TOP > 国内特許検索 > 核小体ストレス応答を誘導する薬剤の探索のためのポリペプチドの組み合わせ及びスクリーニング方法 > 明細書

明細書 :核小体ストレス応答を誘導する薬剤の探索のためのポリペプチドの組み合わせ及びスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6323868号 (P6323868)
公開番号 特開2015-097523 (P2015-097523A)
登録日 平成30年4月20日(2018.4.20)
発行日 平成30年5月16日(2018.5.16)
公開日 平成27年5月28日(2015.5.28)
発明の名称または考案の名称 核小体ストレス応答を誘導する薬剤の探索のためのポリペプチドの組み合わせ及びスクリーニング方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 19/00
C12Q 1/02
C07K 14/47
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 16
全頁数 16
出願番号 特願2014-110486 (P2014-110486)
出願日 平成26年5月28日(2014.5.28)
優先権出願番号 2013217200
優先日 平成25年10月18日(2013.10.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年2月2日(2017.2.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】河原 康一
【氏名】古川 龍彦
【氏名】有馬 一成
【氏名】上條 陽平
【氏名】堀口 史人
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】松岡 徹
参考文献・文献 国際公開第2009/049892(WO,A1)
国際公開第2013/084950(WO,A1)
河原康一,核小体ストレス応答によるp53-MDM2経路の制御,生化学,2013年 3月25日,85(3),152-159
Suzuki, A., et al.,A new PICTure of nucleolar stress,Cancer Science,2012年,103(4),632-637
調査した分野 C12N
C07K
C12Q
UniProt/GeneSeq/DDBJ
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
RPL5とタンパク質Iの融合ポリペプチドI及びMDM2とタンパク質IIの融合ポリペプチドIIの組み合わせであって、前記タンパク質I及びタンパク質IIが、前記RPL5と前記MDM2とが分子間結合することにより、蛍光を発することを特徴とする、核小体ストレス応答を検出可能とする前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせであって、
前記タンパク質I及び前記タンパク質IIがそれぞれ蛍光タンパク質I及びIIであって、前記蛍光タンパク質I及び蛍光タンパク質IIが、それぞれドナー蛍光タンパク質及びアクセプター蛍光タンパク質であるか、又はそれぞれアクセプター蛍光タンパク質及びドナー蛍光タンパク質であり、RPL5とMDM2とが分子間結合することにより、前記蛍光タンパク質Iと前記蛍光タンパク質IIとが相互近接したときに、蛍光を発し、かつ
前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせが、RPL5のC末端に蛍光タンパク質Iを連結させたポリペプチドIとMDM2のN末端に蛍光タンパク質IIを連結させたポリペプチドの組み合わせであるか、あるいは、RPL5のN末端に蛍光タンパク質Iを連結させたポリペプチドとMDM2のC末端に蛍光タンパク質IIを連結させたポリペプチドの組み合わせである、融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ
【請求項2】
蛍光タンパク質IがEYFPであり、蛍光タンパク質IIがECFPである、請求項に記載の融合ポリペプチドの組み合わせ。
【請求項3】
前記RPL5とEYFPの融合ポリペプチドIが配列番号8又は10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載のポリペプチドの組み合わせ。
【請求項4】
前記MDM2とECFPの融合ポリペプチドIIが配列番号12又は14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項又はに記載のポリペプチドの組み合わせ。
【請求項5】
前記融合ポリペプチドIが配列番号10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号12のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記融合ポリペプチドIが配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載のポリペプチドの組み合わせ。
【請求項6】
RPL5とタンパク質Iの融合ポリペプチドI及びMDM2とタンパク質IIの融合ポリペプチドIIの組み合わせであって、前記タンパク質I及びタンパク質IIが、前記RPL5と前記MDM2とが分子間結合することにより、蛍光輝点を形成することを特徴とする、核小体ストレス応答を検出可能とする前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせであって、
前記タンパク質I及び前記タンパク質IIがそれぞれ、多量体形成能を有する蛍光タンパク質及び多量体形成能を有するAssembly Helper Tag(Ash-Tag)であるか、又はそれぞれ多量体形成能を有するAsh-Tag及び多量体形成能を有する蛍光タンパク質であって、RPL5とMDM2とが分子間結合することにより、融合ポリペプチドI及びIIが多量体化したときに、蛍光輝点を形成することを特徴とする、融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
【請求項7】
前記融合ポリペプチドIが配列番号24のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号26のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドIをコードするDNAを発現可能に含むベクターと、融合ポリペプチドIIをコードするDNAを発現可能に含むベクターとの組み合わせ、又は前記融合ポリペプチドIをコードするDNAと前記融合ポリペプチドIIをコードするDNAの両方を共発現可能に含むベクター。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドの組み合わせ、又は請求項に記載のベクターを含んでなるキット。
【請求項10】
核小体ストレス応答を検出するためのものである、請求項に記載のキット。
【請求項11】
分子標的薬又は抗癌剤をスクリーニングするためのものである、請求項に記載のキット。
【請求項12】
(a)請求項1~のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は請求項に記載のベクター若しくは請求項11のいずれか1項に記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c)前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIとの相互近接によるFret蛍光シグナル又は多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
(a)請求項のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は請求項に記載のベクター若しくは請求項11のいずれか1項に記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c)前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIとの相互近接によるFret蛍光シグナルを指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、Fretシステム、並びに
(a')請求項のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は請求項に記載のベクター若しくは請求項11のいずれか1項に記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b')被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c')前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIの多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、を含む、Fluoppiシステムを用いることを特徴とする、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記哺乳類細胞が、癌細胞である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳類細胞が、COS1細胞、HeLa細胞、及びH1299細胞からなる群より選択される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が抗癌剤である、請求項1215のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、核小体ストレス応答を誘導する薬剤の探索のためのポリペプチドの組み合わせ及びスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の抗癌化学療法や放射線による抗癌治療は、主としてゲノムDNAの損傷を起こすことで、癌細胞の増殖を抑制する。しかしながら、小児期にリンパ腫を患いこれらの治療を受けた患者の約20%は、30年以内に別の臓器に二次癌を発症している(非特許文献1)。このように、DNA損傷を生じる抗癌治療では、腫瘍の進行を阻害できたとしても、正常細胞に変異が導入され新たな腫瘍が生じるリスクがあり、これは治療において非常に深刻な問題である。従って、新たな作用機序を有する薬剤の開発は、抗癌治療にとって危急の課題である。
