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明細書 :紅藻シアニジウム目のための脂質生産用培地組成物および脂質生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6359314号 (P6359314)
公開番号 特開2015-192598 (P2015-192598A)
登録日 平成30年6月29日(2018.6.29)
発行日 平成30年7月18日(2018.7.18)
公開日 平成27年11月5日(2015.11.5)
発明の名称または考案の名称 紅藻シアニジウム目のための脂質生産用培地組成物および脂質生産方法
国際特許分類 C12N   1/12        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
FI C12N 1/12 B
C12P 7/64
請求項の数または発明の数 12
全頁数 15
出願番号 特願2014-071081 (P2014-071081)
出願日 平成26年3月31日(2014.3.31)
審査請求日 平成29年3月27日(2017.3.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
発明者または考案者 【氏名】黒岩 常祥
【氏名】大沼 みお
【氏名】黒岩 晴子
【氏名】井元 祐太
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100187540、【弁理士】、【氏名又は名称】國枝 由紀子
審査官 【審査官】宮岡 真衣
参考文献・文献 特開平08-009963(JP,A)
特開2006-230266(JP,A)
特開2006-230267(JP,A)
米国特許出願公開第2012/0164062(US,A1)
特開2013-067826(JP,A)
ALLEN M. et al,Archiv Fur Mikrobiologie,Bd.32(1959),S.270-277
調査した分野 C12N 1/12
C12P 7/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
NEDO成果報告書データベース
科学研究費助成事業データベース
特許請求の範囲 【請求項1】
紅藻シアニジウム目に脂質を生産させるための培地組成物であって、以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含み、ここで培地組成物を培地として使用する際において、培地のpHが1~3であり、
紅藻シアニジウム目が、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、およびガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)からなる群より選択される一以上の種であり、
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として50mM~80mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、培地組成物。
【請求項2】
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の培地組成物。
【請求項5】
液体の形状である、請求項1~4のいずれかに記載の培地組成物。
【請求項6】
粉末の形状である、請求項1~4のいずれかに記載の培地組成物。
【請求項7】
40℃以上の温度において紅藻シアニジウム目の培養を行うための、請求項1~6のいずれかに記載の培地組成物。
【請求項8】
(1)以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含む培地であって、pHが1~3である培地中で、紅藻シアニジウム目を培養する工程;および
(2)培養した紅藻シアニジウム目由来の脂質を回収する工程
を含む、脂質の生産方法であって、
紅藻シアニジウム目が、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、およびガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)からなる群より選択される一以上の種であり、
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として50mM~80mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、方法
【請求項9】
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(1)の培地において、アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
工程(1)の培地が、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
紅藻シアニジウム目が、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-3377として寄託されたシアニディオシゾン・メローラエ、または独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-551もしくはNIES-2137として寄託されたシアニジウム・カルダリウムである、請求項8~11のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、紅藻シアニジウム目に脂質を大量に生産させるための培地組成物および脂質の大量生産方法に関する。より詳細には、紅藻シアニジウム目の細胞増殖を維持したまま、脂質を大量に生産させるための培地組成物および脂質の大量生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急激な工業化などにより大気中の二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物が増加して、地球温暖化や海洋の酸性化が進んでおり、一方で化石燃料も近い将来枯渇すると考えられている。生物由来の脂質は、化石燃料に代わるエネルギーとして利用でき、特に光合成生物由来の脂質は、二酸化炭素の排出を削減することが可能なため、光合成生物由来のバイオマスの燃料の開発が進められている。高い二酸化炭素固定能を持つ藻類は、地球上の光合成による全バイオマス生産の約半分を占め、食料生産と競合しないため、バイオマス由来の燃料に適している。地球表面の7割を占める海洋では、紅藻と、その二次共生により誕生した珪藻や褐藻類などが生態系で重要な位置を占め、海洋バイオマスの基盤をなしているが、地球温暖化と海洋の酸性化により、その生産性が落ちている。
