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明細書 :大腸上皮幹細胞の単離・培養技術と、これを用いた大腸上皮移植技術

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6238445号 (P6238445)
登録日 平成29年11月10日(2017.11.10)
発行日 平成29年11月29日(2017.11.29)
発明の名称または考案の名称 大腸上皮幹細胞の単離・培養技術と、これを用いた大腸上皮移植技術
国際特許分類 C12N   5/074       (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/074
C12N 5/071
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 11
全頁数 33
出願番号 特願2013-540665 (P2013-540665)
出願日 平成24年10月26日(2012.10.26)
国際出願番号 PCT/JP2012/006897
国際公開番号 WO2013/061608
国際公開日 平成25年5月2日(2013.5.2)
優先権出願番号 2011236469
優先日 平成23年10月27日(2011.10.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年10月22日(2015.10.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
発明者または考案者 【氏名】渡辺 守
【氏名】中村 哲也
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 国際公開第2010/090513(WO,A1)
JUNG P. et al.,,Nature Medicine, 04 September 2011, Vol.17, No.10, pp.1225-1227 and Supplementary information
WEIGMANN B. et al.,,Nature Protocols, 2007, Vol.2, No.10, pp.2307-2311
LIU S. et al.,,Reproductive Biology and Endocrinology, 24 October 2011, Vol.9, No.141, pp.1-9
CHE X. et al.,,In Vitro Cellular & Developmental Biology - Animal, 21 June 2011, Vol.47, pp.454-458
SATO T. et al.,,Gastroenterology, 05 September 2011, Vol.141, pp.1762-1772
Laboratory Investigation,2003, Vol.83, No.7, pp.949-962
American Journal of Physiology - Gastrointestinal and Liver Physiology,2007, Vol.293, pp.G230-G239
SATO T. et al.,,Nature, 2009, Vol.459, pp.262-265
水谷 知裕、外3名、,腸管上皮幹細胞研究の新展開.,細胞, 2011年7月, Vol.43, No.8, pp.286-289
Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2003, Vol.307, No.1, pp.146-151
調査した分野 C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed

特許請求の範囲 【請求項1】
基本培地成分に加えて、タンパク質含有成分として、血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1のみを含有し、血清を含有しない、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地。
【請求項2】
基本培地成分として、DMEM/F12、ゲンタマイシン、および/またはL-グルタミンを含有する、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
B-27サプリメントを含まない、請求項1又は2に記載の培地。
【請求項4】
血清アルブミンの最終濃度が0.3%以上3%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の培地。
【請求項5】
基本培地成分に加えて、タンパク質含有成分として、血清アルブミン、Wnt3a、r-spondin-1、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、Nogginのみを含有し、血清を含有しない、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地であって、B-27サプリメントを含まず、かつ、血清アルブミンの最終濃度が0.3%以上3%以下である、培地
【請求項6】
基本培地成分に加えて、血清アルブミン、Wnt3a、r-spondin-1、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、Nogginを含有し、血清を含有しない、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地であって、B-27サプリメントを含まず、かつ、血清アルブミンの最終濃度が0.3%以上3%以下である、培地
【請求項7】
Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632をさらに含有する請求項1~のいずれか1項に記載の培地。
【請求項8】
大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞が、哺乳動物の大腸へ移植するためのものである、請求項1~のいずれか1項に記載の培地。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の培地と、細胞外基質とを用いて、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を培養する工程Zを含む、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞をインビトロで培養する方法。
【請求項10】
工程Zにおける大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞として、以下の工程A~Dの工程をその順序で含む方法で単離される大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を用いる、請求項に記載の方法;
工程A:大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む大腸組織を、哺乳動物の大腸から採取する工程;
工程B:コラゲナーゼ、ディスパーゼ及び還元剤を用いて、大腸組織を消化処理する工程;
工程C:消化処理した大腸組織の組織片を破砕処理する工程;
工程D:破砕処理した大腸組織について濃度勾配遠心法を適用して、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む画分を得る工程;
【請求項11】
哺乳動物の大腸へ移植するための大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞をインビトロで培養する方法である、請求項又は10に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞(以下、「大腸上皮幹細胞等」とも省略する。)のインビトロ培養用培地や、かかる培地を用いて大腸上皮幹細胞等をインビトロで培養する方法や、かかる方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等を含有する、腸疾患の予防・治療剤や、大腸上皮幹細胞等の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管疾患の治療における成体幹細胞の治療応用の可能性に対する関心が高まっている。胃、小腸及び大腸における上皮細胞の自己複製能及び生成能を有する消化管上皮幹細胞は、消化管の各部で組織恒常性の維持に重要な役割を果たしている(非特許文献1~3)。最近の研究により、消化管幹細胞の生物学に関する知見が大幅に増加している。Wnt、BMP及びNotchカスケードを含むいくつかのシグナル伝達経路が共に作用して、幹細胞の維持を調節し、上皮恒常性を制御することが示されている(非特許文献4)。系統追跡を用いる研究により、Wnt標的遺伝子であるLgr5が、小腸及び大腸の陰窩(非特許文献5)の底部並びに胃ユニット(非特許文献6)の底部における幹細胞のマーカーとして同定された。
【0003】
現在、確実なマーカーによって消化管幹細胞が認識できることから、消化管幹細胞を用いる細胞療法が多くの難治性疾患の治療を根本的に変えることが期待されつつある。しかし今日に至るまで、単離された消化管上皮細胞をインビトロで培養し増やした後に、傷害組織を修復する細胞療法の材料として用いた報告は全くない。また、培養し増殖させた消化管上皮幹細胞が傷害部位で組織を修復できるかどうかは未だ判明していない。上皮成分及び間葉成分を有する腸の小断片を長期にわたり培養できるようになったのは最近のことである(非特許文献7)。
【0004】
非特許文献8には、単離した大腸陰窩をマトリゲル内に包埋し、完全陰窩培地を添加して、大腸上皮幹細胞を培養する方法が記載されている。かかる完全陰窩培地は、基本培地であるAdvanced DMEM/F12に、Wnt3a又はWnt3a馴化培地、EGF、Noggin、r-spondin-1、B-27(登録商標)supplement(Invitrogen社製)、ガストリン、ニコチンアミド、A83-01(TGF-β 1型受容体キナーゼ阻害剤)、及び、SB202190(p38阻害剤)などを添加した培地である。B-27(登録商標)supplementの厳密な組成は開示されていないが、ビオチン、L-カルニチン、コルチコステロン、エタノールアミン、D(+)ガラクトース、還元型グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレッシン、レチニル酢酸、セレン、トリオド-l-チロミン、ビタミンE、ビタミンE酢酸塩、ウシアルブミン、カタラーゼ、インスリン、スーパーオキシド・ジスムターゼ、トランスフェリンなどを含むことが知られている(非特許文献9)。大腸上皮幹細胞を無血清培地にてインビトロで培養する場合、ガストリン、ニコチンアミド、A83-01(TGF-β 1型受容体キナーゼ阻害剤)、SB202190(p38阻害剤)、及び、B-27 supplementは必須な成分であると考えられており、中でも、B-27 supplementは特に必要不可欠であると考えられていた。
【0005】
ところで、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)は、ウシの血清に多く含まれるアルブミンであり、脂肪酸や微量元素などの運搬体として機能することが知られている。Wnt3aは、WNT3A遺伝子によりコードされるタンパク質であり、β-カテニン経路を活性化することが知られている。Wnt/β-カテニン経路は、幹細胞の増殖や、未分化性維持に関連していることが知られている。R-spondin-1(Roof-plate-specific Spondin-1;Rspo1)は、RSPO1遺伝子によりコードされるタンパク質であり、背側神経管の分化に寄与し、腸陰窩上皮細胞の増殖を促進することが知られている。上皮細胞増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)は、EGF遺伝子によりコードされるタンパク質であり、上皮細胞の増殖を促進することが知られている。肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)は、HGF遺伝子によりコードされるタンパク質であり、肝細胞を始めとして、各種細胞の増殖を促進することが知られている。Nogginは、NOG遺伝子によりコードされるタンパク質であり、形質転換増殖因子β(Transforming growth factor beta;TGF-β)のシグナル伝達を阻害することが知られている。
【0006】
しかし、基本培地成分(糖類などの炭素源、アミノ酸などの窒素源、無機塩)に加えて、血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1を用いれば、無血清培地による培養であっても、マウスやヒトなどの哺乳動物の大腸組織から単離した大腸上皮幹細胞等をインビトロで長期間維持、増幅し得ることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Potten, C.S., Booth, C. & Pritchard, D.M. The intestinal epithelial stem cell: the mucosal governor. Int J Exp Pathol 78, 219-243 (1997).
【非特許文献2】Bjerknes, M. & Cheng, H. Intestinal epithelial stem cells and progenitors. Methods Enzymol 419, 337-383 (2006).
【非特許文献3】Barker, N., van de Wetering, M. & Clevers, H. The intestinalstem cell. Genes Dev 22, 1856-1864 (2008).
【非特許文献4】Crosnier, C., Stamataki, D. & Lewis, J. Organizing cell renewal in the intestine: stem cells, signals and combinatorial control. Nat Rev Genet 7, 349-359 (2006).
【非特許文献5】Barker, N., et al. Identification of stem cells in small intestine and colon by marker gene Lgr5. Nature 449, 1003-1007 (2007).
【非特許文献6】Barker, N., et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and build long-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36 (2010).
【非特許文献7】Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009).
【非特許文献8】Sato, T., et al. Long-term Expansion of Epithelial OrganoidsFrom Human Colon, Adenoma, Adenocarcinoma, and Barrett's Epithelium. Gastroenterology. DOI: 10.1053/j.gastro.2011.07.050 (2011).
【非特許文献9】G.J.Brewer, et al. Optimized survival of hippocampal neuronsin B27-supplemented Neurobasal, a new serum-free medium combination.J.Neurosci.Res. 35, 567-576 (1993).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大腸上皮幹細胞等のインビトロ培養用培地や、かかる培地を用いて大腸上皮幹細胞等をインビトロで培養する方法や、かかる方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等を含有する、腸疾患の予防・治療剤や、かかる方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等の腸疾患患者への投与方法即ち移植方法や、大腸上皮幹細胞等の単離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
小腸細胞の培養には、Rspo1、Noggin及びEGFの計3因子存在下で培養することが必要不可欠であることが以前から知られている(Sato, T., et al. Single Lgr5stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))。しかし、かかる3因子の組合せは大腸上皮幹細胞等の維持には適していなかった。本発明者らは、上記の背景技術の状況下で鋭意研究を行った結果、以下の(a)~(c)などの知見を見いだし、本発明を完成するにいたった。
(a)特定の処理工程を用いることによって、マウスやヒトなどの哺乳動物の大腸組織から、大腸上皮幹細胞を効率よく単離し得ること。
(b)従来は、大腸上皮幹細胞を無血清培地にてインビトロで培養する場合、基本培地成分(糖類などの炭素源、アミノ酸などの窒素源、無機塩)に加えて、ガストリン、A83-01(TGF-β 1型受容体キナーゼ阻害剤)、SB202190(p38阻害剤)、及び、B-27 supplementなどが必須な成分であると考えられており、中でも、B-27 supplementは特に必要不可欠であると考えられていた。しかし、それらの成分を用いずとも、基本培地成分に加えて、血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1を用いれば、無血清培地による培養であっても、マウスやヒトなどの哺乳動物の大腸組織から単離した大腸上皮幹細胞等をインビトロで長期間維持、増幅し得ること。
(c)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与して急性大腸炎を発症させたマウスの大腸に、インビトロで維持、増幅した大腸上皮幹細胞等を、開発した特定の投与手法で投与したところ、大腸上皮幹細胞等がマウスの大腸に生着し、急性大腸炎の回復を促進し得ること。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1を含有する、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地や、
(2)上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、Noggin、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸塩、ピルビン酸ナトリウム、抗酸化剤、コレラ毒素、核酸、セルロプラスミン、ビタミン、及び、血清からなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有する、上記(1)に記載の培地や、
(3)血清を含有しない、上記(1)又は(2)に記載の培地や、
(4)大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞が、哺乳動物の大腸へ移植するためのものである、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の培地に関する。
【0011】
また、本発明は、
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の培地と、細胞外基質とを用いて、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を培養する工程Zを含む、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞をインビトロで培養する方法や、
(6)工程Zにおける大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞として、以下の工程A~Dの工程をその順序で含む方法で単離される大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を用いる、上記(5)に記載の方法;
工程A:大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む大腸組織を、哺乳動物の大腸から採取する工程;
工程B:コラゲナーゼ、ディスパーゼ及び還元剤を用いて、大腸組織を消化処理する工程;
工程C:消化処理した大腸組織の組織片を破砕処理する工程;
工程D:破砕処理した大腸組織について濃度勾配遠心法を適用して、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む画分を得る工程;や、
(7)哺乳動物の大腸へ移植するための大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞をインビトロで培養する方法である、上記(5)又は(6)に記載の方法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、
(8)上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含有する、腸疾患の予防・治療剤に関する。
【0013】
また、本発明は、
(9)以下の工程A~Dの工程をその順序で含む、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞の単離方法;
工程A:大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む大腸組織を、哺乳動物の大腸から採取する工程;
工程B:コラゲナーゼ、ディスパーゼ及び還元剤を用いて、大腸組織を消化処理する工程;
工程C:消化処理した大腸組織の組織片を破砕処理する工程;
工程D:破砕処理した大腸組織について濃度勾配遠心法を適用して、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む画分を得る工程;
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、血清培地を用いずとも、大腸上皮幹細胞等をインビトロで長期間維持、増幅することができる。かかる大腸上皮幹細胞は、幹細胞性を維持しており、大腸上皮が傷害された哺乳動物の大腸へ投与すると、特に本発明の投与方法を用いることにより良好に、大腸上皮へ生着して、機能的及び組織的に正常で自己複製可能な大腸陰窩を形成する大腸上皮を構成することができる。このため、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等は、大腸へ投与することによって、腸疾患を予防・治療することができる。また、本発明によれば、組成にばらつきがある血清を使用せずにすむため、より低コストで、安定的に大腸上皮幹細胞等を培養することができる。また、本発明の培養方法によれば、手術検体のような大きな大腸組織でなくとも、大腸内視鏡検査時に得られる微小な大腸組織を初発材料として、安定的、かつ、再現性をもって大腸上皮幹細胞等を培養することができる。また、本発明の単離方法を用いると、哺乳動物の大腸組織から大腸上皮幹細胞等を効率よく単離することができ、また、かかる単離方法により単離される大腸上皮幹細胞等は、本発明の培養方法に適している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)成体マウスから大腸陰窩を単離した後、大腸陰窩細胞を本発明の培養方法を用いて培養すると、培養後8日以内に球形の嚢胞構造として成長することを示す図である。スケールバーは50μmを示す。(b)大腸陰窩細胞の培養により形成した大腸オルガノイドを、培養後8日目に免疫組織染色法又は組織染色法により解析した結果を示す図である。大腸オルガノイドを構成する全ての細胞は、E-カドヘリン染色(E-cad、緑色)に陽性であった。また、Ki67染色(Ki67、緑色)、アルシアンブルー染色(Alcian blue、青色)、CgA染色(CgA、緑色)、CAII(CA-II)染色(CAII、緑色)及びCox1染色(Cox1、緑色)に陽性を示す細胞も認められた。なお、それぞれの写真の下段には、四角で囲った部分の高倍率画像を示す。アルシアンブルー染色以外は、核をDAPI(青)で染色した。スケールバーは上段50μm、下段10μmを示す。(c~g)透過型電子顕微鏡を用いて培養後8日目の大腸オルガノイドを解析した結果を示す図である。上皮細胞に特徴的な構造である微繊毛(c、図中「MV」で示す)、細胞間接着装置(タイトジャンクション)(d、図中「TJ」で示す)、染色体凝縮を示す分裂期の細胞(e、図中「M」で示す)、粘液顆粒を有する杯細胞(f、図中「G」で示す)、高電子密度顆粒を有する腸内分泌細胞(g、図中「E」で示す)などが認められた。スケールバーはc及びdが0.5μm、e~gが5μmを示す。(h)透過型電子顕微鏡を用いて大腸オルガノイドが継代培養により増幅することを示す図である。上段には、培養後180日目の大腸オルガノイドの低倍率画像を示し、下段にはその中で代表的な大腸オルガノイドの高倍率画像を示す。スケールバーは上段500μm、下段50μmを示す。(i)180日間培養した大腸オルガノイドから単離した分裂期細胞の核型を示す図である。正常な核型(2n=40染色体)を有していることを示している。スケールバーは10μmを示す。なお、発明者が実際に取得した図面では、カラーの蛍光が含まれているため、本願の「図面の簡単な説明」でもそのカラーに言及しているが、本願に添付されている白黒図面では、アルシアンブルー染色は黒っぽい色で表されており、それ以外の染色は白っぽい色で表されている。
【図2】本発明の培地に添加した6つの因子(BSA、Wnt3a、Rspo1、Noggin、EGF、及びHGF)が大腸オルガノイド増幅に及ぼす効果を検証した結果を示す図である。図に示した因子の組合せ存在下で、2000個の大腸陰窩細胞を播種及び培養し、8日目に形成した大腸オルガノイドの数をカウントした。エラーバーはSEM;n=3を示す。
【図3】(a)単離直後の大腸陰窩(crypt)、並びに培養後8日目(Day 8)及び60日目(Day 60)の大腸オルガノイドで発現する遺伝子を、RT-PCR法により4つの遺伝子(MUC2、CgA、CAII、及びLgr5)について解析した結果を示す図である。なお、GAPDH遺伝子はコントロールとして用いた。(b)図中に示した6つの因子(Wnt3a、Rspo1、BSA、EGF、HGF及びNoggin)中の様々な組合せ存在下で大腸オルガノイドを8日間培養し(Day 8)、Lgr5遺伝子の発現をRT-PCR法により解析した結果を示す図である。なお、単離直後の大腸陰窩(crypt)及びGAPDH遺伝子はコントロールとして用いた。(c)インビトロでNotchシグナルが本発明の大腸オルガノイドの未分化能維持に関与していることを示す図である。左図は、培養後4日目から8日目までの大腸オルガノイドを、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)LY-411,575(「GSI」と表示)、又はコントロールとして溶媒単独(「Vehicle」と表示)により処理し、アルシアンブルー染色した結果を示す。スケールバーは50μmを示す。また、右図は、培養後4日目から8日目までの大腸オルガノイドをGSIあるいは溶媒単独で処理し、Muc2及びLgr5遺伝子の発現をRT-PCR法により解析した結果を示す。なお、GAPDH遺伝子はコントロールとして用いた。かかるRT-PCR法による実験は、さらに個別に2回行ったが、同様の結果が得られた。(d)Lgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスから単離された大腸陰窩が、192時間にわたり成長している様子を経時的に示す図である。上段はEGFPの蛍光画像を示し、下段はEGFPの蛍光画像とDIC画像とを重ね合わせた画像を示す。
【図4】(a)本発明の大腸オルガノイド由来の細胞を、マウスへ移植する方法の概略を示す図である。(b)本発明の大腸オルガノイド由来の細胞を移植して6日後の大腸組織を示す図である。実体顕微鏡画像及び蛍光画像の低倍率画像を左図に示し、左図中の点線で囲んだ四角形部分の高倍率画像を右図に示す。右図の実体顕微鏡画像において、矢頭は、浮腫性粘膜に囲まれた陥凹領域を示す。移植した大腸オルガノイド由来の細胞は、EGFPの蛍光(EGFP)として検出される。実体顕微鏡画像と同一視野の蛍光顕微鏡画像から、移植片が生着したEGFP領域は陥凹した損傷領域と重なることがわかる。なお、これらの画像は別の顕微鏡を用いて内腔側を上下反対にして得たものであるため、組織の輪郭は完全には一致していない。スケールバーは1mmを示す。(c)図4bに示したEGFP領域の組織学的解析を行った結果を示す図である。EGFPの蛍光画像(上段)と、EGFPの蛍光画像とDAPI染色画像とを重ね合わせた画像(下段)を示す。(d)及び、(e)図4cにおいて、実線で囲った領域及び点線で囲った領域をそれぞれ図(d)及び(e)に高倍率画像として示す。スケールバーは100μm示す。(f)RAG2-/-マウスに3%DSSを5日間与え、7日目及び10日目に本発明の大腸オルガノイド由来の細胞を移植(n=6)又は偽移植(N=6)し、マウスの体重変化を示す図である。16日目にマウスを屠殺し、移植効率の評価を行った。EGFP移植を受けたマウス(四角、n=4)及び偽移植を受けたコントロールマウス(白抜き丸、n=6)の各日にちにおける体重は、DSSを与える前のマウス体重に対する割合(%)として示した。エラーバーは標準誤差(SEM)、*はp<0.05を示す。
【図5】(a)本発明の大腸オルガノイド由来の細胞を移植した後、4週間目のレシピエント大腸上皮を蛍光顕微鏡により解析した結果を示す図である。点線で囲った領域は遠位末端を示す。右側には、この領域の拡大画像のうち、EGFP蛍光画像(上段)、位相差画像(中段)及びこれらの画像を重ねたもの(下段)を示す。スケールバーは左図500μm、右図100μmを示す。(b)移植領域に対して、抗GFP抗体を用いた免疫組織染色を行った結果を示す図である。EGFP染色画像(上段、「EGFP」)、DIC画像(中段、「DIC」)及びこれらの画像を重ねたもの(下段、Merged)を示す(左図)。スケールバーは50μmを示す。また、Merged画像の高倍率画像を右側に示す。スケールバーは10μmを示す。(c)移植組織の連続切片を用いて免疫組織染色又は組織染色を行った結果を示す図である。図1bと同様に免疫組織染色又は組織染色を行うとともに、抗GFP抗体を用いた染色組織染色を行った。上段の画像において、Ki67細胞(Ki67、赤色)、杯細胞(Alcian blue、青色)、腸内分泌細胞(CgA、赤色[特に矢頭])、大腸細胞(CAII、赤色)及びタフト細胞(Cox1、赤色[特に矢頭])を示す。なお、これら画像のうち、アルシアンブルー染色以外の画像は、DAPI(青色)を用いた核染色画像とを重ね合わせた画像である。下図は、上段と同一の視野及び焦点における抗GFP抗体(緑色)による染色結果を示す。スケールバーは50μmを示す。(d)TRITC-デキストランを用いた透過性アッセイの結果を示す図である。偽移植群(DSS+ sham[偽]群;n=6)の血中のTRITC-デキストラン値(血中TRITC値)を100(%)とした場合の移植群(DSS+ engraft[移植]群+;n=4)の血中TRITC値の割合(%)を示す(左側)。コントロールとして、DSS大腸炎を誘導したRAG2-/-マウス(DSS+群;n=6)及びDSS大腸炎非誘導RAG2-/-マウス(DSS-群;n=6)を用い、移植をおこなうことなく、急性期の6日目に透過性アッセイを行うと、大腸炎誘導群では粘膜損傷を反映して血中TRITC値が上昇した。DSS-群の血中TRITC値を100(%)とした場合のDSS+群の血中TRITC値の割合(%)を示す(右側)。エラーバーはSEM、*はp<0.05を示す。N.S.は有意ではないことを示す。
【図6】(a)単一大腸幹細胞を本発明の培養法で増やし、移植後に生着した移植片を視覚化するための実験方法の概略を示す図である。(b)Creリコンビナーゼ発現誘導の3日後に、Lgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスと交配させたR26R-Confettiマウス由来の大腸細胞を用いてFACS解析を行った結果を示す図である。実線で囲った領域は、EGFP細胞集団及びRFP細胞集団を示し、かかる領域内に存在する細胞(Lgr5-EGFP/Confetti-RFP幹細胞)をソーティングし、その後の培養に用いた。(c)ソーティングした単一のLgr5-EGFP/Confetti-RFP幹細胞から成長させ、6日目の大腸オルガノイドを示す図である。左側にEGFPの蛍光画像を示し、右側にはRFPの蛍光画像を示す。スケールバーは50μmを示す。(d)移植25週間後のレシピエント大腸を示す図である。左側に位相差画像を示し、右側に蛍光画像及び、点線で囲んだ領域の拡大画像を示す。スケールバーは1mmを示す。
【図7】(a)2回目の移植から25週間後のRFP移植片を、抗RFP抗体を用いて免疫組織染色を行った結果を示す図である。移植領域におけるRFP蛍光画像(左図)及びかかるRFP蛍光画像とDICとの融合画像(右図)を示す。スケールバーは50μmを示す。(b)移植組織の連続切片を用いて免疫組織染色又は組織染色を行った結果を示す図である。図1bと同様に免疫組織染色又は組織染色を行うとともに、抗RFP抗体を用いた染色組織染色を行った。上段の画像において、Ki67細胞(Ki67、緑色)、杯細胞(Alcian blue、青色)、腸内分泌細胞(CgA、緑色[特に矢頭])、大腸細胞(CAII、緑色)及びタフト細胞(Cox1、緑色[特に矢頭])を示す。なお、これら画像のうち、アルシアンブルー染色以外の画像は、DAPI(青色)を用いた核染色画像との融合画像である。下図は、上段と同一の視野及び焦点における抗RFP抗体(赤色)による染色結果を示す。スケールバーは50μmを示す。
【図8】EGF、HGF、Nogginの他の任意成分(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸塩、ピルビン酸ナトリウム、N-アセチルシステイン、コレラ毒素、ヌクレオシド混合液、セルロプラスミン)をさらに添加した場合であっても、大腸陰窩細胞をインビトロ培養し得ることを示す図である。スケールバーは50μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地
本発明の「大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞のインビトロ培養用培地」(以下、単に「本発明の培地」とも表示する。)としては、基本培地成分(糖類などの炭素源、アミノ酸などの窒素源、無機塩)に加えて、血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1(以下、これらの3成分をまとめて、単に「必須3成分」とも表示する。)を含有している培地である限り特に制限されない。大腸上皮幹細胞等の培養に、かかる成分を含有している培地を用いると、血清を含有していなくても、大腸上皮幹細胞等をインビトロで長期間維持、増幅することができ、また、大腸上皮幹細胞の幹細胞性も維持することができる。また、本発明によれば、組成にばらつきがある血清を使用せずにすむため、より低コストで、安定的に大腸上皮幹細胞等を培養することができる。ここで、本発明の大腸上皮幹細胞等とは、大腸上皮幹細胞と大腸上皮細胞を含む細胞混合物をもその範囲に含むものであり、細胞混合物である場合、大腸上皮幹細胞の含有比率が5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、80%以上のものを例示することができる。