【0003】
本発明者は、核小体ストレス応答が、DNA障害なしにp53を増加させ癌細胞の増殖や腫瘍化進展を著しく抑制することを見出した(非特許文献2)。従って、薬剤によって核小体ストレス応答を誘導することができれば、癌の進行を阻止できると考えられる。
【0004】
これまで、核小体ストレス応答は、免疫沈降法によってリボソーム蛋白質とMDM2との結合を検出することで測定されてきた(非特許文献2)。しかしながら、免疫沈降法では、1)検出感度が悪く大量の細胞材料を必要とし、2)未熟な実験者であれば実験誤差が大きく、3)特異的な抗体やProtein-Gセファロース等の高価な試薬が必要であり、4)作業工程が多く煩雑であることから、通常数百万規模の化合物を対象とする薬剤スクリーニングに用いることは困難であった。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Timothy Best et al., Nature Medicine, Vol.17, p941-943, 2011
【非特許文献2】Masato Sasaki et al., Nature Medicine. Vol.17, p944-51, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、核小体ストレス応答を誘導する抗癌剤を探索可能な、ポリペプチドの組み合わせ及びスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
核小体ストレス応答には、リボソーム蛋白質とMDM2の結合という特異的な分子変化が存在する。本発明者は、Fret蛍光シグナル及び/又はFluoppiによる蛍光輝点の形成を指標としてリボソーム蛋白質とMDM2との結合を検出することにより、核小体ストレス応答を簡便に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を包含する。
[1] RPL5とタンパク質Iの融合ポリペプチドI及びMDM2とタンパク質IIの融合ポリペプチドIIの組み合わせであって、前記タンパク質I及びタンパク質IIが、前記RPL5と前記MDM2とが分子間結合することにより、蛍光を発するか又は蛍光輝点を形成することを特徴とする、核小体ストレス応答を検出可能とする前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
[2] 前記タンパク質I及び前記タンパク質IIがそれぞれ蛍光タンパク質I及びIIであって、前記蛍光タンパク質I及び蛍光タンパク質IIが、それぞれドナー蛍光タンパク質及びアクセプター蛍光タンパク質であるか、又はそれぞれアクセプター蛍光タンパク質及びドナー蛍光タンパク質であり、RPL5とMDM2とが分子間結合することにより、前記蛍光タンパク質Iと前記蛍光タンパク質IIとが相互近接したときに、蛍光を発することを特徴とする、[1]に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
[3] 前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせが、RPL5のC末端に蛍光タンパク質Iを連結させたポリペプチドIとMDM2のN末端に蛍光タンパク質IIを連結させたポリペプチドの組み合わせであるか、あるいは、RPL5のN末端に蛍光タンパク質Iを連結させたポリペプチドとMDM2のC末端に蛍光タンパク質IIを連結させたポリペプチドである、[2]に記載の融合ポリペプチドの組み合わせ。
[4] 蛍光タンパク質IがEYFPであり、蛍光タンパク質IIがECFPである、[2]又は[3]に記載の融合ポリペプチドの組み合わせ。
[5] 前記RPL5とEYFPの融合ポリペプチドIが配列番号8又は10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[4]に記載のポリペプチドの組み合わせ。
[6] 前記MDM2とECFPの融合ポリペプチドIIが配列番号12又は14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[4]又は[5]に記載のポリペプチドの組み合わせ。
[7] 前記融合ポリペプチドIが配列番号10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号12のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記融合ポリペプチドIが配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[4]に記載のポリペプチドの組み合わせ。
[8] 前記タンパク質I及び前記タンパク質IIがそれぞれ、多量体形成能を有する蛍光タンパク質及び多量体形成能を有するAssembly Helper Tag(Ash-Tag)であるか、又はそれぞれ多量体形成能を有するAsh-Tag及び多量体形成能を有する蛍光タンパク質であって、RPL5とMDM2とが分子間結合することにより、融合ポリペプチドI及びIIが多量体化したときに、蛍光輝点を形成することを特徴とする、[1]に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
[9] 前記融合ポリペプチドIが配列番号24のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号26のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[8]に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせ。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドIをコードするDNAを発現可能に含むベクターと、融合ポリペプチドIIをコードするDNAを発現可能に含むベクターとの組み合わせ、又は前記融合ポリペプチドIをコードするDNAと前記融合ポリペプチドIIをコードするDNAの両方を共発現可能に含むベクター。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドの組み合わせ、又は[10]に記載のベクターを含んでなるキット。
[12] 核小体ストレス応答を検出するためのものである、[11]に記載のキット。
[13] 分子標的薬又は抗癌剤をスクリーニングするためのものである、[11]に記載のキット。
[14] (a)[1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は[10]に記載のベクター若しくは[11]~[13]のいずれかに記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c)前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIとの相互近接によるFret蛍光シグナル又は多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法。
[15] (a)[2]~[7]のいずれかに記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は[10]に記載のベクター若しくは[11]~[13]のいずれかに記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c)前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIとの相互近接によるFret蛍光シグナルを指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、Fretシステム、並びに
(a')[8]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は[10]に記載のベクター若しくは[11]~[13]のいずれかに記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b')被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c')前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIの多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、Fluoppiシステムを用いることを特徴とする、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法。
[16] 前記哺乳類細胞が、癌細胞である、[14]又は[15]に記載の方法。
[17] 前記哺乳類細胞が、COS1細胞、HeLa細胞、及びH1299細胞からなる群より選択される、[14]又は[15]に記載の方法。
[18] 前記薬剤が抗癌剤である、[14]~[17]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
Fret蛍光シグナル及びFluoppiによる蛍光輝点形成は、簡便に計測できることから、本発明の方法は、核小体ストレス応答を誘導する薬剤の大規模な探索に利用できる。また、単一細胞でのリアルタイム測定が可能であり、かつ、蛍光強度のみを検出するため高価な試薬は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】核小体ストレス応答機構の概要を示す。
【図2】Fretシステムの原理の概要を示す。
【図3】異なるプローブを用いた際の、Fretシグナルの検出結果を示す。
【図4】核小体ストレス応答を誘導する薬剤であるActinomycin D(Act D)、5-Fluorouracil(5-FU)、及びmycophenolic acid(MPA)を用いた際の、Fretシグナルの検出結果を示す。
【図5】種々の細胞を用いた際の、Fretシグナルの検出結果を示す。
【図6】H1299細胞をActDで刺激した際の、Fluoppiによる蛍光輝点形成を示す。
【図7】HeLa細胞を、核小体ストレス応答を誘導する薬剤であるAct D、5-FU、及びMPAで刺激した際の、Fluoppiによる蛍光輝点形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の内容をより詳細に説明する。