【0003】
こうした問題を解決するには、高温や酸性等の悪環境に耐えながら、二酸化炭素を固定して、バイオ燃料の原料となるバイオマスを生産する生物の開発と利用が重要である。実用化には、藻類の生産性向上と開放系培養を可能にする高環境耐性化が必須である。
【0004】
藻類において、バイオ燃料の原料となる脂質は、油滴という細胞小器官に蓄積される。緑藻クラミドモナスの油滴には、約90%のトリアシルグリセロール、約10%の遊離脂肪酸が含まれる(非特許文献1)。油滴は、脂質の生産量に応じて、その数と体積を変化させる。クラミドモナスやドゥナリエラなどの緑藻類において、窒素や硫黄などの飢餓条件で油滴を生産させることが可能であるが、いずれの条件でも生育が阻害され、細胞増殖が停止してしまうか、または非常に遅くなる(非特許文献2~4)。例えば、クラミドモナスの野生型において、窒素を含む培地から窒素飢餓培地に移すと4日後の油滴生産量は、開始点と比較して5倍になり、4日後の細胞乾燥重量に対する総脂肪酸の割合は、窒素を含む培地(9%)と比較して12%に上昇する(非特許文献3)。しかし細胞は、膨張のためODは倍になるが、細胞分裂は停止する(非特許文献3)。また、ボトリオコッカスは、多くの脂質を細胞内の油滴と細胞外マトリックスに蓄積するが、倍加時間が1週間、至適条件でも約二日と増殖が非常に遅い(非特許文献5)。このように細胞増殖と、油滴の形成にはトレードオフの関係があると考えられてきた。
【0005】
例えば窒素の場合について、これまでに報告されている栄養源として使われるものはアンモニウムイオンと硝酸イオンがある。緑藻類、紅藻類ともに一番効率良く資化できる窒素源はアンモニウムイオンであり、細胞増殖が一番速い。しかし、アンモニウムイオンを含む培地で培養すると、油滴の生産は殆ど見られない。培地からアンモニウムイオンを抜くことによって、油滴を生産するが、増殖は停止する。藻類は、アンモニウムイオンの代わりに硝酸イオンを、唯一の窒素源として利用して増殖することができる。海産性緑藻ドゥナリエラでは、硝酸培地へ塩化ナトリウムの添加によって油滴形成量が増加する。しかし、解析時の培地中の硝酸イオンは、ほぼ消費され切っているため、窒素飢餓応答が起こっていると考えられる(非特許文献4)。窒素飢餓を起こさずに油滴を生産させる方法も検討されているが、成功には至っていない。例えば以下の例がある。窒素源としてアンモニウムイオンを含む培地でクラミドモナスを培養し、mid-log phaseとなった培養液にNaClを添加した場合、脂質量が窒素飢餓の場合と同レベルまで上昇したが、細胞の増殖も窒素飢餓時と同様に停止した(非特許文献6)。ほかにも、窒素源を添加した培地で藻類を培養する方法が考案されたが(特許文献2、3)、ある程度細胞が増殖すると、窒素栄養が消費し尽くされ、窒素飢餓状態となる。このように、増殖の早い培地で藻類を培養し、窒素源を消費し尽くさせた後に、自然に窒素飢餓の状況にするという方法では、培養開始時の細胞の状態や細胞数等で効率が変化し得るため、安定した収率を得ることについての懸念が存在する。
【0006】
従って、工業的に油滴を生産させる場合、既知の培地を用いると、細胞を充分に増殖させておいた後に栄養飢餓条件へ培地を置換または塩の添加する、または培養に非常に時間がかかる培地で培養する必要があり、手間、時間、コスト面等で適していない。
【0007】
さらに、多くの藻類の場合、pH中性、室温付近で増殖するため、コストの低い開放培養系では他生物混入のリスクがあり、大量培養するのが困難であるという問題がある。
原始的な紅藻のシアニジウム属は、高温強酸性の温泉という極限環境(30~60℃の高温、pH 0.5~5.0の酸性条件)に棲息する単細胞性紅藻であり、バイオマス由来燃料への利用に適した生物である。紅藻のシアニジウム属には、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)が含まれる。なお、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)を、以降、シゾンと言う。
【0008】
特にシゾンは、細胞壁を持っていないため、細胞破砕が容易で、細胞内物質を取り出しやすく、バイオマス生産の基盤となる関連物質の単離などに有利であるとともに、本願の発明者らによって、ゲノムが100%完全解読されており、マイクロアレイや質量分析を用いた高精度なオミクス解析が可能である。さらに遺伝子改変技術が開発されているので、ゲノム情報を基礎及び応用研究に利用することができる。他のシアニジウム属であるシアニジウム・カルダリウムとガルデリア・スルフラリアもゲノム情報が明確で、シゾンと同様に単純な構造である。これらは種ごとに、温度やpH、金属濃度等の可能生育条件の範囲、特徴が異なり、極限環境で生息する生命体の特性の解明と、その高環境耐性の利用などの研究に有用である。
【0009】
紅藻のシアニジウム属は、MA2培地を用いた通常培養では、脂質の検出に用いられる蛍光色素BODIPYで染色される油滴様顆粒が細胞あたりに0~2個ある(非特許文献7、8)。シアニジウム属の油滴も、色素の染色性の類似性から、クラミドモナスの油滴と同様の組成で、大部分がトリアシルグリセロールと考えられる。シゾンにおいても窒素フリー培地を用いた窒素飢餓条件では、緑藻類同様に生育阻害が見られることが知られている(非特許文献9)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】WO 2013/129289 A1
【特許文献2】特開2012-44923
【特許文献3】WO 2013/042340 A1
【0011】

