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明細書 :血液検体のATP測定方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6295408号 (P6295408)
公開番号 特開2015-042156 (P2015-042156A)
登録日 平成30年3月2日(2018.3.2)
発行日 平成30年3月20日(2018.3.20)
公開日 平成27年3月5日(2015.3.5)
発明の名称または考案の名称 血液検体のATP測定方法及びキット
国際特許分類 C12Q   1/26        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
C12Q   1/42        (2006.01)
FI C12Q 1/26
G01N 33/50 P
G01N 21/78 Z
C12Q 1/48 Z
C12Q 1/42
請求項の数または発明の数 11
全頁数 16
出願番号 特願2013-174874 (P2013-174874)
出願日 平成25年8月26日(2013.8.26)
審査請求日 平成28年8月17日(2016.8.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
発明者または考案者 【氏名】石田 晃彦
【氏名】花田 祐紀
【氏名】谷 博文
【氏名】渡慶次 学
【氏名】木戸 博
【氏名】千田 淳司
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】藤澤 雅樹
参考文献・文献 国際公開第2006/118093(WO,A1)
特開2000-279195(JP,A)
特開平03-210194(JP,A)
特開2002-010800(JP,A)
特開2011-045313(JP,A)
特開平03-285697(JP,A)
特開昭63-068099(JP,A)
特開平04-036196(JP,A)
特開2001-275698(JP,A)
特表平11-514849(JP,A)
特開昭53-139785(JP,A)
PLoS ONE (2013.4) Vol.8, No.4,e60561,pp.1-9
日本分析化学会第52年会講演要旨集(2003) p.230(2K01)
調査した分野 C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程1~5を含み、発色試薬がキシレノールオレンジまたはクロマズロールSである、血液検体中に含まれるアデノシン三リン酸(以下、ATPと略記する)の測定方法。
工程1:血液検体をATPの少なくとも一部が遊離するように前処理してATP含有試料溶液を得る工程、
工程2:工程1で得たATP含有試料溶液の少なくとも一部とアデノシンモノリン酸、ホスホエノールピルビン酸、アデニル酸キナーゼおよびピルビン酸キナーゼとを含有する緩衝液(pH7.8±0.3)を混合して1~5分保持する工程、
(但し、工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積は50倍以上である。希釈倍率は容量基準である。緩衝液はMg2+を含有し、緩衝液を混合して得られる溶液のMg2+濃度は0.5mM~60mMの範囲である。
工程3:工程2で得た混合物の少なくとも一部とピルビン酸オキシダーゼを含有する緩衝液(pH5.7±0.3)を混合して所定時間保持する工程、
(但し、工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)は20倍以上であり、かつ工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)と工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)の積は1000倍以上、4000倍以下である。希釈倍率は容量基準である。)、
工程4:工程3で得た混合物の少なくとも一部に酸、鉄(II)、および発色試薬を加えて所定時間保持する工程、および
工程5:工程4で得た混合物の色を目視観察して、検体中に含まれるATPの濃度が、あらかじめ定めた境界濃度より高いか、低いかを判定するか、又は工程4で得た混合物の吸光度を測定して、検体中に含まれるATPの濃度を求める工程。
【請求項2】
工程4で得た混合物の色を目視観察する場合であって、
前記発色試薬がキシレノールオレンジである場合には、検体中に含まれるATP濃度が、あらかじめ定めた境界濃度よりも高いときに工程4で得た混合物が紫を呈し、低いときには黄または橙を呈するように、下記工程2~4の条件を設定し、
前記発色試薬がクロマズロールSである場合には、検体中に含まれるATP濃度が、あらかじめ定めた境界濃度よりも高いときに工程4で得た混合物が青を呈し、低いときには橙を呈するように、下記工程2~4の条件を設定する請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記血液検体が血液サンプルをATPが遊離するように前処理した物である請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
工程2の保持時間は2~3分であり、工程3の所定保持時間は3分以上であり、工程4の所定保持時間は3分以上であり、工程2、3及び4の合計保持時間は8~20分である請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程2において、所定保持時間経過後即座に、混合液は、工程3におけるピルビン酸オキシダーゼを含有する緩衝液と混合する請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
以下の試薬1~6を含み、請求項1~のいずれか1項に記載の方法に用いられる、血液検体中に含まれるアデノシン三リン酸(以下、ATPと略記する)の測定用キット。
1:アデノシンモノリン酸、およびホスホエノールピルビン酸、
2:アデニル酸キナーゼおよびピルビン酸キナーゼ、
3:ピルビン酸オキシダーゼ、並びに
4:酸、鉄(II)、および発色試薬(但し、発色試薬は、キシレノールオレンジまたはクロマズロールSである)
5:緩衝液A(pH7.8±0.3、Mg2+を含有する
6:緩衝液B(pH5.7±0.3)
【請求項7】
ATP抽出用試薬またはヌクレオチド抽出用試薬をさらに含む請求項に記載のキット。
【請求項8】
境界濃度より高い場合および低い場合の発色の色見本を含む請求項またはに記載のキット。
【請求項9】
キットの説明書を含む請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
希釈血液検体および試薬を混合し、発色を見るための容器を含む請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記容器がキュベット、マルチタイタープレート、または遠沈管である請求項10に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体のATP測定方法及びこの方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、患者の重症度評価法として APACHE II スコアが広範に用いられているが、検査項目が多く、重症度評価に最低でも24 時間の時間を要する。また APACHE II スコアは入院予測死亡率であり、患者の病気の重症度をリアルタイムに評価してはいない。最近、健常者の末梢血中のATPレベルは0.5~1.2 mMであり、死亡に至る患者はその最低値を下回っているため、ATPレベルが重症度の指標になりうることが徳島大学の千田らによって報告された(非特許文献1PLOS ONE, 8, e60561 (2013))。
【0003】
従来、アデノシン三リン酸(ATP)の測定には生物発光法が用いられてきた。この方法は、ホタルルシフェラーゼが触媒する生物発光反応を利用したものであり、ATPに対して高い特異性を持つとともに迅速な結果を与える。生菌数と生菌から抽出したATP濃度はよい正の相関があるため、食品工業などで利用されている。しかし、生物発光法は発光量を測定するための高価な専用装置を必要とする。そのため、代表的なATP測定法であるルシフェラーゼ発光法は、測定器が医療現場で普及していないため採用が困難と考えられている。
【0004】
測定装置が普及していない医療現場、必ずしも精度良い結果を必要としない現場、特定の濃度(カットオフ値)でスクリーニングを行う現場では、比色計または目視判定による比色法が好まれる。特に医療現場では、インフルエンザの迅速診断キットなどのように結果を目視で判定できるものが好まれている。
【0005】
食品等の検体中に含まれる細菌数に応じたATP濃度を目視判定できる方法が知られている(特許文献1)。この方法は、AMPおよびホスホエノールピルビン酸(PEP)の存在下、アデニル酸キナーゼ(AK)およびピルビン酸キナーゼ(PK)で作用することによりATP濃度に応じてピルビン酸を増幅かつ蓄積させ、これにピルビン酸オキシダーゼ作用させることにより過酸化水素を生成させ、さらに鉄(II)イオンを加えて、鉄(III)イオンとなったものを発色剤、例えば、キシレノールオレンジと反応させることにより、黄,紫と呈色させる方法である。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】日本特許第4940432 号公報
【0007】

