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明細書 :多価イオン電池電極

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6583879号 (P6583879)
公開番号 特開2016-207496 (P2016-207496A)
登録日 令和元年9月13日(2019.9.13)
発行日 令和元年10月2日(2019.10.2)
公開日 平成28年12月8日(2016.12.8)
発明の名称または考案の名称 多価イオン電池電極
国際特許分類 H01M   4/60        (2006.01)
H01M   4/36        (2006.01)
H01M  10/054       (2010.01)
H01M   4/137       (2010.01)
FI H01M 4/60
H01M 4/36 A
H01M 10/054
H01M 4/137
請求項の数または発明の数 1
全頁数 11
出願番号 特願2015-088389 (P2015-088389)
出願日 平成27年4月23日(2015.4.23)
審査請求日 平成30年4月6日(2018.4.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】石井 陽祐
【氏名】川崎 晋司
【氏名】細江 健斗
審査官 【審査官】結城 佐織
参考文献・文献 特開昭55-161374(JP,A)
特開昭55-161375(JP,A)
特開昭55-161376(JP,A)
特開2007-305430(JP,A)
特開2013-020760(JP,A)
国際公開第2014/169122(WO,A1)
特開2007-242386(JP,A)
特開2008-300271(JP,A)
調査した分野 H01M 4/00-4/62
H01M 10/054
特許請求の範囲 【請求項1】
2個以上のカルボニル基を有する芳香族炭化水素化合物であり、更にそれらのカルボニル基が隣接する箇所が1以上ある有機化合物を電極活物質として用いた多価イオン電池電極であって、前記有機化合物をカーボンナノチューブのチューブ内に内包したものを電極としたことを特徴とする多価イオン電池電極
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、2個以上のカルボニル基を有する芳香族炭化水素化合物であり、更にそれらのカルボニル基が隣接する箇所が1以上ある分子を用いた多価イオン電池電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やスマートグリット等、大型用途で利用可能な蓄電池の需要が近年急激に高まっており、従来のリチウムイオン二次電池に替わる高容量蓄電デバイスの実現が求められている。
【0003】
このような社会背景の中、現在のリチウムイオン二次電池を越える次世代高容量二次電池として、二価のカチオンであるマグネシウムイオンを用いた多価イオン電池が注目されている。
【0004】
例えばマグネシウムイオン二次電池の場合、非特許文献1および非特許文献2では金属マグネシウムを負極とした電池構成が有効であると報告されている。金属マグネシウムは体積エネルギー密度が高く、比較的低い酸化還元電位を有するためである。また、マグネシウムは資源埋蔵量が豊富であり、リチウムイオン二次電池よりもコスト的に有利である。
【0005】
現在、マグネシウムイオン二次電池の正極活物質としては、Mo、MgFeSiO、およびMgFePOなどが考案されている(非特許文献5)。しかしながら、これら金属硫化物や金属酸化物をベースとした材料は重量あたりに蓄えられるイオン数が少ないため、重量エネルギー密度が低いという問題がある。
【0006】
金属酸化物に替わる新たな正極材料として、リチウムイオン二次電池においては芳香族カルボニル化合物(キノン類)やジスルフィド化合物、および有機ラジカル分子などの電気化学的に活性な化学構造を有する有機分子が注目されている。
【0007】
例えば、非特許文献5では、リチウムイオン二次電池の有機分子正極として、1,4-ベンゾキノンが記載されている。この分子では図1に示すようにカルボニル基1個あたり1個のリチウムイオンを捕捉することができる。この分子は、1分子当り2個のリチウムイオンを貯蔵することができるので、理論容量は約500mAh/gとなる。この値は、リチウムイオン二次電池用正極活物質として一般的なコバルト酸リチウムよりも2倍程度大きい。
【0008】
しかしながら、有機分子電極の研究は専らリチウムやナトリウムなどの1価のイオンを用いた電池に対してのみ行われており、多価イオンを電気化学的に補足可能なキノン分子に関しては未だ報告されていない。
【0009】
また、先に述べた1,4-ベンゾキノンに代表される有機分子正極の多くは溶解度が高く、充放電中に電解液に溶出してしまうという問題点がある(非特許文献6)。このような溶出は電池容量の劣化を引き起こす。
【0010】
有機分子の溶解を防ぐための方法として、有機分子同士を高分子鎖で架橋し、ポリマー化する手法などが非特許文献6に記載されている。しかしながら、この架橋鎖は電気化学反応には直接寄与せず、電極全体の重量および体積を増大させてしまう。つまり、このようなポリマー化はエネルギー密度を低下させてしまうという点で不利である。
【0011】
また、過度のポリマー化を行うと、イオン貯蔵サイトであるカルボニル基周辺が立体的に混み合い、さらに電極内部でのイオンの拡散移動が阻害されてしまうので、電極全体としてのイオン貯蔵量が小さくなってしまうという問題も考えられる。
【先行技術文献】
【0012】

【非特許文献1】J. Electrochem. Soc 140, 140-144 (1993).
