の温度になると、酸化の進行による劣化が問題となるため、高温での利用には支障が生じる。これに対し、酸化物セラミックスは、耐熱性、耐酸化性には優れているが、高温における強度、靭性等の機械的特性が低い。従って、炭化ケイ素複合材料も酸化物セラミックスも、単独では耐熱性及び耐酸化性と高温下での使用に耐える機械特性との双方を満足させることができなかった。
【0003】
炭化ケイ素複合材料が高温域で劣化する機構は、1600℃までの高温で酸化して表面にシリカを生成し、更に高温になると、蒸気相のSiOを生成し、SiOが昇華するため減肉しながら損耗する。高温で水蒸気が存在する環境下では、酸化に加えて水蒸気による腐食が生じ、損耗が加速され、更にガスタービン燃焼場のような高速気流中ではエロージョン効果も加わり減肉が加速される。従って、炭化ケイ素複合材料をガスタービン部材として応用する際には高温における酸化、水蒸気腐食を防止する耐腐食層を形成させる必要がある。
【0004】
炭化ケイ素複合材料が酸化して形成するシリカ層は、炭化ケイ素複合材料との密着性は良いものの、シリカ層と炭化ケイ素複合材料との熱膨張係数が大きく異なるため、シリカ層及び炭化ケイ素複合材料の表層に大きなクラックが生じ、炭化ケイ素複合材料の強度が低下することが知られている。従って、高温環境下における炭化ケイ素複合材料の酸化、水蒸気腐食を防止することができる耐腐食層としては、酸素分子或いは水蒸気分子を通さない緻密な皮膜であることが必要であり、高温に長時間晒されても構造変化を起こさず、高温耐水蒸気腐食性に優れる相を選択する必要がある。
【0005】
高温環境下での耐水蒸気腐食性に優れるシリケート化合物としては、希土類シリケート及びムライトが広く知られている。しかし、PVD(Physical Vapor Deposition)法等により成膜されるムライト層は、成膜時には緻密な層を形成するものの、長時間ガスタービン実機相当の環境下に晒されると、ムライト層の下層にある炭化ケイ素複合材料が酸化し、大きなクラックが生じると報告されている。
【0006】
また、希土類酸化物-シリカ系皮膜を成膜した非酸化物セラミックス構造体に関しては、文献(特許文献1、2、3参照)に記載されているように、希土類がY、Yb、Er及びDyに限り、その希土類シリケート被覆した窒化ケイ素セラミックス構造体が知られている。希土類がLuである、ルテチウムシリケートを、窒化ケイ素セラミックスへ成膜して、静的な環境下における水蒸気腐食を有効に抑制し得ることも知られている。また、ムライト相とイッテリビウムシリケート(YbSi)相の間には共晶が存在すること自体は知られている。
【0007】
酸化物セラミックス、特にシリケート系化合物の水蒸気腐食では、結晶粒界相として存在するシリカ(以下、粒界ガラス相と称する場合がある)が最初に腐食されることが知られている。粒界ガラス相が腐食されると、結晶粒同士の結合が弱くなり高速気流中では結晶粒そのものが吹き飛ばされることは容易に予測されることである。更に、粒界ガラス相の腐食により、耐腐食層に酸素や水蒸気分子が容易に通過し、基材の非酸化物セラミックスまで達するオープンポアが形成されることは容易に予測される。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平11-139883号公報
【特許文献2】特開平11-12050号公報
【特許文献3】特開平10-87386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術における諸問題を抜本的に解決することを可能とする、炭化ケイ素複合材料に適用するための新しい耐水蒸気腐食性多層皮膜の開発を目標として鋭意研究を積み重ねた。その結果、高温環境下での水蒸気による腐食の原因となる粒界ガラス相を排除した、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる共晶構造層を備えた耐水蒸気腐食性多層皮膜を見出した。また、こうした粒界ガラス相を排除した耐水蒸気腐食性多層皮膜を容易に形成する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)1300℃を超える高温で水蒸気が存在する環境下においても水蒸気腐食による基材の酸化と腐食、すなわち、材料の損耗(減肉)を抑制する、(2)共晶組織を利用することにより緻密な層を形成することができる、(3)粒界ガラス相が排除された皮膜であるために粒界腐食により生じることが懸念される皮膜中のオープンポア生成を抑制することができる、(4)長時間安定に組織を維持することができる、等の特性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜、およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係る耐水蒸気腐食性多層皮膜は、炭化ケイ素複合材料からなる基材上に形成される耐水蒸気腐食性多層皮膜であって、粒界ガラス相を内在させずに形成した、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる共晶構造層と、該共晶構造層と前記基材との間に形成され、前記金属酸化物と金属炭化物とを含み、前記基材に近づくほど前記金属炭化物の含有割合が高められた組成傾斜層と、を備え、前記共晶構造層は、HfOまたはZrOを含むたことを特徴とする。