【非特許文献1】PLOS ONE, 8, e60561 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では特定濃度以上で紫に呈色させることが可能であるため、スクリーニング操作が容易に行える利点がある。しかし、前述のように特許文献1に記載の方法は食品等の検体中に含まれる細菌数に応じたATP濃度測定に特化した方法であった。しかし、血液検体中のATP測定においては、特許文献1に記載の方法は、本発明者らの検討の結果、以下の問題があることが判明した。
(1)測定時間が長く、迅速性に問題がある。
(2)測定精度が低い。
(3)測定結果がばらつく。
(4)緩衝液の性能を補うための酸添加が必要。
【0009】
そこで本発明は、上記(1)~(4)の課題を解決した、簡便かつ迅速に高精度に血液検体中のATP濃度を測定できる方法及びこの方法に使用できるキットを提供することを目的とする。特に本発明は、医療現場に普及している比色計でも定量可能であり、あるいは目視での判定も可能な血液検体中のATP濃度の測定方法及びキットを提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、上記問題を解決して、本発明の目的を達成するために種々の検討を行った。
(1)の測定時間が長く、迅速性に問題がある点については、特許文献1に記載の方法の測定条件はnMレベルの微量のATPに対して最適化されたものであるため、血液検体のように高濃度のATPの測定には適さないことを突き止めた。
(2)の測定精度が低いことについては、血液検体中のATP濃度の変化の幅が小さいく、特許文献1に示される方法は、濃度が桁で変化する場合に適しているためと推察された。
(3)の測定結果のばらつきについては、血液検体中にはアスコルビン酸及びピルビン酸が含まれており、これらの血液成分が特許文献1に示される方法では測定結果のばら付きを生じさせる原因であることを本発明者らは解明した。
(4)酵素反応に適した緩衝液の性能を補うために途中の操作で行う必要があった酸添加を不要とできる方法を開発した。
【0011】
本発明者らは、上記(1)~(4)に関しての知見に基づいてさらに検討した結果、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]
以下の工程1~5を含み、発色試薬がキシレノールオレンジまたはクロマズロールSである、血液検体中に含まれるATPの測定方法。
工程1:血液検体をATPの少なくとも一部が遊離するように前処理してATP含有試料溶液を得る工程、
工程2:工程1で得たATP含有試料溶液の少なくとも一部とアデノシンモノリン酸、ホスホエノールピルビン酸、アデニル酸キナーゼおよびピルビン酸キナーゼとを含有する緩衝液(pH7.8±0.3)を混合して1~5分保持する工程、
(但し、工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積は50倍以上である。希釈倍率は容量基準である。)
工程3:工程2で得た混合物の少なくとも一部とピルビン酸オキシダーゼを含有する緩衝液(pH5.7±0.3)を混合して所定時間保持する工程、
(但し、工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)は20倍以上であり、かつ工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)と工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)の積は1000倍以上である。希釈倍率は容量基準である。)、
工程4:工程3で得た混合物の少なくとも一部に酸、鉄(II)、および発色試薬を加えて所定時間保持する工程、および
工程5:工程4で得た混合物の色からATPの濃度を判定する工程。
[2]
工程4で得た混合物の色を目視観察して、検体中に含まれるATPの濃度が、あらかじめ定めた境界濃度より高いか、低いかを判定する[1]に記載の方法。
[3]
前記発色試薬がキシレノールオレンジである場合には、検体中に含まれるATP濃度が、あらかじめ定めた境界濃度よりも高いときに工程4で得た混合物が紫を呈し、低いときには黄または橙を呈するように、下記工程2~4の条件を設定し、
前記発色試薬がクロマズロールSである場合には、検体中に含まれるATP濃度が、あらかじめ定めた境界濃度よりも高いときに工程4で得た混合物が青を呈し、低いときには橙を呈するように、下記工程2~4の条件を設定する[2]に記載の方法。
[4]