【非特許文献2】J. Electrochem. Soc 137, 775-780 (1990).
【非特許文献3】Nature 407, 724-727 (2000).
【非特許文献4】Sci. Rep. 4, 5622 (2014).
【非特許文献5】Electrochemistry 82, 855-858 (2014).
【非特許文献6】J. Electrochem. Soc 133, 836-841 (1993).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは先に述べた問題を解決するため、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなどの2価以上の多価イオンを電気化学的に貯蔵可能な有機分子正極について鋭意検討した。多価イオンを貯蔵可能な化学構造を有する有機分子、およびその有機分子の電解液への溶出を抑制する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(2価以上の多価イオンを貯蔵するための有機分子の構造)
キノン分子では、カルボニル基1個あたり1電子の酸化還元しか行えないので、電荷バランスの関係からカルボニル単独で多価イオンを捕捉するのは困難である。これを解決するためには、複数個のカルボニル基を協奏的に用いてイオン捕捉を行う分子設計が必要である。
【0015】
例えば、2価イオンを対象とした場合、2個のカルボニル基を協奏的に用いて1個の2価イオンを捕捉可能な分子が必要である。
【0016】
具体的には、1,2-ベンゾキノンや9,10‐アントラキノン、1,2-コロネンキノン,1,2-クリセンキノンなど、芳香族炭化水素骨格を介して向き合った位置に2つのカルボニル基を配置した分子構造が有効である。これらの分子では、図2に示すように、2つのカルボニル基の間に2価イオンが捕捉される。このとき、2価イオンはキレート効果によって安定化される。
【0017】
有機分子内のカルボニル基の数は、2個以上でも構わない。ただし、図3に示したように、分子全体としてのカルボニル基の数は偶数子であり、さらにどのカルボニル基においても隣接したペアを形成できることが好ましい。また、1分子あたりのカルボニル基数が多いほど重量エネルギー密度が高くなり、電池電極として有利である。
【0018】
(有機分子が電解液に溶出するのを抑制する方法)
上記の有機分子が電解液に溶出するのを抑制する方法として、予めカーボンナノチューブのチューブ内に有機分子を内包させることが有効である。カーボンナノチューブ内には非常に大きな吸引ポテンシャルが働くため、チューブ内に有機分子を安定して保持可能であり、溶出防止に効果的である。
【0019】
さらに、単層カーボンナノチューブは電子伝導性を有するため、有機分子活物質と集電体間を結ぶ電子伝導パスとしても機能する。有機分子は、その化学構造を完全に保ったまま内包されるので、従来のポリマー化を用いた手法と異なり、架橋鎖によるカルボニル基のイオン吸着反応を阻害する現象が起き難い。
【0020】
以下、有機分子を内包するためのカーボンナノチューブの条件について説明する。
【0021】
使用するカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブでも多層カーボンナノチューブでも構わないが、電極全体としてのエネルギー密度の観点から単層カーボンナノチューブを使用することが望ましい。
【0022】
単層カーボンナノチューブのチューブ内細孔の実効直径は、単層カーボンナノチューブの直径から炭素原子のファンデルワールス半径の2倍(0.34nm)を差し引いた値になる。この実効直径は、有機分子のサイズよりも大きくなければならない。また、有機分子サイズに対してカーボンナノチューブの実効直径が大きすぎると、有機分子の電解液への溶出抑制効果が小さくなるので好ましくない。具体的には、単層カーボンナノチューブの直径をD[nm]、有機分子のファンデルワールス半径をL[nm]とすると、D>L+0.34を満たす必要がある。有機分子の電解液への溶出を抑制するためには、D<L+1.34であることが望ましい。
