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明細書 :土壌固化剤並びに該土壌固化剤を用いた放射性物質の汚染拡大方法と汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6532053号 (P6532053)
公開番号 特開2015-199057 (P2015-199057A)
登録日 令和元年5月31日(2019.5.31)
発行日 令和元年6月19日(2019.6.19)
公開日 平成27年11月12日(2015.11.12)
発明の名称または考案の名称 土壌固化剤並びに該土壌固化剤を用いた放射性物質の汚染拡大方法と汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法
国際特許分類 B01D  21/01        (2006.01)
B01J  20/20        (2006.01)
B01J  20/12        (2006.01)
C02F   1/56        (2006.01)
G21F   9/28        (2006.01)
G21F   9/12        (2006.01)
C08K   3/00        (2018.01)
C08L 101/02        (2006.01)
C08L 101/14        (2006.01)
C09K  17/18        (2006.01)
C09K  17/32        (2006.01)
C09K 103/00        (2006.01)
FI B01D 21/01 101A
B01D 21/01 106
B01J 20/20 B
B01J 20/12 A
B01D 21/01 107A
B01D 21/01 111
C02F 1/56 Z
G21F 9/28 Z
G21F 9/28 511C
G21F 9/12 501F
G21F 9/12 501G
G21F 9/28 551Z
C08K 3/00
C08L 101/02
C08L 101/14
C09K 17/18 P
C09K 17/32 P
C09K 103:00
請求項の数または発明の数 14
全頁数 32
出願番号 特願2015-013829 (P2015-013829)
出願日 平成27年1月28日(2015.1.28)
優先権出願番号 2014076288
優先日 平成26年4月2日(2014.4.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年1月4日(2018.1.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
発明者または考案者 【氏名】熊沢 紀之
個別代理人の代理人 【識別番号】100176164、【弁理士】、【氏名又は名称】江口 州志
審査官 【審査官】佐々木 典子
参考文献・文献 特開昭63-252600(JP,A)
特開2013-185941(JP,A)
特開平08-215686(JP,A)
特開2006-057276(JP,A)
特開平10-328700(JP,A)
特開昭63-042706(JP,A)
特開2006-077165(JP,A)
特開2014-006111(JP,A)
調査した分野 C02F 1/52- 1/56
B01D 21/01
G21F 9/00- 9/36
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C09K 17/00-17/52
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
特許請求の範囲 【請求項1】
カチオン化セルロース、カチオン化でんぷん、アミノ基を有する高分子若しくは4級アンモニウム塩の高分子から選択される少なくとも1種のカチオン性高分子と、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、リグニンスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸及びその塩、ポリスルホン酸及びその塩から選択される少なくとも1種のアニオン性高分子とを含むコロイド水溶液の土壌固化剤であって、前記コロイド水溶液は、
前記カチオン性高分子及び前記アニオン性高分子のどちらかの高分子を第1の高分子とし、もう一方の高分子を第2の高分子とし、前記第1の高分子の配合量(C)を前記第1の高分子が有するイオン当量質量(EW)で除算した値(C/EW)と、前記第2の高分子の配合量(C)を前記第2の高分子が有するイオン当量質量(EW)で除算した値(C/EW)とが(C/EW):(C/EW)=1:1の場合に電荷比が1であるとしたときに、(C/EW)/(C/EW)>1の関係を満たすように、前記第1の高分子が前記第2の高分子よりも過剰に配合され、
前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子が、前記C1としてアニオン性高分子を使用するときは前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.5gを超え10g以下の範囲で、また、前記C1としてカチオン性高分子を使用するときは前記コロイド水溶液100mlに対して質量で1.0gを超え10g以下の範囲で含有され、
前記カチオン性高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを除く、他のカチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が、前記コロイド水溶液の全量に対して0.5質量%未満の濃度となるように無機塩が添加又は無添加されており、且つ、
沈殿物を生成しない、不透明又は乳白色の性状を有することを特徴とする土壌固化剤。
【請求項2】
前記無機塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムから選択される無機塩の少なくとも1種であり、前記コロイド水溶液の全量を100質量部としたときに、前記コロイド水溶液に含まれるカチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が、前記カチオン高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを含めて、3.0質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の土壌固化剤。
【請求項3】
前記コロイド水溶液は、前記第1の高分子が、前記第2の高分子に対して、前記(C/EW)を前記(C/EW)で除算した値である電荷比が2倍以上となる配合量であり、且つ、前記無機塩の無添加により、前記カチオン性高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを除く、他のカチオン及びアニオンを含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌固化剤。
【請求項4】
前記第1の高分子を前記第2の高分子に対して過剰に配合するときの配合量の上限値は、前記コロイド水溶液が沈殿物を形成しない半透明又は乳白色の均一状態を維持することができるまでの配合量であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の土壌固化剤。
【請求項5】
前記第1の高分子がアニオン性高分子であり、前記第2の高分子がカチオン性高分子であることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の土壌固化剤。
【請求項6】
放射性セシウムにより汚染された土壌に、請求項1~の何れかに記載の土壌固化剤を散布した後、前記土壌を固定させることによって放射性物質の移動及び拡散を防止する放射性物質の汚染拡大防止方法。
【請求項7】
放射性セシウムにより汚染された土壌に、請求項1~の何れかに記載の土壌固化剤を散布して前記土壌の少なくとも一部を固定させた後、前記土壌の表層を剥離除去することを特徴とする汚染土壌の除染方法。
【請求項8】
放射性セシウムにより汚染された土壌に、粘土微粒子を有する懸濁液と請求項1~のいずれかに記載の土壌固化剤とをこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記粘土微粒子中に取り込み、当該放射性セシウムを取り込んだ粘土微粒子を含む土壌を固化させることによって放射性物質の移動及び拡散を防止する放射性物質の汚染拡大防止方法。
【請求項9】
前記粘土微粒子が、ベントナイト及びゼオライトの少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項に記載の放射性物質の汚染拡大防止方法。
【請求項10】
前記粘土微粒子を有する懸濁液が、前記粘土微粒子を0.05~5質量%含有する水溶液であることを特徴とする請求項又はに記載の放射性物質の汚染拡大防止方法。
【請求項11】
放射性セシウムにより汚染された土壌に、粘土微粒子を有する懸濁液と請求項1~の何れかに記載の土壌固化剤とをこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記粘土微粒子中に取り込み、当該放射性セシウムを取り込んだ粘土微粒子を含む土壌を前記土壌固化剤によって前記土壌の少なくとも一部を固化させた後、前記土壌の表層を剥離除去することを特徴とする汚染土壌の除染方法。
【請求項12】
前記粘土微粒子が、ベントナイト及びゼオライトの少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項11に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項13】
前記粘土微粒子を有する懸濁液が、前記粘土微粒子を0.05~5質量%含有する水溶液であることを特徴とする請求項11又は12に記載の汚染土壌の除染方法。
【請求項14】
請求項1~の何れかに記載の土壌固化剤を被施工面の土壌に吹き付けて該土壌の表層を固化することによって、前記施工面の土壌を造成し緑化を行うことを特徴とする植生基盤造成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育を阻害しないで効果的な土壌固化を行えるだけでなく、効率的な水浄化にも適用できる分散型高分子凝集剤及び該分散型高分子凝集剤からなる環境に優しい土壌固化剤と凝集性能に優れる凝集沈殿剤に関する。また、前記土壌固化剤を用いる放射性物質の汚染拡大防止方法と汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法、並びに前記凝集沈殿剤を用いる水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性有機高分子は、1分子中にカチオン基及びアニオン基の少なくともどちらかを有する有機高分子であり、特徴的な挙動を有することから様々な用途に適用されている。例えば、生活排水、産業排水等に含まれる懸濁物から固形分を凝集、沈降、分離させるためにカチオン性、アニオン性又は両性の高分子凝集剤が使用されており、特許文献1には両性水溶性高分子凝集剤を汚泥の脱水方法として使用することが提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、植生基盤造成のためにイオン性有機高分子を土壌固化剤として使用することが提案されている。前記特許文献2に開示されている植生基盤造成工法は、水、土壌成分及びアニオン性水溶性有機高分子化合物を含む植生基盤材と、カチオン性高分子化合物を含む団粒剤との混合時に、両者のイオン性高分子が反応してゲル構造が形成することを利用するものである。植生基盤造成は、植物の発芽、生育あるいはバランスの良い成長に寄与し、しかも環境保全にも寄与する緑化基盤の造成として行われる。
【0004】
特許文献3には、極性の異なるイオン性高分子の溶液を混合することで、両成分からなる不溶性のポリイオンコンプレックス複合体を、繊維、フィルム、塗膜、充填材等の用途へ適用することが提案されている。
【0005】
ポリイオンコンプレックスは、前記の用途の他にも、放射性セシウム汚染土壌の除染方法として適用することが特許文献4、5及び非特許文献1に提案されている。
【0006】
前記特許文献4及び5に記載の除染方法では、ポリイオンコンプレックスとしてポリカチオンとポリアニオンの両方を含む水溶液として利用する場合、水溶液中にゲル状の沈殿物が生じないように2~6wt%の塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等)を加えている。
【0007】
また、前記非特許文献1には、土壌表層の放射性セシウムの除去に使用する固定化剤として、天然ポリイオンコンプレックス溶液又は合成ポリイオンコンプレックス溶液が開示されている。ここで、天然ポリイオンコンプレックス溶液は、塩濃度2%で塩化カリウム又は塩化ナトリウムを水に加えた塩溶液に、カチオン性高分子(HECHPTA)3kgとアニオン性高分子(CMC)1kgとを含む溶液を加え、撹拌しながら溶解して得られること、また、合成ポリイオンコンプレックス溶液は、塩濃度が5%である塩化ナトリウム及び水酸化ナトリウムを水に加えた塩溶液に、カチオン性高分子(PDADMAC)4.2kgとアニオン性高分子(PAA)0.87kgとを含む溶液を加え、撹拌しながら溶解して得られることがそれぞれ記載されている。前記非特許文献1に記載のポリイオンコンプレックス溶液は、カチオン性高分子とアニオン性高分子との電荷比がほぼ1になるように、それぞれの配合量が調整されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2013-215708号公報
【特許文献2】特開2006-57276号公報
【特許文献3】特開2005-206655号公報
【特許文献4】特開2013-185941号公報
【特許文献5】特開2014-6111号公報
【0009】