工程4で得た混合物の吸光度を測定して、検体中に含まれるATPの濃度を求める[1]に記載の方法。
[5]
前記血液検体が血液サンプルをATPが遊離するように前処理した物である[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
工程2の保持時間は2~3分であり、工程3の所定保持時間は3分以上であり、工程4の所定保持時間は3分以上であり、工程2、3及び4の合計保持時間は8~20分である[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]
工程2において、所定保持時間経過後即座に、混合液は、工程3におけるピルビン酸オキシダーゼを含有する緩衝液と混合する[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]
以下の試薬1~6を含み、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法に用いられる、血液検体中に含まれるATPの測定用キット。
1:アデノシンモノリン酸、およびホスホエノールピルビン酸、
2:アデニル酸キナーゼおよびピルビン酸キナーゼ、
3:ピルビン酸オキシダーゼ、並びに
4:酸、鉄(II)、および発色試薬(但し、発色試薬は、キシレノールオレンジまたはクロマズロールSである)
5:緩衝液A(pH7.8±0.3)
6:緩衝液B(pH5.7±0.3)
[9]
ATP抽出用試薬またはヌクレオチド抽出用試薬をさらに含む[8]に記載のキット。
[10]
境界濃度より高い場合および低い場合の発色の色見本を含む[8]または[9]に記載のキット。
[11]
キットの説明書を含む[8]~[10]のいずれか1項に記載のキット。
[12]
希釈血液検体および試薬を混合し、発色を見るための容器を含む[8]~[11]のいずれか1項に記載のキット。
[13]
前記容器がキュベット、マルチタイタープレート、または遠沈管である[12]に記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血液検体を対象とするATP濃度の測定方法において、特許文献1に記載の方法において解決すべき課題であることを本発明者らが見出した前記(1)~(4)を解決し得る新たなATP濃度の測定方法とこの方法に使用するキットを提供することができる。
より具体的には(1)測定時間が長く、迅速性に問題があった点については、各段階の所要時間を制御することで、測定開始から15分以内で測定を完了することも可能になった。(2)測定精度が低い、および(3)測定結果がばらつくことに関しては、測定方法を構成する段階の構成や条件を変更することで解決した。さらに(4)緩衝液の性能を補うための酸添加を不要とする方法とした。
【0014】
本発明の方法の一態様であるが、発色剤としてキシレノールオレンジを用いる場合、AMPおよびPEP濃度、AKおよびPKの酵素活性、並びにMg2+イオン濃度を所定の範囲にすることで、患者の重症度の評価において、正常値の最低値以上である場合には紫色、それを下回る場合には黄・橙系の色を呈するよう設定でき、かつ測定を15分以内で行えるようにした。尚、いずれの最適値も特許文献1で推奨値として示される濃度範囲外であった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各種濃度のAMPおよびPEP(ATP濃度一定)における、吸光度とAK/PK反応の反応時間との関係を示す。
【図2】各種濃度のAMP(ATPおよびPEP濃度一定)における、吸光度とAK/PK反応の反応時間との関係を示す。
【図3】呈色が紫になる最少吸光度(0.3)に達する時間とMg2+濃度との関係を示す。
【図4】各種活性のAKおよびPKにおける、吸光度とAK/PK反応の反応時間との関係を示す。
【図5】キシレノールオレンジ濃度を変化させて測定した、吸光度とATP濃度との関係を示す。
【図6】工程2の反応液にピルビン酸カリウムを添加し、その濃度に対して吸光度の変化割合(%)をプロットした結果である。
【図7】工程3の反応液に含まれるアスコルビン酸濃度に対して吸光度変化をプロットした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[測定方法]
本発明の測定方法は、以下の工程1~5を含み、発色試薬がキシレノールオレンジまたはクロマズロールSである、血液検体中に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)の測定方法である。

