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明細書 :レシチンオルガノゲル形成剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6241852号 (P6241852)
登録日 平成29年11月17日(2017.11.17)
発行日 平成29年12月6日(2017.12.6)
発明の名称または考案の名称 レシチンオルガノゲル形成剤
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
C09D 201/00        (2006.01)
C09D   7/12        (2006.01)
C09D  11/03        (2014.01)
C10M 141/10        (2006.01)
A61K   8/55        (2006.01)
A61K   8/365       (2006.01)
A61K   8/00        (2006.01)
A61K   8/92        (2006.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61K  47/12        (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61K  47/44        (2017.01)
C10M 137/02        (2006.01)
C10M 129/26        (2006.01)
FI C09K 3/00 103M
C09D 201/00
C09D 7/12
C09D 11/03
C10M 141/10
A61K 8/55
A61K 8/365
A61K 8/00
A61K 8/92
A61K 9/06
A61K 47/12
A61K 47/24
A61K 47/44
C10M 137/02
C10M 129/26
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2014-516860 (P2014-516860)
出願日 平成25年5月24日(2013.5.24)
国際出願番号 PCT/JP2013/064442
国際公開番号 WO2013/176243
国際公開日 平成25年11月28日(2013.11.28)
優先権出願番号 2012119216
優先日 平成24年5月25日(2012.5.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年4月13日(2016.4.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】橋崎 要
【氏名】齋藤 好廣
【氏名】田口 博之
【氏名】今井 美湖
個別代理人の代理人 【識別番号】110000774、【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
審査官 【審査官】古妻 泰一
参考文献・文献 国際公開第2013/081120(WO,A1)
国際公開第2010/122694(WO,A1)
国際公開第2010/082487(WO,A1)
特開2010-270299(JP,A)
特開2001-226293(JP,A)
特開2014-129371(JP,A)
今井美湖 他4名,カルボン酸を用いた新規レシチンオルガノゲルのレオロジー挙動,日本薬学会年会要旨集,日本,2012年 9月26日,93-94
調査した分野 C09K 3/00
A61K 8/00
A61K 8/365
A61K 8/55
A61K 8/92
A61K 9/06
A61K 47/12
A61K 47/24
A61K 47/44
C09D 7/12
C09D 11/03
C09D 201/00
C10M 129/26
C10M 137/02
C10M 159/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)レシチン、(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸からなる逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤であって、前記脂肪族カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、L(+)-酒石酸、L(-)-リンゴ酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸のいずれか1つであるオルガノゲル形成剤。
【請求項2】
前記カルボン酸の分子量が250以下であることを特徴とする請求項1に記載のオルガノゲル形成剤。
【請求項3】
前記(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸との混合割合として、(a)レシチンと(b)前記カルボン酸の合計質量に対して、(b)前記カルボン酸を0.1質量%から35質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のオルガノゲル形成剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のオルガノゲル形成剤と(c)オイル成分とを少なくとも含み逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物。
【請求項5】
前記増粘ゲル状組成物が、化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油の少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項4に記載の増粘ゲル状組成物。
【請求項6】
前記オルガノゲル形成剤と(c)オイル成分との混合割合として、オルガノゲル形成剤を増粘ゲル状組成物に対して1質量%から70質量%含有することを特徴とする請求項4または5に記載の増粘ゲル状組成物。
【請求項7】
逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤の製造方法であって、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸を有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることを特徴とするオルガノゲル形成剤の製造方法であって、前記脂肪族カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、L(+)-酒石酸、L(-)-リンゴ酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸のいずれか1つであるオルガノゲル形成剤の製造方法。
【請求項8】
逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物の製造方法であって、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸を有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることによりオルガノゲル形成剤とし、該オルガノゲル形成剤に(c)オイル成分を添加混合させることを特徴とする逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物の製造方法であって、前記脂肪族カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、L(+)-酒石酸、L(-)-リンゴ酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸のいずれか1つである増粘ゲル状組成物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物油類、鉱物油類、炭化水素類、脂肪酸エステル類等のオイルを増粘又はゲル化して固化するレシチンオルガノゲル形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物油類、鉱物油類、炭化水素類、脂肪酸エステル類等のオイルを増粘又はゲル化して固化するオルガノゲル形成剤は、化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油等の様々な分野で広く利用されている。オルガノゲル形成剤に一般的に要求される性能としては、少量の添加で目的とするオイルをゲル化でき、得られたゲルが長期にわたり安定であることなどが挙げられる。さらに用途によっては、人体に対する安全性が高いこと、チキソトロピー性を有するゲルを生成すること、得られたゲルの触感がよいことなども要求されている。
【0003】
従来、オルガノゲル形成剤としては、低分子ゲル化剤(1,2,3,4-ジベンジリデン-D-ソルビトール、12-ヒドロキシステアリン酸、アミノ酸誘導体等)、高分子ゲル化剤(ポリアクリル酸誘導体、デキストリン誘導体等)等が知られている。低分子ゲル化剤は、オイル中で自己集合し、巨大な網目構造を形成することでオイルが非流動化しゲルを形成し、一方、高分子ゲル化剤は、それらが複雑に絡まり合い網目構造を形成することでオイルのゲル化を引き起こすものである。
【0004】
低分子ゲル化剤の1,2,3,4-ジベンジリデン-D-ソルビトールは、様々な種類のオイルをゲル化できる優れた化合物であるが、分解してベンズアルデヒドが生成するという点で安全性に問題があり実用化はされていない。12-ヒドロキシステアリン酸は、廃天ぷら油のゲル化剤として市販されているが、チキソトロピー性に欠ける。また、アミノ酸誘導体のゲル化剤はオイルに難溶性であるため、溶解させるには高温での加熱や長時間の攪拌などの煩雑な操作が必要となる。しかも、このような操作はゲルに配合される他成分の品質の変化を招く恐れがある点でも問題がある。一方、高分子ゲル化剤のデキストリン誘導体では、ゲル化に高濃度の添加が必要である上に、高分子特有の「べたつき感」を生じ使用感が良くない。ポリアクリル酸誘導体では少量の添加で良好な増粘ゲル化を示すが皮膚に使用した際には高分子特有の「べたつき感」を生じ、使用感がよくない。
【0005】
これらの問題を解決させるべく、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等の天然界面活性物質1,2種、高級アルコール、グリセリン、オイルを加えたゲル状エマルション(特許文献1)が提案されているが、弾性が低いため液だれ等生じ易く取扱性が悪く、また高級アルコールおよびグリセリンの何れかが欠けると効果が得られないという問題があり、生体や環境に対する高い安全性、良好なゲル化能、使用感に優れ、取扱性のよさ等をすべて合わせ持つオルガノゲル形成剤は得られていない。
【0006】
一方、逆紐状ミセルによるオイルのゲル化も少数だが報告されている(非特許文献1-3)。逆紐状ミセルとは、界面活性剤の形成する自己集合体の一種であり、オイル中で網目構造を形成するためにゲル化を引き起こすことが知られている。逆紐状ミセルという内部に親水的な環境を有しているために水溶性の薬物や酵素等を内包することが可能であり、上記したオルガノゲル形成剤にはない特長を有している。
【0007】
この逆紐状ミセルを形成する代表的な系として、レシチン/水/各種オイルの3成分混合系が報告されている(非特許文献1)。また、水の代替物質には、グリセリン(非特許文献2)、エチレングリコール(非特許文献2)、ホルムアミド(非特許文献2)、胆汁酸塩(非特許文献3)、無機塩類(非特許文献4)が報告されている。通常、レシチンはオイル中で逆球状ミセルあるいは逆楕円状ミセルを形成するが、これに少量の水等を添加するとレシチンのリン酸基に水素結合し、分子集合体の界面曲率が減少するために逆紐状ミセルの成長が起こると考えられている。
【0008】
これら従来の逆紐状ミセルが抱える問題として、代表的なレシチン/水/各種オイルから成る逆紐状ミセルでは、水が成分中に含まれているために加水分解を受けやすい薬物等を配合することはできない。水の代替物質としてグリセリンを用いるものは、増粘はするものの充分なゲル化が起こらない。また、水の代替物質であるエチレングリコールやホルムアミドは、皮膚、眼、粘膜等への強い刺激性を有するために人体には適用できない。また、胆汁酸塩は生体由来の界面活性剤であるが、皮膚や眼等に付着すると炎症を起こす可能性があり、無機塩類を用いるものはゲル化剤をオイルに溶解させるのに高温での加温が必要であり、増粘又はゲル化に調整するのが容易でない。
【0009】
本発明者らは、レシチン/ショ糖脂肪酸エステル(特許文献2)、レシチン/糖類(特許文献3)、レシチン/尿素(特許文献4)、レシチン/ポリグリセリン(特許文献5)、レシチン/アスコルビン酸またはその誘導体(非特許文献5)の逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル化剤として、生体や環境に対する高い安全性、良好なゲル化能、使用感に優れ、取扱性のよさ等をすべて合わせ持つオルガノゲル形成剤を提案した。しかし、ショ糖脂肪酸エステルや糖類を用いるものは、糖質特有のにおいが生じ、尿素を用いるものは食品分野には向かないという問題点があり、またいずれのものもゲル化するものの最大粘度には限界があるという問題点がある。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開平5-4911号公報
【特許文献2】国際公開第2010/082487号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/122694号パンフレット
【特許文献4】特開2010-270299号公報
【特許文献5】特開2012-20979号公報
【0011】