【0023】
通常、合成直後のカーボンナノチューブは、その製造方法に起因して金属ナノ粒子触媒やアモルファスカーボンの不純物や付着物を含有している。これらは、チューブ内への有機分子の導入を阻害し、電気化学特性を低下させる要因となり得るので、使用するカーボンナノチューブには予め精製処理を施し、除去することが望ましい。
【0024】
この精製方法に関しては特に限定されないが、例えば塩酸、硝酸、硫酸などの酸を用いた洗浄や過酸化水素水を用いた化学処理が挙げられる。また、1000℃から2000℃程度の温度範囲でアニール処理を行うことも有効である。精製の程度を高めるため、この酸処理、化学処理、およびアニール処理に関しては、複数の種類を組み合わせて複数回繰り返し施しても良い。
【0025】
酸処理に関しては、金属ナノ粒子触媒を溶解・除去するのに有効である。酸の種類、濃度、および処理時間に関しては、不純物として含まれている金属ナノ粒子を溶解できるものであれば特に制約されないが、カーボンナノチューブ自体が反応してダメージを受けることを抑制するため、金属ナノ粒子触媒の除去が十分に行える範囲内で、可能な限り低濃度の酸を用い、さらに短時間で処理することが望ましい。
【0026】
過酸化水素水処理に関しては、不純物として含まれるアモルファスカーボンを除去するのに有効である。処理対象とするナノチューブを過酸化水素水中で攪拌することにより、アモルファスカーボンが過酸化水素と反応し、酸化分解する。このときの濃度と反応時間に関しては、アモルファスカーボンの除去が可能であれば特に制約されないが、カーボンナノチューブ自体が反応してダメージを受けることを防ぐため、可能な限り低濃度の溶液を用い、さらに短時間で処理することが望ましい。
【0027】
アニール処理に関しては、不純物として含まれる金属ナノ粒子触媒を揮発させて除去するのに有効である。このとき、ナノチューブの結晶性が向上し、電気伝導度が向上するので、この処理は電極特性の向上のためにも有効である。カーボンナノチューブが燃焼するのを防ぐため、この処理は真空またはアルゴン等の不活性雰囲気中で行うことが望ましい。処理温度としては1000℃から2000℃程度が好ましい。1000℃よりも低温だと結晶性の向上が期待できず、2000℃よりも高温だとナノチューブ同士の融合が起こってしまい、不適なためである。
【0028】
また、カーボンナノチューブ内に有機分子を導入するため、カーボンナノチューブの端部は開放されているものを使用する必要がある。開端処理の方法としては特に限定されないが、例えば空気中等の酸化雰囲気下で加熱酸化する方法が挙げられる。
【0029】
空気酸化を行うときの処理温度に関しては、カーボンナノチューブの直径に伴い変化するが、直径が1~2nm程度のナノチューブについては400℃~600℃程度が好ましい。400℃よりも低温だと開端が困難であり、600℃より高温だとナノチューブの消失が大きく、不適である。
【0030】
次に、カーボンナノチューブ内に有機分子を導入する方法について説明する。
【0031】
カーボンナノチューブ内に有機分子を導入する方法については特に限定されないが、例えば昇華法が挙げられる。
【0032】