【0017】
<工程1>
工程1は、血液検体をATPの少なくとも一部が遊離するように前処理して、ATP含有試料溶液を得る工程である。

【0018】
血液検体とは、生体から採取された組織や体液であれば特に制限されず、好ましくは、本発明の検査対象となりうるヒト(被検者)及びヒトをのぞく脊椎動物(被検動物)由来の血液試料を挙げることができる。被検動物としては、哺乳類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類を挙げることができ、好ましくはサル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、等の哺乳類の動物であり、中でもマウスを好適に例示することができる。血液試料としては、動脈(Artery:A)血、肺動脈(Pulmonary Artery:PA)血、静脈(Vein:V)血、中心静脈(Central Vein:CV)血、末梢静脈血の何れであってもよい。また、ATP濃度の測定を妨げない限りは、血液抗凝固剤や防腐剤などを適宜添加したり、血液中の特定の成分を除去あるいは凝縮して血液試料とすることもできる。

【0019】
血液検体をATPの少なくとも一部が遊離するように前処理してATP含有試料溶液を得る。ATP含有試料溶液を得るには、市販のATP抽出用試薬またはヌクレオチド抽出用試薬を用いることができる。市販のATP抽出用試薬としては、例えば、AMERIC-ATP Kit(販売元:和光純薬工業(株))を挙げることができる。

【0020】
ATP含有試料溶液は、血液検体を2倍以上希釈したものであることが好ましく、希釈にはATP抽出用試薬に含まれる抽出用溶液を適宜用いることができる。抽出用溶液の溶媒は、例えば、水であり、より具体的には緩衝液や生理食塩水またはそれらの混合物、さらにATPまたはヌクレオチド抽出用成分を含有するものであることができる。ATPまたはヌクレオチド抽出用成分としては、例えば、フェノール化合物などであることができる。血液検体から良好に(高い回収率で)ATPを遊離させてATP含有試料溶液を得るという観点からは、血液検体を2倍以上希釈された状態にすることが好ましい。

【0021】
ATP含有試料溶液における、血液検体の希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)は、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積を50倍以上にすることが、工程2における血液検体に含まれるピルビン酸の測定精度およびバラツキへの影響を無視できる程度に低減する、という観点から好ましい。この点については後述する。工程1で得られるATP含有試料溶液は、血液検体を2倍以上希釈にしたものであれば、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率を25倍以上とすることで、工程1の希釈倍率および2の希釈倍率の積を50倍以上とすることができる。工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率を低く抑えるという観点からは、工程1で得られるATP含有試料溶液は、血液検体を3倍以上、例えば、3~10倍の範囲で希釈することが好ましい。例えば、工程1で得られるATP含有試料溶液が、血液検体を5倍希釈したものである場合、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率は、10倍以上であれば、工程1および2の希釈倍率の積を50倍以上とすることができる。

【0022】
抽出用溶液が緩衝液であるか、または緩衝剤を含有する溶液の場合、pHは特に限定されないが、後続の工程2における測定への影響を考慮して、工程2で用いられる緩衝液と同等のpHにすることが好ましい。

【0023】
<工程2>
工程2は、工程1で得たATP含有試料溶液の少なくとも一部とアデノシンモノリン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、アデニル酸キナーゼ(AK)およびピルビン酸キナーゼ(PK)とを含有する緩衝液(pH7.8±0.3)を混合して1~5分保持する工程である。工程2における酵素反応はATPの増幅反応およびピルビン酸生成反応であり、これらの反応開始を制御するという観点からは、ATP含有試料溶液とAMP、PEP、AKおよびPKを含有する緩衝液の混合は、例えば、酵素(AKおよびPK)の一方と基質(AMPおよびPEP)をあらかじめ混合したものを試料に加えたあとに、もう一方の酵素を加えるという方法を取ることができる。あるいは、酵素以外の試薬をあらかじめ混合したものを試料に加えたあとに、もう2つの酵素を加えるという方法を取ることもできる。すなわち、酵素の基質であるAMPおよびPEPを含有する緩衝液をATP含有試料溶液と混合し、次いで、酵素であるAKおよびPKを含有する緩衝液を、上記AMPおよびPEPを含有する緩衝液とATP含有試料溶液との混合液に添加し、酵素反応を開始することが好ましい。少なくとも一方の酵素を最後に加えることが適当である。また、酵素の一方とほかの試薬をあらかじめ混合したもの、あるいは酵素以外の試薬をあらかじめ混合したものを準備しておくことで、試薬添加の手間を省くこともできる。

【0024】
下記に本発明の方法で用いる反応スキームを示す。
【化1】
JP0006295408B2_000002t.gif

【0025】
工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積は50倍以上である。尚、希釈倍率は特に断らない限り容量基準である。

