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明細書 :細胞内へのミトコンドリア導入方法、外因性ミトコンドリアが導入された細胞及び動物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6607750号 (P6607750)
公開番号 特開2017-055729 (P2017-055729A)
登録日 令和元年11月1日(2019.11.1)
発行日 令和元年11月20日(2019.11.20)
公開日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 細胞内へのミトコンドリア導入方法、外因性ミトコンドリアが導入された細胞及び動物の製造方法
国際特許分類 C12N  15/87        (2006.01)
C12N  13/00        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A61K  35/12        (2015.01)
C12N  15/55        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/87 Z
C12N 13/00
A01K 67/027 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61K 35/12
C12N 15/55
A61P 43/00 107
請求項の数または発明の数 13
全頁数 20
出願番号 特願2015-185058 (P2015-185058)
出願日 平成27年9月18日(2015.9.18)
審査請求日 平成30年8月27日(2018.8.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小椋 利彦
【氏名】野村 慎一郎
【氏名】齋藤 明
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査官 【審査官】金田 康平
参考文献・文献 Dunn, David A, ET AL,Animal models of human mitochondrial DNA mutations,Biochim Biophys Acta,2012年 5月,Vol.1820, No.5,pp. 601-607
齋藤 C.明ら,細胞のメカノトランスダクション研究の新技法提案,細胞工学,2014年 8月22日,Vol.33, No.9,pp.928-933
調査した分野 C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ミトコンドリアが封入され、負の表面電位を付されたGUVと、細胞と、の混合液に交流電場を印加して、前記GUVと前記細胞とを配列させる交流電場印加手順と、
前記混合液に直流パルス電場を印加して、前記GUVの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる直流電場印加手順と、含む、
細胞内へのミトコンドリア導入方法。
【請求項2】
前記細胞が由来する種と、前記GUVに封入されるミトコンドリアが由来する種が異なる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記交流電場印加手順の前に、
前記細胞内に発現させた制限酵素により前記細胞内の内因性ミトコンドリアDNAを切断するミトコンドリア除去手順をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記制限酵素は、前記細胞内の内因性ミトコンドリアDNAを切断するが、前記GUVに封入される外因性ミトコンドリアDNAを切断しない、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が由来する種がマウスであり、前記GUVに封入されるミトコンドリアが由来する種がヒトであり、前記制限酵素はAgeI、BglII、BsaBI、BsrGI、DrdI、PshAI及びSexAIからなる群から選択されるいずれか一以上の制限酵素である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ミトコンドリア除去手順において、前記制限酵素をコードする配列とミトコンドリア移行配列とを含む発現コンストラクトを前記細胞にトランスフェクションする、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記内因性ミトコンドリア除去手順後の前記細胞をウリジンとピルビン酸の存在下で培養する手順と、
前記直流電場印加手順後の前記細胞をウリジンとピルビン酸の非存在下で培養する手順とをさらに含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝的に正常であり、前記GUVに封入されるミトコンドリアが遺伝子変異を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項2~8に記載のいずれか一項に記載の方法により、細胞内に、該細胞が由来する種と異なる種のミトコンドリアを導入する工程を含む、他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された細胞の製造方法。
【請求項10】
請求項2~8に記載のいずれか一項に記載の方法により、胚性幹細胞内に、該細胞が由来する種と異なる種のミトコンドリアを導入する工程と、
前記胚性幹細胞から個体を発生させる工程と、を含む、
他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された非ヒト動物の製造方法。
【請求項11】
前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝子変異を有し、前記GUVに封入されるミトコンドリアが遺伝的に正常である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法により、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを含む細胞内に、遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入する工程を含む、正常ミトコンドリアが導入された細胞の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の方法により、ミトコンドリア病患者由来の、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを含む細胞内に、遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入する工程を含む、正常ミトコンドリアが導入された細胞を含有するミトコンドリア病治療用細胞組成物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内へのミトコンドリア導入方法、外因性ミトコンドリアが導入された細胞及び動物の製造方法等に関する。より詳しくは、巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar Liposome)を用いて、細胞に内在するミトコンドリア(内因性ミトコンドリア)とは遺伝的に異なる外来のミトコンドリア(外因性ミトコンドリア)を導入する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の生命活動に必要不可欠なATPを作り出すミトコンドリアには核DNAとは全く異なる独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)が存在する。一細胞内に多コピー存在するmtDNAは2つのrRNA、22種類のtRNA、呼吸鎖酵素複合体の13種類のサブユニットをコードしている。
【0003】
細胞内における病原性突然変異型mtDNAの蓄積が呼吸機能欠損を引き起こす。個体レベルにおいての影響としてはミトコンドリア病と呼ばれる複合症を引き起こすことが知られ、さらに神経変性疾患、糖尿病、難聴などの病気と関与している可能性が示唆されている。しかし、同一の病原性突然変異型mtDNAが蓄積しても病状が多様であるなど詳しい発症メカニズムは解明されていない。
【0004】
ミトコンドリアの構造は微小であり二重膜を持つ。そのため、外因性のmtDNAを人為的にミトコンドリア内に導入することは非常に困難であり、核ゲノムで行われているようなDNA組換えの技術はミトコンドリアにおいては確立されていない。ミトコンドリア病の発症機構の解明、治療法の探索のために、外因性のミトコンドリアそのものを細胞内へ導入する手法の開発が求められる。
【0005】
非特許文献1には、異種間又は同種間の2種類の細胞を用い、一方の細胞から内因性のミトコンドリアを除去し、他方の細胞から核を除去した上で両細胞を融合し、内因性ミトコンドリアが外因性ミトコンドリアで置換された細胞(サイブリッド細胞)を作成することが記載されている(図1参照)。
【0006】
巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar LiposomeあるいはGiant Unilamellar Vesicle、以下「GUV」と称する)は、脂質二重膜(lipid bilayer)が水溶液中で自然に閉じてできる人工膜小胞(liposome又はvesicle)であって、直径がマイクロメートルオーダー以上のものをいう(非特許文献2,3参照)。GUVは、細胞と同程度の大きさであり、位相差、蛍光、微分干渉、暗視野などの種々の光学顕微鏡法で直接観察ができる利点を持つ。GUVは、生体膜の形態形成や動態制御の機構をインビトロの系で研究する際、膜のモデルとして用いられてきている。
【0007】