【0013】
)前記組成傾斜層は、前記共晶構造層に接する領域がHfOまたはZrOからなり、前記基材に接する領域がHfCまたはZrCからなることを特徴とする。
【0014】
)前記共晶構造層は、HfOおよびAlとの共晶構造体、またはZrOおよびCaZrOとの共晶構造体であることを特徴とする。
【0015】
)本発明の一態様に係る耐水蒸気腐食性多層皮膜は、炭化ケイ素複合材料からなる基材上に共晶組成物を含む塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を加熱して前記共晶組成物のみを短時間溶融させて、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる共晶構造層、および該共晶構造層と前記基材との間に形成され、前記金属酸化物と金属炭化物とを含み、前記基材に近づくほど前記金属炭化物の含有割合が高められた組成傾斜層からなる耐水蒸気腐食性多層皮膜を前記基材上に形成する加熱工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
)前記加熱工程は、集光加熱熱源によって前記塗膜の前記共晶組成物のみを溶融させ、その後、前記基材と前記集光加熱熱源とを相対移動させることを特徴とする。
【0017】
)前記共晶構造層はHfOまたはZrOを含み、前記加熱工程は、加熱によって前記炭化ケイ素複合材料の一部を分解させ、分解によって生じた炭素で、溶融させた共晶組成物を還元雰囲気にして、HfOまたはZrO以外の酸化物の一部を蒸発させることにより、HfCまたはZrCを生じさせて、前記組成傾斜層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、(1)1300℃を超える高温で水蒸気が存在する環境下においても水蒸気腐食による基材の酸化と腐食、すなわち、材料の損耗を抑制する、(2)複数の金属酸化物の共晶構造体を利用することにより緻密な層を形成することができる、(3)粒界ガラス相が排除された皮膜であるために、粒界腐食により生じることが懸念される皮膜中のオープンポア生成を抑制することができる、(4)長時間使用においても基材と耐腐食皮膜の反応による新たな相の生成を抑制する、(5)長時間安定に組織を維持することができる、等の特性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜を提供することができる、という効果が奏される。
また、こうした特性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜を、共晶組成物を含む塗膜を炭化ケイ素複合材料の表面に形成して、この共晶組成物のみを短時間溶融させるという簡易な方法で容易に製造可能な耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法を提供することができる、という効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を形成した炭化ケイ素複合材料を示す模式断面図である。
【図2】本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造に好適なFZ方式(Floating Zone Method)の結晶製造装置を示す模式図である。
【図3】本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を炭化ケイ素複合材料に形成した試料のSEM断面写真である。
【図4】共晶構造層を構成するAl-HfO共晶体のSEM写真である。
【図5】共晶構造層の表面のSEM写真である。
【図6】棒状の炭化ケイ素複合材料に本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を形成したものの外観写真である。
【図7】共晶構造層としてAl-HfO共晶体をもつ耐水蒸気腐食性多層皮膜を炭化ケイ素複合材料に形成した試料の、厚み方向に沿った元素濃度の変化を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。

