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明細書 :水溶性カロテノイド結合タンパク質及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6399425号 (P6399425)
公開番号 特開2014-131992 (P2014-131992A)
登録日 平成30年9月14日(2018.9.14)
発行日 平成30年10月3日(2018.10.3)
公開日 平成26年7月17日(2014.7.17)
発明の名称または考案の名称 水溶性カロテノイド結合タンパク質及びその製造方法
国際特許分類 C07K  14/405       (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12N   1/12        (2006.01)
FI C07K 14/405 ZNA
C12P 21/02 A
C12N 1/12 A
C12N 1/12 C
請求項の数または発明の数 8
微生物の受託番号 IPOD FERM P-22244
全頁数 18
出願番号 特願2013-249365 (P2013-249365)
出願日 平成25年12月2日(2013.12.2)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 過酷な環境に生息する藻類の探索と環境ストレス耐性機構に関する研究、東京農業大学大学院農学研究科バイオサイエンス専攻平成23年度修士論文(平成23年6月21日公開)に発表
優先権出願番号 2012265786
優先日 平成24年12月4日(2012.12.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年12月2日(2016.12.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
発明者または考案者 【氏名】川▲崎▼ 信治
個別代理人の代理人 【識別番号】100122574、【弁理士】、【氏名又は名称】吉永 貴大
審査官 【審査官】西 賢二
参考文献・文献 水口佳祐,過酷な環境に生息する藻類の探索と環境ストレス耐性機構に関する研究,東京農業大学修士論文,日本,東京農業大学学術情報センター,2012年 6月21日
Biochimica et Biophysica Acta,1976年11月26日,Vol. 453, Issue 1,p. 270-276
ACCESSION: AB731756,DATABASE NCBI [Online]; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AB731756,2013年 9月11日
ACCESSION: AB731757,DATABASE NCBI [Online]; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AB731757,2013年 9月11日
2A20a09, 2A20a10,日本農芸化学会2008年度大会大会講演要旨集,日本,日本農芸化学会,2008年 3月 5日,p. 82
[Online]; http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCCatalogueDetailServlet?ID=NBRC&CAT=00108794,日本,2011年10月27日
「一重項酸素」項,生化学辞典,日本,株式会社東京化学同人,2002年 7月 1日,第三版,p. 133
調査した分野 C12P 1/00~41/00
C12N 1/00~7/08
C07K 1/00~19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/DWPI/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
緑藻網(Chlorophyceae)に属する略球形の藻類(chlorophyte)Ki-4(受託番号:FERM P-22244)株が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質であって、
前記水溶性カロテノイド結合タンパク質が、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質に、アスタキサンチン、アドニキサンチン、ルテイン、カンタキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のカロテノイドを結合してなる、
水溶性カロテノイド結合タンパク質
【請求項2】
前記水溶性カロテノイド結合タンパク質が、一重項酸素消去活性を有する、
請求項1に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質。
【請求項3】
前記水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量がSDS-PAGEによって33kDa及びゲルろ過によって42~43kDaである、
請求項1又は2に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質。
【請求項4】
前記タンパク質が糖タンパク質である、
請求項1~のいずれか1項に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質。
【請求項5】
緑藻網(Chlorophyceae)に属する略球形の藻類(chlorophyte)Ki-4(受託番号:FERM P-22244)株にストレスを付与しながら培養する培養工程と、
前記培養工程によって微細藻類が生産した水溶性カロテノイド結合タンパク質を微細藻類から抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で得た抽出液を精製する精製工程と、
を有する
溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法であって、
前記水溶性カロテノイド結合タンパク質が、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質にアスタキサンチン、アドニキサンチン、ルテイン、カンタキサンチンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のカロテノイドを結合してなる、
水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法
【請求項6】
前記培養工程が、光照射強度が500μmol photons/cm/s以上の強光を照射し、かつ、微細藻類を寒天培地上で培養することにより乾燥ストレスを付与する乾燥ストレス付与培養又は培地に塩化ナトリウムを添加して培養する塩ストレス付与培養である、
請求項に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法。
【請求項7】
前記塩化ナトリウムの添加濃度が0.5mol/L~1.0mol/Lである、
請求項に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法。
【請求項8】
前記培養工程において、光の照射と非照射とを周期的に行い、その光照射強度が500μmol photons/cm/s以上であって、明暗周期が光照射12~16時間後、光非照射12~8時間である、
請求項のいずれか1項に記載の水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、真核生物である微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、カロテン類やキサントフィル類の色素化合物の総称であり、キサントフィル類の一種であるアスタキサンチンは、微細藻類、酵母、細菌等の微生物類、サケやイクラ、タイ等の魚類、カニ、エビ、オキアミ等の甲殻類、フラミンゴ、ニワトリ等の鳥類等、自然界に広く存在している。カロテノイドは、生物に鮮やかな色彩を与えることが特徴であり、脂溶性の着色剤として広く食品、健康食品、医薬品等に利用されている。
【0003】
また、カロテノイドは高い抗酸化作用をもつことが知られている。中でもアスタキサンチンは、抗酸化作用の中でも特に一重項酸素消去活性が他の抗酸化物質と比べて高く、健康食品、化粧品や皮膚外用剤、医薬品等への利用が注目されている(特許文献1)。
【0004】
従来、アスタキサンチンは、オキアミを酵素処理し、残渣を乾燥粉砕した後、アセトンで抽出した抽出液を精製することで生産される。また、近年では、アスタキサンチンを安定して多量に生産することのできる微生物、例えば、微細藻類(特許文献2及び3)、酵母(特許文献4)や細菌(特許文献5)を用いた製造方法が開発されている。
【0005】
しかし、アスタキサンチン等のカロテノイドは脂溶性であり、水に対しては難溶又は不溶である。そのため、健康食品、化粧品や皮膚外用剤、医薬品等に利用する場合には、その用途や使用方法が限定される。
【0006】
ところで、カニやエビ等の表皮には、アスタキサンチンとタンパク質であるクラスタシアニン(crustacyanin)とが結合したアスタキサンチン結合タンパク質が存在することが知られている。また、ロブスターの卵巣にはリポプロテインであるオボベルディン(ovoverdin)やオボルビン(ovorubin)が、サケの筋肉にはアクトミオシン(actomyocin)が、アスタキサンチン結合タンパク質として存在することが知られている。さらに、クラスタシアニンなど一部のタンパク質は水溶性を示すことも知られている(非特許文献1)。しかしながら、これらのアスタキサンチン結合タンパク質は、細胞骨格や筋肉などに強固に結合しており、カニやエビ等の甲殻やサケの筋肉からアスタキサンチン結合タンパク質を抽出・精製するには、数多くの精製工程を経る必要があり、多大な労力とコストを費やすため、アスタキサンチン結合タンパク質を多量に安価で生産することは困難である。
【0007】
一方、微生物によって水に可溶なカロテノイド関連化合物を生産する技術が開発されている。例えば、カロテノイド生合成遺伝子を導入した形質転換微生物を用いたアスタキサンチンジグルコシド等のカロテノイド配糖体の製造方法(特許文献6)や、海洋から分離した新種のパラコッカス属に属する細菌によるアスタキサンチンジグルコシド及びアドニキサンチンジグルコシドの製造方法(特許文献7)がある。また、原核藻類のらん藻では、hydroxyechinenonというカロテノイドがタンパク質に結合した水溶性オレンジカロテノイドタンパク質(OCP)が知られているが、アスタキサンチンを結合する報告例はない。また、らん藻や真核生物である微細藻類、高等植物を含む植物界において、アスタキサンチンを結合する水溶性カロテノイド結合タンパク質については全く知られていない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2010-285364号公報
【特許文献2】再表2005-116238号公報
【特許文献3】特開平8-103288号公報
【特許文献4】特開2012-100535号公報
【特許文献5】特開2012-139166号公報
【特許文献6】特開平10-327865号公報
【特許文献7】特開2007-330105号公報
【0009】