非特許文献4には、細胞の長期凍結・乾燥保存を目的として、膜非透過性の凍結・乾燥保護物質(トレハロースなどの糖類)を含むGUVを細胞と電気融合させることで凍結・乾燥保護物質を細胞内に導入することが記載されている。当該文献は、トレハロース等の糖類に比してサイズが大きいミトコンドリア等の細胞内小器官(オルガネラ)を細胞内に導入すること及びそのためのGUVの調製方法や電気融合条件等については記載していない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Animal Biotechnology, 2014, 25, 139-149
【非特許文献2】Nature, 1991, 349, 475-481
【非特許文献3】Biosystems, 2003, 71, 93-100
【非特許文献4】Cryobiology, 2006, 53(3), 397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、細胞に内在するミトコンドリア(内因性ミトコンドリア)とは遺伝的に異なる外来のミトコンドリア(外因性ミトコンドリア)を細胞内に導入するための新たな技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]~[25]を提供する。
[1] ミトコンドリアが封入され、負の表面電位を付されたGUVと、細胞と、の混合液に交流電場を印加して、前記GUVと前記細胞とを配列させる交流電場印加手順と、
前記混合液に直流パルス電場を印加して、前記GUVの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる直流電場印加手順と、含む、
細胞内へのミトコンドリア導入方法。
[2] 前記細胞が由来する種と、前記GUVに封入されるミトコンドリアが由来する種が異なる、[1]の方法。
[3] 前記交流電場印加手順の前に、
前記細胞内に発現させた制限酵素により前記細胞内の内因性ミトコンドリアDNAを切断するミトコンドリア除去手順をさらに含む、[2]の方法。
[4] 前記制限酵素は、前記細胞内の内因性ミトコンドリアDNAを切断するが、前記GUVに封入される外因性ミトコンドリアDNAを切断しない、[3]の方法。
[5] 前記細胞が由来する種がマウスであり、前記GUVに封入されるミトコンドリアが由来する種がヒトであり、前記制限酵素はAgeI、BglII、BsaBI、BsrGI、DrdI、PshAI及びSexAIからなる群から選択されるいずれか一以上の制限酵素である、[4]の方法。
[6] 前記ミトコンドリア除去手順において、前記制限酵素をコードする配列とミトコンドリア移行配列とを含む発現コンストラクトを前記細胞にトランスフェクションする、[3]~[5]のいずれかの方法。
[7] 前記内因性ミトコンドリア除去手順後の前記細胞をウリジンとピルビン酸の存在下で培養する手順と、
前記直流電場印加手順後の前記細胞をウリジンとピルビン酸の非存在下で培養する手順とをさらに含む、[3]~[6]のいずれかの方法。
[8] 前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝的に正常であり、前記GUVに封入されるミトコンドリアが遺伝子変異を有する、[1]~[7]のいずれかの方法。
[9] 前記GUVが-40mV~-20mVの表面電位を有する、[1]~[8]のいずれかの方法。
[10] 前記GUVの膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である、[1]~[9]のいずれかの方法。
[11] 前記交流電場印加手順において、前記交流電場を5~15V/mmで、10~60秒印加し、前記直流電場印加手順において、前記直流パルス電場を100~175V/mmで、30~50マイクロ秒印加する、[1]~[10]のいずれかの方法。
【0011】
[12] [2]~[10]のいずれかの方法により、細胞内に、該細胞が由来する種と異なる種のミトコンドリアを導入する工程を含む、他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された細胞の製造方法。
【0012】
[13] 他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された細胞。
[14] 前記細胞内の内因性ミトコンドリアを有さない、[13]の細胞。
[15] 前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝的に正常であり、前記外因性ミトコンドリアが遺伝子変異を有する、ミトコンドリア病モデル細胞である、請求項[13]又[14]記載の細胞。
【0013】
[16] [2]~[10]のいずれかの方法により、胚性幹細胞内に、該細胞が由来する種と異なる種のミトコンドリアを導入する工程と、
前記胚性幹細胞から個体を発生させる工程と、を含む、
他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された非ヒト動物の製造方法。
【0014】
[17] 他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された非ヒト動物。
[18] 前記動物由来の内因性ミトコンドリアを有さない、[17]の非ヒト動物。
[19] 前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝的に正常であり、前記外因性ミトコンドリアが遺伝子変異を有する、ミトコンドリア病モデル動物である、[17]又は[18]の動物。
【0015】
[20] 前記細胞内の内因性ミトコンドリアが遺伝子変異を有し、前記GUVに封入されるミトコンドリアが遺伝的に正常である、[1]~[7]のいずれかの方法。
[21] 前記GUVが-40mV~-20mVの表面電位を有する、[20]の方法。
[22] 前記GUVの膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である、[20]又は[21]の方法。
[23] 前記交流電場印加手順において、前記交流電場を5~15V/mmで、10~60秒印加し、前記直流電場印加手順において、前記直流パルス電場を100~175V/mmで、30~50マイクロ秒印加する、[20]~[22]のいずれかの方法。
【0016】
[24] [20]~[23]のいずれかの方法により、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを含む細胞内に、遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入する工程を含む、正常ミトコンドリアが導入された細胞の製造方法。
【0017】
[25] [20]~[23]のいずれかの方法により、ミトコンドリア病患者由来の、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを含む細胞内に、遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入する工程を含む、正常ミトコンドリアが導入された細胞を含有するミトコンドリア病治療用細胞組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、細胞に内在するミトコンドリア(内因性ミトコンドリア)とは遺伝的に異なる外来のミトコンドリア(外因性ミトコンドリア)を細胞内に導入するための新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るミトコンドリア導入方法におけるGUVと細胞の電気融合の手順を説明する模式図である。
【図2-1】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-2】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-3】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-4】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図3】GUVとの電気融合により蛍光ビーズ(直径1μm)を導入した細胞の共焦点顕微鏡写真である。
【図4】サイズの異なる蛍光ビーズを封入したGUVと電気融合させた細胞の共焦点顕微鏡写真である。
【図5】GUVとの電気融合によりEGFP発現ベクターを導入した細胞の位相差顕微鏡写真及び共焦点顕微鏡写真である。
【図6】GUVとの電気融合によりDNA origamiを導入した細胞の位相差顕微鏡写真及び共焦点顕微鏡写真である。
【図7】SHSY5Y細胞への蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)の導入率を計測した結果を示す図である。
【図8】SHSY5Y細胞への蛍光ミトコンドリア(Mito-DsRed)の導入率を計測した結果を示す図である。
【図9】SHSY5Y細胞への蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP及びMito-DsRed)の導入率を計測した結果を示す図である。
【図10】制限酵素をコードする配列とミトコンドリア移行配列とを含む発現コンストラクトの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0021】
1.細胞内へのミトコンドリア導入方法
本発明に係る細胞内へのミトコンドリア導入方法は、以下の手順2、3を含み、場合によって手順1、4を含んでいてもよい。
手順1:手順2の前に、細胞内に発現させた制限酵素により前記細胞内の内因性ミトコンドリアDNAを切断する手順(ミトコンドリア除去手順)。
手順2:ミトコンドリアが封入され、負の表面電位を付されたGUVと、細胞と、の混合液に交流電場を印加して、前記GUVと前記細胞とを配列させる手順(交流電場印加手順)。
手順3:前記混合液に直流パルス電場を印加して、前記GUVの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる手順(直流電場印加手順)。
手順4:手順3の後に、前記混合液に交流電場を印加して、前記GUVの膜と前記細胞の膜との融合状態を維持する手順。