【0021】
(耐水蒸気腐食性多層皮膜)
図1は、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を形成した炭化ケイ素複合材料を示す模式断面図である。
本実施形態の耐水蒸気腐食性多層皮膜10は、基材20の一面20aに形成された組成傾斜層11と、共晶構造層12とを備えている。
基材20としては炭化ケイ素複合材料が用いられる。炭化ケイ素複合材料は、非酸化物セラミックスの一種であり、SiCセラミックスに高強度・高剛性のSiC長繊維を複合化させることで,靭性・信頼性を向上させたものである。

【0022】
共晶構造層12は、複数の金属酸化物の共晶構造体からなる。共晶構造体を成す金属酸化物としては、例えば、Al、HfO、CaZrO、ZrOなどが挙げられる。こうした複数の金属酸化物の共晶構造体として、Al-HfO共晶体、CaZrO-ZrO共晶体を例示することができる。共晶構造層12は、これら複数の金属酸化物の真の共晶組成を含む緻密な皮膜である。

【0023】
共晶構造層12は、後述する製造工程において、共晶組成物を短時間加熱することによって共晶構造体を生成させる際に粒界ガラス相が排除され、粒界ガラス相を内在しない共晶構造体となる。粒界ガラス相は1100℃以上の高温で水蒸気及びアルカリ成分の存在雰囲気下で激しく腐食されるが、本発明の共晶構造層12は、粒界ガラス相を排除した複数の金属酸化物の共晶構造体であるため、例えば、1300℃を超える温度で、水蒸気分圧が30%までの過酷な条件下でも、水蒸気腐食による基材の酸化と腐食、すなわち、材料の損耗(減肉)を抑制する確実に防止できる優れた耐水蒸気腐食性を有する。

【0024】
共晶構造層12の厚みは、例えば、10μm以上、3000μm以下、より好ましくは100μm以上、500μm以下にすることが好ましい。共晶構造層12の厚みが10μm未満では、水蒸気腐食による基材の酸化と腐食の防止効果が少なくなる。また、共晶構造層12の厚みが3000μmを超える場合、短時間加熱によって共晶構造層12を形成することが難しくなる懸念がある。

【0025】
こうした共晶構造層12は、炭化ケイ素複合材料からなる基材20に直接接する構成とした場合、共晶構造層12の熱膨張係数と基材20との熱膨張係数の差によって、高温環境下で応力差が生じ、共晶構造層12が基材20から剥離する懸念がある。組成傾斜層11は、こうした共晶構造層12と基材20との間の応力緩和層であり、ケミカルポテンシャル差を小さくして、基材20と耐水蒸気腐食性多層皮膜10の反応による化合物の生成を抑制し、共晶構造層12を基材20に密着させる。

【0026】
組成傾斜層11は、共晶構造層12を構成する複数の金属酸化物がリッチな領域と、炭化ケイ素複合材料から基材20を構成するSiCが分解されて生じた炭素と上記金属酸化物を構成する金属とが反応して生じた金属炭化物がリッチな領域と、の間で、これら金属酸化物と金属炭化物との組成割合が段階的に変化している相からなる。

【0027】
具体的には、例えば、共晶構造層12がAl-HfO共晶体である時には、組成傾斜層11のうち共晶構造層12と接する領域はAl、HfOがリッチ(例えば、組成比で90%以上)な相とされる。一方、組成傾斜層11のうち基材20と接する領域はHfCがリッチ(例えば、組成比で90%以上)な相とされる。そして、こうしたAl、HfOがリッチな相からHfCがリッチな相に向かって、Al、HfOの割合が減少していくとともに、HfCの割合が増加していく。

【0028】
また、例えば、共晶構造層12がCaZrO-ZrO共晶体である時には、組成傾斜層11のうち共晶構造層12と接する領域はCaZrO、ZrOがリッチ(例えば、組成比で90%以上)な相とされる。一方、組成傾斜層11のうち基材20と接する領域はZrCがリッチ(例えば、組成比で90%以上)な相とされる。そして、こうしたCaZrO、ZrOがリッチな相からZrCがリッチな相に向かって、CaZrO、ZrOの割合が減少していくとともに、ZrCの割合が増加していく。

【0029】
このように、組成傾斜層11を形成することによって、共晶構造層12と炭化ケイ素複合材料からなる基材20との間の応力緩和を行い、かつ、ケミカルポテンシャルの差を小さくすることにより基材20と耐水蒸気腐食性多層皮膜10の反応による化合物の生成を抑制することができる。

【0030】
なお、組成傾斜層11は、共晶構造層12に接する領域から基材20に接する領域に向かって、複数の金属酸化物が必ずしも一様に(一定の割合で)漸減していく(金属炭化物が一様に漸増していく)構成でなくてもよい。組成傾斜層11におけるこれら複数の金属酸化物と金属炭化物との、厚み方向に沿った組成割合の変化は、非線形に変化するものであってもよく、限定されるものでは無い。