【0012】
<融合ペプチドの組み合わせ>
一態様において、本発明は、RPL5と蛍光タンパク質Iの融合ポリペプチドI及びMDM2と蛍光タンパク質IIの融合ポリペプチドIIの組み合わせであって、前記蛍光タンパク質I及び蛍光タンパク質IIが、それぞれドナー蛍光タンパク質及びアクセプター蛍光タンパク質であるか、又はそれぞれアクセプター蛍光タンパク質及びドナー蛍光タンパク質であり、前記RPL5と前記MDM2とが分子間結合することにより、前記蛍光タンパク質Iと前記蛍光タンパク質IIとが相互近接したときに、蛍光を発することを特徴とする、核小体ストレス応答を検出可能とする前記融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせに関する。

【0013】
<RPL5タンパク質>
RPL5タンパク質は、リボソームタンパク質の一種であり、核小体にストレスが加わると核小体から核質に移動し、MDM2と結合することで、MDM2によるp53の分解を抑制する。その結果、p53が増加し細胞増殖が抑制される。p53は癌抑制因子であり、DNAストレスや発癌ストレス等による障害及び異常を修復する間、一時的に細胞増殖を停止させるか、あるいは修復不可能な場合は細胞死・細胞老化を誘導することで、異常細胞の発生を抑制する。このように、核小体ストレス応答が生じると、p53が増加し細胞の増殖を抑制することで、細胞の癌化が抑制される。上述のような核小体ストレス応答機構の概要を、図1に示す。

【0014】
RPL5タンパク質の遺伝子配列及びアミノ酸配列は、当技術分野で公知の任意の方法により、例えば公のデータベース(例えば、NCBI(米国)、DDBJ(日本)、EMBL(欧州))より、入手することができる。RPL5タンパク質は、データベースに登録されている塩基配列(GenBankアクセッション番号NM_000969(cDNA):配列番号1、及びNP_000960(アミノ酸):配列番号2)に基づいて、当技術分野で公知の方法(例えば遺伝子組換え法)を用いて作製することができる。

