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明細書 :セシウムの固定化剤の製造方法、およびセシウムの固定化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6406663号 (P6406663)
公開番号 特開2016-045017 (P2016-045017A)
登録日 平成30年9月28日(2018.9.28)
発行日 平成30年10月17日(2018.10.17)
公開日 平成28年4月4日(2016.4.4)
発明の名称または考案の名称 セシウムの固定化剤の製造方法、およびセシウムの固定化方法
国際特許分類 G21F   9/12        (2006.01)
G21F   9/28        (2006.01)
G21F   9/16        (2006.01)
B01J  20/02        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
FI G21F 9/12 501B
G21F 9/12 501J
G21F 9/28 521A
G21F 9/16 521B
B01J 20/02 A
B01J 20/30
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2014-167789 (P2014-167789)
出願日 平成26年8月20日(2014.8.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 (1)一般社団法人セメント協会、第68回セメント技術大会講演要旨、244~245頁、平成26年4月30日発行
審査請求日 平成29年6月29日(2017.6.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
発明者または考案者 【氏名】市川 恒樹
【氏名】山田 一夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100141966、【弁理士】、【氏名又は名称】新井 範彦
【識別番号】100103539、【弁理士】、【氏名又は名称】衡田 直行
審査官 【審査官】鳥居 祐樹
参考文献・文献 特開2013-231742(JP,A)
調査した分野 G21F 9/10- 9/12
G21F 9/28
B01J 20/02-20/20
B01J 20/30-20/34
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)~(c)のいずれかのフェロシアン化ニッケルの生成工程を含む、セシウムの固定化剤の製造方法。
(a)0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程
(b)0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、固体状のフェロシアン化金属塩とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程
(c)固体状のニッケル塩と、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程
【請求項2】
フェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上となるように、セシウム含有水と、請求項1に記載のセシウムの固定化剤の製造方法を用いて製造したセシウムの固定化剤とを混合して、該セシウム含有水中のセシウムを固定化する、セシウムの固定化方法。
【請求項3】
pHが13.3を超えるセシウム含有水に対しては、塩化カルシウムを添加してpHを12.7以下にした後、請求項1に記載のセシウムの固定化剤の製造方法を用いて製造したセシウムの固定化剤を混合する、請求項に記載のセシウムの固定化方法。
【請求項4】
さらに、セシウムを固定化した後の前記セシウム含有水と、セメントとを混合して、該セシウム含有水を固型化する、請求項2または3に記載のセシウムの固定化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性の条件下でも高い安定性および固定化能を有するセシウムの固定化剤の製造方法、および該固定化剤を用いたセシウムの固定化方法に関する。