【0031】
以上のような構成の耐水蒸気腐食性多層皮膜10によれば、粒界ガラス相を内在せず、複数の金属酸化物の真の共晶組成を含む共晶構造体12によって、1300℃を超える温度で、水蒸気分圧が30%といった高温水蒸気環境下でも、水蒸気腐食による基材の酸化と腐食を確実に防止できる優れた耐水蒸気腐食性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜10を実現することができる。

【0032】
また、共晶構造体12と炭化ケイ素複合材料からなる基材20との間に、組成傾斜層11を形成することによって、共晶構造層12と基材20との間の応力緩和を行い、かつ、ケミカルポテンシャルの差を小さくすることにより基材20と耐水蒸気腐食性多層皮膜10の反応による化合物の生成を抑制する優れた耐水蒸気腐食性多層皮膜10を実現することができる。

【0033】
(耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法)
上述した耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法について説明する。
図2は、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造に好適なFZ方式(Floating Zone Method)の結晶製造装置を示す模式図である。
この結晶製造装置30は、試料Qを内部に保持する石英管31と、この石英管31の内部を不活性ガスで置換するガス供給機構32、試料Qの加熱熱源であるキセノンランプ33、キセノンランプ33の光(熱線)を試料Qに向けて集光させる楕円鏡34、試料Qの加熱の様子を外部から観察するための撮像装置35、試料Qを回転、上下動させる試料移動機構36などを備えている。

【0034】
上述した結晶製造装置30を用いて、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜10を、例えば、炭化ケイ素複合材料からなる棒状の基材20の表面に形成する場合、まず、基材20に対して共晶組成物を含む塗膜を形成する(塗布工程)。共晶組成物を含む塗膜としては、共晶構造体12をAl-HfO共晶体から構成する場合には、Al粉末とHfO粉末とを混合してペースト状にしたものが挙げられる。また、例えば共晶構造体12をCaZrO-ZrO共晶体から構成する場合には、CaZrO粉末とZrO粉末とを混合してペースト状にしたものが挙げられる。本実施形態では、塗膜としてAl粉末とHfO粉末とを混合してペースト状にしたものを用いた。

【0035】
次に、この塗膜を形成した基材20を短時間加熱によって溶融する(加熱工程)。こうした短時間加熱の方法としては、FZ方式の結晶製造装置30を用いた集光加熱が好ましい。まず、塗膜を形成した基材20からなる試料Qを石英管31の内部に固定し、石英管31の内部をガス供給機構32によって、例えばアルゴンガスで置換する。

【0036】
そして、キセノンランプ33を発光させて、生じた熱線を楕円鏡34で反射させ、基材20の一か所に集光させる。この時、熱線の焦点部分となった試料Qの表面、即ち塗膜は、3000℃程度に昇温される。そして、3000℃程度に加熱された、塗膜を構成するAl粉末とHfO粉末は瞬時に溶融される。

【0037】
また、キセノンランプ33による集光加熱と同時に、試料移動機構36によって試料Qを回転させつつ上下方向に沿って移動させる。本実施形態では、試料Qを下方向に移動させる。試料の移動速度は、試料Qのうち、3000℃程度に加熱された熱線の焦点部分の加熱時間が1~5秒程度となるような速度に設定される。

【0038】
こうした加熱工程で、共晶組成物であるAl粉末とHfO粉末とを含む塗膜を高温で短時間溶融させてから凝固させると、AlとHfOとが共晶反応を起こして、Al-HfO共晶体からなる共晶構造層12が形成される。また、塗膜を短時間溶融させる際に、粒界ガラス相が排除され、粒界ガラス相が内在しない、真のAl-HfO共晶体からなる共晶構造層12が形成される。