【0015】
本発明で用いるRPL5タンパク質は、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、MDM2タンパク質との結合能を維持する限り、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。ここで、「1若しくは数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個または2個である。

【0016】
さらに、本発明で用いるRPL5タンパク質は、MDM2タンパク質との結合能を維持する限り、配列番号2と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上、例えば98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。同一性の値は、複数のアミノ酸配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。また、RPL5タンパク質は、MDM2タンパク質との結合能を維持する限り、そのタンパク質断片であってもよい。そのようなタンパク質断片は、上記の塩基配列に基づいて任意のペプチドを作製し、そのペプチドのMDM2タンパク質との結合能を確認することにより容易に作製することができる。

【0017】
<MDM2タンパク質>
また、MDM2タンパク質も同様に、当技術分野で公知の任意の方法により入手することができ、例えば公のデータベースに登録されている塩基配列(GenBankアクセッション番号NM_002392(cDNA):配列番号3、及びNP_002383(アミノ酸):配列番号4)に基づいて作製することができる。本発明で用いるMDM2タンパク質は、配列番号4で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、RPL5タンパク質との結合能を維持する限り、配列番号4で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。さらに、本発明で用いるMDM2タンパク質は、RPL5タンパク質との結合能を維持する限り、配列番号4と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上、例えば98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。また、MDM2タンパク質は、RPL5タンパク質との結合能を有する限り、そのタンパク質断片であってもよい。本発明で用いるMDM2タンパク質断片として、例えばMDM2タンパク質の210-437部分長断片(以下、MDM2(210-437)とも表記する。cDNA:配列番号5、アミノ酸:配列番号6)が挙げられる。

【0018】
<Fretシステム>
本発明におけるタンパク質の結合は、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer:Fret)を利用して検出する事ができる。Fretは、第一の蛍光タンパク質(すなわちドナー蛍光タンパク質)から第二の蛍光タンパク質(すなわちアクセプター蛍光タンパク質)へ、励起エネルギーが電磁波を介さずに直接移動するプロセスである(Hellen C. Ishikawa-ankerhold et al., Molecules, 2012, 17, 4047-4132)。Fretは、ドナー蛍光タンパク質及びアクセプター蛍光タンパク質の距離が10nm以下に近接したときにのみ生じる事から、光学顕微鏡の解像限界を超えて、細胞内における分子間相互作用及び/又は分子の近接性を測定できる検出法である(図2)。

【0019】
本発明で用いるドナー蛍光タンパク質とアクセプター蛍光タンパク質の組み合わせとして、例えばCFPとYFP、ECFPとEYFP、BFPとDsRFP、EBFP2とmEGFP、CFPとGFP、CeruleanとTFP、CeruleanとVenus、GFPとRFP、GFPとDsRed、CFPとVenus等が挙げられる。したがって、ドナー蛍光タンパク質の励起に用いる励起波長は、特に限定されるものではないが、350nm~550nm、好ましくは405nmであってよく、Fretシグナルの検出に用いる蛍光波長は、特に限定されるものではないが500nm~600nm、好ましくは505-600nmであってよい。

【0020】
従って、本発明のRPL5タンパク質及びMDM2タンパク質は、Fretシグナルを用いてその結合を検出するために、上記蛍光タンパク質との融合ポリペプチドの形態である。蛍光タンパク質は、RPL5タンパク質又はMDM2タンパク質のN末端及びC末端のいずれに連結してもよいし、あるいは場合によりリンカー(例えば1~50アミノ酸)を介して連結してもよい。従って、本発明で用いるRPL5タンパク質と蛍光タンパク質の融合ポリペプチドIとして、限定されるものではないが、RPL5タンパク質のC末端にEYFPを連結させたポリペプチド(cDNA:配列番号7、アミノ酸:配列番号8)、又はRPL5タンパク質のN末端にEYFPを連結させたポリペプチド(cDNA:配列番号9、アミノ酸:配列番号10)が挙げられ、MDM2タンパク質と蛍光タンパク質の融合ポリペプチドIIとして、限定されるものではないが、MDM2(210-437)のC末端にECFPを連結させたポリペプチド(cDNA:配列番号11、アミノ酸:配列番号12)、又はMDM2(210-437)のN末端にECFPを連結させたポリペプチド(cDNA:配列番号13、アミノ酸:配列番号14)が挙げられる。

【0021】
本発明で用いるRPL5タンパク質と蛍光タンパク質の融合ポリペプチドIとMDM2タンパク質と蛍光タンパク質の融合ポリペプチドIIの組み合わせは、特に限定されるものではないが、例えば前記融合ポリペプチドIが配列番号10のアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号12のアミノ酸配列を含むか、又は前記融合ポリペプチドIが配列番号8のアミノ酸配列を含み、かつ前記融合ポリペプチドIIが配列番号14のアミノ酸配列を含む、ポリペプチドの組み合わせであってよい。

【0022】
これらの融合ポリペプチドもまた、上記各構成タンパク質と同様に、配列番号8、10、12、又は14で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、RPL5タンパク質とMDM2タンパク質が結合能を維持し、かつ、FRETによる計測が可能な限り、配列番号8、10、12、又は14で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよく、配列番号8、10、12、又は14で示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上、例えば98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。