【非特許文献1】長縄 弘親、熊沢 紀之、他8名、「ポリイオンコンプレックスを固定化剤として用いる土壌表層の放射性セシウムの除去」、日本原子力学会和文論文誌、2011年、第10巻、第4号、p.227-234
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ポリイオンコンプレックスは、アニオン電荷とカチオン電荷が釣り合って総電荷がゼロに近づくと凝集力が生まれ沈殿物が生じやすくなる。そのため、イオン性有機高分子を凝集剤や土壌固化剤等として適用する場合は、汚泥や土壌等の懸濁物中に含まれる固形物の電荷に応じて、アニオン性高分子及びカチオン性高分子のどちらか一方を用いるか、若しくは、前記特許文献1に記載されているように両性高分子を用いる。場合によってはノニオン性高分子凝集剤と併用することもある。しかしながら、これらの方法は、汚泥や土壌等が一部凝集して生成したフロックを、凝集物として容易に分離できるまでの径に肥大化させる造粒効果が十分に得られないという問題がある。そのため、別の造粒材と併用する場合等があり、処理が煩雑となることが避けられない。さらに、両性凝集剤は材料設計が難しく、材料コストの点からも適用の制約を受ける。
【0011】
前記特許文献2及び3に開示されているように、イオン性有機高分子を単独で使用する代わりに、カチオン性高分子及びアニオン性高分子を別々の成分として用い、両者を混合することによって凝集力を発現する方法が採用されている。その場合は、2成分を保管するための容器を複数用意し、それぞれの処理を分離して2回以上行う必要があるため、1成分だけの場合と比べて処理が煩雑となる。また、生活排水、産業排水又は土壌は、場所や環境に応じて、それらに含まれる各成分の種類や含有量及びpHや電荷等が変化しており、カチオン性高分子及びアニオン性高分子をそれぞれ分離して添加すると、浸透度及び凝集力の違いから凝集剤として安定した特性や性能を得ることが難しい。例えば、性状がそれぞれ異なる広範囲の地域に適用する場合、カチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらかを散布した後、もう一方の高分子を散布するまでに時間が長くなるため、この問題が顕著になる。また、2液をそれぞれノズル等によって吹き付けする場合は、液の浸透が十分に行われない状態で両者のゲル化反応が起こるため、固定化できる土壌の範囲と深さに大きな制約を受ける。このように、凝集剤としてカチオン性高分子及びアニオン性高分子を別々の成分として用いることは、効率的で迅速な処理を行うことができず、適用範囲が制約される。
【0012】
したがって、前記特許文献4、5及び非特許文献1に記載の放射性セシウム汚染土壌の除染方法においては、カチオン性高分子及びアニオン性高分子からなるポリイオンコンプレックスを含む水溶液を使用することによって、放射性セシウムの土壌深部への移行を抑制して放射性物質の汚染拡大を防止するともに、汚染土壌の表土を固化及び剥離する方法が提案されている。これらの方法は有効な除染方法であるものの、ポリイオンコンプレックスの沈殿物生成を抑制するために塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等の塩を余分に添加している。その場合、ポリイオンコンプレックスを散布した土壌の性状や品質が余分に添加した塩によって大きく変化し、将来的に草木や農作物等が育成しづらくなるという環境面への影響が懸念される場合がある。土壌中に含まれる塩を中和処理して土壌の再生を行うことも可能であるが、大きな労力と手間が必要となるだけでなく、土壌再生を完了するまでに時間を要する。したがって、放射性物質の汚染拡大防止方法と汚染土壌の除染方法についても、環境に対する負荷をできるだけ小さくできる土壌固化剤及び該土壌固化剤を利用した簡便、且つ迅速で効率的な処理方法が強く求められている。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、植物の生育を阻害しないで効果的な土壌固化を行えるだけでなく、効率的な水浄化にも適用できる分散型高分子凝集剤及び該分散型高分子凝集剤からなる環境に優しい土壌固化剤と凝集性能に優れる凝集沈殿剤を提供することにある。また、前記土壌固化剤を用いる放射性物質の汚染拡大防止方法と汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法、並びに前記凝集沈殿剤を用いる水浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、取扱い性に優れ、添加するだけで大きな凝集力を得ることができる高分子凝集剤としてカチオン性高分子とアニオン性高分子とを含む水溶液に着目し、両者のイオン性高分子のどちらかを別のもう一方のイオン性高分子に対して電荷比で過剰に加えて混合した水溶液が、沈殿物を生成しないで長期間安定した均一のコロイド水溶液を形成するとともに、生活排水、産業排水又は土壌等に添加したときに大きな凝集力を発現できることを見出して本発明に到った。
【0015】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、カチオン化セルロース、カチオン化でんぷん、アミノ基を有する高分子若しくは4級アンモニウム塩の高分子から選択される少なくとも1種のカチオン性高分子と、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、リグニンスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸及びその塩、ポリスルホン酸及びその塩から選択される少なくとも1種のカチオン性高分子とアニオン性高分子とを含むコロイド水溶液の土壌固化剤であって、前記コロイド水溶液は、前記カチオン性高分子及び前記アニオン性高分子のどちらかの高分子を第1の高分子とし、もう一方の高分子を第2の高分子とし、前記第1の高分子の配合量(C)を前記第1の高分子が有するイオン当量質量(EW)で除算した値(C/EW)と、前記第2の高分子の配合量(C)を前記第2の高分子が有するイオン当量質量(EW)で除算した値(C/EW)とが(C/EW):(C/EW)=1:1の場合に電荷比が1であるとしたときに、(C/EW)/(C/EW)>1の関係を満たすように、前記第1の高分子が前記第2の高分子よりも過剰に配合され、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子が、前記C1としてアニオン性高分子を使用するときは前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.5gを超え10g以下の範囲で、また、前記C1としてカチオン性高分子を使用するときは前記コロイド水溶液100mlに対して質量で1.0gを超え10g以下の範囲で含有され、前記カチオン性高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを除く、他のカチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が、前記コロイド水溶液の全量に対して0.5質量%未満の濃度となるように無機塩が添加又は無添加されており、且つ、沈殿物を生成しない、不透明又は乳白色の性状を有することを特徴とする土壌固化剤を提供する。
[2]本発明は、前記無機塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムから選択される無機塩の少なくとも1種であり、前記コロイド水溶液の全量を100質量部としたときに、カチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が、前記カチオン高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを含めて、3.0質量%未満であることを特徴とする前記[1]に記載の土壌固化剤を提供する。
[3]本発明は、前記コロイド水溶液は、前記第1の高分子が、前記第2の高分子に対して、前記(C/EW)を前記(C/EW)で除算した値である電荷比が2倍以上となる配合量であり、且つ、前記無機塩の無添加により、前記カチオン性高分子又は前記アニオン性高分子に含まれる対イオンを除く、他のカチオン及びアニオンを含まないことを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の土壌固化剤を提供する。
[4]本発明は、前記第1の高分子を前記第2の高分子に対して過剰に配合するときの配合量の上限値は、前記コロイド水溶液が沈殿物を形成しない半透明又は乳白色の均一状態を維持することができるまでの配合量であることを特徴とする前記[1]~[3]の何れかに記載の土壌固化剤を提供する。
]本発明は、前記第1の高分子がアニオン性高分子であり、前記第2の高分子がカチオン性高分子であることを特徴とする前記[1]~[4]の何れかに記載の土壌固化剤を提供する。
]本発明は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、前記[1]~[5]の何れかに記載の土壌固化剤を散布した後、前記土壌を固定させることによって放射性物質の移動及び拡散を防止する放射性物質の汚染拡大防止方法を提供する。
]本発明は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、前記[1]~[5]の何れかに記載の土壌固化剤を散布して前記土壌の少なくとも一部を固定させた後、前記土壌の表層を剥離除去することを特徴とする汚染土壌の除染方法を提供する。
]本発明は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、粘土微粒子を有する懸濁液と前記[1]~[5]のいずれかに記載の土壌固化剤とをこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記粘土微粒子中に取り込み、当該放射性セシウムを取り込んだ粘土微粒子を含む土壌を固化させることによって放射性物質の移動及び拡散を防止する放射性物質の汚染拡大防止方法を提供する。
]本発明は、前記粘土微粒子が、ベントナイト及びゼオライトの少なくとも何れか1つであることを特徴とする前記[8]に記載の放射性物質の汚染拡大防止方法を提供する。
10]本発明は、前記粘土微粒子を有する懸濁液が、前記粘土微粒子を0.05~5質量%含有する水溶液であることを特徴とする前記[8]又は[9]に記載の放射性物質の汚染拡大防止方法を提供する。
11]本発明は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、粘土微粒子を有する懸濁液と前記[1]~[5]の何れかに記載の土壌固化剤とをこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記粘土微粒子中に取り込み、当該放射性セシウムを取り込んだ粘土微粒子を含む土壌を前記土壌固化剤によって前記土壌の少なくとも一部を固化させた後、前記土壌の表層を剥離除去することを特徴とする汚染土壌の除染方法を提供する。
12]本発明は、前記粘土微粒子が、ベントナイト及びゼオライトの少なくとも何れか1つであることを特徴とする前記[11]に記載の汚染土壌の除染方法を提供する。
13]本発明は、前記粘土微粒子を有する懸濁液が、前記粘土微粒子を0.05~5質量%含有する水溶液であることを特徴とする前記[11]又は[12]に記載の汚染土壌の除染方法を提供する。
14]本発明は、前記[1]~[5]の何れかに記載の土壌固化剤を被施工面の土壌に吹き付けて該土壌の表層を固化することによって、前記施工面の土壌を造成し緑化を行うことを特徴とする植生基盤造成方法を提供する。
[発明の効果]

【発明の効果】
【0016】
本発明のカチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらかを含む水溶液からなる分散型高分子凝集剤は、余分な塩を含まない状態でも、沈殿物を生成せずに長期間安定した均一のコロイド水溶を形成するため、一液の高分子凝集剤水溶液として使用することができることから取扱い性に優れる。また、土壌又は生活排水、産業排水等に添加したときに大きな凝集力が得られるため、効果的な土壌固化を行うことができる土壌固化剤、及び効率的な水浄化にも適用できる凝集沈殿剤としてそれぞれ使用することが可能である。さらに、本発明の分散型高分子凝集剤は、植物の生育を阻害する懸念のある塩の含有量を少なくした状態で使用することができるため、土壌固化剤及び凝集沈殿剤として適用したときに、環境に対する負荷を少なくすることができる。
【0017】
本発明による土壌固化剤を放射性物質の汚染拡大防止方法と汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法に適用することによって植物の生育を阻害しないで効果的な土壌固化を行うことができ、大きな労力や経済的な負担を伴うことなく、処理後又は造成後の土壌緑化又は農産物生育を自然に行うことができる。また、本発明による凝集沈殿剤を生活排水及び産業排水の水浄化法に適用することによって、効率的な処理を行うことができるだけでなく、浄化水のイオン濃度及びpHの変化も極力抑えることができるため、より安全な水浄化システムを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の分散型高分子凝集剤が水溶液中で有する形態の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の土壌固定化剤を使用した放射性物質の汚染拡大防止方法の工程を示す図である。
【図3】本発明の土壌固定化剤を使用した汚染土壌の除染方法の工程を示す図である。
【図4】アニオン性高分子及びカチオン性高分子の電荷比とそれらの高分子を含む水溶液が有する性状との関係の一例を示す図である。
【図5】本発明において土壌固定強度を測定するための実験方法を示す図である。
【図6】アニオン性高分子(CMC)を電荷比で過剰に調整した本発明の分散型高分子凝集剤によって固化させた土壌の土壌固定強度を示す図である。
【図7】カチオン性高分子(PDADMAC)を電荷比で過剰に調整した本発明の分散型高分子凝集剤によって固化させた土壌の土壌固定強度を示す図である。
【図8】本発明の実施例1において土壌固定強度及び土壌の固定厚さと高分子濃度との関係を示す図である。
【図9】本発明における土壌の粉塵量測定方法を示す図である。
【図10】本発明の実施例1及び5の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の経過時間に伴う粉塵量変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例5の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の200時間経過後の粉塵量と高分子濃度との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施例1を用いて固化させた土壌の200時間経過後の粉塵量と高分子濃度との関係を示す図である。
【図13】本発明における種の発芽率測定方法を示す図である。
【図14】アニオン性高分子及びカチオン性高分子の電荷比とそれらの高分子を含む水溶液が有する性状との関係の別の例を示す図である。
【図15】アニオン性高分子(PAANa)を電荷比で過剰に調整した本発明の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の土壌固定強度を示す図である。
【図16】カチオン性高分子(PDADMAC)を電荷比で過剰に調整した本発明の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の土壌固定強度を示す図である。
【図17】本発明の別の分散型高分子凝集剤について土壌の固定厚さと高分子濃度との関係を示す図である。
【図18】本発明の実施例9及び13の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の経過時間に伴う粉塵量変化を示す図である。
【図19】本発明の実施例9の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の200時間経過後の粉塵量と高分子濃度との関係を示す図である。
【図20】本発明の実施例13の分散型高分子凝集剤を用いて固化させた土壌の200時間経過後の粉塵量と高分子濃度との関係を示す図である。
【図21】ベントナイト懸濁液の上澄み液の濁度と凝集沈殿剤に含まれるイオン性高分子の総量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の分散型高分子凝集剤は、カチオン性高分子とアニオン性高分子とを含む水溶液において、どちらかの高分子を第1の高分子とし、もう一方の高分子を第2の高分子としたときに、前記第1の高分子が前記第2の高分子よりも電荷比で過剰に配合することによって、大きな凝集力を維持しながら、沈殿物を生成せずに長期間安定した均一のコロイド水溶を形成できることを見出してなされたものである。