【非特許文献1】P. L.Luisi et al.,Colloid & Polymer Science, vol.268, p.356 (1990)
【非特許文献2】Yu. A. Shchipunov,,Colloids and Surfaces A, vol.183-185, p.541 (2001)
【非特許文献3】S. H. Tung et al.,Journal of the American Chemical Society, vol.128, p.5751 (2006)
【非特許文献4】H-Y.Lee et al.,Langmuir, vol.26, p.13831 (2010)
【非特許文献5】K.Hashizaki et al.,Chemistry Letters, vol.41, p.427 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤および増粘ゲル状組成物として、生体や環境に対する高い安全性、優れた使用感、および良好なゲル化能が要求され、それらの全てを併せ持つオルガノゲル形成剤、および該オルガノゲル形成剤を用いた増粘ゲル状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、レシチン/カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つのカルボン酸が各種オイルの逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤として作用し、又これらのレシチン/カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つのカルボン酸/各種オイルの3成分混合系を用いて、逆紐状ミセル構造を有する増粘ゲル状組成物を得ることができ、上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、
[1] (a)レシチン、(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸からなる逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤。
[2] 前記カルボン酸の分子量が250以下であることを特徴とする上記[1]に記載のオルガノゲル形成剤。
[3] 前記(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸との混合割合として、(a)レシチンと(b)前記カルボン酸の合計質量に対して、(b)前記カルボン酸を0.1質量%から35質量%含有することを特徴とする上記[1]または[2]に記載のオルガノゲル形成剤。
[4] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のオルガノゲル形成剤と(c)オイル成分とを少なくとも含み逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物。
[5] 前記増粘ゲル状組成物が、化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油の少なくともいずれか一つであることを特徴とする上記[4]に記載の増粘ゲル状組成物。
[6] 前記オルガノゲル形成剤と(c)オイル成分との混合割合として、オルガノゲル形成剤を増粘ゲル状組成物に対して1質量%から70質量%含有することを特徴とする上記[4]または[5]に記載の増粘ゲル状組成物。
[7] 逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤の製造方法であって、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸を有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることを特徴とするオルガノゲル形成剤の製造方法。
[8] 逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物の製造方法であって、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸を有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることによりオルガノゲル形成剤とし、該オルガノゲル形成剤に(c)オイル成分を添加混合させることを特徴とする逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の逆紐状ミセルを形成するオルガノゲル形成剤は、生体や環境に対し高い安全性を有する環境調和型であるという利点・効果を有するだけでなく、少量の添加で目的とするオイルをゲル化できる。又得られる増粘ゲル状組成物はチキソトロピー性を有し、液だれしにくくハンドリング性がよく、数カ月以上に亘る長期の安定性も備え、かつゲル化した最大粘度(ゼロシアー粘度)が100Pa・s以上、更に10000Pa・s以上のものも得られるという効果を有している。増粘ゲル状組成物の透明性は、用いるオルガノゲル形成剤、増粘ゲル状組成物の調製条件などから、透明から半透明、白濁とその使用する用途に応じて調製もできる。更に逆紐状ミセル構造の内部に親水的な環境を有し、水溶性の成分・薬物や酵素等を内包できるという従来の増粘ゲル状組成物にはない特徴も備えている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】逆ミセル構造図
【図2】小角X線散乱測定の散乱曲線図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のオルガノゲル形成剤は、各種オイル成分を増粘又はゲル化させ逆紐状ミセルを形成することのできる材料である。本発明のオルガノゲル形成剤は、(a)レシチン、(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸からなり、各種(c)オイル成分が添加混合されると増粘又はゲル化し逆紐状ミセル構造を形成した増粘ゲル状組成物になる。