【0023】
<Fluoppiシステム>
また、本発明におけるタンパク質の結合は、Fluoppi(Fluorescent based technology detecting Protein-Protein Interactions)を利用して検出する事ができる。Fluoppiは多量体形成能を有する蛍光タンパク質(FP-tag)と、多量体(4量体から8量体)形成能を有するAssembly Helper Tag(Ash-Tag)から構成される。本明細書で使用する蛍光タンパク質として、特に限定するものではないが、例えばAzami Green(AG)、特にヒト化Azami Green(hAG)、及びMonti-Red等が挙げられる。また、本明細書で使用する「Ash-Tag」は、上記Fp-tagの多量体形成を補助するタンパク質であれば特に限定するものではない。

【0024】
本発明で使用するAsh-Tagとして、限定するものではないが、p62、MEK、Part6等のタンパク質に存在する、タンパク質分子間結合に関与する配列であるPB1配列(Jorge Moscatet al., Molecular Cell, Vol. 23, pp. 631-640, 2006)、特にp62のPB1配列(cDNA:配列番号29、アミノ酸:配列番号30)が挙げられる。PB1配列は配列番号30で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、Fp-tagの多量体形成を補助し、Fluoppiシステムによる計測が可能な限り、配列番号30で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよく、配列番号30で示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上、例えば98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。

【0025】
Fluoppiシステムでは、それぞれのtagに相互作用を検出したいタンパク質XとYを融合したタンパク質を発現させる。タンパク質XとYの相互作用が無い場合、両者は分散して存在するが、一方、XとYが相互作用すると、tagを融合したタンパク質同士が多量体を形成して局在化し、顕微鏡下で蛍光性の輝点(Foci)を形成する。また、セルイメージアナライザーを用いると、単位細胞あたりの輝点量を簡便に定量化できる。

【0026】
Fluoppiシステムで用いるRPL5タンパク質とタンパク質の融合ポリペプチドIとMDM2タンパク質とタンパク質の融合ポリペプチドIIの組み合わせは、特に限定されるものではない。融合させる蛍光タンパク質及びAsh-Tagは、RPL5タンパク質又はMDM2タンパク質のN末端及びC末端のいずれに連結してもよいし、あるいは場合によりリンカー(例えば1~50アミノ酸)を介して連結してもよい。従って、本発明で用いるRPL5タンパク質とタンパク質の融合ポリペプチドIとして、限定されるものではないが、RPL5のC末端にAGタグを連結させた融合ポリペプチド(cDNA:配列番号23、アミノ酸:配列番号24)又はRPL5のN末端にAGタグを連結させた融合ポリペプチドが挙げられ、MDM2タンパク質とタンパク質の融合ポリペプチドIIとして、限定されるものではないが、部分長MDM2(210-437)のN末端にAshタグを連結させた融合ポリペプチド(cDNA:配列番号25、アミノ酸:配列番号26)、又はAshタグを部分長MDM2(210-437)のN末端に連結させた融合ポリペプチドが挙げられる。

【0027】
これらの融合ポリペプチドもまた、上記各構成タンパク質と同様に、配列番号24又は26で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに限定されず、RPL5タンパク質とMDM2タンパク質が結合能を維持し、かつ、Fluoppiによる計測が可能な限り、配列番号24又は26で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよく、配列番号24又は26で示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、最も好ましくは95%以上、例えば98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。

【0028】
<ベクター>
本発明はまた、上記融合ポリペプチドを発現するためのベクターを提供する。本発明のベクターは、上記融合ポリペプチドIをコードするDNAを発現可能に含むベクターと、上記融合ポリペプチドIIをコードするDNAを発現可能に含むベクターとの組み合わせ、又は上記融合ポリペプチドIをコードするDNAと上記融合ポリペプチドIIをコードするDNAの両方を共発現可能に含むベクターであってもよい。

【0029】
「発現可能に含む」とは、ベクターが宿主細胞に導入された際に、ベクターに含まれるDNAによりコードされるポリペプチドが、宿主細胞において発現されることを意味する。

【0030】
本発明に使用されるベクターとしては、例えばプラスミドベクター又はウイルスベクターが挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えばセンダイウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス等が挙げられる。ベクターは、発現されるDNAの他に、例えばプロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、ターミネーター、及び必要に応じて選択マーカー等を含む。

【0031】
<キット>
本発明はまた、上記ポリペプチドの組み合わせ及び/又は上記ベクターを含んでなるキットを提供する。本発明のキットは、核小体ストレス応答を検出するためのものであってよく、また、分子標的薬又は抗癌剤をスクリーニングするためのものであってもよい。本発明のキットは、上記以外に、例えば哺乳類細胞、検出システム(Fret及び/又はFluoppiシステム)で通常使用する試薬及び溶媒、並びに/又は使用説明書等を含んでも良い。