【非特許文献1】Wang Z.T., Ullrich N., Joo S., Waffenschmidt S., Goodenough U., "Algal lipid bodies: stress induction, purification, and biochemical characterization in wild-type and starchless Chlamydomonas reinhardtii", Eukaryot Cell. (2009) 8:1856-68.
【非特許文献2】Msanne J., Xu D., Konda A.R., Casas-Mollano J.A., Awada T., Cahoon E.B., Cerutti H., "Metabolic and gene expression changes triggered by nitrogen deprivation in the photoautotrophically grown microalgae Chlamydomonasreinhardtii and Coccomyxa sp. C-169.", Phytochemistry(2012) 75:50-59.
【非特許文献3】James G.O., Hocart C.H., Hillier W., Chen H., Kordbacheh F., Price G.D., Djordjevic M.A., "Fatty acid profiling of Chlamydomonas reinhardtii under nitrogen deprivation.", Bioresour Technol. (2011) 102:3343-3351.
【非特許文献4】Takagi M., Karseno, Yoshida T., “Effect of salt concentration on intracellular accumulation of lipids and triacylglyceride in marine microalgae Dunaliellacells.” J. Biosci. Bioeng. (2006) 101(3) : 223-226.
【非特許文献5】Banerjee A., Sharma R., Chisti Y., Banerjee U.C., "Botryococcus braunii: a renewable source of hydrocarbons and other chemicals.", Critical Reviews in Biotechnology, (2002) 22:245-279.
【非特許文献6】Siaut M., Cuine S., Cagnon C., Fessler B., Nguyen M., Carrier P., Beyly A., Beisson F., Triantaphylides C., Li-Beisson Y., Peltier G., "Oil accumulation in the model green alga Chlamydomonasreinhardtii: characterization, variability between common laboratory strains and relationship with starch reserves.", BMC Biotechnol., (2011) 11:7 doi:10.1186/1472-6750-11-7.
【非特許文献7】Ohnuma M., Yokoyama T., Inouye T., Sekine Y., Tanaka K., "Polyethylene glycol (PEG)-mediated transient gene expression in a red alga, Cyanidioschyzonmerolae 10D.", Plant Cell Physiol. (2008) 49:117-120.
【非特許文献8】Kuroiwa T., Ohnuma M., Imoto Y., Misumi O., Fujiwara T., Miyagishima S.Y., Sumiya N., Kuroiwa H. “Lipid droplets of bacteria, algae and fungi and a relationship between their contents and genome sizes as revealed by BODIPY and DAPI staining.” Cytologia, (2012) 77(3):289-299.
【非特許文献9】Imamura S., Kanesaki Y., Ohnuma M., Inouye T., Sekine Y., Fujiwara T., Kuroiwa T., Tanaka K., "R2R3-type MYB transcription factor, CmMYB1, is a central nitrogen assimilation regulator in Cyanidioschyzon merolae.", Proc Natl Acad Sci U S A. (2009) 106:12548-12553.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、藻類の増殖を維持しながら、脂質を大量に生産させることのできる培地組成物および脂質の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、窒素栄養源となる硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩を十分に含み、さらにリン酸等の無機酸の含量を調節した強酸性の培地組成物であって、塩化ナトリウム等のナトリウム塩を含む培地組成物を用いて紅藻シアニジウム目を培養すると、驚くべきことに、紅藻シアニジウム目の増殖を維持しながら、脂質を大量に生産させることができることを見出した。この培地組成物を用いて紅藻シアニジウム目を培養すると、従来の培地を用いた場合と比べ、細胞増殖と脂質の生産量が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、これらに限定されるわけではないが以下を包含する。
[1]
紅藻シアニジウム目に脂質を生産させるための培地組成物であって、以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;および