【0022】
(1)交流電場印加手順
本手順では、ミトコンドリアが封入され、負の表面電位を付されたGUVと、細胞と、の混合液に交流電場を印加して、GUVと細胞とを配列させる。

【0023】
ミトコンドリアが封入され、負の表面電位を付されたGUVは以下のようにして製造することができる。

【0024】
(1-1)GUV及びその製造方法

【0025】
GUVの製造は、文献公知の静置水和法、エレクトロフォーメーション法及び界面通過法などの手法あるいはこれらの改良手法によって行うことができる。静置水和法は、試験管内に作製したリン脂質を主成分とする脂質フィルムに水溶液を加え静置してGUVを作製する方法である(J. Mol. Biol., 1999, 287, 293-300; J. Mol. Biol., 1998, 284, 1671-1681; Curr. Biol., 2009, 19, 140-145)。エレクトロフォーメーション法は、白金や透明導電ガラス(ITOガラスなど)の表面にリン脂質を主成分とする脂質を塗布しておき、水溶液中で交流電圧を印加してGUVを作製する方法である(Nature, 2010, 464, 864-869)。界面通過法は、油水界面にできる脂質の単層の膜(lipid monolayer)を利用してGUVを作製する方法である(Langmuir, 2011, 27, 11528-11535; Method Enzymol., 2009, 464, 31-53)。

【0026】
GUVの製造に用いられる脂質を列挙すれば、リン脂質、コレステロール、合成脂質などが挙げられる。

【0027】
リン脂質としてグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質等を挙げることができる。
グリセロ糖脂質としては、例えば、スルホキシリホボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセド、ジガラクトシルジグリセド、ガラクトシルジグリセド及びジクリコシルジグリセド等を挙げることができる。
スフィンゴ糖脂質としては、例えば、ガラクトシルセレフブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等を挙げることができる。
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチシジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン及び水素添加リン脂質等の天然または合成のリン脂質を挙げることができる。

【0028】
上記ホスファチジルコリンとしては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトオレオイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトオレオイルホスファチジルエタノールアミン及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルセリンとしては、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、パルミトオレオイルホスファチジルセリン及びジステアロイルホスファチジルセリン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、パルミトオレオイルホスファチジルグリセロール及びジステアロイルホスファチジルグリセロール等を挙げることができる。
上記ホスファチジルイノシトールとしては、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、パルミトオレオイルホスファチジルイノシトール及びジステアロイルホスファチジルイノシトール等を挙げることができる。

【0029】
合成脂質としては,例えば、アルキル化アンモニウム塩を挙げることが出来る。アルキル化アンモニウム塩としては,ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ベンジルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジパルミチルアンモニウムブロミド、ジオクタデシルアンモニウムブロミド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド1水和物等を挙げることができる。