【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の事故により、放射性セシウム(Cs-137およびCs-134)が広範囲に飛散したため、福島県に留まらず首都圏の焼却場においても、放射性セシウムが濃縮した焼却灰が大量に発生するようになった。そして、前記事故以来、多くの焼却灰が焼却場の敷地内に仮置きされているが、高放射線量の焼却灰は受け入れ先がなく、このままでは仮置き場の確保も難しくなる。ちなみに、横浜市が公開している「放射性物質を含む汚泥焼却灰等の取扱いに関する説明資料」によれば、横浜市では下水汚泥焼却灰が毎日約40トン発生し、改良土の製造に使用される分を除く約30トンが日々残るため、平成24年3月末時点で約10900トンの焼却灰を保管しているという。したがって、現在、放射性セシウムを含む焼却灰の処理は、解決すべき喫緊の社会的課題になっている。
【0003】
焼却灰は、通常、防塵や減容化のため、焼却灰の質量の数%~50%程度のセメントを用いて固型化処理されている。放射性セシウムを含む焼却灰の固型化物は、放射性セシウムの漏出を防止することが重要であるが、焼却灰には天然の安定セシウムも0.1~10ppm程度含有されており、その化学的挙動は放射能の有無に関わらず同一であるため、漏出防止は放射性セシウムおよび安定セシウム(以下、単に「セシウム」という。)の双方に対して行う必要がある。
かかる状況において、セシウムの固定化剤の一つとして、フェロシアン化金属化合物が提案されている。例えば、特許文献1に記載の磁性吸着剤は、磁性体粒子と、不溶性フェロシアン化金属化合物等のセシウム吸着性化合物をバインダーで結着したものである。また特許文献2に記載のセシウム吸着剤は、不溶性フェロシアン化金属化合物と金属酸化物からなるものである。
しかし、本発明者らの研究によれば、フェロシアン化金属化合物は、セメントの固型化物が有するpH13程度のアルカリ性の液中では分解するという問題がある。この問題に鑑み、本発明者らは、先に、高pHを示す物質中に含まれるセシウムに対しても、その漏出を抑制できるフェロシアン化ニッケルを含むセシウムの固定化剤(不溶化剤)を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2013-212487号公報
【特許文献2】特開2013-029498号公報
【特許文献3】特開2013-231742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献3に記載の固定化剤の利点を有し、化学的により安定で、セシウムの固定化効果がより高いセシウムの固定化剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、前記目的にかなう方法を検討したところ、下記の構成を有するフェロシアン化ニッケルは、セシウムの固定化効果および耐アルカリ性が高いことを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
]下記(a)~(c)のいずれかのフェロシアン化ニッケルの生成工程を含む、セシウムの固定化剤の製造方法。
(a)0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程
(b)0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、固体状のフェロシアン化金属塩とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程
(c)固体状のニッケル塩と、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、静置するフェロシアン化ニッケルの生成工程

【0009】
[]フェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上となるように、セシウム含有水と、前記[1]に記載のセシウムの固定化剤の製造方法を用いて製造したセシウムの固定化剤とを混合して、該セシウム含有水中のセシウムを固定化する、セシウムの固定化方法。
[]pHが13.3を超えるセシウム含有水に対しては、塩化カルシウムを添加してpHを12.7以下にした後、前記[1]に記載のセシウムの固定化剤の製造方法を用いて製造したセシウムの固定化剤を混合する、前記[2]に記載のセシウムの固定化方法。