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含み、ここで培地組成物を培地として使用する際において、培地中の無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、培地のpHが1~3である、培地組成物。
[2]
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、[1]に記載の培地組成物。
[3]
アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、[1]に記載の培地組成物。
[4]
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として20mM~50mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1mM~300mMである、[1]~[3]のいずれかに記載の培地組成物。
[5]
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として25mM~40mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、[4]に記載の培地組成物。
[6]
クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の培地組成物。
[7]
液体の形状である、[1]~[6]のいずれかに記載の培地組成物。
[8]
粉末の形状である、[1]~[6]のいずれかに記載の培地組成物。
[9]
40℃以上の温度において紅藻シアニジウム目の培養を行うための、[1]~[8]のいずれかに記載の培地組成物。
[10]
(1)以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含み、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、pHが1~3である培地中で、紅藻シアニジウム目を培養する工程;および
(2)培養した紅藻シアニジウム目由来の脂質を回収する工程
を含む、脂質の生産方法。
[11]
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、[10]に記載の方法。
[12]
工程(1)の培地において、アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、[10]に記載の方法。
[13]
工程(1)の培地において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として20mM~50mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1mM~300mMである、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]
工程(1)の培地において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として25mM~40mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、[13]に記載の方法。
[15]
工程(1)の培地が、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、[10]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]
紅藻シアニジウム目が、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、およびガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)からなる群より選択される一以上の種である、[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]
紅藻シアニジウム目が、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-3377として寄託されたシアニディオシゾン・メローラエ、または独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-551もしくはNIES-2137として寄託されたシアニジウム・カルダリウムである、[16]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、増殖の速い紅藻シアニジウム目を用いて、その増殖を阻害することなく、脂質を大量に生産させることができる。また、本発明の培地組成物は、使用時のpHが1~3と強酸性であり、培養温度を40℃以上という高温とすることもできるため、他生物混入のリスクを低減した開放培養系に効果的に用いることができる。このように、本発明は藻類由来バイオマス燃料の原料となる脂質の効率のよい製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例で用いた培地の組成を示す。
【図2】図2は、各培地におけるシゾンの培養16日目の様子を培養0日目と比較した様子、および培養16日目のOD750を示す。
【図3】図3は、各培地で培養したシゾン細胞の生育度として、OD750値を示したグラフを示す。
【図4】図4は、各培地で培養したシゾンの油滴をBODIPYで染色して細胞あたりの油滴数を計数した結果を示す。
【図5】図5は、各培地で培養したシゾン細胞のBODIPY染色像を示す。細胞中の白い滴様の構造が油滴を示す。Scale Bar 2 μm(左)、1 μm(右)。
【図6】図6は、各培地で培養したシゾンの細胞あたりの脂質量を示したグラフを示す。
【図7】図7は、培養16日目における培地1 mlあたりのシゾンの総脂質生産量を各培地ごとに比較したグラフを示す。
【図8】図8は、シアニジウム・カルダリウムおよびガルデリア・スルフラリアを各培地で培養した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<紅藻シアニジウム目>
紅藻は紅色植物門に属する藻類をいう。本明細書においては、藻類のうち、原始紅藻のシアニジウム目に分類することのできるものを紅藻シアニジウム目と呼ぶ。紅藻シアニジウム目は、自然界においては常温、中性といった通常条件から、高温や強酸性の極限環境にまで広く棲息する単細胞の微細藻類である。