【0018】
逆紐状ミセル(Reverse worm-like micelle)は、界面活性剤の形成する自己集合体の一種である。界面活性剤は分子中に親水基と疎水基とを有する両親媒性物質であり、その基のバランスに応じて水、油中で自己集合体を形成するが、図1に示すとおり、逆球状ミセルが円筒状に成長した逆紐状ミセルは、一時的なネットワーク構造を形成し、高粘弾性のゲルを形成する。また、内部に親水的な環境を有しているために水溶性の成分・薬物や酵素等を内包することが可能である。

【0019】
本発明者らは、逆紐状ミセルについて鋭意研究を重ねた結果、逆紐状ミセルの成長を引き起こす物質には2つの条件が必要であることを見出した。一つは、レシチンのリン酸基と水素結合できる官能基を二つ以上持つこと、二つめは、若干の疎水性を有することであり、この二つを満たすものとしてカルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2の脂肪族カルボン酸に注目し、レシチンと前記カルボン酸と各種オイルにより逆紐状ミセルを形成できることを見出した。

【0020】
本発明者らは得られた増粘又はゲル状調製物について、具体的にはレシチンと前記カルボン酸とn-デカンを混合することにより形成した増粘ゲル状調製物について、その構造を観察した。増粘ゲル状調製物は透明であり、又結晶構造をもたなく光学的には等方性であり、偏光像としては特徴的なパターンは現れない。小角X線散乱(SAXS)測定をした散乱曲線からは、明瞭な回折ピークが得られなかったことから規則構造を形成しておらず、本発明の増粘ゲル状組成物は、逆紐状ミセルを形成しているといえる。また、本発明の増粘ゲル状組成物は、逆紐状ミセルを形成しているゆえに、増粘又はゲル化されるオイルにもよるが、オイル自体が透明であるならば透明なものである。

【0021】
SAXS測定は、ブルカー・エイエックスエス社製のNano-STARを用い、X線源はCuKα線、出力は45kV/120mAで行った。SAXS測定は25℃で行った。