昇華法では、カーボンナノチューブと有機分子を真空の密閉容器に封入し、有機分子の昇華温度よりも高く、さらに有機分子の熱分解温度よりも低い温度で加熱する。この処理により有機分子が密閉容器内で昇華し、昇華した有機分子がカーボンナノチューブの内部に導入される。加熱後は、カーボンナノチューブ外に析出した過剰な有機分子を除去するため、有機分子が可溶な溶剤で洗浄するのが望ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る多価イオン電池電極によれば、2個以上のカルボニル基を有する芳香族炭化水素化合物であり、更にそれらのカルボニル基が隣接する箇所が1以上ある有機化合物を電極活物質として用いたため、有機化合物を正極活物質として利用することができ、この正極材料を用いることで、既存技術の金属酸化物または金属硫化物を用いた正極活物質に比べて高容量な多価イオン電池を実現できる。また、この分子をカーボンナノチューブに内包させることにより、電解液への溶出を抑制する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る多価イオン電池電極(1,4-ベンゾキノン電極)のリチウム貯蔵反応を示す化学式。
【図2】同、有機分子に2価イオンが捕捉されたときの構造を示す化学式。
【図3】同、2価イオンを捕捉するための有機分子の構造を示す化学式。
【図4】(a)9,10-フェナントレンキノンと(b)9,10-アントラキノンのリチウムイオン貯蔵特性(第2サイクルの定電流充放電図)を示すグラフ。
【図5】(a)9,10-フェナントレンキノンと(b)9,10-アントラキノンのマグネシウムイオン貯蔵特性(第2サイクルの定電流充放電図)を示すグラフ。
【図6】9,10-フェナントレンキノンのカルシウムイオン貯蔵特性(第2サイクルの定電流充放電図)を示すグラフ。
【図7】9,10-フェナントレンキノンを内包した単層カーボンナノチューブの構造模式図。
【図8】(a)9,10-フェナントレンキノンと(b)9,10-フェナントレンキノンを内包した単層カーボンナノチューブの粉末X線回折図形を示すグラフ。
【図9】9,10-フェナントレンキノンを内包した単層カーボンナノチューブのマグネシウムイオン貯蔵特性(第1サイクルの定電流充放電図)を示すグラフ。
【図10】(a)9,10-フェナントレンキノンと(b)9,10-フェナントレンキノンを内包した単層カーボンナノチューブの充放電容量のサイクル変化の比較を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、多価イオンを貯蔵可能な化学構造を有する有機分子を正極活物質として使用し、その有機分子の電解液への溶出を抑制する目的を、2個以上のカルボニル基を有する芳香族炭化水素化合物と、それらのカルボニル基が隣接する箇所が1以上ある有機化合物と、により実現した。
【実施例1】
【0036】
(概要)
本例では2価のイオンを捕捉可能なキノン系有機化合物として、9,10-フェナントレンキノン(以下、「PhQ」と表記する。)の電池電極特性を示す。比較のため、9,10-フェナントレンキノンと同一の分子量であるが、カルボニル基同士が隣接しない9,10-アントラキノン(以下、「AQ」と表記する。)の電池電極特性も示す。
【実施例1】
【0037】
(電極の作製)
本例ではAldrich社から購入したPhQ、およびWako社から購入したAQを使用した。
【実施例1】
【0038】
PhQまたはAQ(以下、これらの有機化合物を「Q」と表記する。)と、アセチレンカーボンブラック(以下、「ACB」と表記する。)、およびポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と表記する。)を重量比4:4:2となるように秤量し、これにQの重量の10%に相当する量のエタノールを加えて十分に混練した。なお、Qは電池電極の活物質、ACBは導電助材、PTFEは結着材として機能する。
【実施例1】
【0039】
次に、得られた混合物をロールプレス機で厚さ7μmに引き伸ばし、更にこれを直径1.3cmの円盤状に打ち抜いた。
【実施例1】
【0040】
更に、これを80℃で12時間加熱してエタノールを除去し、得られたものを試験電極とした。
【実施例1】
【0041】
(リチウムイオン電池電極特性評価セルの構築)