【0030】
これらの脂質のうち、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルイノシトールは形成されるGUVに負の表面電位を付与し、アルキル化アンモニウム塩は正の表面電位を付与する。これら2群の脂質の比率を調整することで、所望の表面電位を有するGUVを製造できる。GUVの表面電位は、好ましくは0mV未満であり、より好ましくは-20mV以下であり、さらに好ましくは、-40mV~-20mVである。このような表面電位を与える脂質組成として、ジオレオイルホスファチジルコリン:ジオレオイルフォスファチジルグリセロール:コレステロール=9:1:1(モル比)を例示できる。表面電位が高過ぎる場合、GUVと細胞との意図しない接着が生じ、GUVと細胞との電気融合が不能となったり、電気融合後にGUVと細胞を分離できなくなったりする。また、表面電位が上記範囲よりも低過ぎる場合、GUVが不安定となる。

【0031】
コレステロールとしては、コレステロール、ベーターコレステロール、ベーターシトステロール及びスティグマステロール等を挙げることができる。

【0032】
脂質全体に占めるコレステロールの割合を調整することで所望の膜強度を有するGUVを製造できる。脂質全体に占めるコレステロールの割合が大きい程膜強度は大きくなる。コレステロールの割合は、例えば0~20モル%、好ましくは0~15モル%、より好ましくは0~10モル%、さらに好ましくは0~5モル%、最も好ましくは0モル%である。すなわち、GUVはコレステロールを含まない脂質からなることが最も好ましい。

【0033】
GUVのサイズは、通常、直径でマイクロメートルオーダー以上とされる。GUVのサイズは、本発明においては、交流電場による細胞との配向の影響を考慮して、細胞と同程度のサイズとなる直径10μm以上50μm以下が好ましい。また、GUVのサイズは、導入される物体よりも充分に大きいことが望ましい。

【0034】
(1-2)ミトコンドリア
ミトコンドリアの調製は、従来公知の手法によって溶解した細胞を分画化し、ミトコンドリア画分を得ることによって行うことができる。

【0035】
細胞内に導入するミトコンドリアは、当該細胞とは遺伝的に異なるミトコンドリアであってよい。具体的には、細胞内に導入するミトコンドリアは、当該細胞が由来する生物種と同種の別個体に由来するものであってよく、異種に由来するものであってもよい。また、細胞内に導入するミトコンドリアは、当該細胞と同種類の細胞から抽出されたものであってよく、異種類の細胞から抽出されたものであってもよい。

【0036】
本発明で用いるGUVには、直径100nm以上の大きさの物体を封入することが可能である。ミトコンドリアの大きさは、生物種や細胞種、細胞の状態によって変わるが、長軸長で2μm程度である。

【0037】
(1-3)GUV内へのミトコンドリアの封入
静置水和法、エレクトロフォーメーション法及び界面通過法などを用いてGUVを製造する際に、物体を含んだ溶液又は分散液を用いることで、内部に物体を取り込んだGUVを形成できる。誘電率の高い物体をGUV内に導入する場合には、エレクトロフォーメーション法以外の方法を用いることが好ましく、特に界面通過法を用いることが好ましい。

【0038】
このようにして製造される本発明に係るGUVは、好ましくは、ミトコンドリアを含み、-40mV~-20mVの表面電位を有し、膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%とされたものである。

【0039】
(1-4)交流電場印加
以上のようにして製造されたGUVと、細胞と、の混合液に交流電場を印加することで、GUVと細胞とを配列させる。図1を参照して説明する。

【0040】
ミトコンドリア2を封入したGUV1と、細胞3とを適当な緩衝液中で懸濁、混合する。緩衝液は、特に限定されないが、細胞内溶液と浸透圧が同等または近いものが望ましい。例えば、300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム及び0.1mM塩化マグネシウムの溶液が挙げられる(図(A)参照)。

【0041】
次に、ミトコンドリアを封入したGUV1と細胞3との混合液に交流電場を印加する(図(B)参照)。この手順は、一対の電極4,4間に混合液を導入して交流電場を印加することによって行うことができ、市販の細胞電気融合装置(電極及び電圧調整器等を含む)を用いて行うことができる。交流電圧としては、特に限定されないが、例えば5~15V/mm程度で10~60秒程度とされる。交流電場を印加することによって、GUV1と細胞3が電極4,4間に一列に配列し、互いに接触して数珠状(パールチェーン状)に連なった状態となる。

【0042】
(2)直流電場印加手順
本手順では、混合液に直流パルス電場を印加して、GUV1の膜と細胞3の膜とを少なくとも一部融合させる(図(C)参照)。直流パルス電圧の印加により、接触し合うGUV1の脂質膜と細胞3の細胞膜とが融合し、GUV1内のミトコンドリア2が細胞3内に導入される(図(D)参照)。直流パルス電圧としては、特に限定されないが、例えば100~175V/mm程度で30~50マイクロ秒程度とされる。

【0043】
本手順の後に、混合液に交流電場を印加して、GUV1の膜と細胞3の膜との融合状態を維持する手順を行ってもよい。この手順は、必要に応じて行われるものであるが、通常は省略でき、省略することが好ましい場合もある。交流電圧としては、特に限定されないが、例えば5~30V/mm程度で10秒程度以下とされる。電気融合後、細胞3を洗浄してGUV1と分離させる。