[]さらに、セシウムを固定化した後の前記セシウム含有水と、セメントとを混合して、該セシウム含有水を固型化する、前記[または3]に記載のセシウムの固定化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセシウムの固定化剤は、アルカリ性条件下においても、セシウムの固定化効果が高く、かつ分解し難い。また、本発明のセシウムの固定化剤の製造方法は、簡便な方法で効率よく前記固定化剤を製造できる。さらに、本発明のセシウムの固定化方法は、前記固定化剤の固定化効果が高いため、固型化物からのセシウムの漏出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】0.5M(1M=1mol/dm3)のフェロシアン化カリウム水溶液と1.2Mの塩化ニッケル水溶液を、体積比1:2で接触させた後、1日静置することによって作製したフェロシアン化ニッケルを、セシウムを含む水溶液に懸濁させた場合の、フェロシアン化ニッケルによるセシウム除去率と、フェロシアン化ニッケル(NiFeCN)/セシウム(Cs)のモル比との関係を示す図である。
【図2】水中のカルシウム濃度とpHの関係を示す図である。
【図3】フェロシアン化ニッケルの作製に用いたフェロシアン化カリウム水溶液の濃度および塩化ニッケル水溶液の濃度と、生成したフェロシアン化ニッケルをpH13.69の水中に1日放置した時のフェロシアン化ニッケルの残存率の関係を示す図である。ただし、白丸は等体積のフェロシアン化カリウム水溶液および塩化ニッケル水溶液を撹拌せずに接触させた後、1日静置して作製したフェロシアン化ニッケルの残存率を示し、黒丸はフェロシアン化カリウム水溶液に等体積の塩化ニッケル水溶液を滴下して撹拌により混合して作製したフェロシアン化ニッケルの残存率を示す。
【図4】等体積の0.4Mのフェロシアン化カリウム水溶液と0.6Mの塩化ニッケル水溶液から作製したフェロシアン化ニッケルをアルカリ性水溶液中に添加して、1日静置した際のフェロシアン化ニッケルの残存率と水溶液のpHの関係を示す図である。ただし、白丸はフェロシアン化カリウム水溶液と塩化ニッケル水溶液を撹拌せずに接触させた後、1日静置して生じたフェロシアン化ニッケルの残存率を示し、黒丸はフェロシアン化カリウム水溶液に塩化ニッケル水溶液を滴下し撹拌により混合して作製したフェロシアン化ニッケルの残存率を示す。
【図5】フェロシアン化ニッケルをアルカリ性水溶液中に添加して静置した場合の、フェロシアン化ニッケルの残存率の経時変化を示す図である。ただし白印は体積比1:2で1.2Mの塩化ニッケル水溶液と0.5Mのフェロシアン化カリウム水溶液とを撹拌せずに接触させた後、1日静置して作製したフェロシアン化ニッケルの残存率を示し、黒印は0.1Mのフェロシアン化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに0.1M塩化ニッケル溶液をフェロシアン化カリウムの1.5モル当量滴下し撹拌により混合して作製したフェロシアン化ニッケルの残存率を示す。
【図6】1.2Mの塩化ニッケル水溶液と0.5Mのフェロシアン化カリウム水溶液を体積比1:2で撹拌せずに接触させた後、1日静置して作製したフェロシアン化ニッケルに放射性セシウムを吸着させた後、これをセメントで固型化し40℃で4週間養生した後、40℃の飽和水酸化カルシウム水溶液に浸漬した際の、セメント固型化物中のセシウムの保持率と浸漬時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、セシウムの固定化剤、その製造方法、およびセシウムの固定化方法に分けて詳細に説明する。

【0013】
1.セシウムの固定化剤
本発明のセシウムの固定化剤は、pHが7を超え13.3以下の液中に溶解して存在するセシウムを固定化するためのセシウムの固定化剤であって、前記(1)式で表わされるフェロシアン化ニッケルを含むものである。焼却灰のpHは通常12程度であるが、焼却灰中の水溶性成分の流出に伴ってpHは12.7程度まで上昇する。またセメントを用いた焼却灰の固型化物のpHは、セメントの種類により13程度まで高くなる場合がある。そして、後掲の図4に示すように、本発明のセシウムの固定化剤はpH13程度の水中でも分解し難く、耐アルカリ性が高い。

【0014】
また、本発明のセシウムの固定化剤のNi/Feのモル比は、好ましくは1.0~1.2である。該モル比が該範囲にあれば、後掲の表1に示すように、フェロシアン化ニッケルの残存率は0.64以上と高く、また、後掲の図1に示すように、さらにフェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上の場合に、セシウムの除去率は75~100%と高い。なお、前記残存率とは、分解前のフェロシアン化ニッケルの濃度を1とした場合の、分解後に残存するフェロシアン化ニッケルの濃度の比をいう。