【0020】
図1は、カチオン性高分子を電荷比で過剰に調整した本発明の分散型高分子凝集剤が水溶液中で有する形態の模式図であり、本発明の分散型高分子凝集剤の一形態例である。図1で示すように、本発明の分散型高分子凝集剤は、カチオン性高分子とアニオン性高分子の両者を含むことによって分子鎖の絡まり合いが生じ、大きな凝集力を生むための核となる疎水的なフロックが形成される。他方、カチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらか一方が過剰に含まれるため水との親和性が増した親水的な分子鎖の存在によって沈殿物の生成が抑制され、水溶液中でコロイド状態となって均一分散する。それによって、水溶液は不透明又は乳白色状の性状を有し、沈殿物を生成しないで長期間安定した均一の溶液が形成できる点に大きな特徴を有する。

【0021】
ここで「不透明又は乳白色」は目視によって判定されるもので、例えば、本発明の分散型高分子凝集剤を2mm厚のガラス板にいれたときに、該ガラス板の向こう側にある文字が明確に判別できない程度の不透明度を有するものである。光線透過率として測定する場合には、同じ厚さで85%未満を有することが基準となる。また、本願発明の効果を奏するためには、夏冬(温度範囲:5~30℃)で24時間以上放置しても沈殿物が観測されない均一の溶液であることが必要条件である。

【0022】
本発明で使用するコロイド水溶液は、カチオン性高分子及びアニオン性高分子の添加量を等電荷比にしないで、どちらかの方をが電荷比で過剰になるように添加することによって沈殿物の生成を抑制することができるため、従来技術のように一液性のポリイオンコンプレックスを得るために不可欠な塩をコロイド水溶液中に積極的に加える必要がない。しかしながら、イオン性高分子はもともと対イオンが微量含まれており、本発明で使用するコロイド水溶液には実質的に微量の塩が含まれる場合がある。対イオンを形成するための塩及び本発明のコロイド水溶液に積極的に添加する塩としては、使用するイオン性高分子の種類に応じて異なるが、一般的に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムから選択される塩の少なくとも1種が使用される。本発明のコロイド水溶液に積極的に添加する前記の塩は、両イオン性高分子の静電力を緩衝する働きをする。

【0023】
本発明で使用するカチオン性及びアニオン性の両イオン性の高分子において、両者のイオン性高分子の電荷比とは、イオン性高分子が有する「イオン当量質量」によって以下のように定義されるものである。

【0024】
本発明で使用するどちらか一方のイオン性高分子(A)の分子量をM、そのイオン当量質量をEWとする。イオン性高分子(A)のイオン当量質量(EW)は、そのイオンを有する構成単位の割合が100モル%であると、そのイオンを有する構成単位の分子量(m)と同じになる。例えば、イオンを有する構成単位の割合が50モル%でイオンを有しない構成単位の割合が50モル%の場合は、イオン当量質量は、イオンを有する構成単位の分子量(m)とイオンを有しない構成単位の分子量(m)との和(m+m)となる。このように、イオン当量質量は、イオンを有する構成単位とイオンを有しない構成単位とのモル比で決まる。もう一方のイオン性高分子(B)の場合も、イオン性高分子(B)の分子量をM、そのイオン当量質量をEWとすると、同様にしてイオン当量質量が求まる。

【0025】
本発明のコロイド溶液に含まれるイオン性高分子の中でどちらか一方のイオン性高分子(A)の配合量をCとし、もう一方のイオン性性高分子(B)の配合量をCとする。その場合、コロイド溶液には、イオン性高分子(A)が(C/M)モル、イオン性高分子(B)が(C/M)モルの濃度で含まれる。したがって、コロイド溶液には、イオン性高分子(A)及びイオン性高分子(B)に含まれる各イオンによる電荷数が、それぞれP(当量)=(C/M)×(M/EW)及びP(当量)=(C/M)×(M/EW)となる。

【0026】
仮に、P=P(総電荷がゼロ)となる場合は、C/EW=C/EWとなる。他方、コロイド水溶液の総電荷がゼロでない場合は、P/P=(C/EW)/(C2/EW)>1となり、(C/EW)/(C/EW)>1の関係を満たす。P及びPは、アニオン性高分子及びカチオン性高分子のどちらかに特定されず、逆の場合であってもよい。したがって、本発明においては、(C/EW)/(C/EW)>1の関係を満たすようにアニオン性高分子及びカチオン性高分子を配合することによって、どちらか一方のイオン性高分子を電荷比で過剰に加えたコロイド水溶液を調製することができる。

【0027】
本発明者等は、カチオン性高分子及びアニオン性高分のそれぞれの対イオンであるアニオン及びカチオンが本発明で使用するコロイド水溶液に含まれる濃度をそれぞれ分析した。その結果、コロイド溶液中に積極的に新たな塩を加えない場合は、アニオン及びカチオンをそれぞれ個別のイオンとしたときに、両者のイオンを合わせた全イオン含有量が全コロイド溶液の重量に対して2.5質量%未満であることが分かった。さらに、対イオンの濃度を除いて、後から本発明のコロイド溶液に積極的に塩を添加するときのイオンの全濃度が、全コロイド溶液の重量に対して1.5質量%未満であるときに、植物の生育を阻害しないで環境に対する負荷を低減できる本発明の分散型高分子凝集剤が得ることができる。新たに添加する塩の全濃度は少なければ少ないほど良く、好ましくは0.5質量%未満である。したがって、本発明の分散型高分子凝集剤は、前記コロイド水溶液の全量を100質量部としたときに、含まれるカチオン及びアニオンの全含有量が少なくとも4.0質量%未満であることが必要であり、好ましくは3.0質量%未満である。本発明のコロイド溶液は、カチオン及びアニオンの全含有量が4.0質量%未満の範囲内であれば、前記イオン性高分子の対イオンに加えて、塩を添加して使用しても良い。その場合はカチオン性高分子及びアニオン性高分子の添加量を等電荷比に近づけて配合できるようになるため、高分子凝集剤としての凝集力の向上を期待できる。

【0028】
本発明の分散型高分子凝集剤は、環境に対する負荷をできるだけ低減することが第1の目的であり、前記コロイド水溶液に含まれるイオン濃度を最小限にするために、前記対イオン以外には余分な塩を新たに添加しないことが好ましい。その場合、沈殿物の生成を抑制するため、カチオン性高分子及びアニオン性高分子の最適な添加量は等電荷比から離れる程度が大きくなる。本発明の分散型高分子凝集剤は、前記第1の高分子が前記第2の高分子に対して、電荷比で2倍以上の過剰で配合する必要がある。電荷比で2倍以上であれば、前記コロイド水溶液の均一性と安定性が長期間維持することができる。両者の電荷比は、カチオン性高分子及びアニオン性高分子の種類に応じて変化し、この比率の差が大きくなるほど、沈殿物成形のおそれは小さくなるが、一方で、凝集力の低下がやや見られる。そのため、前記第1の高分子の前記第2の高分子に対する電荷比は、前記コロイド溶液の均一性と安定性及び前記コロイド溶液散布後の凝集力の観点から選択することができる。

【0029】
本発明において、前記第1の高分子を前記第2の高分子に対して電荷比で過剰に配合するときの配合量の上限値は、前記コロイド水溶液が沈殿物を形成しない半透明又は乳白色の均一状態を維持することができるまでの配合量であることが好ましい。前記コロイド水溶液が透明に変わる電荷比では、水溶液の安定性は大幅に向上するものの、凝集力がカチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらか一方だけを含む水溶液とほとんど変わらなくなり、土壌固化剤又は凝集沈殿剤としての機能低下が顕著になるためである。具体的な配合比率としては、前記第1の高分子は前記第2の高分子に対して、配合量の上限値が電荷比で80倍であり、好ましくは70倍であることが好ましい。

【0030】
本発明の分散型高分子凝集剤は、カチオン性高分子としてカチオン化セルロース、カチオン化でんぷん、アミノ基を有する高分子若しくは4級アンモニウム塩の高分子から選択される少なくとも1種であり、また、アニオン高分子として、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、リグニンスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸及びその塩、ポリスルホン酸及びその塩から選択される少なくとも1種を含む。本発明においては、両イオン性高分子の静電力を緩衝させるための塩を新たに加える必要はないが、必要に応じて、コロイド水溶液の全量を100質量部としたときに、前記塩を構成するカチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が1.5質量%未満の範囲内で微量の塩を添加してもよい。

【0031】
本発明の分散型高分子凝集剤は形態が水溶液であり、カチオン性及びアニオン性からなるイオン性高分子及び/又は塩以外の他の成分は水であるが、水を主成分とする水系媒体を使用しても良い。本発明において使用される水を主成分とする水系媒体は、水が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占める媒体である。水以外には、例えば、水溶性のメチルアルコール、エチルアルコール、2プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類又はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類の溶媒を少量配合して使用してもよい。これらの溶媒は、本発明の分散型高分子凝集剤の水溶液に対して粘度を調整したり、必要に応じてカチオン性及びアニオン性からなるイオン性高分子及び/又は塩以外の他の成分を併用するときに、それらの成分を溶解させる必要がある場合に使用される。これらの溶媒の中では、人体に対する影響と環境負荷を少なくするためにエチルアルコールが好ましい。

【0032】
次に、本発明の分散型高分子凝集剤を用いる土壌固定化剤について説明する。

【0033】
[土壌固定化剤]
本発明の分散型高分子凝集剤を土壌固定化剤として使用するときは、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子を前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.5g[0.5%(w/v=質量/容量)]を超え10g[10%(w/v=質量/容量)]以下の範囲で含有するコロイド水溶液を用いる。前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量が0.5%(w/v)を超えるときに土壌固化剤として所望の凝集力が得られるため、散布回数を少なくすることができ、簡便な処理を行うのに適している。また、土壌固定した後の土壌連続層の広さと厚さを調整しやすくなり、数cm厚の土壌の固定化も可能となる。この含有量が10%(w/v)以下であると前記コロイド水溶液の粘度の大幅な上昇を抑制できるため、液の散布性と取扱い性が向上するだけでなく、土壌への浸透性を高めることができる。加えて、液中に含まれるカチオン及びアニオンの濃度を低く設定できるため、環境に対する負荷を小さくできる。この含有量が10%(w/v)を超えると、前記コロイド水溶液を長期間保管したときに沈殿物が生成する場合もあり、液の管理と調整が難しくなるという問題が起きやすい。さらに、土壌への浸透性が顕著に低下し、固定できる土壌の厚さが制約を受けるようになり、効率的な土壌固定ができなくなる。

【0034】
本発明の土壌固化剤は様々な用途に適用できる。そこで、具体的な適用例として、放射性物質の汚染拡大防止方法と汚染土壌の除染方法及び植生基板造成方法について以下に説明する。

【0035】
[土壌固化剤による放射性物質の汚染拡大防止方法]
本発明の土壌固化剤を放射性物質の汚染拡大防止方法として適用するときは、前記コロイド水溶液において前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量を前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.5%(w/v)を超え10%(w/v)以下に規定するだけでなく、4~30℃における粘度を0.1~100mPa・sの範囲に調整することが好ましい。

【0036】
土壌固定の施工作業は通年において4~30℃の外部環境で行われるものであり、この粘度範囲は塗布や含浸による施工性、及び乾燥後に形成される固定土壌の連続層の厚さから決められる。また、セシウム等の放射性物質は土壌表面から深さ方向に数センチ以内に局在しており、本発明の土壌固定剤で固定する汚染土壌からなる連続層は数センチ以内の厚さまで形成できれば、放射性物質の汚染拡大防止機能を十分に果たすことができる。本発明においては、土壌固化剤の粘度が0.1mPa・s以上であれば、土壌固定剤の塗布性と浸透性を確保しながら、乾燥後に形成される固定土壌の連続層を厚く形成することができ、放射性物質の汚染拡大に対して大きな抑制効果を奏することができる。さらに、汚染土壌は強固に固定された連続層として形成されるため、破断や亀裂の発生を防止し放射性物質の外部への拡散を防止することができる。また、粘度が100mPa・s以下であれば、土壌固定剤の操作性や施工性の顕著な低下を防ぐとともに、土壌への浸透性を維持できることから、結果的に土壌固定剤で固定された汚染土壌からなる連続層を厚く形成し、多くの放射性物質を厚い汚染土壌中に閉じ込めておくことができる。それによって、効率的な汚染拡大防止を図ることができる。