【0044】
本発明に係る細胞内へのミトコンドリア導入方法においては、以上の手順により、複雑な操作を要することなく、多数の生細胞(105個/ml程度)に同時にミトコンドリアを導入できる。

【0045】
(3)ミトコンドリア除去手順
また、本発明に係る細胞内へのミトコンドリア導入方法において、内因性ミトコンドリアを予め除去しておくことで、内因性ミトコンドリアとは遺伝的に異なる外因性ミトコンドリアによって内因性ミトコンドリアを置換することもできる。これによって、内因性ミトコンドリアが外因性ミトコンドリアで置換された細胞を作成することが可能である。

【0046】
内因性ミトコンドリアの除去は、交流電場印加手順の前に、細胞内に発現させた制限酵素により内因性ミトコンドリアDNAを切断することによって行うことができる。この際に用いる制限酵素は、内因性ミトコンドリアDNAを切断するが、外因性ミトコンドリアDNAを切断しないものとされる。

【0047】
用いる制限酵素は、内因性ミトコンドリアの塩基配列及び外因性ミトコンドリアの塩基配列に応じて選択されるものであり、内因性ミトコンドリアの塩基配列内のみに認識配列を有するものとされる。

【0048】
例えば、細胞が由来する種がマウスであり、GUVに封入される外因性ミトコンドリアが由来する種がヒトである場合、制限酵素としては、マウスミトコンドリアDNAを切断するがヒトミトコンドリアDNAを切断しない制限酵素が用いられる。具体的には、AgeI、BglII、BsaBI、BsrGI、DrdI、PshAI及びSexAIからなる群から選択されるいずれか一以上の制限酵素を使用できる。

【0049】
細胞内における制限酵素の発現は、制限酵素をコードする配列とミトコンドリア移行配列とを含む発現コンストラクト(発現ベクター)を細胞にトランスフェクションすることにより行うことができる。

【0050】
発現コンストラクトの構築とトランスフェクションは従来公知の手法によって行えばよい。また、ミトコンドリア移行配列としては、ATP5B(ATP synthase subunit beta, mitochondrial precursor)遺伝子の5’端領域の配列及び3’端領域の配列が公知であり、これに限られず、その他公知の配列を用いることができる。ヒトATPBの5’非翻訳領域の塩基配列(配列番号184)と、3’非翻訳領域の塩基配列(配列番号185)を以下に示す。

【0051】
ヒトATP5B 5’非翻訳領域
actgcagcgtaggcctcgcctcaacggcaggagagcaggcggctgcggttgctgcagccttcagtctccacccggactacgccATGTTGGGGTTTGTGGGTCGGGTGGCCGCTGCTCCGGCCTCCGGGGCCTTGCGGAGACTCACCCCTTCAGCGTCGCTGCCCCCAGCTCAGCTCTTACTGCGGGCCGCTCCGA
ヒトATP5B 3’非翻訳領域
TGAAGAGCATTCATCGTGAggggtctttgtcctctgtactgtctctctccttgcccctaacccaaaaagcttcatttttctgtgtaggctgcacaagagccttgattgaagatatattctttctgaacagtatttaaggtttccaataaaatgtacacccctcagaatttgtctgattctcttggttctgacaacatagtcaacact
(小文字は非翻訳領域、大文字はミトコンドリア局在シグナルのコード領域を表す)

【0052】
また、ミトコンドリア移行配列として、ATP5B遺伝子の5’端領域及び3’端領域の配列を用いた発現ベクターの具体例を図10に示す。Aは、プロモーター(CMVプロモーター)の下流に、ATP5B遺伝子の5’端領域の配列、制限酵素遺伝子及びATP5B遺伝子の3’端領域の配列をこの順番で挿入したベクターの構成を示す。Bは、プロモーターの下流に、ATP5B遺伝子の5’端領域の配列、制限酵素遺伝子、2A配列、eGFP遺伝子及びATP5B遺伝子の3’端領域の配列をこの順番で挿入したベクターの構成を示す。このベクターは、「制限酵素-2A-EGFP」の融合タンパクを発現するが、該融合タンパクは2A配列で切断され、制限酵素とEGFPに分離される。

【0053】
内因性ミトコンドリアが除去されたことを確認するため、本手順の後であってかつ交流電場印加手順の前に、細胞をウリジンとピルビン酸の非存在下で培養する手順を行ってもよい。ミトコンドリアが欠失した細胞は、ウリジンとピルビン酸の存在下では生存できるが、非存在下では生存できない。このため、ウリジンとピルビン酸の非存在下での培養により、内因性ミトコンドリアが除去された細胞のみを選択することが可能となる(EMBO reports, 2007, 8, 188-193参照)。

【0054】
また、ミトコンドリア除去手順は、内因性ミトコンドリアの除去を完全なものとするため、交流電場印加手順の後あるいは直流電場印加手順の後にも行うことができる。

【0055】
2.応用例
本発明に係る細胞内へのミトコンドリア導入方法によれば、上述の通り、内因性ミトコンドリアとは遺伝的に異なる外因性ミトコンドリアを細胞内に導入することができ、内因性ミトコンドリアが外因性ミトコンドリアで置換された細胞を製造できる。

【0056】
従って、例えば、遺伝的に正常な内因性ミトコンドリアを有する細胞に、GUVを用いて遺伝子変異を有する外因性ミトコンドリアを導入すれば、ミトコンドリア病モデル細胞を製造することができる。