【0039】
一方、塗膜を短時間溶融させる際に、共晶構造層12と炭化ケイ素複合材料からなる基材20との間に、組成傾斜層11が形成される。Al粉末とHfO粉末とを含む塗膜が3000℃などの高温にされると、基材20と塗膜との境界付近において、炭化ケイ素複合材料を構成するSiCが分解して、Siが昇華するとともに、分解によって生じた炭素によって溶融させた共晶組成物が還元雰囲気なる。そして、HfO以外の酸化物であるAlの一部が蒸発するとともに、炭素が塗膜を構成するHfOのHfと反応してHfCが生成されることによる。これによって、共晶構造層12と接する領域はAl、HfOがリッチな相であり、基材20と接する領域はHfCがリッチな相であり、Al、HfOがリッチな相からHfCがリッチな相に向かって、Al、HfOの割合が減少していくとともに、HfCの割合が増加していくような組成傾斜層11が形成される。

【0040】
以上のような試料Qに形成した塗膜の短時間溶融を、試料Qを移動させることによって塗膜全体に行うことによって、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜10で覆われた炭化ケイ素複合材料からなる基材20を得ることができる。

【0041】
以上のような構成の耐水蒸気腐食性多層皮膜の製造方法によれば、共晶組成物を含む塗膜を炭化ケイ素複合材料からなる基材20に塗布して、集光加熱によって塗膜を短時間溶融~凝固させるだけで、1300℃を超える温度で、水蒸気分圧が30%といった高温水蒸気環境下でも、水蒸気腐食による基材の酸化と腐食を確実に防止できる優れた耐水蒸気腐食性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜10を、簡易な工程で容易に形成することができる。

【0042】
なお、上述した実施形態では、棒状の基材を用いた例示しているが、例えば、実際に航空機エンジンの動翼や静翼の製造に用いる場合には、より大型の集光加熱装置を用いて、これら動翼や静翼の表面形状に沿って熱線の集光焦点を移動させて、共晶組成物を含む塗膜の短時間溶融を行えばよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜の形成例、検証例を示す。
(1)図3に本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を炭化ケイ素複合材料に形成した試料のSEM断面写真を示す。また、図4に共晶構造層を構成するAl-HfO共晶体のSEM写真を示す。図4の写真において、白色の相はHfOであり、黒色の相はAlである。また、図5に共晶構造層の表面のSEM写真を示す。図4、図5より、これらAl-HfO共晶体は、粒界ガラス相を含まない真の共晶体であることが確認された。参考までに、棒状の炭化ケイ素複合材料に本発明の耐水蒸気腐食性多層皮膜を形成したものの外観写真を図6に示す。この図6の写真において、灰色になっている部位が、集光加熱によって形成した耐水蒸気腐食性多層皮膜である。
【実施例】
【0044】
(2)共晶構造層としてAl-HfO共晶体をもつ耐水蒸気腐食性多層皮膜を炭化ケイ素複合材料に形成した試料の、厚み方向に沿った元素濃度の変化を測定した。測定元素は、O,Hf,C,Al,Siとした。こうした測定結果のグラフを図7に示す。なお図7のグラフにおいて、厚みが0の位置を共晶構造層の表面とし、厚みが増加する方向に向かって、共晶構造層-組成傾斜層-基材(炭化ケイ素複合材料)の順に形成されている。
【実施例】
【0045】
図7によれば、Cは共晶構造層では少ないが、組成傾斜層では多く含まれており、高温によって拡散、反応して組成傾斜層でHfCとして存在としていることが確認された。また、Alは共晶構造層より下では殆ど含まれず、Cによる還元反応の過程でAlが蒸発していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明は、粒界ガラス相を内在せず、複数の金属酸化物の真の共晶組成を含む共晶構造体12によって、高温水蒸気環境下でも水蒸気腐食による基材の酸化と腐食を確実に防止できる優れた耐水蒸気腐食性を有する耐水蒸気腐食性多層皮膜10を実現することができる。
本発明は、強度等の機械的性質に優れ、高温下での耐酸化性、耐食性も備えた構造用材料、特に高温ガスタービン用部材又は自動車エンジン用部材あるいは超高速航空機用耐熱部材等を製造するための材料として好適な炭化ケイ素複合材料の耐水蒸気腐食性多層皮膜およびその製造方法を提供するものであり、さまざまな産業に利用することができる有用な材料を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
10 耐水蒸気腐食性多層皮膜
11 組成傾斜層
12 共晶構造層
20 基材(炭化ケイ素複合材料)
30 結晶製造装置(FZ)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6