【0032】
<薬剤スクリーニングシステム>
また、本発明は、(a)上記ポリペプチドの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は上記ベクター若しくは上記キットを用いて上記ポリペプチドの組み合わせを哺乳類細胞において共発現させるステップ、(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに(c)上記ポリペプチドの相互近接によるFret蛍光シグナル又は多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、を含む、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法にも関する。

【0033】
本発明における薬剤のスクリーニング方法では、FRETシステム又はFluoppiシステムのいずれか一方を用いても良く、又は、FRETシステム及びFluoppiシステムの両方を用いても良い。単一の測定原理に基づいた創薬スクリーニングでは、誤った陽性反応(疑陽性)を検出する可能性があるが、FRET及びFluoppiという異なる測定機序を有するスクリーニングシステムを組み合わせることで、疑陽性を減らし、より正確かつ確実に薬剤をスクリーニングすることが可能となる。

【0034】
FRETシステム及びFluoppiシステムの両方を用いる方法の例として、
(a)本明細書に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は本明細書に記載のベクター若しくは本明細書に記載のキットを用いて本明細書に記載の融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b)被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c)前記融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIとの相互近接によるFret蛍光シグナルを指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、Fretシステム、並びに
(a')本明細書に記載の融合ポリペプチドI及びIIの組み合わせを哺乳類細胞に導入するステップ、又は本明細書に記載のベクター若しくは本明細書に記載のキットを用いて前記融合ポリペプチドI及びIIを哺乳類細胞において共発現させるステップ、
(b')被験物質を、前記哺乳類細胞に接触させるステップ、並びに、
(c')本明細書に記載の融合ポリペプチドIのタンパク質Iと前記融合ポリペプチドIIのタンパク質IIの多量体化による蛍光輝点の形成を指標として、RPL5とMDM2の結合を検出するステップ、
を含む、Fluoppiシステムを用いることを特徴とする、哺乳類細胞における、核小体ストレス応答を標的とした薬剤のスクリーニング方法が挙げられる。

【0035】
本発明に用いる遺伝子等の導入法としては、限定されるものではないが、例えばリポフェクション法、エレクトロポレーション法、ウイルス感染法、及び塩化カルシウム法等が挙げられる。

【0036】
本発明に用いる哺乳類細胞としては、特に限定されるものではないが、癌細胞が挙げられる。また、本発明に用いる哺乳類細胞としては、特に限定されるものではないが、COS1細胞、HeLa細胞、又はH1299細胞、CHO細胞、HEK-293細胞、Vero細胞、U2OS細胞、HCT116細胞、MDCK細胞等が挙げられる。

【0037】
本発明において用いる被験物質の種類は特に限定されるものではない。例えば、被験物質は、任意の物質的因子、具体的には、天然に生じる分子、例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、炭水化物(糖等)、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカン等;天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体、例えば、ペプチド擬態物、核酸分子(アプタマー、アンチセンス核酸、二本鎖RNA(RNAi)等)等;天然に生じない分子、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物(無機及び有機化合物ライブラリー、又はコンビナトリアルライブラリー等)等;並びにそれらの混合物が挙げられる。また被験物質は、単一物質であってもよいし、複数の物質から構成される複合体や、転写因子等であってもよい。抗癌剤として使用することを考慮した場合には、細胞に取り込まれやすい小さな化合物、例えば無機化合物又は有機化合物であることが好ましい。

【0038】
また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリー等を含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリー等)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリー等)等が挙げられる。

【0039】
また、被験物質の効果は、いくつかの条件で検討することも可能である。そのような条件としては、被験物質を存在させる時間、量、回数等が挙げられる。例えば、被験物質の希釈系列を調製する等して複数の用量を設定することができる。被験物質の存在時間も適宜設定することができるが、例えば、数分から数時間までの期間にわたって存在させることができる。さらに、複数の物質の相加作用、相乗作用等を検討する場合には、被験物質を組み合わせて用いてもよい。

【0040】
被験物質の存在により、Fretシステムが活性化され、ドナー蛍光タンパク質の励起波長に対して、アクセプター蛍光タンパク質による蛍光波長が確認された場合には、その被験物質を、核小体ストレス応答を誘導する薬剤として選択する。同様に、被験物質の存在により、Fluoppiシステムが活性化され、蛍光輝点の形成が確認された場合には、その被験物質を、核小体ストレス応答を誘導する薬剤として選択する。核小体ストレス応答は、DNA障害なしにp53を増加させ癌細胞の増殖や腫瘍化進展を著しく抑制することから、上記核小体ストレス応答を誘導する薬剤は、抗癌剤であってよい。

【0041】
また、上述のようにして選択した抗癌剤候補の抗癌剤としての活性をさらに評価するため、抗癌剤候補を癌細胞に投与して、その癌細胞の増殖の変化を観察してもよい。さらに、抗癌剤候補の正常細胞に対する影響を調べてもよい。

【0042】
核小体ストレス応答を誘起することが既に知られている薬剤としては、アクチノマイシンD(Actinomycin D、Act D)、5-フルオロウラシル(5-Fluorouracil、5-FU)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid、MPA)等が挙げられる。これらの薬剤を被験物質として試験することで、本発明の方法の実用性を確かめることができる。