【0057】
遺伝子変異を有する外因性ミトコンドリアを導入する細胞は、ミトコンドリア病モデル細胞となり得る体細胞に限られず、胚性幹細胞(ES細胞)や誘導型多能性幹細胞(iPS細胞)であってもよい。胚性幹細胞内に、該細胞が由来する種と異なる種のミトコンドリアを導入すれば、当該胚性幹細胞から個体を発生させることで、他種由来の外因性ミトコンドリアが導入された非ヒト動物を製造することができる。さらに、遺伝子変異を有する外因性ミトコンドリアを用いれば、ミトコンドリア病モデル動物を作出することができる。

【0058】
あるいは、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを有する細胞に、GUVを用いて遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入することもできる。ミトコンドリア病患者由来の、遺伝子変異を有する内因性ミトコンドリアを含む細胞内に、遺伝的に正常な外因性ミトコンドリアを導入すれば、正常ミトコンドリアが導入された患者由来の細胞を製造することができ、ミトコンドリア病治療用の細胞組成物として利用できる。正常ミトコンドリアが封入されたGUVと細胞とを含む細胞組成物も、ミトコンドリア病の治療用に利用できる。

【0059】
例えば、ミトコンドリア病の一種であるPearson病では、ミトコンドリアDNA異常のために貧血を主体とする汎血球減少症をきたすが、患者から分離した骨髄幹細胞、あるいは胚性幹細胞(ES細胞)や誘導性多能性細胞(iPS細胞)等の幹細胞から誘導して得た骨髄幹細胞に正常ミトコンドリアを導入し移植することで、根本的な治療が可能である。
【実施例】
【0060】
<実施例1:細胞内への物体導入>
1.GUVの調製
文献(PNAS, 2003, 100:10718-10721; J. Physical Chemistry B Lett., 2008, 112:14678-14681; PNAS, 2012, 109:5942-5947)記載の油中水型エマルション通過法に従って、GUVを作製した。ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールをモル比9:1:1(合計105mg)でクロロホルム(1050μl)に溶解した。溶液をガラスチューブに移し、アルゴンガス雰囲気下での乾燥と真空乾燥を行った後、液体パラフィン(500μl)と混合した。混合物を60℃で60分間超音波処理した。
【実施例】
【0061】
蛍光ビーズ、DNA origami又はプラスミドDNAを内部溶液(90mMスクロース、210mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)と混合し、この内部溶液(50μl)を上記脂質混合物に加えた。
【実施例】
【0062】
蛍光ビーズには、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmのカルボン酸修飾されたFluoSpheres(登録商標、Invitrogen)を用いた。プラスミドDNAには、市販のキット(NucleoBond Xtra Midi plus kit, Macherey-Nagel GmbH & Co.)を用いて作製したEGFP発現ベクターを用いた。細断された矩形のDNA origami(60nm×90nm)を、ソフトウェア(caDNAno)を用いて設計した。図2に、DNA origamiの塩基配列(配列番号1~183)を示す。DNA origamiには、60×90nm2の面に282個のFITCラベルを配置した。
【実施例】
【0063】
チューブを撹拌して、マイクロメーターサイズのW/Oエマルションを生成させた。エマルションを外部溶液(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)上に静かに注いだ。4℃で30分間遠心分離(18,000g)した後、エマルションを脂質で飽和させたW/O界面を通過させて脂質二分子膜をもつGUVを形成させた。油と水との混合を避けるため、チューブの底にニードルで開けた穴からGUVを抽出した。
【実施例】
【0064】
得られたGUVの平均直径は、顕微鏡下での画像解析により、20μmと推計された。蛍光顕微鏡下での画像解析により、各GUVに封入されたビーズの数は101~104オーダーと計測された。また、各GUVに封入されたプラスミド及びDNA origamiの濃度は、それぞれ220ng/μl、3.36nMと計算された。
【実施例】
【0065】
2.GUVと細胞の電気融合
HeLa細胞を融合バッファー(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)に分散させた。GUVのマンニトール溶液(400μl)と細胞分散液(400μl、1×105細胞/ml)の混合溶液を、細胞電気融合装置(ECFG21, NEPA GENE)の発電機に接続された電気融合チャンバ—(NEPA GENE)に導入した。GUV数は、顕微鏡下での画像解析により、2×104/mlと計測された。チャンバ—は、2mm間隔で配された2枚のプラチナ平行電極(2×80×5mm)を含む。
【実施例】
【0066】
混合溶液に15V/mmの交流電場を30秒かけ、細胞とGUVを一列に配列させた(第一手順)。次に、175V/mmの直流パルスを50マイクロ秒かけ、細胞とGUVを融合させた(第二手順)。細胞とGUVの融合は、細胞とGUVが接触している領域の膜が不可逆的に電気絶縁膜破壊されることによって引き起こされる。続いて、15V/mmの交流電場を10秒かけ、細胞とGUVの接触を維持した(第三手順)。その後、細胞をPBSで洗浄し、DMEMを入れた培養ディッシュに移した。
【実施例】
【0067】
3.細胞内への物体導入
(1)蛍光ビーズ
蛍光ビーズ(直径1μm)を封入したGUVと電気融合させた細胞を図3に示す。図左上は立体観察像、左下は垂直断面観察像、右は水平断面観察像を示す。細胞内に蛍光ビーズが導入されているのが確認できる。
【実施例】
【0068】
直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズを封入したGUVと細胞を電気融合させた結果を図4に示す。図は、細胞質、蛍光ビーズ及び核の蛍光観察像とこれらの合成像を示す。また、上段から対照(ビーズなし)、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズの結果を示す。直径0.2、0.5、1.0μmの蛍光ビーズが細胞内に導入されているのが確認できる。直径2μmの蛍光ビーズは、細胞内へ導入されなかった。細胞内への蛍光ビーズの導入率をフローサイトメータで測定した結果、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズでそれぞれ73、50、40、0.38%であった。