【0017】
上記の血清アルブミンは、哺乳動物の血清に含まれるアルブミンである限り特に制限されず、かかる血清アルブミンとしては、哺乳動物の血清から精製したもの、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えばSigma社製のBSA)のいずれを用いてもよい。血清アルブミンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒト血清アルブミン(human serum albumin;HSA)や、ウシ血清アルブミン(BSA)を好適に例示することができ、中でもBSAをより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来する血清アルブミンを用いることも好ましい。

【0018】
本発明の培地における血清アルブミンの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が30%以下(例えば、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が0.01%以上(例えば、0.05%以上、0.1%以上、0.3%以上)であることを例示することができる。より好ましい濃度として、0.3%以上3%以下の範囲を挙げることができる。

【0019】
上記のWnt3aは、哺乳動物のWNT3A遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるWnt3aとしては、例えばパネート細胞などのWnt3産生細胞が産生するものを用いてもよいし、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞が産生するものを用いても良いし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のWnt3a)のいずれを用いてもよい。Wnt3aの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトWnt3a(hWnt3a)や、マウスWnt3a(mWnt3a)を好適に例示することができ、中でも、mWnt3aをより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するWnt3aを用いることも好ましい。

【0020】
本発明の培地におけるWnt3aの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が3mg/mL以下(例えば、500μg/mL以下、100μg/mL以下、30μg/mL以下、3μg/mL以下、1μg/mL以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が300pg/mL以上(例えば、1ng/mL以上、3ng/mL以上、10ng/mL以上、30ng/mL以上)であることを例示することができる。より好ましい最終濃度としては、30ng/mL以上を挙げることができる。

【0021】
上記のr-spondin-1(Rspo1)は、哺乳動物のRSPO1遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるRspo1としては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのRspo1産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のR-Spondin1)のいずれを用いてもよい。Rspo1の由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトRspo1(hRspo1)や、マウスRspo1(mRspo1)を好適に例示することができ、中でも、mRspo1をより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するRspo1を用いることも好ましい。

【0022】
本発明の培地におけるRspo1の含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が5mg/mL以下(例えば、1mg/mL以下、200μg/mL以下、40μg/mL以下、5μg/mL以下、1μg/mL以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が500pg/mL以上(例えば、5ng/mL以上、50ng/mL以上、250ng/mL以上)であることを例示することができる。

【0023】
上記の基本培地成分としては、培養する大腸上皮幹細胞等が同化し得る糖類等の炭素源や、かかる大腸上皮幹細胞等が消化し得るアミノ酸等の窒素源や、無機塩などを好適に例示することができる。かかる基本培地成分を含む培地は当業者に公知のものや、市販のもの(例えば、Invitrogen社製のもの)を使用することができ、具体的には、MEM(Minimum Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、 DMEM(Dulbecco's Modified EagleMedium)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、GMEM(Glas- gow's MEM)、F12(Ham's F12 Medium)、DMEM/F12、RPMI1640、BMOC-3 (Brinster's BMOC-3 Medium)、CMRL-1066、L-15培地(Leibovitz's L-15 medium)、McCoy’s 5A、Media 199、MEM αMedia、MCDB105、MCDB131、MCDB153、MCDB201、Williams’ medium E、Advanced MEM、Advanced DMEM、Advanced DMEM/F-12、Advanced RPMI1640、などの培地を用いることができる。本発明の基本培地成分を含む培地としては、Advanced DMEM/F-12(Invitrogen社製)を好適に例示することができる。また、上記のアミノ酸としては、必須アミノ酸や非必須アミノ酸を例示することができ、中でも非必須アミノ酸のグルタミンを好適に例示することができる。

【0024】
本発明の培地は、上記の基本培地成分、及び、必須3成分のみを含んでいてもよいが、大腸上皮幹細胞等のより高い増幅効率を得る観点から、それらの成分に加えて、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、Noggin、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸塩、ピルビン酸ナトリウム、抗酸化剤、コレラ毒素、核酸、セルロプラスミン、ビタミン、及び、血清(以下、かかる13成分を「任意13成分」と表示する場合がある。)からなる群から選択される1種又は2種以上の成分をさらに含有することを好適に例示することができ、中でも、EGF、HGF及びNogginからなる群から1種又は2種以上、好ましくは3種の成分を少なくとも含有することをより好適に例示することができ、中でも、EGF、HGF及びNogginからなる群から1種又は2種以上、好ましくは3種の成分を含有し、かつ、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸塩、ピルビン酸ナトリウム、抗酸化剤、コレラ毒素、核酸、及び、セルロプラスミンからなる群から1種又は2種以上の成分を含有することをさらに好適に例示することができる。本発明の培地は血清を含んでいてもよいが、本発明の効果をより多く享受する観点からは、血清を含んでいないことが好ましい。

【0025】
上記のEGFとしては、哺乳動物のEGF遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるEGFとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのEGF産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、Peprotech社製のEGF)のいずれを用いてもよい。EGFの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトEGF(hEGF)や、マウスEGF(mEGF)を好適に例示することができ、中でも、mEGFをより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するEGFを用いることも好ましい。

【0026】
本発明の培地にEGFを用いる場合のEGFの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が200μg/mL以下(例えば、40μg/mL以下、8μg/mL以下、2μg/mL以下、200ng/mL以下、40ng/mL以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が1pg/mL以上(例えば、8pg/mL以上、100pg/mL以上、1ng/mL以上、10ng/mL以上)であることを例示することができる。より好ましい濃度としては、1ng/mL以上40ng/mL以下の範囲を挙げることができる。

【0027】
上記のHGFとしては、哺乳動物のHGF遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるHGFとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのHGF産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のHGF)のいずれを用いてもよい。HGFの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトHGF(hHGF)や、マウスHGF(mHGF)を好適に例示することができ、中でも、mHGFをより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するHGFを用いることも好ましい。

【0028】
本発明の培地にHGFを用いる場合のHGFの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が500μg/mL以下(例えば、100μg/mL以下、20μg/mL以下、4μg/mL以下、500ng/mL以下、100ng/mL以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が50pg/mL以上(例えば、500pg/mL以上、5ng/mL以上、25ng/mL以上)であることを例示することができる。より好ましい濃度としては、5ng/mL以上100ng/mL以下の範囲を挙げることができる。

【0029】
上記のNogginとしては、哺乳動物のNOG遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるNogginとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのNoggin産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のNoggin)のいずれを用いてもよい。Nogginの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトNoggin(hNoggin)や、マウスNoggin(mNoggin)を好適に例示することができ、中でも、mNogginをより好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するNogginを用いることも好ましい。

【0030】
本発明の培地にNogginを用いる場合のNogginの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば、本発明の培地における最終濃度が500μg/mL以下(例えば、100μg/mL以下、20μg/mL以下、4μg/mL以下、500ng/mL以下、100ng/mL以下など)であることを例示することができ、また、最終濃度が50pg/mL以上(例えば、500pg/mL以上、5ng/mL以上、25ng/mL以上)であることを例示することができる。より好ましい濃度としては、5ng/mL以上100ng/mL以下の範囲を挙げることができる。

【0031】
上記インスリンとしては、哺乳動物のインスリン遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるインスリンとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのインスリン産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもののいずれを用いてもよい。インスリンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトインスリンや、マウスインスリンを好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するインスリンを用いることも好ましい。本発明の培地にインスリンを用いる場合のインスリンの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば1~100ug/mlの範囲や、5~20ug/mlの範囲を挙げることができる。

【0032】
上記トランスフェリンとしては、哺乳動物のトランスフェリン遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるトランスフェリンとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのトランスフェリン産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもののいずれを用いてもよい。トランスフェリンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトトランスフェリンや、マウストランスフェリンを好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するトランスフェリンを用いることも好ましい。本発明の培地にトランスフェリンを用いる場合のインスリンの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば0.55~55ug/mlの範囲や、2.75~11ug/mlの範囲を挙げることができる。

【0033】
上記亜セレン酸塩としては、亜セレン酸ナトリウムなどを好適に例示することができる。かかる亜セレン酸塩は市販のものを用いることができる。本発明の培地に亜セレン酸塩を用いる場合の亜セレン酸塩の含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば0.67~67ng/mlの範囲や、3.35~13.4ng/mlの範囲を挙げることができる。
なお、インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸塩をいずれも含む市販品として、Invitrogen社製のインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸混合液(ITS)を好適に例示することができる。

【0034】
上記ピルビン酸ナトリウムとしては、市販のものを用いることができ、例えばGIBCO RBL 社製のものを例示することができる。本発明の培地に亜セレン酸塩を用いる場合の亜セレン酸塩の含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば11~1100ug/mlの範囲や、55~220ug/mlの範囲を挙げることができる。

【0035】
上記抗酸化剤としては、N-アセチルシステイなどを好適に例示することができる。かかる抗酸化剤は市販のものを用いることができ、例えばN-アセチルシステインの場合はNacalai社製のものを例示することができる。本発明の培地に抗酸化剤を用いる場合の抗酸化剤の含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、例えばN-アセチルシステインの場合、好ましい最終濃度として10~1000uMの範囲や、50~200uMの範囲を挙げることができる。

【0036】
上記コレラ毒素としては、コレラ毒素(コレラエンテロトキシン、コレラトキシンとも呼ばれる)である限り特に制限されない。かかるコレラ毒素は市販のものを用いることができ、例えばWako社製のものを例示することができる。本発明の培地にコレラ毒素を用いる場合のコレラ毒素の含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば20~2000ng/mlの範囲や、100~400ng/mlの範囲を挙げることができる。

【0037】
上記核酸としては、リボヌクレオシドやデオキシリボヌクレオシドなどのヌクレオシドである限り特に制限されない。かかるヌクレオシドは市販のものを用いることができ、例えばSigma社製のものを例示することができる。本発明の培地にヌクレオシドを用いる場合のヌクレオシドの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい最終濃度として例えば10~1000uMの範囲や、50~200uMの範囲を挙げることができる。

【0038】
上記ビタミンとしては、ビタミンである限り特に制限されず、GIBCO RBL 社製等の市販品を用いることができる。ビタミンは、本発明の効果を妨げない範囲の濃度で用いることができる。なお、本発明のビタミンには、便宜上、公知のビタミン様物質も含まれる。