【0022】
図2には、レシチン2質量%、クエン酸0.35質量%、n-デカン97.65質量%を混合した増粘ゲル状組成物の小角X線散乱測定の散乱曲線(散乱強度I(q)と散乱ベクトルqの関係)を示す。ここでq=(4π/λ)sinθ、θは散乱角、λはX線の波長である。これによれば、散乱曲線は明瞭な回折ピークを示さなかったことから、規則性構造を形成していないことがわかる。この散乱曲線では、両対数プロットの低q側の勾配が-1になっている。これは長い棒状の粒子、すなわち逆紐状ミセルの存在を示唆する。また(1)式および(2)式に基づくCross-sectionプロットにより、逆紐状ミセルの断面半径(r)は1.9nmと求められた。
JP0006241852B2_000002t.gif ここで、Rcは断面の回転半径である。また、測定範囲の制約のために逆紐状ミセルの正確な長さは算出できなかったが、(3)式を用いた棒状粒子を仮定した理論散乱関数を用いたシミュレーション(図中のCalculated curve)から逆紐状ミセルの長さ(t)は50nmよりも長いことが示された。
JP0006241852B2_000003t.gif ここで、J1は一次のベッセル関数である。また、本発明のオルガノゲル形成剤を用いてオイル成分を増粘又はゲル化させた増粘ゲル状組成物は、そのゲル化の状態、物性からすると、逆紐状ミセルが形成されているといえる。

【0023】
本発明のオルガノゲル形成剤としての(a)レシチンは、ホスファチジルコリンを主成分とする脂質製品であり、天然の動物、植物、微生物など生体に広く分布するもので、肝臓、卵黄、大豆、酵母等に多く含まれることが知られている。代表的なレシチンとして、卵黄レシチン、大豆レシチンなどが挙げられ、これを用いるのが好ましい。また、レシチンは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、レシチンとしては、ホスファチジルコリンの含有量が55~99重量%程度のものが好ましい。天然のレシチンは、L-α-形のみであるが、それ以外のものも使用可能である。天然のレシチンは酸化されやすく、不安定であるので、使用に際しては、公知の方法により水素添加しておけばよい。本発明においては、このような水素添加されたレシチンも「レシチン」に含まれる。

【0024】
ホスファチジルコリンは、グリセロール(グリセリン)を少なくとも1つの不飽和脂肪酸及びリン酸と反応させることにより得られるエステルを意味し、該リン酸のプロトンはアミン官能基としてのコリンで置換されている。本発明では、不飽和結合が水素添加されたホスファチジルコリンも「ホスファチジルコリン」に含める。

【0025】
本発明において、ホスファチジルコリンは、特に下記一般式(I)に従って定義される。ここで、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数4~24の飽和又は不飽和の脂肪酸に由来する(対応する)脂肪族炭化水素基(すなわち、炭素数3~23の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基)を示し、それらは直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、1以上のヒドロキシル官能基及び/又はアミン官能基で置換されていてもよい。Xはコリン残基を示す。ホスファチジルコリンとしては、式(I)で表される化合物のうちの1種であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。

【0026】
【化1】
JP0006241852B2_000004t.gif

【0027】
本発明の実施態様の一つにおいて、R1及びR2に対応する脂肪酸(R1COOH、R2COOH)は、例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、カプロレイン酸、ラウリン酸、ラウロレイン酸、ミリスチン酸、チリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、イソステアリン酸、ジヒドロキステアリン酸、及びリシノール酸から選択される。

【0028】
本発明の組成物の実施に適切である水素化されていないホスファチジルコリン(PC)は、「天然」又は「合成」起源であり得る。

【0029】
「天然」のPCは、動物源又は植物源、例えば大豆、ヒマワリ、又は卵からの抽出により得られ得る。天然物から、例えば大豆から得られた水素化されていないホスファチジルコリンは、一般的にグリセロールをエステル化する脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びおそらくC20~C22の脂肪酸を含む。

【0030】
本発明のオルガノゲル形成剤としての(b)成分としては、カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つのカルボン酸を用いる。逆紐状ミセルを形成するオイルの増粘ゲル化にこの範囲の基数が適している。これらのカルボン酸としては、増粘ゲル状組成物を調製する際に用いる有機溶媒に可溶なものならばいかなるものも用いることができる。なかでもこれらは、医療品、食品、サプリメント、化粧品等に広く用いられ人体に対する毒性がなく、かつ安全性が高いもののなかから選択されるのがより好ましい。さらにカルボン酸は、増粘ゲル化の観点から分子量が350以下、好ましくは、300以下、より好ましくは250以下のものである。