【0015】
また、本発明のセシウムの固定化剤は、好ましくは、前記(A)~(C)のいずれかのフェロシアン化ニッケルを含むものである。
前記(A)のフェロシアン化ニッケルは、ニッケル塩の水溶液とフェロシアン化金属塩の水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、静置すること(以下「接触静置」ということがある。)により得られる。該方法によれば、ニッケルカチオンとフェロシアンアニオンの接触界面が小さいためフェロシアン化ニッケルの生成速度が遅く、その結果、生成するフェロシアン化ニッケルの結晶粒子内の格子欠陥が少なくなるため、該粒子は耐アルカリ性が高まるものと推察する。また、前記ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。
また、前記(B)のフェロシアン化ニッケルは、ニッケル塩の水溶液と固体状のフェロシアン化金属塩とを、また前記(C)のフェロシアン化ニッケルは、固体状のニッケル塩とフェロシアン化金属塩の水溶液とを、いずれも、接触静置させて得られる。そして、当該方法はニッケルカチオンとフェロシアンアニオンの接触界面が小さいため、フェロシアン化ニッケルの生成速度が極めて遅く、その結果、生成するフェロシアン化ニッケルの結晶粒子内の格子欠陥が少なくなるため、該粒子は耐アルカリ性が高まるものと推察する。また、前記ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。
なお、前記ニッケル塩は水溶性であれば特に制限されず、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、および硝酸ニッケル等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。また、前記フェロシアン化金属塩も水溶性であれば特に制限されず、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、およびフェロシアン化カルシウム等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。

【0016】
2.セシウムの固定化剤の製造方法
セシウムの固定化剤の製造方法は、前記(a)~(c)のいずれかのフェロシアン化ニッケルの生成工程を含むものである。
前記(a)のフェロシアン化ニッケルの生成工程は、ニッケル塩の水溶液とフェロシアン化金属塩の水溶液とを接触静置させる液-液反応による工程である。該工程では、フェロシアン化ニッケルの結晶成長速度が遅いため、格子欠陥が少なく化学的に安定で、耐アルカリ性の高いフェロシアン化ニッケルが得られると推察する。また、前記ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。
また、前記(b)のフェロシアン化ニッケルの生成工程は、ニッケル塩の水溶液と固体状のフェロシアン化金属塩とを、また前記(c)のフェロシアン化ニッケルの生成工程は、固体状のニッケル塩とフェロシアン化金属塩の水溶液とを、いずれも、接触静置させる固-液反応による工程である。また、前記ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。

【0017】
3.セシウムの固定化方法
本発明のセシウムの固定化方法は、フェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上となるように、セシウム含有水と、本発明のセシウムの固定化剤とを混合して、該セシウム含有水中のセシウムを固定化する方法である。
フェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上では、後掲の図1に示すように、セシウムの除去率が75~100%と高い。なお、該モル比は、好ましくは2以上、さらに好ましくは5以上である。なお、現実にはセシウムの漏出防止を確実にするため、安心と経済性のバランスも考慮して、例えば、該モル比が10~100になるようにセシウムの固定化剤を用いることも有効である。
また、本発明の固定化方法の適用対象であるセシウム含有水とは、セシウムを含む焼却灰の含水物、セシウムを含む焼却灰のスラリー、セシウムを含む焼却灰の洗浄水、またはセシウムを含む焼却灰からの漏出水からなる群より選ばれる1種以上である。例えば、焼却炉から排出直後の乾灰とよばれる焼却灰は、一般には吸湿により完全な乾燥状態にはなく一定量の水分を含むため、前記セシウムを含む焼却灰の含水物に該当する。