【0026】
ATP含有試料溶液中には、血液に含まれる夾雑物としてピルビン酸、アスコルビン酸、およびクエン酸が含まれ、工程2における酵素反応では生成物がピルビン酸であることから、夾雑物としてのピルビン酸濃度が高いと、測定精度に悪影響を及ぼす。そのため、工程1のATP含有試料溶液における血液検体の希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積を上記範囲にすることで、ATP濃度測定に対する誤差を無視できる程度にすることができる。

【0027】
工程1のATP含有試料溶液における血液検体の希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)との積は、工程2における血液検体に含まれるピルビン酸の測定精度およびバラツキへの影響を無視できる程度に低減する、という観点から好ましくは100倍以上である。工程1および2の希釈倍率の積の上限は、測定の感度や測定に用いる全液量などを考慮すると1000倍であり、好ましくは500倍、より好ましくは250倍である。

【0028】
酵素反応は、混合液を1~5分、好ましくは2~3分より好ましくは2分15秒~2分45秒の範囲で保持することで行うことが好ましい。本発明の方法において、工程2における保持時間の設定は定量性を担保するために重要である。
工程2における保持時間をより厳密に設定するために、工程2において、所定保持時間経過後即座に、混合液は、工程3におけるピルビン酸オキシダーゼを含有する緩衝液と混合することが好ましい。前述のように工程1のATP含有試料溶液における血液検体の希釈倍率と、工程2におけるATP含有試料溶液の希釈倍率との積を所定の範囲に制御し、さらに、工程2における酵素反応の時間を上記範囲に制御することで、血液検体中のATP測定をより高精度に行うことができる。酵素反応は、室温(例えば、10~30℃)で行うことができる。

【0029】
工程2で用いる緩衝液のpHは、AKおよびPKの活性を考慮してpH7.8±0.3とする。また、工程2で用いる緩衝液に含まれる緩衝剤は、工程4で鉄(II)-XO系を用いる場合は、鉄イオンと結合しない緩衝剤が望ましい。その例として、限定されるものではないが、グッド緩衝剤をあげることができる。具体的にはN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、ピペラジン-1、4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、3-モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2 - [4 - (2 - ヒドロキシエチル)-1 - ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)などがあげられる。尚、リン酸およびクエン酸は、工程4において、鉄と結合し発色反応を阻害するため良好な発色が得られない、という実験結果が得られている。そこで、試料中にリン酸やクエン酸が含まれる場合は、アルミニウムイオンなどを添加することでそれらを封鎖することが適当である。

【0030】
上記酵素反応では、AKの反応により、ATPおよびAMPからADPが合成され、PKの反応により、ADPとPEPとから、ATPとピルビン酸が合成される。したがって、検体中にATPが含まれている場合、上記2つの酵素反応により、ATPの量が増幅され、かつピルビン酸が蓄積される。

【0031】
工程2における混合液中でのアデノシンモノリン酸(AMP)の濃度は、例えば、1~10mMの範囲、ホスホエノールピルビン酸(PEP)の濃度は、例えば、1~20mMの範囲、アデニル酸キナーゼ(AK)の活性は、例えば、0.5~2.5U/mlの範囲、ピルビン酸キナーゼ(PK)は、例えば、0.5~2.5U/mlの範囲とすることができる。

【0032】
工程2で用いる上記緩衝液にはさらにMg2+を含有させることができる。Mg2+は酵素反応に必要な金属イオンであり、工程2における混合液中の濃度は、例えば、0.5~60mMの範囲とすることができる。工程2における酵素反応を促進して短時間での測定を可能にするという観点からは、Mg2+濃度は、例えば、0.5~50mMの範囲とすることができ、より好ましくは1~10mMの範囲とすることができる。

【0033】
<工程3>
工程3は、工程2で得た混合物の少なくとも一部とピルビン酸オキシダーゼ(PyO)を含有する緩衝液(pH5.7±0.3)を混合して所定時間保持する工程である。

【0034】
工程3では、工程2の反応の生成物であるピルビン酸が、PyOの作用により、酸素およびPi(リン酸)と反応して、アセチルリン酸、二酸化炭素および過酸化水素を生成する。

【0035】
特許文献1に記載の方法では、この工程2で酸を用いていた。しかし、本発明の方法では、この段階で酸を用いることなく、pH5.7±0.3の緩衝液を用いる。さらに、工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)は20倍以上とする。加えて、工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)と工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)の積は1000倍以上とする。

【0036】
まず、工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3のPyOを含有する緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)は20倍以上とする。例えば、工程2で得た混合物の少なくとも一部を50としたときに、PyOを含有する緩衝液の混合比(容量比)は950以上とすることで、工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3の緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)は20倍以上とすることができる。工程2で得た混合物とPyOを含有する緩衝液の混合比(容量比)を50:950以上とすることで、pH5.7±0.3の緩衝液の緩衝能により、工程2で得た混合物に含まれる緩衝液の緩衝力を抑えて、得られる混合物のpHをpH5.7±0.3の範囲に制御することができる。これにより、酸を用いることなく工程2の酵素反応を停止させることができ、その結果、測定精度を向上させることができ、酸を用いる煩わしさを解消することができる。工程3も室温(例えば、10~30℃)で行うことができる。