【0018】
本発明には高温強酸性で生育可能ないずれの紅藻シアニジウム目を用いてもよいが、たとえばシアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)等のシアニディオシゾン属の紅藻、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)等のシアニジウム属の紅藻、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)等のガルデリア属の紅藻、およびこれらの変異株および形質転換体、ならびに一以上のこれらの組み合わせを用いることができる。

【0019】
紅藻シアニジウム目は、高温、高硫黄、低pHの環境、たとえば硫酸塩泉から、既報に従って採集し(De Luca P. et al., 1978, Webbia, 33, 37-44)、アレン培地または改変アレン培地において維持培養することができる(Allen, M. B., 1959, Arch. Mikrobiol., 32, 270-277;Kuroiwa, T. et al., 1993, Protoplasma, 175, 173-177;Ohnuma M. et al., 2008, Plant Cell Physiol., 117-120;Kuroiwa T. et al., 2012, Cytologia, 77(3), 289-299)。

【0020】
また、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)については、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-3377として寄託されたシアニディオシゾン・メローラエ 10D株を用いてもよいし、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)に寄託されたCyanidioschyzon merolae 10D株も用いてもよい。また、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)については、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-551として寄託された株、およびNIES-2137として寄託された株等を用いてもよい。
<紅藻シアニジウム目に脂質を生産させるための培地組成物>
本発明の一態様は、紅藻シアニジウム目に脂質を生産させるための培地組成物に関する。

【0021】
紅藻シアニジウム目は、細胞内に「油滴」と呼ばれる細胞小器官を有し、その中に脂質を蓄積する。本発明の培地組成物を用いて紅藻シアニジウム目を培養することにより、油滴の数、体積、または油滴の数および体積が増加し、紅藻シアニジウム目の細胞内に脂質が大量に蓄積される。また、本発明の培地組成物を用いて紅藻シアニジウム目を培養すると、細胞の増殖が良好に維持されるため、大量に脂質を蓄積した紅藻シアニジウム目を大量に得ることができる。

【0022】
本発明の培地組成物は、アンモニウム塩、無機酸、ならびに塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含み、培地組成物を培地として使用する際において、培地中の無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、培地のpHが1~3であることを特徴とする。

【0023】
本発明において、基礎培養体とは、従来、紅藻シアニジウム目を培養することができることが知られている培地もしくはその濃縮物、希釈物または乾燥物であればどのようなものを用いてもよい。本明細書において、改変された基礎培養体とは、基礎培養体に1以上の追加の成分を加えたもの、基礎培養体中の1以上の成分の含量を増加または減少させたもの、および基礎培養体中の1以上の成分の含量を増加または減少させたものに1以上の追加の成分を加えたものをいう。本発明における基礎培養体の例としては、アレン培地または改変アレン培地(Allen, M. B., 1959, Arch. Mikrobiol., 32, 270-277;Kuroiwa, T. et al., 1993, Protoplasma, 175, 173-177;Ohnuma M. et al., 2008, Plant Cell Physiol., 117-120;Kuroiwa T. et al., 2012, Cytologia, 77(3), 289-299)を挙げることができるが、これらに限定されない。例として、改変アレン培地2(MA2培地、Ohnuma M. et al., 2008, Plant Cell Physiol., 117-120)の組成を以下に示す。

【0024】
【表1】
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【0025】
本発明の培地組成物は、上記基礎培養体がアンモニウム塩、無機酸、ならびに塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩の組み合わせを含むよう改変されたものを含み、培地組成物を培地として使用する際において、培地中の無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、培地のpHが1~3であることを特徴とする。

【0026】
本発明の培地組成物を培地として使用することには、培地組成物にそのまま紅藻シアニジウム目を添加して培養すること、本発明の培地組成物を適切な溶媒で希釈したものに紅藻シアニジウム目を添加して培養すること、粉末等の固体形状である培地組成物を適切な溶媒に溶解したものに紅藻シアニジウム目を添加して培養することを含む。本明細書において「培地組成物を培地として使用する際」とは、培地組成物にそのまま紅藻シアニジウム目を添加して培地として用いるか、培地組成物を希釈したものを培地として用いるか、培地組成物を溶媒に溶解して用いるか、培地組成物に他の担体を混合したものを培地として用いるかを問わず、紅藻シアニジウム目の細胞体を培養のために培地に添加する時点、または紅藻シアニジウム目の細胞体を培地に添加した直後の時点をいう。