【0018】
また、本発明のセシウムの固定化方法は、pHが13.3を超えるセシウム含有水に対しては、塩化カルシウムを添加してpHを12.7以下にした後、本発明のセシウムの固定化剤を、例えば、フェロシアン化ニッケル/セシウムのモル比が1以上となるように混合する方法を含む。焼却灰中に塩化カルシウム(水酸化塩化カルシウム(CaClOH)を一部に含む。)は、5~24質量%程度含まれ、また、水酸化カルシウムと比べ水中への溶出速度や溶解度が高いため、塩化カルシウム由来のカルシウムイオンの濃度が高くなり、カルシウムイオンの共通イオン効果により水酸化カルシウムの溶出が抑制され、pHが低下すると推察する。したがって、焼却灰に元々存在する塩化カルシウムを有効に活用できるため、その分、本発明では薬剤コストを削減できる。

【0019】
本発明において用いる塩化カルシウムは、工業製品および試薬のいずれでもよい。また、塩化カルシウムの使用形態は、粉粒体または水溶液にして用いることができるが、混合の容易性から、好ましくは水溶液である。さらに、前記塩化カルシウムは、pH13.3以下の焼却灰の洗浄水や、pH13.3以下に調整した焼却灰の洗浄水等の塩化カルシウム含有水が挙げられる。該塩化カルシウム含有水を、外部から混合する塩化カルシウムの全部または一部代替として有効活用すれば、さらにその分、薬剤コストを削減できる。

【0020】
さらに、本発明のセシウムの固定化方法は、本発明のセシウムの固定化剤を用いてセシウムを固定化した後のセシウム含有水と、セメントとを混合して、該セシウム含有水を固型化する方法である。
本発明において用いるセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、石炭灰含有セメント、およびエコセメントからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
また、セメントの混合量は、水/セメント比(質量比)で示せば、好ましくは5~100%であり、セシウム含有水の質量部を基準にして示せば、セシウム含有水100質量部に対し、好ましくは500~10000質量部である。特に、固定化の対象物が、セシウムを含む焼却灰の含水物である場合は、セシウムを含む焼却灰の含水物100質量部に対し、好ましくはセメント5~100質量部であり、これを水/セメント比(質量比)で示せば、好ましくは5~100%である。該混合量が該範囲にあれば、焼却灰の防塵や減容化が可能である。セシウム含有水とセメントの混合方法は特に制限されず、また、混合装置は、強制練りミキサ、混練造粒機、混練押出機等が使用できる。また、成型方法は、セシウム含有水とセメントの混合物のレオロジー特性に応じて、例えば、流し込み、振動締固め、および転圧等の方法から選択することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
フェロシアン化ニッケルの製造に使用した原料化合物は、フェロシアン化金属塩はフェロシアン化カリウム、ニッケル塩は塩化ニッケルである。また、焼却灰からの模擬漏出液の作製に使用した化合物は、塩化セシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムである。また、必要に応じて放射性同位元素であるCs-137をセシウムの標識剤として極微量用いた。なお、前記化合物はすべて特級試薬である。
【実施例】
【0022】
2.フェロシアン化ニッケルのセシウム除去能
(1)フェロシアン化ニッケルの製造(ただし、以下の製造は常温で行った。)
0.5Mのフェロシアン化カリウム水溶液と、これの半分の体積の1.2Mの塩化ニッケル水溶液とを、撹拌せずに接触させた後、1昼夜静置させることにより、本発明のセシウムの固定化剤であるフェロシアン化ニッケル(前記(1)式中、Mはカリウム、mは1、およびXは1.1である。)の懸濁液(以下「実施例1」という。)を製造した。
ちなみに、飽和溶解度は、例えば、フェロシアン化カリウムでは0.755M(12.2℃)、塩化ニッケルでは19M(20℃)である。
【実施例】
【0023】
(2)焼却灰からの模擬漏出液の作製
焼却灰からの模擬漏出液として、焼却灰に含まれる各種の塩の懸濁液を作製した。具体的には、最終水溶液組成として、塩化セシウム(極微量のCs-137を含む)の濃度が0.014M、塩化ナトリウムの濃度が0.5M、および塩化カリウムの濃度が0.5Mになるように各塩を添加して調製した水溶液(A)と、水溶液(A)にさらに塩化カルシウムの濃度が1Mとなるように塩化カルシウムを添加して調製した水溶液(B)とを得た。次に、水溶液(A)および水溶液(B)にそれぞれ水酸化カルシウム粉末を添加して攪拌し、水酸化カルシウムが懸濁して飽和した模擬漏出液(A)および模擬漏出液(B)を作製した。