【0031】
前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸が例示できる。なかでも脂肪族カルボン酸がよい。具体的には、酢酸(分子量:60.05、以下同様)、プロピオン酸(74.08)、ピルビン酸(88.06)、安息香酸(122.12)等のモノカルボン酸、シュウ酸(126.07)、マロン酸(104.1)、コハク酸(118.09)、フマル酸(116.07)、マレイン酸(116.1)、フタル酸(166.14)等のジカルボン酸、アコニット酸(174.11)、1,2,3-プロパントリカルボン酸(176.12)、トリメリト酸(210.14)、トリメシン酸(210.14)等のトリカルボン酸、グリコール酸(76.05)、乳酸(90.08)、グリセリン酸(106.08)、サリチル酸(138.12)、3,4-ジヒドロキシ安息香酸(154.12)等のヒドロキシモノカルボン酸、L(+)-酒石酸(150.09)、L(-)-リンゴ酸(134.09)、シトラマル酸(148.11)、ヒドロキシフタル酸(182.13)等のヒドロキシジカルボン酸、クエン酸(192.12)、イソクエン酸(192.12)等のヒドロキシトリカルボン酸等を例示することができる。好ましくは、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、L(+)-酒石酸、L(-)-リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸を用いることができる。

【0032】
本発明のオルガノゲル形成剤を構成する(a)レシチン(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸との混合比率は、逆紐状ミセルが形成できる混合割合ならばいかなる範囲でもよい。(a)レシチンを1~70質量%、好ましくは1.5~45質量%、より好ましくは2~30質量%、(b)前記カルボン酸を0.1~20質量%、好ましくは0.15~15質量%、より好ましくは0.2~10質量%とすることができる。オルガノゲル形成剤全量に対する(b)前記カルボン酸の質量割合は、(c)オイル成分によっても異なるが、(b)成分/((a)成分+(b)成分)の質量%であらわすと、実験的に下限は0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは7質量%以上であり、実験的に上限は35質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。

【0033】
本発明のオルガノゲル形成剤を製造するには、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸の両者を溶解できる有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることによりオルガノゲル形成剤を製造することができる。製造されたオルガノゲル形成剤に、(c)オイル成分、必要に応じて添加成分を添加混合することで逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物とすることができる。

【0034】
本発明においてゲル化することのできる(c)オイル成分は、特に限定されるものではなく、動植物油類、鉱物油類、炭化水素類、脂肪酸エステル類等のオイルである。極性油のみ、非極性油のみ、あるいは極性油と非極性油の混合物であってもかまわない。具体的には、魚油、肝油、鯨油、ヘッド、ラード、馬油、羊油等の魚油、動物油、ヤシ油、パーム油、カカオバター、オリーブ油、菜種油、あまに油等の植物油の動植物油類;流動パラフィン、イソパラフィン、灯油、重油、n-デカン、イソオクタン、n-オクタン、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、べヘン酸等の高級脂肪酸類、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類、カプリル酸トリグリセリド、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、カプリル酸/カプリン酸/ラウリル酸トリグリセリド等の中鎖脂肪酸トリグリセリド類等を挙げることができる。これらのオイルは、単独であっても2種以上の混合物であっても用いることができる。

【0035】
オルガノゲル化されるオイル中には、添加成分が増粘又はゲル化を妨げない範囲の濃度で、溶解、分散、乳化、懸濁あるいは混合されていてもよい。このような添加成分の例としては、化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油などの用途に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤、流動性向上剤、香料、色素、酵素、生理活性物質等があり、有機化合物又は酸化チタン、タルク、マイカ、水等の無機化合物を挙げることができる。

【0036】
本発明の(a)レシチン(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸からなるオルガノゲル形成剤により(c)オイル成分をゲル化する際には、オイル成分に対してオルガノゲル形成剤を、増粘又はゲル化し逆紐状ミセルを形成することのできる範囲ならばいかなる量までも混合できる。オイル成分の混合割合としては、(a)レシチンを1~70質量%、好ましくは1.5~45質量%、より好ましくは2~30質量%、(b)前記カルボン酸を0.1~20質量%、好ましくは0.15~15質量%、より好ましくは0.2~10質量%としたとき、(c)オイル成分は30~99質量%、好ましくは50~98質量%、より好ましくは60~97質量%とすることができる。

【0037】
また、増粘ゲル状組成物に対するオルガノゲル形成剤の混合割合を、((a)成分+(b)成分)/((a)成分+(b)成分+(c)成分)の質量%であらわすと、下限は1質量%以上、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、上限は70質量%以下、好ましくは50質量%以下であり、さらにより好ましくは36質量%以下である。この範囲で加え、オイル成分を添加混合し放置することにより、増粘ゲル状組成物を得ることができる。ゲル強度(ゼロシアー粘度)は、オルガノゲル形成剤の種類、濃度および(a)レシチンと(b)前記カルボン酸の混合割合により調整することが可能である。

【0038】
本発明の増粘ゲル状組成物は、(a)レシチン(b)前記カルボン酸を含有し、各種(c)オイル成分を添加し、必要に応じてその他の添加成分を添加し、均一に溶解することによって、ゲル化し逆紐状ミセル構造を形成することができる。増粘ゲル状組成物の調製例としては、(a)レシチンと(b)前記カルボン酸をそれぞれ必要量容器に封入し、有機溶媒を加え攪拌し、完全に(a)成分と(b)成分を溶解させた後、減圧乾燥により有機溶媒を完全に蒸発させ、次いで(c)オイル成分を必要量加えてさらに一晩撹拌し、安定化のために容器を常温恒温槽で必要に応じて数日間静置することによって得ることができる。また、(a)レシチンと(b)前記カルボン酸と各種(c)オイル成分の混合物を、加熱溶解し、室温まで冷却することによって調製することができる。このときの加熱は、混合物が溶解する温度ならいかなる温度でもかまわないが、好ましくは、50℃~80℃の範囲である。この際、レシチンおよびカルボン酸の酸化防止のために窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。なお、増粘ゲル状組成物は、各成分の添加、混合、攪拌することにより直ちに生じるものであり、ゲル状物の安定化のための長時間の攪拌及び静置は、必要に応じて適宜設定すればよく、場合によっては必要のないものである。