【非特許文献1】Britton,G and Helliwell,J.R.,“Carotenoid-protein interactions”,「Carotenoids(Edited by Britton,G.,Liaaen-Jensen,S and Pfander,H.)」,Switzerland,Birkhauser Verlag,2008,pp.99-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、簡便で効率的に培養することのできる真核生物である微細藻類に着目し、微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、自然界から単離した真核生物である微細藻類がアスタキサンチンを主要なカロテノイドとして結合する新規な水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、真核生物である微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、微細藻類にストレスを付与しながら培養する培養工程と、前記培養工程によって微細藻類が生産した水溶性カロテノイド結合タンパク質を微細藻類から抽出する抽出工程と、前記抽出工程で得た抽出液を精製する精製工程と、を有する、真核生物である微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、高い抗酸化活性を有するアスタキサンチンを主要なカロテノイドとして結合し、水に可溶であり、細胞中に浮遊した状態で存在するために抽出及び精製が容易であり、食品、着色剤、化粧品や皮膚外用剤、医薬品等に幅広く利用することが可能となる。
【0015】
また、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法によれば、真核生物である微細藻類を用いて簡便に効率的に水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類Ki-4株の電子顕微鏡写真である。
【図2】水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類Ki-4株の光学顕微鏡写真である。
【図3】水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類Ki-4株の18SrRNA遺伝子配列に基づく系統的位置を示す図である。
【図4】水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量を示す図である。
【図5】水溶性カロテノイド結合タンパク質に結合しているカロテノイドのクロマトグラフ及びマススペクトルを示す図である。
【図6】PAS染色による水溶性カロテノイド結合タンパク質の糖鎖の有無を示す図である。
【図7】水溶性カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性を示す図である。
【図8】熱処理した水溶性カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の真核生物である微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質について説明する。

【0018】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、高い抗酸化活性を有するアスタキサンチンを主要なカロテノイドとして結合し、水に可溶であって、真核生物である微細藻類が生産するものであれば、特に限定されないが、例えば、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質にアスタキサンチンを主要なカロテノイドとして結合し、他のカロテノイドにも結合能を有するものであって、微細藻類にストレスを付与しながら培養することにより生産されるものを挙げることができる。

【0019】
前記タンパク質に結合するカロテノイドは、αカロテン、βカロテン、γカロテン、δカロテン、リコペン、ニューロスポレン、フィトフルエン、フィトエン、αクリプトキサンチン、βクリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アスタキサンチン、アドニキサンチン、アドニルビン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン、ネオキサンチン、スピリロキサンチン、アロキサンチン、ジアジノキサンチン、ジアトキサンチン、ペリジニン、スフェロイデン、アンヒドロビブリン等である。