【0037】
本発明の放射性物質の汚染拡大防止方法は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、粘土微粒子を有する懸濁液と本発明の土壌固化剤とをこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記粘土微粒子中に取り込み、当該放射性セシウムを取り込んだ粘土微粒子を含む土壌を固化させることが好ましい。それによって、汚染拡大防止の効果を高めることができる。前記粘土微粒子は、放射性物質を選択的に吸着して、土壌固定の処理中及び処理後に起きやすい放射性物質の外部への漏れや飛散を抑制するために有効な成分である。

【0038】
前記粘土微粒子としては、放射性物質を吸着する吸着能を有する無機粒子、例えば、ベントナイト、ゼオライト、雲母、バーミキュラライト、スメクタイト等が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒径は0.01~20μmの範囲にあるものが使用できるが、好ましくは1~2μmである。また、これらの無機粒子の最大粒径は100μm以下、好ましくは50μm以下である。平均粒径が0.01μm未満であると、無機粒子の凝集が起こりやすく、放射性除染溶液の調整や塗布等における作業性の低下が顕著になる。また、20μmを超えると、前記の連続層中に大きな径を有する無機粒子が混在するようになるため、前記の連続層の機械強度が大きく低下して剥離が困難になる。さらに、前記の構造物の表面に存在する細かな溝や段差に付着する放射性物質の除染が確実にできなくなり、除染残りが発生しやすい。同じ理由から、これらの無機粒子の最大粒径は、100μm以下、好ましくは50μm以下である。

【0039】
本発明では、上記の無機粒子の中で、放射性物質吸着剤としての実績、取扱い性及び低コスト等の点からベントナイト及びゼオライトが好適である。その中で、ベントナイトは、土壌固定化剤が乾燥するときに、乾燥時に周辺の水分を吸収する効果、所謂サンクション効果が他の無機粒子よりも優れるため、放射性物質を外部へ逃さないということから特に有用である。ベントナイトは、ベントナイト鉱山で採掘した状態のものから粗粒分を除き、最大粒径を100μm以下、好ましくは50μm以下に調整したものをそのまま使用できるため、安価に入手できる。

【0040】
本発明で使用する粘土微粒子を有する懸濁液において、前記粘土微粒子の含有量は、前記懸濁液を100質量部としたときに、0.05~5質量%がより好ましく、さらに0.5~3質量%が特に好ましい。前記粘土微粒子の含有量が0.05質量%以上で放射性物質の吸着効果が十分に得られ、放射性物質の捕捉能力により除染処理中及び長期保管中に放射性物質の外部への漏れや飛散を避けることができる。また、前記粘土微粒子の含有量が5質量%以下のとき、放射性物質の吸着効果が十分に得られるだけでなく、前記懸濁液そのものの粘度の急激な上昇を抑制できるため、吹き付けや流し込み時の作業性や施工性の大幅な低下を防ぐことができる。前記粘土微粒子は無機質であるために、その含有量が多くなるほど前記懸濁液中での偏析が発生しやすくなり、取扱い性が劣るだけでなく、土壌固定層の離散、破断又は亀裂の発生要因となる場合があるため、前記の上限値を設定することが好ましい。上記で述べたように、本発明においては粘土微粒子としてベントナイトが好適であるが、ベントナイトは増粘剤や止水材として使用される場合が多い。そのため、ベントナイトを本発明の土壌固定剤とともに使用する場合、その含有量が多くなると、粘度の急激な上昇がみられ塗布作業性が大幅に低下するため、前記懸濁液中のベントナイトの含有量は5質量%以下であり、一方で、ベントナイトによる放射性物質の吸着を確実に行うため下限値は0.05質量%であることが好ましい。

【0041】
次に、本発明の土壌固化剤を使用した放射性物質の汚染拡大防止方法の工程を、図2を参照しながら説明する。

【0042】
(S1)土壌固化剤の調整:
上記で説明したような配合比率に基づいて、カチオン性高分子とアニオン性高分子とを含む水溶液を調整するとともに、水中に前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせたイオン性高分子の含有量を上記で説明したような電荷比の範囲に規定した本発明の土壌固化剤を調整する。また、塗布又は散布を容易に、且つ確実に行うために、土壌固化剤の水溶液の粘度の調整も行う。ここで使用する土壌固化剤には新たに塩が添加されないが、必要であれば、土壌固化剤に含まれるカチオン及びアニオンを合わせたイオンの全濃度が4.0質量%未満に収まるように、1.5質量%未満の範囲で新たな塩を添加しても良い。また、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子及び/又は塩の成分の他にも、必要に応じて、高分子接着剤、可塑剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤、防腐剤、着色剤、又は防臭剤等を配合することができる。

【0043】
(S2)土壌固化剤の汚染土壌への散布又は塗布:
上記(S1)で調整した土壌固化剤は、放射性物質が付着した土壌へ室温(通年で4~30℃の範囲)で散布又は塗布される。散布又は塗布は、汚染土壌の場所や設置形態に応じて、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって行われるが、広範囲の除染を行う場合にはスプレー等による吹き付け法が一般的に使用される。また、散布又は塗布において、本発明の土壌固化剤をあらかじめ加温して粘度調整することができる。さらに、散布又は塗布のときに、加温できる塗布装置又はスプレー装置を用いても良い。

【0044】
(S3)乾燥:
上記(S2)の工程の後、本発明の土壌固化剤を乾燥して水又は水系媒体を揮散させる。乾燥は、外気温度で所定時間(通常は1時間~1週間)行われるが、必要に応じて、塗布又は散布場所に熱風を加えて乾燥を速める方法を採用しても良い。本発明は、乾燥時間として通常、2~3日あれば剥離を行うことができ、気温が高ければ、最短1日で剥離作業を開始することができる。

【0045】
(S4)土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層の形成:
本発明の土壌固化溶液を乾燥後、前記イオン性高分子によって固定された汚染土壌からなる連続層が土壌表面及びその近くに形成される。前記連続層の厚さは数mm~100mm位の範囲であり、通常は数十mmで形成される。

【0046】
(S5)粘土微粒子を有する懸濁液の汚染土壌への散布又は塗布:
粘土微粒子を有する懸濁液の散布又は塗布する本工程は、図2に示すように上記(S2)の工程の前に行うのが最も効果的である。粘土粒子による放射性物質の選択的な吸着及び捕捉を促進させるため、前記粘土粒子を放射性物質を含む土壌とできるだけ直に接触させる必要があるためである。本工程の後、粘土粒子を含む土壌が完全に乾燥する前に上記(S2)~(S4)の工程を経ることによって粘土粒子を含む土壌が確実に固化されるため、放射性物質の外部への漏れや飛散を抑制することができる。このとき、必要であれば、本工程の後、長期間放置や熱風等を利用した乾燥工程を導入して土壌をほぼ完全に乾燥させた後、上記(S2)の工程において土壌固化剤の散布又は塗布を行っても良い。本工程において散布又は塗布は、上記(S2)の工程の場合と同じように、汚染土壌の場所や設置形態に応じて、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって行われる。本発明の汚染拡大防止方法においては、放射性セシウム等の放射性物質を補足して取り込む効果が高いことから、本発明の土壌固化剤とともに、前記粘土微粒子を有する懸濁液を使用することが好ましい。

【0047】
以上のようにして、本発明による放射性物質の汚染拡大防止方法は、セシウム等の放射性物質を固定化した土壌の連続層中に閉じ込めることができる。本発明の汚染拡大防止方法は、住宅地や田畑等の平地土壌だけでなく、除染が困難な山林や雑木林等にも適用することができる。山林等に適用した場合、汚染された土壌や落ち葉等を除去しないで、セシウム等の放射性物質の飛散又は拡散を防止した状態で放置することが可能となる。そのため、セシウム等の放射性物質による人体への悪影響が無くなるまで長期間放置することができ、汚染された土壌、落ち葉又は木々の除去や撤去を行う必要がなくなる。さらに、植物の生育をほとんど阻害しないため、環境に対する負荷を非常に小さくできるという効果も得られる。このように、本発明による汚染拡大防止方法は、放射性物質の有効な除染方法の一つとみなすことができる。

【0048】
[土壌固化剤による汚染土壌の除染方法]
本発明の土壌固化剤を使用した汚染土壌の除染方法の工程を、図3を参照しながら説明する。図3に示すように、本発明による汚染土壌の除染方法は、図2に示す(S1)~(S5)の工程と同じ工程を経て、汚染土壌からなる連続層の形成を行う。その後、以下の(S6)~(S9)の工程を追加して、汚染土壌を剥離又は除去して除染を行う。ここで、本発明の土壌固化剤を放射性物質の汚染土壌の除染方法として適用するときは、前記の汚染拡大防止方法と同じように、前記コロイド水溶液において前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量を0.5~10%(w/v)に規定するだけでなく、4~30℃における粘度を0.1~100mPa・sの範囲に調整することが好ましい。

【0049】
(S6)土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層の剥離、除去:
本発明の土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層は、手動で又は剥離装置を用いて剥離する。前記連続層は薄膜であるために容易に剥離することができる。剥離装置は、前記の連続層の片面を固定した後、この固定面又は固定点を起点にしてゆっくりと移動させながら剥離操作を行うものを用いても良い。本発明においては、前記剥離層が剥離に十分に耐えうるような強度と適度の弾性を有するため、操作性と作業性に優れる。また、必要に応じて、前記連続層の剥離部分に熱風又は寒風を当てながら剥離を行っても良い。熱風は、水又は水系媒体の揮散のため又は前記連続層に柔軟性を持たせるために使用する。寒風は、逆に、前記の連続層をやや固くして、剥離時の強度を上げるときに使用する。

【0050】
(S7)土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層の保管・保存:
上記の(S6)の工程で剥離、除去した後、土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層はセシウム等の放射性物質を含むため、放射性物質が外部へ飛散又は漏洩しないような処置が施された場所に集めて保管、保存される。最終的に、人体に全く影響が出ないレベルに放射線量の低減が確認される段階まで密閉状態で保管・保存された後、通常の土壌として戻されるか、又は産業廃棄物として廃棄される。

【0051】
(S8)土壌固化剤で固定された汚染土壌の篩分け又は分級:
この工程は、前記汚染土壌を減容化するために行うものであり、次の2つの方法を採用することができる。第1の方法として、上記(S6)の工程において剥離、除去された前記汚染土壌を十分に乾燥・固化させた後、固化した汚染土壌の篩分け選別を行う。篩分けは、所定のメッシュ径を有するアルミニウム等の金属製の篩を用いて、固化した土壌部分のみを選り分けて除去する。この第1の方法において篩から落ちた固化していない土壌は元の場所に戻して再利用し、篩に残存している固化した大粒径の土壌の塊のみを保管又は保存する。本発明では上記(S5)の工程を導入したときに、本発明の土壌固化剤とともに前記汚染土壌に含まれるゼオライトやベントナイト等の粘土微粒子によってセシウム等の放射性物質を吸着、捕捉する効果が得られため、前記放射性物質のほとんどは固化した大粒径の土壌の塊に残存することになる。他方、篩から落ちた固化していない土壌は、放射性物質の除去率が約80%以上と非常に高くなる。このようにして、後述する(S9)の工程で大粒径の土壌塊のみを別の場所に保管、保存し、前記汚染土壌の減容化を図ることができる。したがって、前記汚染土壌の減容化を実現するために実施する第1の方法は、上記(S5)の工程を導入することにより大きな効果を得ることができる。