【0037】
さらに、工程1における希釈倍率(ATP含有試料溶液/血液検体)と工程2における希釈倍率((緩衝液+ATP含有試料溶液)/ATP含有試料溶液)と工程3における希釈倍率((工程2で得た混合物少なくとも一部+工程3のPyOを含有する緩衝液)/工程2で得た混合物少なくとも一部)の積は1000倍以上とすることで、血液検体中に含まれるアスコルビン酸のPyOの酵素反応及び工程4における錯体生成反応(アスコルビン酸によるFe3+イオンの還元)に対する悪影響を抑制することもでき、測定精度を向上させることができる。工程1~3の希釈倍率の積は、血液検体中に含まれるアスコルビン酸のPyOの酵素反応に対する悪影響を抑制して測定精度をより向上させるという観点からは2000倍以上である。工程1~3の希釈倍率の積の上限は、測定の感度や測定に用いる全液量などを考慮すると4000倍であり、好ましくは3500倍である。

【0038】
工程3で用いる緩衝液に用いる緩衝剤としては、工程2と同様に、工程4で鉄(II)-XO系を用いる場合は、鉄イオンと結合しない緩衝剤が望ましい。その例として、限定されるものではないが、グッド緩衝剤をあげることができる。具体的にはN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、2 - モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ビス(2 - ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)などがあげられる。工程3における反応pHは、PyOが十分な活性を示すという観点からも、pH5.7±0.3の範囲が好ましい。

【0039】
工程3は、所定時間行うが、この所定時間は、例えば、工程3の所定保持時間は3分以上であることが好ましく、上限は例えば60分であり、より好ましくは3~5分間程度である。
ピルビン酸オキシダーゼ(PyO)は、例えば、工程3における混合液中で1~10U/mlの範囲とすることができる。

【0040】
<工程4>
工程4は、工程3で得た混合物の少なくとも一部に酸、鉄(II)、および発色試薬を加えて所定時間保持する工程である。工程4では、工程3で得た混合物の少なくとも一部に酸、鉄(II)、および発色試薬を加えて所定時間保持する。発色試薬は、キシレノールオレンジまたはクロマズロールSである。これらの発色剤は、検体中のATP濃度に応じた吸光度を示す他に、測定条件を制御することで、ATP濃度の境界値の前後で色の変化を生じさせることもできる。

【0041】
工程4では、発色試薬としてキシレノールオレンジを用いる場合、工程3の反応の生成物である過酸化水素と鉄(II)[Fe2+]が、酸性条件下(H+イオンの存在下)で、反応して鉄(III)[Fe3+]が生成する。次いで、鉄(III)[Fe3+]とキシレノールオレンジとが反応し、単核キシレノールオレンジ-鉄錯体が生成し、さらにこの単核キシレノールオレンジ-鉄(III)[Fe3+]とが反応して複核キシレノールオレンジ-鉄錯体が生成する。

【0042】
発色試薬としてクロマズロールSを用いる場合には、単核クロマズロールS-鉄錯体および複核クロマズロールS-鉄錯体が形成される。

【0043】
工程4で用いる酸は、例えば、塩酸であることができるが塩酸以外に、硝酸、硫酸等を用いることもできる。また、鉄(II)は、例えば、硫酸第一鉄アンモニウム(モール塩)等であることができる。工程4も室温(例えば、10~30℃)で行うことができる。

【0044】
工程2~4における各保持は、好ましくは工程2の保持時間は2~3分であり、工程3の所定保持時間は3分以上であり、上限は例えば60分であり、工程4の所定保持時間は3分以上であり、上限は例えば30分であり、工程2、3及び4の合計保持時間は、好ましくは8~20分である。より好ましい態様においては、工程2の保持時間は2.5分であり、工程3の所定保持時間は3分であり、工程4の所定保持時間は5分であり、工程2~4を含む全ての工程(工程1を除く)の操作に必要時間を約12分とすることもできる。

【0045】
<工程5>
工程5は工程4で得た混合物の色からATPの濃度を判定する工程である。工程5では、工程4で得た混合物の色からATPの濃度を判定する。混合物の色は、発色試薬としてキシレノールオレンジを用いる場合には、波長585nm付近(±1nm)の吸光度、発色試薬としてクロマズロールSを用いる場合には、波長615nm付近(±1nm)の吸光度を測定することで決定でき、別途作成した検量線と照合することで、検体中のATP濃度(量)を算出できる。

【0046】
工程4における反応により、検体に含まれていたATP濃度に応じて、発色試薬がキシレノールオレンジの場合、単核キシレノールオレンジ-鉄錯体および複核キシレノールオレンジ-鉄錯体の生成量が決まる。これにより、検体中のATP濃度があらかじめ定めた境界濃度よりも高いとき紫、低いとき黄と、異なる色を呈し、これを目視観察することで検体中のATP濃度レベルを判定することもできる。さらにそれにより、血液検体を採取した患者の重症度の評価をすることもできる。

