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明細書 :生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6351042号 (P6351042)
公開番号 特開2016-204327 (P2016-204327A)
登録日 平成30年6月15日(2018.6.15)
発行日 平成30年7月4日(2018.7.4)
公開日 平成28年12月8日(2016.12.8)
発明の名称または考案の名称 生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器
国際特許分類 A01N   1/02        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
FI A01N 1/02
G01N 1/28 J
請求項の数または発明の数 2
全頁数 9
出願番号 特願2015-090295 (P2015-090295)
出願日 平成27年4月27日(2015.4.27)
審査請求日 平成29年6月28日(2017.6.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
【識別番号】390021212
【氏名又は名称】武藤化学株式会社
発明者または考案者 【氏名】山下 和也
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査官 【審査官】桜田 政美
参考文献・文献 特開平07-110328(JP,A)
特開2003-171201(JP,A)
特開昭58-215462(JP,A)
調査した分野 A01N 1/02
G01N 1/28
特許請求の範囲 【請求項1】
水、ホルムアルデヒド及び色素を有効成分として含有し、前記色素が、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、メチルレッド、メチルオレンジ、ナフトールフタレイン、クレゾールレッド、リトマス又はヘマトキシリンである、生体組織固定用組成物。
【請求項2】
容器と、前記容器内に収容された請求項1に記載の生体組織固定用組成物と、封印テープとを備える、生体組織固定用組成物入り容器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や研究機関等では、生体組織標本の固定が日常的に行われている。生体組織標本の固定には、一般的に、3~5%パラホルムアルデヒド溶液又はホルマリン液が使用される。
【0003】
ホルマリン液としては、日本薬局方で定められた局方ホルマリン液を5~10倍程度に希釈したものが一般的に用いられている。局方ホルマリンとは、35~38w/v%ホルムアルデヒド水溶液に、安定化剤(にごり防止)として5~13w/v%程度のメタノールが加えられたものである(非特許文献1を参照)。局方ホルマリンを10倍希釈したものは10%ホルマリン液と呼ばれる。10%ホルマリン液中のホルムアルデヒドの濃度は3.5~3.8w/v%程度である。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】第十六改正日本薬局方、厚生労働省編、第1288頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3~5%パラホルムアルデヒド溶液や10%ホルマリン液は、無色透明の液体であるため、病院や研究機関における生体組織標本の固定作業中に他の試薬と取り違えてしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、他の試薬との取り違えを抑制することができる生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
(1)水、ホルムアルデヒド及び色素を有効成分として含有する、生体組織固定用組成物。
(2)前記色素がpH指示薬又は組織染色剤である、(1)に記載の生体組織固定用組成物。
(3)容器と、前記容器内に収容された(1)又は(2)に記載の生体組織固定用組成物と、封印テープとを備える、生体組織固定用組成物入り容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、他の試薬との取り違えを抑制することができる生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実験例1で作製した生体組織固定用組成物入り容器を示す写真である。
【図2】(a)は、生体組織固定用組成物入り容器の1実施形態の構造を説明する斜視図である。(b)は、(a)におけるA-A線断面図である。
【図3】(a)~(d)は、実験例2の結果を示す写真である。
【図4】(a)~(d)は、実験例3の結果を示す写真である。
【図5】(a)~(h)は、実験例4の結果を示す写真である。
【図6】(a)及び(b)は、実験例5の結果を示す写真である。
【図7】(a)及び(b)は、実験例6の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[生体組織固定用組成物]
1実施形態において、本発明は、水、ホルムアルデヒド及び色素を有効成分として含有する、生体組織固定用組成物を提供する。

【0011】
本実施形態の生体組織固定用組成物は、色素を含有していることにより着色されている。このため、他の試薬と容易に区別することができ、取り違えを抑制することができる。

【0012】
本実施形態の生体組織固定用組成物において、ホルムアルデヒドの濃度は、生体組織の固定が行える濃度であれば特に制限されず、例えば2~50w/v%であってよい。