【0043】
本発明の細胞の培養に用いる培地としては、例えば、Dulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM)、RPMI1640 Medium、Ham's F-12 Medium、イーグル最小必須培地(E-MEM)等が挙げられる。これらの培地は、必要に応じて、ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン及びピルビン酸ナトリウム等の添加物を含んでよい。また、本発明の細胞は37℃、5% CO2の条件下で培養することができる。

【0044】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
<実施例1:FRETによるRPL5とMDM2の検出>
材料と方法
発現ベクターの構築
以下の工程により、リボソーム蛋白質である全長RPL5とEYFPを融合させたタンパク質を発現するベクター、及びMDM2の210-437部分長断片であるMDM2(210-437)とECFPを融合させたタンパク質を発現するベクターを構築した。
【実施例】
【0046】
Human RPL5 cDNAはRPL5 F1 primerとRPL5 R1 primerを用いてPCRで増幅後、pEYFP N1ベクター (Clonetech, 米国)へ挿入した(pEYFP-N1-RPL5)。pEYFPN1-RPL5をXhoI、NotIで切断後、RPL5-EYFP cDNAをpCAG-GSベクター(Niwa et al. Gene 108, 193-199 1991)へ挿入した(pCAG-YFPN1-RPL5)。RPL5 F2 primerとRPL5 R2 primerでHuman RPL5 cDNAをPCR増幅した後、pEYCFP C1ベクター(Clonetech, 米国)に挿入した(pEYFPC1-RPL5)。pEYFPC1-RPL5を鋳型に、CAG-F primerとCAG-R primerでEYFP-RPL5 cDNAをPCRにて増幅後、pCAG-GSベクターへ挿入した(pCAG-YFPC1-RPL5)。
【実施例】
【0047】
Human MDM2(210-437)cDNAはMDM2 F primer、MDM2 R primerを用いてPCRで増幅後、pECFP N1ベクター、pET28a(+) ベクター(Novagen, 米国)へ挿入した(pECFP-N1-MDM2(210-437)、pET-MDM2(210-437))。pET-MDM2(210-437)をBamHI及びSalIで切断後、MDM2(210-437)cDNAをpECFP C1ベクターへ挿入した(pECFP-C1-MDM2(210-437))。
【実施例】
【0048】
後のトランスフェクションにおいて、RPL5タンパク質のC末端にEYFPを連結させたポリペプチド(配列番号8)の発現の為には、上記pCAG-YFPN1-RPL5を、RPL5タンパク質のN末端にEYFPを連結させたポリペプチド(配列番号10)の発現のためには、上記pCAG-YFPC1-RPL5を用いた。同様に、MDM2タンパク質のC末端にECFPを連結させたポリペプチド(配列番号12)の発現のためには、上記pECFP-N1-MDM2(210-437)を、MDM2タンパク質のN末端にECFPを連結させたポリペプチド(配列番号14)の発現のためには、上記pECFP-C1-MDM2を用いた。
【実施例】
【0049】
発現ベクターの構築にあたっては、以下のプライマーを使用した。
RPL5 F1 primer; GAATTCGCCatggggtttgttaaagttgtt(配列番号15)
RPL5 R1 primer; GGATCCCGgctctcagcagcccgctcctg(配列番号16)
RPL5 F2 primer; TCGAATTCTatggggtttgttaaagttgttaag(配列番号17)
RPL5 R2 primer; ACCTCGAGCgctctcagcagcccgctcctgagct(配列番号18)
CAG-F primer; TAgcggccgccATGGTGAGCAAGGGCGAGGA(配列番号19)
CAG-R primer; TAgtcgacTCAGTTATCTAGATCCGGTGG(配列番号20)
MDM2 F primer; TAGAATTCatggagatatgttgtgaaagaagcagta(配列番号21)
MDM2 R primer; TACGTCGACTGgggcaaactagattccacactctc(配列番号22)
【実施例】
【0050】
なお、PCRは、PrimeSTAR(登録商標) GXL DNA Polymerase(タカラバイオ、日本)を用いて、添付のマニュアルにそって、以下の組成の反応液を用いて行った。
【実施例】
【0051】
5 × PrimeSTAR GXL Buffer 10 μl
dNTP Mixture(2.5 mM each) 4 μl
Forward primer 15 pmol
Reverse primer 15 pmol
Template 10ng DNA
PrimeSTAR GXL DNA Polymerase 1 μl
滅菌蒸留水 総量を50μlとする量
【実施例】
【0052】
具体的には上記反応液を調製後、サーマルサイクラーにて下記の温度条件でPCR反応を行った。
【実施例】
【0053】
98℃ 10 sec.
60℃ 15 sec. 30サイクル
68℃ 1 min./kb
【実施例】
【0054】
細胞培養