【0052】
前記汚染土壌を減容化するための第2の方法は、前記特許文献5にも記載されているように、「放射性セシウムの多くは粘土質の微粒子成分に強く吸着・固定化されているため、粗い粒子を洗浄しながら、微細粒子だけを分級して集め、放射性セシウムを含む微細粒子成分のみを放射性廃棄土として処理する」という考え方に基づいて、前記汚染土壌を水の存在下で分級、洗浄するものである。この第2の方法では、上記(S5)の工程を導入しないで、本発明の土壌固化剤のみで処理された前記汚染土壌を使用し、上記(S6)又は(S7)の工程の後に前記汚染土壌を集めて水を用いて分級、洗浄を行う。前記分級・洗浄の工程は水を用いて実施するため、、集められた前記汚染土壌は、十分に乾燥・固化させる必要がない。例えば、上記(S2)の工程で土壌固化剤の汚染土壌への塗布又は散布を行った後、十分な乾燥を行わない状態で前記汚染土壌を採取して、そのまま分級、洗浄を行っても良い。この第2の方法において行う分級は、通常0.1mm未満の分級サイズで実施するが、除染地域の地質及び放射性物質の除染率に応じて最適な分級サイズを設定することができる。前記0.1mm未満の分級サイズで選別された粘土質の微粒子成分以外の他の土壌は、放射性物質の含有量が非常に小さいため、放射線量の検査を行い放射線量を確認した後、元の場所に戻すことができる。仮に、放射線量が許容値以下に低下しなかった場合は、本工程の分級、洗浄工程を繰り返すか、若しくは、所定の期間放置して放射線量の低下を確認した後、通常の土壌として戻すか、又は産業廃棄物として廃棄する。

【0053】
(S9)篩分け後の大粒径の土壌の塊又は分級後の粘土質微粒子成分の保管・保存:
前記(S8)の工程において、第1の方法によって篩分けされた大粒径の土壌の塊のみを別の場所に移して隔離した状態で保管、保存する。同様に、第2の方法によって分級し、選別された粘土質の微粒子成分についても隔離した状態で保管・保存する。

【0054】
以上のように、本発明の土壌固化剤による汚染土壌の除染方法は、放射性物質が付着した土壌又は放射性物質を含有する土壌から放射線を迅速、且つ効率的で効果的に低減するために図3に示す(S1)~(S7)の工程によって放射性物質汚染土壌を密閉状態で保管・保存し、さらに前記放射性物質汚染土壌そのものの減容化を図るためには図3に示す(S1)~(S9)の工程によって処理を行うことが好ましい。

【0055】
[土壌固化剤による植生基盤造成方法]
本発明の土壌固化剤を適用する別の土壌固定化方法として、植生基盤造成方法について説明する。

【0056】
植生基盤造成は、土木工事や自然災害等で発生する裸地斜面(方面)において、環境保全、崩落防止、景観回復等を目的として、植生基盤材を吹き付け、土壌の固定と緑化を図るために行われている。また、岩盤や土壌の少ない軟岩、砂地等で植物が生育しにくい土質を有する方面や平坦地面に対して、緑化基盤材の吹付け等によって植物の生育に可能な厚い土壌層の緑地基盤を造成し、その基盤内で植物を生育させ緑化を図る造成法としても採用されている。

【0057】
前記植生基盤材又は緑化基盤材としては、土壌成分と水とに加えて、凝集剤として土壌固化剤が従来から使用されている。前記土壌成分は客土材として使用されるものであり、該客土材にはピートモス、バーク堆肥、有機性繊維又は粘土等の団粒化促進材等が混合されたり、さらに、客土材に肥料又は種子等の緑化資材が配合される場合もある。前記植生基盤材又は緑化基盤材に添加される凝集剤は、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の何れか単独で、又はノニオン性凝集剤と併用して使用されている。カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤の両者を使用する場合は、前記特許文献2に開示されているように、2つタンクに分けて調合したそれぞれの成分を用いて、二液吹付機による吹付けによってゲル構造を形成する方法を採用している。

【0058】
本発明の土壌固化剤は、前記植生基盤材又は緑化基盤材に添加する凝集剤として、従来の凝集剤に代えて、水溶液中にカチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらかの成分を過剰に配合することによってゲル構造形成による沈殿物の生成を抑制し、水溶液の均一安定性を増すとともに、両者のイオン性高分子の共存によって促進されるゲル化反応を利用して土壌の凝集力を向上させるものである。さらに、前記水溶中に含まれる塩濃度を従来のポリイオンコンプレックス溶液より大幅に低減できるため、植物の生育を阻害するといった悪影響がほとんど無い。また、本発明の土壌固化剤は、粘土成分として増粘剤や止水材として知られている保水性の高いベントナイトと併用することにより、植生基盤材又は緑化基盤材による土壌固化の機能を一層高めることができる。

【0059】
本発明の土壌固化剤は、土壌成分を含む客土材、団粒化促進材、緑化資材、浸食防止剤や金属無機塩等の副資材及び水の少なくとも何れか一種と混合することによって植生基盤材又は緑化基盤材として使用することができる。また、団粒化促進材、緑化資材、浸食防止剤や金属無機塩等の副資材及び水の少なくとも何れか一種と混合して調整した植生基盤材又は緑化基盤材を用いて造成を行った後、本発明の土壌固化剤である水溶液を前記造成箇所に吹き付け等による散布又は流し込み等による塗布を行い、乾燥させて土壌の固化を進めても良い。本発明の土壌固化剤を散布又は塗布する前の造成場所の面積は、土壌の固化状態に応じて任意に設定することができる。前記の植生基盤材又は緑化基盤材による造成場所の土壌固化を迅速に行いたい場合は、本発明の土壌固化剤の散布又は塗布を同時に行うか、又は造成作業後に直ちに行うようにする。

【0060】
以上のように、本発明の土壌固化剤を植生基盤材又は緑化基盤材の凝集剤成分として適用することによって、簡便な処理で造成工事を容易に進めることができるだけなく、客土材の団粒化の促進により良好な土壌の固化と、植物の発芽、生育性を阻害しない環境に優しい土壌の緑化とを同時に行うことができる。

【0061】
[凝集沈殿剤]
本発明の分散型高分子凝集剤は、前記の土壌固化剤としてだけでなく、生活排水及び産業排水の水浄化法に適用する凝集沈殿剤として適用することができる。水浄化の対象は特に制限されないが、下水、し尿及び産業用排水中の帯電浮遊粒子を凝集させて取り除くために使用するだけでなく、汚泥を含む各種の排水又は廃水にも使用することができる。例えば、生活廃水処理汚泥、食品工場廃水処理汚泥、化学工場廃水処理汚泥、養豚場排水処理汚泥、パルプ又は製紙工場汚泥、一般産業排水で発生する有機汚泥及び凝集沈降汚泥を含む混合汚泥等へ適用が可能である。

【0062】
本発明の分散型高分子凝集剤を凝集沈殿剤として使用するときは、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子を前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.1g~10g含有するコロイド水溶液を用いる。前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量が0.1%(w/v)以上で汚染水又は排水に含まれる帯電浮遊粒子を沈殿させるに十分な凝集力が得られる。汚染水又は排水の汚染度や汚濁度が増して前記帯電浮遊粒子が多くなる場合には、イオン性高分子の含有量を増やして使用するか、又は本発明の分散型高分子凝集剤の投入回数を増やして水浄化を行う。一方、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量が0.1%(w/v)未満では、分散型高分子凝集剤の投入回数を増やしても、汚染水又は排水によってすぐに希釈化されるため、所望の凝集力を得ることができない。また、この含有量が10%(w/v)以下であると前記コロイド水溶液の粘度の大幅な上昇を抑制できるため、液の散布性と取扱い性が向上するだけでなく、汚染水又は排水との均一混合が容易になり、効率的な水浄化を行うことができる。この含有量が10%(w/v)を超えると、前記の土壌固化剤の場合と同様に、前記コロイド水溶液を長期間保管したときに沈殿物が生成する場合もあり、液の管理と調整が難しくなる。さらに、生成した沈殿物は凝集効果がすでに飽和している場合が多いため、前記帯電浮遊粒子の凝集を進める効果は小さい。このように、本発明の凝集沈殿剤として使用するコロイド水溶液は沈殿を形成しない状態でコロイド粒子が均一に分散していることが、凝集力を保持するために必要である。

【0063】
また、本発明の分散型高分子凝集剤を凝集沈殿剤として適用するときは、前記水溶液としてだけでなく、前記水溶液から水を除去した後に残留物として得られる固形物又は該固形物を粉砕加工して得られる粉状体の形態で使用することができる。図1に示すように、本発明の分散型高分子凝集剤に含まれるカチオン性高分子とアニオン性高分子は、大きな凝集力を生むための核となる疎水的なフロックを形成する分子鎖の絡まり合い、及び水との親和性がある分子鎖を有する複雑な形態で構成されている。そのため、その形態を保持した状態で水だけを除去したときに初めて、汚染水又は排水への均一分散性だけでなく、前記帯電浮遊粒子に対して大きな凝集力が得られる。単に固形のカチオン性高分子と固形のアニオン性高分子とを所定配合量で混合しただけでは、そのような効果を得ることは難しい。本発明で得られる前記固形物又は紛状体の凝集沈殿剤は、この点に着目して作製されるものである。

【0064】
本発明で得られる前記固形物又は紛状体の凝集沈殿剤は、単独で使用する以外にも、もみ殻やポリビニルアルコール(PVA)等からなるプラスチック製の不織布又は繊維の表面に付着させて使用することができる。ここで、もみ殻やプラスチック製の不織布又は繊維は、前記固形物又は紛状体の凝集沈殿剤の担持体として機能するため、水浄化処理中で前記帯電浮遊粒子の凝集剤として機能しなかったものがあっても、そのまま担持された状態にあり、本発明の凝集剤の再利用又は有効活用を図ることが可能である。

【0065】
水浄化方法で使用する本発明の凝集沈殿剤の水溶液又はその固形物や粉状体は、カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤の何れか単独、又はそれらの何れかとノニオン性高分子凝集剤との併用で使用する従来の凝集沈殿剤と比べて、排水又は廃水に含まれる前記帯電浮遊粒子に対して大きな凝集力が得られ、凝集粒子の肥大化させる効果が高くなる。これは、図1に示すように、分子鎖の絡まり合いで形成される疎水的なフロックの存在によるものであると考えられる。さらに、本発明の凝集沈殿剤は以下のような特徴を有することが分かった。

【0066】
従来の凝集沈殿剤は、汚染水又は排水に存在する前記帯電浮遊粒子を凝集沈殿させて系内を透明状態にするときの添加量の許容範囲が一般的に狭い。添加量が許容範囲から少しでも多くなると系内の電荷の増加によってお互いに反発し合って凝集力が大幅に低下し、系内で凝集沈殿した粒子が再び浮遊し出すという問題が発生する。すなわち、前記帯電浮遊粒子の浮遊に起因する水溶液の濁度を凝集沈殿剤の添加量の関数として測定すると、濁度の変化が添加量に対してV字形を示すようになる。それに対して、本発明の凝集沈殿剤は、前記フロックの形成によってカチオン性高分子及びアニオン性高分子の電荷が一部中和されるため結果的にイオンに起因する電荷が弱まり、凝集効果を発現するために必要な添加量の範囲を広くすることができる。すなわち、本発明の凝集沈殿剤は、前記濁度の変化が添加量に対してU字に近い形を示すという特徴を有する。仮に、凝集沈殿剤が設定値よりもやや少なく又は多く添加されても、排水又は廃水に含まれる前記帯電浮遊粒子に対して凝集力を同じように維持することができる。そのため、大量の汚染水又は廃水を広範囲にわたって水浄化処理を行うときに凝集沈殿剤の添加量ブレに対して対応を行う必要性が軽減され、効率的な処理を行うことができる。さらに、水浄化処理時に凝集沈殿剤の添加量の許容範囲を広くできるため、ヒューマンエラー又は装置不具合によって生じる問題に対して大きな裕度を有する。このような課題は当該分野において従来から十分に認識されているとは言えず、この効果は本発明の凝集沈殿剤に特有のものである。この特徴については後述の実施例において詳細に述べる。