【0013】
本実施形態の生体組織固定用組成物において、ホルムアルデヒドの少なくとも一部は、パラホルムアルデヒドHO(CHO)H[nは6~100程度の整数を表す。]等の重合体やギ酸等の酸化物を形成していてもよい。

【0014】
本実施形態の生体組織固定用組成物は、例えば、局方ホルマリン液を水で希釈したものに色素を添加したものであってもよく、パラホルムアルデヒドを水に溶解させたものに色素を添加したものであってもよい。

【0015】
本実施形態の生体組織固定用組成物は、水、ホルムアルデヒド及び色素の他に、例えば、メタノール等の安定化剤、pH緩衝剤等の添加剤を含有していてもよい。

【0016】
生体組織の固定は、本実施形態の生体組織固定用組成物に、固定対象である組織片を浸漬することにより実施することができる。

【0017】
本実施形態の生体組織固定用組成物において、色素は、pH指示薬又は組織染色剤であることが好ましい。発明者は、本実施形態の生体組織固定用組成物の色素として、例えばメチレンブルー等を用いた場合、経時的に退色してしまい約30日程度で無色になること、固定した生体組織に色素が沈着し病理検査の妨げとなる場合があることを見出した。発明者は更に、本実施形態の生体組織固定用組成物の色素としてpH指示薬又は組織染色剤を用いることにより、これらの問題を解決することができることを見出した。発明者はまた、メチレンブルー等の色素は、生きた細胞の膜透過性を亢進させ、細胞毒性を示し、細胞を着色させることを見出した。

【0018】
pH指示薬としては、例えば、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、メチルレッド、メチルオレンジ、ニュートラルレッド、ナフトールフタレイン、クレゾールレッド、リトマス等が挙げられる。また、組織染色剤としては、例えば、ヘマトキシリン、エオジン等が挙げられる。pH指示薬又は組織染色剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。色素の細胞毒性及び着色性が低いことが好ましい場合には、色素はpH指示薬であることが好ましい。

【0019】
色素として組織染色剤を用いた場合、当該色素は、生体組織固定用組成物を他の試薬と識別するための色素として機能するだけでなく、本来の組織標本の染色を行う色素としても機能することになる。組織染色剤は、本来組織標本の染色に用いられる色素であることから、顕微鏡診断等にも影響を与えることがない。

【0020】
本実施形態の生体組織固定用組成物において、色素の添加量は、生体組織固定用組成物が着色し、生体組織固定用組成物に浸漬された標本を観察することができ、他の試薬と容易に区別できる程度であれば特に制限されず、生体組織固定用組成物を基準として、例えばpH指示薬の場合は0.001~0.02w/v%程度であってもよく、例えば組織染色剤の場合は0.01~0.5w/v%程度であってもよい。ここで、色素として2種以上を使用した場合には、色素の合計量が上記の範囲となるようにするとよい。

【0021】
[生体組織固定用組成物入り容器]
1実施形態において、本発明は、容器と、前記容器内に収容された上記の生体組織固定用組成物と、封印テープとを備える、生体組織固定用組成物入り容器を提供する。

【0022】
図1は、後述する実施例で作製した、本実施形態の生体組織固定用組成物入り容器100を示す写真である。図1に示すように、生体組織固定用組成物入り容器100は、容器110と、容器110内に収容された生体組織固定用組成物120と、封印テープ130とを備える。

【0023】
容器110の材質は、生体組織固定用組成物の色が視認可能な程度に透明であるものであれば特に制限されず、例えばガラス、プラスチック等が挙げられる。しかしながら、容器110は、作業中に落として割れてしまう場合がある。容器110が割れて、保持されていた組織標本が容器から出た場合、医療現場等では検体の紛失事故となってしまう。仮に組織標本が見つかったとしても、本来容器に入っていた組織標本であるか否かの判断ができない。したがって、容器110の材質は、ガラスよりも、割れにくいプラスチックであることが好ましい。

【0024】
プラスチックとしては、試薬の容器として通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。

【0025】
容器110の形状は特に限定されず、生体組織標本を出し入れしやすい観点から、例えば円筒形状、四角柱形状等であってもよい。

【0026】
また、複数同じ形状の容器が存在すると、操作及び識別が困難になる場合があるため、複数の容器を連結してまとめた形状にすることは、作業効率を向上させる観点から有効である。