【0027】
本発明に用いるアンモニウム塩としては、アンモニアと酸または酸性酸化物との反応によって生じる、アンモニウムイオンを含むイオン結晶であれば何を用いてもよいが、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩を例示することができる。本発明には、硫酸アンモニウムを好適に用いることができる。本発明の培地組成物に含まれるアンモニウム塩の含量は、培地組成物を培地として使用する際における培地中の濃度がアンモニウムイオン濃度として20mM~50mMであることが好ましく、20mM~45mMであることがより好ましく、25mM~40mMであることがさらに好ましい。

【0028】
本発明に用いる無機酸としては、無機化合物の酸のうちリン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせが含まれていれば何を用いてもよい。必要に応じて、硫酸、塩酸、硝酸、ホウ酸、およびこれらの金属塩からなる群より選択される1以上の無機酸と、リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせとを組み合わせて用いてもよい。リン酸およびその金属塩の例としては、リン酸二水素カリウムを挙げることができるが、これに限定されない。本発明の培地組成物において、無機酸は、使用時における濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであることが好ましく、0.6μM~0.9mMであることがより好ましく、0.8μM~0.8mMであることがさらに好ましい。

【0029】
本発明の培地組成物に含まれる基礎培養体は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩を含むよう改変されていることを特徴とする。ナトリウム塩は、培地組成物を培地として使用する際における培地中の濃度がナトリウムイオン濃度として1mM~300mMであることが好ましく、1.2mM~200mMであることがより好ましく、1.5mM~150mMであることがさらに好ましい。

【0030】
本発明の培地組成物は、使用時におけるpHが0.5~5であることが好ましく、1~3であることがさらに好ましい。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、目的に応じて適宜pHを調整することができる。

【0031】
本発明の培地組成物には、上記の成分のほかに、有機酸を含んでいてよい。本発明の培地組成物に含まれる有機酸は、有機物の酸であれば何を用いてもよいが、たとえばクエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸を例示することができる.本発明には、クエン酸を好適に用いることができる。この場合、クエン酸の濃度は適宜設定してよいが、たとえば培地組成物を培地として使用する際における培地中の濃度が0.01~10重量%とすることが好ましく、0.05~8.0重量%とすることがより好ましく、0.1~5.0重量%とすることがさらに好ましい。

【0032】
本発明の培地組成物は、公知の添加剤、たとえばグルコース、ガラクトース、マンニトール等の糖を含む炭素源;亜鉛、マンガン、セレン等の微量金属元素;ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質;フェノールレッド、ブロモフェノールブルー等のpH指示薬を含んでいてよい。

【0033】
本発明の培地組成物の形状は、たとえば液体の形状、ペレット状、タブレット状、顆粒状等の固体の形状、および粉末の形状とすることができるが、これらに限定されない。
本発明の培地組成物は、液体の形状としたものにそのまま紅藻シアニジウム目を添加して液体培地として用いることができる。また、本発明の培地組成物は、真空濃縮等の方法によって濃縮した液体の形状としてもよく、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等の方法によって固体、または粉末の形状としてもよい。濃縮または乾燥した培地組成物は、適切な溶媒で希釈するか、適切な溶媒に溶解したものに紅藻シアニジウム目を添加して液体培地として用いることができる。さらに、本発明の培地組成物、もしくはその希釈物または溶解物は、さらに担体と混合して、プレート培地等の固形培地または半固形培地として用いてもよい。固形培地または半固形培地のために本発明の培地組成物に混合することのできる担体としては、ゲランガム、アガロース、寒天等の多糖類を例示することができるが、40℃以上の高温で培養を行う場合は、ゲランガムを用いることが好ましい。
<脂質の生産方法>
本発明の別の態様は、上記培地組成物を用いた脂質の生産方法に関する。具体的には
(1)アンモニウム塩、および無機酸の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含む培地であって、培地中の無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、培地のpHが1~3である培地中で紅藻シアニジウム目を培養する工程;および
(2)培養した紅藻シアニジウム目由来の脂質を回収する工程
を含む、脂質の生産方法に関する。