【0020】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、脂溶性カロテノイドの特徴である1重項酸素消去活性を水溶液中で発揮することが可能なため、水溶性の特性を生かした食品、化粧品、皮膚外用剤、医薬品や科学試薬等に利用することができる。また、該水溶性カロテノイド結合タンパク質は、カロテノイド由来の色彩を有することから、水溶性の着色剤として、食品、化粧品、皮膚外用剤、医薬品等に利用することができる。

【0021】
また、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、耐熱性を有することから、食品、化粧品、皮膚外用剤、医薬品等に利用することができる。

【0022】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量は、特に限定されないが、例えば、前記配列番号1に示されたアミノ酸配列からなる水溶性カロテノイド結合タンパク質のタンパク質部分の分子量は、ポリアミノ酸部分のみの推定分子量として21kDaであり、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質全体の分子量は、SDS-PAGEによって33kDa、ゲルろ過によって42~43kDaと推定される。なお、タンパク質全体の分子量とは、水溶性カロテノイド結合タンパク質を構成するポリアミノ酸部分に加えて結合しているカロテノイドと糖鎖を含む分子量をいう。

【0023】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の糖鎖の有無は、特に限定されないが、例えば、前記配列番号1に示されたアミノ酸配列からなる水溶性カロテノイド結合タンパク質は、糖鎖が結合した糖タンパク質である。

【0024】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の等電点は、特に限定されないが、例えば、前記配列番号1に示されたアミノ酸配列からなる水溶性カロテノイド結合タンパク質は、等電点(pI)が10.5である塩基性タンパク質である。

【0025】
一方、前記微細藻類は、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類であれば特に限定されないが、該水溶性カロテノイド結合タンパク質の生産性の観点から、本発明者が分離し、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した緑藻網(Chlorophyceae)に属する球形の藻類(chlorophyte)Ki-4(受託番号:FERM P-22244)株(以下「Ki-4株」という。)を用いるのが好ましい。


【0026】
前記Ki-4株は、その形態及び18SrRNA遺伝子配列を用いた系統解析から、最も近縁な種がScenedesmus vacuolatus(18SrRNA遺伝子配列の相同性は99%)である新種と推察される。微細藻類の同定においては、その形態も重要な指標であるため、18rRNA遺伝子配列の相同性が99%であったとしても属種が異なる場合がある。なお、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、Ki-4株に近縁な菌株も生産することが予想される。Ki-4株の18SrRNA遺伝子配列やITS遺伝子配列と塩基配列全体の相同性が99%を示す微細藻類としては、DNAデータベースを用いたNCBIのBLAST解析の結果(E value=0.0,Query cover率99%以上)、Scenedesmus属藻類のほか、Asterarcys属、Graesiella属、Coelastrella属、Coelastropsis属、Coelastrum属、Ettlia属、Pectinodesmus属、Tetradesmus属、Chlorella属、Bracteacoccus属、Haematococcus属、Chlamydomonas属に属する藻類などがある。また、Ki-4株の18rRNA遺伝子配列及びITS遺伝子配列は、日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録されている(accession number AB734096及びAB762691)。

【0027】
前記微細藻類の培養に用いる培地は、微細藻類が生育でき、かつ本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産できる培地であれば特に制限されず、例えば、A-3培地等の液体培地又はこれら液体培地に寒天を添加して調製した寒天平板培地を挙げることができる。

【0028】
前記微細藻類の培養温度は、微細藻類が生育でき、かつ本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産できる温度であれば特に制限はないが、該水溶性カロテノイド結合タンパク質生産の観点から25~30℃が好ましい。

【0029】
前記微細藻類の培養時には、光の照射と非照射とを周期的に行うのが好ましい。光照射強度及び明暗周期は、微細藻類が生育でき、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産できれば特に制限はないが、該水溶性カロテノイド結合タンパク質生産の観点から、光照射強度が500μmol photons/cm/s以上、より好ましくは800~2000μmol photons/cm/sの強光条件で明暗周期を光照射12~16時間後、光非照射12~8時間で行うことが好ましい。なお、光の照射と非照射とを周期的に行わずに光を照射し続けても本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することができる。

【0030】
前記微細藻類の培養において付与するストレスは、微細藻類が生育でき、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産できれば特に限定されないが、簡便にストレスを付与できる観点から、例えば、温度ストレス、圧力ストレス、酸化ストレス、強光ストレス、光酸化ストレス、乾燥ストレス、塩ストレス等が好ましい。ストレス付与に際して、2種以上のストレスを組み合わせも差し支えない。

【0031】
本実施形態において、ストレスを付与して培養した微細藻類の細胞を破砕することで細胞内に生産された本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を抽出する。なお、上述のとおり、カロテノイドは水に対しては難溶又は不溶であるため、一般にカロテノイドを抽出する場合には有機溶剤を用いるが、本発明のカロテノイド結合タンパク質は水溶性であるため、水又は水溶液を用いて抽出することができる。

【0032】
前記細胞の破砕方法は、フレンチプレス、ホモジナイザーや超音波等を用いた物理的な方法や細胞溶解酵素を用いた化学的な方法を挙げることができる。

【0033】
また、微細藻類の細胞を破砕することで抽出した水溶液に含まれる本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を精製する。

【0034】
前記の精製方法は、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質が精製できれば特に制限されず、電気泳動、各種クロマトグラフィー、限外ろ過等を挙げることができる。また、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質が溶解している水溶液の溶媒を脱塩カラム(PD-10;GEヘルスケア社製)や透析膜等を用いて超純水に置換することもできる。なお、該水溶性カロテノイド結合タンパク質は、水に溶けた状態で退色することなく長期間安定である。