【0027】
図2(a)は、複数の容器を連結してまとめた形状の生体組織固定用組成物入り容器200を示す斜視図である。図2(b)は図2(a)のA-A線断面図である。生体組織固定用組成物入り容器200は、容器110と、容器110内に収容された生体組織固定用組成物120と、封印テープ130と蓋体140とを備える。このような形状の容器であると、関連した標本をまとめて固定することができるため、作業効率を向上させることができる。

【0028】
生体組織固定用組成物入り容器200は6ウェルプレートの形状をしているが、ウェルの数はこれに限られず、例えば12、24、48ウェル等であってもよい。また、ウェルの形状も円柱状には限られず、例えば四角柱状等であってもよい。

【0029】
本実施形態の生体組織固定用組成物入り容器は、封印テープ130を備えている。このため、生体組織を固定する場合には意識的に封印テープ130を外す操作が必要であり、作業手順の確認になる。封印テープ130の形状は特に限定されず、図2(a)及び(b)に示すように、生体組織固定用組成物入り容器200の一部に貼付するものであってもよく、例えば生体組織固定用組成物入り容器200の外周を1周するものであってもよい。

【0030】
また、例えば一度外した封印テープ130は破棄するという運用を行うことにより、封印テープ130があるものは未使用であることを示し、封印テープ130が無いものは生体組織が入っていることを示すという使い方ができる。このような運用によれば、例えば使用済みの生体組織固定用組成物を用いて別の生体組織を固定してしまうことによるコンタミネーション等を防止することができる。なお、封印テープ130の材質は特に制限されず、例えば紙、樹脂フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
次に実験例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
[実験例1]
(生体組織固定用組成物の調製)
水、ホルムアルデヒド及び色素を有効成分として含有する生体組織固定用組成物を調製し、封印テープを備える容器に収容した。色素としては、ブロモチモールブルーを用いた。調製した生体組織固定用組成物は、着色していることから、他の試薬と容易に区別することができ、取り違えを抑制することができた。
【実施例】
【0033】
本生体組織固定用組成物は、長期間(6ヶ月以上)保存しても色素の退色が認められなかった。また、本生体組織固定用組成物を用いて生体組織を染色したところ、病理検査の妨げとなる色素の沈着も認められなかった。
【実施例】
【0034】
図1は、作製した生体組織固定用組成物入り容器を示す写真である。生体組織固定用組成物入り容器は、封印テープを備えることにより、未使用か使用済みかを容易に判断することができた。
【実施例】
【0035】
[実験例2]
(色素の退色の検討)
《実施例1》
20%緩衝ホルマリン溶液(武藤化学株式会社製)に0.005w/v%のブロモチモールブルーを添加し、実施例1の生体組織固定用組成物を調製した。
【実施例】
【0036】
《実施例2》
0.005w/v%のブロモチモールブルーの代わりに0.005w/v%のフェノールレッドを添加した以外は実施例1と同様にして、実施例2の生体組織固定用組成物を調製した。
【実施例】
【0037】
《比較例1》
0.005w/v%のブロモチモールブルーの代わりに0.005w/v%のメチレンブルーを添加した以外は実施例1と同様にして、比較例1の生体組織固定用組成物を調製した。
【実施例】
【0038】
《比較例2》
0.005w/v%のブロモチモールブルーの代わりに適量の赤色102号(ニュークシン)を添加した以外は実施例1と同様にして、比較例2の生体組織固定用組成物を調製した。
【実施例】
【0039】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の生体組織固定用組成物を室温で1ヶ月間放置し、退色の有無について検討した。図3(a)は室温で1ヶ月間放置後の実施例1の生体組織固定用組成物の写真であり、図3(b)は室温で1ヶ月間放置後の実施例2の生体組織固定用組成物の写真であり、図3(c)は室温で1ヶ月間放置後の比較例1の生体組織固定用組成物の写真であり、図3(d)は室温で1ヶ月間放置後の比較例2の生体組織固定用組成物の写真である。その結果、実施例1及び2の生体組織固定用組成物では色素の色調が保持されていた。これに対し、比較例1及び2の生体組織固定用組成物では色素の退色が観察された。