上記試験電極を作用極、リチウム金属箔を対極および参照極、1mol/lの過塩素酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に溶解させたものを電解液としたセルを構築した。リチウム金属の酸化や電解液への水の混入を防ぐため、このセルの構築はアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【実施例1】
【0042】
(マグネシウムイオン電池電極特性評価セルの構築)
上記試験電極を作用極、白金メッシュを対極、銀-塩化銀電極を参照極、0.5mol/lの硫酸マグネシウムを水に溶解させたものを電解液としたセルを構築した。
【実施例1】
【0043】
(カルシウムイオン電池電極特性評価セルの構築)
上記試験電極を作用極、白金メッシュを対極、銀-塩化銀電極を参照極、0.5mol/lの塩化カルシウムを水に溶解させたものを電解液としたセルを構築した。
【実施例1】
【0044】
(電気化学測定)
試験電極中に含まれるQの重量に対して50mA/gに相当する電流値にて、定電流充放電試験を行った。リチウムイオン電池電極特性の評価は、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。マグネシウムイオン電池およびカルシウムイオン電極特性の評価は、大気中で行った。両測定とも、測定は室温で行った。
【実施例1】
【0045】
(実験結果)
まず、リチウムイオン電池電極としての充放電測定結果を図4に示す。PhQでは約2.8Vと2.4V、AQでは約2.3Vに、電位平坦部が確認できる。これはPhQとAQがリチウムイオンを貯蔵/放出する電気化学反応に由来すると考えられる。
【実施例1】
【0046】
1分子あたり2個のリチウムイオンを貯蔵/放出できると仮定すると、どちらの化合物も理論容量は258mAh/gとなる。PhQ、AQどちらとも理論容量の約70%以上の放電容量が得られており、リチウムイオン電池電極として正常に機能していることがわかる。
【実施例1】
【0047】
次に、マグネシウムイオン電池電極としての充放電測定結果を図5に示す。PhQでは約-0.3Vに電位平坦部が確認できる。これはPhQがマグネシウムイオンを貯蔵/放出する電気化学反応に由来すると考えられる。一方、AQの場合はPhQと異なり、電位平坦部が確認できなかった。
【実施例1】
【0048】
1分子あたり1個のマグネシウムイオンを貯蔵/放出できると仮定すると、どちらの化合物も理論容量は258mAh/gとなる。PhQに関しては理論容量の39%以上の放電容量が得られており、マグネシウムイオン電池電極として正常に機能していることがわかる。
【実施例1】
【0049】
一方、AQに関しては、理論容量の約6%の放電容量しか得られていない。AQでは電位平坦部も確認できなかったことから、AQはマグネシウムイオン貯蔵/放出することができないことがわかる。
【実施例1】
【0050】
これは、AQでは隣接したカルボニル基が存在しないため、マグネシウムイオンとうまくキレートを形成できなかったためである、と考えられる。
【実施例1】
【0051】
カルシウムイオン電池としてのPhQ電極の充放電測定結果を図6に示す。カルシウムイオン電池の場合もマグネシウムイオン電池と同様、理論容量は258mAh/gとなる。マグネシウムイオン電池の場合と類似の電位平坦部が確認でき、さらに理論容量の約30%の放電容量が得られていることから、PhQは2価のイオンとしてマグネシウムだけではなく、カルシウムも貯蔵できることがわかる。
【実施例2】
【0052】
(概要)
有機分子としてPhQを内包した単層カーボンナノチューブ(図7参照)の合成と構造評価、およびその電池電極特性評価についての実施例を示す。
【実施例2】
【0053】
(カーボンナノチューブの調製)
アーク放電法によって合成された単層カーボンナノチューブを使用した。この単層カーボンナノチューブの平均直径は1.5nmである。
【実施例2】
【0054】