【0039】
上記セルロプラスミンとしては、哺乳動物のセルロプラスミン遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるセルロプラスミンとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのセルロプラスミン産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもののいずれを用いてもよい。市販のセルロプラスミンとしては、例えばSigma社製のものを例示することができる。セルロプラスミンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトセルロプラスミンや、マウスセルロプラスミンを好適に例示することができる。また、培養する大腸上皮幹細胞等が由来する哺乳動物種と同じ種類の哺乳動物に由来するセルロプラスミンを用いることも好ましい。本発明の培地にセルロプラスミンを用いる場合のセルロプラスミンの含有量は、大腸上皮幹細胞等の培養に使用し得る限り特に制限されないが、好ましい濃度として例えば3.8~380nMの範囲や、19~76nMの範囲を挙げることができる。

【0040】
上記血清としては、哺乳動物の血清である限り特に制限されず、ウシ胎仔血清(FCS)を好適に用いることができる。かかる血清は市販のものを用いることができ、例えばGibco社製や、Themo Scientific Hyclone社製のものを例示することができる。血清は、本発明の効果を妨げない範囲の濃度で用いることが好ましい。

【0041】
本発明の培地は、上記の任意13成分の他にも、任意成分を含んでいてもよい。かかる任意成分としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンなどの抗生物質や、Y-27632(Calbiochem(登録商標)、MERCK社製)などのRhoキナーゼ阻害剤や、コラーゲンなどの細胞外基質などを好適に例示することができる。

【0042】
本発明の培地の調製方法としては、上記の基本培地成分及び必須3成分の他、必要に応じて任意成分を、水やPBSなどの液体溶媒に配合させる方法や、基本培地成分を含有する液体培地に、上記の必須3成分や、必要に応じて任意成分を配合させる方法を例示することができる。

【0043】
2.大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞をインビトロで培養する方法
本発明の「大腸上皮幹細胞等をインビトロで培養する方法」(以下、単に「本発明の培養方法」とも表示する。)としては、本発明の培地と、細胞外基質とを用いて、大腸上皮幹細胞等を培養する工程Zを含んでいる限り特に制限されず、かかる細胞外基質としては、I型~VIII型の各種コラーゲンや、マトリゲルを例示することができ、中でも、肉腫細胞などの培養がん細胞が産生する物質を含んでおらず、哺乳動物へ移植した際の安全性が高い点で、コラーゲンを好適に例示することができ、中でも、移植により適した大腸上皮幹細胞等が選られうる点で、I型コラーゲン(コラーゲンI)をより好適に例示することができる。かかる各種コラーゲンやマトリゲルは市販のもの(例えば、Nitta Gelatin Inc.社製のコラーゲンや、BD bioscience社製のマトリゲル)を使用することができる。なお、マトリゲルは、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞から抽出した細胞外基質であり、ラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドジェンを主成分とし、さらに、TGF-β、インシュリン様成長因子、線維芽細胞増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子など、EHS肉腫細胞に自然に産生される他の増殖因子も含んでいる。

【0044】
本発明の培養方法によれば、血清培地を用いずとも、大腸上皮幹細胞等をインビトロで長期間(好ましくは1ヶ月間以上、より好ましくは3ヶ月間以上、さらに好ましくは6ヶ月間以上、さらにより好ましくは1年間以上)維持、増幅することができる。かかる大腸上皮幹細胞は、幹細胞性を維持しており、大腸上皮が傷害された哺乳動物の大腸へ投与すると、大腸上皮へ生着して、機能的及び組織的に正常で自己複製可能な大腸陰窩を形成する大腸上皮を構成することができる。また、本発明の培養方法によれば、手術検体のような大きな大腸組織でなくとも、大腸内視鏡検査時に得られる微小な大腸組織を初発材料として、安定的、かつ、再現性をもって大腸上皮幹細胞等を培養することができる。

【0045】
上記の工程Zに用いる大腸上皮幹細胞等は、哺乳動物由来の大腸上皮幹細胞等である限り特に制限されないが、哺乳動物の大腸組織から採取される大腸上皮幹細胞等を好適に例示することができ、中でも、かかる大腸組織から単離される大腸上皮幹細胞等をより好適に例示することができ、中でも、後述の「4.」に記載された単離方法により単離される大腸上皮幹細胞等をさらに好適に例示することができる。

【0046】
上記の工程Zにおける培養方法としては、本発明の培地と、細胞外基質とを用いて、大腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る方法である限り特に制限されないが、大腸上皮幹細胞等が増殖し得る条件下、本発明の培地と、細胞外基質と、大腸上皮幹細胞等とが共存した状態で、大腸上皮幹細胞等を培養する方法を例示することができ、中でも、大腸上皮幹細胞等が細胞外基質に接着した接着物や、大腸上皮幹細胞等が細胞外基質(好ましくはコラーゲン、より好ましくはI型コラーゲン)に包埋された包埋物を、本発明の培地中で培養する方法を好適に例示することができ、中でも、大腸上皮幹細胞等を細胞外基質溶液(好ましくはコラーゲン溶液、より好ましくはI型コラーゲン溶液)に懸濁した後、かかる懸濁溶液を半固形化(ゲル化、ゾル化など)させることによって、大腸上皮幹細胞等を細胞外基質に3次元的に包埋させたものを、本発明の培地中で培養する方法をより好適に例示することができ、中でも、後述の段落[0064]や段落[0075]に記載された培養方法を特に好適に例示することができる。なお、大腸上皮幹細胞等を細胞外基質に包埋させたものを培養すると、吸収上皮細胞や粘液産生細胞などの機能的な細胞が、生体内組織と同様の配置を示すオルガノイドと呼ばれる組織構造体が得られる点で特に好ましい。かかるオルガノイドは、哺乳動物の大腸へ投与あるいは移植した際に、腸疾患に対して優れた予防・治療効果を発揮することができる。

【0047】
上記の工程Zにおける培養条件としては、大腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る方法である限り特に制限されないが、培養温度として、例えば30~40℃の範囲内、好ましくは36~38℃の範囲内、より好ましくは37℃を好適に例示することができる。また、大腸上皮幹細胞等をより好適に維持又は増幅する観点から、培地交換や継代を適当な時期に行うことが好ましい。培地交換の頻度としては、大腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る限り特に制限されないが、例えば1~5日間経過毎、好ましくは3日間経過毎とすることができる。継代の頻度としては、大腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る限り特に制限されず、大腸上皮幹細胞等の集団(好ましくはオルガノイド)が大きくなってきたタイミングで適宜行うことができ、例えば、4~12日間経過毎、好ましくは6~10日間経過毎とすることができる。継代の方法としては、大腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る限り特に制限されず、細胞外基質から分離した大腸上皮幹細胞等を、新たな細胞外基質と共存させる方法を例示することができ、中でも、半固形化した細胞外基質(好ましくはコラーゲン)を用いている場合は、この細胞外基質を分解酵素(好ましくはコラゲナーゼなど)等により分解して分離した大腸上皮幹細胞等を、新たな細胞外基質に包埋させる方法を好適に例示することができ、中でも、以下の工程m~t:
工程m:本発明の培地を除去する工程;
工程n:大腸上皮幹細胞等を含む細胞外基質(好ましくはコラーゲン、より好ましくはI型コラーゲン)を採取する工程;
工程o:大腸上皮幹細胞等を含む細胞外基質を、細胞外基質の分解酵素(好ましくはコラゲナーゼ、より好ましくはコラゲナーゼXI)を含む緩衝液(好ましくはDMEM)中に含有させて、分解酵素が分解活性を発揮する条件下で酵素処理し、細胞外基質を分解する工程;
工程p:大腸上皮幹細胞等を含む細胞外基質を緩衝液(好ましくはHanks' Balanced Salt Solution(HBSS))で洗浄する工程;
工程q:大腸上皮幹細胞等をタンパク質分解酵素(好ましくはトリプシン)溶液中に含有させて、タンパク質分解酵素が分解活性を発揮する条件下で酵素処理し、大腸上皮幹細胞等を細胞毎に分散させる工程;
工程r:大腸上皮幹細胞等をDMEMで洗浄する工程;
工程s:洗浄した大腸上皮幹細胞等を、細胞外基質溶液(好ましくはコラーゲン溶液、より好ましくはI型コラーゲン溶液)に懸濁した後、かかる懸濁溶液を半固形化(ゲル化、ゾル化など)させることによって、大腸上皮幹細胞等を細胞外基質に3次元的に包埋させる工程;
工程t:かかる包埋物に、本発明の培地中を添加する工程;
を含む継代方法をより好適に例示することができ、中でも、後述の段落[0064]や段落[0076]に記載された継代方法を特に好適に例示することができる。

【0048】
本明細書における「大腸上皮幹細胞」としては、組織再生能を有する、大腸上皮幹細胞である限り特に制限されないが、Lgr5陽性(Lgr5)である大腸上皮幹細胞を好適に例示することができる。かかる大腸上皮幹細胞が幹細胞性を維持しているかどうかは、かかる大腸上皮幹細胞が組織再生能を有しているかどうか、すなわち、大腸上皮が傷害された哺乳動物の大腸へ、かかる大腸上皮幹細胞を投与した場合に、該大腸上皮幹細胞が大腸に生着して、大腸上皮組織を再生するかどうかを調べることによって確認することができる。

【0049】
3.腸疾患の予防・治療剤
本発明の「腸疾患の予防・治療剤」(以下、単に「本発明の予防・治療剤」とも表示する。)としては、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等を含有している限り特に制限されず、かかる腸疾患として具体的には、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患や、化学療法による腸管傷害や、放射線腸炎等を例示することができる。かかる本発明の予防・治療剤を投与すると、大腸上皮幹細胞等が大腸上皮に生着し、大腸上皮の傷害を予防・治療することができる。本明細書における「腸疾患の予防・治療効果」とは、腸疾患の予防効果、若しくは、腸疾患の治療効果、又は、腸疾患の予防及び治療効果を含み、腸疾患の予防効果としては、腸疾患の発症を予防する効果や、腸疾患の発症を遅延する効果などを含み、腸疾患の治療効果としては、腸疾患の症状を改善する効果や、腸疾患の症状の悪化を防止若しくは遅延する効果などを含む。

【0050】
本発明の予防・治療剤における大腸上皮幹細胞等としては、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等である限り特に制限されないが、中でも、より優れた腸疾患の予防・治療効果を得る観点から、オルガノイドを形成した大腸上皮幹細胞等を好適に例示することができ、中でも、オルガノイドを形成した大腸上皮幹細胞をより好適に例示することができる。また、拒絶反応を抑制する必要がなくなることから、本発明の予防・治療剤には、投与対象となる哺乳動物の大腸由来の大腸上皮幹細胞等を用いることが好ましい。

【0051】
本発明の予防・治療剤の投与対象としては、哺乳動物である限り特に制限されず、本明細書における哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができ、中でもヒトをより好適に例示することができる。

【0052】
本発明の予防・治療剤の投与方法としては、腸疾患を予防・治療し得る限り特に制限されないが、経腸投与、経静脈投与などを例示することができ、中でも、大腸への経肛門的注腸投与を好適に例示することができる。本発明の予防・治療剤の投与量としては、腸疾患の種類、症状の度合い、投与対象の体重、年齢等にもよるが、1×10~1×1010/kgの細胞(1~複数回に分けて投与してもよい)を挙げることができる。

【0053】
本発明の予防・治療剤の調製方法としては、特に制限されず、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等に、薬学的に許容される通常の担体、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、生理的食塩水等の水溶性溶剤、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等の等張化剤、ヒト血清アルブミン等の安定化剤、メチルパラベン等の保存剤、ベンジルアルコール等の局麻剤などの各種調剤用配合成分を配合する方法を例示することができる。また、本発明の予防・治療剤には、投与対象の大腸上皮への生着効率を向上させる観点から、I型~VIII型の各種コラーゲンやマトリゲルといった細胞外基質成分を、より好ましくはマトリゲルを、配合することが好ましい。この他、本発明の予防・治療剤には、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等の他に、他の腸疾患の予防・治療剤を併用することもできる。

【0054】
4.大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞の単離方法
本発明における「大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞の単離方法」(以下、単に「本発明の単離方法」とも表示する。)としては、以下の工程A~Dの工程をその順序で含んでいる限り特に制限されない。
工程A:大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む大腸組織を、哺乳動物の大腸から採取する工程;
工程B:コラゲナーゼ、ディスパーゼ及び還元剤を用いて、大腸組織を消化処理する工程;
工程C:消化処理した大腸組織の組織片を破砕処理する工程;
工程D:破砕処理した大腸組織について濃度勾配遠心法を適用して、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む画分を得る工程;