【0047】
発色試薬としてクロマズロールSを用いた場合、検体に含まれていたATP濃度に応じて、単核クロマズロールS-鉄錯体および複核クロマズロールS-鉄錯体の生成量が決まる。そして、検体中のATP濃度があらかじめ定めた境界濃度よりも高いとき青、低いとき橙と、異なる色を呈し、これを目視観察することで検体中のATP濃度レベルを判定することができる。さらにそれにより、血液検体を採取した患者の重症度の評価することもできる。

【0048】
本発明の方法においては、検体中に含まれるATP濃度が、あらかじめ定めた境界濃度よりも高いときと低いときとで、工程4で得た混合物が呈する色が異なるように、条件を設定する。より具体的には、主に、工程3で生成する過酸化水素の濃度と工程4で用いる発色試薬の濃度を設定する。したがって、工程4における酸は、工程4におけるpHを調節するために加え、そのpHは生成する鉄(III)イオンが加水分解を受けずに安定して存在でき、かつ錯体が生成できる条件を考慮して決定する。

【0049】
発色試薬がキシレノールオレンジである場合についてより具体的に説明する。境界値を挟んで異なる色への発色は、判別しようとする濃度のATPから工程3において生成する過酸化水素のモル濃度をキシレノールオレンジのモル濃度の約1/4に設定することで達成できる。

【0050】
キシレノールオレンジ濃度は、生成する過酸化水素の濃度に応じて設定するが、工程4における混合液中で10~40μMの範囲が好ましい。キシレノールオレンジ濃度は、さらに好ましくは20~40μMの範囲である。

【0051】
[測定用キット]
本発明の測定用キットは、以下の試薬1~6を含み、前記本発明の方法に用いられる、血液検体中に含まれるアデノシン三リン酸の測定用キットである。
1:アデノシンモノリン酸、およびホスホエノールピルビン酸、
2:アデニル酸キナーゼおよびピルビン酸キナーゼ、
3:ピルビン酸オキシダーゼ、並びに
4:酸、鉄(II)、および発色試薬(但し、発色試薬は、キシレノールオレンジまたはクロマズロールSである)
5:緩衝液A(pH7.8±0.3)
6:緩衝液B(pH5.7±0.3)

【0052】
試薬1および2は、上記測定方法の工程2に使用される試薬であり、試薬1は酵素の基質、試薬2は酵素である。前述のように、ATPの増幅反応(ピルビン酸生成反応)の開始を制御するという観点からは、基質である試薬1と酵素である試薬2は、例えば、酵素の一方とほかの試薬をあらかじめ混合したものを試料に加えたあとに、もう一方の酵素を加えるという方法、または酵素以外の試薬をあらかじめ混合したものを試料に加えたあとに、もう2つの酵素を加えるという方法を取ることができるので、本発明のキットにおいては、試薬1および2は、酵素の一方とほかの試薬をあらかじめ混合したものと、他方の酵素の2つの試薬、または、酵素以外の試薬をあらかじめ混合したものと2つの酵素の混合物の2つの試薬からなることができる。

【0053】
これらの試薬は、例えば、pH緩衝液に溶解または分散したものであることが適当であり、試薬5として緩衝液A(pH7.8±0.3)を含むことができる。緩衝液Aに含まれる緩衝剤としては、例えば、グッド緩衝剤をあげることができる。具体的には、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、(ピペラジン-1、4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、3-モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2 - [4 - (2 - ヒドロキシエチル)-1 - ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)などを用いることができる。

【0054】
試薬3は、上記測定方法の工程3に用いる試薬(酵素)であり、ピルビン酸オキシダーゼからなる。また、ピルビン酸オキシダーゼは、そのまま、または、試薬1および2と同様に、緩衝液に溶解または分散したものであることができる。試薬6として緩衝液B(pH5.7±0.3)を含むことができる。緩衝液Bに含まれる緩衝剤としては、例えば、グッド緩衝剤をあげることができる。具体的には、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、2 - モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ビス(2 - ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)などを用いることができる。

【0055】
試薬4は、上記測定方法の工程4に用いる試薬である。試薬4において、鉄(II)は、例えば、硫酸第一鉄アンモニウム(モール塩)等であることができる。また、発色試薬はキシレノールオレンジ、クロマズロールSであることができる。酸、鉄(II)、および発色試薬(例えば、キシレノールオレンジ)は、あらかじめ混合しておくことができる。

【0056】
本発明のキットは、上記試薬類に加えて、境界濃度より高い場合および低い場合の発色の色見本を含むことができる。発色の色見本の色は、鉄(II)および発色試薬の種類に応じて適宜選択できる。本発明のキットは、ATP抽出用試薬またはヌクレオチド抽出用試薬をさらに含むこともできる。