【0034】
ここで、工程(1)における紅藻シアニジウム目の培養条件は、当業者が適宜設定することができる。たとえば紅藻シアニジウム目の培養温度は、40℃~50℃とすることができ、42℃~45℃としてもよい。また、通気条件としては、好気条件および嫌気条件のいずれをも用いることができる。光の照射条件としては、光条件および暗条件のいずれをも用いることができるが、光量5000(1X)を維持することが好ましい。また、
本発明の方法によれば、紅藻シアニジウム目の良好な増殖を保つことができるため、培地中に含まれる紅藻シアニジウム目の細胞濃度に制限はない。

【0035】
工程(2)において培養した紅藻シアニジウム目由来の脂質を回収する方法は、目的と用途に応じて当業者が適宜決定することができる。工程(1)で培養した紅藻シアニジウム目の細胞体は大量の脂質を含むため、該細胞体を含む培養物をそのまま、紅藻シアニジウム目由来の脂質として用いてよい。また、培養物を遠心分離や濾過分離等に供して、細胞体を濃縮した濃縮物を、紅藻シアニジウム目由来の脂質として用いることもできる。また、工程(1)で培養した紅藻シアニジウム目の細胞体を含む培養物、または細胞体の濃縮物や破砕物を、必要に応じて乾燥させたのち、適切な有機溶媒で処理して脂質を抽出してもよい。
<紅藻シアニジウム目の細胞増殖および脂質生産の定量>
本発明は、紅藻シアニジウム目の良好な増殖を維持しつつ、脂質を大量に生産させることのできる培地組成物および脂質の生産方法に関する。

【0036】
紅藻シアニジウム目の増殖の指標として、培地中の紅藻シアニジウム目の細胞数を測定することができる。たとえば、紅藻シアニジウム目を培養した、あるいは培養中の培地の750 nmにおける光学密度(Optical Density、OD)を、分光光度計等を用いて測定することにより、紅藻シアニジウム目細胞の数を見積もることができる。たとえば、シゾンではODをHITACHI U-1800 Spectrophotometerで測定した場合、培地1mlあたりの細胞数=2×10×OD750+3×10として求めることができる。

【0037】
また、紅藻シアニジウム目による脂質生産の指標としては、たとえば、紅藻シアニジウム目の細胞小器官である油滴をBODIPY等の脂質特異的な色素で染色し、油滴の細胞あたりの数を定量する方法(Kuroiwa T. et al., 2012, Cytologia, 77(3), 289-299)や、紅藻シアニジウム目から抽出した脂質の量をTLC分析、ガスクロマトグラフィー等によって定量する方法等が挙げられる。