【0039】
本発明の増粘ゲル状組成物の製造方法としては、(a)レシチンと(b)カルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸を有機溶媒に溶解後、有機溶媒を蒸発させることによりオルガノゲル形成剤とし、形成したオルガノゲル形成剤に(c)オイル成分を添加混合することにより、逆紐状ミセルを形成した増粘ゲル状組成物を製造することが好ましい。

【0040】
オルガノゲル形成剤及び増粘ゲル状組成物を調製する際に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール等の低級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;アセトン、2-ブタノン、シクロヘキノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、臭化イソプロピル、臭化エチル、ジクロロベンゼン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、四塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;水などがあるが、なかでも低級アルコールを用いるのが好ましい。また、これら有機溶媒は単独でも、組み合わせて使用してもかまわない。

【0041】
本発明の増粘ゲル状組成物は、洗浄剤、化粧料、医薬、食品、消臭剤、入浴剤、芳香剤、脱臭剤等として常温でゲル状を呈する各種製品として用いることができる。なかでも洗浄剤、化粧料、医薬品、食品の用途に特に適している。洗浄剤としては、食品用洗浄剤、食器洗浄剤、厨房用洗浄剤、洗顔料、ボディーソープ、シャンプー、リンス等が挙げられる。化粧料として、クリ-ム、乳液、ローション、クレンジング料、浴用化粧料、保湿化粧料、血行促進・マッサージ剤、パック化粧料、頭髪化粧料等が挙げられる。医薬品としては、軟膏剤、成形パップ剤、徐放製剤基材、経皮吸収製剤、ドラッグデリバリーシステム担体、電気泳動用ゲル等が挙げられる。

【0042】
化粧料中には、通常の一般化粧料に使用される成分を配合することができる。例えば、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、pH調整剤等が挙げられ、さらに必要に応じて、種々の薬効成分、例えば、ヒアルロン酸、アラントイン、ビタミン類、アミノ酸、胎盤エキス等を挙げることができ、単独であるいは組み合わせて適宜配合することができる。

【0043】
本発明のオルガノゲル形成剤に各種オイルが添加混合されて形成された増粘ゲル状組成物は、逆紐状ミセル構造を形成しているので、内部に親水的な環境を有し水溶性の成分・薬物や酵素等を内包することが可能である。この逆紐状ミセルは、ナノメータ・スケールの極めて微細な分子集合体であり、この逆紐状ミセルはレシチンとカルボン酸との分子の極性基が内側を向き、疎水基が外側を向いて紐状に多数集合しているので、その内部は親水的な環境即ち小さなウオーター・プール(水相)が形成されている。内包することのできる水溶性の物質としては、例えば、美白剤、抗炎症剤、抗菌剤、ホルモン剤、ビタミン類、各種アミノ酸およびその誘導体や酵素、抗酸化剤、育毛剤などの薬剤成分が挙げられる。

【0044】
本発明のオルガノゲル形成剤に各種オイルが添加混合されて形成された増粘ゲル状組成物に、オイルに対して難溶性ないし非溶性を示す水溶性の物質、水溶性薬剤、酵素を直接、またはその水溶液を接触、混合攪拌させると、水溶性の物質は逆紐状ミセルの内部に取り込まれ、増粘ゲル中に溶解せしめることができる。形成された増粘ゲル状組成物の透明性は、用いるオルガノゲル形成剤、増粘ゲル状組成物の調製条件などから、透明から半透明、白濁とその使用する用途に応じて調製できる。