【0035】
また、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質は、真空乾燥、凍結乾燥やスプレードライ等の方法によって粉末化することができる。なお、粉末化した水溶性カロテノイド結合タンパク質は水に添加すると速やかに溶解する。

【0036】
また、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は良好な耐熱性を有する。すなわち、精製カロテノイド結合タンパク質の水溶液を100℃で1時間の熱処理を行った場合においても、水溶液中に不溶物は観察されず、また、熱処理した精製カロテノイド結合タンパク質水溶液の色調は、熱処理していない場合と比べて色調の変化は観察されない。このように、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は100℃で1時間の熱処理によっても水溶解性及び退色性の変化は認められず、実用上十分な耐熱性を有する。

【0037】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、食品(機能性食品、健康食品等)、食品添加物、着色剤、医薬品、化粧品や皮膚外用剤、飼料等の原料として広く利用することができる。なお、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を利用する場合、上述のように微細藻類を培養することによって該水溶性カロテノイド結合タンパク質を菌体内に生産した微細藻類の菌体自体や該菌体を破砕して得た菌体破砕物を用いてもよい。

【0038】
次に、本発明の真核生物である微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質の製造方法の好適な実施形態について説明する。

【0039】
本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、前記水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類にストレスを付与しながら培養する培養工程と、前記培養工程によって微細藻類が生産した水溶性カロテノイド結合タンパク質を微細藻類から抽出する抽出工程と、前記抽出工程で得た抽出液を精製する精製工程と、を順次実施することにより効率的に製造することができる。

【0040】
まず始めに、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類を準備し、これを液体培地又は寒天平板培地を用いて、ストレスを付与しながら培養する。

【0041】
前記微細藻類としては、上述のとおり、Ki-4(受託番号:FERM P-22244)株を用いるのが好ましい。このKi-4株は、先に示したように、最も近縁な種がScenedesmus vacuolatus(18SrRNA遺伝子配列の相同性は99%)である新種と推察される。

【0042】
前記微細藻類の培養に用いるに好適な培地としては、A-3培地等の液体培地又はこれら液体培地に寒天を添加して調製した寒天平板培地が用いられる。

【0043】
前記微細藻類の培養温度は、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質生産の観点から20~35℃、特に25~30℃が好ましい。

【0044】
前記微細藻類の培養時の光照射強度及び明暗周期は、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質生産の観点から、光照射強度が500μmol photons/cm/s以上、より好ましくは800~2000μmol photons/cm/sの強硬条件で明暗周期を光照射12~16時間後、光非照射12~8時間で行うことが好ましい。なお、光の照射と非照射とを周期的に行わずに光を照射し続けても本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することができる。

【0045】
前記微細藻類の培養において付与されるストレスは、上述した各ストレスの中でも、強光条件(光照射強度が500μmol photons/cm/s以上)下で、かつ、微細藻類を寒天培地上で培養することによって寒天培地中の水分が徐々に低下することを利用する乾燥ストレスや塩化ナトリウムを添加した液体培地で培養する塩ストレスが好ましい。培地に塩化ナトリウムを添加して塩ストレスを付与する場合は、塩化ナトリウム濃度を0.5mol/L~0.7mol/LとすることでKi-4株の水溶性カロテノイド結合タンパク質の生産性を向上させることができるので特に好適である。

【0046】
次いで、ストレスを付与して培養した微細藻類の細胞を水又は水溶液中で破砕することで細胞内に生産された本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を抽出する。なお、上述のとおり、カロテノイドは水に対しては難溶又は不溶であるため、一般にカロテノイドを抽出する場合には有機溶剤を用いるが、本発明のカロテノイド結合タンパク質は水溶性であるため、水又は水溶液を用いて抽出することができる。

【0047】
前記細胞の破砕方法は、フレンチプレス、ホモジナイザーや超音波等を用いた物理的な方法や細胞溶解酵素を用いた化学的な方法を挙げることができる。

【0048】
次いで、細胞を破砕して抽出した水溶液に含まれる本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の精製を行う。

【0049】
前記の精製方法は、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質が精製できれば特に制限されず、電気泳動、各種クロマトグラフィー、限外ろ過等を挙げることができる。また、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質が溶解している水溶液の溶媒を脱塩カラム(PD-10;GEヘルスケア社製)や透析膜等を用いて超純水に置換することもできる。

【0050】
また、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質は、真空乾燥、凍結乾燥やスプレードライ等の方法によって粉末化することができる。