【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
紅藻シアニジウム目および培地
紅藻シアニジウム目としては、シアニディオシゾン・メローラエ(以後、単にシゾンという)、シアニジウム・カルダリウム、およびガルデリア・スルフラリアを用いた。シゾンは、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-3377として寄託された株と同じものを用いた。
【実施例】
【0040】
本実施例で用いたLDQ1培地、LDQ2培地の詳細な組成は図1の表に示した。LDQ1培地は、KH2PO4をMA2培地(非特許文献7)の100分の1濃度、すなわち0.08 mM含み、NaClを15 mM添加している。LDQ2培地は、KH2PO4をMA2培地(非特許文献7)の100分の1濃度、すなわち0.08 mM含み、(NH4)2SO4をMA2培地の8分の5濃度、すなわち25 mMふくむ。LDQ2培地はさらにNa2SO4をN-(窒素フリー)培地(非特許文献9)の8分の3濃度、すなわち15 mM含んでいる。本実施例では、濃硫酸を1リットルあたり0.3 ml添加することにより、pHを2程度に調整した。
シアニディオシゾン・メローラエ(シゾン)の培養実験
シゾン細胞をOD750=0.5になるようLDQ1培地、LDQ2培地で希釈した後、24穴プレートに2 mlずつ分注し、アネロパウチケンキ(三菱ガス化学株式会社製 二酸化炭素発生剤、酸素吸収剤)とともに密封して40℃、連続明条件下で培養した。対照として、アンモニウムイオンを窒素源とするMA2培地と窒素源を含まない窒素飢餓培地のN-培地を用いた(非特許文献7、8)。16日後に増殖の指標として各培養のOD750を測定した(図2)。また、BODIPY染色後、細胞あたりの油滴の数を計数し、平均値を算出した(n10)。さらに、顕微定量法により油滴中の油の生産量を比較した。
【実施例】
【0041】
実験の結果、図3のグラフに示すように、LDQ1培地、LDQ2培地で培養すると、対照となるMA2培地ほどの増殖速度はないものの、窒素飢餓となるN-培地の約5~6倍の細胞の増殖が見られた。
【実施例】
【0042】
細胞中の平均の油滴の数に関しては、図4に示すように、LDQ1培地、LDQ2培地では8個以上の形成が見られたが、MA2培地では殆ど形成されず、N-培地では3個前後形成されるに留まった。各培地で培養した細胞の油滴をBODIPYで染色した後の蛍光顕微鏡写真を図5に示した。LDQ1培地、LDQ2培地で培養した場合、分裂期の細胞、間期の細胞ともに大量に油滴を生産していた。MA2培地で培養した場合は、間期の細胞と同様、分裂期の細胞にも殆ど油滴が生産されていなかった。N-培地では、間期の細胞に数個の油滴が見られたが、細胞が小さくなり、分裂期の細胞自体が見られなかった。これら油滴の蛍光強度を顕微定量法により定量したのが図6のグラフである。図6に示すように、LDQ1培地、LDQ2培地ともに油滴量はMA2培地の約100倍、N-培地の約5~6倍となった。
【実施例】
【0043】
また、MA2培地、N-培地、LDQ1培地、およびLDQ2培地のそれぞれについて、培養16日目における培地1 mlあたりの総脂質生産量(細胞量(OD750)×細胞あたりの脂質量として計算)を図7に示す。LDQ1培地またはLDQ2培地でシゾンを培養した場合、MA2培地またはN-培地でシゾンを培養した場合と比べて、脂質の生産を顕著に増加させることができることが示された。
【実施例】
【0044】
以上のように、LDQ1やLDQ2培地を用いることにより、細胞増殖を阻害することなく、紅藻シアニジウム目に脂質を大量に生産させることが可能になった。
このように、窒素源としてアンモニウムイオンを添加した培地でも、リン酸濃度を減らし、塩を添加することにより、細胞増殖を維持したまま油滴を大量に生産させることが可能であることがわかった。特に、リン酸と塩の濃度が重要であり、アンモニウムイオンが40 mM含まれるとき、リン酸を0.8 mM以上含むと細胞増殖は良いが油滴は生産せず、0.8 μM以下しか含まないと細胞増殖が阻害されることを実験により確認した。
【実施例】
【0045】
NaClを添加したLDQ1培地とNa2SO4を添加したLDQ2培地でともに油滴の生産が著しく増加したことから、油滴の生産には塩化物イオンや硫酸イオンではなくナトリウムイオンが有効である。LDQ1培地を改変してNaCl濃度を変化させたところ、NaClを1.5 mM以上含むと細胞あたりの油滴数が倍になり、徐々に増加して150 mMでは3倍になることを実験により確認した。
シアニジウム・カルダリウムおよびガルデリア・スルフラリアの培養実験
また、シゾン以外の紅藻シアニジウム目として、シアニジウム・カルダリウムおよびガルデリア・スルフラリアについても、シゾンと同様に培養実験を行った。その結果を図8に示す。LDQ1培地またはLDQ2培地を用いてこれらの紅藻シアニジウム目を培養した場合、細胞の増殖を維持しつつ、MA2培地またはN-培地でシゾンを培養した場合と比べて、油滴の生産を顕著に増加させることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の培地組成物および脂質の生産方法は、増殖速度の速い紅藻シアニジウム目を増殖させ、かつ脂質を蓄積させることができるため、バイオマス燃料の原料等となりうる脂質を極めて高効率に製造することができる。また、本発明の培地組成物および脂質の生産方法は、高温、強酸性条件下で紅藻シアニジウム目を増殖させ、かつ脂質を蓄積させることができるため、野外における開放培養系においても紅藻シアニジウム目を優占的に培養することができるので、バイオマス燃料の原料等となり得る脂質を極めて低コストで製造することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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