ヒト子宮頸癌細胞株(HeLa)とアフリカミドリザル 腎臓細胞株(COS1)は37℃、5% CO2条件下で、10% Fetal Bovine Serum (FBS)、Penicillin-Streptomycin (P/S)、及びピルビン酸ナトリウムを含むDulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM, Nissui, 日本)を用いて培養した。ヒト肺腺癌細胞株H1299は10% Fetal Bovine Serum (FBS)、Penicillin-Streptomycin (P/S)、及びピルビン酸ナトリウムを含むRPMI1640 Medium(RPMI1640, Nissui, 日本)を用いて培養した。
【実施例】
【0055】
トランスフェクション
6 x 105の細胞を35mm ディッシュに播種し、その翌日、PEI Max(Polysciences, 米国)を用いて標準的なプロトコールに従い遺伝子導入を行った。
【実施例】
【0056】
すなわち、2μgのDNAを無血清DMEM 200μLに加え、さらに6μLのPEI Maxを加え、攪拌により混合した後、10分間インキュベートした。細胞から培地を除き、DNA/PEI Max混合溶液を培養細胞に加えた。血清は形成された後の複合体には影響を与えないため、通常の増殖培地を加えて、培養を行った。
【実施例】
【0057】
FRET計測
遺伝子導入36時間後、5nMのActinomycin D(Wako Chemical, 日本)、10μg/mLの5-Fluorouracil(5-FU, SIGMA, 米国)、又は10μMのmycophenolic acid(MPA, SIGMA, 米国)を含む培養液で24時間培養した。その後、細胞を4%ホルマリンで固定後、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700; Carl Zeiss)にてFretシグナル(励起波長:405nm、蛍光波長:505-600nm)を計測した。
【実施例】
【0058】
結果
融合部位が異なるEYFP-RPL5とECFP-MDM2を作製し、いずれの組み合わせで核小体ストレス依存性にFretシグナルが効率よく検出できるかを検討した結果(図3)、RPL5のC末端にEYFPを、MDM2のN末端にECFPを連結したポリペプチド(図3B)、及びRPL5のN末端にEYFPを、MDM2のC末端にECFPを連結したポリペプチド(図3C)を導入したCOS1細胞において、Actinomycin D添加による核小体ストレス時に著しいFretシグナルの増加を検出した。この結果から、Fret蛍光シグナルを指標として、RPL5とMDM2の結合を検出できることが示された。
【実施例】
【0059】
さらに、pCAG-YFPN1-RPL5とpECFP-C1-MDM2を共にトランスフェクションした細胞において、他の核小体ストレス応答刺激剤である5-FU又はMPA添加においても同様の強いFretシグナルが観察できた(図4)。以上の結果より、本発明の方法によって、核小体ストレス応答を、特異性をもって検出できることが示された。
【実施例】
【0060】
また、pCAG-YFPN1-RPL5とpECFP-C1-MDM2を共にトランスフェクションすることで、ヒト子宮癌細胞株HeLa細胞やヒト肺腺癌株H1299細胞においても、核小体ストレスによって増加したFretシグナルを確認することができた(図5)。この結果から、本発明の方法が様々な細胞を用いて実施できることが示唆された。
【実施例】
【0061】
<実施例2:FluoppiによるRPL5とMDM2の検出>
発現ベクターの構築
以下の工程により、全長RPL5とAzami Green(AG)を融合させたタンパク質を発現するベクター、及びMDM2の210-437部分長断片であるMDM2(210-437)とAsh tagを融合させたタンパク質を発現するベクターを構築した。
GFP c1 primer; CATGGTCCTGCTGGAGTTCGTGAC(配列番号27)
RPL5 R3 primer; TGGCGGCCGCgctctcagcagcccgctcctga(配列番号28)
【実施例】
【0062】
上記発現ベクタープラスミドDNAを、実施例1に従って、遺伝子導入を行った。
【実施例】
【0063】
蛍光輝点計測
遺伝子導入24時間後、5nMのActinomycin D(Wako Chemical, 日本)、10μg/mLの5-Fluorouracil(5-FU, SIGMA, 米国)、又は10μMのmycophenolic acid(MPA, SIGMA, 米国)を含む培養液で24時間培養した。その後、細胞を4%ホルマリンで固定後、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700; Carl Zeiss)にてAzami Green蛍光シグナル(励起波長:488nm、蛍光波長:490-555nm)を計測し、得られた画像から蛍光輝点の有無を観察した。
【実施例】
【0064】
結果
コントロールである溶媒を添加した細胞では、AGタンパク質の緑色蛍光は、核小体や細胞質に拡散した状態で観察されたが、Actinomycin Dを添加したH1299細胞では、核内に著しい強い蛍光輝点を認めた(図6)。続いてHeLa細胞において、ActinomycinD、MPA及び5FU添加によって核小体ストレスを与えた。その結果、いずれの薬剤による刺激によっても、核内に強い蛍光輝点が観察できた(図7)。
【実施例】
【0065】
以上の結果から、FRETシステム及びFluoppiシステムを用いて、核小体ストレス応答を引き起こす抗癌治療薬のスクリーニングが可能だと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
Fret蛍光シグナル及びFluoppiによる蛍光輝点形成は、簡便に計測できることから、本発明の方法は、核小体ストレス応答を誘導する薬剤の大規模な探索に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6