【0051】
このような工程によって、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を製造することができる。
【実施例】
【0052】
1.水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する微細藻類の検索及び同定
(1)微細藻類の検索
砂漠土壌、塩堆積物、真夏時のアスファルト等を試料として、目的に適う真核生物である微細藻類のスクリーニングを行った。すなわち、試料をA-3寒天平板培地(純水1L中にKNO 125mg、MgSO・7HO 75mg、KHPO 75mg、KHPO 175mg、NaCl 25mg、CaCl・HO 10mg、FeSO・7HO 1mg、HBO 3mg、MnSO・7HO 2.5mg、ZnSO・7HO 2mg、CuSO・5HO 0.1mg及びNaMoO 0.1mg、Agar 15gを含む)に塗布した後、室内の自然光照射下に放置した。その後、寒天上に増殖した微細藻類と思われる緑色又は赤色のコロニーを採取し、再度、上記同様に1.5%寒天を含むA-3寒天培地に塗布した。なお、コロニーが単一になるまでこの操作を繰り返すことで微細藻類を純粋分離した。
【実施例】
【0053】
その結果、微細藻類を40菌株得ることができ、この中から、乾燥や塩ストレスに対する耐性を有し、かつ水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産する菌株として東京都世田谷区桜丘1丁目の東京農業大学前のアスファルト道路から分離した緑藻網(Chlorophyceae)に属する球形の藻類(chlorophyte)Ki-4(受託番号:FERM P-22244)株(以下「Ki-4株」という。)を選抜した。
【実施例】
【0054】
(2)微細藻類の同定
選抜したKi-4株の形態について、電子顕微鏡及び光学顕微鏡を用いて観察したところ、図1及び2に示したように、Ki-4株は単球菌という特徴を有していた。
【実施例】
【0055】
また、常法に従って、Ki-4株の18SrRNA遺伝子配列を調べ、系統解析を行ったところ、Ki-4株の系統的位置は、図3に示したように、日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録されているScenedesmus vacuolatus(accession number X56104)株が最も近縁な菌株であった。また、Ki-4株の18SrRNA遺伝子配列と上記Scenedesmus vacuolatus株の18rRNA遺伝子配列とを比較したところ、その相同性は99%であった。
【実施例】
【0056】
一般に、Scenedesmus属は2~4個の細胞が連結した連鎖球菌であることや18SrRNA遺伝子配列の系統解析の結果から、Ki-4株はScenedesmus vacuolatusに近縁の新種であると推察された。なお、Ki-4株の18SrRNA遺伝子配列は、日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録した(accession number AB734096)。
【実施例】
【0057】
2.微細藻類の培養方法
(1)前培養
乾熱滅菌(180℃、2時間)した綿栓付きガラス管が施された1L容三角フラスコに、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)したA-3培地700mLを入れ、Ki-4株を3白金耳植菌した。これを1日の明暗周期が1000μmol photons/cm/sで15時間後、0μmol photons/cm/sで9時間となるように設定した植物用恒温器(トミー精工社製:CF-305)内に入れ、スターラーバーを用いて撹拌を行いながら培養温度26℃で5日間の撹拌培養を行った。また、培養終了後の菌体濃度(O.D.750nm)値は、1.0~1.2であった。
【実施例】
【0058】
次に、前記培養液をA-3培地700mLに菌体濃度(O.D.750nm)が0.1~0.2となるように添加し、前記同様の培養条件で3日間培養を行い、前培養液を調製した。
【実施例】
【0059】
(2)乾燥ストレス付与培養
まず始めに、乾燥ストレス付与培養を行うための寒天平板培地を調製した。すなわち、A-3培地1000mLをpH6.8に調整した後、寒天15gを添加してオートクレーブ滅菌(121℃、20分間)を行った。このA-3寒天培地70mLを直径150mm×高さ15mmのシャーレに注ぎ、A-3寒天平板培地を調製した。
【実施例】
【0060】
一方、上記2.(1)で調製した前培養液50mLを遠沈管に入れて遠心分離(4500rpm、10分間、4℃)を行った後、遠心分離によって菌体と上清液とに分離し、該菌体を該上清液5mLに懸濁することで菌体懸濁液を調製した。
【実施例】
【0061】
前記菌体懸濁液500μLをエタノールで滅菌したコンラージ棒を用いてあらかじめ調製した前記A-3寒天平板培地に塗布した。これを明暗周期が500μmol photons/cm/sで16時間後、0μmol photons/cm/sで8時間となるように設定した植物用恒温器(トミー精工社製:CF-305)内に入れ、培養温度26℃で5日間培養した(本培養)。
【実施例】
【0062】
次いで、前記本培養で得た寒天平板培地に生育した菌体を用いて、乾燥ストレス付与培養試験を行った。すなわち、菌体が生育した寒天平板培地を無菌的に4.9cm×2.8cmに切り取り、直径90mm×高さ15mmのシャーレに入れた。これを1日の明暗周期が700~1000μmol photons/cm/sで16時間後、照度0(0ルクス)で8時間となるように設定した植物用恒温器(トミー精工社製:CF-305)内に入れ、培養温度28℃で乾燥ストレス付与培養を行った。また、経日的に培養期間中の寒天平板培地上の微細藻類の菌体(コロニー)の色調を肉眼観察した。なお、Ki-4株は、水溶性カロテノイド結合タンパク質を菌体内に生成すると菌体が赤色となる。
【実施例】
【0063】
その結果、乾燥ストレス付与培養開始後から寒天培地中の水分含量が徐々に低下し、寒天平板培地上の微細藻類Ki-4株の菌体が培養開始2日後から徐々に赤色に変化し、乾燥ストレス付与培養開始6日後に菌体が濃い赤色に呈色した。また、その後の約一ヶ月間は濃い赤色を維持した。
【実施例】
【0064】
このように、微細藻類を乾燥ストレス条件下で培養することによって本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することができた。
【実施例】
【0065】
(3)塩ストレス付与培養