【0055】
かかる本発明の単離方法を用いると、哺乳動物の大腸組織から大腸上皮幹細胞等を効率よく単離することができ、また、かかる単離方法により単離される大腸上皮幹細胞等は、本発明の培養方法に適している。

【0056】
上記工程Aとしては、大腸上皮幹細胞等を含む大腸組織を、哺乳動物の大腸から採取する工程である限り特に制限されず、例えば、大腸内視鏡検査時の通常の組織検査に用いる鉗子を用いて、哺乳動物の大腸から大腸組織を採取する方法を好適に例示することができる。採取する大腸組織の量としては、特に制限されないが、径5~6mm程度の量の組織があれば、本発明の培養方法等に十分足りる。なお、上記工程Aの後であって、工程Bより前に、以下の工程u~wの工程をその順序でさらに含んでいることが好ましい。
工程u:採取した大腸組織を、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質を含む緩衝液(好ましくはHBSS)中、好ましくは、氷上で4℃に冷却されたかかる緩衝液中に浸す工程;
工程v:大腸組織を振盪して大腸組織を洗浄する工程、好ましくは、抗生物質入り緩衝液を入れ替えてから大腸組織を再度振盪して大腸組織を洗浄する工程;
工程w:洗浄した大腸組織を緩衝液から分離し、その大腸組織をミンチ状、細切れ状などに裁断する工程;

【0057】
上記工程Bとしては、コラゲナーゼ、ディスパーゼ及び還元剤を用いて、大腸組織を消化処理する工程である限り特に制限されず、上記コラゲナーゼとしてはコラゲナーゼXIを好適に例示することができ、上記還元剤としては、ジチオトレイトール(DTT)を好適に例示することができる。上記工程Bの好適な例として、コラゲナーゼXI、ディスパーゼ、DTT、及び、ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEMに、大腸組織を加えることによって、かかる大腸組織を消化処理する工程を挙げることができる。かかる消化処理は、コラゲナーゼやディスパーゼが酵素活性を発揮し得る温度(好適には37℃)で、振盪しながら行うことが、消化効率を向上させる観点から好ましい。

【0058】
上記工程Cとしては、消化処理した大腸組織の組織片を破砕処理する工程である限り特に制限されず、上記破砕処理の方法としては、大腸組織の組織片を、針付きのシリンジ(好ましくは6~21ゲージの範囲内の針が付いたシリンジ)を複数回通して破砕処理する方法を好適に例示することができる。なお、粉砕処理した大腸組織について、上記工程Dの処理を施す前に、その大腸組織に、ソルビトールを含有するDMEMを加えて遠心分離する工程を有することが好ましい。この場合は、遠心分離して得られたペレットを、工程Dにおける「破砕処理した大腸組織」として用いることができる。

【0059】
上記工程Dとしては、破砕処理した大腸組織について濃度勾配遠心法を適用して、大腸上皮幹細胞及び/又は大腸上皮細胞を含む画分を得る工程である限り特に制限されず、上記の濃度勾配遠心法としては、常法を用いることができ、例えば、破砕処理した大腸組織をパーコール液に懸濁させた後、遠心分離する方法などを好適に用いることができる。かかる濃度勾配遠心法で得られたペレットは大腸上皮幹細胞等(特に、大腸上皮幹細胞等を含む大腸陰窩)を豊富に含んでいるため、かかるペレットを、上記の大腸上皮幹細胞等を含む画分として好適に用いることができる。なお、かかるペレットについて、さらに以下の工程x及びyをその順序で含んでいることが好ましい。
工程x:工程Cで得たペレットを、ソルビトールを含有するDMEMに懸濁した後、メッシュ(好ましくはメッシュサイズ300μmのメッシュ)を通して粗大組織を除去する工程;
工程y:粗大組織を除去した大腸上皮幹細胞等を、ソルビトールを含有するDMEMに懸濁した後、遠心分離し、ペレットを洗浄する工程;

【0060】
本発明の単離方法の特に好適な態様として、後述の段落[0064]や段落[0074]に記載された単離方法を挙げることができる。

【0061】
5.その他
本発明の他の態様には、血清アルブミン、Wnt3a、及び、r-spondin-1の、大腸上皮幹細胞等のインビトロ培養用培地の製造における使用や、本発明の予防・治療剤を、哺乳動物に投与する工程を含む、腸疾患の予防・治療方法や、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等の、腸疾患の予防・治療のための薬剤の製造における使用や、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等を、哺乳動物の大腸に移植する方法や、本発明の培養方法を含む、哺乳動物の大腸に移植するための大腸上皮幹細胞等の製造方法や、本発明の培養方法で培養して得られる大腸上皮幹細胞等を、哺乳動物の大腸に移植する工程を含む、腸疾患の予防・治療方法なども含まれる。