【実施例】
【0040】
[実験例3]
(固定した生体組織への色素の沈着の検討)
実験例2で調製した実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の生体組織固定用組成物に、生体組織標本を浸漬させて1週間放置し、生体組織標本への色素の沈着の有無について検討した。
【実施例】
【0041】
図4(a)は実施例1の生体組織固定用組成物に浸漬した生体組織標本の写真であり、図4(b)は実施例2の生体組織固定用組成物に浸漬した生体組織標本の写真であり、図4(c)は比較例1の生体組織固定用組成物に浸漬した生体組織標本の写真であり、図4(b)は比較例2の生体組織固定用組成物に浸漬した生体組織標本の写真である。その結果、実施例1及び2の生体組織固定用組成物では、生体組織標本への色素の沈着は認められなかった。これに対し、比較例1及び2の生体組織固定用組成物では、生体組織標本への色素の沈着が認められた。
【実施例】
【0042】
[実験例4]
(生きた細胞に対する色素の毒性の検討)
膵癌細胞株の培養液に色素を添加し、細胞に対する色素の毒性を検討した。色素としては、トリパンブルー、メチレンブルー、ヘマトキシリン、エオジン、フェノールレッド、クレゾールレッド、ブロモチモールブルー及びリトマスを使用した。
【実施例】
【0043】
図5(a)~(h)は、細胞の培養液への色素の添加から10~30分後に細胞の様子を観察した顕微鏡写真である。図5(a)はトリパンブルー(0.1w/v%)の結果を示し、図5(b)はメチレンブルー(0.005w/v%)の結果を示し、図5(c)はヘマトキシリン(0.1w/v%)の結果を示し、図5(d)はエオジン(0.1w/v%)の結果を示し、図5(e)はフェノールレッド(0.005w/v%)の結果を示し、図5(f)はクレゾールレッド(0.005w/v%)の結果を示し、図5(g)はブロモチモールブルー(0.005w/v%)の結果を示し、図5(h)はリトマス(0.005w/v%)の結果を示す。
【実施例】
【0044】
図5(a)~(h)において、生存細胞は無色透明であり、死細胞には色素による着色が認められた。その結果、フェノールレッド、クレゾールレッド、ブロモチモールブルー及びリトマスは、細胞毒性をほとんど示さないことが明らかとなった。
【実施例】
【0045】
[実験例5]
(ブロモチモールブルーの最適濃度の検討1)
ブロモチモールブルー及びメチレンブルーを、図6に示す各濃度で膵癌細胞株の培養液に添加し、色素の添加から10~30分後に細胞の様子を観察した。
【実施例】
【0046】
図6(a)及び(b)は、色素の添加から10~30分後に細胞の様子を観察した顕微鏡写真である。図6(a)はブロモチモールブルーの結果を示し、図6(b)はメチレンブルーの結果を示す。
【実施例】
【0047】
その結果、ブロモチモールブルーは、0.001~0.015v/w%程度の濃度範囲で細胞毒性を示さず、標本の観察にも適していることが明らかとなった。一方、メチレンブルーは、いずれの濃度においても生細胞が青く染色され、細胞毒性が認められた。
【実施例】
【0048】
[実験例6]
(ブロモチモールブルーの最適濃度の検討2)
ブロモチモールブルー及びメチレンブルーを、図7に示す各濃度で20%緩衝ホルマリン溶液(武藤化学株式会社製)に添加し、色調を観察した。図7(a)はブロモチモールブルーの結果を示し、図7(b)はメチレンブルーの結果を示す。その結果、いずれの色素においても、生体組織固定用組成物に浸漬された標本を観察することができる濃度は、0.015w/v%程度以下であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、他の試薬との取り違えを抑制することができる生体組織固定用組成物及び生体組織固定用組成物入り容器を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
100,200…生体組織固定用組成物入り容器、110…容器、120…生体組織固定用組成物、130…封印テープ、140…蓋体。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6