まず始めに、乾熱滅菌(180℃、2時間)した綿栓付きガラス管が施された1L容三角フラスコに、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)したA-3培地700mLを入れ、ここに上記2.(1)で調製した前培養液を菌体濃度(O.D.750nm)が0.1~0.2となるように添加した。これを1日の明暗周期が500μmol photons/cm/sで15時間、0μmol photons/cm/sで9時間となるように設定した植物用恒温器(トミー精工社製:CF-305)内に入れ、スターラーバーを用いて撹拌を行いながら培養温度26℃で3日間の撹拌培養を行った(本培養)。
【実施例】
【0066】
次いで、前記本培養液を用いて、塩ストレス付与培養試験を行った。すなわち、本培養液に滅菌したNaClを0.5mol/L、0.7mol/L又は1.0mol/Lとなるように添加した後、本培養と同様の培養条件で培養を行い、経日的に培養液の色調を肉眼観察した。なお、Ki-4株は、水溶性カロテノイド結合タンパク質を菌体内に生成すると菌体が赤色となる。
【実施例】
【0067】
その結果、塩化ナトリウム0.5mol/Lを培地に添加した場合、微細藻類Ki-4株は、塩ストレス付与培養開始2日後から培養液が徐々に赤色に変化し始めた。一方、塩化ナトリウム0.7mol/Lを培地に添加した場合、微細藻類Ki-4株は塩ストレス付与培養開始直後から増殖を開始し、塩ストレス付与培養開始1日後から培養液が徐々に赤色に変化し始めた。他方、塩化ナトリウム1.0mol/Lを添加した場合、塩ストレス付与培養開始2~4日後に培養液が僅かに赤色に呈色したが、0.5mol/L又は0.7mol/Lを添加した場合と比べて微細藻類Ki-4株の増殖速度が遅く、培養液の赤色の呈色度も低かった。
【実施例】
【0068】
このように、培地に塩化ナトリウムを添加した塩ストレス付与培養では、培地に添加する塩化ナトリウム濃度を0.5mol/L~1.0mol/Lとすることで本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産することができた。また、培地に添加する塩化ナトリウム濃度を0.5mol/L~0.7mol/LとすることでKi-4株の水溶性カロテノイド結合タンパク質の生産性を向上させることができ、培地の塩化ナトリウム濃度は0.7mol/Lとすることが水溶性カロテノイド結合タンパク質の生産には最適であった。
【実施例】
【0069】
3.水溶性カロテノイド結合タンパク質の精製
(1)菌体の調製
前培養は、上記2.(1)と同様に行った。なお、前培養培地の液量は1.6Lとした。また、一重項酸素消去活性を有する水溶性カロテノイド結合タンパク質の生産におけるストレスの付与は、塩化ナトリウムを用いた塩ストレス付与培養とした。すなわち、乾熱滅菌(180℃、2時間)した綿栓付きガラス管が施された5L容三角フラスコに、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)したA-3培地4Lを入れ、ここに前培養液を菌体濃度(O.D.750nm)が0.1~0.2となるように添加した。これを1日の明暗周期が700~1000μmol photons/cm/sで16時間後、0μmol photons/cm/sで8時間となるように設定した植物用恒温器(トミー精工社製:CF-305)内入れ、スターラーバーを用いて撹拌を行いながら培養温度28℃で撹拌培養を行った(本培養)。
【実施例】
【0070】
本培養後、この本培養液に滅菌したNaClを0.7mol/Lとなるように添加し、本培養と同様の培養条件で塩ストレス付与培養を行い、塩ストレス付与培養開始6日間後に培養液を遠心分離(5000rpm、10分間、4℃)することで菌体を回収した。
【実施例】
【0071】
(2)精製
前記回収した菌体15gをプロテアーゼ阻害剤を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)45mLに懸濁した後、フレンチプレス(AMINCO社製:FRENCH PRESSUER 30,000psi)を用いて破砕し、得られた菌体破砕液を超遠心分離(50000rpm、2時間、4℃)することで、微細藻類が生産した水溶性カロテノイド結合タンパク質を含有する水溶液を調製した。
【実施例】
【0072】
次に、前記で調製した水溶液に含まれる水溶性カロテノイド結合タンパク質を2種類のカラムクロマトグラフィーによって精製した。すなわち、前記水溶液をPMSFが34mg/Lとなるように添加した50mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)で平衡化したCM sepharoseカラム(20mm×300mm、流速2.0mL/min)に供試し、吸着画分を0~200mM NaClを含む同緩衝液400mLによる直線濃度勾配法で分画した。
【実施例】
【0073】
さらに、前記CM sepharoseカラムを用いて分画した水溶性カロテノイド結合タンパク質画分を50mM Na-Pi緩衝液(pH7.0)で平衡化したゲル濾過カラム{Hiprep sephacryl S100HRカラム(16mm×600mm、流速0.3mL/min)}に供試し、同緩衝液で溶出した。
【実施例】
【0074】
前記Hiprep sephacryl S100HRカラムを用いて分画した水溶性カロテノイド結合タンパク質画分について、常法に従い、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下「SDS-PAGE」という。)を行ったところ、単一のバンドが得られた。
【実施例】
【0075】
このように、上記精製方法によって本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質を電気泳動的に単一となるまで精製することができた。
【実施例】
【0076】
4.水溶性カロテノイド結合タンパク質の性質
(1)分子量
上記3.で精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量について、SDS-PAGE及びゲルろ過クロマトグラフィーによって測定した。すなわち、SDS-PAGEは、12.5%ポリアクリルアミドスラブゲルを用いたトリス緩衝液系(Laemmli系)で行った。なお、分子量マーカーは、Precision Plus Protein Standards(BioRad社製)を用いた。また、ゲルの染色はクマシーブリリアントブルー(CBB)を用いたCBB染色法によって行った。また、その結果を図4に示した。
【実施例】
【0077】
図4に示すように、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量は約33kDaであった。
【実施例】
【0078】