【0067】
本発明の凝集沈殿剤は、必要に応じて、無機凝結剤、pH調整剤及び界面活性剤の少なくとも何れか1種と併用して使用することができる。pH調整剤は、処理中の排水又は廃水が所望の値を満足する場合、特に加える必要性はないが、そうでない場合に必要最小限の量の酸又はアルカリを添加する。また、必要であれば、本発明の凝集沈殿剤の水溶液又はその固形物や粉状体に、カチオン性高分子凝結剤、アニオン性高分子凝結剤及びノニオン性高分子凝結剤の少なくとも何れか1種類を微量加えても良い。

【0068】
水浄化方法は、本発明の凝集沈殿剤を下水、し尿、産業用排水、又は汚泥を含む各種の排水又は廃水に、必要であればpHを調整した状態で添加し、それらの排水又は廃水の中で浮遊している帯電浮遊粒子や汚泥を凝集沈殿させることによって行う。その後、濾過等のフィルトレーション操作によって沈殿物だけを分離して、水の浄化を行う。汚泥沈殿物の場合は、さらに脱水を行うことによって脱水ケーキとして減容化又は軽量化のための処理を行っても良い。

【0069】
本発明の水浄化方法は、効率的な処理を行うことができるだけでなく、排水又は廃水に含まれる前記帯電浮遊粒子に対して、pHの調整を行わないでも良好な凝集力が得られる。仮にpH調整が必要になる場合でも、酸又はアルカリなどのpH調整剤の添加を最小限にできるため、浄化水のイオン濃度及びpHの変化が極力抑えられ、より安全な水浄化システムを構築することが可能となる。

【0070】
本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。

【0071】
<実施例1~8、比較例1~2>
アニオン性高分子として下記の(1)式で示されるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセル化学工業株式会社商品名CMCダイセル1220:分子量16万~38万、以下CMCと略す。)と、カチオン性高分子として下記の(2)式で示されるポリジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩(あるいはクロリド)(センカ株式会社商品名ユニセンスFPA1001L:分子量10~50万、以下PDADMACと略す。)とを用い、ポリアニオン過剰(CMC過剰)又はポリカチオン過剰(PDADMAC過剰)の水溶液をそれぞれ作成し、ポリイオンコンプレックス水溶液とした。

【0072】
【化1】
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【0073】
【化2】
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【0074】
前記(1)式で示されるCMCは、エーテル化度が0.8~1.0である。ここで、エーテル化度とは、CMCの-O-Rの-Rの部分が-CHCOONaに置換した数であり、本実施例ではエーテル化度として平均の0.9を採用した。エーテル化度が0及び1の場合、1molあたりのそれぞれ分子量は162g及び242gである。CMCのエーテル化度が0.9であるときは、みかけの分子量は162(g/mol)×0.1+242(g/mol)×0.9=234(g/mol)と計算できる。CMCの前記(1)式で示す繰り返し構成単位あたり負電荷が0.9当量存在することになるので、イオン当量質量(EW)は234g/0.9当量で計算できる。他方、PDADMACは1molあたりの分子量が161.7gであり、純度が高く、前記(2)式で示す繰返し構成単位あたりの電荷が1当量で存在するため、イオン当量質量(EW)は161.7g/1当量で計算でき、これは繰り返し構成単位の分子量と同じになる。

【0075】
アニオン性高分子過剰のポリイオンコンプレックス水溶液は、濃度が0.8モル/L(リットル)のPDADMACの一定量(10ml)に、濃度が0.8モル/LのCMCを少しずつ加え、CMC及びPDADMACの前記各イオン当量質量(EW及びEW)に基づいて所定の電荷比となるように調製した。カチオン性高分子過剰のポリイオンコンプレックス水溶液は、濃度が0.8モル/LのCMCの一定量(10ml)に、濃度が0.8モル/LのPDADMACを少しずつ加え、同様に所定の電荷比となるように調製した。それぞれの水溶液をついて系内に沈殿物が乾燥されないコロイド水溶液であるか否かの性状を調べ、コロイド水溶液となるとき又は沈殿領域となるときのそれぞれのイオン性高分子のモル比率を測定した。その結果を図4に示す。

【0076】
図4に示すように、アニオン性高分子が過剰の場合はPDADMACに対するCMCの電荷比が4.1倍以上のときに、また、カチオン性高分子を過剰で調整した場合はCMCに対するPDADMACの電荷比が31倍以上のときに、沈殿物を生成しない不透明又は乳白色のコロイド水溶液を得ることができた。このようにして調整された不透明又は乳白色のコロイド水溶液を土壌固化剤として用いたときの土壌固定強度および固定厚さについて測定を行った。

【0077】
まず、図4に示す沈殿物を生成しないコロイド領域内にある水溶液において、アニオン性高分子が過剰なものとしてPDADMAC:CMCの電荷比が1:4.1、1:6.8、1:11及び1:14の水溶液を、カチオン性高分子が過剰なものとしてPDADMAC:CMCの電荷比が31:1、32:1、35:1及び36:1の水溶液を、それぞれを試料として調整した。ここで、アニオン性高分子が過剰な水溶液はこの順に実施例1、2、3及び4とし、また、カチオン性高分子が過剰な水溶液はこの順に実施例5、6、7及び8とする。

【0078】
また、比較のために、ポリイオンコンプレックスを含まない水のみで散布を行ったときの土壌固定強度の測定を行い、それを比較例1とした。さらに、カチオン性高分子とアニオン性高分子を等電荷比(1:1)で混合し、さらに塩としてNaClを4質量%添加した後、沈殿物の生成が無くなるまで撹拌することによって透明の水溶液を調整した。ここで、カチオン性高分子は前記のPDADMACを用い、アニオン性高分子は下記(3)式に示すポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)(株式会社日本触媒商品名アクアリックDL522:分子量17万)を用いた。この水溶液はチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故時に除染用土壌固化剤として使用された水溶液を模擬したものであり、本検討においては比較例2として実験に供した。

【0079】
【化3】
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【0080】
因みに、PDADMAC、CMC及びPAANaは、前記の(1)~(3)式で示すように、Na又はClの対イオンを有するため、これらのイオン性高分子を含む水溶液は結果的にカチオン及びアニオンを含むようになる。例えば、電荷比がPDADMAC:CMC=1:4.1であるコロイド水溶液は、コロイド水溶液100mlに対してこれらのイオン性高分子が全質量で0.5g~1.7gの範囲で含まれる場合、Na及びClの含有量を測定した結果、それぞれ0.028~0.094質量%及び0.014~0.048質量%であることが分かった。また、電荷比がPDADMAC:CMC=31:1であるコロイド水溶液は、同じ濃度範囲で、それぞれ0.002~0.006質量%及び0.104~0.354質量%である。仮に、コロイド水溶液100mlに対してカチオン性高分子及びアニオン性高分子の全質量が10%(w/v)で含まれる場合であっても、本発明の土壌固定剤として使用する場合にはNa及びClを合わせた全イオンの含有量は2.2質量%未満(カチオン性高分子及びアニオン性高分子の全質量が10%の時に相当する対イオンの濃度)となることが推察できる。それに対して、比較例2は、対イオンに加えてNaClの塩が4質量%添加されているため、水溶液中のイオン濃度が実施例と比べて非常に高くなっている。

【0081】
図5に、本発明の土壌固定強度の測定を行うための実験方法を示す。図5に示すように、12×12cmの容器に1日乾燥させた市販の黒土300gを入れ、上方から約5kgの荷重を1時間かけたものを土壌のモデルとした。本発明の分散型高分子凝集剤である実施例1~8のコロイド水溶液を上方から5L/mでスプレーによって散布し、60℃での乾燥機内で乾燥させた。土壌固定強度の測定可能な試料は、前記容器の重さを策定し、散布量内の水分(水の重さは1cm当たり1gとして計算する。)がほぼ完全に蒸発したことを確認して土壌固定強度の測定を行った。固化による土壌固定強度は、山中式土壌硬度計を用いて、1試料につき5点の測定を行った。また、土壌固定の厚さは、土壌の連続層として形成された部分の厚さを目盛(mm)で計測した。

【0082】
図6及び図7に、アニオン性高分子を電荷比で過剰に調整した分散高分子凝集剤及びカチオン性高分子を電荷比で過剰に調整したそれぞれの分散高分子凝集剤について、両者のイオン性高分子の全含有量が1%(w/v)のときの土壌固定強度の測定結果を示す。図中には、水のみの場合(比較例1)とカチオン性高分子とアニオン性高分子を等電荷比(1:1)で混合した水溶液(比較例2)を合わせて示している。図6及び図7から分かるように、電荷比でアニオン性高分子(CMC)過剰又はカチオン性高分子(PDADMAC)過剰のそれぞれにおいて、沈殿物生成領域に近い電荷比になるほど土壌固定強度が高くなる(実施例1及び実施例5)。図6に示すように、CMC過剰では比較例1及び2に比べて高い土壌固定強度が得られ、特に実施例1は比較例2に比べて約4倍と高い値を示した。一方、図7に示すように、PDADMAC過剰では土壌固定強度が水単独の比較例1と比べて高くなるが、モル比が1:1である比較例2よりも低くなる。

【0083】
PDADMAC過剰で調整した分散型高分子凝集剤において低い土壌固定強度しか得られなった原因としては、このコロイド水溶液ではPDADMACがCMCに対して電荷比が31倍以上でないと均一分散したコロイド状の性状を示さないため、ポリイオンコンプレックスによるフロックが十分に形成できないためと考えている。そこで、最も高い土壌固定強度を有する実施例1について、土壌固定強度及び土壌固定の厚さと分散高分子凝集剤のコロイド水溶液中に含まれるイオン性高分子の総含有量を意味する高分子濃度との関係を調べた。

【0084】
図8の(a)及び(b)に、電荷比がPDADMAC:CMC=1:4.1である分散型高分子凝集剤(実施例1)を用いた時の土壌固定強度及び土壌の固定厚さの測定結果をそれぞれ示す。図8に示すように、分散高分子凝集剤の含有量がコロイド水溶液100mlに対して質量で0.5g以下[0.5%(w/v)]では土壌の固化ができなくなることが分かる。また、図8には図示していないが、この含有量がコロイド水溶液100mlに対して質量で10g[10%(w/v)]を超えると、土壌固定強度は飽和する傾向にある一方で、前記コロイド溶液の土壌固定厚さは3mm以下と非常に薄くなり、土壌固化剤として使用するには大きな問題があることが分かった。したがって、本実施例のコロイド水溶液は、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子を前記コロイド水溶液100mlに対して質量で0.5%(w/v)を超え10%(w/v)以下で含有することが必要である。

【0085】
引き続き、本実施例の分散型高分子凝集剤による土壌固化の効果を検証するため、固化した後の土壌の粉塵量の測定を行った。粉塵量測定方法を図9に模式的に示す。図9に示すように、12×17cmの容器に乾燥させた市販の黒土を400g入れ、土壌固定強度のときと同じようにして土壌に荷重をかけた。その後、実施例1及び5のコロイド水溶液を散布し乾燥させたものを測定対象とし、風速15m/sの風の流れの中で舞い上がる土を掃除機で吸い取り、その吸い取り量を粉塵量として測定した。風速15m/sは気象庁において「強風」と定められており、大きな木の全体が揺れ、風に向かって歩きにくいとされている風速である。また、比較例1の水及び比較例2のポイリオンコンプレックス水溶液についても同じようにして粉塵量の測定を行った。測定時間は合計で20分間として、最初の5分間を1分ごとに測定し、それ以降は5分ごとに測定した。