【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
[マウス]
本実施例では、以下のマウスを用いた。
C57BL/6-Ly5.2 RAG-2ノックアウト(RAG2-/-)マウス(Taconic Farms社製又はCentral Laboratories for Experimental Animals社製);ニワトリβ-アクチンプロモーター及びサイトメガロウイルスエンハンサーの制御下でEGFPが発現するEGFPトランスジェニックマウス(Okabe, M., Ikawa, M., Kominami, K., Nakanishi, T. & Nishimune, Y. 'Green mice' as a source of ubiquitous green cells. FEBS Lett 407, 313-319 (1997));Lgr5-EGFP-IRES-CreERT2マウス(Barker, N., et al. Identification of stem cells in small intestine and colon1 by marker gene Lgr5. Nature 449, 1003-1007 (2007);Jackson LabよりStock No. 008875として購入可能);R26R-Confettiマウス(Snippert, H.J., et al. Intestinal crypt homeostasis results from neutral competition between symmetrically dividing Lgr5 stem cells. Cell 143, 134-144 (2010))
【実施例1】
【0064】
[大腸陰窩の単離及び3D培養のためのTMDUプロトコール]
大腸陰窩の単離は、7~9週齢の成体マウスを用いて以下の手順に従って行った。まず、大腸全体を回収し、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL、及びゲンタマイシン50μg/mLを含有するハンクス平衡塩溶液(HBSS)を用いて内腔内容物を洗い流した。なお、これらの抗生物質は、以下の工程で用いる全ての溶液に添加した。大腸組織をHBSS中で繰り返し洗浄し、小片に切り刻んだ後、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に1%FBSを添加した培地(完全DMEM)に、XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製)、ディスパーゼ0.4U/mL(Roche社製)及び1mMジチオスレイトール(DTT)を加えた培地12.5mLに懸濁した。かかる懸濁液を37℃で15分間振盪することにより、酵素反応処理を行った。未消化断片をさらに細かくするため、組織断片を18ゲージ針に10回通した。その後、完全DMEMを10mL加え、管を激しく振盪した後、重力下で1分間静置した。陰窩懸濁液の上部10mLを新しい管に移した後、残存ペレットを18ゲージ針にさらに5回通し、完全DMEMをさらに10mL加えた。この手順を5回繰り返し、懸濁中の遊離大腸陰窩を合わせて遠心分離した。遠心分離により得られた沈殿物を、30%パーコール(GE Healthcare社製)/HBSS溶液10mLに懸濁した後、860gで5分間遠心分離した。かかるパーコール密度勾配遠心分離法により、細胞破片、脂肪及び線維状物質のほとんどが溶液上部に分離していたことから、大腸陰窩を濃縮することができた。さらに、細菌又は単一の細胞をかかる大腸陰窩から除くため、2%D-ソルビトールを含有する完全DMEM10mLに上記大腸陰窩を再懸濁し、300gで3分間遠心分離した。遠心分離により得られた沈殿物を70μmのセルストレイナー(BD Bioscience社製)に通すことにより、細菌や単一の細胞など大きな物質を除去した。精製した大腸陰窩を遠心分離し、アドバンストDMEM/F12(Invitrogen社製)で洗浄した後、大腸陰窩数をカウントした。なお、上記のように精製した大腸陰窩を遠心分離することにより得られた沈殿物を、培養に用いた。
大腸陰窩の培養は、以下に示した「TMDUプロトコール」における培養方法を用いて行った。2000個の大腸陰窩をI型コラーゲン溶液(Nitta Gelatin Inc.社製)200μLに懸濁し、48ウエルプレートに載置した。コラーゲンの重合後、各ウエルに、1%BSA(Sigma社製)、30ng/mLのmWnt3a(R&D Systems社製)、500ng/mLのマウス(m)Rspo1(R&D Systems社製)、20ng/mLのmEGF(Peprotech社製)、50ng/mLのmHGF(R&D Systems社製)及び50ng/mLのmNoggin(R&D Systems社製)を含有する500μLのアドバンストDMEM/F12を加えた(TMDU培地)。この培地を2日毎に交換した。継代を行うため、XI型コラゲナーゼを含有するDMEMにおいて全ゲルを37℃で5分間消化し、回収したオルガノイドをBSA含有PBSで洗浄した。このオルガノイド沈殿物を2mMのEDTA及び0.5%BSAを含有するPBSに懸濁し、激しく振盪した。これにより脱凝集した大腸オルガノイド小塊をI型コラーゲン溶液と混合して継代培養に使用した。単一細胞から複数細胞よりなる細胞塊までの継代培養に用いる細胞塊の大きさは、顕微鏡下で観察しながらEDTA処理時間を調節した。細胞増殖後の最初の2日間、Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632を10μMで加えた。杯細胞の分化を誘導する場合には、γ-セクレターゼ阻害剤LY-411,575(100nM)で大腸オルガノイドを所定期間にわたり処理した。
【実施例1】
【0065】
[染色体解析]
カルノア固定液を用いて染色体核型解析を行った。継代手順と同様の方法で大腸オルガノイドから細胞を回収した。遠心分離後、75mM KCl溶液に細胞を再懸濁し、37℃で15分間インキュベートした。その後、遠心分離を行い、メタノール-酢酸(3:1)溶液に細胞を再懸濁することにより細胞を固定した。固定した細胞を含んだメタノール-酢酸(3:1)溶液をスライドグラス上に滴下し、風乾した後、DAPIで染色体を染色して顕微鏡観察を行った。全部で10の分裂中期の細胞について染色体数をカウントした。
【実施例1】
【0066】
[組織学的解析]
単離した大腸陰窩、成長中の大腸オルガノイド、及びレシピエントマウスの全大腸組織の画像は、PlanApo 4×0.2NA又はPlanApo 20×0.75NA対物レンズ(Nikon社製)及び位相差設定を備えた蛍光顕微鏡(BZ-8000、KEYENCE社製)を用いて取得した。また、大腸損傷組織上に移植された上皮画像のいくつかは、蛍光立体顕微鏡システムMVX10(Olympus社製)を用いて取得した。また大腸上皮切片の蛍光画像は、UplansApo 10×0.4NA又はUplansApo 20×0.75NA対物レンズ(Olympus社製)を備えた蛍光顕微鏡IX-71(Olympus社製)とDeltaVisionシステム(Applied Precision社製)を用いて取得した。組織学的及び免疫組織化学的解析を行うための凍結切片は、コラーゲンゲル中の組織及び大腸オルガノイドを4%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定した後、10%、15%及び20%のスクロースを含むPBS中で連続脱水し、凍結組織包埋剤(OCTコンパウンド、Tissue Tek社製)中で凍結することにより作製した。6μm厚さの凍結切片を、従来法のH&E染色法、アルシアンブルー染色法、及び免疫組織化学法を用いて解析した。
【実施例1】
【0067】
[透過型電子顕微鏡]
増殖中の大腸オルガノイドを含むI型コラーゲンゲルを、2.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1M PBSで2時間固定した後、0.1M PBS緩衝液中で4℃、一晩洗浄し、1%Oを含む0.1M PBSで2時間後固定を行い、その後段階希釈したエタノールで脱水し、Epon 812に包埋した。超薄切片(90nm)を銅グリッド上に回収し、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で二重染色した後、透過型電子顕微鏡(H-7100、日立株式会社製)を用いて解析した。
【実施例1】
【0068】
[リアルタイムイメージング]
リアルタイムイメージングはDeltaVisionシステムを用いて行った。顕微鏡ステージにガラス底の培養皿を設置し、CO5%及び空気95%からなるプレミックスされた加湿性ガスが持続注入されたチャンバーで上記培養皿を覆い、さらにこれら全体を37℃に設定した温度制御チャンバーで覆った。リアルタイム画像として、20分間隔で微分干渉(DIC)画像及び蛍光画像を取得した。これらの画像データは、softWorx(Applied Precision社製)で処理し、必要に応じてAdobe(登録商標) Photoshop(登録商標) Elements 7.0(Adobe社製)を用いて画像編集を行った。
【実施例1】
【0069】
[半定量的RT-PCR]
TRIzol試薬(Invitrogen社製)を用いて全RNAを単離し、かかる全RNA1μgを用いて21μL反応系でcDNAを合成した。cDNA1μLを用いて25μL反応系でPCRによりDNAを増幅した。なお、PCRに用いたプライマー配列及び半定量PCRの条件を以下の表1に示す。PCR産物をアガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで染色した後、ImageQuant TL system(GE Healthcare社製)で視覚化した。
【実施例1】
【0070】
【表1】
JP0006238445B2_000002t.gif
【実施例1】
【0071】
[単一Lgr5細胞のソーティング及びHubrechtプロトコール(以下「HIプロトコール」という)による培養]
Lgr5-EGFP-IRES-CreERT2マウスと交配させたR26R-Confettiマウスにタモキシフェン5mgを注入し、cre誘導の3日後に大腸陰窩を単離した。上皮細胞をTrypLE expres(Invitrogen社製)を用いて37℃で2時間解離し、20μmの細胞ストレイナー(Celltrix社製)に通し、PBSで洗浄し、MoFlo(DakoCytomation社製)で解析した。前方散乱、側方散乱、及びパルス幅パラメータにより細胞集団をゲーティングし、ヨウ化プロピジウム又は7-ADD(eBioscience社製)に対するネガティブ染色で死細胞を排除した。EGFP及びRFPに二重陽性を示す細胞をソーティングし、マトリゲル(BD bioscience社製)に包埋し、96ウエルプレートに播種した。ペニシリン/ストレプトマイシン、10mMのHEPES、Glutamax、1×N2、1×B27(全てInvitrogen社製)及び成長因子(EGF50ng/mL、noggin100ng/mL、R-spondin1μg/mL)を添加したアドバンストDMEM/F12をWnt3a条件培養液で1:1に希釈し、大腸陰窩培養培地(Hubrecht培地)として使用した。アノイキス(Anoikis)を防ぐため、最初の2日間はROCK阻害薬であるY-27632(10μM)を含めた。2日毎に成長因子を加え、4日毎に培地全体を交換した。
【実施例1】
【0072】
[移植実験]
移植用のEGFP細胞として、大腸組織から単離した細胞をTMDUプロトコールにおける培養方法に基づき5日又は8日間培養したものを用いた。単一のLgr5細胞由来大腸オルガノイドの移植用として、ソーティングしたEGFP/RFP細胞をHIプロトコールに基づき5~10週間増殖させた後、Recovery TM cell culture freezing medium(GIBCO社製)中で凍結保存した。かかる細胞を凍結解凍して用いる場合、少なくとも5週間HI(Hubrecht)プロトコールに基づいて培養するとともに、移植の1週間前にはTMDUプロトコールにおける培養方法に変更して培養を行った。急性大腸炎の誘導は、3.0%DSS(分子量10,000;Ensuiko Sugar Refining Co.社製)が溶解した飲料水を、RAG2-/-マウスに5日間(1~5日目)給餌することにより行った。大腸炎の重篤度の評価は、マウスの体重を測定することにより行った。DSS投与開始から7日後及び10日後、I型コラーゲンゲルからドナー大腸オルガノイドを回収し、EDTAを用いて細胞間接着を解離させ、BSA含有PBSを用い、継代手順と同様にして洗浄した。約500個のオルガノイドから得られる量に相当する細胞小塊をPBSで希釈したマトリゲル(1:20)200μLに再懸濁した。この細胞懸濁液を、シリンジと長さ4cm及び直径2mmの薄型弾力性カテーテルとを用いて大腸内腔に注入した。注入後、内腔内容物が直ちに排出されるのを防ぐため、肛門縁を6時間接着した。10日目の移植以降は、屠殺して解析するまでの間、マウスを通常通り維持した。
【実施例1】
【0073】
[テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)-デキストラン透過アッセイ]
透過性プローブとして用いられている非代謝性高分子のTRITC-デキストラン(分子量4.4kDa;Sigma社製)を投与し、腸透過性を評価した。屠殺4時間前の移植マウス及び偽移植マウスにTRITC-デキストラン(4mg/体重10g)を、チューブを用いて経口的に消化管内投与した。屠殺時に心穿刺により全血を取得し、EGFP移植片の有無について大腸組織を調べた。TRITC-デキストラン測定は、TRITC-デキストランを含むPBS溶液の連続希釈液を標準曲線として用い、ARVO MX(PerkinElmer社製)を用いて2回ずつ行った。
【実施例1】
【0074】
[ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法]
(1)ヒト大腸上皮幹細胞の単離法
1)大腸内視鏡検査施行時に通常の組織検査施行と同様の鉗子を用い、径5~6mm程度のヒト大腸組織を採取した。
2)抗生物質(antibiotics、以下Abと略す;100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシン、50mg/mL ゲンタマイシン)を含むHBSSをチューブに入れて、あらかじめ氷上で4℃に冷やしておいたものに、直ちにヒト大腸組織を移した。
3)4℃の低温を保ったまま、速やかに内視鏡室から研究室へ移送した。
4)ヒト大腸組織をHBSS+Abで2回、チューブを震盪し洗浄した。
5)ペトリ皿上へヒト大腸組織を移し、HBSS+Ab液を取り除きながら、カミソリ刃で細切した。
6)細切断したヒト大腸組織を、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に1%FBSを添加した培地(完全DMEM)に、XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製)、ディスパーゼ0.4U/mL(Roche社製)及び1mMジチオスレイトール(DTT)を加えた培地12.5mLに懸濁した後、50mLファルコンチューブ(BD社製)に移した。
7)37℃で震盪させながら7分間消化処理を行なった。
8)消化処理後、8G針付き10mLシリンジで10回さらに細切した。
9)2%D-ソルビトールを含有する血清(-)DMEM+Ab20mLを加え、1180rpmで3分間遠心処理した。
10)得られた沈殿物ペレットを、30%パーコール(GE Healthcare社製)/HBSS溶液10mLに懸濁した後、15mLチューブへ移し、2000rpmで5分間遠心した。
11)得られた沈殿物ペレットを、2%D-ソルビトールを含有する血清(-)DMEM+Ab10mLに懸濁した後、300μmメッシュを通し粗大組織を除去し、15mLのstemfullチューブ(住友ベークライト社製)に回収した。
12)血清(-)DMEM+Ab10mLを加え、1500rpmで3分間遠心する洗浄操作を2回繰り返した。
13)得られた大腸陰窩数をカウントした。
【実施例1】
【0075】
(2)ヒト大腸上皮幹細胞の培養法
1)培養プレート(24ウエル)の1ウエルあたりに適量の大腸陰窩が分配されるよう、I型コラーゲン溶液(新田ゼラチン社製)に混和した。
2)1ウエルに対して細胞-I型コラーゲン溶液の混合液50μLを、培養皿の中央にドーム状の形状になるよう滴下した。
3)37℃で30分間静置し、コラーゲンのゲル化を確認したら培地(下記に示す)500μLを入れた。
4)培地交換は、3日おきに行なった。
【実施例1】
【0076】
(3)ヒト大腸上皮幹細胞の継代維持法
1)6-10日毎に、大腸オルガノイドが大きくなったタイミングで継代を行なった。
2)細胞を含むゲルを破壊しないように周囲の培地を完全に吸引した。
3)2mLピペットを用いてゲルを吸引しながら培養皿から剥がし、15mLのstemfullチューブに回収した。
4)血清(-)DMEM+XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製、c4785、130μL/1000μL)を加えた。
5)37℃で5分間振盪してコラーゲンゲルを消化処理した。