一方、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量の測定は、試料を150mM NaClを含有する50mM Na-Pi緩衝液(pH7.0)で平衡化したHiprepP Sephacryl S100HRカラム(16mm×600mm、流速0.3mL/min)に供試し、同緩衝液で溶出することで行った。一方、分子量マーカーについても同様に溶出を行い、試料及び分子量マーカーが溶出した液量(溶出液量)又は溶出時間とをそれぞれ比較することで試料の分子量を算出した。なお、標準分子量マーカーは、Blue dextran 2000(分子量2000kDa)、Aldolase(分子量158kDa)、Conalbumin(分子量75kDa)、Ovalbumin(分子量44kDa)、Carbonic anhydrase(分子量29kDa)及びRibonuclease A(分子量13.7kDa)を使用した。
【実施例】
【0079】
その結果、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量は約42~43kDaであった。
【実施例】
【0080】
これらのことから、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の分子量は、SDS-PAGEによって33kDa、ゲルろ過によって42~43kDaと推定された。
【実施例】
【0081】
(2)等電点
精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質の等電点は、常法に従い、等電点電気泳動法によって調べた。なお、等電点電気泳動装置はMaltiphore II(ファルマシア社製)、ゲルはclean gel IEFゲルを用いた。
【実施例】
【0082】
その結果、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の等電点(pI)は10.5と、強度の塩基性であることが分かった。
【実施例】
【0083】
(3)結合色素
精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質に結合しているカロテノイドの同定は、常法に従い、以下の方法により行った。すなわち、フォトダイオードアレイ検出器を備えたHPLC(日立社製)を用い、試料の溶出時間及びスペクトルを測定し、試料の溶出時間及びスペクトルと標準品の溶出時間及びスペクトルとを比較した。また、上記で溶出されたピークに含まれるカロテノイドの分子量について、高分解能LC/MS(島津製作所社製)を用いて測定した。それらの結果を図5に示した。
【実施例】
【0084】
図5に示したように、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質に結合しているカロテノイドとして、主にP1~P4の4つのピークが認められ、標準品の溶出時間及びスペクトルとの比較並びに高分解能LC/MS(島津製作所社製)を用いた分子量測定によって、P1が分子量596のアスタキサンチン、P3が分子量568のルテイン、P4が分子量564のカンタキサンチンと同定された。また、P2については、アドニキサンチンの分子量582と同じであるが、使用した標準品のアドニキサンチン(3S,3’S)-3,3’-Dihydroxy-β,β-caroten-4-one(Carotenature社製)とは若干溶出時間(retension time)が異なるため、アドニキサンチンの構造異性体であることが推定された。これらのことから、水溶性カロテノイド結合タンパク質カロテノイドは、アスタキサンチン、アドニキサンチン、ルテイン及び/又はカンタキサンチンであることが分かった。
【実施例】
【0085】
(4)タンパク質のアミノ酸配列
精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質のアミノ酸配列は、以下の方法によって調べた。すなわち、まず始めに、SDS-PAGEによって得た精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質のバンドをPVDF膜に転写し、常法に従い、N末端アミノ酸シーケンサー(島津製作所社製)を用いて該水溶性カロテノイド結合タンパク質のN末端からのアミノ酸配列を調べ、得られたN末端アミノ酸配列(配列番号2)から遺伝子配列を予測し、PCRによって部分遺伝子の増幅を行った。全長配列は、全発現mRNAを鋳型としたcDNAライブラリーを鋳型として用い、クローニングを行った。また、クローニングされたcDNAを解析することでアミノ酸配列(一次構造)を調べた。
【実施例】
【0086】
その結果、クローニングされたcDNAは、開始コドンATGから終止コドンTGAまでの672bpの遺伝子にコードされており、配列番号3に示した223のアミノ酸残基から構成されたアミノ酸配列(一次構造)を有することが分かった。また、とN末端アミノ酸解析及び各種データベース解析の結果、最初の20アミノ酸残基がシグナル配列であることが推察された。なお、水溶性カロテノイド結合タンパク質をコードする遺伝子配列は、日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録されている(accession number AB731756及びAB731757)。
【実施例】
【0087】
これらのことから、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質は、配列番号1に示したアミノ酸配列からなることが分かった。
【実施例】
【0088】
(5)糖鎖
精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質に糖鎖が結合しているかどうかについて、PAS染色によって調べた。すなわち、精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質をSDS-PAGEを行った後、得られたSDS-PAGEゲルを10%酢酸及び35%メタノールを含有する水溶液100mLに30分間浸漬した。これをトリクロロ酢酸12gを含有する水溶液100mlで洗浄した後、1%過ヨウ素酸水溶液100mLに1時間浸漬した。さらに、これを超純粋で洗浄した後、15%酢酸水溶液100mLで洗浄し、シッフ試薬を用いて精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質のバンドが発色するかどうかを調べた(図6)。なお、糖鎖のないタンパク質であるBSA及び糖鎖が結合する糖タンパク質であるFetuinを対照とした。
【実施例】
【0089】