【0086】
図10に、実施例1及び5を用いて固化した土壌の経過時間に伴う粉塵量変化を示す。ここで、実施例1及び5として使用した試料は、イオン性高分子の含有量がコロイド水溶液100mlに対して質量で1mg[1%(w/v)]である。図10には比較例1及び2の粉塵量変化の結果を合わせて示している。また、図11及び図12に、それぞれ実施例5(電荷比でカチオン性高分子過剰の水溶液)及び実施例1(電荷比でアニオン性高分子過剰の水溶液)を用いて固化した土壌の20分間経過後の粉塵量とコロイド水溶液に含まれるイオン性高分子の全含有量を意味する高分子濃度との関係を示す。

【0087】
図10に示すように、水のみの比較例1は土壌固化の効果が全く得られないため、粉塵量が最も高い値となっている。また、イオン性高分子の全含有量が1%(w/v)の条件においては電荷比でアニオン性高分子(CMC)過剰の水溶液(実施例1)が比較例2よりも粉塵量を大幅に抑えることができることが分かる。一方、電荷比でカチオン性高分子(PDADMAC)過剰の水溶液(実施例5)は水のみを散布したときに近い粉塵量となる。しかしながら、図11に示すように、電荷比でPDADMAC過剰の水溶液(実施例5)でも、イオン性高分子の全含有量が1.2%(w/v)以上であれば粉塵量を抑えることができ、比較例2と比べても粉塵量が少なく土壌固化剤として使用することが十分に可能である。CMC過剰の水溶液(実施例1)は、図12に示すように、より少ない0.50%(w/v)を超える含有量で粉塵量低減に対して大きな効果を得ることができる。図11及び図12の測定結果は、前記の土壌固定強度及び土壌の固定厚さの結果と強い相関性があることが容易に理解できる。

【0088】
次に、本実施例の分散型高分子凝集剤の土壌に対する環境負荷の程度を調べるため、固化した後の土壌からの種の発芽率を測定した。

【0089】
図13に発芽率測定方法を示す。使用する分散型高分子凝集剤コロイド水溶液内に芝の種(品名:クリーピンングレッドフェスク)50粒を入れ撹拌した後、5L/mの量で容器(12×12cm)に収納されている土壌(黒土)に散布した。2週間後に土壌を観察し、(発芽本数/50)×100(%)として発芽率を測定した。途中、発芽を促すために、5L/mの量の水を1週間に1回散布した。

【0090】
表1に分散型高分子凝集剤コロイド水溶液として前記の実施例1及び5を用いて散布した後の土壌について2週間後の発芽率を示す。表1には、比較のため、ポリイオンコンプレックスを含まない水のみで散布を行ったときの土壌、及びPDADMACとPAANaを等電荷比(1:1)で混合し、さらに塩としてNaClを4質量%添加した水溶液を散布したときの土壌について、それぞれ比較例1及び2として発芽率の結果も合わせて示している。表中の質量比及びモル比は、実際に配合したカチオン性高分子及びアニオン性高分子の質量及びモル数を、それぞれ両者の高分子の配合比として示したものである。また、イオン性高分子の濃度は、水溶液100mlに含まれるカチオン性高分子及びアニオン性高分子の全質量をmg単位で表したときの割合を意味し、%(w/v)で表す。

【0091】
【表1】
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【0092】
表1に示すように、実施例1及び5は発芽率が80%を超えており、水のみを散布した比較例1と対比しても、芝の発芽に対する悪影響はほとんど無いことが分かる。表1にはイオン性高分子の濃度として1%(w/v)の結果を示しているが、2%(w/v)までは発芽率が60%以上であることを確認している。それに対して、比較例2は、対イオンに加えて塩を多く含んでいるために発芽率の大幅な低下がみられ、環境に対する悪影響が懸念される。このように、本実施例は、土壌固定強度が比較的高く、且つ、植物の生育を阻害しないという点で従来のポリイオンコンプレックス水溶液にはない優れた特徴を有し、環境に優しい土壌固化剤として適用するには好適な分散型高分子凝集剤である。

【0093】
<実施例9~16>
アニオン性高分子として上記の(3)式で示されるPAANaとカチオン性高分子として上記の(2)式で示されるPDADMACとを用い、ポリアニオン(PAANa)過剰又はポリカチオン(PDADMAC)過剰の水溶液をそれぞれ作成し、ポリイオンコンプレックス水溶液とした。PAANaは純度が高く、前記(3)式に示す繰返し構成単位あたりの電荷が1当量で存在するため、イオン当量質量(EW)は94g/1当量で計算でき、これは繰り返し構成単位の分子量と同じ94(g/mol)になる。

【0094】
アニオン性高分子過剰のポリイオンコンプレックス水溶液は、濃度が0.0378モル/L(リットル)のPDADMACの一定量(10ml)に、濃度が0.0378モル/LのPAANaを少しずつ加え、PAANa及びPDADMACの前記各イオン当量質量(EW及びEW)に基づいて所定の電荷比になるように調製した。カチオン性高分子過剰のポリイオンコンプレックス水溶液は、濃度0.0378モル/LのPAANaの一定量(10ml)に、濃度が0.0378モル/LのDADMACを少しずつ加え、同様にして所定の電荷比になるように調製した。それぞれの水溶液をついて系内に沈殿物を生成しないコロイド水溶液であるか否かの性状を調べ、コロイド領域となるとき又は沈殿物生成領域となるときのそれぞれのイオン性高分子の電荷比を測定した。その結果を図14に示す。

【0095】
図14において、PAANaとPDADMACとのポリイオンコンプレックス水溶液は沈殿生成領域において糊上の沈殿を生成した。また、このポリイオンコンプレックス水溶液は、図4に示すCMCとPDADMACとの組合せからなるポリイオンコンプレックス水溶液とはコロイド領域を示す電荷比が異なる。図14に示すように、アニオン性高分子が過剰の場合はPDADMACに対するPAANaの電荷比が10倍以上のときに、また、カチオン性高分子を過剰で調整した場合はPAANaに対するPDADMACの電荷比が4倍以上のときに、沈殿物を生成しない不透明又は乳白色のコロイド水溶液を得ることができた。このようにして調整された不透明又は乳白色のコロイド水溶液を土壌固化剤として用いたときの土壌固定強度および固定厚さについて実験を行った。

【0096】
まず、図14に示す沈殿物を生成しないコロイド領域内にある水溶液において、アニオン性高分子が過剰なものとしてPDADMAC:PAANaの電荷比が1:10、1:12、1:14及び1:15の水溶液を、カチオン性高分子が過剰なものとしてPDADMAC:PAANaの電荷比が4:1、6:1、8:1及び10:1の水溶液を、それぞれを試料として調整した。ここで、アニオン性高分子が過剰な水溶液はこの順に実施例9、10、11及び12とし、また、カチオン性高分子が過剰な水溶液はこの順に実施例13、14、15及び16とする。土壌固定強度及び固定厚さは、前記実施例1~8と同じように図5に示す方法に従って測定した。

【0097】
因みに、これらのイオン性高分子を含む水溶液には、対イオンの存在によって結果的にカチオン及びアニオンが含まれる。例えば、電荷比がPDADMAC:PAANa=1:10であるコロイド水溶液は、コロイド水溶液100mlに対してこれらのイオン性高分子が全質量で1g[1%(w/v)]~5g[5%(w/v)]の範囲で含まれる場合は、Na及びClの含有量を測定した結果、それぞれ0.206~1.021質量%及び0.032~0.158質量%であることが分かった。また、電荷比がPDADMAC:PAANa=4:1であるコロイド水溶液は、同じ濃度範囲で、それぞれ0.048~0.237質量%及び0.124~0.615質量%である。仮に、コロイド水溶液100mlに対してカチオン性高分子及びアニオン性高分子が全量で10%(w/v)近くまで含まれる場合であっても、本発明の土壌固定剤として使用する場合にはNa及びClを合わせた全イオンの含有量は2.4質量%未満となることが推察できる。

【0098】
図15及び図16に、それぞれアニオン性高分子(PAANa)を電荷比で過剰に調整した分散型高分子凝集剤及びカチオン性高分子(PDADMAC)を電荷比で過剰に調整した分散型高分子凝集剤のそれぞれについて、両者のイオン性高分子の電荷比を変えたときの土壌固定強度の測定結果を示す。ここで、図15はPDADMACの濃度を0.5%(w/v)と固定し、これに対してPAANaを電荷比で10~15倍添加して形成したコロイド溶液を散布して土壌固定強度を調べたものである。図16は、PAANaの濃度を0.5%(w/v)と固定し、これに対してPDADMACを電荷比で4~10倍量添加して形成したコロイド溶液を散布して土壌固定強度を調べたものである。図15及び図16から分かるように、電荷比でPAANa過剰又はPDADMAC過剰のそれぞれの分散型高分子凝集剤において、沈殿物生成領域に近い電荷比になるほど土壌固定強度が高くなる(実施例9及び実施例13)。また、図15に示すように、電荷比でPAANa過剰では図6に示す比較例2に比べて高い土壌固定強度が得られ、特に、実施例9及び10は、比較例2に比べて約4倍以上と高い値を示す。さらに、図16に示すように、電荷比でPDADMAC過剰においても土壌固定強度が比較例2と同等か、又はそれ以上の高い値を有する。

【0099】
なお、電荷比でアニオン性高分子過剰の分散型高分子凝集剤とカチオン性高分子過剰の分散型高分子凝集剤との間で観測される土壌固定強度の差は、土壌試料として使用した黒土のイオン性やpHの違いと関係しているものと推察できる。また、実施例13~16が実施例5~8と異なり、比較的高い土壌固定強度を得ることができたのは、カチオン性高分子のアニオン性高分子に対する電荷比が4以上と、より小さな電荷比で均一分散したコロイド水溶液を作製できたためであると考えられる。

【0100】
引き続き、実施例9及び実施例13について土壌固定強度及び土壌固定の厚さと分散型高分子凝集剤に含まれる全高分子の含有量との関係を調べた。土壌固定強度の測定結果は省略するが、土壌固定強度は、図8に示すPDADMACとCMCとの組合せと同じように、イオン性高分子の全含有量を意味する高分子濃度が増すに伴い、高くなる傾向にある。また、アニオン性高分子過剰の水溶液とカチオン性高分子過剰の水溶液とを対比すると、前者の方が土壌固定強度の増加傾向が大きくなる。

【0101】
電荷比でアニオン性高分子過剰の分散型高分子凝集剤(実施例9)及びカチオン性高分子過剰の分散型高分子凝集剤(実施例13)について測定した土壌の固定厚さとイオン性高分子の総含有量を意味する高分子濃度との関係をそれぞれ図17の(a)及び(b)に示す。図17に示すように、実施例9及び実施例13の両者とも、高分子濃度が増すに伴い、土壌の固定厚さは厚くなる傾向にある。そして、実施例9は高分子濃度が1.0%(w/v)未満で、また実施例13では高分子濃度が2.0%(w/v)未満で土壌の十分な固定を行うことができなかった。したがって、本実施例を土壌固化剤として使用する場合は、カチオン性高分子とアニオン性高分子との電荷比に応じて、水溶液中に含まれる高分子濃度の下限値を設定する必要がある。また、高分子濃度の上限値については、10%(w/v)まであればコロイド水溶液の大幅な粘度上昇を抑えることができ、土壌の固定厚さも図17に示すように大きな変化を示さない。したがって、本実施例の分散型高分子凝集剤においては、前記カチオン性高分子と前記アニオン性高分子とを合わせた高分子の含有量を、前記コロイド水溶液100mlに対して質量で1gを超え10g以下、すなわち1%(w/v)を超え10%(w/v)以下に規定することが必要である。

【0102】
なお、図17の(a)に示す測定結果は、図8の(b)に示すPDADMACとCMCとを含有する水溶液とは異なり、水溶液中の高分子濃度が増えると土壌固定厚さが厚くなる傾向にある。この傾向は、PDADMAC過剰の場合でも、PAANa過剰の場合でも同じように観測される。水溶液中の高分子濃度が増えて粘度が上がれば、土壌固定厚さは薄くなることが一般的であるが、PDADMACとPAANaの組合せは特異的な挙動をすることが分かった。これは、PDADMACとPAANaとの組合せは、水溶液に含まれるコロイド粒子がPDADMACとCMCの組合せと比べて小さくなり、土壌の粒子間隙間へのコロイド粒子の移動又は移行が速いために観測された挙動とも考えられるが、詳細は不明である。