【実施例】
【0024】
(3)フェロシアン化ニッケルを用いたセシウム除去試験
図1に示すフェロシアン化ニッケル(NiFeCN)/セシウム(Cs)のモル比に従い、前記模擬漏出液(A)および模擬漏出液(B)のそれぞれに、実施例1の懸濁液を加えて混合し、1昼夜静置した後、その上澄み液を0.2μmのフィルターに通し、得られたろ液中に溶存するセシウムの濃度をガンマ線分析により測定し、セシウムの除去率を求めた。その結果を図1に示す。なお、図1中の白丸(○)は模擬漏出液(A)を示し、黒丸(●)は模擬漏出液(B)を示す。
図1に示すように、塩化カルシウムが無い高アルカリ性水溶液(pH=12.7)の場合や、多量のカルシウムイオンが存在する場合(塩化カルシウム=1M、pH=11.4)のいずれにおいても、フェロシアン化ニッケル(NiFeCN)/セシウム(Cs)のモル比が1以上であればセシウムの除去率は75%以上、さらに5以上あれば95%以上と極めて高い。
【実施例】
【0025】
3.異なる製造方法により製造されたフェロシアン化ニッケルの耐アルカリ性
(1)液-液反応による製造
塩化ニッケルとフェロシアン化カリウムの濃度が、それぞれ、0.15Mと0.1M、0.3Mと0.2M、0.45Mと0.3M、0.6Mと0.4M、および0.9Mと0.6Mである塩化ニッケル水溶液とフェロシアン化カリウム水溶液を、撹拌しないで等体積接触させた後、1日静置してフェロシアン化ニッケルの懸濁液(以下、それぞれ順に「比較例1」、「実施例2」~「実施例5」という。)を製造した。
また、比較のため、前記と同じ各濃度の塩化ニッケル水溶液とフェロシアン化カリウム水溶液の組み合わせにおいて、フェロシアン化カリウム溶液を攪拌しながら、これに等体積の塩化ニッケル溶液を滴下してフェロシアン化ニッケルの懸濁液(以下、それぞれ順に「比較例2」~「比較例6」という。)を製造した。
前記2種類の製造方法により製造したフェロシアン化ニッケルの各種の懸濁液を、それぞれ、水酸化ナトリウム水溶液に添加して、20℃で1日静置した。なお、該フェロシアン化ニッケルを含む前記液中の水酸化ナトリウムの濃度は0.5M、前記液のpHは13.69でpHは13.3を超えていた。
次に、その上澄み液を、孔径が0.2μmのフィルターを通して吸引濾過し、フェロシアン化ニッケルのアルカリ分解によって液中に放出されたフェロシアンイオンを過マンガン酸カリウムで滴定して定量することにより、前記フェロシアン化ニッケルの添加後1日経過時の残存率を求めた。その結果を図3に示す。
【実施例】
【0026】
また、前記製造したフェロシアン化ニッケルの懸濁液の中から、実施例4の懸濁液と、比較例4の懸濁液を選び、それぞれについて、20℃、0~1Mの水酸化ナトリウム水溶液中での、フェロシアン化ニッケルの添加後1日経過時の残存率を、前記図3を得たのと同一の方法により求めた。その結果を図4に示す。なお、図4中の白丸(○)は実施例4を示し、黒丸(●)は比較例4を示す。
【実施例】
【0027】
図3および図4から、フェロシアン化ニッケルの製造に用いた塩化ニッケル水溶液の濃度と、フェロシアン化カリウム水溶液の濃度は、ともに高いほど、生成したフェロシアン化ニッケルの耐アルカリ性が高いことがわかる。また、両水溶液を接触静置することにより、フェロシアンアニオンとニッケルカチオンが自然拡散して、徐々に生成したフェロシアン化ニッケルは、滴下して攪拌し両水溶液を強制的に混合することにより、短時間に生成したフェロシアン化ニッケルに比べ、耐アルカリ性に優れていることもわかる。なお、図4において、pH13.3以下における実施例4のフェロシアン化ニッケルの残存率は約0.8以上である。
【実施例】
【0028】
(2)固-液反応による製造方法
また、本発明の製造方法は、前記のフェロシアン化金属塩の水溶液とニッケル塩の水溶液とを接触静置する液-液反応による方法のほか、一方の濃厚水溶液中に他方の結晶を投入して接触静置する固-液反応による方法がある。
そこで、次に、フェロシアン化塩としてフェロシアン化カリウム(FeCN)を、ニッケル塩として塩化ニッケル(Ni)を用い、0.6Mの塩化ニッケル水溶液に該塩化ニッケルの1/3モル当量のフェロシアン化カリウム結晶を加えたのち1週間静置して、フェロシアン化ニッケルの懸濁液(以下「実施例6」という。)を作製した。また、0.5Mのフェロシアン化カリウム水溶液にフェロシアン化カリウムの1.2モル当量の塩化ニッケル結晶を加えたのち1日静止してフェロシアン化ニッケルの懸濁液(以下「実施例7」という。)を作製した。