図6に示したように、レーン1の水溶性カロテノイド結合タンパク質を示すバンドがレーン3の糖タンパク質であるフェチュイン(Fetuin)と同様にシッフ試薬によって赤色に発色していた。したがって、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質には糖鎖が存在していることが推察された。
【実施例】
【0090】
5.一重項酸素消去活性
カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性はESR法によって評価した。すなわち、精製カロテノイド結合タンパク質水溶液(OD484nm=2.86、タンパク質濃度0.65±0.03μg/μL、アスタキサンチン濃度換算値として約23μM、5.0mM Tris-HCl緩衝液;pH7.5)2.5、5、10、25又は50μLを5.0mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)を用いて全量を100μLとした精製カロテノイド結合タンパク質水溶液をそれぞれ調製した。これらを6.25μM リボフラビン及び25mM TMPDを含む5.0mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)700μLにそれぞれ添加したものを各評価検体として、以下の試験に供した。なお、カロテノイド結合タンパク質水溶液の代わりに5.0mM Tris-HCl緩衝液を用いた場合を対照とした。
【実施例】
【0091】
各評価検体及び対照をそれぞれESR測定管に入れ、これら評価検体及び対照に対してそれぞれESR測定管から1cmの距離でUVlamp(8W、250-400nm、PUV-1、TOPCON社製)を180秒間の光照射を行った。また、光照射直後の各評価検体及び対照のESRシグナル強度をESR装置(Bruker社製E500)を用いてそれぞれ測定し、各評価検体のESRシグナル強度S1及び対照のESRシグナル強度S2として一重項酸素消去率(%)を一重項酸素消去率(%)=(1-S1/S2)×100から算出した。また、その結果を図7に示した。
【実施例】
【0092】
図7に示したように、精製カロテノイド結合タンパク質水溶液は一重項酸素消去活性が認められた。また、カロテノイド結合タンパク質の濃度が高いほど一重項酸素消去活性が向上した。
【実施例】
【0093】
6.一重項酸素消去活性及び水溶解性並びに色調に及ぼす熱処理の影響
上記3.で精製した水溶性カロテノイド結合タンパク質の熱安定性を調べることを目的に、該水溶性カロテノイド結合タンパク質を100℃で1時間保持した後、この熱処理された水溶性カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性を測定した。なお、一重項酸素消去活性の測定は、蛍光プローブ法(SOSG法)によって評価した。すなわち、カロテノイド結合タンパク質の濃度が0.65±0.03μg/μLの精製カロテノイド結合タンパク質水溶液(5.0mM Tris-HCl緩衝液;pH7.5)20又は100μLを5.0mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)を用いて全量を100μLとした精製カロテノイド結合タンパク質水溶液をそれぞれ調製した。
【実施例】
【0094】
一方、一重項酸素検出蛍光試薬であるSOSG(Molecular Probes社)をメタノールに溶解し5mMとした試薬を超純水で10倍希釈して0.5mMとしたSOSG試薬を調製した。
【実施例】
【0095】
次いで、一重項酸素発生剤であるローズベンガル1μMを含む100mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)に、前記精製カロテノイド結合タンパク質水溶液100μL及び前記SOSG試薬20μL(終濃度5μM)を添加し、最終溶液量を2000μLとした。この溶液を石英ガラスの容器に入れ、容器側面にランプ(東芝社製;EFD21ED)を用いて130μmol photons/m/sの光量があたるように距離を調整して照射することで該溶液が発する蛍光の経時変化をSOSG試薬の蛍光測定条件である488nmのエキサイテーション及び525nmのエミッションに設定した蛍光測定器(SOMA社製;S3370)を用いて測定した。なお、測定は、光照射開始直前を0分とし、1分間隔で10分後まで行った。
【実施例】
【0096】
また、精製カロテノイド結合タンパク質水溶液の代わりに100mMのアジ化ナトリウム(NaN)水溶液(5.0mM Tris-HCl緩衝液;pH7.5)を0、20又は100μLを5.0mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)を用いて全量を100μLとしたものを用いた場合を対照とした。その結果を図8に示した。
【実施例】
【0097】
図8に示したように、100℃で1時間の熱処理をした精製カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性は、熱処理をしていない精製カロテノイド結合タンパク質水溶液と活性値の90%以上の値を保持していた。
【実施例】
【0098】
また、カロテノイド結合タンパク質の水溶解性及び色調に対する熱処理の影響について調べたところ、上記の100℃で1時間の熱処理した精製カロテノイド結合タンパク質水溶液中には不溶物は観察されず、また、該熱処理した精製カロテノイド結合タンパク質水溶液の色調は、熱処理していない場合と比べて色調の変化は観察されず、精製カロテノイド結合タンパク質の水溶解性及び色調に及ぼす熱処理の影響は認められなかった。
【実施例】
【0099】
このように、本発明の水溶性カロテノイド結合タンパク質の一重項酸素消去活性及び水溶解性並びに色調は熱に対して安定であり、該水溶性カロテノイド結合タンパク質が耐熱性を有することが分かった。
【実施例】
【0100】
7.水に対する溶解性
水に対する溶解性について検討した。すなわち、精製したカロテノイド結合タンパク質の水溶液の溶媒をPD-10や透析によって超純水に置換した後、該精製カロテノイド結合タンパク質水溶液(OD484nm=1.0、タンパク質濃度が約0.2mg/mL)1mLを真空乾燥法によって乾燥させ、この水溶性カロテノイド結合タンパク質粉末に再度純水10μLを添加したところ、溶液中には不溶物が観察されず、該精製カロテノイド結合タンパク質が速やかに溶解した。この結果から、精製したカロテノイド結合タンパク質の水への溶解性は20mg/mL以上であることが判明した。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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