この単層カーボンナノチューブに含まれているナノ金属粒子触媒を除去するため、10%の硝酸中で10分間攪拌した。処理後、カーボンナノチューブを濾取し、蒸留水で洗浄した。その後80℃の乾燥機で12時間乾燥させた。
【実施例2】
【0055】
得られた単層カーボンナノチューブを1100℃の電気炉で12時間アニール処理した。カーボンナノチューブの酸化を防ぐため、このアニール処理は1Pa以下の真空下で行った。
【実施例2】
【0056】
アニール処理によりカーボンナノチューブの先端は閉端されてしまうので、開端処理を行う必要がある。カーボンナノチューブの先端を開端するため、アニール処理後のカーボンナノチューブを400℃の電気炉で空気中、30分間加熱した。
【実施例2】
【0057】
(内包処理)
開端処理したカーボンナノチューブとPhQ、それぞれ15mgを1Pa以下のガラス管(内容積7.85cm)に真空封入し、次に電気炉を用いてこのガラス管を200℃で16時間加熱した。加熱後は室温まで冷ました後、ガラス管を割って内部に生成したPhQを内包した単層カーボンナノチューブを取り出した。
【実施例2】
【0058】
次に、単層カーボンナノチューブの外部に析出した過剰なPhQを取り除くため、エタノールで洗浄した。処理後は目的物質であるPhQ内包単層カーボンナノチューブを濾取、水洗し、その後80℃の乾燥機で12時間乾燥させた。
【実施例2】
【0059】
(構造評価)
透過型電子顕微鏡を用いた観察により、内包処理を施してもカーボンナノチューブの形態に変化がないことを確認した。
【実施例2】
【0060】
粉末X線回折測定の結果を図8に示す。内包前、内包後ともに二次元六方晶状に配列した単層カーボンナノチューブに由来する回折線が確認できる。
【実施例2】
【0061】
回折線強度について注目すると、6度付近の10回折線の強度が内包処理に伴って減少していることが確認できる。これはカーボンナノチューブ内にPhQが導入されたことを示すものである。
【実施例2】
【0062】
また、PhQのバルク結晶に由来するピークは一切観測されなかった。これは、カーボンナノチューブ外に過剰なPhQが残っていないことを示すものである。
【実施例2】
【0063】
内包処理前後の重量変化から、カーボンナノチューブ内に内包されたPhQの量を算出した。得られたPhQ内包カーボンナノチューブの重量に対するPhQの割合は22.4重量パーセントと見積もられた。
【実施例2】
【0064】
(電池電極としての特性評価)
PhQ内包単層カーボンナノチューブを作用極、金属マグネシウムを対極、銀-塩化銀電極を参照極とした三極式セルを構築した。電解液には、0.5mol/lの硫酸マグネシウムを水に溶解させたものを使用した。
【実施例2】
【0065】
このセルの電気化学特性を、定電流充放電測定により評価した。電流密度は、PhQ内包単層カーボンナノチューブに含まれるPhQの重量に対して20mA/gになるように設定した。
【実施例2】
【0066】
第1サイクルの測定結果を図9に示す。-0.3V付近に、PhQの酸化還元反応に由来する電位平坦部が、明瞭に観察された。また、内包されたPhQあたりの放電容量を見積もると157mAh/gとなった。これは実施例1で示したバルクのPhQの放電容量とほぼ一致する。
【実施例2】
【0067】
このセルのサイクル特性を図10に示す。図10には比較のため、単層カーボンナノチューブに内包されていないバルクのPhQの測定結果(実施例1のマグネシウムイオン電池電極特性評価セルを使用して測定)も示した。内包処理により、サイクルを重ねることに伴う可逆容量の減少が抑制できていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る多価イオン電池電極は、マグネシウムイオン二次電池やカルシウムイオン二次電池など、2価イオンをキャリアとした二次電池用正極材料として利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9