また、比較のため、実施例1、比較例1、および比較例2の懸濁液を用いた。
前記実施例1、実施例6、実施例7、比較例1、および比較例2の合計5種類のフェロシアン化ニッケルの懸濁液中のフェロシアン化ニッケルの化学組成を、該懸濁液中の未反応塩化ニッケル量をEDTA滴定で定量して決定した。
【実施例】
【0029】
次に、前記5種類のフェロシアン化ニッケルの懸濁液に水酸化ナトリウム溶液を加えて各々pH=13.7にして1日放置した後、該液中のフェロシアン化ニッケルの残存率を、フェロシアン化ニッケルのアルカリ分解で遊離したフェロシアンイオンを過マンガン酸カリウムで滴定することにより求めた。
次に懸濁液を吸引濾過して残存フェロシアン化ニッケルと水酸化ニッケルの混合物を取り出し、これに塩酸水溶液を加えて水酸化ニッケルを溶出させ、塩酸水溶液中のニッケルイオンをEDTA滴定で定量することにより、残存フェロシアン化ニッケルの化学組成を決定した。それらの結果を表1に示す。
【実施例】
【0030】
【表1】
JP0006406663B2_000002t.gif
【実施例】
【0031】
表1に示すように、一方の結晶を他方の水溶液に加えてフェロシアン化ニッケルを作製する本発明(実施例7および実施例8)の製造方法もまた、耐アルカリ性の高いフェロシアン化ニッケルを製造する方法として有用である。また、耐アルカリ性の高いフェロシアン化ニッケルにおける前記(1)式中のxの値、すなわちフェロシアンイオンに対するニッケルイオンのモル比は1.1程度である。一方、耐アルカリ性が低いフェロシアン化ニッケル(比較例1および比較例2)における前記(1)式中のxの値は1.25以上である。よって、アルカリ耐性の高いフェロシアン化ニッケルに対するxの値としては1.0~1.2の範囲とすることが妥当である。
【実施例】
【0032】
5.フェロシアン化ニッケルの長期間における耐アルカリ性
実施例1および比較例1の懸濁液を、20℃の水酸化ナトリウム水溶液に混合して、図5に示すpHに調整し、約700時間にわたりフェロシアン化ニッケルの残存率を求めた。なお、残存率は、フェロシアン化ニッケルの分解によって、水溶液中に放出されたフェロシアンイオンを過マンガン酸カリウムにより滴定して求めた。
図5に示すように、約700時間経過した時点で、接触静置により製造した実施例1のフェロシアン化ニッケルの残存率は、pH12.7では約0.85、pH13.3では約0.6であった。
これに対して、攪拌混合により製造した比較例1のフェロシアン化ニッケルの700時間後の残存率は、pH12.7では約0.4、pH13.3ではゼロであった。したがって、接触静置により製造したフェロシアン化ニッケルは、攪拌混合により製造したフェロシアン化ニッケルと比べ、耐アルカリ性がより高い。したがって、焼却灰の液分のpHが12.7以下であることを考慮すると、接触静置により製造した本発明のフェロシアン化ニッケルは、焼却灰中のセシウムの固定化において、十分な耐アルカリ性を有しているといえる。
【実施例】
【0033】
6.セシウムを固定したフェロシアン化ニッケルのセメント固型化物中での安定性
フェロシアン化ニッケル0.1ミリモルに相当する量の実施例1の懸濁液を、1.4×10-5Mの塩化セシウム、および1Mの塩化カルシウム(セメントのpH抑制剤)を含む水溶液2ミリリットルに添加して、セシウムイオンを吸着したフェロシアン化ニッケルを含む懸濁液を得た。
次に、該懸濁液、ポルトランドセメント13g、および水3gを混合して混練し、直径34mm、厚さ10mmの円盤状の固型化物を成形した。そして、該固型化物を40℃で4週間養生した後、該固型化物の円形の一面を残し、他の面をエポキシ樹脂で被覆した。
さらに、40℃の水酸化カルシウムの飽和水溶液400ミリリットル中に該固型化物を浸漬し、該固型化物から溶出したセシウムの濃度を、標識として用いているCs-137のガンマ線測定により決定し、該固型化物中のセシウムの保持率を求めた。その結果を図6に示す。
図6に示すように、フェロシアン化ニッケルを固定化剤として、また塩化カルシウムをpH抑制剤として用いた場合、セメント固型化物中でのフェロシアン化ニッケルの分解を防止できた結果、セメント固型化物からのセシウムの漏出を抑制できた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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