【0057】
本発明のキットは、上記試薬類に加えて、キットの説明書を含むこともできる。本発明のキットは、検体および試薬を混合し、発色を見るための容器を含むことができ、そのような容器としては、キュベット、マルチタイタープレートまたは遠沈管を挙げることができる。マルチタイタープレート、例えば、96穴のマルチタイタープレートであることができる。尚、キュベット、マルチタイタープレート及び遠沈管は、透明であることもできるが、発色を肉眼で観察しやすいという観点から、色は白色であることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【実施例】
【0059】
実施例1
本発明の方法を実施する操作方法の典型例を以下のスキームに示す。下記スキームに示す各条件は、以下に示す参考例1~6の結果に基づいて決定したものである。検体中のATPは、ATP試料作製(希釈倍率は記載せず、工程1)、及び工程2の反応の際(希釈倍率=(25+400+75)/25)に希釈される。工程2の酵素反応でATP増幅を行うため測定には支障はなく、むしろ血液検体中に含まれるピルビン酸からの妨害を回避するに役立つ。また、工程3で希釈する(希釈倍率=(40+960)/40)ことによりpH調節のための酸の添加を不要にし、かつ血液検体中に含まれるアスコルビン酸の妨害を回避するに役立つ。
【実施例】
【0060】
【化2】
JP0006295408B2_000003t.gif
【実施例】
【0061】
参考例1(AMPおよびPEP濃度)
図1および図2は、各種濃度のAMPおよびPEPにおいてAK/PK反応の反応時間を変えながら、前記スキームと同様の操作をおこなって、反応時間に対して、吸光度をプロットしたものである。従来のAMPおよびPEP濃度(0.5 mM;▽)では反応が非常に遅いのに対して、AMPおよびPEP濃度を8.5 mM(▲)にすることにより反応が迅速になった。さらに、AMP濃度を最適化し、4.3 mM(△)を得た。なお、濃度は反応液中の値として示している。
【実施例】
【0062】
参考例2(Mg2+濃度)
図3は前記スキームと同様の操作を行い、図1のような曲線を取得し、吸光度が0.3に到達する時間を直線補間によって求め、Mg2+濃度に対してプロットしたものである。反応濃度を5 mMとした。これにより、従来は10~20分かかっていた反応時間が3分程度となった。
【実施例】
【0063】
参考例3(AKおよびPKの酵素活性)
酵素活性を変えて図1のようなプロットを作成した結果を図4に示す。酵素活性を2 U/ml(反応液中の値)とすることにより、反応時間が2.5分程度となった。これ以上の活性でもよいがコストを考慮してこの値に定めた。
【実施例】
【0064】
参考例4(キシレノールオレンジ濃度)
図5は反応液中でのキシレノールオレンジ濃度20μM(●)および30μM(○)において、前記スキームの操作を行うことにより、吸光度を測定し、既知濃度のATP(ATP含有試料溶液中の濃度で示している)に対してプロットした検量線である。キシレノールオレンジ濃度を30μMにすることにより、20μM(●)と比べて検量線の吸光度スケールが約2倍拡張し、良好な感度で精度良い測定が可能となった。20μMは特許文献1で用いられている濃度で、これを用いるとATP0.1mM以上では感度(傾き)がかなり低い。なお、血液試料の前処理をしたあとでの正常値の最低値は0.08 mMである。本発明ではそれより高い場合は紫に、それより低い場合は黄・橙に呈色する。
【実施例】
【0065】
参考例5(ピルビン酸の影響)
図6は工程2の反応液にピルビン酸カリウムを添加し、その濃度に対して吸光度の変化割合((ピルビン酸を含むときの吸光度-ピルビン酸を含まないときの吸光度)/ (ピルビン酸を含まないときの吸光度)×100%)をプロットしたものである。ピルビン酸濃度の増加とともに、吸光度変化が大きくなり、正の誤差を与えることがわかる。一般に、血清中のピルビン酸濃度は0.04-0.13 mMとされているため、図6から工程2時点でのピルビン酸濃度を多くとも0.001 mM以下にしておく必要がある。本法では工程2までに100倍以上に希釈されるため、血中ピルビン酸の影響はないか、かなり小さいといえる。実際の測定上は、吸光度変化が5%以内であれば、血中ピルビン酸の影響は無視できる。
【実施例】
【0066】
参考例6(アスコルビン酸の影響)
図7は工程3の反応液に含まれるアスコルビン酸濃度に対して吸光度変化((アスコルビン酸を含むときの吸光度-アスコルビン酸を含まないときの吸光度)/(アスコルビン酸を含まないときの吸光度)×100%)をプロットしたものである。アスコルビン酸濃度の増加とともに負の誤差を与えることを示している。血中のアスコルビン酸濃度は0.031-0.095 mMであるため、図7からアスコルビン酸濃度を工程3の時点で多くとも0.001 mM以下にしておく必要があると推定される。本法では工程3までに1000倍以上希釈されるため、血中アスコルビン酸の影響はないか、かなり小さいといえる。実際の測定上は、吸光度変化が5%以内であれば、血中アスコルビン酸の影響は無視できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は血液検体中のATPの濃度測定が関連する分野に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6