【0045】
本発明のオルガノゲル形成剤は、種々のオイルに対するゲル化能が優れ、低濃度の添加でも長期にわたり安定なゲルを生成することができるとともに、特に高級炭化水素類のゲルはチキソトロピー性が優れ、かつ触感も"べたつき"などの欠点をもたない。しかも、本発明のオルガノゲル形成剤はレシチン、カルボン酸という生体や環境に体する高い安全性、生分解性にも優れている材料成分からできており環境調和型のものである。
本発明のオルガノゲル形成剤は、さらに、上記以外の医薬部外品、インキ、塗料、潤滑油や、プラスチック、ゴム、金属等の加工分野のほか、農業、水産業、廃油処理等の分野でも用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、配合量は特に指定がない限り質量%で示す。
【実施例】
【0047】
[増粘ゲル状組成物の評価]
粘度測定は、コーンプレート(直径が60mmと35mmでコーン角が1度と4度)とペルチェ温度コントローラを備えた回転レオメーター(HAAKE MARSIII,Thermo Fisher Scientific社製)を用いて25℃恒温下で行った。なお、溶媒の蒸発を防止するためにソルベントトラップを用いて測定した。具体的には、コーンプレートと試料台の間に試料を挟みこみ、コーンプレートを一定方向に回転させて試料に段階的にずり速度を加えた。それぞれのずり速度ごとにずり応力を求めて、粘度=ずり応力/ずり速度の関係からゼロシアー粘度を算出した。
また、これに基づき、増粘ゲル化の状態を以下のように評価した。
☆優ゲル化(ゼロシアー粘度が10000Pa・s以上のもの)
★良ゲル化(ゼロシアー粘度が1000Pa・s以上,10000Pa・s未満のもの)
◎ゲル化(ゼロシアー粘度100Pa・s以上、1000Pa・s未満のもの)
○増粘(ゼロシアー粘度10Pa・s以上100Pa・s未満のもの)
×増粘ゲル化が不十分(ゼロシアー粘度10Pa・s未満のもの)
【実施例】
【0048】
[増粘ゲル状組成物の透明性]
ゲルの透明性は、調製した増粘ゲル状組成物を直径27.5mm、高さ70mmのサンプル瓶に封入し、25℃に設定した恒温槽中に1か月保存した後、目視により観察したもので、◎:透明である、○:半透明である、△:白濁している、×:二相分離している、として評価したものである。
【実施例】
【0049】
[実施例1~11]
(増粘ゲル状組成物の配合)
(a)成分のレシチンとして、大豆レシチン(商品名L-α-Phosphatidylcholine (Soy-95%)」Avanti Polar Lipids, Inc.製)、(b)成分のクエン酸(関東化学(株)製)、(c)成分として、n-デカン(関東化学(株)製 0.774mPa・s(25℃))を、表1に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。各配合組成に応じて、実施例1~11とした。
【実施例】
【0050】
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、(a)成分:レシチンと(b)成分:カルボン酸をそれぞれ必要量ボトルに封入し、メタノールを加えマグネチックスターラーを用いて攪拌した。完全にレシチンとカルボン酸を溶解させた後、減圧乾燥によりメタノールを完全に蒸発させる。(c)オイル成分を必要量加えてさらに一晩撹拌し、ボトルを安定化のために25℃の恒温槽で数日間静置することによって調製した。なお、以下の実施例、比較例においても、増粘ゲル状組成物の調製は、これと同じ調製手段によった。
【実施例】
【0051】
実施例1~11は、(a)成分:レシチンを5.0~20.0質量%として増粘ゲル状組成物を調製したものである。これらのオルガノゲル形成剤中のクエン酸の割合、即ち(b)成分/((a)成分+(b)成分)は、11.1~18.4質量%、増粘ゲル状組成物中のオルガノゲル化剤の割合、即ち((a)成分+(b)成分)/((a)成分+(b)成分+(c)成分)は、5.9質量%から24質量%である。増粘ゲルの状態は透明であり、いずれも優ゲル化☆、良ゲル化★、ゲル化 ◎であった。特に、クエン酸2.25質量%、4質量%のとき、ゼロシアー粘度60100Pa・s、73420Pa・sと非常によく増粘ゲル化していた。評価結果を表1に示す。
【実施例】
【0052】
【表1】
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【実施例】
【0053】
[実施例12~20]
(増粘ゲル状組成物の配合)
(a)成分のレシチンとして、大豆レシチン(商品名L-α-Phosphatidylcholine (Soy-95%)」Avanti Polar Lipids, Inc.製)、(b)成分のL(+)-酒石酸(関東化学(株)製)、(c)成分として、n-デカン(関東化学(株)製 0.774mPa・s(25℃))を、表2に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製し実施例12~20とした。
【実施例】
【0054】
実施例12~20のオルガノゲル形成剤中のL(+)-酒石酸の割合、即ち(b)成分/((a)成分+(b)成分)は7質量%から12.3質量%、増粘ゲル状組成物中のオルガノゲル形成剤の割合((a)成分+(b)成分)/((a)成分+(b)成分+(c)成分)は5.6質量%から22.5質量%としたものである。増粘ゲルの状態は透明ないし半透明で、いずれも優ゲル化☆、良ゲル化★、ゲル化 ◎であった。特に、L(+)-酒石酸1.25質量%、2.5質量%のとき、ゼロシアー粘度49210Pa・s、111500Pa・sと非常によく増粘ゲル化していた。評価結果を表2に示す。
【実施例】
【0055】
【表2】
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【実施例】
【0056】
[実施例21~32]
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、実施例3において、(b)成分のクエン酸に換えて1,2,3-プロパントリカルボン酸(和光純薬工業(株))を用い、配合量を変え実施例21~25とし、(b)成分としてtrans-アコニット酸(SIGMA-ALDRICH製)を用い実施例26~28、(b)成分としてL(-)-リンゴ酸(関東化学(株)製)を用い実施例29、30、(b)成分としてグリコール酸(関東化学(株)製)を用い実施例31、(b)成分としてフマル酸(関東化学(株)製)を用い実施例32を調製した。表3に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。
【実施例】
【0057】
実施例21~32は、(a)成分:レシチンを10質量%とし、各種カルボン酸(b)成分をそれぞれ所要量用いて増粘ゲル状組成物を調製したもので、増粘ゲルの状態は、いずれも良ゲル化★、ゲル化 ◎、増粘○であった。ゲルの状態増粘○であっても使用に際しては問題とならない状態であった。透明度はすべて◎透明であった。評価結果を表3に示す。