6)HBSS10mLで1回洗浄し、2000rpmで3分間遠心処理した。
7)Trypsin/EDTA(GIBCO社製)3mLを加えて、37℃で5分間振盪した。
8)顕微鏡で観察しながら、大腸オルガノイドが細胞クラスターに分散されるまで3-5回振盪した。
9)血清(-)DMEM10mLで2回洗浄し、2000rpmで3分間遠心処理した。10)I-A型コラーゲン溶液50μL/ウエルで混和し、コーティーング済み24ウエル培養皿に45μLずつ培養皿の中央にドーム状に播種した。
11)37℃で30分間培養し、コラーゲンがゲル化していることを確認したら培養液500μLを加えた。
12)培地交換は、3日おきに行なった。
【実施例1】
【0077】
(4)培地
ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法における培地として、以下の表2記載の組成の培地などを用いた。
【実施例1】
【0078】
【表2】
JP0006238445B2_000003t.gif
【実施例1】
【0079】
[統計解析]
実験データは平均値±SEMで表す。統計解析は、Paired studentT検定又はMann-Whitney U検定により、それぞれのグループ間を比較して行った。比較における統計的有意性は、P<0.05とした。
【実施例1】
【0080】
[結果]
酵素(Booth, C., Patel, S., Bennion, G.R. & Potten, C.S. The isolation and culture of adult mouse colonic epithelium. Epithelial Cell Biol 4, 76-86 (1995))、還元剤(Whitehead, R.H., Demmler, K., Rockman, S.P. & Watson, N.K. Clonogenic growth of epithelial cells from normal colonic mucosa from both mice and humans. Gastroenterology 117, 858-865 (1999))及び機械的破砕により、成体マウスの大腸組織から、非上皮組織成分をほとんど含まない大腸陰窩を単離することができた。かかる大腸陰窩の遺伝子発現解析を行ったところ、終末分化マーカー遺伝子(MUC2、CAII及びCgA)を発現する細胞及びLgr5細胞の両者を含むE-カドヘリン陽性上皮細胞が回収されていることや、α-SMA陽性筋線維芽細胞等の非上皮細胞は効率的に除去されることが明らかになった。
【実施例1】
【0081】
次に、大腸陰窩細胞の培養方法について検討を行った。小腸細胞を培養するためには、Rspo1(R-spondin1)、Noggin及びEGFの計3因子が必要不可欠であることが知られている(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))。そこで、かかる3因子を用いて大腸陰窩細胞の培養を試みたが、大腸陰窩細胞を培養維持することはできなかった。そのため、小腸細胞の培養方法に、以下の1)~4)の内容を組み込み、培養方法の改良を行った。1)大腸陰窩細胞をI型コラーゲンゲルに三次元的に包埋するとともに、無血清培地で培養を行う。2)Wntシグナル経路を活性化し、胃上皮のインビトロでの増幅に不可欠なWnt3a(Barker, N., et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and build long-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36 (2010))を用いる。3)大腸上皮細胞等の種々の細胞型の増殖を調節する間充織由来の多面発現因子であることが知られている(Kanayama, M., et al. Hepatocyte growth factor promotes colonic epithelial regeneration via Akt signaling. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 293, G230-239 (2007)、Tahara, Y., et al. Hepatocyte growth factor facilitates colonic mucosal repair in experimental ulcerative colitis in rats. J Pharmacol Exp Ther 307, 146-151 (2003))、肝細胞増殖因子(HGF)を用いる。4)長期細胞培養に必要なB27サプルメント(Barker, N., et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and build long-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36 (2010))の一成分であるウシ血清アルブミン(BSA)を用いる。すなわち、小腸細胞の培養に用いる3因子(mRspo1、mNoggin及びmEGFの他に、mWnt3a、mHGF及びBSAを培地に添加し、かかる培地を用いて大腸陰窩細胞を培養したところ(本発明の培養方法である、「TMDUプロトコール」における培養方法)、大腸陰窩細胞は健全に増幅することが明らかとなった。
また、「TMDUプロトコール」における培養方法を用いて大腸陰窩細胞の増殖の様子を観察すると、大腸陰窩細胞が急速に増殖し、閉鎖内腔空間を有する球形の嚢胞構造を形成し、オルガノイドを形成することが明らかとなった(図1a)。また、大腸陰窩細胞を培養維持する上で、Wnt3a、Rspo1及びBSAが必要かどうか検証したところ、これらいずれの1つを欠いた場合、大腸陰窩細胞を培養維持できないことが明らかとなった(図2a)。この結果は、Wnt3a、Rspo1及びBSAの3因子が、大腸陰窩細胞の培養維持に必要不可欠であることを示している。他方、Noggin、EGF及びHGFの3因子は、必須ではないものの、それぞれが大腸陰窩細胞の細胞増殖を促進した(図2b)。
【実施例1】
【0082】
次に、本発明の培養方法により形成した大腸オルガノイドについて、細胞レベルの詳細な解析を行った。大腸オルガノイドは、単層細胞からなり、またE-カドヘリンに対する抗体を用いて染色すると陽性を示したことから、本発明の大腸オルガノイドは組織学的に上皮細胞の特徴を有していることが明らかとなった(図1b、左から1番目)。なお、大腸オルガノイドの基底側は常に外側に面していた(図1b、一番左)。また、増殖細胞の指標となる抗Ki67抗体染色で検出される細胞が多く観察された(図1b、左から2番目)。この結果は、本発明の大腸オルガノイドには活発に増殖する細胞が豊富に存在していることを示している。また、大腸オルガノイドにおいて、終末分化を示す細胞が存在するかどうか検証するために、アルシアンブルー染色(杯細胞を染色)、抗CgA抗体(腸内分泌細胞を検出)、抗CAII抗体(成熟大腸細胞を検出)及び抗Cox1抗体(タフト細胞を検出(Gerbe, F., et al. Distinct ATOH1 and Neurog3 requirements define tuft cells as a new secretory cell type in the intestinal epithelium. J Cell Biol 192, 767-780 (2011))を用いて染色を行ったところ、アルシアンブルー染色(図1b、左から3番目)、抗CgA抗体(図1b、右から3番目)、抗CAII抗体(図1b、右から2番目)及び抗Cox1抗体(図1b、右から1番目)で検出される細胞が存在していることが明らかとなった。この結果は、本発明の大腸オルガノイドには、終末分化した大腸細胞が存在することを示している。また、大腸オルガノイドを、透過型電子顕微鏡を用いて解析したところ、微繊毛(図1c)や細胞間接着装置複合体(図1d)など上皮細胞の特徴が明らかとなり、かつこれら細胞が単層に配列し内腔を囲んでいることが明らかとなった。また、有糸分裂細胞に特徴的な凝縮した染色体を有し、活発に増殖する細胞が存在していた(図1e)。さらに、半透明の分泌小胞を含む杯細胞(図1f)や小さな高電子密度顆粒を有する腸内分泌細胞(図1g)など終末分化細胞が存在していた。これら図1e~gに示す結果は、図1bで示した免疫組織染色の結果を支持している。
【実施例1】
【0083】
次に、破壊したオルガノイドから得られる大腸陰窩細胞がオルガノイド構造を再構築するかどうかを検証した。大腸オルガノイドを細胞塊又は単一の細胞になるまで破壊した後、新鮮なコラーゲンゲルに1:2(細胞:コラーゲン)の割合で包埋して培養を行うと、嚢胞構造を有するオルガノイドが再度形成された。また、小腸細胞の継代培養で示されているように(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))、Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632(Watanabe, K., et al. A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells. Nat Biotechnol 25, 681-686 (2007))により大腸細胞の再播種効率が向上した。さらに、Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632を用いた継代培養を週1回、計6ヶ月以上培養を行っても、細胞はその特徴(図1h)及び核型(図1i)を変えず、大腸オルガノイドを増幅することができた。
【実施例1】
【0084】
次に、大腸オルガノイドにおける幹細胞の維持について調べた。継代培養1、8及び60日目に細胞を回収し、大腸上皮幹細胞マーカーであるLgr5 mRNAの発現を解析した。その結果、Lgr5 mRNAの発現は、培養後少なくとも60日目まで検出され、特に8日目から顕著に亢進していた(図3a)。また、CgA遺伝子及びCAII遺伝子の発現レベルは、大腸陰窩細胞の培養直後から変化しなかったが、杯細胞マーカー遺伝子として知られているMUC2遺伝子の発現レベルは、大腸陰窩細胞の培養により抑制された(図3a)。また、Wnt3a、Rspo1及びBSAの組合せによりLgr5遺伝子発現が誘導された。この結果は、Wntシグナル伝達が、幹細胞性の維持に重要であることを示している(図3b)。さらに、Lgr5遺伝子の発現は、BMPシグナル伝達のアンタゴニストであるNoggin(Haramis, A.P., et al. De novo crypt formation and juvenile polyposis on BMP inhibition in mouse intestine. Science 303, 1684-1686 (2004))によってさらに促進された(図3b)。この結果は、BMPシグナル伝達が幹細胞性の維持に拮抗することを示している。また、Notch経路は、前駆細胞(Fre, S., et al. Notch signals control the fate of immature progenitor cells in the intestine. Nature 435, 964-968 (2005)、van Es, J.H., et al. Notch/gamma-secretase inhibition turns proliferative cells in intestinal crypts and adenomas into goblet cells. Nature 435, 959-963 (2005))及び幹細胞(van Es, J.H., de Geest, N., vande Born, M., Clevers, H. & Hassan, B.A. Intestinal stem cells lacking the Math1 tumour suppressor are refractory to Notch inhibitors. Nat Commun 1, 1-5 (2010))の分泌系列への分化を抑制することで細胞運命決定に関与することが知られている。そこで、Notch経路が培養大腸オルガノイドにおける幹細胞性の維持に関与しているかどうかについて調べた。Notchシグナル伝達の阻害剤であるγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)LY-411,575(Wong, G.T., et al. Chronic treatment with the gamma-secretase inhibitor LY-411,575 inhibits beta-amyloid peptide production and alters lymphopoiesis and intestinal cell differentiation. J Biol Chem 279, 12876-12882 (2004)、Okamoto, R., et al. Requirement of Notch activation during regeneration of the intestinal epithelia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 296, G23-35 (2009).)で本発明の大腸オルガノイドを処理したところ、ほとんどの細胞が杯細胞へ分化し(図3c、左)、MUC2遺伝子の発現亢進と、その反対にLgr5遺伝子の発現低下が認められた(図3c、右)。この結果は、本発明の大腸オルガノイドにおける幹細胞性の維持には、Notchシグナルが関与していることを示している。
【実施例1】
【0085】
次に、本発明の大腸オルガノイドで認められるLgr5 mRNAレベルの増大が、幹細胞数の増加によるものか、あるいは個々の幹細胞におけるLgr5遺伝子発現レベルの上昇によるものかについて調べた。まず、EGFP及びタモキシフェン誘導性CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に組み込まれた、Lgr5-EGFP-ires-CreERT2マウス(Barker, N., et al. Identification of stem cells in small intestine and colon by marker gene Lgr5. Nature 449, 1003-1007 (2007))から大腸陰窩細胞を単離し、かかる大腸陰窩細胞が大腸オルガノイドを形成する様子をリアルタイムイメージングで解析した。Lgr5プロモーターによって誘導されるEGFPの発現をEGFPの蛍光(以下、単に「EGFPの発現」、又は「EGFPのシグナル」という)によって検出したところ、大腸陰窩細胞単離直後(1日目の0h)には大腸陰窩の限定された領域でEGFPの発現が僅かに認められ、その後数日間はEGFPの発現はほとんど検出されなかったが、5日目(128h)頃から、EGFPのシグナルが認められ、その後数日間にわたり大腸オルガノイドの複数の領域でEGFPの強いシグナルが認められるようになった(図3d)。この結果は、EGFPを発現する細胞、すなわちLgr5細胞が増殖していることを示している。さらに個々の細胞を検出できる解像度で詳細に解析するために、大腸陰窩細胞培養後6日目にオルガノイド連続切片を作製し、かかる切片におけるEGFPのシグナルを検出したところ、複数の領域に複数のEGFP細胞が認められ、これらが構造全体の40~50%の細胞を占めていたことが明らかとなった。この結果は、Lgr5細胞が増殖していることを示す、上述のリアルタイムイメージングの結果を支持している。重要な点として、個々のオルガノイドにおけるEGFP細胞の数は大きく異なっていたことが挙げられる。この結果は、何世代にもわたる継代の間に、Lgr5プロモーター-EGFP遺伝子座は抑制(サイレント化)する傾向にあることを示唆しているが、一方で野生型(wt)プロモーター-Lgr5対立遺伝子の発現は一定レベルに保たれていた(図3a、b)。同様の現象は、小腸オルガノイドでも認められた。以上の結果は、大腸Lgr5幹細胞は、小腸Lgr5幹細胞(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))と同様に、インビトロで自己複製により増殖できることを示している。
【実施例1】
【0086】