【実施例】
【0069】
(2)プラスミド
EGFP発現ベクターを封入したGUVと電気融合させた細胞を図5に示す。電気融合後1日及び5日の培養後、細胞のGFP発現が確認され、細胞内にEGFP発現ベクターを導入できたことが確認された。細胞へのEGFP発現ベクターの導入効率は約20%であった。
【実施例】
【0070】
(3)DNA origami
DNA origamiを封入したGUVと電気融合させた細胞を図6示す。FITCで標識されたDNA origamiが細胞内に導入されているのが確認できる。
【実施例】
【0071】
なお、蛍光ビーズ(直径1μm)を封入したGUVとEGFP発現ベクターを封入したGUVとを組み合わせて用いることにより、細胞内に蛍光ビーズとEGFP発現ベクターを同時に導入できることも分かった(不図示)。
【実施例】
【0072】
<実施例2:GUVの表面電位の検討>
実施例1の「1.GUVの調製」において、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールのモル比を9:1:1のままあるいは9:0:1に変更し、実施例1で用いた蛍光ビーズ(直径0.2μm)が封入されたGUVを作製した。また、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC):ジオクタデシルアンモニウムブロミド(DODAB)及びコレステロールをモル比9:1.26:1で用いて同様に蛍光ビーズが封入されたGUVを作製した。
【実施例】
【0073】
以下の手順でGUVの表面電位(ゼータ電位)測定を行った。前記の脂質組成と手順でGUV(蛍光ビーズは封入しない)を調製し、エクストルーダー (Mini-Extruder,Avanti Polar Lipids社製)を使用して直径を1μmにそろえた(メンブレンポアサイズ1μm、液量1mlに対してポア通過21回)。このリポソーム分散溶液300μlを微粒子測定器(nano Partica SZ-100 series、堀場製作所製)に導入し、ゼータ電位の測定を行った。測定値を「表1」に示す。
【実施例】
【0074】
【表1】
JP0006607750B2_000002t.gif
【実施例】
【0075】
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」と同様にしてHeLa細胞とGUVの電気融合を行い、蛍光ビーズを細胞に導入した。融合操作後,以下の手順で蛍光ビーズ(直径0.2μm)の細胞への導入率を算出した。導入細胞を遠心分離(1000g,3min)し、上清を取り除いた後、融合バッファーを用いて再懸濁し洗浄した。再懸濁後の細胞をフローサイトメータ(Cell Lab Quanta SC MPL、ベックマンコールター社製)によって解析し、細胞への物質導入効率を求めた。直径7μm以上の物質を計測対象とした。細胞の計測数(1.5×104cells)のうち、融合操作を行わないネガティブコントロール(検出した蛍光強度<1×10)以上の蛍光強度を有するものの割合を算出した。結果を「表2」に示す。
【実施例】
【0076】
【表2】
JP0006607750B2_000003t.gif
【実施例】
【0077】
負の表面電位を有するGUV(DOPC:DOPG:コレステロール=9:1:1あるいは9:0:1)では蛍光ビーズの導入が可能であったが、正の表面電位を有するGUV(DOPC:DODAB:コレステロール=9:1.26:1)では、電気融合後洗浄を経た細胞にもGUVが付着し、評価が不能であった。また、より低い負の表面電位を有するGUVにおいてより高い蛍光ビーズの導入効率が得られた。
【実施例】
【0078】
<実施例3:GUVのコレステロール含有率の検討>
実施例1の「1.GUVの調製」において、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールのモル比を9:1:1から9:1:0,9:1:0.1,9:1:0.4、9:1:2又は9:1:5に変更し、実施例1で用いた蛍光ビーズ(直径0.5μm)が封入されたGUVを作製した。
【実施例】
【0079】
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」と同様にしてHeLa細胞とGUVの電気融合を行い、蛍光ビーズを細胞に導入した。実施例3と同様にしてフローサイトメータを用いて蛍光ビーズの細胞への導入率を算出した。結果を「表3」に示す。コレステロール比がより低いGUVにおいて、より高い蛍光ビーズの導入率が得られる傾向があった。コレステロールの割合は、好ましくは0~16.6モル%、より好ましくは0~9.1モル%、さらに好ましくは0~3.8モル%、さらにより好ましくは0~0.9モル%、最も好ましくは0モル%である。
【実施例】
【0080】
【表3】
JP0006607750B2_000004t.gif
【実施例】
【0081】
<実施例4:ポストフュージョン交流電場の印加時間の検討>
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」の第三手順での交流電場(15V/mm)の印加時間を10秒から0,20,60秒に変化させて蛍光ビーズ(0.5μm)の細胞への導入を行った。実施例3と同様にしてフローサイトメータを用いて蛍光ビーズの細胞への導入率を算出した。結果を「表4」に示す。
【実施例】
【0082】
【表4】
JP0006607750B2_000005t.gif
【実施例】
【0083】
<実施例5:細胞内へのミトコンドリア導入>
1.蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)のSHSY5Y細胞への導入
蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)を以下のようにして調製した。
【実施例】
【0084】
ミトコンドリアに蛍光タンパク質(YFP又はDsRed)を発現させたヒト神経芽細胞腫株(SHSY5Y)から蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP又はMito-DsRed)を抽出した。
培養した細胞を、緩衝液(PBS)で洗浄後、トリプシンで処理して剥離した。
剥離した細胞を培地(DMEM-F12)に分散し、遠心分離(1000×g,3min)によって回収した。