【実施例】
【0058】
【表3】
JP0006241852B2_000007t.gif
【実施例】
【0059】
[実施例33~34]
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、実施例1と同じ(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸を用い、更に(c)成分としてシクロヘキサン(関東化学(株)製 0.828mPa・s(25℃))、流動パラフィン(関東化学(株)製 146mPa・s(25℃))を用い実施例33~34を調製した。表4に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。表4には、(c)成分としてn-デカンを用いた実施例7も対比のために載せた。
【実施例】
【0060】
実施例33~34は、(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸、各種オイル成分をそれぞれ所要量用いて増粘ゲル状組成物を調製したもので、増粘ゲルの状態は、いずれも優ゲル化☆、ゲル化 ◎であった。透明度はすべて◎透明であった。評価結果を表4に示す。
【実施例】
【0061】
【表4】
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【実施例】
【0062】
[実施例35~39]
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、実施例1と同じ(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸を用い、更に(c)成分としてカプリル酸トリグリセリド(製品名ココナードRK 花王(株)製 20.71mPa・s(25℃))を用い実施例35~39を調製した。表5に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。
【実施例】
【0063】
実施例35~39は、(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸、オイル成分をそれぞれ所要量用いて増粘ゲル状組成物を調製したもので、増粘ゲルの状態は、いずれも優ゲル化☆、良ゲル化★、ゲル化 ◎であった。透明度は◎透明、○半透明、△白濁であった。評価結果を表5に示す。
【実施例】
【0064】
【表5】
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【実施例】
【0065】
[実施例40~44]
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、実施例35~39において、(c)成分としてカプリル酸トリグリセリドに替えてカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(製品名ココナードMT 花王(株)製 21.89mPa・s(25℃))を用い実施例40~44を調製した。表6に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。
【実施例】
【0066】
実施例40~44は、(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸、オイル成分をそれぞれ所要量用いて増粘ゲル状組成物を調製したもので、増粘ゲルの状態は、いずれも優ゲル化☆、良ゲル化★、ゲル化 ◎であった。透明度は○半透明、△白濁であった。評価結果を表6に示す。
【実施例】
【0067】
【表6】
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【実施例】
【0068】
[実施例45~47]
(増粘ゲル状組成物の調製)
増粘ゲル状組成物の調製は、実施例40~42において、(c)成分としてカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドに替えてカプリル酸/カプリン酸/ラウリン酸トリグリセリド(製品名ココナードML 花王(株)製 30.13mPa・s(25℃))を用い実施例45~47を調製した。表7に示す配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製した。
【実施例】
【0069】
実施例45~47は、(a)成分:レシチン、(b)成分:クエン酸、オイル成分をそれぞれ所要量用いて増粘ゲル状組成物を調製したもので、増粘ゲルの状態は、いずれも良ゲル化★、ゲル化 ◎であった。透明度は○半透明、△白濁であった。評価結果を表7に示す。
【実施例】
【0070】
【表7】
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【実施例】
【0071】
[比較例1~3]
(増粘ゲル状組成物の配合)
(a)成分:レシチンとして、大豆レシチン(商品名「L-α-Phosphatidylcholine (Soy-95%)」Avanti Polar Lipids, Inc.製)10質量%、(c)成分として、n-デカン(関東化学(株)製)、シクロヘキサン(関東化学(株)製)、流動パラフィン(関東化学(株)製)90質量%を配合組成として、増粘ゲル状組成物を調製し比較例1~3とした。
【実施例】
【0072】
比較例1~3は、(b)成分のカルボン酸を用いていないため、増粘ゲルは形成し得ないものであった。配合組成と評価結果を表8に示す。これに対して、本発明では、例えば実施例で示すようにオイル成分(c)n-デカンでは、25℃で0.774mPa・sのところ約14400万倍の増粘度が簡単に得られた。なお、(b)成分のカルボン酸と(c)オイル成分とでも、増粘ゲルは形成し得ないものであった。
【実施例】
【0073】
【表8】
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【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、レシチンとカルボキシル基が1~3、およびヒドロキシ基が0~2のいずれか1つの脂肪族カルボン酸とで各種オイルの3成分混合系により逆紐状ミセルを形成することのできるオルガノゲル形成剤が提供できる。逆紐状ミセルが形成された増粘ゲル状組成物は、逆紐状ミセルの内部に親水的な環境を有し、水溶性の成分・薬物や酵素などを内包でき、各種化粧品、医薬品、食品等のオルガノゲル形成剤として広く使用できる。更に、該オルガノゲル形成剤を用いることにより形成する増粘ゲル組成物は、チキソトロピー性を有し、ハンドリング性がよく、長期安定性もよいものである。
図面
【図1】
0
【図2】
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