次に、インビトロで培養した本発明の大腸オルガノイド由来の幹細胞(以下、単に「本発明における大腸上皮幹細胞」という)が、インビボで大腸上皮を再び再生しうるかどうかを調べた。まず、ヒトにおける炎症腸疾患(IBD)に類似した大腸炎モデルマウスを作製した(Wirtz, S., Neufert, C., Weigmann, B. & Neurath, M.F. Chemically induced mouse models of intestinal inflammation. Nat Protoc 2, 541-546 (2007))。具体的には、免疫機能を低下させたRAG2-/-マウスに、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)含有水を5日間給餌することにより、大腸粘膜に化学物質起因性炎症を惹起させた。かかるマウスが、体重減少、血便及び下痢を特徴とする急性大腸炎を発症し、特に大腸の最遠位部、すなわち肛門付近に顕著な上皮損傷が認められることを確認した。次に、大腸上皮へ移植するために、注腸によって本発明における大腸上皮幹細胞を大腸炎症組織に送達するという簡便かつ独特のアプローチを考え、それを具体化した移植ストラテジーを考案した(図4a)。ここで、大腸炎モデルマウス由来の大腸陰窩と移植片(本発明における大腸上皮幹細胞)とを区別するため、EGFP発現トランスジェニックマウス(Okabe, M., Ikawa, M., Kominami, K., Nakanishi, T. & Nishimune, Y. 'Green mice' as a source of ubiquitous green cells. FEBS Lett 407, 313-319 (1997))をドナーマウスとして用いた。RAG2-/-マウスのDSS投与開始から7日後及び10日後、EGFPドナーマウス由来の大腸オルガノイドを小断片に解離し、本発明における大腸上皮幹細胞をマトリゲル含有PBSに懸濁した後、大腸炎モデルマウス(以下、「レシピエント」、又は「レシピエントマウス」ともいう)の大腸内に注入した。
【実施例1】
【0087】
2回目の移植から6日後(DSS投与開始から16日後)では、本発明における大腸上皮幹細胞を移植したレシピエントマウスは、移植しなかったレシピエントマウスと比べ、大腸の上皮損傷レベルの低下が認められたものの、依然として遠位大腸の浮腫状領域に囲まれた粘膜欠損が認められた(図4b)。興味深いことに、移植を受けたレシピエントでは、主に上記陥凹病変部において複数のEGFP(本発明における大腸上皮幹細胞を示す)領域が境界の明瞭な区画として観察された(図4b)。この結果は移植した本発明における大腸上皮幹細胞が損傷した粘膜に付着したことを示唆している。その裏付けとして、DSSを投与しなかったRAG2-/-マウスを用いた場合、大腸のいかなる部位にも上記EGFP領域は認められなかった。そこで、移植した本発明における大腸上皮幹細胞がレシピエントの損傷した粘膜に付着しているかどうか組織学的に詳細に解析を行ったところ、EGFP細胞は、陰窩構造を保持している損傷度の低いレシピエント組織(図4c下図、矢頭)間に存在する、大腸上皮が欠損した損傷粘膜を覆っていることが示された。また、EGFP細胞は、平坦なシート状配列(図4c、上図、白抜きの細い矢印)、又は大腸陰窩に似た僅かに陥入した構造(図4c、上図、白抜きの幅広矢印)を形成した。
さらに、EGFP細胞には、損傷部位の端部でレシピエントの上皮と結合するものや(図4d、白抜き矢頭及び白矢頭)、レシピエント大腸上皮がない領域に付着するものが認められた(図4e、白抜き矢頭及び白矢頭)。これらの結果は、外因的に供給された本発明における大腸上皮幹細胞は、種々のパターンをもってレシピエントの大腸上皮損傷を補うことができることを示している。また、本発明における大腸上皮幹細胞の移植を受けたレシピエントマウスは、偽移植されたマウスよりも体重が早く回復することが示された(図4f、12、13及び14日目;p<0.05)。この結果は、本発明における大腸上皮幹細胞は、大腸上皮の損傷をレスキューすることを示すとともに、急性大腸炎の回復を促進することを示している。
【実施例1】
【0088】
次に、本発明における大腸上皮幹細胞をレシピエントへ移植し、4週間目に大腸上皮を解析したところ、管状EGFP陰窩からなる局所的領域が認められた(図5a)。この結果は、本発明における大腸上皮幹細胞由来のEGFP細胞が、大腸の遠位末端の上皮損傷領域で生着した後に4週間わたり生存していることを示している。また、EGFP細胞が、周囲のレシピエント由来細胞(EGFP細胞)と同様に、深い陥入を有する成熟陰窩構造をもつ単層上皮を形成することが組織学的に示された(図5b、左)。特記すべき点として、EGFP細胞を含む陰窩は、その陰窩内のすべての細胞がEGFP細胞となっていることが挙げられる。これらの結果は、インビトロで培養した本発明における大腸上皮幹細胞は、再び体内に戻した後の移植後大腸上皮においても、大腸上皮幹細胞として機能していることを示唆している(図5b、右)。また、免疫組織染色を行った結果、EGFP陰窩の下部に局在する抗Ki67抗体で陽性染色を示す細胞は、近傍のレシピエント由来のEGFP陰窩で抗Ki67抗体陽性染色を示す細胞と同様の分布を示すことから、移植片内の細胞が活発に増殖していることが明らかとなった(図5c、左から1番目)。さらに、組織の連続切片を用いた解析から、ドナー由来EGFP陰窩には、あらゆる終末分化細胞、すなわち杯細胞(図5c、左から2番目)、腸内分泌細胞(図5c、左から3番目)、成熟大腸細胞(図5c、右から2番目)及びタフト細胞(図5c、右から1番目)が含まれていたことが明らかになった。これらの結果は、レシピエントマウスにおいて、組織常在幹細胞が消失した領域に、移植した本発明における大腸上皮幹細胞入れ替わり生着することでその欠損を補充したことを示している。さらに興味深いことに、大腸組織から単離した直後の大腸上皮細胞をレシピエントマウスに導入した場合に比べ、大腸上皮細胞を本発明における大腸上皮幹細胞培養で増幅した後に移植した方が、移植効率(EGFP細胞領域の広さで評価)が優位に高いことが示された(p<0.05;Mann-Whitney U test)。この結果は、インビトロで幹細胞を増やすことが可能な本発明における大腸上皮幹細胞を用いると、移植効率が高まることを示唆している。さらに、マトリゲル含有大腸オルガノイド懸濁液を移植したレシピエントマウスでは、PBSに懸濁した大腸オルガノイドを移植したレシピエントマウスと比べ、移植効率は上昇していた(p<0.05;Mann-Whitney U test)。この結果から、マトリゲルなどの細胞外基質成分を本発明における大腸上皮幹細胞と同時に移植に用いると、本発明における大腸上皮幹細胞の損傷部位への接着、や移植過程における早期生着が促進されるなどの、何らかの作用が生じ、移植効率が向上すると考えられる。
【実施例1】
【0089】
さらに、本発明における大腸上皮幹細胞を移植し、生着させた大腸上皮が、正常なバリア機能を有する上皮の完全性を備えているかを確認するために、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))及び偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)のそれぞれに対して、上皮透過性試験用のプローブであるテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)共役デキストラン(TRITC-デキストラン)を腸内投与し、TRITC-デキストランの経粘膜輸送について調べた。この実験は、分子量の大きいデキストランが正常な腸上皮から吸収されないのに対し、腸上皮に炎症などの異常があると、細胞の間隙から吸収されることにより血中のTRITC-デキストラン値(血中TRITC値)が上昇する性質を利用している。図5dの右のグラフには、DSSを1日目から5日目まで投与し、DSS投与開始から6日目のDSS投与マウス(DSS(+))における血中TRITC値と、DSSを投与していないコントロールマウス(DSS(-))における血中TRITC値を示す。DSS(+)では、DSS(-)と比較して、血中TRITC値が有意に上昇していることが示されている。このことは、この実験系が腸上皮のバリア機能の状態を判別できることを表している。
一方、図5dの左のグラフには、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))と、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)の血中TRITC値をそれぞれ示す。いずれの値も、DSS投与の開始から38日目であって、移植あるいは偽移植の開始から既に4週間経過後のものである。移植から4週間経過後という時期は、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)では、内因性の大腸上皮幹細胞により、大腸上皮が既に再生されている時期に相当する。図5dの左のグラフの結果から、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))の血中TRITC値は、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)と有意な差が認められないことが明らかとなった。このことは、本発明における大腸上皮幹細胞が移植された大腸粘膜が、デキストランなどの大きな分子を透過させないという上皮バリア機能に重要な上皮の完全性(epithelial integrity)を維持していることを示している。すなわち、これらの結果は、本発明における外来性の大腸幹細胞等も、内因性の大腸上皮幹細胞と同様に、生体内で増殖し、正常なバリア機能を有する上皮の完全性を備えることができることを示している。なお、大腸上皮幹細胞を移植しても、必ずしも全例で生着しないため、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))では、開腹して大腸を観察し、本発明における大腸上皮幹細胞由来のEGFP陽性移植片が確認された固体のみを選別して、図5dの左のグラフにおける血中TRITC値の統計処理に用いている。
【実施例1】
【0090】
次に、単一の大腸上皮幹細胞から大腸オルガノイドを作製し、レシピエントマウスへ移植する実験を行った(図6a)。このためまず、単一の大腸上皮幹細胞に由来する子孫細胞を追跡及び視覚化するため、Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2マウスとR26R-Confettiレポーターマウス(Snippert, H.J., et al. Intestinal crypt homeostasis results from neutral competition between symmetrically dividing Lgr5 stem cells. Cell 143, 134-144 (2010))とを交配させた後、得られた子孫マウスにタモキシフェン誘導型Creリコンビナーゼによる組換え反応を誘導した。この結果、Lgr5幹細胞において4種の蛍光タンパク質(RFP、CFP、GFP及びYFP)のいずれかが発現し、かつその子孫細胞すべてで蛍光蛋白発現が維持することとなる。かかる組換え反応後のLgr5幹細胞の中から、RFP発現Lgr5幹細胞を単離した。具体的には、Creリコンビナーゼによる組換え反応を行って3日後、マウスの大腸陰窩を単離し、単一の細胞になるように調製した後、EGFPの蛍光(Lgr5ノックイン対立遺伝子由来)及びRFPの蛍光(R26R-Confetti対立遺伝子由来)が検出されるLgr5-EGFP/Confetti-RFP幹細胞をソーティングした。かかる大腸上皮幹細胞は、マウス一匹から100個得ることができ、割合としては、全細胞の0.02%以下であった(図6b)。
【実施例1】
【0091】
上記ソーティングにより得られた大腸上皮幹細胞を、単一の細胞になるように、限界希釈によりウエルに撒いた後(100細胞/96ウエル)、「Hubrecht」プロトコール(一般的に小腸上皮幹細胞プロトコールとして知られている方法(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))を、単一の大腸上皮幹細胞を増殖することができるように修正したもの)を用い、大腸上皮幹細胞の培養を行った(詳細については、上記段落[0072]を参照)。かかる条件下で、単一の大腸上皮幹細胞から増幅した4個の大腸オルガノイドが観察された。このプレーティング効率は、小腸上皮幹細胞で観察されたものと同等である。これらのオルガノイド中の細胞は全てRFPであり、ソーティングする前のR26R-Confetti遺伝子座での最初の組換えを反映していた(図6c)。EGFPのシグナル(Lgr5プロモーターの発現レベルを検出)は、培養開始から数日後に検出されたが(図6c)、経時的に検出できなくなり、この結果は、上述のとおりLgr5プロモーター-EGFP遺伝子座のサイレント化を反映していると考えられる。また、単一の大腸上皮幹細胞に由来するRFPオルガノイドは、連続継代培養を経て指数関数的に増殖し、10週間目を過ぎると100ウエルを上回り、その後、凍結保存した。かかる細胞を解凍し、移植に用いる前に「TMDUプロトコール」における培養方法により細胞培養を行った。約500個の大腸オルガノイドから得た本発明における大腸上皮幹細胞を、上記[0072]に示す方法でレシピエントマウスの大腸内へ注入した。移植4週間後の解析結果から、レシピエント大腸上皮に付着した本発明における大腸上皮幹細胞には、上述した分化細胞が含まれていることが再度示された。移植後17、21及び25週間後のレシピエントマウスを解析したところ、全ての時点において、RFP領域が明瞭に観察されたことから、発明の大腸上皮幹細胞由来の移植片は、長期にわたり維持されていることを示している(25週間後の結果を、図6dに示す。)。移植後6ヶ月(25週間)におけるRFP組織の組織学的解析において、RFP細胞による単層上皮配列が認められた。さらに、腺腫性変化や上皮異形成は認められず、この結果は、インビトロでの培養過程、及び移植後生体内での組織形成過程において、細胞の悪性化が生じなかったことを示している(図7a)。ここでも、RFP陰窩には上述した終末分化細胞及びKi67増殖細胞が存在し(図7b)、かつアルシアンブルー陽性杯細胞及びCgA腸内分泌細胞の数は移植片内外で差は認めなかった。これらの結果は、単一のLgr5細胞に由来し長期間多分化能を有する大腸上皮幹細胞が移植片内に存在し、かつ周囲のレシピエント上皮と同様の大腸組織を構築していることをさらに裏付けるものである。
【実施例1】
【0092】
さらに、上述したマウス由来の大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法を、ヒトに応用できるかどうかを検討した。その結果、上記段落[0074]~[0078]に示す「ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法」を用いると、手術検体のような大きな初発材料ではなく、また、大腸内視鏡検査施行時に被験者より得る微小な大腸組織を初発材料としても、安定し、かつ再現性をもって大腸上皮幹細胞を培養できることが明らかとなった。
【実施例1】
【0093】
また、EGF、HGF、Nogginを含む前述のTMDU培地に、それ以外の任意成分をさらに加えた培地にて、マウスの大腸陰窩細胞の増殖を確認した。すなわち、TMDU培地に、100倍希釈となるような濃度(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム塩、ピルビン酸ナトリウムの終濃度がそれぞれ10ug/ml、5.5ug/ml、6.7ng/ml、110 ug/mlとなる濃度)のインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸塩混合液(ITS)(Invitrogen社製)、100uM(終濃度)のN-acetyl-cystein(NAC)(Nacalai社製)、200ng/ml(終濃度)のCholera Toxin(コレラ毒素)(Wako社製)、それぞれのヌクレオシドを100uM(終濃度)ずつ含むヌクレオシド混合液(Sigma社製)、38nM(終濃度)のセルロプラスミン(フェロキシダーゼ)(Sigma社製)をさらに添加したこと以外は、前述の「TMDUプロトコール」と同様の方法で大腸陰窩細胞の培養を行い、その増殖の様子を観察した。その結果を図8に示す。図8から分かるように、TMDU培地にITS、NAC、コレラ毒素、セルロプラスミンをさらに添加した培地において、好適な細胞増殖が確認された。なお、前述のTMDU培地に10%のウシ胎仔血清(FCS)を添加した培地でマウス大腸陰窩細胞の培養を試みたところ、かかる細胞の増殖が確認された。
【実施例1】
【0094】
[まとめ]
本発明において、インビトロで培養した本発明における大腸上皮幹細胞は、損傷を受けた大腸上皮を修復するための幹細胞療法に利用できることを証明している。移植された大腸上皮幹細胞は、上皮傷害を受けた大腸組織において、欠損した上皮を補充するごとく上皮欠損部に接着し被覆する。また、本発明における大腸上皮幹細胞の移植を受けたレシピエントは、未移植のコントロールよりも回復期体重増加が大きいことから、本発明における大腸上皮幹細胞を移植に用いると、DSS誘導性急性大腸炎の重篤度を低減することが示される。これらの結果より本発明は、消化管上皮幹細胞をインビトロで数を増やしつつ培養し、その後に移植することで、重篤な消化管上皮損傷を有する疾患の治療として有望な選択肢であることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、大腸上皮幹細胞等のインビトロ培養の分野や、腸疾患の予防・治療の分野や、大腸上皮幹細胞等の腸疾患患者への投与・移植の分野や、大腸上皮幹細胞等の単離の分野に好適に利用することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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