回収した細胞を緩衝液Aに分散した。
【実施例】
【0085】
緩衝液A(Homogenization buffer)
30mM Tris-HCl(pH7.4)
225mM マンニトール
75mM スクロース
0.5% BSA
0.1mM EGTA
【実施例】
【0086】
注射針を付けたシリンジによる、細胞分散液の吸引と排出を繰り返すことにより、細胞を破砕した。
遠心分離(600×g,5min)を行って回収した上清を、さらに遠心分離(7,000g,10min)して沈殿物を得た。
沈殿物を緩衝液Bに分散し、遠心分離(7,000×g,10min)を行った。上清を取り除き、再度、遠心分離(10,000×g,10min)を行って、ミトコンドリアを含む沈殿物を得た。
【実施例】
【0087】
緩衝液B(Fractionation buffer)
30mM Tris-HCl(pH7.4)
225mM マンニトール
75mM スクロース
【実施例】
【0088】
沈殿物を緩衝液Cに分散し、ミトコンドリア分散液とした。
【実施例】
【0089】
緩衝液C(Mitochondira resusupending buffer)
5mM Hepes-KOH(pH7.4)
250mM マンニトール
0.5mM mEGTA
【実施例】
【0090】
調製した蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)を以下のようにしてSHSY5Y細胞に導入した。
【実施例】
【0091】
ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールをモル比9:1:0.5(合計105mg)でクロロホルム(2100μl)に溶解した。溶液をガラスチューブに移し、アルゴンガス雰囲気下での乾燥と真空乾燥を行った後、液体パラフィン(500μl)と混合した。混合物を60℃で60分間超音波処理した。
【実施例】
【0092】
緩衝液Dと蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)溶液を混合し、上記脂質混合物に加えた。チューブを撹拌して、マイクロメーターサイズのW/Oエマルションを生成させた。
【実施例】
【0093】
緩衝液D(Inner buffer)
210mM マンニトール
90mM スクロース
0.1mM CaCl2
0.1mM MgCl2
【実施例】
【0094】
エマルションを外部溶液(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)上に静かに注いだ。4℃で30分間遠心分離(18,000×g)した後、エマルションを脂質で飽和させたW/O界面を通過させて脂質二分子膜をもつGUVを形成させた。
【実施例】
【0095】
SHSY5Y細胞を融合バッファー(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)に分散させた。蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)を封入したGUVの溶液(400μl)と細胞分散液(400μl、1×104細胞/ml)の混合溶液を、細胞電気融合装置(ECFG21, NEPA GENE)の発電機に接続された電気融合チャンバ—(NEPA GENE)に導入した。
【実施例】
【0096】
混合溶液に15V/mmの交流電場(1MHz)を30秒以上4分以内(平均2分)かけ、細胞とGUVを一列に配列させた(第一手順)。次に、175V/mmの直流パルス(パルスインターバル0.5秒)を50マイクロ秒かけ(パルス回数5回)、細胞とGUVを融合させた(第二手順)。細胞とGUVの融合は、細胞とGUVが接触している領域の膜が不可逆的に電気絶縁膜破壊されることによって引き起こされる。続いて、15V/mmの交流電場(1MHz)を10秒かけ、細胞とGUVの接触を維持した(第三手順)。その後、細胞をPBSで洗浄し、DMEMを入れた培養ディッシュに移した。
【実施例】
【0097】
フローサイトメータ(Cell Lab Quanta SC MPL, Beckman Coulter, USA)で細胞中の蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)に由来する蛍光を検出することにより、細胞内への蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)の導入率を測定した。導入率は、15.82%であった(図7参照)。
【実施例】
【0098】
2.蛍光ミトコンドリア(DsRed)のSHSY5Y細胞への導入
蛍光ミトコンドリア(Mito-DsRed)を上記の方法により調製した。調製した蛍光ミトコンドリア(Mito-DsRed)を上記の方法によりSHSY5Y細胞に導入し、導入率を測定した。導入率は、15.76%であった(図8参照)。
【実施例】
【0099】
3.蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP及びDsRed)のSHSY5Y細胞への導入
さらに、蛍光ミトコンドリア(DsRed)を導入したSHSY5Y細胞に蛍光ミトコンドリア(Mito-YFP)を導入し、導入率を測定した。導入率は、21.83%であった(図9参照)。
【実施例】
【0100】
<実施例6:細胞内へ導入したミトコンドリアの機能評価>
1.ミトコンドリアDNA欠失細胞(ΔmtDNA細胞)の作製
細胞を培養ディッシュに播種し(約1×105 cell/ml)、エチジウムブロマイド(30~200ng/ml)を添加した培地(5% FBS DMEM)で培養する。
エチジウムブロマイドを含まない培地に交換し、さらにウリジン(50μg/ml)とピルビン酸(100μg/ml)を含まない培地に交換する。
さらに培養を行って、ΔmtDNA細胞を選択培養する。
【実施例】
【0101】
2.ΔmtDNA細胞へのミトコンドリア導入
作製されたΔmtDNA細胞内に実施例5と同様にしてミトコンドリアを導入する。
【実施例】
【0102】
3.ミトコンドリアの機能評価
ミトコンドリアを導入したΔmtDNA細胞におけるミトコンドリアの機能を評価し、導入されたミトコンドリアが細胞内で機能していることを確認する。
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図2-3】
3
【図2-4】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9
【図8】
10
【図9】
11
【図10】
12