【0103】
引き続いて、本実施例の分散型高分子凝集剤による土壌固化の効果を検証するため、実施例9及び実施例13について固化した後の土壌の粉塵量測定を行った。粉塵量は、実施例1~8と同じように、図9に示す方法に従って測定した。

【0104】
図18に、実施例9において高分子濃度が2%(w/v)である高分子凝集剤及び実施例13において高分子濃度が3%(w/v)である高分子凝集剤について、経過時間に伴う土壌の粉塵量変化を示す。図18には比較例1及び2の粉塵量変化の結果も合わせて示している。また、図19及び図20に、それぞれ実施例9及び実施例13の水溶液についてイオン性高分子の全含有量を意味する高分子濃度(w/v)と20分間経過後の粉塵量との関係を示す。

【0105】
図18に示すように、実施例9及び実施例13ともに、比較例2よりも粉塵量を大幅に抑えることができる。また、図19に示す実施例9は、高分子濃度が1%(w/v)以上で粉塵量低減の効果が現れ、2%(w/v)以上で粉塵量の発生を大幅に抑えることができる。一方、図20に示す実施例13においては、粉塵量を大幅に低減できる高分子濃度は2%(w/v)以上である。図19及び図20の測定結果は、図17の(a)及び(b)に示す土壌の固定厚さの測定結果と強い相関性があることが容易に理解できる。

【0106】
次に、本実施例の分散型高分子凝集剤の土壌に対する環境負荷の程度を調べるため、固化した後の土壌からの種の発芽率を測定した。発芽率の測定は、図13に示す方法に従って行った。

【0107】
表2に分散型高分子凝集剤のコロイド水溶液として実施例9及び13を用いて散布した後の土壌について2週間後の発芽率を示す。表2には、比較例1及び2における発芽率の測定結果も合わせて示している。表中の質量比及びモル比は、実際に配合したカチオン性高分子及びアニオン性高分子の質量及びモル数を、それぞれ両者の高分子の配合比として示したものである。また、イオン性高分子の濃度は、水溶液100mlに含まれるカチオン性高分子及びアニオン性高分子の全質量をg単位で表したときの割合を意味し、%(w/v)で表す。

【0108】
【表2】
JP0006532053B2_000006t.gif

【0109】
表2に示すように、実施例9及び13は発芽率が80%を超えており、水のみを散布した比較例1と対比しても、芝の発芽に対する悪影響はほとんど無いことが分かる。表2にはイオン性高分子の高分子濃度として2%(w/v)及び3%(w/v)の結果を示しているが、5%(w/v)までは発芽率が70%以上であることを確認している。このように、本実施例は土壌固定強度が比較的高く、且つ、植物の生育を阻害しないという点で従来のポリイオンコンプレックス水溶液にはない優れた特徴を有し、前記のDADMACとCMCとの組合せと同様に、環境に優しい土壌固化剤として適用するには好適な分散型高分子凝集剤である。

【0110】
以上のように、上記実施例1~16による分散型高分子凝集剤は、従来の高分子凝集剤と比べて良好な凝集力を有するだけでなく、環境に対する負荷を大幅に低減できるため、放射性物質の汚染拡大方法、汚染土壌の除染方法及び植生基盤造成方法の何れか一つの用途に対して土壌固化剤として適用することによってその特徴を十分に活かすことができる。その中で、放射性物質の汚染拡大方法及び汚染土壌の除染方法については、本発明の分散型高分子凝集剤をゼオライトやベントナイト等の粘土微粒子を有する懸濁液とともに使用することによって、セシウム等の放射性物質の除染方法としての有効性を大幅に増すことができる。そこで、適用事例の一例として汚染土壌の除染方法について実施例を用いて説明する。

【0111】
<実施例17>
実施例1の分散高分子凝集剤において、高分子濃度を1%(w/v)に調整したコロイド水溶液を用いて、セシウム等の放射性物質で汚染された土壌の上から、室温(約20℃)において5L/mの条件でスプレー装置によって均一に塗布し、室温で3日間放置して分散型高分子凝集剤中のイオン性高分子で固定された汚染土壌からなる連続層を形成した後、前記連続層の剥離を行った。初期の汚染土壌表面と前記の連続層を剥離した後の土壌表面について、それぞれの放射線量を測定した結果、初期に対する剥離後の放射線量の割合は20%であり、除染率は80%であった。

【0112】
<実施例18>
粘土粒子としてベントナイトの一種であるベントナイトドンミン((株)ボルクレイ・ジャパン製)を0.5質量%含む懸濁水溶液を5L/mの条件でスプレー装置によって土壌の上から均一に散布した後、実施例17と同じ方法で実施例1の分散型高分子凝集剤のコロイド水溶液を土壌の上から均一に散布した。室温で3日間放置した後、前記ベントナイト粒子を含み、分散型高分子凝集剤中のイオン性高分子によって固定された汚染土壌からなる連続層を形成した後、前記連続層の剥離を行った。初期の汚染土壌表面と前記の連続層を剥離した後の土壌表面について、実施例17と同じ方法で放射線量を測定した結果、初期に対する剥離後の放射線量の割合は10%であり、除染率は90%であった。このように、本発明の分散型高分子凝集剤を散布し、その後にベントナイト等の粘土粒子を含有する懸濁液を散布することによって、汚染土壌の除染率を高める効果のあることが確認された。また、本発明では、粘土粒子としてベントナイトに代えてゼオライトを使用しても、放射線量の低減ができることを確認している。

【0113】
本発明の分散型高分子剤は、生活排水及び産業排水の水浄化法に適用する凝集沈殿剤として適用する場合に、凝集力の向上によって浮遊帯電粒子の凝集沈殿物の粒径を大きくできるという効果だけでなく、前記で述べたように凝集沈殿剤の添加量ブレに対する許容範囲を広くできるという従来にない効果を奏する。そこで、本発明の分散型高分子剤を適用した凝集沈殿剤について実施例を用いて説明する。

【0114】
<実施例19~20、比較例3~4>
アニオン性高分子として上記(1)式で示されるCMC(分子量:約111万)を、カチオン性高分子として上記(2)式で示されるPDADMACを用いた。PDADAMACについては、分子量の異なる1001L(分子量:10万~50万)と1002L(分子量:50万~100万)を実験に供した。PDADMACは0.06モル/L、CMCは0.0035モル/Lになるように調整し、両者の電荷比がPDADMAC:CMC=1:5となるように、PDADMAC水溶液を撹拌しながらCMC水溶液を加えた。この水溶液に水を加えて、PDADMACとCMCを合わせた高分子濃度が0.2%(w/v)となるようにアニオン過剰のコロイド水溶液を調整した。また、比較例として、PDADMAC1001L及びPDADMAC1002がそれぞれ単独で0.2%(w/v)含まれる水溶液を比較例3及び比較例4として使用した。PDADMAC1001L及びPDADMAC1002のそれぞれに、前記の方法に従ってCMCを電荷比がPDADMAC:CMC=1:5となるように添加して調整したコロイド水溶液をそれぞれ実施例19及び実施例20とする。

【0115】
本実施例においては、生活排水及び産業排水を模擬して、粘土粒子であるベントナイト(ベントナイトドンミン:株式会社ボルクレジャパン)を用いて、ベントナイトの含有量が0.1質量%となるように蒸留水を加えて均一に分散させた分散液を使用した。ここで、ベントナイト微粒子は、生活排水及び産業排水に含まれる浮遊帯電粒子として考えることができる。

【0116】
次に、ビーカーにベントナイトの含有量が0.1質量%である分散液100mLをとり、撹拌しながら、先に調整したコロイド水溶液を滴下し1分撹拌した後、撹拌を止め5分間静置した。この5分間静置した後の水溶液の上澄み液を用いて、島津製作所のUV-1200紫外可視分光光度計を用いて波長660nmで濁度(mg/L)の測定を行う。ここで、濁度は値が小さくなるほどベントナイトの凝集が進み、水溶液が透明になることを意味する。したがって、本実施例では濁度が50以下となる範囲で前記コロイド水溶液の滴下量について測定した。ここで、滴下量としては、前記ベントナイト分散液に含まれるアニオン性高分子及びカチオン性高分子の総量に換算した値を用いた。

【0117】
図21の(a)及び(b)に、比較例3、4及び実施例19、20の水溶液を添加したベントナイト懸濁液の上澄み液のそれぞれについて、凝集沈殿剤に含まれるイオン性高分子の総量(mg)に対して濁度を測定した結果を示す。図21に示すように、イオン性高分子からなる凝集沈殿剤の添加量が増すに伴い、上澄み液の濁度は急激に小さくなって沈殿物が生成される。その後、濁度は大きくなり、ベントナイト粒子又はその凝集物の分散が上澄み液中で再度観測されるようになる。図21の(a)に示す比較例3及び4は、濁度の高分子の総量に対する変化が急激であり、V字形の濁度変化を示しているのが分かる。比較例3及び4において凝集沈殿剤を過剰に入れたときに観測される濁度の上昇は、過剰な凝集沈殿剤によって凝集した粒子同士が再度、正電荷を帯びてくるようになり、お互いに反発し合って沈降しずらくなったためと考えられる。

【0118】
それに対して、本実施例の凝集沈殿剤は、図21の(b)に示すように、濁度の変化が相対的に緩やかでU字形の濁度変化を示すことが分かる。実施例19及び20の凝集沈殿剤は、図1に示すように、フロックの形成によってカチオン性高分子及びアニオン性高分子の電荷が一部中和されるため結果的に比較例3及び4と比べて正電荷が弱まり、濁度変化を示す曲線が大きく横に広がるという挙動を示すことが分かった。また、図21の(b)に示すU字形の濁度変化は、各イオン性高分子の分子量によって、わずかではあるが高分子の総量に対して左右に移動することができる。さらに、形状そのものもより広げた形で変えることが可能である。このような挙動は、これまでほとんど明らかにされておらず、本発明の凝集沈殿剤に特有のものであると考えられる。

【0119】
このように、本実施例の凝集沈殿剤は、濁度の変化が高分子の総量に対してU字に近い形を示すことから、凝集効果を発現するために必要なイオン性高分子の添加量の範囲を広くすることができる。仮に、ヒューマンエラー又は装置不具合によって凝集沈殿剤が設定値よりもやや少なく又は多く添加されても、排水又は廃水に含まれる前記帯電浮遊粒子に対して凝集力を同じように維持することができる。そのため、大量の汚染水又は廃水を広範囲にわたって水浄化処理を行うときに凝集沈殿剤の添加量ブレに対する対応を行う必要性が軽減され、効率的な処理を行うことができる。さらに、本実施例の凝集沈殿剤は、比較例3及び4の凝集沈殿剤と比べて、生成した凝集沈殿物の粒子径がやや大きくなることを確認しており、凝集沈殿物の分離、捕集が容易になる。また、比較的大きな径を有する凝集沈殿物は内部に多くの空孔を含むことから、該凝集沈殿物に含まれる水の分離を簡便に行うことができるという効果も得られる。

【0120】
以上のように、本発明のカチオン性高分子及びアニオン性高分子のどちらかを過剰に含む水溶液の分散型高分子凝集剤は、余分な塩を含まない状態でも、沈殿物を生成せずに長期間安定した均一のコロイド水溶を形成するため、一液の高分子凝集剤水溶液として使用することができる。また、生活排水、産業排水又は土壌等に添加したときに大きな凝集力が得られるため、効果的な土壌固化を行うことができる土壌固化剤、及び効率的な水浄化にも適用できる凝集沈殿剤としてそれぞれ使用することが可能である。さらに、本発明の分散型高分子凝集剤は、植物の生育を阻害する懸念のある塩の含有量を少なくした状態で使用することができるため、土壌固化剤及び凝集沈殿剤として適用したときに、環境に対する負荷を少なくすることができ、その有用性は極めて広い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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